映画の世界

コメント集(20)

  1. 前ページ
  2. 24の瞳
  3. シェルブールの雨傘
  4. 悪いやつほどよく眠る
  5. 男はつらいよ・知床慕情
  6. 幸せはパリで
  7. 蜘蛛女のキス
  8. 博士の異常な愛情
  9. トントンの夏休み
  10. ファニー・ガール
  11. 新・男はつらいよ
  12. パリ・テキサス
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今年見た映画(2003年)

二十四の瞳 1999年6月18日 & 2003年05月25日

二十四の瞳高峰秀子主演のこの映画は、教育映画ではない。れっきとした、反戦、日本の貧困に対する抗議の映画だ。これが公開されたとき、日本中の紅涙を絞ったと言われているが、今冷静に見るとき、それだから、この映画の本当の目的が生かされなかったのではないかとも思える。これは単なるメロドラマではないのだ。また文部省推薦の安っぽい映画でもない。時代が作られたときから離れれば離れるほど、ますます木下恵介監督の意図がよく見えてくる。それは子供たちの歌う「ふるさと」の歌一つとってもわかる。学級崩壊が叫ばれる今、この「別世界」の物語は、現代、失われたものがいかに多いかを痛感させるのである。

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昭和3年、瀬戸内海に浮かぶ小豆島の岬分校に、師範学校を出たばかりの新米先生が赴任してきた。大石先生だが、小柄なのでみんなは小石先生と呼ぶ。

この年に入ってきた小学一年生は12名。はじめての子供たちに、大石先生は大奮闘する。母親と暮らす家から50分もかけて自転車で通ってきたために、地元の父兄から好奇の目で見られるが、子供たちは先生の楽しい歌を歌ってすっかりなついていく。

秋になって大石先生は子供たちといつものように海岸で遊んでいたが、うっかり足をくじき入院し、しばらく学校にも出てこられなくなる。心配した子供たちは4里の道を連れ立ってお見舞いに向かう。

疲れるわおなかはすくわで子供たちの体力も限界に来た頃、バスに乗った通院帰りの先生が子供たちを発見し、うちでご馳走して、船で帰す。陸づたいならとても遠いのに、内海湾を横切ればすぐなのだ。

二十四の瞳こうして先生と子供たちのつながりは深まるが、足はそうかんたんにも治りそうもなく、先生は島の本校に転勤となり、3年後の再会を約束して子供たちと別れる。(第1部)

5年後、子供たちも5年生となり、大石先生も瀬戸内海遊覧船の船員をお婿さんに迎えることになる。6年生の卒業が近づくにつれ、子供たちの将来の希望もはっきりしてきたが、それぞれの家の事情がそれを許さず、先生は心を痛める。修学旅行も全員が参加できたわけではなかった。

一人娘ということで音楽学校に行きたがっているのに島の外に出さない親、借金で首が回らない家庭、そして母親が弟を産んだが産後の肥立ちが悪くすぐ亡くなり、島の外に奉公に出された女の子、と先生はいろいろな話を聞くが、励まして一緒に悩んであげること以外にできることはない。

時は軍部の台頭と、戦争への流れが急速に早まる中で、社会は不況になり、子供たちも否応なくその中に巻き込まれることになった。子供たちが卒業すると、先生はちょっとした発言も共産党支持だとにらまれるような学校生活に限界を感じ、自分の子供が産まれることもあって6年間の教職を辞めてしまう。(第2部)

修学旅行の船上で8年後、子供たちは18歳になった。あんなに元気だったのに、病床に付いたままでもう命幾ばくもない娘もいた。先生を見舞いに行ったあの大遠足の時の写真をいつも床から見つめているのだった。

最大の心配は自分の夫も、教え子の男の子たちもいずれは兵隊に取られるだろうということだった。世の中の風潮は、母親が喜んで自分の息子たちを差し出すかのように聞こえた。だが大石先生は悲しい結末を予感していたのだ。

ついに太平洋戦争が始まり、この島の若者も大勢戦地に赴いた。そして夫にも召集命令が下った。苦しい生活のあと、ようやく終戦が来た。夫は戦死した。教え子の男の子も3人戦死した。ひとりは命は助かったが失明した。さらに母親が死に、末娘が木から落ちて死んだ。

だが、長男と次男を抱えて、これからも生きていかなければならない。先生は再び岬の小学校に勤めることになった。当面は長男のこぐ船で湾を横切って通うことになった。最初の授業の日、教え子たちの娘や息子が新しい生徒として、先生の涙を誘う。「泣きみそ先生」のあだ名が付いた。

昔の教え子たちが集まって同窓会を開いた。参加できたのは女四人、男二人だった。あまりに大きな世の中の激変のため今は遠い過去となったあの小学生時代を振り返る。大石先生は、教え子たちから自転車を贈られた。再び雨の日も風の日も学校に通い続けるのだ。(第3部)

