わたしの本箱

コメント集(2)

  1. 前ページ
  2. 消えゆく森の再生学
  3. エピソード科学史4農業技術編
  4. 死海文書の謎
  5. イエスのミステリー
  6. 死海文書の謎
  7. 国家語を越えて
  8. イエスは仏教徒だった?
  9. 人間 池田大作
  10. 古代史を彩った人々
  11. 金融腐食列島
  12. 娘心にブルースを
  13. 豊かさの精神病理
  14. 燃えよ剣
  15. 女たちよ!
  16. 日本国の研究
  17. 日本文化の起源
  18. 青年の山脈
  19. ソ連の裏街道をゆく
  20. <自然>を生きる
  21. 習俗の社会学
  22. 男と女の子
  23. ブッダ
  24. いっぺんに春風が吹いてきた
  25. 動物紳士録
  26. 生き物の世界への疑問
  27. 私の映画の部屋
  28. 遠くへ行きたい
  29. 世界の歴史がわかる本(2)
  30. 貧乏だけど贅沢
  31. 次ページ

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凡例

(辞書・参考書類を除く)

題名 * 著者または訳者 * 出版社 / 読んだ年と月

(再) = 以前に読んだことのある本

 = 図書館あるいは人から借りて読んだ本

色別区分 三回以上読まずにいられない本 

二回読んでみたくなる本 資料として重要な本

私の本箱・ベストセレクション

2000年目次へ

消えゆく森の再生学 * 大塚啓二郎 * 講談社現代新書1479 01/03/00

アジア・アフリカでの森林再生には、「私有林」「全体の保護は国や共同体」が、「樹木の世話は個人」という原則に基づいて行うことが最も効果的だという。各地の綿密な調査に基づく、だが他の人で実行する人がほとんどいないために苦労した一学者の手記。

イエス逆説の生涯(再)イエス逆説の生涯 * 笠原芳光 * 春秋社 01/06/00

読むのはこれが2回目になるが、イエスの意図したことは、パウロたちによってすっかり誤解され、全く別の形のキリスト教会という組織ができてしまったということは、ショッキングな発見だ。また、宗教の奥義は逆説によって示されるというのが著者の主張だ。3回目に備えてこの本は買うことにする。

ピソード科学史4農業技術編 * 市場泰男 * 教養文庫739 01/10/00

全4冊からなるこのシリーズの最後はリサイクルで、タダで手に入れた。ところがその中身や実に興味深い。科学技術がまだ初歩的な段階にあるときは、まるで日曜大工の延長のようなワクワクするところがあるものなのだ。かなり伝説めいた部分、たとえば「コロンブスの卵」などもあるが、今のように科学が巨大化して、一般の人には全くわからないほどに進歩する前の時代の発明工夫は実に楽しそうに見える。また「産業スパイ」も17,8世紀にも相当横行したらしいが、今と比べれば実に牧歌的だった。

死海文書の謎 * 浜洋・訳 * コスミックインターナショナル * ISBN4-88532-816-0 C0014 (ポウエル・ディビス著)

不思議なことにこの本の原名が表記されていない。この本の中心テーマはキリスト教が発生する際に、昔からユダヤの地にいた「エッセネ派またはクムラン教団」と「原始キリスト教」には多くの共通点があり、もしかしたら同一の発生源があったのではないか、イエスは数多くの予言者または「義の教師」の一人に過ぎなかったのか、などの疑問点が死海のほとりの洞窟で発見された紀元前の文書によって浮かび上がってきたのである。

イエスのミステリーイエスのミステリー * 高尾利数・訳 * NHK出版  ( Barbara Thiering; Jesus the Man ) * ISBN 4-14-080144-1 C1016 01/18/00

死海文書によって明らかになったことから、オーストラリアの学者が構築したイエスの一生。ペシャル(注解)という独特な古文書の読み方によって自信たっぷりに展開される物語は、クムラン教団に属するイエスは、ダビデ王の系統に属し、マグダラのマリアと結婚、十字架刑のあとでは息を吹き返し、パウロらと共にローマまで行き、影の人物として70を過ぎるまで生きたのだという。クリスチャンが読んだらびっくり仰天するあらすじである。

