わたしの本箱

コメント集(20)

  1. 前ページ
  2. 文学入門
  3. ライ麦畑でつかまえて
  4. フレンチ・パラドックス
  5. ティファニーで朝食を
  6. Country Driving (疾走中国)
  7. これでいいのか世界史教科書
  8. Adventures of Tom Sawyer
  9. 新版・商法入門
  10. あー!もったいない
  11. 三浦家のいきいき長生き健康法
  12. ハックルベリー・フィンの冒険
  13. スプレー号世界周航記
  14. ナポレオンと言語学者
  15. The Help
  16. Sorbonne Confidential
  17. 日本語相談(1)
  18. フライブルグ環境レポート
  19. 供述によるとペレイラは・・・ Pereira Maintains
  20. シャーロック・ホームズの冒険
  21. たった一人の反乱
  22. 古代への情熱
  23. キズ・ヤケドは消毒してはいけない
  24. お金は銀行に預けるな
  25. 南方郵便機
  26. 夜間飛行
  27. 人間の土地
  28. 次ページ

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文学入門 * 伊藤整 * 光文社カッパブックス * 2010/05/06

発行が昭和29年とあり、同年に出てこれは12刷目である。これほどのベストセラーを記録したわけだが、戦後の復興時代に人々が文学についての指南書を大いに求めていたということは、21世紀初頭のこの停滞した時代を考えてみると、きっと世の中がすべて前向きに進んでいたのであろう。

小説と、詩、そして記録文学のように大雑把に分けると、文学は他の芸術、つまり音楽や美術と同じく、その時代の影響を大きく受けるようだ。封建時代には人々はがんじがらめの枠の中で暮らし、その状況が反映したのが、きちんと型にはまった物語、定型詩などである。

これに対して近代社会になると、人間の自由が前面に出され、形式が取り払われて自由な表現、革新的な表現を求めるようになる。しかし、さらに近代社会が進み、人間のエゴが前面に押し出されると、理想を求める作者はその表現に行き詰まりを感じ、あらたな分野を模索しなければならなくなる。

一般に古典文学における力強さは、一作家だけの手によるものではなく、それまでの伝承、伝説などをうまくまとめ編集したものであるため、かえって生の人間の姿がはっきりとあらわされていることによるらしい。一方、現代の作家は自分の体験、才能の範囲内で、すべてを一人で製作するため、その人間の限界がそのまま作品に現れがちである。

日本の近代文学は源氏物語などの古典の時代とは異なり、自らの体験をあからさまに発表してそこに真実を求めようとする私小説の流れが主流であった。これらは個人的な体験が主になっており、いわゆるタテの流れの中に位置づけられるものが多く、西洋における、社会関係を重視するヨコの流れが乏しいことに特徴がある。

芸術は文学に限らず、音楽も美術も人間の表現欲の現れであり、しかも単なる自然界や人間界の模写ではなくて、自らの思想に裏打ちされ、ある一定のパターンにはめ込まれた、文字やキャンバスや楽器の上に”転移”されたものなのである。

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ライ麦畑でつかまえて The Catcher in the Rye * J.D. Salinger * 野崎孝・訳 * 白水社・ Penguin Modern Classics * 1971/01/03 1976/10/06 2010/11/30

主人公ホールデン・コーンフィールドは、兄は作家でハリウッドにおり、両親のいるニューヨークでは、すぐ下の弟は白血病で最近亡くなり、一番下の妹フィービーはまだ小学生だ。ペンシー高校の生徒だったが、極度の学力不良と授業をサボるなどしてついに、このクリスマスに退学となった。話はその最後の夜、寮から出発するところから始まる。

ペンシーの自分を心配してくれた歴史の先生、寮の友達と会い喧嘩し、そして雪の中をとび出して、実家のあるニューヨークへ戻る。駅の待合室、列車の中で人々と会い、そしてニューヨークに着くとすぐに家に帰るのはいやなので、ホテルに部屋を借りる。ホテルの部屋から売春婦を呼び出し、そのヒモに殴られる。

翌日、かつての女友達を電話で呼び出して映画を見たりするが、喧嘩別れになり、先輩と酒場で会うがしたたか酔って、わけのわからないまま別れる。一文無しになり、ついに自分の家に深夜帰ってみるが、両親はパーティに出かけていてまだ帰らず、寝ているフィービーを起こして話をするが、両親が帰ってきたので、彼女から金を借りて再び外に出る。

前にいた高校の恩師、アントリーニ先生のお宅に伺い、自分の顛末を相談するが、ソファーに横になったあと深夜、先生が自分の頭をそっとなでているに気づき、びっくりして外に逃げ出す。そのころには睡眠不足と酔いによる過労が重なって気分が悪くなってきた。もううちに帰るのはよして西部にでも逃亡することを思いつき、別れを告げるためフィービーを博物館に呼び出す。

フィービーは自分も連れて行ってくれといってきかない。泣きわめく妹についに根負けした彼は、家に戻ると約束し、なんとかなだめて動物園まで行き、機嫌を少し取り戻したフィービーが回転木馬に乗っているのを眺める。おりから土砂降りの雨になったのだが、ここで初めていやな気分が晴れ、少し楽しい気持ちになったのだった。