3時間近くの長大ストーリーだが、観客は目を離すひまがない。ある女教師の生活から見た、静かに訴えてくる反戦映画である。「浜辺の歌」「仰げば尊し」などが歌われる。だが、落ち着いて人生を描くことの滅多にないアメリカ映画に毒された観客には理解できないだろう。(1954年・モノクロ)

監督 ........木下恵介 脚本 ......木下恵介 原作 ........ 壺井栄 出演 .......高峰秀子 月丘夢路 田村高広 小林トシ子 笠智衆

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Les Parapluies de Cherbourg シェルブールの雨傘 2003/05/30 (再)2010/01/26 (再)2023/10/31

シェルブールの雨傘この映画は3重の意味でやるせない。やるせないとは「どうしてそうならないの?」という気持ちだ。やるせの「せ」は「立つ瀬がない」の「瀬」と同じだと思われる。

まず音楽がやるせない。次に恋人が戦争によって無理やり別れて暮らさなければならないところがやるせない。そして恋人が、(過酷な事情で)結婚してしまっているのがやるせない。

でも人生が順風満帆なんてありえない。一生の間、なんでも「ハッピー、ハッピー」の連続した人生なんて意味がない。人間らしくない。そんなのはモンキーの生き方だ。類人猿にも劣る。

恋人によってヒロインが宿す子は、結婚する夫に何の支障もなく育てられる。日本のように「父(てて)なし子」と呼ぶような、それを言うまさにその人の品性が問われるようなところは微塵もない。かくしてフランスの家庭の子供たちのうち婚外で生まれた子の比率は半数を超すほどまでになっているのである。フランスの「PACS pact civil de solidarite :連帯民事協約」はそういう背景があって成立しているのである。

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戦争が絶えない現代の世界でも、こんな物語がいたるところで起こっている。戦争のもたらす残酷さが話の流れにひそんでいる。シンプルなラブストーリーではある。しかも全編ミュージカル形式で、ふつうのセリフは一つもない。それでも不自然に感じないから不思議である。1957年から物語は始まる。

シェルブールはフランスの北の端、イギリス海峡に面する港町だ。雨がしとしと降り、人々が傘を差して歩く。16歳のジュヌヴィェーヴの母親は夫の死後、傘屋を営んでいる。ジュヌヴィェーヴは、自動車整備工のギィに夢中だ。ギィもまだ20歳だが、もう二人は結婚のことを考えている。

だがジュヌヴィェーヴの母親は結婚に反対だ。まだ年齢的にあまりに幼いし、彼女の美しさでは将来もっと金持ちの求婚者が現れるのだと言って聞かせるが、娘は当然のことながら耳を貸さない。ギィは親代わりの伯母に育てられ、幼なじみのマドレーヌと3人で質素なアパルトマンに暮らしている。

しかし恋人たちの前には、ギィのアルジェリア兵役という長い別れが待っていた。別れが目前に迫った夜、この映画のあまりに有名な主題歌が歌われる。そして涙を流すジュヌヴィェーヴを後に残してギィは危険に満ちた戦地に赴くのだった。<第一部出発>

ギィが出かけた後のジュヌヴィェーヴはふさぎ込んでいる。体調も良くないようだ。心配した母親は、彼女が妊娠していることを聞かされる。ギィの子を宿しているのだ。しかも経営不振の傘屋のために売りに出した首飾りをすぐに買い取ってくれたのが、金持ちのビジネスマン、カサール氏だったが、彼がジュヌヴィェーヴへの思いを告げる。

一方、ギィのいない生活はジュヌヴィェーヴにとって、寂しさと心細さから何かを頼りにしたくなる毎日になっていた。揺れる女心。日毎にせり出す自分のおなかをながめながら、カサール氏がこれを見ればすぐにあきらめるだろうと思っていたところ、一緒に育てようと言ってくれた。

アルジェリアからのギィの手紙は来ていたが、負傷したために入院しその後は便りも途絶えてしまう。結局ジュヌヴィェーヴはカサール氏のプロポーズに承諾の返事をして、二人は結婚式を挙げる。2年はまたたくまにたち、なにも知らされていないギィの帰国が近づいてきた。<第2部不在>

伯母さんはギィが気の毒でジュヌヴィェーヴの結婚のことを黙っていたのだった。ギィはやけっぱちになり、仕事も辞め生活も乱れる。だが朝帰りの日、長い間病床にあったおばさんが亡くなった。