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@死海文書の謎 * 高尾利数・訳 * 柏書房 01/21/00 ( Michael Baigent and Richard Leigh ; The Dead Sea Scrolls Deception ) * ISBN-7601-0889-0 C0016

死海文書の謎死海文書が発見されたとき、その保管は一部の学者たちに任せられたが、彼らは文書の内容が世間に広まり、キリスト教の教理が崩れるのをおそれたためか、他の学者たちに原本を手渡すのを拒否し、また出版も無期限に延期している。イエスの活躍した時代を史的に研究しようという試みはそのために頓挫してしまっているのだ。確かにこの文書をたどると、イエスの教えとクムラン教団との類似、パウロがイエスが意図したのとはまったく違った宗教を作り上げてしまったことなどが明らかになってきた。福音書もつぎはぎだらけだということらしいが、この2000年の間、人々の心の灯火になってきたことは事実だから、真理が含まれていることは確かだ。

国家語をこえて * 田中克彦 * 筑摩書房 * ISBN 4-480-85519-X C0081 00/02/17

言語学の研究者が、自分の専門にとどまらず、社会事象や歴史、他の言語との勢力関係について考えながら書いたエッセイ集。中でも「英語の呪縛」という部分がおもしろい。確かに現代世界は、出世、金儲けをするためには、英語は欠かせないが、「文化」の点では世界中の多様性を片っ端から破壊しているのではないか。どんな弱小言語でも大言語と対等につきあう方法の提案がおもしろい。聞くときは「相手の言語」で聞き、話すときは「自分の言語」で話すというアイディアだ。また、国連でもやっているように、英語一本槍にしないで、いくつかの「基幹言語」を用意しておくというのもよい。

イエスは仏教徒だった? * 市川裕・他監修訳 * 同朋社・角川書店 00/02/22 ( Elmar R. Gruber and Holger Kersten ; Der Ur-Jesus = Original Jesus ) *ISBN4-8104-2567-3 C0016 

イエスは仏教徒だった?前からうすうすと感じていたことだが、はっきりと断言できるほどではなかった。しかし今こうやって様々な角度からの検証を読んでみると「なるほど」と思わざるを得ない。新約聖書の4大福音書の中から、奇跡やキリスト教独特の出来事を取り除き、イエスが直接民衆の前で語ったことに注目するとき、その内容が仏陀の語った言葉と酷似している点である。イエスは西洋に仏陀の教えを述べ伝えるために活動をしたのだという考えすらある。学問的な正確についてはいろいろ疑問もあろうし、この驚くべき考えを大声で述べれば、権威社会のことだから、宗教界ではもちろん、学界ではのけ者にされることは間違いないだろうけれども、それとは別に直感的に言って「真理」というものは地球上どこでも普遍であり、イエスと仏陀の考えが同じだとしても少しも不思議でない気がする。むしろ同じだったことでほっとするぐらいだ。分厚い本であるが、実際は全体の3分の2であり、残りの3分の1はこの本の監修者たちの解説である。

人間 池田大作ーわたしの見た素顔 * 木村恵子 * 潮出版社 03/25/00 * ISBN4-267-01544-9 C0095

創価学会の会長ほど、マスコミのさまざまな報道に隠されて、その本当の姿がわからない公人も少ないだろう。残念ながらこの本によってもはっきりわからなかった。筆者は学会員ではなく、外部の映画プロデューサーとして、インタビューや取材を行ったのだが、池田氏と出会った人の意見しか知ることができなかった。彼女の本人とのインタビューもごくわずかな会話のみである。「生きる道」を多くの人に伝えたということはよく分かるが、それだけに宗教とは個人の内面の問題だから、政治の世界には出ない方がいいだろう。政治の世界は元々泥をかぶらなければならないところだし、必ず他派との妥協を強いられるからだ。

The Greening of AmericaThe Greening of America * Charles A. Reich * Bantam Books 5/23/00

