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かつてスペインの僧侶ブルーノは、当時の教会に対して「暴論」をはいたために、火あぶりの刑になった。いつの世でも異端は迫害される。だがその中で少なからず先見の明があった例には事欠かないのだ。
暴論

WTO(世界貿易機関)と
GATTを脱退しよう

Giordano Bruno

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昔からの優れて個性的な伝統的な製品、芸術も、「世界基準」のもとにあっという間に葬ってしまうのが自由貿易である。多くの人々や都市を成立させてきた産業を一瞬のうちに潰し、人々を失業者に変え、その地域を過疎化するのも自由貿易でもある。ある国で生産される産物が安いというだけで、そこからの製品輸出に全力集中させ、その国の経済的依存を偏ったものにするのも自由貿易である。そして何よりも、名目とは裏腹に自由貿易で得をするのはアメリカ合衆国一国だけである。

いつの間にか、日本もヨーロッパも、アメリカの巧妙な宣伝に乗って貿易を障壁なく行うことが最大の目標であると思いこまされてきた。しかし時が経つに連れ、様々な問題が生じてきている。特に庶民に最も直接関係があるのが食料品であろう。

人が食べるものは、類人猿やさらにもっとさかのぼる太古の時代から「地元」で食べる食料に依存してきた。そのおかげで内臓もそれぞれの土地に生産される産物に適応している。アジア人は菜食、魚食が中心であるし、ヨーロッパや中央アジアでは牧畜中心の食生活が営まれてきた。

これをものの見事にひっくり返したのが自由貿易である。おかげで肉食を押しつけられ、太平洋の向こう側からグレープフルーツやカボチャ、ブロッコリーが送られてくる事態となった。

何も考えない人は、それが安価であればそれでいいという。確かに飛行機を使ったり、保存料や冷凍技術を駆使して運んできた食料のほうが国内産よりも安価である。だがこの異常事態にもっと目を向けるべきである。カボチャやブロッコリーは温帯である日本のどこでも作ることのできるものであり、地元の生産者をつぶして、わざわざ海を越えて持ってくる事の異常さにもっと敏感になるべきなのだ。

遺伝子組み替え、保存料、農薬や抗生物質、鮮度、食料輸出国における輸出のための栽培体制、いずれをとっても輸入する日本にとっては不幸なことばかりである。これを座視して、巨大商社やアグリビジネスの儲けと、輸出をしている農民のわずかな儲けのために自由貿易を押しつけられてはたまったものではない。

さらに長期的な展望に立てば、一国の食糧自給率にも関わってくる。日本国内の農民はすっかり生産意欲を失い、後継者が消滅して、食料の安定供給に重大な支障を来すことになる。

食糧以外の品目においても、自由貿易による流れは決してよい結果をもたらさない。たとえば日本が優秀な自動車の生産を今日のレベルまで持ってくることができたのは、終戦後から一貫して外国からの輸入車が厳しく制限されてきたおかげであり、今ならその品質の優秀さの故に少しも輸入車は怖いものでなくなっている。

インドや中国がこれから国産車を育成しようと言うとき、最初から優秀な外国車の攻勢の中で何ができるだろうか。せいぜい外国の会社との提携ぐらいなものだろう。

低開発国が自力で発展するためには、やはりある程度の関税措置がどうしても必要なのであって、それを無視して先進国も低開発国も平等に競争の荒波にさらそうというのがおかしい。

しかも、最近の低開発国には「投資」待望が強い。これも貿易自由化の流れに乗ったものだが、時間をかけて国内の中小企業の従事者を大きく育てることに辛抱できず、これらの政府は手っ取り早く先進国の豊富な資金を待ち望んでいる。

これは自国の努力より、海外からの1種の援助を当てにした態度であり、普通の援助よりもっとたちが悪いのは、その投資が「成功」した暁には、その利益は投資国へごっそり持っていかれるとという現実だ。

さらに、エイズの特効薬など、西側諸国で急速に開発が進んでいるが、これが低開発国には利用がなかなかできないでいる。それは「特許権」の壁だ。ひたすら金儲けのため製薬会社は次々と特許を申請し、それを手に入れたい者は高額な金を払わねばならない。

これは実質的に患者の手から薬を奪うに等しい行為であり、社会正義の点からとうてい許されることではないはずだが、今の自由競争のもとでは、当然の権利とみなされる。

ネッスルがアフリカ諸国に粉ミルクを売りつけようとしたのも有名なエピソードだ。母乳ならただで住むところを貧しい母親たちに売りつけようとするこの会社のたくらみは、各国の非難を浴びて失敗に終わったようだが、このような例には枚挙にいとまがない。

自国の急速でなめらかな発展を望むあまり、これらの国々は先進国の言いなりになり、都合のいいように、資源を採掘され、森林は伐採され、人々が不要な物欲を引き起こすような宣伝をおおっぴらにやる。これが「新植民地主義」でなくてなんだろうか。

日本は幸い、戦後そのような事態にならずに済み、自らの手で国内産業を育てることができた。だが、国際競争力のつかない、またはつけられない農業などの分野は、この自由貿易の波によって前代未聞の危機にさらされているのだ。

このように世界中をめちゃくちゃにする世界貿易機関は再編成されなければならない。まず先進国の利害と、開発途上国の利害の違いを明確に見極め、前者が後者にとって不利益にならないように適切な関税障壁を作るようにしなければならない。

その結論は長い紆余曲折があろうが、これまでにグローバリズムによって為されてきた壮大な破壊を考えれば一刻も急を要する問題である。すでに大企業につぶされた中小企業が生き返ることはない。長年やってきた伝統産業は二度と蘇ることはない。世界の中の多様性をこれ以上減少させないように早急な手が打たれなければならないのだ。

多様性を失い、単一の基準に均質化した世界はもろい。もし世界中が「アメリカ標準」だけになってしまったら、人類の未来はない。だから世界中のさまざまな方式を温存しておいて、アメリカが駄目になったら、それに取って代わることのできる体制や価値を保存しておかなければならない。

もしそれが不可能ならば、世界貿易機関を早急に脱退して、アメリカの1国支配に対し打撃を与える必要がある。もちろん一国では孤立するのは目に見えているから、グループ脱退を行うのである。

尚、同じくガットや世界銀行の方針も、かなり問題をはらんでおり、負債を抱えた国についての処遇を変更させる必要があることも付け加えておかなければならない。

自由貿易の流れは、各国に根付いた農業や漁業の現実を無視し、「安く供給できる」事だけを目指し(残念ながら、安定した量とは言ってない!)食糧の多様性や安全性を危機に陥れている。

注;この意見は「暴論」コーナーに入れたけれども、2000年アメリカ大統領選の第3候補者ラルフ・ネーダー氏の意見にもWTO脱退の主張は述べられているのだ。最も彼が当選する可能性はゼロに等しいから、やはりかの国でもこれは暴論なのだろうが。

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この後、WTOの会議は2003年において共通の方針が見いだせないままに決裂し、実際の活動はここでとん挫した。これに代わって、それぞれの国が、特定の相手との交渉によって相互条約を結ぶという方向に向きつつある。これはWTOの有名無実化、ひいては解体への方向を示すものだろう。

これならお互いに納得尽くのことであるし、たくさんの国々と話し合わなければならないと言う煩雑さはあるが、相手国の産業をこちらの輸出品によって壊滅させるというような乱暴なことはもはや許されない時代になったのである。

初稿・年次不明2003年10月追加

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