残されたギィとマドレーヌだったが、アパルトマンを引き払う段になって、ギィはマドレーヌに、しばらく一緒に暮らしてくれるように頼む。マドレーヌはおとなしい娘で、これまでなにも素振りを見せなかったが、ギィが生活を立て直すかどうか様子を見るという条件でアパルトマンにとどまることにした。

6年後、ギィはおばさんの残してくれたお金を元手にして自分のガソリンスタンドを開いた。マドレーヌと結婚し、フランソワという男の子も産まれた。そして雪の降るクリスマスの夜、偶然にもマドレーヌと息子が外出したとき、ジュヌヴィェーヴがフランソワーズという娘を連れて給油にやってきたのだ。

お互いに幸福な家庭を持っていることを知ったあと、車の窓越しに自分の娘が見えているのを知りながら、ギィはジュヌヴィェーヴに別れを告げる。その後マドレーヌが帰ってきた。<第三部帰還>観客は誰でも、「これで良かったんだ」と安堵のため息をもらすだろう。このストーリーは実にいいリアルな終わり方をした。(1964年)

Directed by Jacques Demy Writing credits Jacques Demy Cast: Catherine Deneuve .... Genevieve Emery / Nino Castelnuovo .... Guy / Anne Vernon .... Madame Emery / Marc Michel (I) .... Roland Cassard / Ellen Farner .... Madeleine / Mireille Perrey .... Aunt Elise / Jean Champion .... Aubin (as J. Champion) リスニング:フランス語。あらゆるやりとりが歌になっている。

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悪い奴ほどよく眠る 2003年6月6日

悪い奴ほどよく眠る日本では、役所と関連企業との間の汚職が絶えない。その原因には、部下が上司への忠誠を誓うあまり、どんな悪事でさえも普通の職場の命令と同様に、絶対服従という習慣が抜けきれないからだ。いわば彼らには良心より、組織の維持が絶大な価値を持つ。

ある結婚式場でいよいよ披露宴が始まろうとしていた。花嫁佳子は足が悪い。衆目を浴びて足を引きずりながら中央の段に立つ。花婿は、彼女の父親である公団副総裁の岩淵の家に婿入りした西という男だ。彼は岩淵に気に入られ、秘書となったが、佳子との結婚は、周りから地位を目指すあからさまな政略結婚と見なされていた。

ここの公団幹部たちは、数年前、企業への建設発注に絡んで賄賂のやりとりをしていたが、それが一部ばれて古屋という男がビルの7階から飛び降り自殺している。今回も大竜建設との関係が明るみに出て、検察は必死の捜査を行っているのだが、全員黙秘を続け、物的証拠も挙がらない。

ウェディング・ケーキにナイフを入れる際に、珍事が持ち上がる。7階からの投身自殺の行われたビルそっくりのケーキが届けられる。飛び降りた窓には赤いバラがさしてあった。幹部たちは大いに狼狽し、誰が仕掛けたのかを必死に知ろうとする。

課長補佐和田は厳しい取り調べの末、噴火口への投身自殺を試みるが、西によって秘密裏に救われる。だが、死んだと思われ和田の葬式は執り行われた。かれは西の保護のもとに身を隠すことになった。

西は、和田を使い、契約課長白山を窮地に陥れる。白山は、五百万円の金の使い込みを疑われた上に、和田の「幽霊」も見て、さらに飛び降りが行われた窓にまでつれて行かれて頭が変になってしまう。

西は復讐の鬼になっていたのだ。自殺した古屋の私生児だった彼は、金のためならどんな汚いまねをする連中に対して戦いを挑んだのだ。そのために友人の板倉と戸籍を交換し、佳子とは板倉に近づくための結婚をしたのだった。計画は次々に実行されていた。

西と板倉は、武蔵野にある古い軍需工場跡に、管理部長の守山を誘拐して連れ込み、何とか賄賂金の所在をはかせようとする。一緒にいる和田は、佳子のことを心配して密かに工場までつれてきて西に会わせるのだが、窮地に陥り必死の板倉にまんまと場所を悟られてしまい、板倉の差し向けた暴漢たちによって西は悲惨な死を遂げる。

和田と白山も消され、西と板倉の計画はここで完全に崩壊した。公団幹部たちは逮捕とスキャンダルの危機を乗り切る。板倉も、娘が心神喪失し息子の断絶宣言を受けるものの、組織内の地位は安泰だとの電話を受けて得意顔である。(1960年)

監督 .......  黒澤明 配役 西幸一 .......  三船敏郎/岩淵(公団副総裁) .......  森雅之/娘佳子(西の妻) .......  香川京子/息子辰夫 .......  三橋達也 /守山(公団管理部長) .......  志村喬/白山(公団契約課長) .......  西村晃 /板倉(西の友人) .......  加藤武/和田(課長補佐) .......  藤原釜

