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今年見た映画(2004年)
日曜はダメよ Pote tin Kyriaki / Never on Sunday 2004/04/04 (再) 2013/07/28 (再) 2016/06/02 これは、自分の国の価値が世界で最も正しく(実は全く逆なのだが)、それを世界中に広めることが自分たちのつとめと信じる、一部のアメリカ人の独善的なやり方を皮肉った最初の作品ではないだろうか。文化は多元的であれ、どれが優れているか(金の面は別として)を判定することは難しいのだが、この映画でギリシャ人の生き方を知ることができれば、大きな収穫というものだ。ここはアテネに近いギリシャの港町、ピレウス。人々はみな陽気で南欧の雰囲気丸出しだ。造船所の人々も、町行く人もみな明るい太陽の下で人生を楽しんでいる。酒場は踊る人々で満員。そこへ”進んだ”国、アメリカからおせっかいな旅人がやってきたからことが面倒になった。 町一番の娼婦イリアは、男たちのあこがれの的である。驚くほど大きな目、あらゆる国の船員の客がくるため、英仏伊その他と各国語を流ちょうにあやつり、気に入った男しか客にしない。午後の水浴のために彼女が海に飛び込めば、男たちは仕事をほったらかしにして、みんな次々と飛び込むのだった。 そこへ客船が到着し、ホーマー(=ホメロス)という一人のアメリカ人の男がおりたった。彼の目的はただ一つ、なぜあれほどの世界的な哲学者を生み出しながら、今このようにギリシャは”衰退”してしまったのか、という疑問を解決するためだ。メモ帳とカメラを持って町を歩き回る。 さっそく酒場に乗り込んで人々の生活を観察する。ところがホールの真ん中で、一人悦に入って踊っている男に拍手をしたため、思わぬ誤解を受け殴り合いとなってしまう。そこへ英語の話せるイリアがやってきて、喧嘩を収めてもらう。 折良く今度の日曜日はイリアの誕生日。ホーマーも招待を受けたが、彼女の部屋はファンの男たちでいっぱい。特定の恋人は持たないが、そのあふれる魅力で、いつも集まりの中心である。イリアがギリシャ悲劇に興味があると聞いて、ホーマーは身を乗り出すが、彼女の「王女メディア」の話は自分流に脚色したものだった。しかも最後にはいつも「浜辺に出るのでした」という終わり方のハッピーエンドのストーリーなのだった。 後日、ホーマーはイリアと実際の悲劇を鑑賞に行くが、彼女の劇の解釈は普通のとはまるで違っていて、ホーマーはあきれかえる。そして彼女の生活がこのように「堕落」しているのを何とか救わなければならないと信じ込んでしまう。 イリアに向かってホーマーは収入を補填するから、2週間の時間をくれと頼み込んだ。はじめはいやがっていたイリアだが、渋々引き受けることにした。ドアに「休業中」の看板を掲げる。はじめのうちはあくびをかみ殺しながらも教養の特訓を受け、いつまでも18の娘ではあるまいしと、ついには「廃業」の看板を掛けることとなった。 イリアの娼婦仲間たちの部屋は、あるアパートにあったが、家主が強欲な男で、法外な家賃を取り立てていた。だがここがいやになって引っ越しても、家主が手を回していて、行くところもない。ところがある日、娼婦の一人が、ホーマーと家主が一緒にいるところを偶然発見する。 彼女の知らせで、イリアはホーマーが家主から金をもらい、自分の勉強に使っていたことを知る。さあ大変、怒り心頭に発したイリアは娼婦仲間を引き連れてストライキを行い、家主側の弁護士と渡り合った。イリアの勢いに弁護士は譲歩し、家賃は半額となった! イリアは勉強に使った品物をみんなぶちこわして、もとの生活に戻ってしまう。廃業と聞いてがっかりしていた男たちは大喜び。ホーマーは、この国の人々に自分の「使命」がまったく通用しないと悟って、がっかりしてアメリカへ戻る。これまで書きためたメモ帳をピレエフスの港に船から投げ捨てて(1960年モノクロ)・・・資料 Directed by Jules Dassin Writing credits Jules Dassin Cast Melina Mercouri .... Ilya / Jules Dassin .... Homer / George Foundas .... Tonio / Titos Vandis .... Jorgo / Mitsos Liguisos .... The Captain (as Mitsos Lygizos) / Despo Diamantidou .... Despo リスニング;ホーマーを中心とする会話は英語なのだが、地元の人々はみなギリシャ語。船員によってはロシア語も混じるという、実に国際色豊かな言語シーンである。 恋人たち Les Amants 2004/04/07 耐え難い夫との暮らしにうんざりし、さりとて有名なハンサム男の求愛にも受け入れられない気持にあった女が、ふと知り合った男に一晩で気持が傾き、出奔する物語。モノクロの画面に男女が愛のひとときを求める。だが、それはその晩限りなのか・・・ ジャンヌはパリの南東、ブルゴーニュ地方の田舎町、ディジョンに新聞社主の夫アンリと大きな館に住んでいる。だが、夫の仕事は忙しく自分は少しも相手にしてもらえない。そのためパリに住む幼なじみのマギーのもとにしばしば泊まり込んで憂さを晴らしていた。 それでいてジャンヌは自らも嫉妬深い変わった性格で、急に夫の新聞社に乗り込み、秘書と夫がいちゃついているのではないかと疑ったりもするのだった。だが、夫は単に忙しいだけだった。そして妻への関心を失ってもいたのだ。夫婦の会話は皮肉のやりとりでしかない。 今はパリではポロ競技が人気で、とりわけその中でもラウムというハンサムでおおぜいの女たちがあこがれている男が、ジャンヌに関心を寄せてきた。ジャンヌも悪い気がしない。マギーの仲立ちもあって二人の間は急速に進展する。 だが、新聞業を営む夫がそんなニュースを知らぬはずはない。家に帰ると、それとなく彼女とラウムとの仲をねちねちと話題にする。たまらなくなったジャンヌはマギーとラウムをわざと自分たちの館に招待することにする。 招待の当日、ジャンヌはパリから一人で運転してきたのだが、川の畔で車が故障する。約束の時間が迫っているのに、為すすべもなく通りがかりの車を呼び止めると、ボロ車に乗ったランベールという若い男が拾ってくれて館まで連れ帰ってくれた。 このランベールという男は考古学者で、実は夫アンリの遠い親戚だったのだ。しかもマギーのようなタイプが大嫌いとはっきり言い、アンリはクマのようだといってジャンヌを大笑いさせる。 館に着くと、妻を送ってくれたということで、ぜひ今夜は食事をして泊まるようにとアンリにすすめられ、嫌々ながらランベールは一晩泊まることにする。その晩、ラウムが話題の中心となったがジャンヌは夫の手前、陰鬱な気分だった。 翌朝は釣りに行くという話になったみんなは早々に寝室に引き揚げた。