ホールデンが何度も高校を退学になるのは、アントリーニ先生が言っていたように、単に怠慢だとか、やる気がないというのではない。何か周りとかみ合わないのだ。すべての人々、生活、精度、習慣、権威者たちはすべてが”下心”を持っているようであり、、彼にとって我慢できない存在に見えてくるのだ。

※原書・翻訳並列読みによる

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フレンチ・パラドックス * 榊原英資 * 文藝春秋 * 2010/12/02

フレンチ・パラドックスといっても、これはフランス人が肉や脂肪をとりながら、肥満が少ないという、あの話ではない。これは経済の話である。日本がアメリカの真似をして、小泉政権以来、小さな政府、自由市場任せの政策をとった結果、高齢化ともあいまって、悲惨な老国になってしまった。

これを解決するには、何か適当なモデルを見つけ、そこから日本の進むビジョンを作り出していかなければならないが、筆者がここで取り上げたのは今回の金融ショックにも強かった、フランスの国のあり方である。

この国は”かくれた社会主義国”と呼ばれるほど貧富の差が少ないが、それは初めからそうなのではなく、重い国民負担のもとに、富裕者からの富を、国民全体にうまく再配分してきたからである。

アメリカが、金融界の暴走によって大変な目に会い、貧富の差は開発途上国並なのに対し、フランスは、何とかEUのなかで内需中心、国営企業の重視、地方分権、巨大な公的セクターなどを特徴としてやってきている。

日本はようやく自民党の単独政権が終わったことだし、新しい政権は、ここで大きなビジョンを掲げ、国債を恐れずに発行して財政支出を大幅に増やし、子ども手当てや社会保障、特に若年層への考慮を深めて、少子化を克服していかなければならないだろう。国家の将来は、その小国民が背負っているのだから。

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Breakfast at Tiffany's ティファニーで朝食を * Truman Capote * 村上春樹訳 * A Signet Book ・新潮社 * 2010/12/26

作家志望である”私”とニューヨークの同じアパートに住むホリー・ゴライトリーはアパートの鍵をなくしたといっては彼の部屋に飛び込んできた。真夜中に大勢の男たちを自分の部屋に連れ込み、大騒ぎをしたり、ある日突然いなくなって、「旅行中」の札がかかっているだけであったり、年齢不詳だが、20歳前後であろうホリーは、まったくの謎の女だった。

彼女の兄がフレッドというために、私もその名で呼ばれ、小さなバーの店主であるジョー・ベルと共に、彼女のかくれたファンになる。部屋には、オスネコを飼っているが、お互いを”所有”しないということで、名前がつけられていない。家具はベッド以外にはほとんどなく、いつでも旅立ちができるようにスーツケースがおいてある。しかしいったいどうやって生計を立てているのか見当もつかない。

ホリーはニューヨーク社交界の”花”なのか?私は、彼女の部屋への常連客とも知り合いになる。ブラジル人の外交官ホセ、アメリカ人の大金持ち、近くに住む背の高いドモリのモデルらがそれだ。大金持ちとモデルは結婚してしまった。ホリーはまた、週に一度、刑務所に入っているサリーという謎の男を”慰問”している。そうするとあとからサリーの弁護士から金が送られてくるのだ。

そこへ田舎から、一人の老人が訪ねてきた。ほかの家族に死なれ飢え死に寸前だったホリーとフレッドを引き取り、ホリーを自分の”幼な妻”にした男だ。数年前にホリーが家出をした後、ようやく居所を見つけたのだ。だが、いまさらホリーは大好きなニューヨークを去って帰るわけにもいかない。仕方なく老人は戻っていった。

貧困の少女時代を送り、家出のあとはさまざまな苦労をしたであろうホリーは、ティファニー宝石店のような、不幸の微塵も感じられないような場所が一息つけるところなのだ。できたらそこで朝食をとることも夢なのだ。

私は彼女の生活や生計のことで、ホリーと仲たがいをして口も利かなくなった。そこへ、実兄フレッド戦死の知らせ。ホリーは部屋中をめちゃくちゃにして絶望の中に落ちた。そしてしばらくは付き合いも外出もやめていたが、いよいよホセとの結婚をするということになって、大事件が持ち上がった。

刑務所のサリーが麻薬組織の親玉で、ホリーは彼の”指令”を外部に伝えるために訪問していたというのだ。新聞に大々的に取り上げられ、証拠不十分でだったものの、彼女はもはや今までのようにニューヨークの社交界で”活躍”することができなくなってしまった。そしてこの事件をきっかけにホセも逃げてしまう。

どうやらこの事件は、当局がサリーにあらためて麻薬関係の摘発を行うために、ホリーに虚偽の証言をさせるために利用したことから起こったらしい。でも彼女は自分によくしてくれた人に対して、そんなことは決してしない、自分の行動のものさしは自分に対してどう扱ってくれたかによるのだと、はっきり言う。