私の本箱・ベストセレクション参照

古代史を彩った人々 * 豊田有恒 * 講談社文庫 05/31/00 * ISBN4-06-185350-3 C0195

古代史を彩った人々日本の古代については、日本書紀など、ごくわずかしか資料がなく、その信憑性も怪しいものだ。そのすき間を埋めるのは、著者の想像力と歴史的センスしかないのだろう。元々日本史の知識が乏しいこともあって、ついこの本に飛びついてしまった。学者の間に異論があろうが、かえってその論争が、古代へのロマンを燃え立たせるのも事実だ。朝鮮半島、新羅の国の英雄、キムユシンの活躍の話、坂上田村麻呂の東北への出陣、空海の天才的宗教活動の話が実に興味深い。

金融腐食列島(上・下) * 高杉良 * 角川文庫 06/07/00 * ISBN-04-164306-4 C0193 ISBN-04-164307-4 C0193

1990年代前半のバブルの時期は、日本の金融界が狂ったとしか言いようのない、不正融資をはじめとする混乱期であった。そのとばっちりは10年たっても未だに消えないでいる。これはある銀行(実在する複数の銀行の悪行を一つにまとめたと言っていい)でのバブル・パージで最終的に会長がその職から追われる物語だ。主人公は竹中といい、金まみれの中で、格好がいいというわけではないが、一人悪に屈しない快男児?として描かれている。この銀行に勤め、会長の娘の乱行の後始末をする任務を負わされてしまった竹中からみて、会長以下がいかに不正融資と背任を重ねたかが克明に描かれる。いずれはこの時代についての一種の歴史小説となるであろう。

娘心にブルースを娘心にブルースを * 原由子 * ソニー・マガジンズ 06/13/00

サザン・オールスターズ桑田佳祐の夫人による著。たいていアイドルの書いたものはくだらないのが多いが、これは特別良い。彼女の幼少時の思い出から、青山学院大学での音楽や仲間との出会い、現代に至るまでを簡単な文体ながら、少しも気取らず素直に書きつづっているのに好感が持てる。タイトルは桑田が最初に作った思い出の曲だという。

豊かさの精神病理 * 大平健 * 岩波新書 06/14/00 * ISBN4-00-430125-4 C0247

日本がアメリカと並んでこれほどまでに大規模な消費社会に育ったのは、その国民性の中に「モノ」をすべてに代えて尊重する雰囲気が昔から強かったからではないか。著者は精神分析医だが、バブル時期に急増した軽症患者の「身の上相談」にのっているうち、人々が人間関係やそこから生じる葛藤を、ブランド品集めなどのモノに置き換えて、悩みや苦しみを軽減していることに気づく。貧しさにはそれなりの精神病理があるが、豊かさにもまた別のタイプの精神病理が存在することを示した、文明論。

燃えよ剣燃えよ剣(上・下) * 司馬遼太郎 * 新潮文庫 07/11/00 * ISBN4-10-115208-X C0193 ISBN4-10-11520-8 C0193

新撰組の中心人物、近藤勇、土方歳蔵、沖田総司の3人が武州の田舎から京へ出て、討幕派を駆逐しようとする。近藤は政治志向、土方は政治音痴、沖田は若くて方向が定まらない。だが新しく入った伊東によって、組織は崩壊寸前になり、明治維新と共に、彼らは江戸へ移る。だが近藤は斬首、沖田は病死し、残された歳蔵は、池田屋のなぐりこみ屋から陸軍奉行に変身し、会津、仙台、宮古、と北上し、最後に函館の戦いで壮絶な戦死を遂げる。果たして尊皇派が明治政府を作ったのは良かったのか?榎本率いる函館政府がもし実現していたら・・・だが旧幕派は「時勢」には勝てなかった。坂本龍馬のときに書かれていたのと同じく、「優れた人物はすべて維新前後に死に、残ったクズだけで明治政府ができた」のは本当かもしれない。

女たちよ!女たちよ!* 伊丹十三 * 文春文庫 8/4/00 * ISBN4-16-713101-3 C0195 (再)2023/10/11

すでに「再び女たちよ!」は読んでいる。これは大したことはないと思った。やはり2作目は良くないものだ。これに対し、さすが最初の作品は冴えている。料理、車、ファッション、いずれも現代では常識に近くなったものが多いが、これが出版された当時は目を見張るような独創的な話だったに違いない。だから今読んでもかなり読み応えがある。特にヨーロッパ滞在中から得た知見は、ただぼおっと当地で過ごした人にはとても思いつかないような観察が紹介されている。

