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今年見た映画(2005年)
男はつらいよ・寅次郎の告白 2005/06/05 満男は朝からそわそわしている。泉が、昼の新幹線で東京にやって来るというのだ。学校の先生の紹介で楽器店に就職を頼みに来たのだ。泉は大学に進学することをあきらめ、母親と一緒に暮らしたくないので名古屋ではなく東京で仕事を見つけようとしている。 ちょうど寅さんも帰ってきて、泉は久しぶりにとらやでみんなと再会する。だが翌日満男に一緒に行ってもらった楽器店では高卒は採用しないとのこと。がっかりして泉はその日の新幹線で名古屋に帰った。しかもその夜は母親が新しくできた男性と家に帰ってきたところだった。泉は自分がこの上なく不幸だと思いこむ。 しばらくして泉から満男に絵はがきが来る。「淋しい私は淋しい海に会いに来ました」という手紙は鳥取から来ていた。泉は母親と大喧嘩をして家出をしたのだ。不気味な文面にいたたまれなくなった満男はすぐに鳥取へ向かう。 泉は鳥取の街を歩き回り、あんパンを買った小さな店のおばあさんに引き留められて夕飯をごちそうしてもらうことになった。豆腐を買いに行った道すがら、何と寅さんの姿があるではないか!泉は寅さんにしがみついて思いの丈泣き出してしまった。 親切なおばあさんの家に泊めてもらった二人は翌朝鳥取砂丘に向かう。巨大な砂丘のてっぺんには満男がぼんやりと座り込んでいた。再会した二人は寅さんの古い友だちだという女将の聖子のやっている旅館に泊めてもらう。 実はその昔寅さんはこの旅館の板前と、聖子を巡って張り合ったことがあったのだ。結局聖子は板前と結婚するほうを選んだ。それから十年、寅さんは旦那は元気にしているかと訊ねた。ところが聖子の旦那は普段寅さんがふざけていっていたとおりに、雨の中での鮎釣りの最中に鉄砲水に流されておぼれ死んだという。 その日のうちに帰る予定であった泉たちも急遽、墓参りをかねてもう一泊その旅館に泊めてもらうことになった。生きていた頃は夫は浮気の連続だったと話す、淋しい聖子は寅さんとしたたか酔い、からみついたところで、心配してやって来た満男が腐った手すりから転落して、水の中に落っこちた。 翌朝、どうして伯父さんは恋がうまく実を結ばないかと聞く泉に、伯父さんは恋が自分の手に届きそうもないときはその女の人に夢中になるのだが、いざ目の前に恋があるととたんに逃げ出してしまうのだと満男は説明する。 泉は、鳥取で見ず知らずのおばあさんに親切にして貰い、寅さんからは慰められ、満男には探しに来て貰い、聖子の身の上話を聞いて、自分が世界でいちばん不幸な女ではないことを悟ったようだ。名古屋に帰ると母親に幸せになってほしいと声をかけるのだった。(1991年) 監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 朝間義隆 キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 後藤久美子(及川泉) 吉岡秀隆(満男) 吉田日出子(聖子) 夏木マリ(及川礼子) 下絛正巳(竜造) 三崎千恵子(つね) 前田吟(博) 太宰久雄(社長) 佐藤蛾次郎(源公) 笠智衆(御前様) 関敬六(ポンシュウ) 男はつらいよ・TVシリーズ第1回と最終回 2005/06/10 昭和43年からフジテレビ系で全26回放送された連続ドラマ。現在、第1回目と最終回のフィルムが残っている。主演の渥美清以外は、映画の場合とは配役がだいぶ違うが、全体の設定は山田洋次が脚本を書いているので、とらやの雰囲気から帝釈天に至るまで舞台設定はほとんど同じである。ストーリーのあらましは、映画化された第1,2作の中に溶け込んでいる。ただしシリーズを続けるためには寅さんが死んでは困る。 第1回目では、とらやの伯父さんおばさんのもとで暮らしているさくらが、ある日電車の中で不審な男と出会うことから始まる。その男は虎谷まで付けてきて、何と、桜の腹違いの兄で、家出をしてからゆく不明になりとっくに死んでいたと思われていた寅次郎だった。 とらやでは大喜びで寅さんを迎えてくれるが、旅ガラスでもともとじっとしていないたちの上に、近隣の舎弟を呼んで大騒ぎの宴会をしたりするので、ついにさくらは腹を立てた。さくらは丸の内の一流電気会社にキーパンチャーとして勤めており、恋人との縁談も進んでいたからなおさらだった。 寅さんはとらやを去ることにするが、途中寄った中学校時代の恩師、散歩先生の家に立ち寄るとかつていじめるのが何よりも楽しみだった娘の冬子が美しくしく成長して目の前に現れる。先生の家の前で仮病の腹痛を起こした寅さんは救急車で病院に運ばれ・・・ 最終回までに、寅さんの母親との再会、寅さんの弟の出現などがあった。さくらが最初の恋人ではなく、諏訪博士(ひろし)と結ばれる。とらやは人手に渡り、おいちゃんとおばちゃんはアパートに引っ越した。 散歩先生はある日突然倒れ、寅さんの釣ってきた中川のウナギを食べないうちにこの世を去る。冬子には恋人がいた。近く結婚することを聞いて寅さんはあてのない旅に出る決心をする。 寅さんが柴又を去って3ヶ月ほどしたところで、弟がさくらのアパートを訪れた。弟は大阪でやくざに因縁を付けられているところを寅さんに救われ、奄美大島に行ってハブを捕まえる計画に同行するように言われる。 捕まえたハブは高く売れるということで、勇んでジャングルに入り込んだ寅さんだったが、弟の先を進んでいるうちにハブに腕をかみつかれ、体に毒が回ってしまった。周りに人のいない密林だったため弟も手の施しようもなく寅さんは絶命してしまった。その話を聞いたさくらはしばらく信じることができなかった・・・ 原案・脚本;山田洋次 監督;小林俊一 出演;渥美清(車寅次郎)長山藍子(さくら)佐藤オリエ(冬子)杉山とく子(おばちゃん)井川比佐志(諏訪博士)津坂()東野英治郎(散歩先生)佐藤蛾次郎(弟)森川信(おいちゃん) 男はつらいよ・寅次郎の青春 2005/06/12 火曜日は泉の勤めているレコード店の休みの日だ。彼女が東京に来てから半年経つ。満男は月曜日の夕方に自分の家に泉を招待するつもりで朝からそわそわしている。名古屋の母親をおいてひとりで東京の寮に暮らしている泉に家庭の雰囲気を味わってもらいたいという心遣いだ。レコード店に来た変なお客の話から、博と泉は北原ミレイの「石狩挽歌」を口ずさむ。 二人がかつて属していた高校のブラスバンドで、泉と親友だった娘が近く宮崎で結婚するのだという。泉は有給休暇を取って現地での結婚式に出席することになった。見知らぬ人々に囲まれての式が終わった後、泉はひとりでお城の見物に出かけた。 何と向こうには寅さんの姿があるではないか。しかもどこかの女の人と一緒だった。女二人はお互いに遠慮してその場を離れようとするが、突然寅さんが転んで足をくじいてしまった、いや骨が折れたかもしれないと叫ぶ。いつもの仮病の癖が始まったのだ。 寅さんは数日前、日南市のすぐ横にある油津の町にいた。ふと知り合ったひとりで理髪店をやっている若い女、蝶子に調髪してもらった後、夕食をごちそうになり、泊まってゆくことになる。ギターを弾く弟の竜介がいるが、船員で普段はいつも船に乗り込んでいる。 泉から電話を受けた満男は学校の授業もうち捨ててあわてて宮崎に向かう。寅さんの足は大したことはなかったが、いかにも重傷であるかのように松葉杖をついている。泉が、竜介の運転する車に乗って迎えに来たので、満男はぎくっとするが、竜介に許嫁がおり、近いうちに結婚するという話を聞いてほっとする。 蝶子は誰か幸せをもたらしてくれる男を待っていた。ある時床屋にやってきたひとりの男が一緒にならないかと口走った。その時はただ驚いて返事ができなかった蝶子だったが、いまではまたその男が現れたらすぐに承諾するつもりだという。若い泉はそんな考えではない。自分で幸せを見つけるのだと言っている。 その夜、寅さんは満男に泉とうまくやっているかと訊ねる。手を握ったぐらいしかないと言う満男を笑う寅さんだったが、翌朝船に乗るため早く出かけようとしている竜介が姉に向かって寅さんと結婚したらどうかと言っているのが聞こえてきて、考え込んでしまう。 そして浜辺での昼過ぎ、これから東京へ戻る満男と泉に寅さんも一緒に帰ると言い出すと、蝶子は怒りだした。自分といてくれると思っていたのだ。でも、満男の言うとおり、寅さんは最初のうちは女とうまくやっても「奥行きがない」からそのうち駄目になるのだと判断して蝶子と別れたのは良かったのかもしれない。 寅さんは久しぶりに柴又に戻ってきた。怪我をしたといううわさが広まり、無事戻ってきたことで町内のみんなが大歓迎をしてくれた。一方、博とさくらは息子の恋の行く末を心配しているのだが、寅さんはわざととぼけた返事をするばかり。そのうち大喧嘩になった。 泉の母親が手術をすることになった。宮崎から帰ったばかりでレコード店では休みを取ることを許してくれない。思いあまった泉は店をやめ、母親の待つ名古屋に帰り、そこで仕事も見つけることにした。東京駅に駆けつけた満男に泉は抱きつき口づけをして別れたのだが・・・(1992年) 監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 朝間義隆 キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 永瀬正敏(竜介)下絛正巳(竜造) 三崎千恵子(つね) 太宰久雄(社長) 佐藤蛾次郎(源公) 関敬六(ポンシュウ) 笠智衆(御前様) 前田吟(博) 夏木マリ(礼子) 吉岡秀隆(満男) 後藤久美子(泉) マドンナ;風吹ジュン(蝶子) 白痴 2005/06/18 ドストエフスキーの原作を札幌を舞台に書き換えた作品。