花嫁としてブラジルに行くのに使うはずだった航空券が残っていた。ホリーはニューヨークから高飛びをすることを決心する。私は彼女の荷物をまとめる手伝いをし、ホリーはネコを逃がしたあと、アメリカから姿を消す。私は、そのあと猫が新しい飼い主を見つけたのを見て安心し、ホリーもまた世界のどこかで幸せを見つけて暮らしていることを願うのだ。

<付属短編>

花盛りの家 House of Flowers :山の中から、ハイチの中心都市にやってきたヒロインは、売春をして楽しく暮らしていたが、結婚相手を見つけて再び山の中で暮らす。姑のいびりやつらい生活にもかかわらず、街に逃げ帰ることもなく強く生きていく。

ダイアモンドのギター A Diamond Guitar :刑務所の古参の男は、新しく入所してきたガラス飾りのついたギターを巧みに弾く若者と親しくなる。いっしょに脱走を試みるが自分は失敗して再び無期懲役の生活が続く。

クリスマスの思い出 A Christmas Memory ;7歳だった自分を可愛がってくれたおばさんは11月になると張り切ってフルーツ・ケーキを創り始める。自分も手伝ってクリスマスまで楽しい毎日が続いた楽しい思い出。

※原書・翻訳並列読みによる

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Country Driving ; A Journey Through China from Farm to Factory (疾走中国) * Peter Hessler * Kindle Books (Amazon) * 2011/06/07

日本語では白水社から「疾走中国」というタイトルで出版され、雑誌「ニューヨーカー」に書いている著者が、中国に10年近く住み、次々と建設される高速道路を利用しながら、この国の急速な経済発展の中に生きる人々の姿を描く。

第1部は、万里の長城に魅せられた著者が、城壁に沿い、レンタカーを駆って内モンゴル近くまで運転し、途中の町や人々の生活が紹介される。

第2部では北京の北のほうにある農村地帯に家を借り、その大家一家の生活ぶりや、次第に北京の近郊として変容していくさまを伝える。

第3部では、南のほうに移り、政府によって進められている工業団地の中で、ブラジャーのホックを生産するために悪戦苦闘する起業家たちの姿を伝える。

著者は中国語が極めて堪能で、ここに登場する人物達は、ていねいに描かれ農村部から、あまりに急激に引き出され都会の工場労働者として新しい生活を始めてゆく人々の生活が、日頃中国政府によって代表される中国とはまったく違った面を知ることができる。

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これでいいのか世界史教科書 * 謝世輝 * カッパサイエンス(光文社) * 2011/06/24

いろいろな種類の高校生向けの世界史の教科書が出版されている。人類の歴史の最低限の範囲をきちんと押さえるということは、視野が狭く内向きの人間の増えた、今日この頃では非常に重要な仕事だ。

今まで多くいわれてきたように、世界史といっても欧米の歴史がどうしても中心になってきた。ルネッサンスとコロンブスのアメリカ大陸発見が、まるで人類の転換点であるように、まことしやかにいわれてきたのは事実である。

人類の誕生以来、無数の”帝国”が生まれ、それらが世界の主流となった時期があった。研究も進んでその実態も、かなり昔であっても明らかになってきたものも多い。ヨーロッパの歴史だけがすべてではなく、その前のイスラム帝国、トルコ帝国の果たした役割、シルクロード沿いの国々における文化や商業の発展などにもっと力点が置かれるべきである。

あらゆる勝利や繁栄には、必ず影の部分がある。富者がいるということは、貧者がいることであり、勝利者がいるということは、虐殺されて者がいるということだ。人間が基本的に残忍で殺人が大好きだということは、あらゆる国民にほぼ等しく見受けられる現象であり、いかなるすばらしい文明の説明も、負の部分の記述なしには完成したとはいえない。

現代史については、21世紀も10年以上すぎた今、第1次世界大戦は遥か昔のこととなり、第2次世界大戦の終わり、つまり1945年がその出発点とするべきだろうし、さらに時間を下り、ソ連崩壊の時期を区切りにしてもいいくらいだ。アメリカの超大国としての存在もそろそろ終わりを告げ、中国やインドのような国々の繁栄による、多極化へ向かう時代である。あまりに急速に変化していくので、歴史家はこの方面に足を突っ込むことに臆病になりがちであろう。

世界の主流は、常にバトンタッチして引き継がれてきたことを忘れてはいけない。そのたびに価値が変わり、社会構造が変わり、最も重要なことが変わってきたのである。「木を見て森を見ず」という警告がこれほど現実味をおびえている分野はない。教科書の編者は100万年も生きた人であるかのように振舞う必要があるのだ。

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Adventures of Tom Sawyer トム・ソーヤーの冒険 * Mark Twain * Gutenmark software * 2011/07/04

この本は、少年向けの小説だとしても、次に続く「ハックルベリー・フィンの冒険」のもとを作るうえで非常に大切な作品である。というよりは入門編”とでも言うべきか。トムはミズーリ州の小さな村に住む、いたずら好きな少年だが、次々と人々をあっと言わせるようなことを思いつく、”行動人”である。

