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南北朝鮮統一のチャンスが訪れたか? ( A chance to integrate South and North Korea? ) 2017/09/18

第二次世界大戦の負の遺産として、2つの国が国民の意思に反して分割されてきたことがあげられる。だが、西ドイツは東ドイツと統一を1990年に実現し、ドイツ国民の悲願はかなえられた。だが、「イムジン河」で歌われているように、北朝鮮と南朝鮮は、いまだに統一の兆しさえ見えない。

ドイツの場合には、ソ連崩壊という一大事件の波に乗って実現した。ところが朝鮮半島はいまだに冷戦の緊張状態が解けずにある。イデオロギー対立が、勢力圏拡大への競争になっただけだ。

2017年になって、世界の世論を無視した一連のミサイル発射実験がキム・ジョンウン(金正恩)によって強行され、これは今後も続きそうだが、見方を変えていえば、ようやくこの地域での地政学的バランスが大きく変化するともいえる。

現在の時点(2017年9月)で明らかになっているのは、北朝鮮の政権が、一切の妥協や協力の意思を示すつもりはないということだ。佐賀県程度の経済規模しかないこの国が、これだけ金のかかるミサイル実験を繰り返すことができるのも、国民の盲目的犠牲に立っていることもあるが、もっと大きな問題は、ロシアと中国の”隠れた支持”である。

ロシアと中国は自分たちの立場を強めるために、様々な方策を講じているが、かつてのように友好国に大っぴらに武器を供与したり、ましてや軍事的攻撃を実行に移すことはますます難しくなっている。

1978年のソ連によるアフガニスタン侵攻のような軍事的冒険は余りにも国際関係上の損失が大きい。しかし勢力拡大のためには、何としても欧米との対立関係は利用しないわけにはいかない。そこで出てきたのが北朝鮮の効用である。

北朝鮮をロシアと中国がしっかりと支持していることは完全に明らかである。表向きはミサイル実験はいけないと言っておきながら、彼らの提案を入れた実際の制裁は骨抜きになった。これは北朝鮮との裏取引の存在を物語っている。

ロシアと中国の意図は、気狂いのように暴れまわる北朝鮮を泳がせておいて、少しずつ自分たちの国益を確保していこうというものだ。大国が軍事行動に出れば貿易や経済に悪影響を引き起こすが、北朝鮮のような小国を好き勝手にさせておくなら、国際関係に及ぼす影響力がゼロに近いため心配ない。

わかりやすく言えば、ロシアと中国は”狂犬”をしっかりした綱で結んでおいて吠えるに任せ、時には少し誰かに咬みつくことも許し、、陰で北朝鮮が困ることのないように配慮しているのだといえる。

このことはキム・ジョンウン(金正恩)の大胆な発言に明瞭に表れている。この状態が続くのであれば、北朝鮮による横暴な行為はやむことはなく、東アジアにおける国際関係の緊張状態は永続的なものとなる。

国連の安全保障会議は何度も開かれているが、一向に前向きの決議は出てこない。いやロシアと中国がいる限り、永久に解決策は出てこない。軍事行動に出るという選択は恐ろしい。各国は弱腰の態度をとるしかない。

ここで思い出されるのが、ワイマール共和国時代に生まれた弱小政党「ナチス」に対する各国、特に英仏の態度である。英仏の煮え切らない態度は、ナチスがどんどん成長を遂げることを許し、軍備増強からついにズデーテン地方の併合という結果を生んだ。1938年のミュンヘン会談でのことである。

当時の英仏の“宥和(ユウワ)政策”というものが、あの地獄である世界大戦大戦の発端となったのだ。話し合いは重要である、だが”速攻”のときも必要である。それを逃すと地獄への一本道となる。歴史はそれを教えてくれた。

今、世界各国が北朝鮮の思うままに実験を続けさせると、彼らにとって有利な条件を引き出し、ひいてはロシアと中国の脚本通りに事が進むことになろう。それが成功した時には、もはや後戻りをすることは遅いのである。

ではどうすべきか?それは北朝鮮の政府を転覆させることである。それもできるだけ早く。フセインもカダフィも政権から取り除かれた。その後のイラクもリビアも以前と変わらず悲惨な状況ではあるが、強力な支配者がいなくなったことで将来の展望が少し開けてきた。

キム・ジョンウン(金正恩)を取り除く方法は軍事行動にするのか、それ以外の方法によるのかは政治家たちが決めなければいけないが、一つだけ重要なことは“瞬時に”それを行うことである。ロシアと中国が対抗措置を考え出す前に、既成事実を作ってしまわなければならない。

