コメント集(23) |
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今年見た映画(2004年)
男はつらいよ・夜霧にむせぶ寅次郎 2004年3月5日 今回の寅さんは失恋しない。むしろ若い娘から惚れられるのだが、あのリリーなどと違って彼女が根無し草になるようなタイプの娘でないことから、何とかして彼女を普通の生活に落ち着かせたいと思う。 それにからまる、中学校のブラスバンド部に入った満男、堅気になった登や結婚の決まったあけみ、夫を捨てた妻の4つのエピソードはすべて「落ち着いた生活への志向」を暗示している。 寅さんは盛岡にいる。これから祭りを追って、北上していくのだ。ある日、祭りを見物に来たかつての舎弟、登に出会った。すっかり堅気になり妻と幼い娘をもうけて、今川焼きの小さな店をやっている。 そのころ柴又ではタコ社長の娘、あけみちゃんがようやく結婚をすることになった。親戚や知り合いが次々と片づいて、さくらたちは「あと一人」だけ残っていることを思い出す。寅さんは依然として渡世人家業から足を洗わないでいる。 盛岡から八戸、そして釧路へと寅さんはやってきた。町の床屋で散髪してもらっていると、美容師の資格を持っているという若い女の子が、断られるのを承知で働き口がないかと店に入ってきた。 店を出て、ベンチに座っている彼女に話しかけると、とうに母を亡くし、その後は一つの所にとどまることができずにいろいろな場所を点々としてきたという。それで、「フーテンの風子(ふうこ)」というのだった。同じフーテン同士の出会いに、二人は気があってしばらく旅をいっしょに続けることになる。 その晩泊まった旅館は満員で、一人の男が寅さんと相部屋になる。根暗な奴だと思ったら、常磐線の牛久沼に家を買ったのはいいが、ローンが払えずに女房が働きに出て、たちまち男ができて彼と娘を置いて姿を消したのだという。 霧多布(きりたっぷ)あたりに住んでいることがわかったので、連れ戻しに行くのだという。寅さんと風子は無理矢理つきあわされた。だが、その場所に行ってみると、男の妻は、新しい男と幸せそうに暮らしていた。かわいそうだったが、寅さんはすべてをあきらめて家に帰るようにとその男に勧めた。 根室に着くと、風子はおばさんに会い、小さな理髪店に世話をしてもらうことになった。寅さんは、ここで商売をする。だが、風子は寅さんに惚れてしまい、これからの旅もずっとついてきたいと言い出す。だが、寅さんは風子が実はまじめな娘で放浪には向いていないことを知って、この町で落ち着くことをすすめる。 久しぶりに寅さんはとらやへ帰るが、ちょうど店にいたのはあの女房に逃げられた男だった。風子が東京に来ているという。だが金を借りに来てそのまま追い返したために、行方しれずになってしまっていた。寅さんは見つからないことは承知で新聞広告に出したり、東京中を探し回る。 ある日、店にトニーと名乗る若い男がやってくる。根室ではサーカスのオートバイ乗りをやっていた男だ。風子に惚れて、東京に連れてきたのだが、今病気でふせっているのだという。寅さんは風子を連れ帰り、とらやで静養させる。 寅さんは、回復した風子にはこの町で理髪店の仕事を見つけてやり、いい男が見つかったら結婚させて平凡な幸せを持てばいいと思っていた。トニーの所にも出向き、風子とは別れさせた。 だが、風子にはこれが気に入らなかった。トニーとのことは自分で決着をつけるつもりでいたのに、寅さんのとった行動に腹を立て、とらやを出ていってしまうという悲しい結末となった。 だが、時はすべての傷を癒すもの。北海道に帰った風子はやがて落ち着き、一緒に暮らす相手を見つけたのだ。博と桜と満男も、そして寅さんまでがはるばる結婚式にでかけていったのだ。(1984年) 監督: 山田洋次 キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら)加藤武(金吾) 文野朋子(伯母きぬ) 秋野太作(登) 人見明(理容店主) 谷幹一(黒田) 関敬六(寅の仲間) 佐藤B作(福田栄作) 美保純(あけみ) 渡瀬恒彦(トニー) マドンナ;中原理恵 (木暮風子) ポンヌフの恋人 Les Amants du Pont-Neuf 2004年3月8日 まるでセックスのない純愛映画だが、ところどころに非常にシュールな場面や不可解な場面が意図的に挿入されていて、普通の筋立てとは違った雰囲気を持っている新しいタイプである。。観客は常にヒロインの生活について好奇心を持つが最後まであかされることはない。 パリの中心、シテ島にかかるポン・ヌフ(直訳;新橋)に住むアレックスはホームレスの青年である。セーヌ川右岸には百貨店「サマリテーヌ」の照明が明るく輝いている。かつて守衛だったハンスと共に、どことなく流れてきたあげく、ちょうどこの橋の橋脚を数年にわたって修理をするところから、通行止めになった橋上部分に二人は寝泊まりしていたのだった。 アレックスは、睡眠薬がないと眠れない。またしたたか酔ったあげく道路の真ん中に寝そべって車にはねられ、ホームレスの収容所から片足を引きずりながら橋に帰ってきた。ハンスはアレックスに、新参者が一人寝ているから明日の朝叩き出せという。 朝起きてみると、寝ていたのは若い女だった。画板を持ち、中に何枚かの絵が入っていた。片目は絆創膏が貼ってあり失明したらしかった。ミシェルといい、過去のことはあかさなかったが、アレックスが自分の絵を描いてくれと頼んだのがきっかけで二人は急に親しくなる。 ミシェルはいったい何の理由があってホームレスになどなったのか。彼女の懐に入っていたルーブル局留めの手紙。差出人の家にあった数多くの絵。かつての男友達ジュリアンをミシェルは本当に射殺したのか。どうして片目を失明したのか?彼女のこれまでの生活は謎だらけだったが、橋の上は心の重荷から解放してくれるようだった。 かつては妻を持ち普通の暮らしをしていたハンスは、女がホームレスになると悲惨な結果になるから早く立ち去るようにすすめるが、ミシェルには行くところがない。だがアレックスと二人で金を手に入れる方法を見つける。アレックスはミシェルに睡眠薬を使わないで眠る方法を教わる。親しさが増すにつれ、二人で海を見に行ったりもした。 7月14日のパリ祭がやってきた。町が祭りの興奮に包まれる中、二人もしたたか酒を飲み踊り狂い、華麗な花火が打ち上げられる中、セーヌ川でボートを盗んで水上スキーをしゃれ込んだ。 だが、二日酔いの翌日は貯金を川に落とし、さらにミシェルを美術館に連れていってくれたハンスは川に落ちた。しかもミシェルの残る片方の目も次第に視力を失い、全盲になる日も近づいていた。ミシェルはいよいよアレックスを必要とし、アレックスも彼女なしには過ごせなくなっていた。 ところが、地下鉄の通路を歩いているときアレックスは尋ね人の掲示でミシェルの顔を大写しにしたポスターを発見する。そこには、行方不明になったミシェルの父親から、手術をすればこの目は治るといっていた。手術をすればミシェルが自分のもとから去ると思ったアレックスはポスターをびりびりに破いてしまう。 同じポスターをたくさん発見すると火をつけて焼いた。ポスター貼りの職人が長大な壁に同じポスターを貼っているところを見つけたときは逆上し、溶剤の入った容器に火をつけてしまった。運悪くその火は職人に燃え移り、焼死してしまった。 