おかげで溺れ死んだと思われて、自分の葬式が行われたり、洞穴では行方不明になってこれまた死んだとあきらめられたりして村中を騒ぎに巻き込む。その天衣無縫ぶりは何かにつけてまじめな弟のシッドとは見事に対照的である。最後には見事に埋められた財宝を見つけ出してこの話は終わっている。

ところが自然児で、親友ハックは後半あたりから次第にその重要性を増していき、ついにはトムと主人公を交代する寸前までになる。なぜなら、トムはいかに自然の中で遊んでいても、背景には確乎とした”文明社会”が支えているからだ。これに対して、ハックのほうはいったん金持ちの未亡人に引き取られるが、自由な生活にあこがれて逃げ出してしまう。これが次の作品への伏線になるわけだが、そこには明らかに白人の作り出したヨーロッパ風、キリスト教風、規則正しい生活を重んじる態度などからの解放の気持ちがにじんでいるのだ。

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新版商法入門 * 佐賀潜 *改訂著 麻生利勝 * カッパビジネス光文社 * 2011/07/11

大正3年生まれの佐賀氏は、その名著が今になっても通用する。通用するどころか法学部の学生でさえも、大学の授業では寝ていたが、この本を読んだらすぐに理解できたと感激するくらいなのだ。

それにしても法律とは、特に商法というのは、まず人間不信、人間性悪論から出発しているといわねばならない。ちょっとでも目を離せばたちどころに泥棒となり、強盗となるのが人間であるという前提に立って、商法は組み立てられ、常に改訂されてきた。

社会的混乱と、個人がむやみやたらに損害をこうむることのないように、かといって身動きできないほど法律に縛られることもなく、経済がうまく機能していくためにはどうしてもすぐれた商法が必要であり、また同時にそれを個人がしっかりその内容を理解しておく必要がある。

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あー!もったいない 魚柄仁之助の料理帖 * 魚柄仁之助 * カッパブックス・光文社 * 2011/07/18

普通の料理の本と違い、まずは台所の残り物の始末から話は始まる。インスタント物や、外食の好きな人には縁のない話だ。冷蔵庫を探検すれば、人間は工夫次第で、食品のさまざまなコンビネーションを作り上げることができるのだ。

もちろんそのためには、”センス”が必要で、醤油にあんこを混ぜる発想ではもちろん”台所レスキュー隊員”はつとまらない。また、どんな工夫でも、その基本は伝統的な料理で定まっている部分を使っていることがわかる。単なる思い付きでは人を喜ばすことのできる一品は生まれないのだ。

同じ著者による、「ひと月9000円の快適食生活(飛鳥新社)」も必読。

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三浦家のいきいき長生き健康法 * 三浦敬三・三浦雄一郎・三浦豪太 * 廣済堂出版 * 2011/07/22

親子三代にわたる、超人的な活躍は、どこに秘密があるのか?特に祖父の場合に100歳でスキー滑降を行うほどの体の強さは、どのようにして得たのか?大々的な方法があるわけではなく、毎日の生活で、欠かさず絶やさずにトレーニングを続けてきた賜物であろう。

また祖父において妻の死後、自分で食事を作るということはボケを防止するのに大変役立ったようだ。息子の場合、65歳になってそれまでの飲み食い放題の生活で太ってしまった体から一転して、トレーニングを始めてエベレストに登るまで、やはり毎日の生活でのちょっとしたトレーニングがものをいったようだ。たとえば手首やくるぶしに、それぞれウェイトをつけることや、仕事場にも重いリュックをしょって出かけることなどが挙げられる。

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Adventures of Hucleberry Finn ハックルベリー・フィンの冒険 * Mark Twain * Kindle Books *2011/08/10

これは「トムーソーヤーの冒険」の続編。トムと、ハックが洞穴の中に財宝を発見したところから始まっている。二人は大金持ちになったけれども、ハックは丘の上に住む未亡人によって”きちんとした教育”をうけるはめになり、読み書きを覚え、学校に通うようになったが、本来の自由な生活に戻りたくて仕方がない。

トムとの山賊ごっこにも飽きたハックは、呑んだくれの父親に捕まり、金をせびられて監禁される。一計を案じ、自分が惨殺されたように見せかけることに成功して脱出あと、ミシシッピ川の無人島に逃げこみ、そこで逃亡奴隷のジムと出会う。

当時のアメリカ中西部や南部では、黒人奴隷は持ち主に返されなければならない、れっきとした所有物だった。だが、ハックはジムという一人の人間を認め、二人で川を下って自由を求めてゆく。奴隷の逃亡を助けることは、罪だと知りながら、ハックはジムを助けるためならば「自分は地獄へ行こう」と決心する。

社会制度や常識を超えて、自分の正しいと思うことを実行するという点が、この物語を傑作にしているのではないか。この後、川沿いで、二人は陰惨な事件に次々と出会う。それは「トムソーヤーの冒険」とは違い、大人向けのほんとうの「人生の経験」といえるものばかりなのだ。

それが最後になって、二人の詐欺師から逃れたのはいいが、偶然にも叔母の家を訪れるトムと出会ってしまい、ジムを逃亡させる企ては、トムの「ごっこ」に巻き込まれてしまって興ざめだ。せっかくの傑作が、最後のところでトムのつまらない計画によって、台無しになってしまった。ハックはトムの知らない間に、人生の現実を次から次へと目の当たりにして、もう少年時代の遊びからはすっかり卒業していたのだから。