約3時間の中に凝縮してある映像の世界は、どのような観点から作られたか、これはぜひとも原作を読み比較検討してみる必要がある。 12月の青函連絡船の中、ヤクザの赤間は、戦犯の処刑を奇跡的に寸前で免れた男、亀田に出会う。だがそのショックからテンカン性の発作に襲われるようになり、まとものものを考えられなくなってしまっていた。自分はバカになってしまったのだと自覚している。 二人は親しくなり雪の吹きすさぶ札幌に出てきた。ある写真館の前で赤間は美貌の女の肖像写真を見せる。那須妙子という女は亀田に言わせるとこの上なく不幸な目をしているのだそうだ。深く印象づけられたままこの姿を亀田は胸にしまい込む。 戦前、亀田は大きな牧場の土地を所有していることが判明した。世話をしてくれる大野の家に居着き、勝ち気で曲がったことの嫌いな妻の里子、平凡な長女、範子、母に似て勝ち気でしかもプライドもどうしようもなく高い次女の綾子を知り合う。 大野の秘書、香山は実は妙子にほれており、今の彼女の情夫に金を払っても、自分の家族に猛反対されても結婚したかった。妙子はわずか13歳で大金持ちにかこわれ、大人になるまでこの世界のありとあらゆる醜い中で生きてきた、本当に不幸な女だった。 妙子の誕生パーティで出会った亀田は、彼女の本性を言い当ててすっかり妙子をとりこにしてしまう。だが生活力のない亀田に彼女を引き取る力などなく、赤間が妙子を連れていってしまう。 赤間と亀田は東京に出た妙子を追ってゆくが、妙子は二人の間をもてあそび、再び札幌に戻ってきた。亀田は赤間の実家を訪れ、赤間が自分に妙子を譲る気であることを知らされる。だが、未練に苦しむ赤間は亀田の後を追い、ナイフで刺殺しようとするが、その直前に亀田は発作を起こして大声を上げ赤間はその場を逃げ出した。 大野のうちで介抱を受けた亀田はまもなく回復し、綾子と親しくなる。実は最初にあったときも、東京から意味不明の、だが純粋そのものの手紙を貰ってからはいっそう綾子は亀田に惹かれるようになっていたのだ。亀田は毎日のように大野家を訪れ二人は一緒に何時間も過ごす。 ある晩の大野家の食卓で、亀田が綾子の両親に結婚の希望を告げると、一家は呆気にとられるが、里子は吾が娘がよくぞ選んだとひそかにおもうのだった。だが、綾子は妙子の件を知っていた。自分は経験も少ないほんの小娘でありながら、怖いもの見たさにわざわざ亀田を連れて妙子と赤間のいる部屋を訪れる。 そこで妙子と綾子は憎悪の目でにらみ合い、亀田を巡って一歩もお互いに引くことができなくなった。結局綾子は絶えられなくなって吹雪の中を外に飛び出した。為すすべもなく呆然と立ちすくむ亀田。綾子をひとりで雪の中を返したことで大野の怒りを買い、結婚話は夢と消えた。 赤間の部屋に戻ってみると、様子がおかしい。部屋は真っ暗でストーブも消してある。ろうそくの頼りに亀田は恐怖に凍り付いた。赤間はナイフで妙子を一気に刺していた。赤間は亀田に一緒に今晩はこの部屋にいてくれと頼む。殺人に巻き込まれてしまうだろうが、亀田は一緒に夜明けまでつきあうことにした・・・(1951年・松竹) 監督: 黒澤明 原作: ドストエフスキー 脚本: 久板栄二郎 黒澤明 キャスト(役名) 森雅之 (亀田欽司) 三船敏郎(赤間伝吉) 原節子(那須妙子) 志村喬(大野) 東山千栄子(妻里子) 文谷千代子(娘範子) 久我美子(娘綾子) 千秋実(香山睦郎) 高堂国典(父順平) 村瀬幸子(母) 男はつらいよ 寅次郎の縁談 2005/06/25 満男は何度就職試験をしても落ちてしまう。もう三十数回目を受けて、これもダメだったとき何もかもいやになった。自分を無理矢理大学に行かせたのは父親の博のせいだとし、面接の時に心にもないことを言うのもうんざりした。突然満男は家出をして、その晩の高松行き寝台列車に乗ってしまう。 大慌てのさくらと博だったが、さいわい寅さんが戻ってきて、満男を連れ戻してくれるのだという。席を温めることもなく直ちに寅さんは香川県丸亀の沖合、瀬戸内海に浮かぶ、小手島に向かった。小さな島だからすぐに満男は見つかったが、旅館などないので満男が世話になっている家に向かうことになった。 だが、急な坂を上っていくときの美女との運命の出会い。寅さんもこの島での滞在は長くなってしまうことになった。満男はこの島にたどり着くと、老人ばかりの住民から若い労働力として頼りにされ、ママカリの漁やら、段々畑の耕作やらで、大自然の中で真っ黒になって働いていた。都会には戻りたくない。 しかも看護師の亜矢とも仲良くなり、住民は二人がいつか一緒になるのではないかと噂しあっていたところだ。満男が泊めてもらっている家は、元船長で隠居している田宮というおじいさんが住んでいたが、自分が若い頃に女に産ませた娘、坂出葉子が神戸からたびたび訪ねてくるのだった。しばらく病気をしていたが、やっと回復してきた矢先に寅さんに出会った。 その夜の住民たちの歓迎会で父親とタンゴを踊る葉子。酔ってしなだれてくる葉子に、いつものように寅さんは逃げ腰になったが雨のせいで離島は無期延期となる。寅さんも満男もすっかり島の生活になじみ次第に島民にとっても大切な住民になりつつあった。 亜矢はすっかり満男に惚れ込み、セーターを編んでプレゼントしてくれた。葉子は寅さんとこんぴら、栗林公園など、讃岐地方をしばらく旅して回った。だがある晩、葉子が満男に寅さんのことをたずねたとき、寅さんが葉子のことを好きであると言ってしまう。葉子は寅さんの口から直接聞きたかったのに、満男がそんなことを言ったものだからお節介だと言って怒っていってしまう。図星なだけにそれを聞いた寅さんはいよいよこの島を出ることに決める。 翌朝早く連絡船に乗り込んだ寅さんと満男は堤防の上からちぎれるように手を振っている亜矢に別れを告げて岸壁を離れた。満男は戻りたくなったが、寅さんに止められる。寅さんはいつもの稼業に戻り、満男は就職試験を続けてチャレンジする気になった。しょせんサラリーマンの子供は都会から離れられない。(1993年) 監督 ・・・山田洋次 脚本 ・・・山田洋次 朝間義隆 原作 ・・・山田洋次 配役 車寅次郎 ・・・渥美清 さくら ・・・倍賞千恵子 諏訪満男 ・・・吉岡秀隆 車竜造 ・・・下條正巳 車つね ・・・三崎千恵子 社長 ・・・太宰久雄 源公 ・・・藤蛾次郎 ポンシュウ ・・・関敬六 花嫁の父 ・・・すまけい 亜矢 ・・・城山美佳子 冬子(御前様の娘→第1作 ・・・光本幸子 諏訪博 ・・・前田吟 田宮善右衛門 ・・・島田正吾 マドンナ;坂出葉子 ・・・松坂慶子 男はつらいよ 寅次郎 紅の花 2005/06/26 いよいよもってこれが最終回となる。不思議なことに、今回の話は観客に寅さんや満男の将来についていろいろ思いめぐらせるような内容となっているのだ。いずれにせよもうこの先は作られることはない。大河小説は終了したのだ。 寅さんは1995年1月の阪神大震災以後、その年の暮れが近づいても音沙汰がなく、とらやの人たちは心配して新聞に尋ね人広告を出してみたほどだった。ところがある日のテレビで神戸でのボランティア活動の模様が紹介され、その中に寅さんの姿が映っていた。もっともそれは数ヶ月前の話で今どこにいるかはわからない。 満男のもとに突然泉がたずねてきた。実は少し前に彼女は岡山県の津山に実家のある医者の息子とお見合いをして結婚話が持ち上がっている。その事を正直にも満男に伝えに来たのだ。だが、例のごとく寅さんの遺伝子を持つ満男はそんな誠実な彼女を前にして「おめでとう」の一言しか言えない。 暗い気持ちで名古屋に帰った泉は結婚を了承し、津山で盛大な式が行われることになった。だが、当日花嫁を運んだハイヤーが狭い津山の道を通り抜けるとき、一台の対向車が目の前に現れどうしても道を譲らない。「戻る」ことが絶対に許されないその日にその車はハイヤーを押し戻した! 結婚はキャンセルとなり、泉は名古屋に戻り、満男は警察でさんざん油を絞られたあげく、何のあてもなく奄美群島にたどり着いた。あまり暗い顔をしているので連絡船に乗り合わせたリリーは心配になって自分の家に一晩泊めてやることにする。 満男がその家に行ってみると、何と寅おじさんがいた。もう何ヶ月か無一文のまま転がり込んで居候を続けているという。もうひとりの居候が加わって南国の夜は更けてゆく。思えばリリーが寅さんと出会ったのは、第11作の根室で、第15作の函館で、第25作の那覇でと何と3回も出会っている運命の人だ。 満男が近所に住む政夫に寅さんとリリーは夫婦なのかときくと、断固として違う、という返事が返ってきた。本当に居候なのだ。満男は帰りの飛行機代を親に頼らず稼ぐべく、いろいろな仕事に汗みどろで取り組む。そしてある日海岸で海を見つめていたときに、うしろに泉が立っていた。 あんな大騒ぎと大迷惑をまわりにかけたが、やっと満男は泉に向かって「愛している」と言うことができた。満男、寅さん、そして母親に会うためにリリーも柴又に向かう。久しぶりの帰郷とあって、寅さんが帰ってくる日は、柴又の人々が大勢詰めかけた。 養老院に暮らす母親と会ったリリーはその日友だちの家に泊まるが、とらやに戻ってくると寅さんが不機嫌でまたまた喧嘩に。タクシーを呼んでひとり帰ろうとするリリーを前にさくらは二階に閉じこもっている寅さんに、リリーと一緒になってもらえるのが自分の夢だったと訴える。寂しくタクシーに乗ったリリーの前に、寅さんが姿を現した。送ってやると言う。