ジャンヌは一人落ち着かず眠れなかったが、広間に出るとラウムにまといつかれ、それを振り切ると、館の外に出た。 真っ暗な中にランベールがいた。ジャンヌは自分の心に不思議な熱情が生まれてくるのを感じた。それは今まで一度も体験したことのないものであり、ジャンヌは今度こそそれにすべてゆだねてもいいと思った。暗闇の中のシーンは続く。夜が明けると二人は車に乗り、長い旅に出発した・・・(1958年・モノクロ) Directed by Louis Malle Writing credits Louis Malle / Dominique Vivant (novel) Cast: Jeanne Moreau .... Jeanne Tournier /Jean-Marc Bory .... Bernard Dubois-Lambert / Judith Magre .... Maggy Thiebaut-Leroy / Jose Luis de Villalonga .... Raoul Flores (as Jose Villalonga) / Gaston Modot .... Coudray / Alain Cuny .... Henri Tournier リスニング;平易なフランス語。 グランブルー Le Grand bleu / The Big Blue 2004/04/11 (再)2021/08/18 素潜り潜水記録に挑み、イルカを友としたフランス人、ジャック・マイヨールの半生を描いた映画。現実の彼とはまるで違うストーリーにはなっているが、超人的な能力とその不思議な人柄は全体を通して見事に描かれている。クストーのアクアラング映画以来の、鮮烈な海底の映像が映し出される。 1960年代のギリシャ。アメリカ人の母親は実家に去り、潜水して漁業を営む父親と共に少年ジャックは暮らしていた。彼も父親に似て海に潜ることが大好きで、素潜りで海底をさまよい、魚と戯れたりしていた。 地元のガキ大将はエンゾというイタリア少年で、2つ年下のジャックもいうことを聞かざるを得ない。彼も潜水が得意で、良きライバルだった。ある日ジャックは父親の仕事を手伝っていたが、悪い予感がして今日は潜らないでくれと頼んだ。だが、それは的中し父親は潜水事故で死んだ。(ここまでモノクロ) 下って1980年代、シチリア島に母親や弟と共にエンゾが住んでいた。得意の潜水を生かして船の修理の途中で起きた事故に巻き込まれた潜水夫を救出したりしていた。エンゾは、かつてギリシャで共に育ったジャックが今はどこでどうしているか知りたかった。 場面は変わってペルーのアンデス山脈の真っ白に覆われた凍り付いた湖。ここに荷物を積んだトラックが転落し、ジョアンナという保険会社の若き女性調査員が、損害の査定をするためにはるばるニューヨークからやってきていた。 彼女はそこで、不思議な目をした若い男性を見た。彼は凍った湖に穴を開けて潜水し沈んだトラックの調査をしていた。湖からあがってきたジャックにコーヒーを差し出したジョアンナは一瞬にしてこの青年の虜になってしまった。しかも帰りにイルカの人形のプレゼントまでもらう。 フランスのリビエラ海岸、コート・ダジュール。真っ青なプールの中にイルカが群れる。ジャックは彼らと戯れている。そこへやっと居場所を突き止めたエンゾがプールサイドに立っていた。ジャックの噂を聞きつけて素潜り潜水大会に出場しないかと誘いに来たのだ。 ニューヨークに帰ってもジャックのことが頭から離れないジョアンナは勝手に任務を作り出して大会会場のシチリアへ赴く。ここで二人は再会することができた。それを見ていた女性経験豊かなエンゾはジョアンナに忠告する。「ジャックは人間よりは異星人に近いんだぜ」。 確かにジャックはこれまで潜水とイルカのことしか頭になかった。口数がとても少なく女性に対する接し方も知らない。ジョアンナにはとても優しかったが、深夜に二人が寝ていたベッドから抜け出すと海に出て一晩中イルカと遊んでいるのだった。ジョアンナはニューヨークへ帰って行く。 大会は、沖合に係留した船の上から、ロープに沿いおもりをつけた選手が一気に海底に降りて行く。100メートルを超えなければならない。アクアラングをつけたスタッフが監視してはいるが、危険な競技だった。ジャックが僅差でエンゾに勝った。エンゾはライバル意識を燃やし、いつかジャックを負かすと宣言した。 いったんニューヨークへ帰ったジョアンナだったが、どうしてもジャックを忘れることができない。でたらめの名目でシチリアに出張したことで会社をクビになったが、ギリシャでの大会が開かれるのに合わせて再びフランスへ戻ってきた。そこで二人はいっしょに生活を始める。 だが、ジョアンナを愛していても、相変わらずジャックは海を友としている。ジョアンナは家庭を作りたかった。子供を産んで普通の人の暮らしをしたかった。だが、その気持がジャックに通じているかは定かではない。 ジャックは120メートルの潜水記録を立てた。これは前人未踏であり、彼の特殊な訓練やヨガの瞑想がそれを可能にしたのであるが、エンゾは何とかギリシャの大会ではそれを越えたいと願っていた。だが、医者は生命に関わるということで競技の中止を宣言した。だが、頑固なエンゾはそれを無視して勝手に潜水を強行した。 医者の危惧したとおり、エンゾは血液の循環が止まり、水面に出てジャックの腕に抱かれたときはもう虫の息だった。エンゾはジャックに自分がこの上なく愛した海の底へ葬ってくれと頼む。海底深く潜ったジャックはこのために自分も危うく命を落とすところだった。 その夜、安静を命じられたジャックだったが、突然起き出すとジョアンナの止めるのも聞かず、モーターボートで沖合の潜水船に乗り付けた。必死ですがりつくジョアンナを振り切り、彼女が妊娠したことも聞いているのかいないのか、ジャックは深夜の海底に一気に潜っていった・・・(1988年)・・・資料 Directed by Luc Besson Writing credits Luc Besson (story) Luc Besson (screenplay) Cast : Rosanna Arquette .... Johana Baker / Jean-Marc Barr .... Jacques Mayhol / Jean Reno .... Enzo Molinari / Paul Shenar .... Dr. Laurence / Sergio Castellitto .... Novelli / Jean Bouise .... Uncle Louis / Marc Duret .... Roberto / Griffin Dunne .... Duffy / Alessandra Vazzoler .... La Mamma (Enzo's Mother) / Bruce Guerre-Berthelot .... Young Jacques リスニング;中心はフランス語であるが、ペルーではスペイン語、ニューヨークでは英語、シチリアではイタリア語と、いろいろと混じっている。 