映画の世界

コメント集(32)

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  1. 祇園囃子
  2. 上を向いて歩こう
  3. 幕末太陽傳
  4. ああひめゆりの塔
  5. 放 浪 記
  6. 流 れ る
  7. 乱 れ 雲
  8. 愛と死を見つめて
  9. きけ、わだつみの声
  10. フランス軍中尉の女
  11. 私が棄てた女
  12. 白いドレスの女
  13. ラ・マンチャの男
  14. 草原の輝き
  15. 素直な悪女
  16. 伊豆の踊子
  17. 乙女ごころ三人娘
  18. 女が階段を上る時

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今年見た映画(2006年)

祇園囃子(ぎおんばやし) 2006/03/02

京都祇園に生きる舞妓(まいこ)たちの世界を描く。

美代春は京都ではベテランの舞妓だ。そこへ死んだ友人の娘、栄子が飛び込んできた。おじさんに引き取られたが、いじめられ我慢できずに家出をしてきたという。ぜひここにおいて舞妓になるための勉強をさせててくれと頼み込む。栄子のろくでなしの父親が保証人になるのを断ったにもかかわらず、気のいい美代春は栄子を引き取ることにした。

栄子は訓練所に通い、腕を上げていよいよプロとしてデビューする日が近づいた。衣装代がかかるが、旦那を持たずに身一つでこれまでやってきた美代春には用意してやる金がない。そこで色町を仕切っている「お母さん」に頼み込んで金を都合してもらう。

無事顔見世が終わり、大会社のなじみの御曹司、楠田は栄子の旦那になってもいいと言い出す。また楠田に契約を頼まれていた役人の沢本は、美代春がすっかり気に入ってしまうが、彼女はどうもこの男が好きになれない。

楠田が美代春と栄子を東京に招待し、その夜の宿で沢本と引き合わせあわよくば自分たちの契約もまとめようとするが、キスを迫られた栄子は、楠田の舌を噛みちぎり、何もかもめちゃくちゃになる。

京都に戻って、美代春は「お母さん」にぜひ沢本に会ってくれと頼まれる。実は栄子の衣装代は楠田から出ていたのだ。楠田は沢本との契約をなんとしてでもまとめたい。そのためには沢本の望むことをしてやらなければいけないのだと。

だが、どうしていやなので断って帰ると、さっそくその日から美代春と栄子の仕事は干されてしまった。舞妓練習生仲間から励ましを受けた栄子はお母さんのもとに出向き、自ら人質になったため、美代春は彼女を帰してもらう交換条件として沢本の部屋に行かされることになる。

翌朝、沢本からのたくさんの贈り物を抱えた美代春を見て、栄子は舞妓の世界の厳しさを身にしみて知るが、気を取り直し仕事が舞い込む毎日を二人で再びはじめるのだった。(1953年・大映)・・・資料外部リンク

監督: 溝口健二 原作: 川口松太郎 キャスト:(役名) 木暮実千代(美代春) 若尾文子(栄子) 河津清三郎(楠田) 進藤英太郎(沢本) 菅井一郎(佐伯) 小柴幹治(神崎) 石原須磨男(幸吉) 伊達三郎(今西) 田中春男(小川) 毛利菊枝(女紅場の教師) 小松みどり(お梅) 柳恵美子(かなめ) 浪花千栄子(お君)

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上を向いて歩こう 2006/03/04 (再)2013/03/20

こんなに元気のいい映画が、1960年代にはたくさん作られたのだ。これは「キューポラのある町」の制作年と同じ年。一見バカ騒ぎのようでありながら、社会が威勢がいいとき(東京オリンピック前後)だと、作られる作品も、自然に希望あふれる映画となるらしい。「あの娘(こ)の名前はなんてかな」と「上を向いて歩こう」が歌われる。

少年院の脱走に成功した九と良二だったが、金を恐喝しようと、たまたまやってきた車に体当たりした後、保護司でありボクシングジムと魚河岸の仕入れをやっている永井一家に九は拾われ、前からドラマーが憧れだった良二は先輩のがいる店にバンドボーイとして雇われる。