気になった章:「死に至る病」「落第のすすめ」「勇気」取り上げていた映画:「何かいいことないかな子猫ちゃん」「アラベスク」「男と女」「スタンダールの恋愛論」「あの日あの時」「グループ」

日本国の研究日本国の研究 * 猪瀬直樹 * 文春文庫 08/11/00 * ISBN4-16-743108-4 C0131

明治以来、営々と築いてきた、政府とその周辺の組織は150年になろうとし、その複雑怪奇な組織は学者やジャーナリズムの研究怠慢のおかげで、少しも明かにされぬまま、今日を迎えた。その間に、大蔵省の目の届かぬ世界に、「補助金」、「特殊法人」、「公益法人」、「宗教法人」「財政投融資」といった様々な方法が、この国特有の虚偽と隠蔽工作によって、黒い金を生み出してきた。そのからくりは、この本一冊だけではとても明らかになるはずもないが、その研究の一端として、大いに80年代後期の行政改革に役立ったといえよう。問題なのはその後の不景気で、この改革の推進力は失われ、元の木阿弥になってしまったことだ。今、日本は2流、いや3,4流国への転落の道を突っ走っているし、もうそれは歴史の必然ととして、ローマ帝国の場合と同じように止めようはないが、後世の学者がこの国の衰退の原因を探るとき、この本は最も重要な資料の一つとなろう。

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日本文化の起源日本文化の起源 * 岩田慶治 * 角川文庫 09/07/00

日本人がどこから来たかをテーマに、インドシナ半島のカンボジア、タイの奥地に住む民族の調査の詳細である。顔つきはもとより、日々のさまざまな習慣、お祭り、服装に至るまで日本との驚くべき共通性が紹介される。それだけでなく、少人数の部族ながら、それぞれに独自の文化を持つという多様性も同時にも驚かされる。日本人の起源については最後まではっきりした結論は出ないものの、日本人の方は物質文明にとらわれて、それまで築き上げたものを捨て去り、インドシナもこれから急速な経済発展を経験し、山は伐採され、農業は衰退し、食い詰めて都会へ移動する彼らの将来像を思うとき、人類生活の「永続性」はどこに求められるのか考えさせられてしまう。

青年の山脈 * 村上兵衛 * 徳間書店 09/16/00

古本屋でふと見つけたこの本は何と昭和41年の発行。 「維新の中の生と死」というサブタイトルがあるように、坂本龍馬をはじめとする維新前後に活躍した若者たちが紹介されている。

このような歴史物は、発行年月の古い新しいは、歴史を書き換えるような大発見がない限り、全然関係ない。作者は学者で研究家であるらしく、次々と知らぬ名前が登場して読みにくいが、例の「維新の前に有能な者たちはみんな死に、クズだけが残って明治政府を作った」事がますます本当らしく思えてきた。

彼らの中で特に注目したいのは維新前に留学生として外国を見てきた者たちである。彼らは維新後まで生き延びるとほとんどが新生日本のそれぞれの分野のリーダーとして活躍している。中には吉田松陰のように、必死で密航を試みたのに失敗してしまった者もいるように、当時の若者たちは自分の暮らす狭い日本の外にどんな世界があるかを知りたいという情熱に燃えていた。

それにしても明治の始まりが、尊皇派によって始まったことは不幸なことだった。彼らのおかげで後の狂信的な一派を増長させる発端になってしまったからだ。しかも旧幕派との闘争の中で数え切れない若者が命を落としたのだから。徳川幕府内で改革を進めるという歴史的選択は可能だったのだろうか。榎本らによる函館での「共和国」設立の動きに考えさせられる。