黒衣の花嫁 The Bride Wore Black / 2004/04/15 (再)2023/10/01 銃の暴発事故によって花婿を殺された女が復讐に燃えて5人の犯人たちをひたすら殺してゆく。ヒロインを演じるジャンヌ・モローの目に迷いはない。殺しを重ねると世間に顔を知られる危険が増えるが、彼女は驚くほど冷徹で、目的を遂げるためには警察も恐れない大胆な行動をとり続ける。単なるサスペンス映画ではない。むしろ女の一途さが前面に出ている。 5人の軽率な若者たちが銃をもてあそび、暴発した弾がちょうど向かい側の教会から結婚式をして出てきたばかりの花婿に命中した。5人は誰にも知られることなく逃げおせた。今はフランス各地にお互いに連絡を絶ったまま暮らしている。 残された花嫁は、幼なじみの夫を失い一時は自殺も考えたが、5年の歳月をかけて5人の行方を突き止めたのだった。準備が整うと、さっそく復讐にとりかかった。1番目の男はプレーボーイでもうじき結婚を控えていた。高層アパートのパーティ会場に姿を現した女は彼をバルコニーに引き寄せ、スカーフをとってもらうふりをして下に突き落とす。 2番目の男は、安アパルトマンに住んでいた。女はコンサートの切符を彼にプレゼントして知り合うと、彼の部屋を訪問し、持参したレコードをかけ、毒入りの酒を飲ませて殺す。彼女のアドレス帳には5人の名前が控えてあるが、一人ずつ横棒をひいて消してゆく。 3番目の男は郊外の一戸建ての家に住んでいた。まずその家の子供を手なずけ、「母危篤」の偽電報を送って妻を家から去らせたあと、子供の小学校の先生になりすまして男の家に向かう。食事の手伝いや子供を寝かしつけたあとで階段の下にある物置に男を閉じこめて窒息死させる。 妻からの電話がかかってこないように電話線を包丁で切っておく周到さだ。捜査の過程で小学校の先生が逮捕されるが女は空港から電話をかけて自分が犯人だと名乗り、先生の潔白を証明してやる。わざわざ教会に立ち寄って神父に懺悔をして、殺しを続ける気持を奮い立たせるということまでする。 4番目は自動車の解体業を営む男だったが、ふだんから悪行をしていたらしく、彼女がピストルを向けようとする直前に警察に捕まり連行されてしまった。仕方なく彼女は5番目の男の家に向かう。画家だったのでモデルを装って近づいたが、その画家は彼女を気に入って採用してくれた。 毎日アトリエに通ううち、画家は次第に女にひかれてきた。だがなかなか殺すチャンスが見つからない。そのうち画家の仲間が大勢訪ねてきて、その中にマンションのバルコニーから突き落としたときに、女から人払いを受けた男が混じっていたのだ。彼はどこかで見た顔だと思うがはっきり思い出せない。 その男がマンションの転落事件を思い出したのと、彼女が画家を刺殺したのとはほとんど同時だった。彼女は顔を知られぬように画家が描いた自分の肖像画をキャンバスから切り取るが、画家は女の裸体をベッドの横の壁にも描いていたのだ。もはや顔を隠してもしょうがない。そこで彼女は名案を思いつく。 大胆にも画家の埋葬に参列し、顔を覚えていた男がその場にいたので、もちろんすぐ警察に捕まる。だが彼女は誰を殺したかは素直に認めるが、その動機については一切口を割らない。刑務所に入れられた彼女は配膳係をやることになった。そしてその刑務所には、4番目の男も入れられていたのだ・・・(年) Directed by Francois Truffaut Writing credits Jean-Louis Richard / Francois Truffaut Cast: Jeanne Moreau .... Julie Kohler / Michel Bouquet .... Coral / Jean-Claude Brialy .... Corey / Charles Denner .... Fergus /Claude Rich .... Bliss / Michael Lonsdale .... Rene Morane (as Michel Lonsdale) /Daniel Boulanger .... Delvaux / Alexandra Stewart .... Mlle Becker リスニング:フランス語、ヒロインがそれぞれの男たちに話しかけるときの巧みな言い回しに注目。 恐怖の報酬 Sorcerer 2004/04/16 クルーゾー監督の名作、「恐怖の報酬」のリメイクである。リメイクは、必ずと言っていいほど酷評される。最初の作品はオリジナル性だけで十分に絶賛されるのに、である。その点、この作品はまったく違った舞台を作り上げ、登場人物たちも新しい性格を与えられたためにそんなに悪い出来ではない。 原題は「魔法使い」。最後まで恐怖の連続を乗り越えた男のことをさしているのだろう。日本語の題名は、クルーゾーの作品のことを念頭に置いてわざとまったく同じ名前をつけたらしい。最後に「クルーゾーに捧ぐ」という字幕が出る。 場所はある中東の国。雑踏の市場に何者かが爆弾を仕掛け、多数の犠牲者が出た。テロリストたちは必死で逃げたが、すぐに警官隊に発見され、一人は捕まり、二人はその場で射殺されたが、残りの男カッセムは何とか逃げ出した。 場所は変わってパリ。中年過ぎの銀行家セラーノは、妻から結婚10周年記念の時計をもらったのだが、彼の貸し付けた金が焦げ付き、重大な問題に発展するおそれがあった。しかも保証人として当てにしていた男が目の前でピストル自殺を遂げてしまう。彼は重大な詐欺で起訴されることになる。 場所は変わってアメリカの町。寄付金狙いのギャングが教会に押し入り、金を持ち去る。そのときに一人が神父をピストルで撃ってしまう。一団は車で逃走したが、車内で仲間同士の口論がはじまり、ほんの一瞬のうちにトラックに激突した。車は一回転し、警察がやってきたが、ギャングの一人ドミンゲズだけがなんとか車の下から這い出した。 場所は変わって南アメリカの独裁政権が君臨する貧しい国。石油の掘削によって収入を増やそうというわけで、大勢の労働者を集めて油井の建設を行っていた。その中に、カッセム、セラーノ、ドミンゲスの姿があった。そう、ここは世界中から高飛びした人間たちのたまり場でもあったのだ。 ゲリラの仕掛けた爆弾によって油井が粉々になる。国の施策なので一刻も早く復旧しなければならないが、いったんついた噴出口からの火は簡単には消えない。ダイナマイトを使ってその爆風で吹き消すような荒っぽい方法が必要なのである。 近くの町といっても現場から320キロも離れているところにニトログリセリンが保管してあった。これを細心の注意を払いできるだけ振動させないようにして運ばなければならない。ヘリコプターは乱気流があるので無理だった。結局トラックしか輸送手段がなかった。 作業所の主任は、高給と引き替えにこの危険な仕事をやる運転手を募った。大勢の男たちが応募したが、テストが行われ結局カッセム、セラーノ、ドミンゲスと最近飛行機でこの町に降り立った謎の男ニーロの4人が選ばれた。