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男はつらいよ・知床慕情 2003年6月12日

男はつらいよ・知床慕情久しぶりに寅さんが柴又に帰ってくると、おっちゃんが風邪をこじらせて肺炎になり、一時は危ないところだったという。退院したおっちゃんを助けるべく、寅さんは店を手伝おうとするが、放浪の自由な生活に慣れた寅さんは一日店に座っていることすらできない。

跡取りがこれではと嘆く家族をあとに、寅さんは北海道、知床半島へ旅立つ。牧場を行くうち、ポンコツトラックを運転していた獣医の上野に拾われる。上野は10年前に妻に死なれ、いまでは変わり者で頑固なので近所から煙たがれ、近所のおばさん、悦子が身の回りの世話をしてくれている。

娘のリン子は上野が認めない男と結婚し東京に住んでいる。寅さんは上野と妙に気が合い、一晩泊めてもらい、近所で悦子がママをしているスナック・ハマナスでは地元の漁師たちと知り合い、人気者になる。

そこへ突然リン子が帰ってきた。連絡もなくやってきて、離婚をしたのだという。もし上野とリン子だけの対面だったら父娘の関係はどうしようもなくこじれていただろうが、寅さんがうまく取りなしたおかげでリン子は実家に落ち着くことができたのだ。

美しい知床の自然を寅さんは満喫する。上野の獣医の仕事を見学し、リン子と、新しくできた知床の人々と、あちこち夏の知床をつれていってもらう。だが、この地域にも過疎と不景気の波が押し寄せていた。観光客は町を素通りし、離農する人々が後を絶たなかった。

悦子は、もう長い間上野の世話をしてきたが、手を握ってもらえるわけもなく、売り上げ減からハマナスも人手に渡ることになり、ついに北海道を捨て、新潟にいる妹の所へ移る決心をした。

リン子の帰郷歓迎バーベキュー・パーティの席上で悦子がみんなの前でそのことを発表すると、上野は悦子に去ってもらいたくないのだが、それをうまく言えない。今度も寅さんが励ましてくれて、めでたく悦子にプロポーズする。

そのあとの二次会で、みんなは多いに盛り上がるが、漁師仲間に寅さんはリン子に惚れているのではないかと言われて、知床を去る決心をする。今回は寅さんだけの片思いというわけでもなかったのだが・・・(1987年)

監督 ....... 山田洋次 出演 .........渥美清/ 倍賞千恵子/ 竹下景子(リン子)/ 三船敏郎(上野)/ 淡路恵子(悦子)/ 笠智衆

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The April Fools 幸せはパリで 2003年6月26日

The April Fools日本語と原題とでは相当違ったタイトルだ。それはそのはず、原題は、二人の心の中を歌ったもの。これに対し日本語でのタイトルは、二人が向かおうとする目的地のことを表しているからだ。

ニューヨークの証券会社に勤めるハワードは、出世街道を上り詰め、いよいよ部長のいすを獲得した。だが、家庭では妻の尻に敷かれ、仕事中心の生活のおかげで、息子は電話にさえ出てくれない。それでもせっせと今まで家庭に給料をまじめに運んできたサラリーマンだ。

部長昇進の時と前後して社長の主催するパーティに招かれる。出席者たちは変な連中ばかりで、アメリカの金まみれで俗悪な世界をかいま見せる。話し相手もなくただ酒とつまみだけをあさるハワードだったが、ふと目の前にいたカトリーヌという女性に声をかけ、不思議なことに彼女は一緒にパーティの会場を抜け出すことに同意する。

聞いてみるとなんと彼女は社長の妻。仕事しか関心がない社長に嫌気がさし、別れることを考えていた。今日のパーティも、本来はホステス役を務めなければならないのだが、それがいやで抜け出したのだ。二人のデートの場所では、ディオンヌ・ワーウィックの「小さな願い A Little Prayer 」が歌われる。

カトリーヌにハワードは、当然のことながら一目惚れし、カトリーヌの方もハワードの朴訥だが暖かな人柄に惹かれる。折りもおり、トランプ占いをしている老婦人の豪邸につれていかれ、ハワードは彼女のの夫とフェンシングの試合をやらされたあげく、老婦人の密かな手助けもあって、カトリーヌとハワードは本当に愛し合うようになる。

この恋をきっかけにカトリーヌは夫と別れ、パリに戻る決心をする。ハワードは、これまでの妻との愛のない生活に突然目覚め、もらったばかりの部長の地位も直ちに捨てて、カトリーヌとともにパリへ行く決心をする。

こんなにあっという間に二人が愛し合い幸せになるなんて、きっとこれはエイプリル・フールなんだ、でもそれでもいい。この先どんな危険が待っているかもしれない未知の人生だが、今二人が愛し合っている、それだけでいいんだ、と主題歌の「The April Fools 」が流れる。

