わたしの本箱

西丸震哉・著作

ネコと魚の出会い

食物生態学を研究し、探検家、登山家。自然の中に平気で入り込んでいって、人間の心身をだめにする現代文明に背を向けた考えをもち、実行してきた。この点で川島四郎氏とよく似ている。自分の体を過保護にする現代人に警鐘を鳴らしている。西丸記念館外部リンク

  1. ネコと魚の出会い
  2. 西丸式山遊記
  3. 山とお化けと自然界
  4. 山小舎を造ろうヨ
  5. 動物紳士録

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ネコと魚の出会い * 経済往来社

ネコと魚の出会い著者は食糧庁の研究所で食物の研究をしただけでなく、登山家、探検家でもあり、この本はそれらの経験をもとに書いた、食物についての集大成だ。目次にあるように、まず嗜好の面から解き起こし、お袋の味や小さい頃になじんだ故郷の味がいかに一生にわたって続くかを語る。

さらにそのことから発展させて第8章に至るまで、ゲテモノ食いや現代の子供たちの食生活の問題に及ぶ。今の子供たちのひ弱さ、肥満、栄養的偏りは、短命化の原因として、こんな早くから予測されていたのである。この話はもっと具体的になり、「41歳寿命説」(情報センター出版局)という本になって1990年に出版された。

9章より先は、ボルネオ島などの探検の経験をもとに、古代の日本人が何を食べていたかを探る。そこから適切な一日の食事回数や、長寿食の特徴、味覚の発達について述べている。長い間にすっかり変わったもの、少しも変化しないものを取り上げて、食物に対する正しい態度とはどういうものかを考える。

この本で強調されなければいけないのは、あまりに過保護になった現代の環境のせいで人間の体力、気力ともどんどん駄目になってゆく中で、いかに昔の食事や運動が大切かという問題である。昭和45年の出版当時でも「ブクブクの肥満児」や「テレビでごろごろ」が話題になっているのである。

団地の坂がつらくて自転車を止めてバスに乗る人、階段がいやで、エスカレータの長い列を待つ人、暑いからといって一日中エアコンをつけっぱなしにしている人、いずれもこの本では強く戒めていることである。著者は医者や栄養学者ではないが、自らニューギニアのスタンレー山脈を歩いて単独横断をするような人だから、体験に裏付けられた説得力があるのだ。

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西丸式山遊記 * 中公文庫 

西丸式山遊記著者の若かりし頃からの日本中の、名もなき山、山里に隠れた温泉を歩き回った思い出話をちりばめる。

かつては登山といっても、ほとんど数えるほどしか愛好者はおらず、近代的装備もなくひたすら汗まみれになってヤブこぎをしたり、スキーにシールを貼り付けて頂上を目指したものだったのだ。

だがその方がかえって、さまざまな思い出を作ってくれることを本書は語ってくれる。しかもあのユーレイのような挿し絵つきで。さらに著者の油絵の趣味、合唱団の編成、妻との山行、地図にない池の探索なども加えて語られる。

今はホテル建設や道路網の整備によってすっかり失われてしまった、日本各地の多様性が、かくも生き生きとかつてはその個性を輝かしていたとは、著者も良い時代に生きたものだ。

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山とお化けと自然界 * 中公文庫 

山とお化けと自然界この本を読んでいると、眉が唾でべったりしてしまうだろうという。それはそうだろう。著者の若い頃から体験した、ユーレイやお化け、前世のお告げ、巫女の読心術などが満載されているからだ。

この本はすでに出た、3冊ほどの本の内容と一部重複しているところもあるが、山の体験を中心に編集されている。はじめは、昆虫の話や、激流を渡った話、酒を飲んで心臓が止まりかけた話などで、普通に読んでいける。

ところが、第4章、兄との交信あたりから、なんかうさん臭くなってくる。そのくせそれが事実だとか冗談だとか一切言わずに話を進めてゆくものだから、読むほうもほんま過異な?と思いつつ読んでいるのだが、そのストーリー運びのおもしろさについ引き込まれてしまう。