2台のトラックが用意され、整備された。それぞれにカッセム、セラーノ組とドミンゲス、ニーロ組とが乗り込むことになった。 4人は出発した。途中は距離が長いだけではない。猛烈な雨、峠の崖崩れだらけの道。道が消えてしまうほど植物が生い茂るジャングルの連続である。木の腐った丸木橋があった。その上を一方が誘導しながらトラックはおそるおそる進む。 分かれ道があったが、とにかく地図の通りに行かないと、あっという間に迷ってしまう地形であった。豪雨の中、吊り橋があった。左右に揺れる穴だらけの橋をカッセム、セラーノ組の乗ったトラックは何とか渡りきった。だがそれですっかり傷んでしまった橋の上を後続のドミンゲス、ニーロ組が進まなければならない。橋の上で前へ進めなくなるとウインチを使ってロープを巻き上げながら進んだ。 ジャングルを進むと、直径が人の背ほどの大木が倒れていて道をふさいでいた。もうあきらめるしかないと思われたがカッセムが名案を思いついた。爆薬である。大木のうえにニトログリセリンを垂らし、真上に岩をぶら下げておく。岩にひもを結んで、おもりとして砂を入れた袋をぶら下げた。袋に小さな穴を開け、砂が出てしまうと岩が爆薬の上に落下する仕掛けをこしらえた。 仕掛けは見事成功し、大木は吹っ飛んだ。いよいよ目的地も近い。トラックはスピードを出し始めた。セラーノは同乗しているカッセムに自分の住んでいたパリや妻のことを話し、記念の時計を見せた。と、タイヤが路肩を踏み外し、大きく車体が傾き一瞬のうちにトラックは爆発して粉々に飛び散った。 後ろを走ってきたドミンゲス、ニーロたちは前方に煙が上がるのが見え、轟音を聞いた。現場で立ちすくむ彼らの前に、こんどは数人の山賊が現れた。トラックの積み荷を奪い、二人は射殺しようというつもりらしい。だがほんのわずかな隙をついてニーロがピストルで撃ち、山賊全員を殺した。だがこの撃ち合いでニーロは重傷を負い、夜に入ってトラックの中で彼は死んだ。 最後にドミンゲスだけが残った。目的地にようやくたどり着いた。人々の歓待を受けて出発地の町に戻る。石油会社の主任は約束の金と、そして国外に出るための旅券を用意してくれた。ドミンゲスは酒場で女とダンスを踊り、久しぶりに人間らしさを味わう。だが、酒場の外には、アメリカで神父を撃った復讐のために雇われた殺し屋がちょうどタクシーをおりたところであった。(1977年) Directed by William Friedkin Writing credits Georges Arnaud (novel) Walon Green Cast ; Roy Scheider .... Scanlon/Dominguez / Bruno Cremer .... Victor Manzon/'Serrano' / Francisco Rabal .... Nilo / Amidou .... Kassem/'Martinez' リスニング;英語が中心だが、パリなど、舞台が変わるたびにそれぞれ地元のことばが混じる。Zazie dans le metro 地下鉄のザジ 2004/04/30 (再)2013/03/31 小さな女の子ザジのシュールなパリでの3日にわたる冒険談。淀川長治は「見ていて怖くなる映画だ」といった。一種のナンセンス映画だともいえる。「不思議の国のアリス」に近いかもしれない。あらゆる男女が色情狂になっているようにも取れる。また見ていて気付くが、突然体が移動したり、消えてしまったり、まるで魔法使いの少女であるようにも見える。 とりたてた筋があるわけではないが、にぎやかなパリの街角を舞台に彼女を巡って次々とあらわれるパリの人間たちが引き起こすさまざまな騒ぎはコミカルだが不思議な後味を残す作品。1960年のパリの街並みは今とほとんど同じで、車がクラシックなだけだ。パリめぐりの映像としてだけでも十分楽しめる。 ザジは、お母さんに連れられてパリのリヨン駅へ到着した。お母さんはパリにいる恋人の所へ直行。ザジは待っていたおじさんのガブリエルに預けられる。ザジはメトロに乗るのを楽しみにしていたのに、スト決行中だという。 ガブリエルは口数の少ないが美人の妻と居酒屋の上にアパートを借りている。ガブリエルは女装をしてみんなを楽しませるダンサーなのだ。ザジは居酒屋に入ってきた時に口汚いしゃべり方をする。それを飼っているオウムがまねをしてしまった。居酒屋のおやじはびっくり仰天。 翌日早起きしたザジは心配して後を付けてきた居酒屋のおやじを人々の前で私におかしなことをしたと言いふらすものだから、おやじは戦々恐々で帰ってきた。こんどこそメトロに乗ろうとするがいまだにスト中。泣いていると、おかしなおじさんがやってきてザジを町中に連れていってくれる。 のみの市を回ったり、ジーパンの店を訪れたり。ザジのお父さんはお母さんに殺された?とまじめに語る。すばしっこいザジをこのおじさんは追いかけようとするが、ちっとも捕まらない。実はこのおじさんは警官だったのだ。ジーパンを自分のものだと言い張るザジをやっとの事でガブリエルのもとに送り届けた。 翌日ガブリエル自身がザジをパリの町中に連れ出す。エッフェル塔にのぼるが、ここでもザジの言動に大人たちは手を焼き、いっしょについてきたお母さんの恋人である運転手も途中で逃げ出してしまう。 ガブリエルの友人で観光バスの運転手、交通渋滞の中で声をかけてきた未亡人、そして前日の警官が加わって騒動となるが、ガブリエルはダンスのリハーサルに出る時間が近づいてきた。妻に電話して大急ぎで練習場まで衣装を送り届けるように頼む。妻は必死で渋滞の中で自転車をこぐ。 居酒屋の女が結婚することになった。みんなでレストランに集まり食事を始めたのはいいが、どうも味が気に入らない。腹を立てた客たちはギャルソンたちに文句を付けるが、かえって逆襲される。乱闘の末、レストランはめちゃくちゃになり、そこへ前日の警官が部下を引き連れてやってくる。疲れ果てたザジはテーブルの上で寝入ってしまっていた。 翌日になってやっとメトロのストが解決した。恋人にも飽きたお母さんと共に、ザジは帰りの列車に乗り込む。ガブリエルがパリはどうだったかと尋ねると、「私少し歳をとったみたい・・・」とザジは答えた。(1960年)・・・資料 Directed by Louis Malle Writing credits Raymond Queneau (novel) Louis Malle Cast ; .Catherine Demongeot .... Zazie / Philippe Noiret .... Uncle Gabriel / Hubert Deschamps .... Turandot / Carla Marlier .... Albertine / Annie Fratellini .... Mado リスニング;フランス語。ザジをはじめとして、大変歯切れが良く、聞き取りにはとても良い教材となる。 