それもリリーの住む奄美の家の門の前まで・・・(1995年) 監督・・山田洋次 脚色・・山田洋次 朝間義隆 原作・・山田洋次 配役 車寅次郎・・渥美清 /諏訪さくら・・倍賞千恵子/ リリー・・浅丘ルリ子/ 諏訪満男・・吉岡秀隆/ 及川泉・・後藤久美子 /車竜造・・下条正巳/ 車つね・・三崎千恵子/ 諏訪博・・前田吟/ 社長・・太宰久雄 /源公・・佐藤蛾次郎/ ポンシュウ・・関敬六 /及川礼子・・夏木マリ /船長・・田中邦衛/ 政夫・・神戸浩 /リリーの母・・千石規子/ 神戸のパン屋いしくら・・宮川大助/ パン屋の妻・・宮川花子 /箕作伸吉・・笹野高史/ 駅舎の男・・桜井センリ/ タクシー運転手・・犬塚弘/ 神戸の会長・・芦屋雁之助 女と男のいる舗道 Vivre sa vie: Film en douze tableaux 2005/07/02 (再)2014/05/08 原題は「自分の人生を生きる」。日本でのタイトルが男より女の方が先になったのは、売春婦の一生を描いたからであろう。副題にあるように、展覧会で12枚の絵を順に見るような手法が取られている。つまりそれぞれがお互いに連続していながらも短い独立したストーリーを持つのだ。 カフェのスタンドで、向こうを向いたままの男女が短い会話を重ねている。どうやら女は夫や子供、夫の両親も捨てて、舞台女優になる夢を持っている。夫はそれを引き留めようとするが、あまり積極的でない。 この女はナナといい、自分の将来に不安を抱いていて、どうも勇ましく独立するようではないらしいことが、出てくる言葉の端々に現れている。夫は最後にめんどりの皮をむくと中に魂が見えたという、小学生の作文をナナに聞かせる。 女は知り合いの写真家に自分の体を写して貰おうとするが、全裸を見せることにとまどいを感じている。ある日、女友達のもとを久しぶりに訪れると、彼女も男と別れ、生計を立てるために舗道に立ち始めたようだ。その場にいたその女のポン引きに当たる男が、ナナにも目をつけて近づいてくるが、ヤクザの抗争に巻き込まれて、あたりは爆発音や銃声に包まれる。 ナナの女優志願はなかなか実現しなかった。暮らしていくために借金漬けだ。知り合いのもとに、メイドの仕事を申し込む手紙を書いているときに、先の銃声事件の時にいた男が現れて、夜の仕事の世話をしてやるという。フランスでは売春は非合法ではない。警察に届け、医師の診察をきちんと受けてルールを守れば、それなりの収入が約束される。 ナナも次第にこの仕事に慣れ、大勢の客を取り、普通の職業のように休みの日には息抜きをしたりするようになった。まだ23歳の若さであったが、カフェで知り合った老作家に人生についての哲学があり、彼女もそれに少しずつ興味を持ち始める。 ある日突然、仕事の世話をしていた男がナナをほかの男たちも大勢乗っている乗用車にむりやり乗せて、郊外の方へ向かった。あるうらぶれた建物の所に来ると、その男は黒服の男たちから金を受け取った。ナナは別のグループに売られたのだ。ナナが客のえり好みをしたせいらしい。 だがその金は約束の金額より少なかった。男が文句を言うと、彼らはいきなりピストルを撃ってきた。男はナナを盾にして車に飛び乗ると逃走した。路上には男たちに撃たれたナナの死体が転がっていた。短い売春婦の一生であった。(1962)・・・資料 Directed byJean-Luc Godard Writing credits Marcel Sacotte (book) Jean-Luc Godard (story) Cast Anna Karina .... Nana Kleinfrankenheim / Sady Rebbot .... Raoul (as Saddy Rebbot) / André S. Labarthe .... Paul / Guylaine Schlumberger .... Yvette (as G. Schlumberger) / Gérard Hoffman .... Le chef / Monique Messine .... Elisabeth リスニング;フランス語 The Deer Hunter ディア・ハンター 2005/07/05 (再)2024/02/25 悲しい物語である。アメリカのベトナム政策が悲惨だっただけでなくその中で翻弄されるアメリカの一般国民も悲惨である。一握りの愚かな政治家達の愚かな決定が、人々の暮らしを破壊し尽くす。 ここはペンシルベニア州、クレアトン。盆地のような地形の中に、大きな製鉄所がそびえている。この小さな田舎町はこの工場の若い従業員たちによって支えられている。仕事がひけると、大勢の若者たちが外に吐き出され、それぞれの家に、あるいは居酒屋に散って行く。 マイケルら6人の仲間たちもその一つだった。彼らは一緒に働き、共に飲み、そしてまわりの山間部での鹿狩りを楽しみにしていた。近くスティーブンがやはり地元のアンジェラと結婚することになった。 この町はスラブ系の移民によって成り立っている。だから教会は丸屋根で、賛美歌も結婚式のやり方もみんなロシア正教会によって行われている。彼らの結婚式は、彼らにとって出立式でもあった。マイケル、スティーブン、ニックはベトナム戦争に徴兵される予定になっていたからである。 ロシア式の結婚式は盛大にとり行われた。だが、アンジェラは新郎と葡萄酒を飲む儀式に臨んだとき、思わずふたしずくほどこぼしてしまった。彼らの言い伝えによれば、こぼさずに飲む干すとその夫婦は幸福になれるというのに。 マイケルはニックと仲がよかった。二人とも鹿狩りの名人で、頼りになるパートナー同士だったからだ。新婚のスティーブンを除く5人は結婚式の翌朝山に出かける。見事な鹿を捕らえることができた。彼らの青春の最も想い出に残る1ページである。ギターの切ない曲が流れる。 リンダはニックの恋人である。結婚式では次の結婚予定カップルに指名された。だが、マイケルも遠くからリンダに憧れていた。だが親友の許嫁に手を出すわけにはいかない。心にその思いを秘めたまま、ベトナムへと出征した。 ベトナム戦争は末期になっており、アメリカ軍は次第に南へと押しやられているところだった。戦いは凄惨を極め、ジャングルに迷い込むうち大きな川に出て、三人は賭博師たちに捕まってしまった。彼らは捕虜に弾丸を一発だけこめた六連発銃を渡し、こめかみに銃口をあてて引き金を引かせるのだった。 死の確率が6分の1という、このロシアン・ルーレットに戦争のさなかベトナム人たちは熱狂し、捕虜たちは次々と引き金を引かされ、その極度の恐怖感のために気が狂い出す者もいた。 こんなゲームに巻き込まれてしまうより撃ち殺された方がましだと思い、マイケルは得意の射撃を使って隙を見て賭博師たちを撃ち殺した。流木に捕まって三人はこの場所を脱出した。足に大けがをしたスティーブンは幸いアメリカ軍のヘリコプターで救出されたが、マイケルとニックはその後離ればなれになり、それでもようやくふたりともサイゴンの町に戻ってきた。 ニックは病院でしばらく療養したが、スティーブンソンは足を切断し、自らの精神的なシ ョックもいつまでも癒されないままだった。ニックは医師の診断で移送となるが、ふらふらとサイ ゴンの町に飛び出す。 ある場末にたどり着くと、フランス語を話すベトナム人が、ばくち に参加しないかと誘いかけてきた。言われるままについてゆくと、あの悪夢のようなロシ アン・ルーレットを行っているのだった。赤い鉢巻をした男がこめかみに銃口を当てたと たん、弾丸が飛び出し即死した。見物人の中にはマイクがいた。ニックの姿を認めると近づこうとしたが、周りの騒ぎで姿を見失ってしまった。 マイクは一人故郷のクレイトンに 戻った。だがみんなの歓迎パーティに顔を見せる気はなく、翌朝リンダの家を一人で訪れ た。リンダはスーパーのレジ係をしていた。ニックが行方不明だと聞くと、あきらめたらしくマイクに近づいてきた。だがマイクはニックがまだ生きているはずだから心の底から リンダと抱き合うことができない。 マイクはアンジェラをたずねた。スティブンソンはすでに帰国していたのだが、両足切断をみんなの前に見せるのが恥ずかしくて、病院に閉じ こもったきりなのだった。見舞いに行ったマイクは毎月知らない人から大量のお金がステ ィーブンソンの元に届けられるのを知って驚く。これはニックに違いない。彼はきっとど こかであの危険なばくちを続けているのだ! マイクはサイゴンに舞い戻る。町はベトナム軍の攻撃であちこちから火の手が上がって、戦争の終結がまじかに迫っていることを物語 っていた。ようやくフランス語を話すベトナム人を捜し当てると、ニックは今まさにはじめようとしていたところだった。マイクが話しかけてもわかっているのか、知らないふりをしているのか、その顔には一切の表情がなかった。 マイクを無視してニックはルーレットを始 めようとするので、思い余ったマイクは自分もばくちに参加すると言い出す。銃口を構え たマイクを見て始めてニックは微笑み、この一発を打ったら故郷に帰るとつぶやいた。マイクは引き金を引き、ニックも引き金を引いた・・・ 再び全編に流れる切ないギターの調べがこの映画の雰囲気をよくあらわしている。そしてロシア系 だろうと、アメリカ国民である以上、国家の命令に従わなければならない。自分たちの仲間に犠牲者が出ても、彼らは「アメリカに祝福あれ」と歌うのだ。しかし、この歌を最後に流したのは、監督の大いなる皮肉に違いない。