二人の決心に、それぞれの家族や友人が驚きあわてひと騒動起こるが、ハワードはぎりぎりで空港に到着し、パリ行きの飛行機の中で二人は手を握りあう。

全編を通じてアメリカ文明の拝金主義と俗悪さや、ハワードの妻が愛を見つけたと言う自分の夫に向かって「あなたは感情志向 emotionally-oriented なのね」と馬鹿にするような愛なき夫婦生活が前面に出て、こちらはコメディ・タッチではあるけれども、「恋に落ちて Falling in Love 」に似た設定である。(1969年)

Directed by Stuart Rosenberg (I) Writing credits Hal Dresner Cast: Jack Lemmon .... Howard Brubaker / Catherine Deneuve .... Catherine Gunther / Peter Lawford .... Ted Gunther リスニング:明瞭で分かりやすい英語。フランス女優であるカトリーヌ・ドヌーブもここではきれいな英語をしゃべる。

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Kiss of the Spider Woman 蜘蛛女のキス 2003年7月4日

Kiss of the Spider Womanタイトルだけ聞くと、ずいぶんおどろおどろしい映画ではないかと思ってしまうだろう。ホラー映画か、怪物映画か?実はそのどちらでもない。もっと怖い映画なのだ。それはファシストによる政治犯迫害の物語である。

ここは、おそらくファシスト政権が君臨する南米の某国。町の看板を見るとスペイン語、あるいはポルトガル語のようだ。巨大な刑務所には、政治犯から窃盗犯まで種々の囚人が入れられている。

モリーナはホモだが、男の子を追いかけ回したために、当局によって検挙され、監獄に入れられている。彼は暇つぶしに自作の映画のストーリーを、同室のバレンチノに話して聞かせるのが好きで、今はナチの将校に恋をしたフランス人歌手レニの物語を聞かせている。

バレンチノは、政治犯で捕まった。この国での過激派とみなされるグループに属し、たびたび拷問にかけられているが、決して口を割ろうとしない。彼はモリーナの話す物語にはいささかうんざりしているが、時々昔の恋人を思い起こされるような場合もある。

バレンチノは、差し入れられた食事に入っていた毒物のおかげでひどい苦しみを受けたときに世話をしてもらったことから、モリーナとの間に次第に奇妙な友情が芽生え始める。

モリーナの映画物語はレニが、ナチの将校のためにレジスタンスの本部へ行ったときに起こった悲劇で、幕を閉じる。そのころ、バレンチノへの度重なる拷問にも関わらず口を割らないことに業を煮やした刑務所の所長はモリーナを通して食べ物で懐柔し、ふと重要な情報が漏れないかと策略を図る。

モリーナの次の映画の話は、無人島に自分の吐き出す糸のために、閉じこめられている蜘蛛女である。そこへバレンチノそっくりの船員が嵐で流れ着いてくる。

モリーナは母親からの差し入れだといって、豊富な食べ物をバレンチノにも分け与え、気を許した彼は、ふと向かいの房に入れられた政治犯の名前を口にしてしまう。

だが、結局重要な情報はまるで手に入ることはなく、モリーナは特別に保釈されることになる。その前の晩、友情以上になった二人は結ばれる。当局のねらいは、バレンチノがモリーナに何か外部への連絡を託しているだろうから、徹底的に尾行して手がかりをつかもうというものだった。

娑婆に戻ったモリーナは、何日かは無為な日々を送るが、バレンチノの言葉を思い出して新たな生き方を求め、その手始めにバレンチノに頼まれた連絡先に電話をする。

しかし尾行されているとも知らず、組織の女と会っているところを見つかり、口封じのためにあえなくその女に射殺される。一方バレンチノは、さらにすさまじい拷問を受けることになる。

レニも、蜘蛛女も、組織の女もみな同じ女優が演じる。レニの物語、蜘蛛女の物語、そしてモリーナとバレンチノの監獄生活。空想の物語と、現実が折り重なって、とらわれた人々の過酷な運命を描き出している。(1985年)

Directed by Hector Babenco Writing credits Manuel Puig (II) (novel) Leonard Schrader Cast: William Hurt .... Luis Molina / Raul Julia .... Valentin Arregui / Sonia Braga .... Leni Lamaison ; Marta ; Spider Woman / Jose Lewgoy .... Warden / Milton Goncalves .... Secret Policeman / Miriam Pires .... Mother Molina リスニング;きわめて聞き取りやすい英語。

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Dr.Strangelove Or: How I Learned To Stop Worrying And Love The Bomb 博士の異常な愛情 または私はいかにして心配するのをやめて水爆を愛するようになったか 2003年7月17日 (再)2013/11/19