上へ座頭市 2004/05/03s 北野武による、座頭市のリメイク。監督独自のセンスが光り、勝新太郎とは異なる、新しい座頭市像が誕生した。加えて百姓たちの田圃における鍬扱いのリネッサイモン、旅の女たちの三味線と踊り、祭りにおける(日本風?)タップダンスの披露など、音楽とダンスの場面は実に見応えがある。これは西洋人の映画ファンを引きつけるファンタスティックな魅力があったに違いない。 座頭市がある町にやってきた。扇谷を頭とする連中が、次々と様々な業者を脅迫し、自分たちに金が入るように勢力を伸ばしていた。野菜の行商をやっていたおうめ姉さんは、重いかごを座頭市に背負ってもらい、お礼に自分のところに泊まるようにとすすめてくれた。 宿の決まっていなかった座頭市は「按摩さん」と呼ばれて彼女の家に泊めてもらうことになった。この按摩さん、歩き方がおぼつかないどころではなく、薪割りをやってその薪を空中高く放り投げて薪置き場に積み重ねるほどである。 ある日、座頭市はサイコロばくちに出かけていく。ほんの遊びのつもりだが、目が見えないことはかえって集中力を高めるらしく、百発百中である。その賭場で姉さんの甥である男、新吉と知り合いになる。 新吉と座頭市がとばくで大もうけをした晩、旅回りの女を呼んで三味線を弾いてもらったりするが、どうも二人の女、おきぬとおせいの様子がおかしい。座頭市は殺気を感じて女たちを問いつめる。 実は、女たちは扇谷に一族を皆殺しにされた一家の生き残りだったのだ。二人は身を隠し、男であるおせいの方は顔が美しかったので女形になり、おきぬの三味線に合わせて見事な踊りを踊り、宴会の席で披露して生活費を得ていたし、同時に自分たち一族を殺した扇谷の連中に復讐する機会を狙っていたのだ。 身の上話を聞いた座頭市は、彼女らもおうめさんの農家にかくまわせてもらう。一方、町の居酒屋に出向いてそこで剣さばきの見事な浪人の男、服部と出会う。実はこの男、扇谷の用心棒に雇われたばかりだったのだ。 そのうち扇谷の息のかかった賭博場でインチキが行われ、怒った座頭市によって皆殺しされる。こうして座頭市は扇谷につけねらわれることとなった。女たちも扇谷の幹部の酒席に忍び込み、何か手がかりがないかと探し回るが帰って気づかれてしまい、絶体絶命となるが、危険を予測していた座頭市によって救われる。だがおうめさんの家は彼らによって放火され全焼してしまった。 座頭市は扇谷の屋敷に単身乗り込み、次から次へと敵を倒していく。そして服部との対戦で肩を少し切られはしたが見事相手を倒すことができた。だが服部の病身のの妻はそれまで自分の夫が重ねる殺しの罪の重さに耐えきれず自害して果てたのだった。座頭市が時折訪れたいた居酒屋の主人は実は扇谷のスパイだった。座頭市は一気にこの男を斬殺する。 そして一緒に働いていた乞食のような爺さんは実は扇谷の最長老だった。座頭市は、居酒屋に一人残ったその長老を殺そうとはせず、刀で眼をつぶした。二度とこの世を目で見ることができないように。折しも祭りの季節が近づいてきた。タップダンスの不思議なリネッサイモンの踊りを町の人々が披露する。全焼したおうめさんの家の跡には新しい家が造られつつあった。そして座頭市はどこかまた他の町へと流れてゆく。(2003年) 監督・・・北野武 脚本・・・北野武 原作・・・子母沢寛 タップダンス指導・・・THE STRIPES 配役 座頭市 ・・・ビートたけし 服部源野助・・・浅野忠信 おしの・・・夏川結衣 おうめ・・・大楠道代 新吉・・・ガダルカナル・タカ おきぬ・・・大家由祐子 おせい(清太郎)・・・橘大五郎 銀造・・・岸部一徳 扇谷・・・石倉三郎 飲み谷の親父・・・柄本明 上へナイル殺人事件 Death on the Nile 2004/05/04 イギリスの大富豪の娘、リネットはみんなから嫌われている。農民たちからは働かないで優雅な生活を送っているとしてやっかみを言われ、財産管理の人には恨まれている。そこへ古い友人のジャクリーヌがやってきて、自分の婚約者サイモンをぜひリネットの領地の管理人にしてくれと頼みに来る。 余り気が進まないリネットであったが、サイモンを一目見るなりその虜となり、大恋愛の末に彼との結婚式を挙げてしまった。もちろんお陰でジャクリーヌはサイモンから裏切られ、その恨みはすべてリネットに向けられた。 結婚したばかりの二人はエジプトに新婚旅行に出かけることとなった。ナイル川をさかのぼるクルーズに参加したのだ。そしてその船にはあのベルギーの名探偵ポアロ氏とその助手も乗船していた。そのほかにエロチックな題材を使うのが大好きな女流作家とその娘、財産管理の問題でもめているリネットの伯父、金持ちの老婦人とその付き添い役の女、医者、資本論を読みリネットのような金持ち階級を憎悪する若い男が乗船していた。 そして途中でジャクリーヌもこの船に乗船してきたのだ。恋人を失ったジャクリーヌは、ピラミッドの見学あたりからときどき二人の前に姿を現し、ガイドの口振りをまねてみたり、ポアロの前では絶対にリネットに対して復讐してやると宣言したりする。有名な遺跡をみんなで見学していると、真上から大きな石が落ちてきて危うくサイモンとリネットが直撃されるところだった。 そして悲劇は起こった。サイモンに対して激高したジャクリーヌはピストルを発砲し、それはサイモンの膝を貫いた。命に別状はなかったが、ジャクリーヌは自分のしたことに半狂乱となり、看護婦からモルヒネ注射を受け眠らされた。ピストルは犯行後行方不明となる。その後にもう一つの悲劇が起こったのである。一人で先に寝ていたリネットが何者かによってこめかみにピストルを撃ち込まれ即死していた。 ポアロは船の責任者から捜査の全権を委任され、助手とともに乗客一人一人について質問を始めた。聞いてみるとみんながリネットに恨みを持ち、だれが殺してもおかしくないくらいだった。中にはリネットの持っている真珠の首飾りに興味を持ち、それをくすねた者さえいた。 そうこうしているうちに、第2の殺人が起きた。リネットの小間使いが、犯人を見ていたらしく犯人に対して金をゆすろうとしたらしい。手術用のメスで首を切られた彼女の手には、ちぎれたお札が残っていたのだ。 ポアロは殺人を防ぐことができなくて焦り始める。それどころか自室に戻ってひげを剃ろうとすると、洗面台の下にコブラがいた。助手が機転を利かして危機一髪のところでコブラを殺すことが出来たが、一瞬遅れたらポアロの命も危なかった。 そこへ女流作家がポアロに自分は小間使いを殺した犯人を見たと言って来る。ところが彼女がその名前を口にしようとした瞬間、何者かが彼女の頭をめがけてピストルを発射し、彼女は絶命する。ついに3人の命が船上で失われたのだ。