(1978年)・・・資料 Directed by Michael Cimino Writing credits Michael Cimino (story) & Deric Washburn (story) ...Cast:Robert De Niro .... Michael Vronsky / John Cazale .... Stanley 'Stosh' / John Savage .... Steven / Christopher Walken .... Nick / Meryl Streep .... Linda / George Dzundza .... John / Chuck Aspegren .... Axel / Shirley Stoler .... Steven's mother / Rutanya Alda .... Angela / Pierre Segui .... Julien Grinda / Mady Kaplan .... Axel's girl / Amy Wright .... Bridesmaid / Mary Ann Haenel .... Stan's girl / Richard Kuss .... Linda's father / Joe Grifasi .... Bandleader リスニング;仲間同士の言い合いはかなり聞き取りづらい。 男たちの挽歌 A Better Tomorrow 英雄本色 2005/07/30 父親を殺された兄弟の間の確執を描いた傑作。単なるアクション中心のギャング映画にとどまらず、親友への一貫した態度、刑期を終えて社会更生する姿など、多くの社会的個人的問題を含んでいる。 1980年代の香港は、ギャングがばっこし、インドネシアや台湾にもその影響力を伸ばしていた。シンの率いる巨大組織では、偽札づくりでその勢力をどんどん拡大していた。その幹部に、ホーとマークがいた。二人は親友同士で、力を合わせると大きな仕事をどんどんやってのけるのであった。 ホーにはキットという弟がいた。とても仲が良く、病身の父親を二人で面倒を見ていたが、キットは自分の兄がギャングだとは少しも知らない。キットも学校を卒業してジャッキーと言う許嫁もいた。 ある日、ホーに台湾出張の命令が下る。現地に赴いたホーは偽札の取引をしようとしたが、相手の裏切りで警察に捕まってしまう。取引相手はホーから自分たちの悪行がばれるのを恐れて、父親を誘拐しようとする。だが、ジャッキーやキットも巻き込んだ乱闘となり、父親は乱入者に刺されて絶命する。 それから3年後、刑期を終えてホーは出所した。出所者を雇ってくれるタクシー会社に勤め、まじめな生活を始めようとしていた。だがキットは兄のことを許せず会いに来ても追い返すどころか、刑事としての仕事についてシンの組織をつぶそうと毎日走り回っているのだ。しかも兄が出所したとはいえギャング出身であるから、警察での昇進も押さえられていた。キットのホーに対する恨みはつもる一方だった。 ホーはあるときマークに出会う。マークはホーが捕まったのを腹いせに、相手の組織の宴会を襲って皆殺しにしたのだが、わずかな隙に足に銃撃を受け、今では義足を付けて歩く生活だった。シンの組織でもその地位はすっかり落ちてしまっていた。それでも証拠不十分のためにいまだに警察に捕まらないでいる。 やがてシンからホーに呼び出しがあった。かつての有能な幹部を自分の組織で再び働かせたいのだ。だがホーはきっぱり断った。自分はどんなことがあってもカタギの生活に戻るのだと宣言したのだ。これに腹を立てたシンは部下にタクシー会社を襲わせ、マークにも暴行を加える。 やっとの事でマークを救出したホーだったが、マークは何としてもシンへの復讐をすると言って聞かない。偽札の原版を奪うとこれをホーに渡した。ホーはこれをシンたちを壊滅させるチャンスととらえ、港でシンと取引をすることにした。 単身で現れたシンに対し、札束を受け取ったマークはモーターボートで国外に逃走しようとする。だがホーは自分は残るという。キットが単身乗り込んでくることを知っていたからだ。シンと部下に捕まっていたキットとを交換した瞬間、壮絶な銃撃戦が始まる。 ホーとキットが押され気味のところへ、思い直したマークが戻ってきて戦いに加わった。マークはキットに向かってなぜ自分の兄を許さないのかと絶叫した。その瞬間マークは頭を打ち抜かれる。警察が到着してシンが自首しようと出ていったとき、キットはそっと拳銃をホーに渡した・・・(1986年) Directed by John Woo Writing credits Hing-Ka Chan / Suk-Wah Leung Cast: Lung Ti .... Tse-Ho Sung / Leslie Cheung .... Tse-Kit Sung / Yun-Fat Chow .... Mark Gor =Mark Lee (as Chow Yun Fat) / Emily Chu .... Jackie / Waise Lee .... Shing / Fui-On Shing .... Shing's right hand man / Kenneth Tsang .... Ken / Hark Tsui .... Music Judge / John Woo .... Inspector Wu リスニング;広東語、北京語 アデルの恋の物語 Histoire d'Adèle H., L 2005/08/07 (再)2013/04/06 (再)2023/10/09 大詩人の次女が心に傷を負って、関心を失ってしまった恋人にすべてを捧げようと苦悶の中に狂ってしまった数奇な生涯。 カナダの東端、ノバスコシア半島の町、ハリファックスの港にイギリスからの船が到着した。その乗客の中に、単身フランスから渡ってきた若い娘アデルがいた。彼女はピンソン中尉という若い男に惚れられ、結婚の約束までしてもらっていたのだが、その後男の心は変わり、しかも借金漬けでイギリス軍に入ってハリファックスに駐屯していたのだ。 アデルは一途な女ではるばる大西洋を渡ってピンソンに会いに来た。父親はフランスの国民的英雄、ビクトル・ユーゴーであった。その親の名前の重さもさることながら、姉は19歳でその連れ合いと共に溺死し、それがいつまでもアデルの心から離れることがなかった。 父親に似て文章を書くことが大好きなアデルは、ハリファックスの町に下宿してからも、メモ用紙を買い込み、あらゆることを日記風に書き留めていた。ピンソンに再会はできたが、まったくつれなくされ結婚の意思がないことを告げられた。だがアデルはどうしても思い切れない。次第に彼女の行動は常軌を逸し始めた。 父親に自分がすでに結婚したと報告してピンソン夫人と名乗ったり、ピンソンが親しくしている女に近づいたり、売春婦に金を払ってピンソンの住む部屋へ行かせたり、男装してピンソンのいるパーティに出かけたりした。最後には下宿を出て浮浪者の収容所へ入れられた。 ピンソンはアデルから逃げ回っていたが、西インド諸島の東端、バルバドス島への移動命令が下った。ところがアデルも父親からもらったフランスへ帰る金を持ってバルバドスに移ったのだった。だが町中で倒れ、親切な黒人の女の世話を受けていたが、ピンソンが目の前に現れても、もはや認識することができないのだった。 その黒人女はアデルがユーゴーの娘であるという事情を知り、わざわざフランスまで送り届けてくれた。母親は死に、ユーゴーは亡命生活を送っていたがナポレオン3世が退位したあとパリに戻り、アデルは精神病院に入れられて85歳まで生きた。(1975年)・・・資料 Directed by François Truffaut Writing credits Jan Dawson (English adaptation) Jean Gruault Cast: Isabelle Adjani .... Adèle Hugo a.k.a. Adèle Lewry / Bruce Robinson .... Lt Albert Pinson / Sylvia Marriott .... Mrs. Saunders / Joseph Blatchley .... The Bookseller / Ivry Gitlis .... Hypnotist / Louise Bourdet .... Victor Hugo's servant / Cecil De Sausmarez .... Mr. Lenoir / Ruben Dorey .... Mr. Saunders / Clive Gillingham .... Keaton / Roger Martin .... Doctor Murdock / M. White .... Colonel White (as Mr White) / Madame Louise .... Madame Baa / Jean-Pierre Leursse .... Black penpusher リスニング;英語とフランス語。カナダの東端であるから、この地域では2言語生活である。 Dances with Wolves ダンス・ウィズ・ウルブズ 時は、アメリカが南北戦争のまっただ中の1863年。特に西部では、南軍と北軍との戦い、インディアンを追い払い、広大な草原を征服するために、軍隊の役割は大変重要であった。ダンバー中尉はまだ若かったが、戦いで勇者と認められ、やがて消えるであろうフロンティアを見たくて大草原の中の砦にへの転任を申し出る。 だが、ネブラスカ州の苦労してやっとたどり着いた砦には一人の人間もおらず、荒れ果てた建物と馬車の残骸が転がっているだけであった。