博士の異常な愛情この異常に長いサブタイトルを付けたのはキューブリック監督である。SFであるが、ブラックユーモアたっぷりの、核でにらみ合うアメリカとソ連を皮肉った映画だ。ピーター・セラーズが一人3役をこなすのがみもの。

米ソの冷戦が少しばかり雪解けの様相を見せるようになってきた頃、あるアメリカ空軍基地のリッパー大佐が突如として狂い、北極圏を日夜パトロールしている、水爆搭載機に対して攻撃命令をくだした。シベリアや北極圏の荒涼とした風景が爆撃機と共に映し出される(写真は雪に覆われた山々を背景にして、落下する核弾頭にまたがる機長)。

全面戦争の命令は大統領が出すものの、局地的な戦争で必要と判断された場合には、基地の最高責任者に、命令を下す権限が与えられていたのだ。副官の頼みもがんとして聞き入れず、リッパーは、たくさんの水爆搭載機を暗号によってしか通信ができない状態にしたあと、ソ連の軍事施設爆撃に向かわせる。

この知らせを聞いた大統領を中心とする緊急の安全保障最高会議が開かれ、バック将軍がもう手遅れだからどうしようもないと主張するのに対し、大統領は何とか手を打って大量殺戮を防止しようとする。

まず駐米ソ連大使が呼ばれ、さらに直通電話でソ連の首相を呼びだし、何とかできないかと大統領は相談するのだが、会議に出席していた軍事専門家ストレンジラブ博士によると、ソ連には、”皆殺し兵器”と呼ばれる装置が設置されている。

これは核攻撃を受けた際に、恐怖にひるむであろう人間の判断によらず、自動的に反撃するのだ。これが爆発すれば100年間は、地下にでも潜らない限り、地球上の生物はまず生存はできず、この装置を止めようとすること自体が爆発を引き起こすという。

すでに出撃に向かったたくさんの爆撃機を呼び戻そうにも、暗号解読の鍵はリッパーが握っているから、手の施しようがない。しかも大佐のいる空軍基地は封鎖され、守備兵が守りを固めている。

相打ちのあげく、ようやく基地の守備兵は降伏するが、リッパーは自殺し、マンドレーク副官が机にあったメモから暗号解読の鍵を探し当てる。おかげで出撃していた爆撃機は攻撃の直前に帰還命令を受けて戻ることができ、ソ連も3機をミサイルで撃墜していた。だが、ただ1機だけ連絡不能になっていたのだ(1964年)・・・資料外部リンク

Directed by Stanley Kubrick Writing credits Peter George (III) (novel) .Cast : Peter Sellers .... Capt. Lionel Mandrake or President Merkin Muffley or Dr. Strangelove / George C. Scott .... Gen. 'Buck' Turgidson / Sterling Hayden .... Brig. Gen. Jack D. Ripper / Keenan Wynn .... Col. 'Bat' Guano / Slim Pickens .... Maj. T.J. 'King' Kong / Peter Bull (I) .... Russian Ambassador Alexi de Sadesky リスニング:かなり早口の英語。空軍兵士のやりとりや専門用語が聞ける。

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トントン(冬冬)の夏休み 冬冬的假期 Dongdong de jiaqi A Summer at Grandpa's

トントンの夏休み台湾からやってきた、心に残る小品である。最初の場面は、トントンが小学校を卒業したところだ。台湾の小学校では、日本と同じ、「我が師の恩・・・いざさらば」のメロディが中国語の歌詞とともに流れる。ただし6月か7月であり、夏休みのあと中学校の新学期は9月から始まる。

台北に住むトントンは、妹のチャオチャオとともに夏休みは田舎の開業医をしているおじいさんの所に遊びに行くことになった。でも母親は、胆嚢の病気で入院しており、兄妹はそのことが気がかりだ。

母親の弟が、ガールフレンドとともに列車に乗ってつれていってくれることになるが、どうも頼りない小父さんで、途中の駅でいったん降りてから乗り遅れてしまい、兄妹は、目的地の銅鑼駅で待つ羽目になる。

だが、早速亀をつれた田舎の子供たちと友達になり、裸になって川で遊んだりしてすっかり地元になじむ。おじいさんは医者の仕事で忙しい。

言葉がまともにしゃべれず、人をたたいてまわることで有名な寒子という女がいた。子供たちから怖がられ、父親も手を焼いていたが、チャオチャオは鉄道に危うく轢かれるところを助けてもらい、すっかり仲良くなる。

小父さんは、今度は相手の女の子を妊娠させてしまって、父親であるおじいさんから勘当され、トントンだけが新郎側の親族として出席した結婚式をして、町外れに二人で住み始めた。