だが、ラジオ放送でも尋ね人のことは流されており、たまたまそれをミシェルは聞いていた。翌朝、ミシェルは姿を消していた。彼女は愛していないとメモがあった。落胆する間もなく、自殺をしようとしていたアレックスはポスター職人を焼死させたことで過失致死の罪で逮捕され3年の懲役となった。 刑務所で2年ほどたったころ、ミシェルが面会に来た。手術は成功し、あのポスターのような笑顔が彼女の顔に戻っていた。二人はアレックスが出所してからクリスマスの夜に橋の上で再会する約束をする。 果たして約束の夜、雪の降る中二人はすっかり工事の完了して人通りの多いポン・ヌフの上で会い、改めてアレックスは自分の肖像画を描いてもらう。だが午前3時になると帰ると言い出したミシェルに腹を立てたアレックスは自分もいっしょにセーヌ川に飛び込むのだが・・・(1991年) Directed by Leos Carax Writing credits Leos Carax Cast : Juliette Binoche .... Michèle Stalens Denis Lavant .... Alex Klaus-Michael Grüber .... Hans リスニング:フランス語。セリフはあまり多くないが、ミシェルのつぶやくような話し方は聞き取りにくい。 秋日和 2004/03/10 「晩秋」や「サンマの味」では、妻を亡くした男が、結婚してゆく娘に去られる設定だが、今回は逆に夫を亡くした女が娘に去られる設定となっている。男も女も、独り身の孤独をかみしめるエンディングは同じである。 三輪家の主人の7回忌が今執り行われている。未亡人の秋子、、むすめのアヤ子、そして昔の仲間たち間宮、平山、田口の3人が集まった。アヤ子はもう24歳で、そろそろお嫁に行っていい頃だ。仲間たちは、かつて学生時代には秋子にあこがれていたが、今度はアヤ子のことを心配し始める。 間宮が自分の会社の後藤をアヤ子のお見合相手にすすめるのだが、アヤ子は自分がいなくなれば一人暮らしになる母親のことを思ってか、今のままの暮らしでいいと言い、結婚に少しも乗り気でない。そのくせ偶然に後藤を見かけると、気に入ったらしくデートを始める。 そこで間宮は一計を案じる。アヤ子がなかなか結婚しようとしないのなら、まず母親の秋子を再婚させてしまえばいい。その相手としては仲間の一人である平山を「とりあえず」選んで、アヤ子にそれとなく母親のことをにおわせた。平山は妻を亡くして以来不便な生活を強いられており、この話には有頂天である。 だがこの計略は裏目に出て、三輪母娘の間に突然諍いが生まれてしまう。再婚のことなどまったく心当たりのない秋子は娘の怒りに当惑して為すすべもない。そこでアヤ子の同僚、寿司屋のちゃきちゃき娘、百合子が二人の仲裁にかって出た。 百合子は田口がいい加減な噂を広めたために秋子の再婚話がでたらめであると知った後、昔の仲間たちのところに怒鳴り込んでいく。百合子の剣幕に恐れをなした3人だが、おかげで母娘の仲はもとに戻る。アヤ子は母親が再婚するらしいことから後藤との結婚を決意する。だが、二人きりでの最後の旅行で、秋子は自分は再婚する意志はなく、このまま一人で暮らしていくのだとはっきり言うのだった。(1960年) 監督: 小津安二郎 製作: 山内静夫 原作: 里見■ 脚色: 野田高梧 小津安二郎 撮影: 厚田雄春 キャスト(役名) 原節子(三輪秋子) 司葉子(三輪アヤ子) 笠智衆(三輪周吉) 佐田啓二(後藤庄太郎) 佐分利信(間宮宗一) 沢村貞子(間宮文子) 桑野みゆき(間宮路子) 島津雅彦(間宮忠雄) 中村伸郎(田口秀三) 三宅邦子(田口のぶ子) 田代百合子(田口洋子) 設楽幸嗣 (田口和男) 北竜二 北龍二 (平山精一郎) 三上真一郎(平山幸一) 岡田茉莉子(佐々木百合子) 岩下志麻 (受付の女の子) 東京暮色 2004/03/11 (再)2024/02/26 途方もなく暗い映画である。いつもなら前向きの女を演じる原節子が、結婚がうまくいかずにどうにもならなくなった主婦の役を演じている。そして母親を知らない若い娘の孤独が悲劇へとつながっていく。もし全編を流れる軽い音楽がなかったら、堪えがたい話の流れになるだろう。 杉山周吉は、初老にさしかかった男だが、10数年前に妻に逃げられ、長男は山で遭難して死んだ。長女の孝子は結婚して幼い女の子がいるが、夫との間がうまくいかず、先頃実家に戻ってきて以来帰ろうとしない。 末娘の明子は大学を出て速記を習っているものの、気持ちが安定せず木村という男から離れられないでいる。実は明子は木村との子を妊娠していたのだ。子供をおろす費用として叔母重子に金を借りようとして断られ、さらに夜遅く喫茶店にいるところを刑事に見つかり、これも周吉と孝子にばれてしまう。 姉の孝子は心配して何とか事情を聞き出そうとするが、明子は誰にもうち明けようとしない。そのうち仲間のいる麻雀屋で、実の母親らしき人に対面する。しかし明子は母親喜久子が男をこしらえて家出したときにはまだ3歳で顔をまったく覚えていないのだった。 だがその後、重子から偶然喜久子を見かけたことを聞かされた孝子は麻雀屋まで出かけていって会いに行くが、明子にはそのことを秘密にしておいた。母親の暗い過去を妹に知らせたくなかったのだ。だが明子はことの真相を知ってしまう。 木村は明子が妊娠したことが分かると逃げ回り、相手の誠意に絶望した明子は中絶の手術を受ける。だが、母親の過去のことを知った上に、自分のしたことで後悔にさいなまされた明子は、ラーメン屋でしきりにいいわけをする木村をおもいきり殴ると、踏切から電車に身を投げた。 虫の息で、周吉や孝子の前でもう一度人生をやり直したいと口にしながら明子は死んだ。孝子は明子がこうなったのも、母親が家出をして寂しい思いをしたからだと考える。東京には住めないと室蘭へ去っていく母親の見送りにも行かなかった。でも自分の子供にはそんな思いをさせてはならないと、再び夫のもとへ帰る決心をするのだった。(1957年) 監督: 小津安二郎 脚本: 野田高梧 小津安二郎 企画: 山内静夫 撮影: 厚田雄春 キャスト(役名) 笠智衆 (杉山周吉) 有馬稲子(杉山明子) 信欣三(沼田康雄) 原節子(沼田孝子) 森教子(沼田道子) 中村伸郎 (相島栄) 山田五十鈴(相島喜久子) 杉村春子(竹内重子) 山村聡(関口積) 田浦正巳(木村憲二) 宮口精二(和田刑事) 彼岸花 2004/03/12 中年男の身勝手を描いた作品。娘の幸せのために自分の考えをあくまでも通そうという頑固さが、反対や計略にあい、次第にまわりと折れていく物語。主人公は表面的には偉そうに見えても意外と気弱で次第にまわりの女たちのペースに飲まれていく。 中年の重役、平山渉は妻の清子、長女の節子、次女の久子と4人暮らしだ。節子はもう年頃だから、できるだけよい縁を見つけて結婚させてやらなければならないと渉は考えている。中学時代の同級生も同じような年頃の子供たちを抱えていて、いずこも同じようなものだ。 さっそく節子のためにお見合い相手を準備するが、ある日渉が会社にいると、谷口という青年が訪ねてきて、いきなりお宅のお嬢さんをいただきたいという。近く広島に転勤するので早く結婚式を挙げたいのだという。渉は相手の男が好青年ながらあまりに唐突な申し出なのでしばらく考えさせてくれととりあえず谷口に帰ってもらった。 