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Sailing Alone around the World スプレー号世界周航記 * Captain Joshua Slocum * Kindle Books * 2011/09/24

「スプレー号」とは「飛沫号」とでもいうべきか。初めてヨットで世界を単独周航したスローカム船長はアメリカ人で、19世紀の人だ。普通の人なら定年退職する歳になって、ボロ舟を大改造し、ボストンの近くの港を出発して大西洋を横断してジブラルタル海峡へ。再び大西洋を南西方向に進んで南アメリカ大陸の先端、ホーン岬を通過、太平洋に入って、シドニーに到達し、そこから北上してオーストラリアとニューギニアの間を西に進み、インド洋へ入ってマダカスカルに到達。その後南下して喜望峰を回り、西アフリカの沖合いを通って再び大西洋を渡り、ボストンに戻ってきたのが3年後。

今でこそシングルハンドのヨットマンはいくらでもいるけれども、何でも最初にやってのけてしまった人は、常に賞賛の的になる。どんなに嵐がひどくても、まるでなんでもないといった気分をあふれさせた筆致は、まさに海の男のもの。世界中、特に英語圏で大歓迎を受け、講演をすることによって旅費の足しにしたり、大勢の友達を作ったりして豊かな旅をした。しかも人生の最後は愛艇と共に行方不明になるという、これ以上望めない一生であった。

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The Linguist and the Emperor ナポレオンと言語学者 * Daniel Mayerson *Kindle Books * 2011/12/31

ナポレオンが、エジプトに攻め入ったとき、多くの考古学者や画家たちを引き連れていった。この戦役は結局イギリスによってうちやぶらっれ、ナポレオンはフランスに戻ったが、同時代に、シャンポリオンという異色の言語研究家がいた。小さいころから興奮しやすく、何かに没頭するたちだったが、その興味は古代エジプト文明に向かった。研究は、体力をすり減らし、貧困に苦しみながらも、兄の援助によって何とか暮らしている状態だった。

彼の古代言語に関する知識はすさまじく、コプト語などを知り抜いていたから、ナポレオンの軍隊が発見した「ロゼッタ石」の解読に取り組むと、ほかの学者がかなわないほどの博識と、想像力、そして学問手金情熱を注いだ結果、ついにあの象形文字の謎を解いたのだった。エネルギーを使い尽くしたせいで、早死にをしたが、彼の功績は不滅のものとなった。河出書房新社からも邦訳が出たことがある。

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The Help * Kathryn Stocket * Amazon Kindle * 2012/02/19

ここでの The Help とは家政婦のこと。1960年代、ケネディ大統領やキング牧師が暗殺された怒涛の時代にあった、ミシシッピー州、ジャクソンの町の出来事。綿花農場主の娘、スキーターは自分を可愛がってくれた黒人の家政婦、コンスタンティンがある日突然姿を消してしまったことから、その謎を解こうとする。

大学を出たばかりのスキーターは、文章を書くことが好きで、何とかもぐりこんだ地元の新聞社で「掃除のコツ」についての連載を書くように言い渡される。大学時代の友だち、エリザベスの黒人家政婦、アルビリーンに頼み、原稿のネタを教えてもらう。

さらにアルビリーンの友だちで家政婦のミニーとも知り合い、スキーターは急速に南部の黒人家政婦の実態に興味を持ち始めるのだった。当時、白人の雇い主と、黒人家政婦は別々の便所を用いなければならないというような状況が彼女に本を書き始めさせる発端となる。

就活の一環として出した手紙のうち、ニューヨークにある大出版社の編集者、スタイン女史の励ましを受けて、スキーターは家政婦たちの生活と意見をまとめた本を書こうと決意する。はじめは誰も相手にしてくれなかったが、アルビリーン、ミニーの賛同と協力を得て計画は急速に進んでゆく。

だが、保守的な南部の風当たりは強く、大学時代の親友ヒリーに自分の持っている法律関係の本を見られ、黒人解放運動にかかわっていると疑われてしまう。ついには社交界の女性たちに、あらゆる活動から村八分にされてしまう。だが、ばれることを懼れながらも、次々と家政婦たちにインタビューをおこない、次第にスキーターの本は形を見せてきた。

仲間からのいやがらせ、母の癌、恋人が離れてゆくという、次々と苦難にあいながらもスキーターの本はようやく完成し、スタイン女史のもとに届けられる。原稿は出版が決定し、ジャクソンの町にも届けられるが、匿名や変名を使ったにもかかわらず、今度は家政婦の雇い主である白人女性たちに、”著者”や”協力者”を知られてしまうという悪夢におびえることになる。

だが、その懼れは、自分達の恥部が世間に知られることを恐れた白人女性たちのために、杞憂に終わった。アルビリーン、ミニーらは失職するという痛手は受けたものの、スキーターはニューヨークの出版社に就職先が決まり、アメリカの自由民権運動の高まりと共に新しい時代の幕開けが感じられるのだった。