ソ連の裏街道をゆく * 大宅荘一 * 文藝春秋新社 9/22/00

これも古本屋でふと見つけた本だ。大宅荘一氏の著作は戦後の日本で大変人気があったものだが、今ではその本を見つけることがむずかしくなった。

これは氏が戦後10年あまりしかたたないときにソ連の周辺国を見て回った貴重な記録である。それぞれ民族も文化も違い、ロシアとは一線を画している。そもそもウクライナとかグルジアといっても、完全な独立国家となった今でもなかなか知る機会がないものである。

氏の観察はいつでもおもしろい。詳しい客観的事実を述べながらも、自分の目で見た率直な感想を入れることを忘れない。日本の場合とうまく比較させて外国の風習を説明するやり方も見事である。

ソ連の受け入れ態勢がいいところしか見せないような態度であっても、氏はその裏にある官僚主義、非能率、その他の社会的不合理をしっかりと見ており、それは結局ソ連の崩壊に結びつくのだと納得させられる。

道中は通訳と一緒だが、常に政府の決めたところだけ見せようというのをおちょくって、ジャーナリストとしてのペースに巻き込もうとする氏の対応がおもしろい。

わら一本の革命わら一本の革命 * 福島正信 * 春秋社 09/29/00 (ホーム参照)

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<自然>を生きる * 福島正信 * 春秋社 10/02/00

「わら一本の革命」の中で語られた内容が、NHKの宗教番組担当者、金光寿郎との対談によって再び展開する。何度かに分けて行われたインタヴユーがそのまま収録されている。

特に自然の農法の希望の星である、「粘土団子」の作り方が詳しく載っていて、挿し絵まで付け加えてある。これを使って自分の住む山を緑化したわけだが、それがついに国連にまで引っぱり出されて世界の砂漠化防止のために役に立つことになった経緯が語られる。

だが、語り口の中には、現代文明の中にどっぷり浸かって、抜け出すことのできない人間たち(特に日本人)への深い絶望感が感じ取られる。どんなに自然農法に賛意を示してくれても、所詮、その考えを徹底できず、中途半端なまま行われることによって、現代の環境破壊が、根本的解決にはほど遠いことを思い知らされるのだ。

ネコと魚の出会いネコと魚の出会い * 西丸震哉 * 経済往来社 10/04/00 

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習俗の社会学 * 加藤秀俊 * 角川文庫  10/11/00

この本の著者は大学生の時、デビッド・リースマンの名著「孤独な群衆」の訳者として覚えていた。伝統志向、内部志向、他人志向の見事な類型化が当時、社会学への興味を開いてくれた。

再び古本屋で、この本を見るに及んで、すぐに読みたくなった。ただしこれは著者が学習院大学の社会学原論で講義した内容を本にあらためたものだから、内容はあまりにかみくだきすぎているきらいはあるが。

日本社会特有の現象を社会学の立場から説いたもの。社会学研究は西洋の理論に基づいて行うだけでなく、それぞれの国の持つ文化を考慮して見方を変えなければいけないはずで、その観点から中根千枝氏の考えにも少しばかり批判を加えている。

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男と女の子 * 吉行淳之介 * 集英社文庫 10/18/00

3つの短編集収録。「男と女の子」終戦後、会社を辞めたばかりの独身男が、てんぷら屋の娘と知り合うが、彼女がコマーシャルソングの歌手になったことから、はじめの初々しい存在から世慣れた女に代わってしまったことから二人の関係が気まずくなってしまった物語。「決闘」喘息が友だちから<うつされる>話。ある男から、自分の友だちへ、そしてその友だちから自分へ、アレルギー体質が乗り移ってくるのではないかと、不安におびえる主人公。「水の畔り」結核の病巣を抱えた主人公が、ある少女と知り合う話。

ブッダ * 手塚治虫 * 潮出版社 10/15/00 より 00/10/21 まで 

全8巻にわたるこの漫画は、ブッダの生涯の大まかを知るには格好の材料だ。作者は話をおもしろくするために、さまざまな人物を創造しているが、全体の流れを乱すほどではなく、むしろブッダの姿を浮かび上がらせるのに役立っている。普通の人の手の届かない神としてではなく、人間として悩むブッダがさまざまな苦難を乗り越えてゆくさまが印象的だ。