それでもダンバーは、荷馬車の男の止めるのも聞かず荷物を降ろさせ、一人砦で救援隊を待つことを決心する。 食料はたっぷりあり、愛馬と共に砦での生活が始まった。外には狼が一匹うろつき、エサをやるわけではないが遠くからダンバーをじっと見つめているのであった。やがて砦での一人暮らしに慣れたころ、人の気配に気付いスー族のたインディァンが、偵察にやってきた。素っ裸のダンバーを見ると驚いて逃げていった。 ある日、怪我をしたインディアンの女を発見した。馬の背中に乗せて彼らの部落へ連れていくと、はじめは警戒していたが、敵意のないことを悟ったようだった。やがて酋長の部下らしい二人の若者が訪ねてきて、ダンバーは彼らが自分に悪意をもってない人々だと知る。 助けた女は、小さいころにインディアンにさらわれた白人だった。彼女のかすかな英語の知識によって、少しずつお互いを知るようになった。彼らはダンバーの砦を訪問し、ダンバーも彼らの部落を訪問して、次第に人間としてのつきあいが深まっていった。 ある日、バッファローの群が近くを通過した。彼らは狩りをして、1年分の食料を手に入れた。ダンバーも狩りに参加し、落馬して猛り狂ったバッファローに襲われそうになった若い女を危ういところで救ってやった。だが、猟をする白人たちも近くにいたらしい。かれらはバッファローを殺したあと肉には手をつけず、舌と毛皮だけを取って去っていった。 やがて、近隣の部族が攻めてきた。ダンバーも協力して敵を追い払い、ますます彼らの中で尊敬を集めるようになった。狼と戯れているところを見られたところから、「狼と踊る男」という愛称で呼ばれるようになった。草原で救った女は、前の夫の喪が明けたとき、妻になった。 だが、白人たちがいつの日か、この肥沃な草原にやってきてインディアンたちを追い払うことはダンバーにはよく分かっていた。彼らは別の場所に移動することになり、ダンバーも妻と共に引っ越しの準備をした。だが、自分の日記を砦に置き忘れてきてしまったのだ。これを読まれると、インディアンたちの移動先も知られてしまう。彼は一人砦に戻った。 だが、すでに砦には兵隊たちが来ていた。悲劇が始まる。ダンバーの服装を見てインディアンだと思った兵士たちはダンバーの愛馬を撃ち殺し、彼を拘束した。殴る蹴るの拷問を受け、軍法会議にかけられることになった。だが護送途中に仲間のインディアンたちが現れて兵士たちを皆殺しにしてダンバーは自由の身となった。 再び彼は山間部に逃げ込んだ部族のもとに戻ったけれども、自分がいるとそれを口実に白人たちは攻撃を仕掛けてくることだろう。ダンバーは妻と共に部族を去る決心をする。多くの友人たちが見送ってくれた。そしてそれから13年後、スー族はインディアン居留地に閉じこめられることになったのだ。 はじめの三分の2で、異民族との共存の可能性が語られるが、それだけに残りの三分の1での悲劇はいっそう痛ましいものとなる。アメリカ兵士の獣性が描き出される。インディアンと見たとたん動物と同じようにいきなり撃ち、狼を見かけたとたん、射撃の練習に使う。 それはそのまま後の原爆投下と、途方もない自然破壊とに直結している。アメリカ白人文明の非人間性と、閉ざされた未来の姿が静かに語られる。ハリウッドで作られた西部劇は、最近までインディアンがすべて悪者になっていた。強大な文明の傲慢さは滅びない限り、決して消えることはないのだ。(1990年)→この映画の南米版は「ミッション」 Directed by Kevin Costner Writing credits (WGA) Michael Blake (novel) Michael Blake (screenplay) Cast: Kevin Costner .... Lt. John Dunbar / Mary McDonnell .... Stands With A Fist / Graham Greene .... Kicking Bird / Rodney A. Grant .... Wind In His Hair / Floyd 'Red Crow' Westerman .... Ten Bears (as Floyd Red Crow Westerman) / Tantoo Cardinal .... Black Shawl リスニング;英語 La Tulipe noire 黒いチューリップ 2005/09/01 時は1789年の6月。パリから離れた片田舎に、愛馬ヴォルテールにまたがった「黒いチューリップ」という盗賊が出没して、貴族の金品を奪い、貧しい人々にわけるということで、庶民の人気を集め、一方では貴族や憲兵隊は何とかして彼を捕らえようとしていた。 一方では、ギヨーム侯爵という男が、黒いマスクをかぶっているのだという噂もあり、憲兵隊の隊長は何とかしてその事を実証しようとしていた。そしてそのチャンスが訪れたのだ。いつものように黒いチューリップが馬車を襲ったとき、隊長は激しい剣の撃ち合いで、捕まえることはできなかったが黒いチューリップの左の頬に切り傷を付けてやったのだ。 あとで、仕返しに隊長の左頬に傷を付けてやったが、黒いチューリップはもはやギヨーム侯爵に戻ることができない。それでパリに住む弟のジュリアンに来て貰うことにした。ジュリアンはギヨームとそっくりで(一人二役)で、革命派でありフランスを自由な国にすべく燃えていた。 ジュリアンはギヨームになりすまし、貴族たちの集会に出席した。途中で落馬してしまい、看護してくれたカロリーンと恋仲になる。集会に潜り込んだジュリアンは、革命派を押さえ込むためにマルセイユからパリに向かって軍隊が進軍していることを耳にする。 急いで兄のもとに帰ったジュリアンは、橋を爆破してこの進軍を止めるべきだと提案するが、兄は政治にはまったく関心がないと言って関わりを断る。そこでジュリアンは、カロリーンやその父親プランタン、地元の革命派を集めてサボタージュを計画するのだった。 橋の爆破はうまくいかなかったが、指揮官を捕まえて軍隊をマルセイユに戻す命令書に署名させた。軍隊は回れ右をして南へ戻っていった。だが、材木置き場には憲兵隊が、待ち伏せていたのだ。カロリーンが援軍を求めに行っている間、ジュリアンとプランタンは捕まり、絞首刑になることになった。 これを聞いた兄のギヨームは放っておけない。深夜にジュリアンが幽閉されている城壁によじ登り無事脱出させたのだが、今度は自分が見張りに撃たれてしまい、代わりに捕まってしまった。翌日ギヨームは絞首刑となる。 だが、人々の前に弟のジュリアンが黒いチューリップのマスクをつけて姿を現す。貴族たちは狼狽し、憲兵隊は彼を捕まえようとする。だが、パリではすでにバスチーユ牢獄が攻撃され、革命は始まっていた。この町でも革命派が勝利を収めたのだ。(1964) Directed by Christian-Jaque Writing credits Alexandre Dumas p醇Qre (novel) and Marcello Ciorciolini (additional story) .Cast: Alain Delon .... Julien de Saint Preux/Guillaume de Saint Preux / Virna Lisi .... Caroline Plantin / Adolfo Marsillach .... La Mouche / Dawn Addams .... Catherine de Vigogne / Akim Tamiroff .... Marquis de Vigogne / Laura Valenzuela .... Lisette / Georges Rigaud .... Intendant General/Chief of Police / Francis Blanche .... Plantin リスニング;フランス語。早口で大量のセリフが流れる。 L'Effrontée なまいきシャルロット 2005/09/04 13歳のシャルロットは田舎町のさえない少女。母親は生まれてすぐに死んで寂しい少女だった。特にこのところ何もやる気がせず、バカンスが近づいても、友だちにパーティに誘われても断ってばかり。夏休み前の水泳の授業でもプールでの飛び込みができないためにみんなから冷やかされる。 ふと帰るときに耳にした、自分と同じ年の天才少女クララのピアノ。その見事な演奏にシャルロットは何か心惹かれる。家には、兄と父親との三人暮らし。身の回りの世話はメイドのレオーネがやってくれる。だが、反抗期なのか家族とは諍(いさか)いが絶えない。「こんな汚い家はいや!」と叫ぶシャルロットに、父親もレオーネも困り果てている。 近所の看護士の幼い娘ルルは、母親が夜勤の時には必ず泊まりに来る。病弱でまだ年端もいかないが、シャルロットにすっかりなついてしまって夜中でも一緒に寝ると言ってきかない。 翌日父親の言いつけで旋盤工場へ出かけるところで、その途中偶然にもクララの乗った乗用車が前を通り、ピアノの椅子を修理してもらいにそこへ行くから案内してくれと頼まれる。クララは愛想のよい娘で、二人は顔見知りとなり、住んでいるのも近所の湖の近くだということもわかる。 旋盤工場に新しく入った若者はジャンといった。シャルロットはこの青年になんとなく興味を持ち、ピアノの椅子の修理ができることを見計らって工場へ出かけて行く。クララに会いにゆくための口実に過ぎなかったのだが、これがかえってジャンの気持ちをそそってしまう。彼は船乗りで臨時に手伝いに来ていたがまもなく再び航海に出るということだった。 