南北戦争では決着しなかった、白人の黒人に対する差別感情が登場人物の間に強く現れている。一方、そういう差別意識をまるで持たない白人や、病気や不幸になった黒人に対して誠意を持ってあたる白人もいることもていねいに描かれている。20世紀中葉におけるアメリカ南部白人の克明な記録というだけでなく、人間の持つ醜さと美しさを描いた傑作といえる。

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Sorbonne Confidential * Laurel Zuckerman * Amazon Kindle * 2012/03/10

フランス人男性と結婚し、パリの郊外に住むアメリカ生まれの著者は、コンピュータ会社をリストラされ、フランスの教員資格をとろうと決心する。最初自分が英語のネィティブだから、軽く選抜試験を突破できるだろうと楽観していた。

ところがソルボンヌ大学の教員養成講座に出席してみてびっくり。フランス語による英語の古典の分析、英訳、フランス語訳、論文作成、等々、実際の教室では何の役にも立ちそうもない科目を次々と勉強させられる。しかも教授の評価は、いずれも最低点すれすればかり。

自分よりずっと年下の同級生たちに勉強のはかどり具合を聞いてみても、特別に優秀な学生たちは別にして、たいていは授業の内容を満足に理解していないようだった。何でこんな極端に難しい科目を勉強しなければならないのか?それは一生の仕事が保障される、公務員としての教員に対してあまりに多くの志願者が殺到するためだという。

一年たち、いよいよ最終試験を著者は受けた。だが、結果はアウト。自分のこれまでの職歴を考えても納得がいかない結末に、著者は調査を開始する。試験の管理を行う官公庁に問い合わせ、同級生のその後について追跡し、フランスの学校における教職員の状況について考察する。

結果は、旧態依然たる選抜方式と、不透明な人員選抜や異動がまかり通り、教員の教授能力についてはほとんど考慮されない実態が明らかになった。しかしその後もほとんど大きな改良が加えられることもなく、このシステムは現在に至っているようなのだ。タイトルは「ソルボンヌの内部秘密」。

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日本語相談(1) * 大野晋・丸谷才一・大岡信・井上ひさし * 朝日新聞社 * 2012/03/19

この本の第1刷が出たのは1989年、だから週刊誌紙上に連載されたのはさらに前のことになる。だが、この試みは斬新であった。なぜなら日本の小中高では国語はあっても、”日本語”の学習が事実上存在しないからだ。作文のテクニック、弁論で相手を印象付ける方法、英語など外国語と関連させた文法、いずれも学ぶことなく卒業証書を手渡される。

このため少しでも語学的な興味を自国語に寄せるものにとっては、常に欲求不満の状態に置かれていた。そこに本書の企画が出現したのである。読者からの質問に、4人が答える形式になっている。身の上相談のように多様で、今まで気づかなかったような疑問が取り上げられ、原稿用紙3枚半ぐらいの分量で答えが出されている。

小学生から英語を教えることを考えるより、自国語で正しく自分の意見を発表できる能力を目指すならば、このような形式の連載は、人々が日本語を使用し続ける限り続けられるべきであろう。この本が(1)となっていることからわかるように、続編も出ているし、4人の一人ひとりが書いたものもあるが、残念ながらそのほとんどは「絶版・重版未定」となっている。

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フライブルグ環境レポート * 今泉みね子 * 中央法規・SymBooks * 2012/03/27

このレポートは西暦2000年以前の状況について述べているのであるが、ドイツの環境政策がどのように展開して、各分野でそれが実行されているかを、個別の例を挙げながら説明している。

環境を守り、それを育てていかなければならないと言い出したのは、はじめは個人や小さなグループであった。ドイツが民主主義体制であったおかげで、その声は政治の世界に届き、これが実行に移された。

日本でも当たり前になった、ごみの分別収集も、最初は苦労に苦労を重ねて、説得を重ねて実現したものである。そのような小さな積み重ねが、小さな工夫を生み、長続きする環境社会を作るためには”環境ビジネス”のような形で、利潤や雇用を生む必要があるところにたどり着いたのだ。

環境に配慮するということは、経済発展の障害になる、という誤った考え方を取り除き、逆にこれからの発展の起爆剤に使ったことが、今日の成功の大きな原因であろう。フライブルグは環境首都などとして世界的に有名だが、ドイツのほかの都市が、フライブルグを追い越し、お互いに環境の進み具合を競争しているほどになった。

2011年3月の福島原発の大事故をきっかけにして、ドイツ国内の原発を正式に廃止することにすんなり決まったのも、このような20年以上の蓄積があったからなのだ。まだ狭い経済成長進和にしがみついて、どうしても原発病から逃れられないどこかの国の国民は、もっと先達のやったことをくわしく研究してもらいたいものだ。

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Pereira Maintains 供述によるとペレイラは・・・ * Antonio Tabucchi * Amazon Kindle * 2012/05/02

ペレイラはリスボンに住む、リスボアという新聞の文化担当記者。時は隣国のスペインでフランコ将軍が台頭しつつあるときであり、ポルトガルもその影響を受けてファシズム体制が次第に社会全体に浸透してゆくところだった。