ところが家に帰って節子に問いただしても、自分の問題だからとはっきりと答えたがらない。しかも今まで二人のつきあいについて少しも知らせてくれなかったものだから渉は腹を立て、二人の結婚は許さないと言明する。妻の清子は節子を家まで送ってきた谷口を見て気に入るが、何せ渉の命令が強硬なので、とりあえずは反対できないでいる。 渉の会社に、京都のおばさん佐々木初が訪ねてきた。わざわざ東京の病院で人間ドックでの診断を受けに来たのだという。実はその病院には娘の幸子のお見合い相手にふさわしいという若い医者がいるというのだ。ところが幸子の方はそんな母親の計略はすでにお見通しでさっさと京都に帰ってしまう。母親の押しつけがましいお見合い作戦にはうんざりしていたのだ。そこで、京都へ帰る前に同じ年頃である節子と、もし縁談がこじれたらお互いに助け合おうという約束を交わす。 さらに渉の会社に中学時代の仲間、三上が訪ねてくる。仲間の一人の娘の結婚式に彼が出席しなかったのは自分の娘文子がとの間がこじれているせいだったのだ。文子は得体の知れない男と同棲し、銀座のバーに勤めているのだという。三上は渉にそのバーへ行ってちょっと娘の様子をうかがってほしいと頼んだ。渉は自分の娘が反抗して手を焼いているのに、仕方なく三上のために部下を連れて銀座のバーまで様子を見に行く。 そこでわかったのは、独立心に燃える娘は、何でも自分の思い通りにしないと気が済まない父親にはうんざりしていることだった。これでは自分の娘の場合とまるで同じである。そして人の娘には客観的で冷静な意見をすることができるのに、いったん自分の娘となると感情が先走っていつだって喧嘩腰になってしまうのだが、渉は妻の清子や次女の久子の意見にも耳を貸さず、矛盾しているとわかっていながら頑固にも節子に対する態度を変えようとしない。 そこへ京都から幸子が突然やってきて、自分が母親から気の進まないお見合いを押しつけられて家出してきたと渉に告げる。渉はやはりひとごとなので自分の好きなようにした方がいいと幸子にアドバイスするが、実はこれは節子を助けに来た幸子のトリックで、渉は同じ意見を節子に対してもとらなければならない羽目になる。幸子の計略に負けたとたん、節子と谷口との間はトントン拍子に進み、結婚式が行われてしまう。 はじめのうち式にも出ないと言っていた渉も最後の土壇場で折れ、二人は谷口の新任地広島へと旅立っていった。その後渉は愛知県の蒲郡で中学の同窓会に出席し、仲間たちと子育ての難しさを話題にする。せっかくここまで来たのだからと、西に足を延ばし京都の佐々木母娘にも会ってくる。幸子は、節子が自分の父親の優しい笑顔を見られずに結婚してしまって寂しい思いをしていると話し、無理矢理に渉はさらに西へ広島まで節子に会いに行かされてしまう。(1958年) 監督: 小津安二郎 製作: 山内静夫 原作: 里見■ 脚色: 野田高梧 小津安二郎 撮影: 厚田雄春 キャスト(役名) 佐分利信(平山渉) 田中絹代(平山清子) 有馬稲子(平山節子) 桑野みゆき(平山久子) 佐田啓二(谷口正彦) 浪花千栄子(佐々木初) 山本富士子 (佐々木幸子) 中村伸郎(河合利彦) 清川晶子(河合伴子) 北竜二 北龍二 (堀江平之助) 笠智衆(三上周吉) 久我美子(三上文子)高橋とよ(若松の女将) 誘惑のアフロディーテ Mighty Aphrodite 2004/03/16 (再)2015/10/16 ウッディ・アレンの作品はニューヨークが舞台で、いつも最後にほのぼのとさせられる結末が待っている。彼自身が主人公になって失敗を繰り返しうだつがあがらず、まるで実際の人間のようでそれがますますストーリーを身近に感じさせるもとになっている。 今回は娼婦リンダが中心になっている。魅力的な娼婦といえば「プリティ・ウーマン」を思い出すが、シンデレラ的なロマンスではなく、笑いの要素を加味しながらも平凡な幸せに落ち着くというのがこの監督の作品らしいところだ。 ストーリーの進行と共にギリシャの遺跡の中で踊り狂う仮面をかぶったギリシャ人たちの歌がナレーション代わりをしている。それで美と愛の女神としてギリシャ神話では有名なアフロディーテの名前が出てくるのだ。彼らは予言者のように、主人公に向かって警告したり忠告したりする。 スポーツ記者をしているレニーはバリバリ働く実業家である妻のアマンダと二人暮らしだ。最近彼女は自分の画廊を開設しようとあちこち跳び回っている。その彼女があるとき、子供がほしいと言い出した。 もちろんこの忙しい中で妊娠することはできないので、養子をとるということになった。はじめは渋っていたレニーもかわいい男の子マックスとの暮らしがいざ始まると、子供の世話にかかりきりである。 マックスはすくすくと成長し、賢い少年になろうとしていた。レニーとアマンダとではどちらがボスなのかと質問したりする。 自分の血を引いていないこの子の親はどんな人間なんだろう?レニーは気になってしょうがない。(ギリシャ人たちの止めるのも聞かず)養子紹介所に忍び込んで、母親の居所を突き止める。 母親はリンダといい、女優志望だが生来の放浪癖でポルノ女優に出たり、今は自宅で娼婦としての営業をしている。最初は客として彼女の家に出かけたが、話すうち彼女の魅力と頭のさえにレニーは感心する。 生まれたばかりの赤ん坊を養子に出したのはとてもつらい時期にあったからだ。父親は当時の相手が多すぎてだれだかわからない。子供のことは今でも片時も忘れられないでいる。レニーの養子になっていることなど知る由もない。 レニーは次第にリンダと親しくなり、競馬に出かけたり、今の暮らしを清算して平凡な暮らしに戻ることをすすめる。レニーに感化されて娼婦をやめようとしたときも、元締めと手を切る交渉に行ってもらったりもした。 レニーが取材によく行くボクシングジムに入った新人で農業志望の男をリンダに紹介して「お見合い」をし、互いに気に入るが、彼女がポルノ女優で娼婦をやっていることがばれてしまい、あっけなく二人の仲は終わる。 一方アマンダは多忙のため、レニーとゆっくり食事をしたり話をしたりする暇もない。次第に二人の距離が離れて行く中、仕事がらみでアマンダに言い寄る男がおり彼女の気持ちがそちらへ傾いた。失恋したリンダと妻がいなくなったレニーは一夜を共にする。 アマンダはレニーを裏切ることはできず戻ってきた。仲直りをした二人だが、アマンダはそれで妊娠した。リンダはその後ヘリコプターのパイロットと結婚し子供がまもなく生まれたがそれはレニーの子なのだ。 それからしばらくしてニューヨークのクリスマスの夜、レニーとリンダは偶然デパートで出会う。それぞれが連れている子供が互いの種を宿していることはどちらも気づかない・・・(1995年) Directed by Woody Allen Writing credits (WGA) Woody Allen (written by) Cast; Woody Allen .... Lenny / Helena Bonham Carter .... Amanda / Mira Sorvino .... Linda Ash リスニング;ニューヨーク英語。リンダのよくしゃべること。内容があって、娼婦の生活についてのあっけらかんとした話しもおもしろい。ギリシャ人の「予言」もコーラスになっていてダンスと一体化されている。