ピアノの椅子を届けにプールつきの広大なクララの屋敷に入り込んだシャルロットは、気のいいマネージャーに熱烈なファンだと思われて、ちょうどモーターボート遊びから帰ってきたクララに会わせてもらい、彼女の衣裳を借りてその晩のパーティに招待される。 ふと、クララが付き人にならないかと言ったのを真に受けたシャルロットは有頂天になる。家に帰ってもそのことが気になって仕方がない。レオーネやルルにも吹聴してすっかり自分がこんな汚く狭苦しい家を出て世界を股にかけるつもりになっている。 気が高ぶっているせいか、ジャンの誘いにも応じた。若者が集まるバーで一緒に話をし、映画を見たりゲームをしたりした。最後に彼の泊まっているホテルの部屋に入っていって危うく手込めにされるところを脱出したりする。 レオーネは若い娘の戯言(ざれごと)だとして相手にしないが、ルルは本当にシャルロットがいなくなってしまうと思ったらしい。日曜日のクララのコンサートに3人で出かけたのはいいが、クララの演奏を聴いているうちに、ルルが「シャルロットを連れて行くな!」と大声を出して、会場から追い出されてしまう。 公演が終わったところで、運よくマネージャに出会ったシャルロットは、付き人になりたいという気持ちを取り次いでもらうが、家に帰るとそんな気持ちも消え失せてしまっていた。この騒ぎも自分が今の状況から自由になりたいという気持ちから出たのだと気づいたのだ。(1985年) Directed by Claude Miller Writing credits Claude Miller & Luc Béraud Cast: Charlotte Gainsbourg .... Charlotte Castang / Clothilde Baudon .... Clara Bauman / Julie Glenn .... Lulu / Bernadette Lafont .... Léone / Jean-Claude Brialy .... Sam / Jean-Philippe Écoffey .... Jean / Raoul Billerey .... Antoine Castang / Richard Guerry .... Regard sombre / Simon de La Brosse .... Jacky Castang (as Simon de la Brosse) / Cédric Liddell .... Pierre-Alain Gallabert / Chantal Banlier .... Serveuse perroquet / Philippe Baronnet .... Professeur de gymnastique / Louisa Shafa .... Femme vestiaire リスニング;フランス語・テーマソングはイタリア語。メンデルスゾーンやベートーベン、モーツァルトの曲があふれる。 ハートオブダークネス Hearts of Darkness: A Filmmaker's Apocalypse コッポラ監督による「地獄の黙示録」撮影の現場を、妻のエレノアがドキュメントとして撮影した作品。ベトナム戦争の最中に、ジャングルの川をさかのぼって主人公が「原始と悪の根元」である男を殺すまでの哲学的映画を、フィリピンの川とジャングルをロケ地に、1年近くの大変な労力と人力をかけて作り上げた苦闘の記録である。 そしてなによりも制作費だが、これは映画会社に頼るのではなくて、「ゴッドファーザー」シリーズの大成功によって巨額の収入を得た監督の自費によってまかなわれたというのだから、アーティストとしてこれ以上のチャンスはない。 それにしても、直前での主役の交代、台風の襲来、資金不足、テロの脅威など、次から次へと難題が押し寄せてきた。カメラは自分の夫が悩み苦渋する姿にレンズを向ける。制作の遅れはアメリカ本国でも評判になり、「一体いつできるのか?」という記事が次々に書き立てられた。 それにしても最も困難なのはコンラッドの原作である「闇の奥」をいかに自分の解釈によって映画化するかという問題なのだ。原作ではアフリカの川だが、映画ではベトナム戦争という背景があり、そこで河をさかのぼることによって原始の秘めた悪と暗黒に近づくというストーリーをどのように観客に伝えるか監督は七転八倒する。 大監督は、細部にこだわり、気に入らなければ何度でも撮影を繰り返す。コッポラも例外ではない。たとえばトラに主人公が襲われるシーンは実際の映画ではわずか5秒余りだが、このトラのために、調教師を連れてきて、トラを空腹にさせて跳びかからせる。 悪の権化であるカーツという男にはゴッドファーザーでの主役、マーロン・ブランドが扮したが、そのとてつもないギャラに加え、彼が原作を読んでいないこと、すっかり太ってしまってイメージが変わってしまったことにより、監督はシナリオを書き直すしかなくなった。ただ、ブランドというのはその姿を画面に見せるだけで、モノになる大俳優なのだ。 だが、監督は書斎にこもってシナリオを書くというよりも、実際に役者をカメラの前に立たせて即興でセリフを言わせるという方法を選んだ。これにより制作はますます遅れ、試行錯誤の結果役者もスタッフも塗炭の苦しみをなめることになる。それでもとにかく完成したのだからこれは奇跡とでもいうしかないだろう。(1991) Directed by Fax Bahr George Hickenlooper Writing credits Fax Bahr / George Hickenlooper リスニング;英語、スタッフや俳優たちのインタビューが混じる。 地獄の黙示録 Apocalypse Now 2005/09/08 (再)2014/07/11 (再)2021/02/23 コンラッドの小説「闇の奥」をもとにして作った哲学的映画。apocalypse は聖書で予言されている世界の終わりのことだ。ベトナム戦争のまっただ中、狂気の将校を殺害する命令を受けた情報部の大尉がジャングルの河を奥深くさかのぼる。 ウィラード大尉はサイゴンで、情報部の任務を待っていた。カーツ大佐という非常に優秀な男が、軍の命令を聞かなくなり、勝手にカンボジアの奥地で山岳民族を支配して「自治領」を作り上げている。今回の仕事は、ベトコンではなくこの味方の将校を消すというまれな指令を実行に移すことだった。 戦争体験も浅い4人の若者が操船する哨戒艇をあてがわれ、ベトナムの河口からカンボジアの上流に向かってさかのぼることになった。ところが河口から少し川上に行ったところがベトコンの村である。近くのヘリコプター部隊を指揮するキルゴア中尉に援護してもらうことになった。 ところがこのキルゴアというのが、戦争の狭間に生まれたクレージーな男で、ベトコンの村を直ちに攻撃してくれることになったが、ワグナーの音楽を鳴らして突入を行い、ナパーム弾を次々と投下し、その村の海岸ではすばらしい波が立つというので、ボードを持ってこさせてサーフィンをやると言ってきかないのだった。 ウィラードは、カーツが狂気にとりつかれていると言っているが、このキルゴアの方がよっぽどおかしいのではないかと思い、このベトナム戦争では兵士の軍規はゆるみ、略奪、麻薬、そしてキチガイ指揮官の暴走がはびこっていることを思い知らされるのだった。 何機かのヘリコプターは撃墜されたが攻撃は成功し、哨戒艇をヘリコプターで運んでもらって、川上りの旅を続けることができた。乗組員は、皆きちんとした軍事訓練を受けていないようで、ウィラードが機密を理由に目的地を言わないので、上流に行くことをいやがっている。 まだ、アメリカ軍の勢力範囲内なので、ある船着き場で燃料を補給することができた。ちょうど海兵隊員のための慰問コンサートが行われるところだった。ヘリコプターで降り立った、エンターテイナーとバニーガールが、踊りや歌を披露すると、兵隊たちは興奮してきてステージに飛び出し収拾がつかなくなって、ヘリコプターは公演を途中で切り上げて脱出していった。 哨戒艇のチーフは、行く手にベトナム人の日用雑貨を積んだ船を見つけると停船を命じた。ニューオリンズ生まれの乗員に無理矢理、船内を捜索させたのだが、いちばん若い乗員が興奮して機銃を発射させてしまい、暴発はベトナム人全員を死なせてしまった。ミライやソンミの虐殺事件と同じく、一瞬にして起こり、ウィラードも誰も止めることができなかった。 船が進む間、ウィラードは手渡されたカーツ大佐についての極秘資料を片っ端から読んだ。出世街道をまっしぐらだったこの男は一体どうして突然変わってしまったのか?それは自分を狙っていた、南ベトナム人の二重スパイと思われる将校を、自分の判断で始末したことらしい。実はこの処刑後は自分を襲うものはいなくなったのに、彼は現地人殺害の疑いで起訴されたのだ。彼は軍の組織に、そしてベトナムでの戦争に対して恨みを抱くようになったのか? アメリカ軍の腐敗と疲弊は続く。燃料缶と交換でバニーガールを抱かせてもらったり、ベトコンの攻撃の前に、退却もままならず指揮官もいないまま、兵隊たちが勝手に攻撃をやっているのだった。最後のアメリカ軍のポイントを通過する。施設は燃え上がっていて兵隊たちは船に乗せてくれと川に飛び込んできた。 その先はベトコンや山岳民族の支配する地域である。一斉に撃ち込んできたロケット弾の攻撃で乗員の一人が死んだ。故郷の母親からのテープレコーダーの手紙を聞いている最中だった。死んだあともそのテープは回っていた。 ジャングルの真ん中に十数人からなるフランス人たちの入植地があった。インドシナにフランスが植民地を作ったときの生き残りだった。