ある日、ペレイラは助手として若いイタリア人モンテイロに、(本人が死ぬ前の)死亡記事の原稿を依頼する。だが、その内容はあまりに自由主義的で、到底新聞に載せられる内容ではなかった。だが非政治的だったペレイラはそれをゴミ箱に捨てることはなく、むしろ逆にモンテイロの行動に関心を示すようになる。

モンテイロには、同志として恋人がおり、スペインから反フランコのための義勇軍募集のためにやってきた従兄弟がいた。彼らをペレイラははじめは気がすすまないながらいつの間にか援助をしているのだった。

心臓病を患っているペレイラは1週間ほど近郊の療養所に出かけ、そこでフランスで教育を受けた若い医師と知り合う。また、途中の列車の車内では、ユダヤ人の女に出会う。それらの出会いを通じてペレイラは、いつの間にか自分がポルトガルの社会が次第に窮屈で独裁的なものに変質していっていることを感じ取るようになる。

リスボアの編集長は政府の要人と結びついているようだし、事務所の管理人の女はスパイではないかと思われる。突然それまで消息不明だったモンテイロが自分の家を訪れた。地下運動をして追われている身になっていたのだ。そこへ3人の暴力団風の男が押し入ってくる・・・ファシズム前夜に追い詰められてゆく自由主義者たち・・・

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シャーロック・ホームズの冒険 The Adventures of Sharlock Holmes 2012/11/29

「ボヘミアの醜聞」 ある国の国王が、若いころ弄んだ女とのツーショットを取り返してほしいと依頼に来る。ホームズは見事に計画を立てて実行に移したが、相手の女のほうが一枚上手だった。

「赤毛連盟」 さえない骨董品屋が、赤毛連盟に加入し、多大な収入を得るが、ある日突然それは閉鎖になる。この奇妙な団体の計画は、骨董品屋 を昼間、家にいさせないためだった…

「花婿失踪事件」 義父とともに暮らす、資産はあるのだが結婚に恵まれない女がいい相手を見つける。ところが結婚式の当日、その男は姿をくらましてしまう。

「ボスコム渓谷の惨劇」 石で殴られて、植民地帰りの男が殺された。その息子がすぐに疑いをかけられるのだが、本人は何も言わないし、状況があまりに不自然すぎる。しかし、足跡をたどってみると…

「オレンジの種5つ」 自分の親がオレンジの種を5個送り付けられて、謎の死を遂げた。今度は息子が種を送り付けられ、いったい何の因果でこんな目にあうのか…

「唇のねじれた男」 ア ヘン窟で、サラリーマンが行方不明に。現場には唇のねじれた乞食がいるだけだった。

「青い紅玉」 クリスマスにどさくさに紛れて現れたガチョウの胃から青い紅玉が…。いったい誰が呑み込ませたのか?

「まだらの紐」 天井から紐がぶら下がり、通風孔が不自然にあいている部屋で結婚直前の姉が謎の死を遂げ、今度は妹が結婚を目の前にしてその同じ部屋に寝ることになった …

「技師の親指」 大変な高額な報酬を約束されて出かけた水圧技師が、不思議な家に連れてゆかれる。危うくピストンに押しつぶされそうになったところで逃げだしたが、親指を切断されてしまった。

「独身の貴族」 イギリスの貴族が、アメリカの女に惚れ、結婚することになったが、花嫁は式の直前に忽然と姿を消してしまう。

「緑柱石の宝冠」 銀行家が預かった宝冠を自宅に置いておいたところ、それがなくなってしまった。遊び人の息子が最初に疑いをかけられるが、真犯人は銀行家が信頼を置いていた人物だった…

「ぶな屋敷」 女家庭教師が、高収入につられて働き始めた、ぶなの木が生えている家の家庭は陰気で、不自然なふるまいを要求された。自分が一体何に利用されているのか???

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たった一人の反乱 * 丸谷才一 * 講談社 * 2013/01/02

官庁勤めから、民間の電機会社に移った中年男、馬淵が主人公。妻に死なれて間もなく、友人の紹介で、ユカリという若いモデルと知り合い、あっという間に再婚してしまう。家には、前からツルというお手伝いがいて、重宝しており、忙しいユカリも仕事を続けることができた。

ところが、実はユカリの祖母、歌子は、かつて自分の夫を殺して、ついこの間出所してきたばかりだという。馬渕はユカリの大学教授である父親からそれを知らされずに結婚していた。なお悪いことに、歌子は自分たちの家に居候させてもらいたいという。

一方、長年忠実に働いてきたツルが突如としてやめたいと言い出した。府と知り合った男にスナックのママを任されるのだという。それまで馬渕はすっかりツルに家事を依存していたから、大いにあわてるが、どうしようもない。

世の中は、学生たちの反乱によって騒がしくなり、馬渕たちもそれに巻き込まれるようになる。駅前での学生と機動隊のぶつかり合いの中、カメラマンの貝塚が歌子やそのかつての仲間を助けた後、写真コンクールで受賞するが、彼の審査委員長への言動で、思いもかけず式場は混乱し、そのあとのパーティのなかで、ユカリも行方不明になってしまう。