・・・資料 ミッドナイト・エクスプレス Midnight Express 2004/03/18 (再)2013/07/14 1970年に起こった実話をもとにした映画。アメリカとトルコとの間にはまだ囚人の交換協定もできておらず、外交のはざまでひどい目にあった青年の恐怖の体験を映画化している。刑務所の実状の描写は、トルコにとってあまり名誉なことではないが、一見の価値がある。 イスタンブールに旅行に出かけたアメリカ青年ビリー・ヘイズは、出来心からハシッシュを体にテープで貼り付けて税関を通り抜けようとする。トルコ国外に持ち出せば高額で売れるからだ。 だが、何とか税関を通り抜けたものの、ゲリラによる爆破事件が中東で立て続けに起きたために、軍隊による身体検査を受け、飛行機に乗る直前に発覚してしまう。いっしょに旅行していたガールフレンドのスーザンは運良く飛行機に乗り込むことができた。当時アメリカとトルコは関係が冷却しており、申し開きも何もなく、直ちに刑務所に送られた。 ニューヨークには両親や弟や妹がいた。、父親が有名弁護士を頼んで奔走してくれたのにも関わらず、裁判では4年七か月の判決を受けた。これでも運がいいという。検事は終身刑を求刑していたのだから。仕方なくビリーは刑務所の中で刑期が終わるのを待った。模範囚になれば刑期が短くなるかもしれないという淡い希望を抱きながら。 刑務所は巨大な建物で、おおぜいの囚人が中庭を右往左往し、所長は無慈悲な男で拷問をかけることが何よりも好きだった。お茶を出す係りの看守アフメットは意地悪で囚人たちをひどく扱った。ほとんどがトルコ人の中で、マックスというイギリス人など、わずかながら外国人も含まれていたが、その罪は軽微でも刑期は終身刑に近かった。 しかし刑期が終わりに近づいたころ、裁判の再審を知らされる。アメリカとトルコとの関係が悪化したこともあって、納得しない検事が裁判のやり直しを要求したのだ。判決は終身刑。せっかくこれまで耐え抜いたのにビリーは絶望にとらわれた。再び長い刑務所暮らしは続く。同性愛関係が生じたこともあった。 囚人用語で脱獄のことを「深夜特急 Midnight Express 」という。ビリーが収容されていた刑務所は古い建物で、地下にはかつてキリスト教徒が墓地を作っていたという。外国人の仲間と共に、地下へ通じる通路を探し、ついに発見する。だがそれはアフメットに見つかり通報され、仲間の一人は拷問を受けてヘルニアになり、療養所へ送られる。 ビリーはアフメットに何とか復讐してやろうと思い、彼のへそくりを盗み出し焼き捨てる。アフメットの人生はこれでめちゃめちゃになるが、刑務所を去るときに、マックスがハシッシュを隠し持っているかのように見せかけて、所長に拷問にかけさせる。あまりに汚い手を見て、ビリーは怒り心頭に達し、アフメットを襲い殴り殺してしまう。 もちろん、その結果は分かっていた。徹底的に拷問を受けた後、精神病の囚人を集めた場所に移された。すっかり気が抜けたようになったビリーだが、ある日スーザンの訪問を受ける。たまらなくなったビリーは彼女に向かって胸をはだけてくれるように頼む。ガラス越しにその露わな乳房を見ながら、ビリーは長年の思いを遂げたのだった。 スーザンが渡してくれた家族アルバムにはドル札が何枚かはいっていた。隣国のギリシャでは知人が飛行機の切符を用意して待ってくれているという。考えた末、ビリーは所長に100ドルを渡し逃がしてもらおうとする。だが、金を受け取った所長はビリーを拷問室に連れ込んだ。 必死の思いでビリーは所長に頭突きを食らわし、所長はうしろへ突き飛ばされて、壁に突き出ている金具が脳を突き刺し即死した。ビリーはピストルを奪うとイスタンブールの町に飛び出した。(1978年)・・・資料 Directed by Alan Parker Writing credits Billy Hayes (book) and William Hoffer (book) Cast: / Brad Davis .... Billy Hayes / Irene Miracle .... Susan / Bo Hopkins .... Tex / Paolo Bonacelli .... Rifki / Paul L. Smith .... Hamidou (as Paul Smith) / Randy Quaid .... Jimmy Booth / Norbert Weisser .... Erich / John Hurt .... Max / Mike Kellin .... Mr. Hayes / Franco Diogene .... Yesil リスニング;外国人同士の会話は英語であるが、それ以外はみなトルコ語。これには字幕がついていない。でもトルコ語の学習者には参考になるかもしれない。 上へアマデウス Amadeus 2004/03/21 モーツァルトは過労死させられたのか?モーツァルトがウィーンに1781年にデビューしてから1791年に死ぬまでの時期を扱った映画。 当時の宮廷学長であり、ライバルとしてモーツァルトを毒殺したという噂のある、サリエリが晩年、神父に身の上話を語るという形でさまざまな名曲をちりばめながらストーリーが進む。 モーツァルトの驚くべき才能と人間性の魅力と同時に、サリエリのように音楽への熱意はあるのだが才能が与えられていない人物(つまり我々のような凡庸な大多数の人間)を対極に置いて話を進めている。 当時のオーストリア皇帝ヨーゼフ2世のもとで、すでに国中でうわさが広まっていた天才音楽家を宮廷に呼ぶことになった。サリエリは、いったいどんな奴かとパーティをのぞいて仰天する。 そこにいたのは素っ頓狂に笑い、糞尿言葉を好んで口にする、女の子の尻を追っかけるのが大好きな若僧だった。しかし会場で演奏された曲は、サリエリが今まで聞いたこともない途方もなく新しくそして自然に流れる不思議な魅力を持っていたのだった。 皇帝に謁見することになったので、サリエリも歓迎の曲を用意してモーツァルトに会う。オペラを作ることになったが、モーツァルトはそれまでのお堅い題材はつまらないという。「ギリシャの石像は大理石のウンコをしていればいいんだよ」とうそぶく。彼の提案はトルコのハーレムが舞台だった(後宮からの誘拐)。 その後サリエリの曲をそらで弾いて、しかも彼独特の変奏曲を作り出したと思ったら、こんどは新しい曲が次々と泉のようにわき出るのだった。皇帝をはじめとしてまわりの者たちは声も出ない。 自分が教えていた声楽の女の子もいつの間にかこのオペラのプリマドンナとなり、このころからサリエリはどうしてこんな軽い若僧に途方もない才能が与えられ、自分は平凡な音楽長で終わってしまうのかと悩み始めた。 モーツァルトは、コンスタンツェという女の子と結婚することになった。だが二人の生活は楽ではない。著作権のない時代、宮廷お抱えではなくフリーの作曲家の生活は楽ではないし、彼の場合には金を使うよりも出ていく方が早かった。しかもその傾向はだんだんひどくなっていくのだった。 そこへザルツブルグから心配した父親がやってきた。コンスタンツェは妊娠し、新婚夫婦のかなり派手な生活のさまに父親はいろいろと口を出すが、結局彼らの生活とウマがあわず帰っていく。 サリエリは夫婦の生活ぶりを知りたいと思い、自分で給料を払ってメイドをスパイ代わりに送る。