彼らはもはやフランスに戻るつもりはない。死んだ乗員を埋葬させてくれ、その晩はウィラードは夕飯に招待された。テーブルの向かい側には、夫を失った若い女が座っていた・・・ 彼らにはここが自分たちの故郷なのだった。ルーズベルト大統領がフランスを追い出すために作ったベトミンたちは今、ベトコンとしてアメリカと戦っている。アメリカは共産主義と戦うなどという未だかつて例のない大義名分で、無意味な戦争を行っていると彼らのボスはあざ笑う。だが彼らも70年にわたりベトナム人、特に現地民族との戦いで家族を失い、消滅の危機に瀕していた。 フランス人たちに別れを告げ、カーツの支配する地域に入ると、矢ではなく木の棒が船にめがけて一斉に放たれた。哨戒艇の艇長はもうこんな目に会いたくないと叫んだ瞬間、自分は槍を背中から貫かれて死んだ。 ついにカーツ大佐の支配する村に到着した。大勢が船着き場にいたが、おそらく彼の命令で村民たちは何の手出しもせず眺めているだけだったし、最初に話しかけてくれたのはアメリカから来報道写真家と名乗る男だけだった。村には生首や死体が累々と転がり、その間を人々が平気で歩いていた。 だが対面したカーツは孤独な男だった。新興宗教の教祖のように振る舞い、村民たちを意のままに動かすことはできても、アメリカにいる息子のことが気になっていた。そして自分が反逆した将校としてみなされていることに悩み、今回それはウィラードが送り込まれたことによっていっそうはっきりした。 ウィラードは竹の牢に入れられ、雨風にさらされて、息も絶え絶えだ。船で留守番をしている乗員は爆撃を無線で頼もうとしているところで頭を切断される。だがカーツは一転して、村から逃走しない限り自由に振る舞うことを許してくれた。ウィラードはこれを自分が殺してくれるのを待っているのではないかと感じ取る。 祭りで生贄のウシを打ち殺して村民たちが興奮しているさ中、宮殿の中にひとり入ったウィラードは、逆らわないカーツをめった打ちにする。「まるで地獄だ・・・」とつぶやきながら。(1979)・・・資料 Directed by Francis Ford Coppola Writing credits John Milius (screenplay) and Francis Ford Coppola (screenplay) Cast : Marlon Brando .... Colonel Walter E. Kurtz / Martin Sheen .... Captain Benjamin L. Willard / Robert Duvall .... Lieutenant Colonel Bill Kilgore / Frederic Forrest .... Jay 'Chef' Hicks / Sam Bottoms .... Lance B. Johnson / Albert Hall .... Chief Phillips / Laurence Fishburne .... Tyrone 'Clean' Miller (as Larry Fishburne) / Dennis Hopper .... Photojournalist / Harrison Ford .... Colonel Lucas / G.D. Spradlin .... General Corman / Jerry Ziesmer .... Jerry, Civilian / Scott Glenn .... Lieutenant Richard M. Colby / Bo Byers .... MP Sergeant #1 / James Keane .... Kilgore's Gunner / Kerry Rossall .... Mike from San Diego リスニング;英語 ピアニストを撃てTirez sur le pianiste (再)2013/01/21 (再)2023/08/10 サローヤン家の4兄弟のひとり、チコは二人組の悪漢に追われて危うくひき殺される所を女房自慢の男に助けてもらい、下から2番目の弟、チャーリーの部屋に駆け込んだ。チャーリーは迷惑顔だ。場末の居酒屋でピアノ弾きをやっているチャーリーは、兄たちの素行が子供の頃から芳しくなく、とばっちりを受けそうだったからだ。 迫る二人組をなんとかまいてチコを逃がしたやったのだが、今度はチャーリーと、末のまだ学生の弟、フィドがつけねらわれる番となる。チャーリーは隣の娼婦が寝に来てくれることはあるが、元来臆病な性格で恋人ができなかった。だが酒場の女レナは自分に気があるらしいと同僚から聞かされる。 レナはチャーリーの過去に気付いていたのだ。かつて世界的なピアニストで、本名はエドアルドと言い、通っていたカフェの女テレーズと結婚した。才能のおかげで仕事は大成功だったが、夫とのすれ違いに悩むテレーズはマネージャーと過ちを犯し、それを苦にして投身自殺してしまった。以後、彼はチャーリーと名を変え、名声を一切捨てて酒場のピアノ弾きとして生計を得ていたのだ。 チャーリーにすっかり惚れ込んだレナは、彼を再び檜舞台に立たせようと元気づける。だが、二人組は彼らに迫っていた。レナが機転を効かせて何とか一度目は逃げおせる。運が悪いことにレナのことを知らせた同僚がチャーリーに嫉妬して喧嘩を仕掛けてきたのだ。 相手が首を絞めてきたので思わずチャーリーは手元のナイフで刺して殺してしまう。正当防衛だったが、警察を納得させるのは容易ではなさそうだった。レナは車を調達してチャーリーを兄弟たちの住む、雪にうずもれた隠れ家に連れて行く。その間に末の弟フィドは二人組にさらわれてしまう。 隠れ家で一晩を過ごしたチャーリーたちの所に二人組がやってきた。激しい撃ち合いで、レナは命を落とした。音楽会復帰の夢は断たれ、再びチャーリーは黙々と酒場のピアノの前に座るのだった。(1960) Directed by François Truffaut Writing credits David Goodis (novel) François Truffaut (adaptation) Cast: Charles Aznavour .... Charlie Kohler/Edouard Saroyan / Marie Dubois .... Lèna / Nicole Berger .... Thérèse Saroyan / Michéle Mercier .... Clarisse / Serge Davri .... Plyne / Claude Mansard .... Momo / Richard Kanayan .... Fido Saroyan (as Le jeune Richard Kanayan) / Albert Rémy .... Chico Saroyan / Jean-Jacques Aslanian .... Richard Saroyan / Daniel Boulanger .... Ernest / Claude Heymann .... Lars Schmeel / Alex Joffé .... Passerby / Boby Lapointe .... Le chanteur / Catherine Lutz .... Mammy リスニング;フランス語。すさまじい早口。・・・資料 青春の門ー筑豊篇 2005/10/01 典型的な青春映画であるが、後のスポーツ青年の物語と違って、もっと重い。主人公の成長が鮮烈に描かれているので、誰でもこの話のあとにどうなったか気になるだろう。吉永小百合主演の作品のあと、この松坂慶子主演のリメイクが作られた。 日本が太平洋戦争に向かって突っ走っている昭和10年代、伊吹信介は重蔵とタエの間に、筑豊のボタ山の近くに生まれた。タエは鉱山の労働者たちの指導者であり、決断の男である夫に惚れあげていた。落盤事故、賃上げ闘争、ヤクザとの争い、いかなる事態でも重蔵は後に引くような男ではなかった。 重蔵の死後、タエは信介を重蔵の息子にふさわしく育てたいと願った。貧しいながら長屋の生活で信介は中学生に成長する。ある日朝鮮人を仲間と共にいじめたために、タエに家から外に出される。単身朝鮮人の部落に決着をつけに行った信介は金山と出会った。かつて金山たちは落盤事故の中で自分の命を危険にさらして重蔵に救われたのだった。タエの前で仏壇に向かう金山だった。 戦争が終わり、生活は苦しくなった。そこへかつての重蔵のライバルでヤクザの塙(はなわ)竜五郎がハーレー・ダビッドソンのオートバイに乗ってやって来る。かつては殺しあいの寸前まで行ったのだが、重蔵の妻子の面倒を見なければならないと思っていた。 鉱山でのストは暴力事件に発展し、金山は誤って経営者を死なせてしまう。正当防衛を主張しても聞き入れられるはずもなく、タエたちの家に逃げ込んでくる。外では近所の人たちが金山を引き渡すようにと要求する中、タエは重蔵から預かったピストルを渡し、金山は地下に潜る。 タエは塙の申し出を固く断るが、いつの間にか結核が進行していたために、鉱山での仕事の途中で血を吐いてしまう。タエと信介は飯塚にある塙一家に引き取られることになった。タエは入院し、高校に進んだ信介はスポーツに専念するが、一方で鉱山町に住む幼なじみの織江が恋しくなる。 高校では若い東京から来た女教師と恋仲になるが、彼女がほかの男と寝ているところを目撃してしまう。彼女は東京に転勤することになり、苦い想い出を作った信介に、いつか自分を試すために東京に出てくるようにと勧めるのだった。 