永井にはしっかり者で従業員の食事を世話する紀子と小児マヒのため車椅子に座ったままの光子という二人の娘がいた。早朝の仕事にも慣れた九は光子を励まし、なんとか歩かせようとする。

永井のところにはかつて健という青年がいたが、腹違いの兄と傷害事件を起こしたときからやめてしまっていた。今ではバクチの事務所を開き、ことあるごとに騒ぎを起こしている。それでも受験勉強の末、兄と同じ大学に入ろうとしていた。

一方、良二は何とかドラムの仕事をしたいのだが、先輩はヒロポン中毒にかかり、使いものにならなくなっていた。バクチに負けたかどで、先輩のドラム・キットが持ち去られる。自暴自棄になった良一は何とかして取り戻したいとあがき、自分を警察に密告したと勘違いして、九の営業用の新車を盗み事故を起こしてしまう。店に戻ってみると、九が苦労して取り戻してくれたドラムキットが置いてあるのだった。

健は紀子の励ましを受けて、兄の誕生日に実家へ和解に出向くが冷たくあしらわれる。これも自暴自棄になった健は、バクチがらみで永井たちのいるところへなぐり込むが、そこには決着をつけたい兄が待ち受けていた・・・(1962年・日活)

監督:舛田利雄 脚本:山田信夫 企画:水の江滝子 音楽: 中村八大 キャスト(役名)坂本九(河西九)浜田光夫(左田良二)高橋英樹(松本健)吉永小百合(永井紀子)渡辺トモコ(永井光子)芦田伸介(永井徳三)大森義夫(久米刑事)

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幕末太陽傳 2006/03/05 = 2010/06/10

映画「グランドホテル」のように、宿屋の中で登場人物が次から次へと登場し、機知とユーモアに富んだ場面が立て続けに出てくる傑作。高杉晋作らによる歴史的事実と絡めて、幕末の気分を出している。

時は明治維新より6年前にさかのぼる。女郎部屋を兼ねた飲みどころ、「相模屋」は品川宿の真ん中にあり、東海道筋の宿場町では、とりわけにぎわっていた。幕末の混乱から、尊王攘夷派や開国派やら、さまざまな政治の世界の人間たちがこの道を行き交い、キナ臭い匂いが漂う。

佐平次は、仲間とつれだってこの宿に飲みに来たのだが、実は懐に一銭もない。仲間は夜が明ける前に帰し、一人でこの宿の手伝いをして飲み代を支払うことになった。かくして「居残り佐平次」「居残りさん」と呼ばれるようになったのである。

佐平次は宿に来る途中で拾った上海から持ち帰った故障ばかりする懐中時計をとどけて、宿にたむろして「三千世界の鴉(からす)を殺し 主と添寝(そいね)がしてみたい」を三味線で歌う高杉晋作をはじめとする、尊王攘夷の若者衆と知り合いになる。彼らは御殿山に建設中のイギリス公使館に放火するつもりでいるのだ。

佐平次は、一人部屋をあてがわれて座敷への食事の運搬役からはじめるが、すぐに部屋番号を覚えてしまい、非常に気が利くものだから、たちどころに祝儀をかき集め、旦那からも重宝がられる。

佐平次のおかげで、女郎のおそめは一緒に無理心中しかけた貸本屋金造とのごたごたを解決してもらい、女郎のこはるは結婚の約束を乱発したために怒った客たちをなだめてもらっている。二人はライバル同士で、そのすさまじい殴り合い、蹴り合いのケンカをするところは名場面の一つ。

旦那のバカ息子、徳三郎は放蕩のあげく土蔵に閉じこめられてしまうが、バクチにのめり込む大工の父親のせいで女郎に売られそうになった女中おひさとの駆け落ちの手伝いをしてやるのも佐平次だ。。

すっかりこの宿の人気者になってしまった佐平次だが、実は持病の労咳(結核)がなおらない。いつもたちの悪い咳を繰り返していた。金もたっぷり貯まったことだし、ここで横浜村にいる名医に診てもらい、あとはアメリカにでも行くとするか・・・彼と親しくなった高杉晋作は、彼からうつされたのではないか・・・(1957年・日活)