そして皇帝が禁止した「フィガロの結婚」という戯曲をオペラ化しようとしていることを知り、その上演を妨害しようとするが、モーツァルトの巧みな計略で失敗に終わる。 その後、父親が死んだ。「ドン・ジョバンニ」に出てくる黒い騎士の姿を見て、サリエリはモーツァルトが父親の亡霊に完全に支配されているのではないかと思う。そのころますますモーツァルトの私生活は借金漬けになっていくが、彼は酒を飲みながらも創作活動はやめようとしない。 ある日、見知らぬ男がドアのノックし、死者の曲を書いてくれという。前金をたんまりはずむという。金に困っていたモーツァルトはこれ幸いと引き受ける。この見知らぬ男はサリエリかその使いの者だったのかもしれない。 そのころ宮廷音楽から離れて、大衆オペラの分野にも作曲活動を広げ始める。シカネーダーという興行師に頼まれて作ったのが、「魔笛」で、これは大好評を博した。だがその直後に生活苦とあまりに大量の作曲での疲労がたまり彼は倒れ、サリエリによって自宅へ運ばれる。 サリエリはその夜、見知らぬ男が完成を急げばもっと金をはずむと嘘をつき、起きあがれないモーツァルトが口述する「レクリエイム」の代筆を行った。だが、未完のまま力つき翌朝、彼は療養から戻ってきたコンスタンツェの目の前で動かなくなっていた・・・ サリエリはモーツァルトを毒殺こそしなかったが、神が自分に才能を与えなかった恨みで死なせたのだと、神父に得意げに話して聞かせたのだった。(1984年) Directed by Milos Forman Writing credits Peter Shaffer (play)/ Peter Shaffer (screenplay)Cast: F. Murray Abraham .... Antonio Salieri / Tom Hulce .... Wolfgang Amadeus Mozart / Elizabeth Berridge .... Constanze Mozart / Simon Callow .... Emanuel Schikaneder/Papageno / Roy Dotrice .... Leopold Mozart / Christine Ebersole .... Katerina Cavalieri/Costanza / Jeffrey Jones .... Emperor Joseph II リスニング;英語そのものはとても聞き取りやすい。 上へミシシッピー・バーニング Mississippi Burning 2004/03/23 なぞなぞ: eye (目)が4つもあるのに見えないものなあに?答え、Mississippi です。i が4つありますから。英語でも eye と I というような同音ダジャレがあるのだ。 1964年にこの南部の州で起こった事件を題材に台本を作り上げた映画。二人の FBI 捜査官を中心に話は展開し、いわゆる「深南部」と呼ばれる部分に巣くう人種差別主義者の実態を暴く。 ミシシッピー州の田舎町に二人の白人と一人の黒人の乗った乗用車が疾走していた。彼らは公民権運動の組織の一員で、黒人のための有権者登録所を設置しようとしていた。 何しろアメリカでは、ただ成人だというだけでは選挙ができない。必ず有権者登録が必要だ。貧しい人々やへんぴなところに住んでいる場合には登録するために、登録所まではるばる遠く出かけていかなければならないし、ちょっとした違反でも登録を断られる。つまり政治的に都合の悪い人々には投票させないことができるのだ。 この21世紀でも、共和党のブッシュ大統領が当選したときにフロリダ州でそのような操作が行われ、民主党に投票することの多い黒人たちの多くが選挙する資格を奪われた。 3人の若者たちは当然のことながら地元のグループに目を付けられ、追跡され車を止められたあげく射殺された。車と死体は始末された。若者たちの行方不明のニュースは FBI を動かし、特別捜査官のウォードと保安官出身のアンダーソンがこの地域に乗り込んできた。 ウォードはいかにも官僚出身らしい実務家で、綿密な捜査を重視していた。これに対しもともと南部が生まれ故郷のアンダーソンは足で回り、それとなく人々からの聞き込みを得意としていた。だから最初のうちはなかなか二人はウマがあわずしばしば衝突した。 まず町の保安官、保安官代理、町長などと会い、状況を尋ねる。だが彼らは何かを知っているようだが同郷の結束は固く、何も手がかりが得られなかった。黒人たちから情報を得ようとしたが、焼き討ちやリンチを恐れて口を開くものは少ない。 「カラード」席が「白人専用」席とはっきり分けられているレストランでも、彼らが少しでも捜査官たちと話をしたりすれば、後で恐ろしいことになるのだった。捜査官の泊まっている部屋にも爆発物が投げ込まれ、これ以上首を突っ込むと命を保証しないという警告が届く。 とても二人ではやっていけないと知ったウォードは本部から100人以上の応援を頼む。インディアンからの情報もあってやがて大きな沼から行方不明の若者たちが乗っていた車が引き上げられた。だが死体は見つからない。 アンダーソンは町中を歩いて様々な人に会う。美容院に行くと、美容師をしている保安官代理ペルの妻に出会った。彼女から問題の事件の日に夫がどのような行動をしたかわかるかもしれない。 その間にもこの地域での KKK の活動や、その連中が集まっている酒場などが次第に明らかになってきた。だがいったい誰が真犯人であり、暴行の指揮を行っているかがなかなかわからない。ましてや事件の証拠集めさえもままならなかった。 だが、増員された FBI 捜査官に対する敵意もあって黒人への暴行は激しさを増してきた。勇気ある黒人少年の頭に段ボール箱をかぶせ、車で町を走り回り、放火犯人グループのメンバーを特定すると、犯人たちは捕まったものの、地元の判事による判決は驚くほど被告に甘いものだった。 黒人たちは激高し逆に黒人暴動も広がり始める。地元の人々の醜さにショックを受けたペル夫人は、ついにアンダーソンに若者たちの死体が埋められた場所を教え、事件の夜に夫がどこかに出かけていたことも話す。 死体は発見された。だがそのためベル夫人は夫にひどく殴られ、病院に運ばれた。これを見たウォードは、ついにアンダーソン流の犯人検挙の方法を許可する。もはやぐずぐずしていることはできない。ここから捜査活動は一転する。 まず町長を誘拐し、わざわざこの町まで特派された黒人捜査官がかみそりを持って脅した。これで犯人のメンバーが明らかになった。次に若者たちを殺したメンバー一人一人に当たって白状させる。 あるものは深夜、森の中に連れ込まれて KKK の白いずきんをかぶった捜査官たちに今にも首吊りにされそうになるなど、荒っぽい方法で自白を集め、ついに逮捕に踏み切った。彼らの行動を黙認した町長は自殺し、多くの者たちが懲役を食らったのだった。(1988年) Directed by Alan Parker Writing credits (WGA) Chris Gerolmo (written by) Cast : Gene Hackman .... Agent Anderson / Willem Dafoe .... Agent Ward / Frances McDormand .... Mrs. Pell / Brad Dourif .... Deputy Clinton Pell / R. Lee Ermey .... Mayor Tilman / Gailard Sartain .... Sheriff Ray Stuckey / Stephen Tobolowsky .... Clayton Townley リスニング;南部英語の理想的教材。