第1巻 野生児タッタの子供時代。親も親友も大国に殺され、復讐を誓う 

第2巻 シャカ族でのブッダの誕生と、出家に至るまで 

第3巻 苦行林での修行中のさまざまなエピソード 

第4巻 修行の続き。次第に賛同者が増えてくる 

第5巻 鹿野苑にて、動物たちでさえも説教を聞きに来る 

第6巻 大泥棒のアナンダがブッダの弟子となる。つぎつぎと聖者たちがブッダのもとへ弟子を連れて参加する 

第7巻 サーリプッダとモッガラーナが跡継ぎに ルリ王子の改心 

第8巻 祇園精舎がブッダに送られる シャカ族の滅亡 さらに各地を説教して回るブッダ 涅槃

一ぺんに春風が吹いて来た * 宇野千代 * 中公文庫 10/25/00

女流作家宇野千代の随筆集。91歳を過ぎてから書いただけあって、人生に達観しあわてず騒がず、自然のままに生きるさまが随所に現れている。

老人の読者向けに活字は大きく、自分の好きな食べ物とか、身の回りのごく些細なことでも楽しく、しかも生き生きと書いているのがいい。

この年になれば、何を書いてもどんなバカを言っても全く平気だという境地があるから、文章全体がのびのびとしているのだ。但しあまり年若い読者は退屈するかも。

動物紳士録 * 西丸震哉 * 中公文庫 11/01/00

これで西丸氏の著作も8冊目になる。今回の本は氏が今までに遭遇した動物たちの思い出だ。今と違って、自然界に生き物がうようよいた、古き良き時代の話。

その中にはヒルに血を吸われたり、ハゲワシによる死体の始末を見たり、巨大昆虫を試食する話もあって、普通の人とはひと味違った体験をしていることがわかる。それにしてもミミズクを飼っていて、父親が病気がちなのはそんな変な動物を飼うからだとくだらない迷信を親戚連中から言われて、渋々上野動物園へ引き取ってもらったところ、将来は園長になる若い職員に思いやりのない飼い方をされて死なせてしまうくだりが印象に残る。

管理職のエライサンになる人というのは、冷たい側面があることを思い知らされるし、そういう人に恨みを何十年も持ち続ける著者の感受性には大いに共感できる。

最後の解説が永六輔だというのがまたおもしろい。二人で食糧自給率100%の佐渡島を独立させる運動に取り組んでいるのだそうだ。日本国はこういう「変人」を常にはねつける。「いじめ」が学校に蔓延するのもおとなの世界のこういうところから起こるのだ。

生き物の世界への疑問 * 日高敏隆 * 朝日文庫 ISBN4-02-260658-4 C0145 11/29/00

動物行動学の元祖、コンラート・ローレンツの「攻撃」を翻訳したことで有名な著者が、自らの研究成果を振り返って、さまざまな疑問を投げかける。

特に昆虫が幼虫からさなぎを経て成虫へ至る過程の不思議さは、「変態」ということばのうちに片づけられていたこの不思議な現象が、新しい光を経て語られる。

実は、蝶の羽のあの微細な構造は実はすでに卵からかえったときからすでに存在していたということ。また、サナギというのは、エネルギーをため込むための期間であること。一日の日の長さが長くなったり短くなったりすることによって、冬越しをしたり、春に帰るための時間設定をしていること。

さらに後半の部分は、「進化」について、学界で当たり前になっている考えに、まだいくらもおかしい点があることを示唆している。ラマルクによる「獲得形質の進化」は本当に間違いなんだろうか?

生物学界でも「異端」となることは自分の地位を失うことになるから、はっきりと明言はできないのだろうが、お偉方の御高論にはいくらでもインチキ臭いところがあるものだ。

進化とは、本当に「後成」的なものなのだろうか?最初の生命の段階から、何億年も後にそうなるべくプログラム化されているという考えは間違いなのだろうか?