あるとき、居眠りをしているトラック運転手を二人組の強盗が襲うところを子供たちは目撃する。しかもその警察から追われた犯人たちは、昔の友達ということで、小父さんの家にかくまわれていた。

トントンの通報で犯人たちは捕まり、小父さんもかくまった罪で捕まってしまう。そのころ、トントンたちの母親は緊急手術を受けたが、麻酔薬からいつまでも目が覚めないという。トントンは病院からの電話を待ってなかなか眠れぬ夜を過ごす。チャオチャオも、たまたま寒子が木から落ちてケガをしたので、心配でたまらない。

夏休みも終わりに近づき、母親は無事手術を終えて回復に向かっている。父親が車で迎えにきた。兄妹は、「赤トンボ」のメロディが流れる中、田園の中を台北に向かって帰っていく。

特に筋もない映画だが、都会からきた兄妹を中心に田舎のさまざまな人々が印象深く描かれる。フランス映画「田舎の日曜日」と同じく、いわゆる「帰省映画」の傑作であろう。

原作‥‥‥朱天文 脚本‥‥‥侯孝賢 朱天文 撮影‥‥‥陳坤厚 録音‥‥‥忻江盛 編集‥‥‥廖慶松 監製‥‥‥呉武夫 制作‥‥‥張華坤 出演‥‥‥王啓光 李淑[木貞] 古軍 梅芳 顔正國 陳博正 楊麗音 楊徳 昌 リスニング:北京語。子供たちの発音は明快で単語もやさしく、初級者の聞き取り練習にはうってつけ。

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Funny Girl ファニーガール 2003年8月6日 (再)2006/09/07

Funny Girl有名になったミュージカルの映画化。ストライザンドのパワフルな歌が全編にあふれる。ファニー(Fanny)は下町に暮らす若い女の子だが、将来はスターになることを夢見ていた。ただ自分の鼻が大きすぎることは気になっていた。

ある日いつものレッスンで、属している劇団の演劇監督から、まわりの仲間たちと比べて風采も動きもあまりに違うので釣り合わないということで、クビを言い渡される。

そんなことにめげるファニーではない。そこへダンディな男、アートスタインが彼女の目の前に姿を現す。ファニーに一目惚れしたアートスタインは、有名なジーグフェルド監督に彼女を紹介する。めでたく彼女は団員になることになった。

勝手に舞台の最後の場面で、お腹にクッションを詰め込んで妊婦の格好をしたファニーに観客は爆笑する。ファニーに歌の才能だけでなく、喜劇俳優としての持ち味があることがあきらかになった。ファニーは急速に頭角を現し、一躍売れっ子になる。

いまだ駆け出しの不安定な頃に、自分に心を寄せてくれたのがアートスタインだった。初めてのデートで「People」がうたわれる。夕食のテーブルのそばにベッドをおくような無神経さがあったけれども、気持ちの支えになってくれることからファニーは次第に惹かれていく。

Funny Girlアートスタインは生来のばくち打ちである。自分の競走馬を持ち、大西洋を渡る客船のテーブルでポーカーをやって生活費を稼ぐ。だからファニーと会えるときもいつになるかわからないようなところがある。巡業先ボルチモアでの日々は二人の間を決定的にした。

しばしの別れにも我慢できなくなったファニーは勝手に休みを取ってヨーロッパへ向かうアートスタインのあとを追う。船中で二人は結婚をした。アートスタインのばくちは順調にいき、ファニーの名声は日々高まり、豪邸に住む二人には赤ん坊も生まれ、幸せいっぱいの生活である。

でもそれは長く続かなかった。アートスタインからツキが離れ、彼の生活は借金に悩まされるようになった。ファニーは、何かと財政面で夫を助けようとするが、かえってアートスタインのプライドを傷つけ、二人はすれ違いの生活が多くなる。

アートスタインはだまされて株に手を出して大失敗し、友人やファニーの減刑への願いもむなしく実刑を食らうことになった。どうやらこれは彼がわざと望んだことらしい。18ヶ月の懲役を食らうことになった。

自分がファニーの名声に釣り合わなくなったことを気付いたアートスタインは、離婚を望み、ファニーは承諾する。彼からファニー(Funny Girl)といわれたファニー(Fanny)はアートスタインのことが心にありながら、ひたすら舞台への精進を目指すのだった。(1968年)

Directed by William Wyler Writing credits Isobel Lennart (play) Cast : Barbra Streisand .... Fanny Brice / Omar Sharif .... Nick Arnstein / Kay Medford .... Rose Brice / Anne Francis (I) .... Georgia James / Walter Pidgeon .... Florenz Ziegfeld リスニング;かなり高度で早口なので聞き取りにくい。演劇業界用語もかなり多い。