ただし、テレビのインタビューに出演する人々をのぞいてそれほどきつい訛りではないようだ。FBIの人々は標準英語。 終着駅 Terminal Station / Stazione Termini 2004/03/26 2010/05/30 戦後まもなくで、物売りや浮浪舎が座り込み、あらゆる人々の行き交う、ローマのテルミニ駅構内での午後7時から8時半に至るまでの男と女の出来事を、ほぼ同じ時間の映画におさめてある。従ってストーリー性は特にないのだが、恋の終わりと,、特にヒロインの感情の揺れが見事に表現されている。別タイトルは「アメリカの人妻の過ち Indiscretion of an American Wife 」である。 思い出されるのはキャサリン・ヘップバーンの「旅情」。だがそちらは独身女である。そして最後の別れの場面を比較してみるといい。どちらも去りゆく女を男が駅のホームから見送るのだが、ずいぶん趣が違うことがわかるだろう。メリーはアメリカから夫と娘のキャシーを自宅に残して、ローマにいる姉の家にやってきた。ローマを散策するうち、スペイン階段の近くで若い男ジョバンニと禁断の恋に落ちてしまった。ジョバンニは大学で教える教師だった。何度か逢い引きを重ねるうち、メリーは罪悪感にさいなまされ、突然ローマから旅立とうとする。 今日も、夕方にジョバンニの部屋の前まで行ったが、ノックすることなくテルミニ駅にやってきた。7時にはミラノ行きの列車が出る。大急ぎで甥のポールに電話をかけ、自分の荷物を鞄にまとめて駅まで持ってきてくれるように頼む。美しいアメリカ女に、行き交う人々の好奇の目が注がれる。男たちはちょっかいを出そうとする。 突然の出発にとまどいながらも、ポールは駅まで荷物を持ってきてくれ、メリーはキャシーへのおみやげのドレスを買った後、列車に乗り込むのだが、ちょうどそのときにジョバンニがやってきて、待っていたのに来なかったこと、そして何も連絡もなく旅立ってしまうのかとメリーを責める。 メリーは結局、その列車に乗らなかった。そしてジョバンニと駅構内のレストランで話し合う。ジョバンニはキャシーを引き取って、自分の生まれ故郷であるピサにある海の見える家で暮らそうという。メリーはだが、夫と娘の顔が思い浮かび、やはり帰らなければならないという。そして8時30分発のパリ行きに乗ることに決める。 ジョバンニは激高し、思わずメリーを殴ってしまう。それをさっき立ち去ったはずのポールが偶然見ていた。ジョバンニが姿を消した後、メリーはポールと三等待合室に入る。ところがベンチでとなりに座っていた女の気分が悪くなり、彼女は医務室まで付き添ってやる。その女は妊娠しているばかりでなく3人のかわいい子供も連れていた。 イギリスの炭坑が閉鎖され、家族でイタリアへ帰郷する途中で、彼女は単なる旅の疲れだったのだが、夫が自分の子供たちや妻のことを話し、そのまとまっている家族の様子を見て、メリーは自分もやはりアメリカに帰るべきなのだと思ったのかもしれない。そして3人の子供にチョコレートを買い与えるのだった。 一方ジョバンニは、殴ったことを後悔して必死になって再びメリーを捜していた。ふと見ると向かい側のホームにたたずんでいるではないか。ジョバンニは線路を横切って女に駆け寄ろうとする。そこへ入線の列車がやってきた。機関車は警笛をならすが、ジョバンニには聞こえない。危機一髪で彼の横を列車が通り過ぎた。 ジョバンニが無事だったのを見てメリーは再び男の腕に抱かれたいと思った。二人だけの場所を探して、待避線の回送列車に勝手に入り込み、二人は心ゆくまで抱き合った。だが、それを目撃していた駅員がおり、二人は駅の警察に連れて行かれることになってしまった。署長に報告することになった。 署長はなかなか現れない。8時15分になってやっと取り調べとなった。車輌への不法侵入は犯罪だが、署長は男との逢い引きには目をつぶり、アメリカで家族が待っているメリーのために、その場で二人を釈放するという粋な計らいをしてくれた。 あと出発まで5分。大急ぎで荷物を預かり所から受け取ると、運良く女性との相席で個室が見つかった。もうどうすることもできない。二人は見つめ合った後、列車は動き出した。ジョバンニは昇降口から飛び降りたものの、勢いがついていたためにみっともなくもホームに転がり落ちた。恋は終わったのだ。(1953年) Directed by Vittorio De Sica Writing credits Cesare Zavattini (story) / Cesare Zavattini .. .Cast: Jennifer Jones .... Mary Forbes / Montgomery Clift .... Giovanni Doria / Gino Cervi .... Police commissioner / Richard Beymer .... Paul (as Dick Beymer) リスニング;イタリアのデ・シーカ監督が作ったのだが、二人の会話はすべて英語。アメリカ映画ということになっている。ただし駅構内では、英語を解する人と、イタリア語しかしゃべらない人がそれぞれ登場する。 上へエヴァの匂い Eva 2004/03/28 ジャンヌ・モロー演じる妖しい女エヴァが一人の男を滅ぼす話。エヴァはいつだって「恋はお断り」と言っているのに、集まってくる男たちはますます彼女をモノにしようと贈り物を次から次へとささげるが、みごとに手玉に取られてしまうのだ。 冒頭に冬のサンマルコ寺院が映し出され、聖書の創世記の一句、「男と女は裸であったが羞恥心がなかった・・・」ではじまる。 カンヌ映画祭で高い評価を受けた映画の原作者ティヴィアンは、突然の評判のおかげで大金が転がり込み、ベネチアの町中に最高級品を集めた住まいをこしらえていた。コンスタンツェという婚約者がいるが、映画の監督と張り合っていた。 ある豪雨の日、運河で火事が故障した船が、彼の家の前を通った。二人の乗客が勝手に船を下りると、彼の家の窓ガラスを壊し中に入りこんだ。帰ってきたティヴィアンはもちろん住居不法侵入で追い出そうとするが、エヴァの妖艶な姿を見て考えを変える。 連れの男は何とかエヴァをモノにしようとしていたのだが、ティヴィアンはさっさと彼を追い出すと、エヴァを自分の寝室に泊めた。ところが彼女は決して自分の体に彼を近づけない。しかしもうそのときからティヴィアンはエヴァの虜になってしまった。 エヴァはアフリカのダム建設工事に行っている技師の妻だという。ローマの自宅の他にいくつかの別邸を持ち、ベネチアにも住まいを持っていた。彼女の過ごし方はジャズのレコードを聴くことだ。ビリーホリディの「 Willow Weep for Me 」がお気に入りである。「女はみな同じ」とよく言われるが、彼女は何か違う。 最大の関心は「お金」である。それを明言してはばからない。男たちに次々と高級な贈り物を次々に要求し、彼らの財産を搾り取ってゆく。夫はそんな妻の行動を許しているのか、謎である。普通の女と全く違う雰囲気に男たちは次々とひかれていくようだった。 