3人目の犠牲者が出て、やっと犯人の目星をつけたポアロは乗客を全員船の広間に集め、それが誰であるかを発表する・・・(1978年) Directed by John Guillermin Writing credits Agatha Christie (novel) / Anthony Shaffer Cast : Peter Ustinov .... Hercule Poirot / Jane Birkin .... Louise Bourget / Lois Chiles .... Linnet Ridgeway/Doyle / Bette Davis .... Marie Van Schuyler / Mia Farrow .... Jacqueline De Bellefort / Jon Finch .... James Ferguson / Olivia Hussey .... Rosalie Otterbourne / George Kennedy .... Andrew Pennington / Angela Lansbury .... Salome Otterbourne / Simon MacCorkindale .... Simon Doyle / David Niven .... Colonel Johnny Race / Maggie Smith .... Miss Bowers / Jack Warden .... Doctor Ludwig Bessner / Harry Andrews .... Barnstable / I.S. Johar .... Manager of The Karnak リスニング;ポワロによる聞き込みは、内容を正しく聞き取るための格好の材料となる。 上へキューポラのある街 2004/05/06 (再)2021/10/03 戦後まもなくの埼玉県川口市を中心とした鋳物工場(キューポラ)のまわりに暮らす人々を描いた。貧しくて何も持っていないが希望と前向きの姿勢だけがある張り切り少女、ジュンを中心に展開する物語は「生きる力」と「人々の結びつき」があふれている。 現代の無気力な若者と比較すると、これが同じ国のことかと信じられないだろう。さらに結果はどうあれ集団の流れや常識にとらわれず「自分でものを考えて行動する」ことが現代いかに少なくなっているかを思い知らされる。父も母も頼りないのに、このヒロインは、後にその影響を受けて弟も自立した生き方で向かっていくのは何ともすがすがしい。 ジュンは中学三年生だ。県立の高等学校に入ることを願っているが、弟が生まれたばかり。しかも弟がすでに二人いる。しかも悪いことに鋳物職人である父親は以前怪我をして以来きつい仕事ができなくなっている矢先、会社の持ち主がかわり転職を余儀なくされてしまった。 職人気質で古い考え方に固執する父親はあてにならない。ジュンは何とかして高校に行こうと、朝鮮人のヨシエに頼んでパチンコ屋でアルバイトを始める。一方で友だちから口紅をもらって初めてつけてみたり、大人への入り口にさしかかっているところだ。 すぐ下の弟のタカユキは小学生で、ヨシエの弟であるサンキチと仲がいい。鳩の飼育をしている。だがヒナをもらい受ける約束で友だちから前金を受け取り、その後でヒナがネコに食われてしまい、ごたごたが絶えない。ジュンはいつもそんなとき親代わりになって面倒を見ている。前金を返却する話し合いをするために愚連隊のいる玉突き場まで単身出かけていかなければならないこともあった。 せっかく隣に住む塚本が組合を通して苦労して交渉してくれた申し出も断り、酒をくらい新しい職場にもなじめず家で怒鳴り散らす父親を前に、母親も近くの飲み屋によるアルバイトに出かけるようになった。修学旅行に出発する朝、また父親が暴れたためにジュンは無断で欠席する。 その日は一日植木等の「スーダラ節」の流れる川口の街をさまよい、夜には盛り場に遊びに行って危うく若い男たちに暴行されそうになる。だが、いつまでも自暴自棄に陥っているジュンではない。自分の行く末をどうしようかと一生懸命考える。そしてそんなとき初潮が始まった。 やがてヨシエ、サンキチ姉弟は父親と共に北朝鮮に帰ることになった。駅前に集まった大勢の見送り客の中、ヨシエが日本人である母親と別れて暮らすことを決心し、最後の別れにやってきたのも断固として追い返す姿を見て、ジュンは覚悟を決めた決意の強さを知る。サンキチは母を慕って舞い戻ってきたが、再婚のためすでにこの街を去っていた。 タカユキは、サンキチと川でボートを無断で借用し牛乳を人のうちから失敬していた。だが、病気の母親を看病している牛乳配達の少年の姿を見て自らを恥ずかしく思い、自分も人の世話にならないようにと考えてふたりで新聞配達を始める。 ジュンは定時制高校にはいることを決心する。父親に頼らず自分の生活を立てていくことと、学校のみならず職場でも多くのことを学ぶことができると考えた末だった。ジュンとタカユキは陸橋の上から姉や父親の後を追って北朝鮮に向かうサンキチの乗った列車を見送って、自分たちも未来に向かって出発をするのだった。(1962年・モノクロ・日活) 監督: 浦山桐郎 原作: 早船ちよ 脚色: 今村昌平 浦山桐郎 音楽: 黛敏郎 美術: 中村公彦 編集: 丹治睦夫 キャスト(役名) 東野英治郎 (石黒辰五郎) 吉永小百合(ジュン) 市川好郎(タカユキ) 鈴木光子(金山ヨシエ) 森坂秀樹(サンキチ) 浜村純(父) 菅井きん(母美代) 浜田光夫(塚本克巳) 北林谷栄(うめ) 殿山泰司(松永親方) 加藤武(野田先生) 上へ雨月物語 2004/05/07 時は戦国時代の末期。琵琶湖の北岸にある部落には、百姓の片手間に陶器を作る源十郎と宮木の夫婦とその子供がつつましく暮らしていた。ところが近くの長浜では戦による好景気のおかげで、瀬戸物が飛ぶように売れた。 これに気をよくした源十郎はもっと儲けようと、大量の瀬戸物づくりに励む。宮木はそんな金儲けよりも一家3人のんびり暮らした方がいいと思っているが、夫はこのチャンスを逃したくない。隣に住む妹阿浜と藤兵衛の夫婦にも手伝ってもらう。 ところが窯に火を入れていよいよ完成というところで、村に軍団が入り込み、食料の挑発を始めた。仕方なく村人は山に逃げたが、こっそり戻って様子を見に来た源十郎は陶器がほとんどできあがっているのを見て、小舟に積み込み対岸へ売りに行くことを思いつく。 途中海賊が出るということで、危険を避けて宮木と子供は村に残り、藤兵衛夫婦と源十郎が船に乗り込んで売りに出かけた。果たして対岸の街でも瀬戸物は大いに売れ、藤兵衛も源十郎も大儲けをした。かねてから藤兵衛は戦に参加したいとあこがれており、金が入ったとたん武具を買い込み阿浜が止めるのも聞かず、姿を消してしまう。 一方源十郎は、若狭と名乗る美しい女に瀬戸物の注文を受け、その屋敷まで届けに行く。若狭とその乳母、お付きの女たちのいる壮大な屋敷に招かれ、彼の作った瀬戸物をほめられてごちそうになった。そして源十郎は若狭と寝所を共にしてしまったのだ。 その夜から源十郎は快楽の日々を送る。いつしか妻子のことを忘れ、若狭との生活におぼれていった。だが、ある日若狭のために着物を求めに街に出たところ、衣服店の主人は屋敷の名前を聞いただけで彼を店から追い出し、夕暮れに出会った神官は源十郎の顔に死相が出ているという。 