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新・男はつらいよ 2003年8月27日

新・男はつらいよ休憩に立ち寄った峠の茶屋のおばあちゃんが孫から電気アンカを贈られているのを見た寅さんは、自分もおっちゃんやおばちゃんに何かしてあげなければと思う。だが金がない。

そこで手を出したのが競馬。名古屋で自分が願いをかけた馬は、勝ってくれるとうなずいてくれた。寅さんはツキにつきまくって大金を手に入れる。これを持って葛飾柴又に戻った。

だが、町中大騒ぎで壮行会まで開いてくれた、老夫婦を連れてのハワイ旅行は、直前になって旅行社の社長に払い込んだ金の全額を持ち逃げされ、羽田空港にたどり着いたところでおじゃんとなる。しかも町の人に顔向けできないと隠れていたところに運悪く泥棒が入り、あえなくばれてしまう。

「悪銭身に付かず」と言われて、とらやでは大喧嘩。もちろん寅さんは旅に出てしまうが、1ヶ月後に帰ってみると自分の部屋に、御前さまのお寺付属のルンビニ幼稚園の新任先生となった春子さんが下宿していた。

寅さんはすっかり春子さんに惚れ込み、自分を幼い頃に捨てた父親の死を知って悲しむ彼女を元気づけ、幼稚園にまでついてゆき、仲の良さは町中の評判となる。だがある日、彼女の「恋人」らしき人がひょこりとらやを訪ねてくる。

それを知った寅さんは、みんなの前で笑ってみせるが、顔はゆがんでいる。とらやの老夫婦は何が起こるかヒヤヒヤだったが、結局恋の痛手を忘れるために、再び旅に出たのだった。

山田監督とは違って、かなりねちっこい人間関係が展開する。普段あまり出てこない柴又の近所の人たちが大勢姿を現すのがみものだ。さくらの出番は少なく、夫の博が大活躍する。(1970年)

製作 ......  斎藤次郎 企画 ......  高島幸夫 監督 ......  小林俊一 配役  車寅次郎 ......  渥美清 さくら ......  倍賞千恵子 春子 ......  栗原小巻 車つね ......  三崎千恵子 諏訪博 ......  前田吟 川又登 ......  津坂匡章 寺男源さん ......  佐藤蛾次郎 梅太郎 ......  太宰久雄

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Paris, Texas パリ、テキサス 2003年8月29日

Paris, Texasアメリカ、テキサス州には、パリという町があるという。トラヴィスとウォルトの兄弟の両親は、その町で恋をして長男のトラヴィスが生まれた。初めてその話を聞く人は、テキサス州抜きではてっきりフランスのパリのことだと思ってしまう。

4年間も行方不明になっていた兄のトラヴィスはテキサス州の砂漠のまんなかで行き倒れになったところを発見され、ロサンゼルスから弟のウォルトが引き取りにやってくる。

かつては息子のハンター、妻のジェインと幸せな生活を送っていたトラヴィスは、夫婦の間が破綻して突然蒸発し、ジェインもハンターを弟夫婦に預けたまま行方不明になっていた。

この4年間に何があったのか、ウォルトは聞きただすが、トラヴィスは何も覚えていないという。それでもロスのウォルトの家につく頃には寡黙なトラヴィスも少しずつ自分の思うことをしゃべるようになっていた。

3歳の時に両親が居なくなって、息子のハンターはもう7歳。ウォルトの妻アンが母親代わりになり、すっかり成長していた。やがて再会した父子はお互いにうち解けてゆく。

トラヴィスは行方不明になった妻のジェインをなんとしても見つけたかった。アンから、彼女が密かにハンターのために毎月一日に銀行から送金していることを知ったトラヴィスは、直ちにハンターを連れてヒューストンに向かう。

銀行の前に二人で張り込みジェインを発見した。彼女は電話セックスで働いていたのだった。マジックミラーから見たジェインに、トラヴィスは何も言えずいったん退散する。

だが、ハンターのことを思い、もう一度勇気を奮って相談室に出かけて自分と妻がどのようにして破局へ落ちていったかを匿名で話すと、ジェインはトラヴィスであることに気づき涙を流す。

トラヴィスは、ホテルに待たせてあったハンターとジェインを引き合わせ、自分はいずこかへと去っていく。再び癒えることのない破れた結婚を、ロードムービーの形で描く。背景に流れるカントリー風のスライド・ギターは、「テルマとルィーズ」のそれと同じである。(1984年)

Directed by Wim Wenders Writing Credits LM Kit CArson / Sam Shepard Cast: Harry Dean Stanton .... Travis / Nastassja Kinski .... Jane / Dean Stockwell .... Walt / Aurore Clement .... Anne / Hunter Carson .... Hunter / Socorro Valdez .... Carmelita リスニング;きわめて聞き取りやすく、平易な内容。

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

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