久しぶりにボタ山の街に戻るが、織り江の母は死に、彼女は小倉にキャバレーのホステスとして行ったと知る。バイクに乗って彼女に会いにゆくが、旅館で一晩過ごしたあと、織江は二度と来ないでほしいという。まだ朝が明け切らぬ頃、二人はかけ声と共に反対方向に走り出す。 塙竜五郎がピストルで撃たれた。勝手に敵地に乗り込んだ子分を追って、塙をうしろに乗せて信介はハーレーを運転した。行った先には金山をはじめとする朝鮮人たちがいた。重蔵の血を引いたせいなのだろうか、信介は金山と渡り合い、その場を収めただけでなくピストルも返してもらって戻ってきた。 信介は病院の母親を見舞い、自分が東京へ行きたいのだという気持ちを伝える。涙を流したタエはそれでも息子を励ましこれからの人生をしっかりいきるように言った。その晩タエは血を吐いて死んだ。信介はそれまで世話になった塙の枕元に書き置きを残し、一人東京に旅立っていった。(1981年東映) 監督: 蔵原惟繕 深作欣二 脚本: 野上龍雄 キャスト(役名)菅原文太(伊吹重蔵) 松坂慶子(伊吹タエ) 佐藤浩市(伊吹信介(中学三年~高校時代))杉田かおる(牧織江(中学時代)) 新橋耐子(牧昌江) 渡瀬恒彦 (金朱烈(金山)) 鶴田浩二(矢部虎) 若山富三郎(塙竜五郎) 上へ墨東綺譚(ぼくとうきだん) 2005/10/07 (再)2013/06/22 永井荷風の自伝風映画。大正末期、彼の小説は、色町での女と男の人情話が中心で、多くの人々の支持を得ていたが、純文学を志す人々には気にくわない。女を連れ込んだり、二人の妻は次々と逃げていったりするものだから、弟は荷風を自分の家から追い出した。 麻布にペンキ塗りの洋風の家を建てた荷風は、訪ねてきた母親の忠告も聞かず、独身主義を通し、お手伝いと関係を結んだり、銀座のバーの女給が毎晩通ってきたりする。だが一方ではそれらの出来事を克明に書きつづり、いわば色事と創作欲は手に手を取って進んでいるのだった。 だが昭和も十年代になると、そろそろ老いが迫ってきて、色事も昔のように盛んにやるというわけにもいかなくなった。ある日、玉ノ井と呼ばれる隅田川の東岸を歩きわまわっていると、関東大震災で浅草を追われた女たちが新たに住み着いた場所で、「ぬけられます」という看板が小路の入り口にかかげてある。中は無数の女たちが通りがかる男たちの袖を引っぱってくる。 激しい夕立になった。こうもり傘を杖代わりにしている荷風は傘を差した。どこかから姿を現した若い女が傘に入れてくれてと言う。気のいい荷風は彼女の家まで送ってやるが、それは客引きの巧妙な手だった。 だが、この仕事を少しも気にせず明るく生きるお雪という女に荷風は気をひかれる。その夜は何もしないで帰ったが、再び後日訪れて、この女とすっかり懇意の仲になった。栃木県の田舎から売られてきた彼女は、近くに住むまさというおかみさんのもとで働いて、わざわざ遠方から訪ねてくるファンも多かった。 まさはいつも色眼鏡をかけている。姉の子をもらって息子として育てている悟はもう大学の4年生だ。荷風はしきりに通うようになったし、二人で浅草に遊びに行ったりして、お雪も次第に真剣になってゆく。だが、所詮60歳に手の届く老人と25歳の若い盛りではあまりに年が離れすぎている。 お雪が自分を妻にしてくれと懇願して、荷風ははっきりと「うん」と言ってしまう。だが翌日からは二度と色町を訪れることはなかった。まさは田舎の両親から買い受けた契約書を燃やしてくれ、お雪は荷風が迎えに来るのをひたすら待ち続ける。だが、決して来ることはない。 戦争がひどくなり、出征した悟は戦死した。東京も空襲がひどくなり、昭和20年3月の大空襲は麻布の家も、玉ノ井もすべて焼き尽くしてしまった。戦後、文化勲章を受けた荷風の写真が新聞に載る。お雪はそれを見ても似ているような気がしたが、荷風の仕事がエロ写真家だと思いこんでいたから、そのまま忘れてしまった。 荷風はその後も独身主義を通し、予想通り一人住まいのまま死んでいったし、墓は、色町の苦しみをなめた女たちの葬られている三ノ輪の浄閑寺に入れて貰ったのだった。(1992年) *** この映画は墨東奇談の小説そのものというより、永井荷風の半生を描いたもの。自分の書く小説が花柳界のことばかりなので、生真面目な弟に家を追い出され、麻布に一軒家を買って住み始めたころから話が始まる。 独り者の彼は、家庭に束縛されることを好まず、自由な生活を望んでいたから、銀座や浅草のカフェや待合(売春宿)に毎晩のように出入りして、それを小説の題材にしていた。何人かの女と知り合ったが、ある日玉乃井の小路で夕立に会い、傘を貸した縁で知り合った雪子と深い中になる。 それからは彼女とのあいびきを繰り返す。時は流れ、満州事変によって、雪子の女主人の息子が出征して死ぬ。そして若い雪子は、荷風に恋をしてしまい、自分が妻になりたいと言い出す。だが荷風とは年が20以上も離れており、口約束をしたものの、その後二度と雪子に会うことはなかった。 東京大空襲があり、荷風の家は焼け、雪子たちの行方も分からなくなる。時は立ち、家風も老いぼれたが、文化勲章をもらったが、新聞にその写真を見ても雪子はそれがあの男だったとは気づかない。老人になった荷風は一人暮らしを通し、ある日自宅で血を吐いて死ぬ。・・・資料 監督: 新藤兼人 原作: 永井荷風 脚本: 新藤兼人 キャスト(役名) 津川雅彦(永井荷風) 墨田ユキ(お雪) 宮崎淑子(お久) 瀬尾智美 (お歌) 八神康子(黒沢きみ) 杉村春子 (荷風の母) 乙羽信子(まさ) 佐藤慶(鳥居坂署の刑事) 井川比佐志(菊地寛) 大森嘉之(まさの息子・悟)浜村純(鮫やのおじさん) 角川博(艶歌師) 上へL'Amour en fuite 逃げ去る恋 2005/10/10 (再)2012/12/11 (再)2023/07/11 ストーリーは最後まで見て始めて全体がわかる。現在進行している場面の中に過去の想い出がセピア色の画面で突然現れる。登場人物の思い出がそこで表されているのだ。例えば離婚調停に向かう夫婦がタクシーに乗っているところに、突然ベッドのマットを投げつけて喧嘩している過去の場面が出てくる。「フランス版・男はつらいよ」ともいえるシリーズの最終第5作。 一人の青年が現在に至るまで、3人の女たちが絡み、コメディタッチで描かれる。しかも自分の少年時代や母親の想い出も混じる。あちこちでさまざまな登場人物がかかわっていて見ている最中にはきわめて筋を追うのが難しいのだが、最後に内容がまとまる構成だ。 アントワーヌはパリの印刷屋に働く作家青年。少年時代(第1作「大人は判ってくれない」)には、アナキストの母親をもち、父の死後、彼女には恋人ができて絶縁状態になる。青年時代になった頃、近所の女の子、コレットに恋をしてその家に入り浸ってみたりする(第2作「アントワーヌとコレット」)が、結局振られてしまい、バイオリン教師のクリスティーヌと結婚をする(第3作「夜霧の恋人たち・第4作「家庭」)。 だが、その結婚も長続きせず、アントワーヌは時計技術士のサビーヌと浮気をしている。男の子を一人もうけたが、裁判所で離婚調停中だ。裁判所の庭で、弁護士となったコレットがアントワーヌを見かける。コレットはバーネリアス書店の店主、ザビエルに惚れているのだが、あまり相手にしてもらえない。 コレットがちょうどこれから手がけようとしている息子を殺した父親の事件の参考のためにと思って手に取った本が、たまたまアントワーヌの書いた「恋のサラダ(ごちゃまぜ)」という本だった。そこには自分の女性遍歴が克明に書いてある。もちろんコレット自身のことも詳しく書いてあり、彼女は夢中になって読んだ。 夕方、臨海学校へ向かう息子をリヨン駅に送っていった際、アントワーヌはホームの向かいの特急列車にコレットが乗っているのを発見。切符も買わずにその列車に飛び乗り、かつての恋心を復活させようとするが、自分たちの恋を自伝風に書いた彼の本を読んでしまったコレットには、所詮無理な相談。 別れ際にアントワーヌがうっかり落としていった女の写真を拾い上げると、それは何と自分の恋するザビエルの妹、サビーヌだった。アントワーヌがバラバラにちぎれた破片を丹念にセロテープで張り合わせたその写真は、電話ボックスで(話相手の女に)大声を上げていた男がちぎって床に捨てたものだった。 恋の始まりでこんなロマンチックな話はない。この写真にアントワーヌが恋をしてパリ中を探し回り、ついにレコード店に勤務する彼女を見つけたのだ。一時仲違いをした二人だが、アントワーヌがこの話をうち明けると、二人は再び熱い仲になったのだった。(1979年)・・・資料 Directed by François Truffaut Writing credits François Truffaut (scenario) & Marie-France Pisier (scenario) Cast: Jean-Pierre Léaud .... Antoine Doinel / Marie-France Pisier .... Colette Tazzi / Claude Jade .... Christine Doinel / Dani .... Liliane / Dorothée .... Sabine Barnerias / Daniel Mesguich .... Xavier Barnerias, le libraire / Julien Bertheau .... Monsieur Lucien リスニング;大変な早口フランス語 上へH O M E > 体験編 > 映画の世界 > コメント集(30) © 西田茂博 NISHIDA shigehiro |