キム・ジョンウン(金正恩)政権が倒れた時、北朝鮮からの難民があふれ出るか、それを韓国はどう対処できるのか、難問は多いが、これまで停滞してきた南北統一の賭けに出てみる価値は十分にある。

南北統一による、東アジア安定に及ぼす好影響は計り知れない。冷戦時代が遠い過去のものとなった今、イデオロギーによる対立はなくなり、朝鮮半島を今度こそ非核地帯にできる可能性もあるのだから。

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A chance to integrate South and North Korea? 2017/09/18

One of the negative legacies of World War Two is that two countries were divided into two parts against the people's will. But the unification of West and East Germany came to a fulfillment and the long-cherished with of the German people was realized in 1990. But as sung in the song "Imjine River", no perspect for uniting South and North Korea can be seen.

As in the case of Germany, the unification came true with the help of the great historical movement resulting from the destruction of the Soviet Union. But in the Korean Peninsula the international tension caused by the cold war has still lingered. Only the conflict of ideologies turned into the race for enlargement of the great powers.

In 2017, a series of missile launching experiment were forced by Kim Jong Un in difiance of the world opinion, and this seems to continue, but in the different perspective, in no time will the geopolitical balance make a great change.

What is apparent in the present point of time (September, 2017) is that Pyongyang has no intention of offering the willingness to compromise and cooperate. The reason the country whose economic scale is no larger than that of Saga Prefecture, Japan can spend so much money on the missiles is that they are blessed with the blind sacrifice of the North Korean people, but what is more important, that they depend on the "hidden" support of Russia and China.

Russia and China has tried many ways to strengthen their positions, but also it is getting more and more difficult to adamantly supply arms to their friendly nations as they did before, let alone put into practice military attacks.

Militaristic adventures as the invasion of Afganistan by the USSR in 1978 should lose too much in terms of the international relationship. But in order to make themselves more powerful, it is by all means necessary to take adavantage of the rivalry with the Western countries.

It is completely clear that Russia and China support North Korea. Ostentatiously they condemn the missile experiment, but the outcome of the sanction the part of which they insisted on adopting was not effective at all. This can be explained by the fact that Russia and China had deals with North Korea in the background.

The real intention of Russia and China is that while letting North Korea run wild like a madman, they gain their own national interest bit by bit. If big countries take military action, it will have grave effect on their trade and economy, but letting a small country like North Korea go their own way has little effect on their international relationship, so the two countries have no worries.

To put it more clearly, Russia and China keep "the mad dog" with a strong lead, letting it growl, sometimes allowing it to bite on someone, and secretly taking care of it so as not to put it in a difficult situation.

This clearly shows what Kim Jong Un dares to say. If this keeps going, the arrogant behavior of Pyongyang will go forever, making the international tention in the East Asia everlastingly worse.

Though the security council of the UN has often been convened, no positive decision has come out so far. No, as long as Russia and China keep attending the council, the problem will never be solved. The military option is too scary. The countries of the world have no other way but to take weak stand.

Here, we remember the attitude shown by a few countries, especially Britain and France towards "the Nazis", a small political party born in the era of Weimar Republic. Ambiguous stand taken by Britain and France allowed Natiz to grow bold and strong militarily, finally with the result of its annexation of the Zudetenland district. It was in the Munich conference in 1938.

The very "appeasement policy" adopted by Britain and France at that time gave birth to the tragedy of World War Two. It is important to negotiate, but it is at times necessary to "act swiftly". If we take no chance, this may lead to the hell. History has taught the lesson to us.

If the countries in the world let Pyongyang continue their missile experiments as they like, they will take advantage of them, making it possible for Russia and China to attain their aims. When they are successful, there may be no point of return.

Then what should we do? The answer for it is to overturn the Kim Jong Un's government, and yet quicker. Both Hussein and Kadafi were removed from power. Although Iraq and Libya are in the situation in turmoil as ever, the absence of wicked and powerful leaders has made these countries a little bit forward-looking.

It is up to the statesmen to decide whether with military action or any other way they remove Kim, but what is most important is to act "swiftly". Before Russia and China think of any counterplots, the very action must have already been made.

When Kim's government is toppled, there will be many problems as to the flooding of refugees from North Korea and how South Korea will deal with it, but it is worth while betting the unification of North and South, that has been stalled so long.