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私の映画の部屋私の映画の部屋 * 淀川長治 * 文春文庫 00/12/06

かの有名な、映画評論家淀川長治氏が、ラジオ番組でしゃべった内容を本にしたもの。あの口調そのままに文章化されている。映画をさまざまな角度から取り上げて実に興味深い解説をしている。

ここに紹介されているものはぜひ全部観たいが、あまりに粗筋の説明がうますぎて、観る前に彼がしくんだ「構え」ができてしまいそうだ。実際に作品を見たあとで、彼の文章を読む方がいいのだ。

遠くへ行きたい * 永六輔 * 文春文庫 12/10/00 ISDN0195-713201-7384 

もう20年も前にかかれたものだが、そのせいでまだ戦前から残っていた、地方のさまざまな魅力が語られる。特の著者の思い出の地は浅草である。その芸人たちの生き様は二度とかえることのない日本の古き良き文化の一部なのである。

この話の主題は旅だ。旅行なら目的地が必要だろうが、旅は「なにもないところ」でも出かけてゆくもの。旅先でも日常性がついて回る女性や老人と違い、旅を愛する人はひととき何もかも離れてさまようのだ。

ラジオの深夜放送で聴視者に語りかける著者は、自分によこす手紙の送り主に会いに、日本各地を巡り歩き、その人々を突然訪れる。高知に、小笠原に、松江に、札幌にわざわざ出向き、会えないこともあれば、一緒に釣りに同行することもやってのける。

一方通行のはずのマスコミだが、この人の手に掛かると、ラジオは特に深夜に日本列島の隅々まで、電波が弱いために音の悪いラジオに耳を押しつけて聞く人々とは、深いコミュニケーションが成立することを教えてくれる。

本書にあるとおり、大災害があれば、最後に残るのは新聞やテレビではなく、ラジオであろう。このことは阪神大震災でも証明されている。

世界の歴史がわかる本(2)ールネッサンス・大航海時代・・・明・清帝国 * 綿引弘 * 三笠書房 00/12/15 ISBN4-8379-0591-9 C0121 

歴史の見方には、さまざまな角度があって、高校で教わる教科書の歴史観が、すべてではない。例えば、オスマン・トルコが中東地域を占領したために、ヨーロッパ人は、アジアへの道を求めて、アフリカの南端を回ることを考えたという通説は、必ずしも正しくないそうだ。

アメリカでのインディアンへの迫害、日本人や中国人労働者の搾取、フランスが自国の民主化を進める一方でアルジェリアを搾取したこと、イギリスの政策で、数え切れないインド人が餓死や病死をしたことなど、これらの事実を小さく取り上げるか大きく取り上げるかで、世界像はまるで変わってしまう。

ナチスのホロコーストは誰でも認める凄惨な虐殺だが、これに匹敵する事件は、世界の歴史に数限りなくある。ただ、正確な犠牲者の数がわからないことや、それを語り継ぐ人や、証拠となるものすら残っていないために、大きく取り上げられないだけなのだ。

学校時代に習っていながら、長年の間に抜け落ちた知識を補ったり、当たり前だと思いこんでいたことを考え直すには、この本は格好の材料となる。

貧乏だけど贅沢 * 沢木耕太郎 * 文藝春秋 00/12/29 ISBN4-16-354820-3 C0095

ユーラシア大陸を南回りでバスで香港からロンドンまで旅した記録「深夜特急」の著者、沢木耕太郎が、今までに行ったインタヴィューを集めたもの。対談の相手によって内容におもしろさの差はあるが、必ずしも対談相手にだけしゃべらせているのではなく、自分の旅の体験や好みの話も十分に交えて進めている。

よく手を加えられた、出版原稿と違い、話があちこちとぶ対談形式もたまに呼んでみるのもおもしろい。井上陽水や、高倉健との対談で、今まで見えなかった彼らの部分が少し明らかになった。

著者が気に入っている、バカラ賭博は何かおもしろそうだ。また、何と言っても旅の本質について、それぞれ各人が実に違った考え方や立場を持っているのを知らされる。

ガイドブックを持たない、地図も持たない、何かを引き起こすのでなく、何かが起こるような国々(それはいわゆる開発途上とか、後身国とか呼ばれるが)に出かける。

お金を使って贅沢に過ごすのでなく、貧乏で贅沢に時間を過ごすというのが著者の考えだろう。(対談者がみなその考えに同感というわけではない。)

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