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古代への情熱 * H.シュリーマン * 小学館・地球人ライブラリー * 2013/08/07

シュリーマン自身がまとまった自伝を書いたわけではなく、いくつかの著作のうち、自伝的要素の強い部分を、でしか仲間がまとめたものらしい。ドイツでの貧しい少年時代、青年になっての商売一筋と、巨大な資産の蓄積。ここまで見ると、その後の活動とあまりに違うことに気付く。

というのは、資産が十分にたまった時点で、商売から足を奪い、かつて少年時代に夢中になったホーマーの「イリアス」に書いてあったトロイの遺跡を発見しようと、その資産とエネルギーを注ぎ始めたからである。現代と違い、考古学は財宝を盗むだけの詐欺師のような連中のするものだという、一般的な偏見があったころに、彼の並はずれた実行力と情熱によって、あらけずりではあったが、遺跡の大要を明らかにしたのである。

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キズ・ヤケドは消毒してはいけない * 夏井睦 * 主婦の友社 *  2013/11/25

従来の場合のように、けがをしたときに、消毒薬を使い、皮膚を乾燥させるのはかえって直りを遅くする。新しい”湿潤療法”では、傷口を水洗いし、体内から出てくる滲出液を乾かさないようにラップで包んだり、適当な水分を吸収する新素材による絆創膏を利用することによって、体の仕組みに見合った治療環境を作り上げるので、治癒が速い。 ・・・資料外部リンク

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お金は銀行に預けるな * 勝間和代 * 光文社新書 * 2013/12/20

日本人の大多数は銀行預金のように、low risk low return のものにだけ自分の資産を預け、社会にはもっと数多くの資産運用方法があり、金融の基礎を勉強し、バランスの取れた投資をすることによって、一生全体のプランを多角化していかなければならないと説く。

低賃金長時間労働の実態が一向に良くならないのは、国民一人一人の収入が、給料だけに依存しているからである。ブラック企業や悪徳企業が後を絶たないのは何も考えずに、ただ利益を生むというだけで大勢の人々がそれらの企業に投資しているからである。社会的責任を持っているという自覚のもとに投資先の選択をしていかなければならない。

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南方郵便機 Courrier Sud * Saint-Exupéry * 堀口大學・訳 *新潮文庫 * 2014/01/09

ベルニスは郵便機のパイロットである。路線は南フランスのツールーズを起点に、バルセロナ、アリカンテ、マラガ、そしてアフリカ大陸に渡ってタンジール、カサブランカ、アガデール、カップ・ジュビー、ヴィラ・シズネロス、ポール・エティエンヌ、サン・ルイを経て、ダカールに至る。 アフリカ大陸は、サハラの熱風が吹きつけ、地面には蛮族が待ち受け、飛行機の性能は実に頼りなく、いつ不時着するかわからない。命を賭しても任務の遂行に挑む。

2か月ほど前、人妻のエティエンヌと駆け落ちをした。しかし彼女の生活と自分のとはあまりに違い、途中から引き返した。 その苦い思い出を胸に、再びツールーズから飛び立ったベルニスだったが、ダカールを目の前にして地上からの銃撃を受け、あえなく墜落したことが、救援に来た彼の親しい友人パイロットによって明らかとなる。郵便物は無事ダカールに届けられた。・・・資料外部リンク

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夜間飛行 Vol de nuit * Antoine de Saint-Exupéry * 堀口大學訳 * 新潮文庫 * 2014/01/18

航空便が、南アメリカにようやく開設されたばかりのころ。南アメリカ口から集められた郵便物、そして時には乗客は、いったんアルゼンチンのブエノス・アイレスに集められ、そこから大西洋を横断して欧州へと向かう。

当地の支配人はリヴィエール。その態度は、常に搭乗員に厳しさが求められ、周りから恐れられていたが、彼がいてこそ、この事業は円滑に進んできたのだった。そして今、夜間飛行という新たな挑戦に取り組んでいる。これは危険極まりないものであったが、いち早く荷物を届けるにはどうしても通らなければならない関門だった。

その夜、パタゴニア一帯に暴風雨が吹き荒れた。その方面からの操縦士は、あと30分しか燃料がないと無線で連絡した後、消息を絶った。事態は絶望的だった。だがリヴィエールはたじろいでいる暇はない。不安な夜が明け、欧州便の出発時刻が近づいている。・・・資料外部リンク

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人間の土地 Terres des hommes* Antoine de Saint-Exupéry * 堀口大學訳 * 新潮文庫 * 2014/02/07

サンテクジュペリが、自らの飛行士としての体験から、生み出した人生論、哲学論。単なる日常の繰り返しではなく、命を失う可能性と背中合わせの、当時の飛行士の職業体験は、強靭な行動力を必要とした。その数々の経験の生み出した、”知恵”とでもいうべきもの。

とくに、自分が砂漠に不時着して九死に一生を得たことや、サハラ砂漠の反対側に奴隷として売られていた男が晴れて自由の身になって自分の貧しい故郷に戻っていく話など、興味深いエピソードがちりばめられている。・・・資料外部リンク

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来月更新に続く

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