The great effect of the unification on the stabilization of the East Asia is too great to predict. Now that the age of cold war has long gone, the conflict of ideologies has come to an end. The possibility is not a dream that the Korean Peninsula can be turned into nuclear-free zone once for all.

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2017都議選から見えてくるもの 2017/07/05

2017年7月2日に行われた、東京都の都議会議員選挙の結果は、今後の日本の政局を占ううえで、重要なポイントとなった。「都民ファースト」という名の新政党が、どのような方向に進むにせよ、大切なことは、急速に変化する国外国内の状況に応じて変化のできない、旧態依然の政党は、もうこれまでだということだ。

自民党の安倍政権はもう5年を超えた。自民党でもっと長い政権を維持した事例はあるが、どれをとっても共通しているのは、「権力は腐敗する」という格言通りであるということだ。安倍政権が腐敗してきたのと、今度の都議選がちょうど時間的にシンクロしたので、なおさら重大な結果が生じた。

今回の選挙は、フランスのマクロン大統領の場合を思い出させる。マクロン氏が、左派、右派のどちらも負かして、しかも自分が1年前に作ったばかりの政党が、議会で圧倒的多数を占めたということだ。明らかにいわゆる“民主主義国”での潮流が大きく変わろうとしているのが感じられる。

それ以前のイギリスの国民投票によるEU離脱や、閉鎖的なグループによるトランプ大統領の就任は、内向きの、保守的傾向の強まりを示していたが、今年に入って、その流れは止まったように思われる。複雑化し、巨大化する現代社会の舵取りをしていくには、どうしてもこれまでの右派的、左派的考え方では不十分なことがようやく認識され始めてきたのだ。

社会生活を営む人間は、環境が変わるとき、それに気づき、それに柔軟に合わせていくことが、一部の人々を除いて非常に不得意だ。これまでのようにゆっくりした変化の時代であってもそうだったのだから、21世紀の急激な変化においては、大多数の人々が不適応を起こし、進む方向を見失うのも無理はないのだ。

もっとも、では進歩的な人々が政権をとれば、変革はスムーズに進むかといえば、そう楽観的にはならない。しかも民主主義というものは、きわめて非能率で、何かを決定しようとすれば、延々と議論を重ねなければならない。

でも、だからといって効率を求めて権力を集中させることは、間違った方向に暴走する恐れがある。ロシアのプーチン、トルコのエルドアン、フィリピンのドゥテルテなどが、国民の圧倒的人気を集め、彼らの意思の通りに政策がすすめられていることは、予期せぬ悲劇をいつ招くことになるかわからない。

安倍政権もそれほどではないにしても、「安部一強」という言葉が示す通り、自民党の内部は異議を唱える者がいなくなり、まるで思考停止状態であった。これも前回の衆議院選挙で290議席以上という、圧倒的多数を占めて、自民党議員は、変化を避け、強力な指導者の下での安住を決め込んだからなのだ。

政権を担当する政党に、こんなに極端な多数を与えてはいけないのは歴史が教えるところだ。これではかつてのソ連でのような「一党独裁」になってしまう。まともな選挙が行われている国々では、こんな政党分布を選んだ、国民や野党にも責任がある。いわゆる無党派層の“消極的支持”がこんな不幸をもたらす。

消極的支持と積極的支持は、実際の選挙の場面では、その違いが表面に現れない。だから、多数派を占めた政党は、自分たちが国民から圧倒的支持を得たのだと勘違いする。賢い国民であるならば、2党、できたら3党による政権交代がリズミカルに行われるようにすべきなのだ。

日本や、西欧諸国では、担当政権が多少無能でも気にすることはない。なぜならこれらの国には優秀な「官僚」がちゃんと国家を回転させているし、民間の持つ力が、時にはそれらを上回るほどなのだから。

だから日本のように明治以来、官僚制度がしばしば硬直化していると言われることがあっても、きちんと機能しているのだから、敗戦で国が焦土化したときも、無能政治家でも戦後復興は十分やっていけたのだ。

これからもそうであり、腐敗さえ食い止めることができ、最低限の法治が守られていればよい。ただ、残念ながら第4の権力のはずのマスメディアは、日本では民主主義国にふさわしいふるまいをしていない。国連でも日本のメディアが低レベルにあることはしばしば指摘されている。

例えば、安倍政権が成立した時、これが右翼政権だということは、マスメディアは一言も言わなかった(NHKの先輩である、BBCやフランス公共放送はちゃんと言っていたが)。だからその後、朝鮮人に対するヘイトスピーチがひどくなったときに、これが安部一族が権力の座について、右翼が勢いづいたと分析するメディアはほとんどなかった。