ティヴィアンは、何度か辛抱強くエヴァに迫り、ようやく少しずついっしょに外出したり食事をしたりすることができるようになった。ティヴィアンが財産をかけてエヴァを待遇すれば、彼女は答えてくれるのだったが、決して彼に対して恋をしようとはしなかった。 もう一度ティヴィアンはエヴァを自宅に連れてきたかった。だが、エヴァはベネチア一の最高級のホテルに連れていってくれるならいっしょに泊まってもいいという。ティヴィアンは自分の財産が残り少なくになっていながらも、友だちの約束も反故にして宿泊を決行した。 普段酒を飲まなかったティヴィアンがホテルでは鯨飲し、したたか酔った。そしてエヴァに実は映画で評判をとった作品は死んだ兄のものであり、自分は単にそれを売っただけに過ぎないと告白する。エヴァはこれに対して「情けない人!」とつぶやく。もはや彼女には軽蔑の気持しかなくなっていた。 いっしょに泊まってくれたことで用意した札束も受け入れない彼女を部屋に残して、ティヴィアンは出ていった。もうエヴァとは縁を切ろうと思った。そして急遽コンスタンツェと結婚式を挙げる。彼女は普通の女で、ティヴィアンに心から頼り切っていた。 だが、新婚間もなくコンスタンツェがローマに出かけている間、ティヴィアンはエヴァの夫が技師などではなく、プロの賭博師であることを知り、実際に賭博場へ出かけていく。そして強引に誘い出すとエヴァを自分の新居に連れてきた。 エヴァは家の中でまるで自分の部屋であるかのように振る舞い、煙草を吹かしてレコードをかけていた。そこへコンスタンツェが帰ってきたのだ。彼女はそれを見て絶望し、モーターボートを衝突させて爆発炎上し自殺してしまった。 ティヴィアンにとってもう何も残されたものはない。エヴァのいるアパートに忍び込むが、鞭で叩かれ血だらけになって追い出された。サン・マルコ寺院から、エヴァが見知らぬ男とギリシャへ旅立とうとしていた。いつ帰ってくるかわからないのに、ティヴィアンはまだ未練があった。最後に再び創世記の一句が語られる。「エデンの園は完全に閉じられたのだ。」(1962年) Directed by Joseph Losey Writing credits Hugo Butler / James Hadley Chase (novel) Cast : Jeanne Moreau .... Eve Olivier / Stanley Baker .... Tyvian Jones / Virna Lisi .... Francesca / James Villiers .... Alan McCormick リスニング;フランス語。男と女の会話は何が飛び出すかわからない。特にエヴァの話す内容は、普通の女とは違う。 上へ泥の河 2004/03/31 (再)2023/12/21 一面モノクロの世界である。もちろん81年の作品だからカラーが普通だ。それをあえてモノクロにしたのはその時代背景によるものだ。 貧しさにあるが、つかの間の交流をした信雄一家と松本姉弟には現代ではすっかり失われた暖かさが強くしみいってくる。 昭和31年大阪。戦争が終わって10年たつが、まだその傷跡から立ち直っていない人々がたくさんおり、神武景気などといっても暮らし向きがよくなったわけではなかった。 ここは環状線福島駅に近い、数ある河の一つ安治川。板倉という小さな家族がようやく軌道に乗り始めた食堂を営んでいた。 父親の晋平は、満州から引き揚げて若い妻貞子をもらい、40歳を過ぎてから長男の信雄が生まれた。信雄も今では小学3年生だ。ある暑い夏の日、彼らの食堂に立ち寄った馬引きのおじさんが転倒した馬車の下敷きになって橋の上で死んだ。 戦死を免れても、この日本の中でもいつ死ぬかわからない、と晋平はいう。信雄は激しい雨降りの日に、事故のあった橋の上で、きっちゃんと出会う。きっちゃんは今度移動してきた川船の子供だった。松本喜一という。信雄の家から窓越しにその船はよく見える。 信雄ときっちゃんは仲良くなり、船まで遊びに行く。そこには姉の銀子もいて、信雄にとても親切だった。不思議なことにその川船はわたし板が2枚あって、船尾にはその姉弟がいたが、船首の方には母親が独りで住んでいるのだった。最初の日にはその母親の声しか聞くことができなかった。 ゴカイとりのおじいさんがある日河の上で行方不明になった。死体は見つからない。河ではそういうことが頻繁にあるのだ。松本姉弟は学校に来るようになるが、なぜか信雄の友だちはきっちゃんを避けるのだった。みんなあの船は「廓船ーくるわぶね」だということを知っていたのだ。 信雄は松本姉弟を家に招待する。両親は川船の秘密を知っていたにもかかわらず二人を大歓迎してくれた。はじめはなかなか慣れなかった二人だが、自分たちの家庭になかった雰囲気を知り、しだいにうちとけてきた。きっちゃんは「戦友」を歌う。死んだ船長だった父親が教えてくれたものらしい。晋平はじっと聞き入っていた。 ある日、信雄が川船に遊びに行くと、きっちゃんはおらず母親の呼ぶ声がする。そこではじめて信雄はきっちゃんたちの母親の姿を見た。狭い船の中には布団が敷かれ、彼女は厚化粧をしていた。 晋平は、かつて世話になっていた女性がいた。貞子が現れなかったらその人と結婚していたかもしれない。だが戦後の混乱はその女性を引き離し、今では病院で死の床にあった。その女性がどうしても信雄の顔を見たいという。信雄は両親に連れられて京都の病院へ行った。 福島天神さんの祭りの日になった。連れていってくれるはずの晋平がどこかへ行って帰ってこないので、信雄はきっちゃんと二人で夜店に出かける。運悪く穴のあいたポケットからお金を落としてしまったが、夜遅く帰ってきた二人はきっちゃんの宝物であるカニを見ることにする。 川船の中で、きっちゃんはカニに火をつけて遊ぶ。それをやめさせようとする信雄。そのとき隣の船室からうめき声が聞こえてきた。逃げ出したカニを追って甲板を這った信雄は、船窓からきっちゃんの母親と目が合い、入れ墨をした男が覆い被さっているのを見てしまった。 翌朝、川船はタグボートにひかれて突然移動を始めた。信雄は追いかける。きっちゃんの名を呼びながら追いかけた。船は信雄が追いつくぐらいゆっくり進む。だが船の甲板に人影はなく、ついに信雄の視界から消えた。(1981年)・・・資料 監督:小栗康平 製作:木村元保 原作:宮本輝 キャスト(役名) 田村高廣(板倉晋平) 藤田弓子(板倉貞子) 朝原靖貴(板倉信雄) 加賀まりこ(松本笙子) 柴田真生子(松本銀子) 桜井稔(松本喜一) 殿山泰司(屋形舟の男) 芦屋雁之助(荷車の男) 上へ生まれてはみたけれど 2004/04/01 昭和7年であってもすでに日本は、世界に発展する経済大国を目指していた。そのためには、サラリーマン精神がしっかり確立されていなければならない。子供たちはしっかりお勉強をして偉くなるようにいわれているが、大多数は何とか食いつなぐために宮仕えの悩みを背負っていかなければならない。監督はもうすでにあまり明るくない未来の姿をこのときから描写し始めていた。 麻布に住む*さん一家は、今度お父さんが課長に昇進し、近くに重役の岩崎さんが住んでいる郊外に引っ越してきた。まだ空き地が多く、そばを通っている通勤電車は一両編成だ。お母さんと兄、弟の4人家族。お父さんはさっそく岩崎さんのところに挨拶に行く。 子供たちの世界は別だ。