はじめは一笑に付した源十郎だったが、神官のすすめで身体に魔除けの呪文を書いてもらった。屋敷に戻ると若狭がいつもと違う源十郎に気づき、夫婦のちぎりを結ぶようにと迫るのだった。若狭も乳母も織田信長の軍勢によって惨殺された一族の死霊で、若くして死んだ若狭は若い男を引き入れようとしていたのだ。 呪文のおかげで源十郎はさわられることなく、屋敷から飛び出した。気がついてみると朽ち果てた家屋の跡が残る野原の真ん中に倒れていた。手元には一族の名刀が転がっていた。地元の人間に刀も所持金も取り上げられ、源十郎はほうほうのていで村に帰ってきた。 真夜中に帰ってみると、息子も宮木も家にいて源十郎は安心して朝まで眠った。だが目が覚めると宮木がいない。村を襲った落ち武者に槍で刺されて殺されていたのだ。昨夜の宮木は源十郎の見た幻だったのだ。 藤兵衛夫婦も戻っていた。藤兵衛は戦で手柄を立てたものの、偶然泊まった宿にいた阿浜は遊女になっていた。藤兵衛は自分の愚かな野望が妻をこんな目に遭わせたことを後悔し、百姓に専念すると約束して再び村での生活を始めていた。源十郎は息子と共に宮木の墓の前で手を合わせ陶器づくりに精を出す。(1953年・モノクロ・大映) 監督: 溝口健二製作: 永田雅一脚本: 川口松太郎 依田義賢 配役(役名): 京マチ子(若狭) 水戸光子(阿浜) 田中絹代(宮木) 森雅之(源十郎) 小沢栄(藤兵衛) 青山杉作(老僧) 羅門光三郎(丹羽方の部将) 香川良介(村名主) 上田吉二郎(衣服店の主人)南部彰三(神官) 上へピアノレッスン the Piano 2004/05/20 19世紀、イギリスからニュージーランドへピアノを携えて嫁入りした女が、隣に住む男との真の愛に目覚めてゆく物語。ローレンスの「チャタレー夫人」を思わせる雰囲気を持ち、女の情念の強さは観客に強く印象を与えずにはおかないだろう。 ヒロインがまったく口が利けないという設定は、俳優の仕草、まなざし、そしてなによりも一台の古いピアノがすべてを語るわけで、セリフがなくとも彼女のすべてを雄弁に語っている。エイダ役の Holly Hunter は「法律事務所 the Firm 」では私立探偵の秘書で、鼻にかかったような声のタミーを演じているが、エイダの場合は言葉を発しないばかりにまるで別人だ。 なお、ベインズ役のHarvey Keitel は「テルマ&ルイーズ」でのハル刑事役をつとめている。声はまったく同じなのだが、入れ墨をした粗野な開拓者と老練な刑事とでは、まったく違った性格が出ているのが見事である。 スコットランドに住むピアノを弾くことが何よりも好きな女、エイダは亡夫との娘フローラと共にニュージーランドの開拓者、スチュワートのもとに嫁ぐことになった。実はエイダは耳が聞こえても口が利けない、いや利かないのだ。若い白人女の少ない開拓地ではそれでもぜひ来てほしいというのだった。 大航海のあげく二人は、荒天の中ニュージーランドの海岸にボートで上陸した。荷役の男たちは二人の荷物を砂浜に置くとさっさと引き揚げてしまった。迎えの者たちも来ないまま、母娘は仕方なく砂浜に野宿する。 翌日スチュワートとマオリ族の荷役人たちがやってきた。住居まではジャングルと腰まで埋まるぬかるみの道が続くので、とてもピアノは運べないという。手話も、フローラの通訳もむなしく、エイダの強い願いにも関わらずピアノは砂浜に放置されてしまった。 スチュワートは忙しい男で、エイダたちの到着の翌日には土地を買いに出かけてしまった。ピアノを海岸まで引き取りに行ってくれる気もないようだ。エイダはピアノを弾きたくてしょうがない。隣の土地に住むイギリス出身の男ベインズに頼み込むと仕方なく二人を海岸まで連れていってくれた。 エイダとフローラがピアノを弾いて実に楽しそうなのを見てベインズは一計を案じる。自分の土地の一部を土地に飢えているスチュワートに売り、その代わりピアノを買い受けようというのだ。自分はエイダからピアノレッスンを受けるのだと話し、自分の家にピアノを運び込んだ。 しかしピアノレッスンは表向きの話で、開拓地に行きたがらない妻をイギリスに残してきたベインズはエイダの身体に触りたかったのだ。ピアノを取り戻したくて仕方がないエイダに黒鍵を一本ずつ売り渡して身体を触らせてもらう。だがエイダの顔には不思議と嫌悪感がなかった。 ベインズのエイダに対する要求は次第に大胆になってきて、ついに黒鍵10本で体を許すことになる。しかしその様子は娘のフローラに見られてしまう。だが聡明すぎる?彼女は幼いながら二人の営みを優しさにあふれたものと受け止めて遊びの中に取り入れている。 ベインズは、エイダに恋をしてしまった。そしてピアノを彼女にただで譲り渡すことにした。ピアノを餌に淫売をさせるわけにはいかないとベインズが言ったとき、エイダは心の奥深くで何かが起こったらしい。 無性に会いたくなったエイダは、ベインズの家に再び赴く。しかし今度はピアノレッスンのためではなかった。妻が体を許さないのにいらいらしたスチュワートはそのあとをつけ、エイダとベインズがベッドで抱き合っているところを見てしまった。 家に帰ってもスチュワートは口に出さず、何とかしてエイダの気持を自分に向けさせようとした。一方、ベインズはマオリ族たちとのトラブルで土地を離れなければならなくなった。夫が仕事に出かけている間、エイダは黒鍵を一本抜き取ってそこにベインズへの愛の言葉を書き、娘のフローラに届けさせた。 だがそれはスチュワートに見つかり、激昂した彼は豪雨の降りしきる中、エイダの指を一本斧で切断する。だがそんなことは少しもエイダの気持を変えることはなかった。口が利けなくとも彼女はスチュワートをじっと見つめながら自分がベインズを心から愛していること、そしていっしょにこの土地を立ち去りたいと伝えてきたのだった。 女の意志の強さを知ったスチュワートはエイダをベインズのもとに行かせた。エイダは喜んでベインズと共に暮らすためこの土地を離れていった。マオリ族たちのこぐ船にフローラ、エイダ、ベインズは家財道具を乗せて出発した。海の真ん中でエイダは自分の運命と共にしてきたピアノを葬りたいといいだす。 どうしてもという彼女のたっての頼みで、ピアノは船から海中に投げ入れられた。ピアノはどんどん海底に落ちていったが、エイダが足を乗せていたロープはピアノに結びつけられており、あっというまに彼女は足をすくわれて海中に没した・・・(1993年・オーストラリア映画) Directed by Jane Campion Writing credits Jane Campion Cast; Holly Hunter .... Ada McGrath / Harvey Keitel .... George Baines / Sam Neill .... Alisdair Stewart / Anna Paquin .... Flora McGrath リスニング;植民時代のニュージーランドということで、白人たちはイギリス英語を話す。