巫女が、山頂で神様にはタコを食べさせてやりたいと言っているのを聞き流していたところ、里に下りて配給所を見たら、何と珍しくタコが入荷していたとか、釜石で、謎の若い女のユーレイにつきまとわれ、その地を逃れてほっとしていたところ、霊と交信できる婆さんに、あなたのうしろにいるあの若い女の人は誰か?と尋ねられ、やっと退散してもらった話など、実におもしろい。

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山小舎を造ろうヨ * 中公文庫 

山小舎を造ろうヨ山小屋ではない。山小舎とは、まるで一人用のテントみたいな面積から始まる、自分だけの城だ。この消費とストレスに満ちあふれた社会に生まれ落ちた不幸を背負う我々は、自然の中で、自動車の警笛も携帯電話の呼び出し音も聞こえない、真の静けさの中に時には身を置くべき、いや身を置きたいと思っている人のためのヒント集である。

土地の選び方、それも2万分の1の地形図をみて斜面の様子や方角を考え、さらに小屋の素材や、狭いながらも間取りの点で、懇切丁寧に教えてくれる。

自分の体をやっと横たえることができるような、まるで寝袋に屋根がついたような小さななものから、12畳ぐらいの大きさで、何人か人を呼んでも平気なくらいの大きさに至るまで、様々なプランが紹介される。

お仕着せの別荘を造って、都会と同じくらいの快適さを望む人には縁のない話だ。わざと不便な生活様式にして、その分だけ自然の中にどっぷり浸かろうという考えだ。

まあ、この本をわざわざ買うような人であれば、きっと心の隅にそのようなドリームハウスを描いているのであろう。そのプランの具体化にはとても参考になる本だ。

なるべく自作して、材料は廃物をできるだけ利用して、まわりの自然にインパクトを与えることなく、しかもそんなに山奥でなくとも人が滅多に訪れることのない場所を探すのはなかなか難しい相談だが、自分の人生を変えるチャンスをねらっている人には、一つの指針となるだろう。

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動物紳士録 * 中公文庫 

これで西丸氏の著作も8冊目になる。今回の本は氏が今までに遭遇した動物たちの思い出だ。今と違って、自然界に生き物がうようよいた、古き良き時代の話。

その中にはヒルに血を吸われたり、ハゲワシによる死体の始末を見たり、巨大昆虫を試食する話もあって、普通の人とはひと味違った体験をしていることがわかる。それにしてもミミズクを飼っていて、父親が病気がちなのはそんな変な動物を飼うからだとくだらない迷信を親戚連中から言われて、渋々上野動物園へ引き取ってもらったところ、将来は園長になる若い職員に思いやりのない飼い方をされて死なせてしまうくだりが印象に残る。

管理職のエライサンになる人というのは、冷たい側面があることを思い知らされるし、そういう人に恨みを何十年も持ち続ける著者の感受性には大いに共感できる。

最後の解説が永六輔だというのがまたおもしろい。二人で食糧自給率100%の佐渡島を独立させる運動に取り組んでいるのだそうだ。日本国はこういう「変人」を常にはねつける。「いじめ」が学校に蔓延するのもおとなの世界のこういうところから起こるのだ。

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不健康長寿国ニッポン * 西丸震也・藤本敏夫・共著 * 家の光協会 87/2

食物の生態誌 * 中央公論社

山の博物誌 * 実業之日本社 88/5

裏返しのインド * 角川文庫 88/7

41才寿命説 * 情報センター出版局 90/9

イバルナ人間 * 中公文庫 

山歩き山暮らし * 中公文庫 

野外ハンドブック * カッパ・サイエンス・光文社

山だ原始人だ幽霊だ * 角川文庫

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その他の著作

西丸式世界「知的探検」〈ヨーロッパ・アフリカ篇〉 (主婦と生活社)
原始感覚保持派のための西丸震哉作曲集―無伴奏合唱曲 (楽企画)
人生密度7年説―短命化社会の「生と死」を組み立てる (情報センター出版局)
さらば文明人―ニューギニア食人種紀行 (ファラオ企画)
ニチャベッタ姫物語 (中央公論社)
さらば文明人 (角川文庫)
食生態学入門 (角川書店)
未知への足入れ (角川文庫)
砦なき社会―わが野性的サバイバル思考 (PHP研究所)
天候とからだ―かぜからガンまで ジュリアス・ファスト(著);西丸震哉(訳) (三笠書房)

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

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