”言わザル”を決め込んだのは、金のためか、恐怖のためか、“自己規制”によるものなのか、“政治的配慮”によるものかわからないが、欧米で時々耳にする、「勇気あるジャーナリスト」は絶滅したのか、始めからいないのか?将来の日本社会に不安を投げかける状況である。

そのようなわけで、小池知事による新都政についても、大きな期待をもつことはできないかもしれない。オリンピックは、国家の財政を傾かせ、2020以降は、東京でも超高齢化社会が始まり、日本も経済的な地位を滑り落ちてしまうことはわかっている。だが、それはどんなに有能な政治家で求めることのできない、「国家の老化」であるから、素直にそれを受け止めるしかないのだ。

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マクロン氏の当選 2017/05/08

2017年のフランスの大統領選挙の結果が出た。多くの人々が、極右のルペン氏の当選を危惧していたが、結果は、EU賛成派が安堵するものとなった。アメリカのトランプ氏の当選、イギリスのEU離脱はともに、これまでの世界の流れ、特にグローバリゼーションに対する大きな懐疑が表に現れただけに、フランスも同じようになるのかと世界中がかたずをのんで結果を待ち受けていた。

この3国の選挙や国民投票は、第2次世界大戦以来進んできた経済の方向に対する新たな反省を含んでいた。世界中がそろって豊かになるのではなく、いびつに貧富の格差が拡大し、難民の数が劇的に増え、それを受け入れる国々がパンク状態になった時点で、グローバリゼーションと、それを支えてきた既成の政治体制、例えばフランスでいえば右派と左派に対する見直しが必要になったのだ。

ここでグローバリゼーションについて考えてみると、これは「…主義」と名付けることができるようなイデオロギーではなく、技術革新の結果による、自然現象、あるいは一種の天変地異であることだ。したがって、津波のように人々のもとに押し寄せて、それに対して人々は流されるだけで、なすすべがないというのが特徴である。

この問題に解決を与えるためには、歴史を逆転させるか、新たな知恵で乗り越えるかのどちらかしかない。人々の対処法は大きく二つに分かれた。それは従来の資本主義的、社会主義的な2分法ではなく、有効な解決手段のないまま、従来の方法に閉じこもるかそうでないかというような、漠然とした選択しか見えてこないのであった。

これが最近の”右傾化”傾向の本質である。日本で安倍総理大臣が2度目の就任をしたとき、国民の大多数は、彼が右翼であることをはっきり意識していなかった。海外のジャーナリズムは、彼が大きな右翼団体の一員であることをはっきり言っていたのだが、国内では、そのニュースは黙殺されたようだった。首相夫人の絡む事件などが起こって、あるいは防衛大臣の行動や発言などがあって、ようやく最近そのことが意識され始めたのだ。このように先進国において、いずこでも右寄りの傾向はこのところ顕著になってきたが、これこそ、グローバリゼーションの危機的状況に対処する一つの流れであったのだ。

問題の解決を新たに求めるのでなく、従来の方法に戻ろうとする保守的態度がその特徴である。この態度は、目先の利益を最優先し、何らかの原理主義的傾向(ナチズムなど)で武装し、心理学でいう”外部集団”(移民、難民、テロリストなどで)を作り出して、内部集団の団結を図るという点で共通している。

また、人々が恐怖にかられると、何らかの行動へ向かうということから、ことさらに恐怖感をあおるという手法もある。さらにカリスマ的人間がいれば申し分ない。嵐の中で、たくましく見える指導者(狼かも?)がいれば、羊たちは喜んでついていくのだ。このようなわけで、右翼的傾向のよく使う道具は「差別」「分断」「ポピュリズム」などだ。

こういった傾向は、いわゆる”大国”の場合に起こりやすい。というのも大国は不安定で、常に分裂の可能性があり、それをナショナリズムを利用して、何とかしてまとめていかなければならないからだ。一方、小国や都市国家タイプ、例えばオランダ、デンマーク、香港、バルセロナなどは、初めからグローバリゼーションにうまく適応して生きてきたので、むしろこの時代には安定しているように見える。

こうしたことから、”大国”フランスはオランド大統領の下の5年間、劣悪な状況ではなかったが、失業者は一向に減らず、外国からのテロリストによって大勢の市民が死傷し、グローバリゼーションに乗りきれなかった産業は傾いていたので、右翼的傾向が国を二分するほどまでの勢力を得ていたのだ。