もちろんエイダは一言もしゃべらない。 一人息子 2004/05/28 戦前も戦後も日本社会は、田舎から大勢の「野心あふれる」若者たちを東京に吸い出してきた。そして、もちろんだが、その多くは挫折し貧困にあえぎ、見通しのない一生を耐えていかなければならなかった。そうなると人生はつまらなく見えるが、小津監督はその中にも希望の光を描くことを忘れない。 1923年の信州。当時は養蚕が盛んで、野々宮つねも生糸の工場に働いていた。夫を早くになくし、一人息子の良助との二人暮らしだった。小学校も終わりに近づいたある日、担任の大久保先生が訪ねてきて、お宅のお子さんが中学校に進めると聞いて喜んでいると言った。 実は、つねには良助を中学校に行かせるお金のめどなど立たない。だが級長をして成績も優秀な良助のために必死で働くことに決めた。これからの時代は学問がなければ出世はできないと大久保先生は言っていたし、彼自身もまもなく教師を辞め東京へチャンスを求めて去っていった。 それから十数年。良助は上の学校に進み、今では東京に暮らしている。少し余裕のできたつねは、久しぶりに息子の顔を見たいと東京に出ることにした。だがようやくたどり着いた息子の家はぼろぼろで、隣の工場からの騒音がやかましい。そして何よりもつねにとってショックだったのは結婚し、子供が一人産まれていたことだった。 幸い良助の妻杉子はおとなしく素直な女でつねは気に入ったが、良助はいったいどうやって暮らしをたてているのか。この間市役所を辞めたばかりで今は夜学の先生をしているという。あまりにも少ない給料なので母親の突然の訪問をもてなすために同僚から少しずつ金を借りる有様だった。 翌日、つねは良助に連れられて近所に住む大久保先生の家を訪れた。だが希望に燃えた若者だったはずの先生は、一枚5銭のトンカツを揚げる店を細々とやっていた。妻がおり、次々と産まれる子供の世話に忙殺されていた。 つねはそれから良助に連れられて東京見物に出かけるが、良助にしてみればこの大散財の後の給料日までどうやって暮らしていくかが気がかりだった。まだ若いのに双六はもう上がりだと言う姿を見て、つねはもう少ししっかりしないかと良助を叱責する。こんなに苦労して育てたのに、今の状況ではふがいない。東京には出世して偉くなっている人もいるではないかと。 妻の杉子は自分の着物を一枚売って良助に渡しこれでお母さんをどこかに連れていってやってくれと言う。ところがそのとき近所の悪ガキ、富坊が馬に蹴られたという知らせが入る。幸い怪我は軽かったものの、母親のおたかには治療費を払えない。病院で良助はそっと先のお金をおたかに渡した。 こんなやさしい子だと知ってつねは喜んだ。貧乏暮らしの中ではいつでも互いに助け合う気持が必要なのだ。そう言いつつ、つねは東京を離れ信州に戻る。良助夫婦は鏡台の上に、つねが置いていったささやかなお金を発見する。 つねは、生糸の工場に戻ったが、仲間から東京からどうだったかと尋ねられた。いや何でもとても大きくて人が多かったよ、と話したあとで、自分の息子もずいぶん偉くなったとつい言ってしまう。だが、工場の外に出ると、つねはついため息が出てしまうのだった。(1936年・昭和11年) 監督;小津安次郎 原作;ジェームズ槇 出演;つね 飯田蝶子 /良助 日守新一 /杉子 坪内典子 /大久保先生 笠智衆 /富坊 突貫小僧 /おたか 吉川満子 宗方姉妹 2004/06/03 (再)2024/02/01 まるで性格の違う姉妹が、夫やまわりの人々との交流を通して自分の生き方を求めていく姿を描く。姉妹役の田中と高峰がそもそも完全に異なった個性を持つ女優だけに、画面ではますますその違いが際だっている。 京都のお寺のシーンが美しい。特に薬師寺の前では、かつて姉の節子と恋人田代が座ったところであり、久しぶりに京都を訪れた姉妹が座り、最後に節子と田代が別れる場面が展開する、ストーリーでの大切な節目である。 京都に住む父親の忠親がガンにかかり、もう命幾ばくもないと知り合いの医者、内田教授に聞かされて、東京に住む節子、満里子の姉妹は急ぎ父親の元に向かう。忠親は意外と元気であった。妻を亡くして以来、東京の大森の家から京都に移って暮らしていたが、もう自分の先も長くないと知った忠親は娘たちの幸せだけが気がかりだった。 節子は夫に仕え家庭を守ることを第一に戦前からの価値をしっかり身につけた女だった。妹の満里子に古いと非難されるとき、彼女の持論は「いつまでも古くならないものこそが新しい」というものである。これに対し妹の満里子は戦後の何でも新しいものに飛びつく風潮の中で育っていたし、元来性格が明るく外向的にできていた。 忠親のもとにたまたま訪ねてきた神戸の家具商、田代宏に満里子は久しぶりに出会う。実は宏はかつて節子の恋人であったがお互いに口に出すことができないまま宏はフランスに行ってしまい、残った節子は今の夫である村亮助 と結婚してしまったのだ。 満里子はそのような成り行きがどうしても納得がいかない。田代の家を訪れては姉との間を成就させなかったことをなじるのだった。おまけに田代に思いを寄せている女性、頼子を何とか田代から遠ざけようとする。 姉妹は東京へ戻ったが、節子の経営するバーが移転させられることになり、田代から金を借りることになった。節子の若い頃の日記を盗み見した夫の亮助はそれがおもしろくない。失業中でネコを相手にする毎日だけにますますイライラが募り姉妹に当たるようになっている。 ある日田代のことが気になる亮助からのトゲのある言葉を受けた節子は店をやめる決心をする。それを知った満里子は憤慨するが、節子は何とか生活を切り盛りできるから自分は家にいるという。 だが他日、今度は亮助が別れる話をちらつかせて節子のとった態度にいきなり腹を立て何度も殴ったことから、ついに節子は離婚を決意する。節子は田代のもとに相談に行き、二人は再び結ばれる希望に胸を膨らませたのだが、これを知った亮助はやけ酒を食らったあげく大雨の中を歩き、突然心臓麻痺で死んでしまう。 満里子は亮助の急死を歓迎し、節子は新しい生活を始めるようにと励ますのだが、節子自身は正式に別れることなく亮助が一種の自殺のような形を取ったことが心を暗くしてしまった。結局、田代との結婚も断り、自分の納得ゆく生き方を求めて新しい人生を目指そうとするのだった。(1950年・モノクロ・新東宝) 監督;小津安次郎 脚本 ......野田高梧 小津安二郎 原作 .....大佛次郎 配役 宗方節子 .........田中絹代 満里子 ........高峰秀子 田代宏 ..........上原謙 真下頼子 ......高杉早苗 宗方忠親 .......笠智衆 節子の夫三村亮助 .......山村聡 前島五郎七 ......堀雄二 教授内田譲 .......斎藤達雄 藤代美惠子 .......坪内美子 H O M E > 体験編 > 映画の世界 > コメント集(24) © 西田茂博 NISHIDA shigehiro |