地元のガキ大将亀吉とそのグループは、まず弟を見つけていじめ始める。だが、兄貴が現れてこれがなかなか強い。だが、この分では当分つきまとわれそうだ。そのころ子供たちの間では雀の卵を飲み干すことがはやっていた。力がつくのだという。 兄弟は新しい学校に通うことになったが、また亀吉グループがいると思うと登校する気になれない。途中の野原で二人は昼間を過ごすことにした。お母さんの作った弁当を食べ、習字を書いて、酒屋の小僧に「甲」の署名をしてもらった。 だが、先生の話を聞いたお父さんにその晩叱られる。翌朝からはなんとしても学校に行かなければならない。その日、兄貴は酒屋の小僧に頼んで亀吉をやっつけてもらう。おかげでこのグループの大将になれそうだ。ここでの儀式は「家来」に向かって十字を切る。そうすると家来はその場で仰向けに倒れなければならない。もう一度合図をすると起きあがることが許される。 こうして次々と亀吉の子分たちを自分の家来にしたし、その中には岩崎重役の息子の太郎ちゃんも含まれていた。さて、その晩重役の家では活動写真の映画会が行われることになった。会社の人たちの他に、近所の子供たちも駆けつけた。 岩崎さんは映画を撮影することが趣味で、今度16ミリで作成し、みんなの前でご披露となった。上野動物園、浅草とおもしろい場面が次々と出たあと、会社の風景をうつした場面が出てきた。その中には兄弟のお父さんが写っていたのだ。それも変な顔をしたりタコ踊りをしたりして。 これを見たみんなは大喜びだったが、兄弟はおもしろくない。偉くなるために勉強しろと言っていたし、お父さんはきっと偉いんだと思っていたのに、こりゃなんだ。あんなふざけた格好で映画に写るなんて、恥さらしだ!兄弟は怒って家に帰ってしまった。 あとから帰ってきたお父さんの前で、兄弟は憤慨している。そして何で岩崎さんの前で深々とお辞儀をしたり、ぺこぺこしなければならないのかと問いつめる。お父さんはもちろん答えることができない。あまりしつこいので、兄貴の方を殴ったが、ますます強情にするばかりだった。 兄弟そろっての反抗にお母さんは心配したが、お父さんの方もやりきれない。酒ビンを持って考え込んだ。おまえたちを食わせるためには、したくないけど我慢して上司のいうことをハイハイと聞かなければならないというのに。おまえたちだって大学を出てサラリーマンになれば同じような侘びしい人生が待っているんだぞ・・・ 翌朝、兄弟は朝御飯を食べようとしない。ぺこぺこしてまでもらったお金で用意した食べ物なんていらないと言うわけだ。両親はいつまでハンストが続くか心配したが、お母さんがおにぎりを作って横に置くと、まず空腹に耐えかねた弟が手を出した。ようやく二人は食べ始めた。 両親がほっとしたところで登校の時間が迫ってきた。父親と踏切まで一緒だ。踏切には岩崎さんの車が止まっている。子供たちの手前近づくのをためらっている父親を見て、兄貴の方が言った。「お父さん、早くお辞儀をしに行った方がいいよ」。昨晩の事件は兄弟を少し大人にしたようだ。(1932年昭和7年・モノクロ・サイレント) 監督:小津安二郎 脚本:伏見晁 原作:ジェームス槇 撮影:茂原英朗 キャスト:斉藤達雄(父) 吉川満子(母) 菅原秀雄(兄) 突貫小僧(弟) 男はつらいよ・寅次郎真実一路 2004/04/02 最初の10分間は、怪獣映画である。寅次郎扮する博士がタコ社長の扮する総理大臣に、怪獣をやっつけるようにと頼まれる夢だ。ゴジラというよりもエリマキトカゲに似た怪獣が東京を破壊し、博士の住む筑波山麓に迫る。 ある日寅さんがとらやへ帰ってみると、タコ社長の娘あけみが夫と喧嘩して戻ってきたところだった。寅さんはさっさと別れろというが、せっかく家に帰るようにと説得したばかりだったので、社長と大喧嘩になる。御前様の仲裁が必要になった。 ふてくされて上野で酒を飲んだのはいいが、払う金がない。さくらに電話してもいろよい返事をしてくれないので、電話を切ってしまう。さあ、いよいよ無銭飲食で留置場入りか?さいわい横で飲んでいた鹿児島出身の男、富永が金を払ってくれた。 翌日寅さんはバナナを携え、東京駅にある一流会社、スタンダード証券に、富永を訪ねていく。仕事が終わったら昨日のお礼にいっしょに飲もうと思ったのだが、仕事がなかなか終わらない。やっと10時近くになって富永は仕事から解放された。 二人はてんでに酔っぱらい、富永は枕崎の自分の故郷のことを話す。富永はこの会社の課長で、今度茨城県の常磐線にある牛久沼の近くに家を買ったのだ。前後不覚の寅さんは、いっしょに電車に乗り、彼の家に泊めてもらってしまった。 朝、目が覚めると、大変な美人の奥さんが朝食の用意をしてくれた。夫は7時半の会議に出るために6時にもう家を出たという。壁には富永のまじめな性格がよく出て、「真実一路」と書いた色紙が貼ってある。小学生の息子と3人暮らし。寅さんは夫人に心引かれながら早々に沼のほとりの家をあとにする。 それからしばらくたって夫人からとらやに電話があった。夫が会社を出たきり帰ってこないのだというのだ。大急ぎで牛久の家に駆けつけた寅さんだったが、いったいどこへ行ったのか見当もつかない。ただ毎日の過酷な通勤と猛烈な残業、ストレスの多い職場が、蒸発の原因だろう。 寅さんは不安で夜も眠れない夫人を慰めようと、とらやに招待した。夫人は自分と息子だけの寂しい食卓に比べて、とらやがなんて暖かくにぎやかかと驚いてしまう。息子はみんなの前で上手に歌をうたってみせた。 夫人は、九州の親戚が夫らしき人を見かけたというので、鹿児島まで行くことになった。金のない寅さんはタコ社長に頼み込んで金を貸してもらいいっしょに探しに行く。夫の実家に泊めてもらい、タクシーであちこち行ってみることになった。 枕崎を中心として、富永が小さいころ過ごした場所をあちこち回った。コスモスの咲き乱れる低い山に囲まれて波一つない小さな浜辺、ひなびた温泉、どこへ行っても目の覚めるような美しい風景に満ちあふれていた。夫人もこれまで夫がこういうところで子供時代を過ごしたということを知らなかったのだ。 温泉宿の宿帳には、宿泊者の名前が「車寅次郎」としてのっていた。確かに数日前この宿に富永は泊まったのだ。二人は霧島まで足を延ばしたが、結局見つからなかった。 柴又に戻ると、寅さんは寝たきりになった。すっかり夫人に惚れてしまい、心の底で富永が帰らなければいいという気持がわいてきて、自分はなんて醜い人間なんだと悩んでいたのだ。 だが突然とらやの店先に富永は姿を現した。無精ひげを伸ばし、このまま家に帰りにくいから、寅さんにいっしょに行ってほしいのだという。二人は大急ぎで牛久へ向かう。夫人が大泣きするのを聞いて、寅さんもほっとした。このまま土浦から旅に出ることにした。(1984年) 監督: 山田洋次 製作: 島津清 中川滋弘 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 朝間義隆 キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 津島恵子(静子) 風見章子(和代) 辰巳柳太郎(進介) 美保純(あけみ) 米倉斉加年(富永健吉) マドンナ;大原麗子(富永ふじ子) H O M E > 体験編 > 映画の世界 > コメント集(23) © 西田茂博 NISHIDA shigehiro |