マクロン氏とルペン氏が第1回目の投票で、既成政党を追い落としてしまったのは、革命的なことだと言える。1789年以来、フランスは革命に革命を重ねてきたが、今回の選挙モデルは、他の国にも波及するかもしれない。21世紀中盤の問題解決には、20世紀生まれの政治方式ではもはや通用しないのかもしれないのだ。

しかし、マクロン氏が当選したからと言って、急に明るい未来が開けたわけではない。EUからの離脱や、強力な移民規制などは、当面避けることができるが、今後は、すでに有効性を失った従来の解決策に代わる、新たな方法をマクロン氏は”発明”しなければならないという、想像を絶する大仕事が待っている。下手をすると、前任のオランド大統領のように、人気が失速し、また1期限りでやめてしまうという事態だってあり得るのだ。

だが、一方でフランスでは危機のたびに、それを救う人物が現れた。ジャンヌダルク、ナポレオン、ドゴールなどだ。大統領の仕事は、経済の立て直しや失業の解決もあるが、最も重要なのは、分断した社会を一つにまとめることだろう。

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トランプ氏の迷走 2017/02/16

トランプ氏が就任してから、1か月がたつ。すでに予想されていたことだが、彼のあまりにも幼稚な政治手腕に、世界中が振り回されてしまっている。2016年11月に書いた、拙著のタイトルは「トランプ氏の当選」であったが、すでにその時から多くの危惧が生じていた。そのときには、3種類の場合を想定してみた。それを再びここに示すと…

(1)過激な発言とは裏腹に、かなりまともな政治家ぶりを発揮して、次々とこれまでとは違った斬新な政策を内外ともに打ち出して、国民を感心させる。これまでの既成の政治家たちが歯ぎしりして悔しがるような、思い切った行動に出ることもある。例えばかつてのニクソン大統領の中国訪問のような。ついにはMAGA(Make America Great Again)を実現したと称賛される。 (2)就任しても、自分の過激な発言が尾を引いて、穏健派が顔をしかめるような過激な政策を繰り出して、国民の分断はますます深まり、それに対する抗議運動が広まり、上昇の希望をかなえてもらえなかった下層の人々の失望を買う。そのため、任期の後半はどうしようもないレイム・ダックになり果てる。TrumpはTrampにすぎないと笑われる。 (3)結局のところ、人材は自分の出身である共和党・保守派から求めざるを得ず、また外交に関してはEUや中国、ロシアと足並みをそろえなければならない事柄も多いので、妥協に妥協を重ね、当たらず触らずの政策の連続となり、「歴代で最もつまらない大統領」の烙印を押されてしまう。MAW(Make America Weaker)と皮肉られる。

貼り付け元 <http://nishidanishida.web.fc2.com/board.htm>

11月には、(3)が最も可能性がありそうだと書いたが、現在2017年2月の時点では、(2)のほうが正しかったのかなと思い始めている。

米国憲法を無視した、イスラム諸国民の再入国の差し止めに示されるように、彼のやり方はまるで政治の素人であるかのようだ。現在、彼が次々と打ち出している政策は、なるほど選挙運動中には公約として支持者に受け入れられたものばかりだ。そう簡単にそれらを破棄するわけにもいかない。

そしてもう一つの重大な問題が持ち上がっている。これは支持者との関係ではなく、ロシアによるひそかな選挙運動へのかかわりの疑いだ。これは、弾劾裁判に至るような重大な国家の安全保障問題がかかわっているかもしれない。今後の捜査にもよるが、彼の部下たちが、そのような取引を行っていたとすれば、これはアメリカの政治史上初めてのケースとなる。

今回のトランプ氏の登場は、それまでの体制側(エスタブリッシュメント)がふがいなかったことにもよる。毎回の大統領選挙の投票率は低迷していたし、民主党と共和党の2大政党だけで政治が執り行われ、それ以外の声がまるで無視されてきたことに対して改善の兆しが見えなかった。

さらに、オバマ大統領が、いくら頑張っても銃規制の法案を成立させることができなかったのは、上院も下院も共和党の勢力が強かったからである。共和党は、トランプ氏のような極端な政策にならないにしても、銃規制、国民健康保険、環境保護の問題に対しては反対の立場をとっている。

ただし、自由貿易や”小さな政府”を目指す立場はトランプ氏には見受けられないようだ。というのもここで彼を支持した層の望みが大きくかかわりを持ってきているからだ。トランプ氏を支持している層は、自由貿易によって生活が苦しくなった労働者層である。彼らが働いていた職場は、激しい国際競争によって奪われ、生活をしていた地方都市は軒並み衰退している。最もわかりやすい例は自動車産業であろう。

この点ではイギリスのヨーロッパ連合からの離脱に投票した英国人たちとよく似ている。これまで彼らは政治の表舞台に出ていなかった。そして組織化もされていなかった。発言の機会は抑えられていたといえる。鬱積した不満は、大儲けをする多国籍企業や次々と入り込んでくる移民へ向かった。特に移民に対しては、「彼らは我々から仕事を奪った」と短絡的に考えやすく、それがトランプ氏のような巧みな政治家に利用されたのだと言える。

もちろんトランプ氏が彼らの不満をこれからくみ上げてくれなければ、彼らの支持はどんどん下がっていくだろうが、トランプ氏はそんな下手なことはしないだろう。プーチン氏がロシア国民に、エルドアン氏がトルコ国民に絶大な人気を保っているように、大衆迎合にたけた政治家は、決して自分の支持層を失望させることはない。状況がよくならなくても、それはトランプ氏が悪いのではなく、”敵”が悪いのだと思わせることに成功すれば、むしろ支持率は上昇していく。

さて、トランプ氏の支持者たちは、どのような特徴があるだろうか。アメリカの”深南部”と呼ばれる地域では、昔からKKKが暗躍し、人種差別の雰囲気は家庭内で親から子へと伝えられてきた。今でこそリンチは表向きにはなくなったけれども、リンチを黙認するような母親が息子と娘を育て孫に伝わり、それが現在に至っている。もちろんそのような地域では、銃がなければ自分がリンチに会うかもしれないので、銃を持たないなどということは考えられない。

さらにこのような人々の間では、キリスト教プロテスタントの中でも、特に原理主義的傾向が強く、たとえば進化論が学校では教えられていないところが多いのも特徴である。ひところ Tea Party という、共和党の中でも過激な部分が有名になったことがある。その運動は現在、衰退したかのように見えるが、トランプ氏の政策の中に吸収され、ついに国家的な方向まで決めるに至ったのだとみてよい。

トランプ氏の移民を入れない政策や、メキシコとの国境に壁を作る案も、国民の半分以上の支持を受けている。決して少数派ではなく、今まで世界の人々がアメリカ人に対して持っていた、「ワシントン、リンカーンに代表される世界に模範となる民主主義体制」とはまるで違う国が出現している。というよりは、これが本当のアメリカ合衆国だったのかもしれない。

かつてニクソン大統領は、ベトナム反戦運動が国中に広がり、ニクソン政権は危ないのではないかと思われた時、「アメリカのサイレント・マジョリティが私を支持している」と豪語して、そのまま政策を推し進めることができたことを考えると、実はアメリカを支配しているのは、別の人たちだったのではないかと思われる。ヨーロッパ的な知的で思慮深く冷静な、思想家、政治家、ジャーナリストは実は力がなく、目の前の利益を第一に考える、自分の住む地域第一主義の人々が実権を持っていたのではないか。

もしそうだとするならば、これからのアメリカ合衆国は今までとは完全に変質し、インターナショナルな仮面をかなぐり捨て、国家第一主義の道を突っ走ることになるかもしれない。そうなるとヒラリー・クリントンに代表されるような人々は、この国に安住の地を失い、カナダに移住するか、ヨーロッパに居所を定めることになるかもしれない。トランプ氏の当選のときに「アメリカの分断」が頻繫に叫ばれたが、かつての南北戦争のように、地政学的に別の国を作るわけにもいかないので、「嫌な奴は出て行け!」ということになる。

そのようになれば、トランプ氏は”迷走”ではなく、新しい体制の創始者になることになる。新しい体制では、アメリカはもはや「世界の警察官」ではなく、ロシアや中国、その他の新興勢力と国家利益を巡って激しく競争する関係になるのだろうか。

もう一つ忘れてはならないことがある。それはアメリカにはマイクロソフト、アップル、グーグルなど、世界1の大企業が多数存在し、それらは多国籍企業として、国家の枠を超えて動いているということだ。アメリカが自らの利益の中だけにとどまり、それらの企業との関係が悪化すれば、それらはアメリカを出ていくことになる。このような企業は移民によって恩恵を受け、何よりも規制されない自由な行動の場が必要だ。トランプ氏はそれらの企業とどう折り合いをつけていくのだろうか。

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