監督:川島雄三脚本:田中啓一・川島雄三音楽: 黛敏郎 キャスト(役名): フランキー堺(居残り佐平次)金子信雄(相模楼主伝兵衛)山岡久乃(女房お辰)梅野泰靖(息子徳三郎)織田政雄(番頭善八)岡田眞澄(若衆喜助)高原駿雄(若衆かね次)青木富夫(若衆忠助)峰三平(若衆三平)芦川いづみ(女中おひさ)菅井きん(やり手おくま)左幸子(女郎おそめ)南田洋子(女郎こはる)石原裕次郎(高杉晋作)小林旭(久坂玄端)小沢昭一(貸本屋金造)

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あゝひめゆりの塔 2006/03/07

歴史の悲惨な側面は、避けて通ることはできない。政治家たちがいかに覆い隠そうにも、小説家や映画監督の中には、戦争の真の姿を自分の持つ表現力によって人々の前に示そうとする者もいる。事実というよりは真実を、次世代に語り継がなければいけないのだ。

昭和19年、終戦の前の年、沖縄にある師範女学校では、学校祭の練習が行われていた。与那嶺和子の母親はやはり教師で、小学生を受け持っていたが、彼女自身もようやく卒業を前にして、念願の仕事につけることで希望に燃えていた。

仲間たちも青春まっただ中。だが、戦局は、アメリカ軍がサイパン島を占領してから急速に悪化してきたのだ。沖縄の周辺の海にはアメリカ軍の艦船が姿を現しはじめた。日本中で疎開が始まる中、沖縄の小学生たちも船に乗せられて本土に送られることになった。

その引率には和子の母親が任命された。見送りは学校の敷地だけで、その後彼らを積んだ船はいつどのようにして出発したのか誰も知らない。そしてそれから数日後、その船がアメリカ軍に撃沈されたという噂が広がりはじめた・・・

アメリカ軍の主力部隊は、いっそう沖縄への包囲網を狭め、ついに学校も空爆を受けた。校舎は焼けてしまったが、幸い死傷者は出なかった。だが、軍の司令部は、女学生たちに、病院の看護団としての任務を与えた。

彼女らは、増え続ける死傷者の世話をはじめた。機銃掃射がだんだん増え、和子の弟も通信兵として木に登っていたところを射殺された。アメリカ軍は沖縄本島に上陸し、首里へと進軍してきた。そのため病院では歩ける者だけを連れて別の場所に移動を開始した。歩けない者たちは病院に残されて青酸入りの牛乳を飲まされた。

うち続く豪雨と、絶え間ない戦闘機による攻撃で兵隊も女学生も負傷者もどんどん数を減らしていく。美しい池があり、久しぶりに女学生たちは水浴を楽しんだ。だがその最中に機銃掃射があり、多くの少女たちが血に染まった水面に浮かんだ。

生徒たちはついに南の端まで追いつめられた。そこへ校長先生が看護団解散の命令書を持ってきたのだった。みんなでお別れ会をして、教師は何としても生きるようにと力づけたが、アメリカ軍はもう少しまで迫っていた。彼らが隠れている海岸の洞穴にも毒ガス弾が投げ込まれ、砂浜に出れば機銃掃射を受けた。

和子は爆弾の衝撃で一時意識を失っていたが、ふと目がさめると、同級生や先生たちはみんな息絶えており、もう一人生き残った少女と共に断崖の上に立つ。和子は手榴弾の安全装置をはずした・・・(1968年・日活)

監督: 舛田利雄 キャスト(役名)吉永小百合(与那嶺和子)浜田光夫(西里順一郎)和泉雅子(比嘉トミ)遠山智英子(山城由美子)浜川智子(渡嘉敷光子)高樹蓉子(新屋民子)音無美紀子(山辺順子)笹森みち子(新垣勝江)伊藤るり子(佐久川ヤス)柚木れい子(国吉菊枝)

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放浪記 2006/03/13 (再)2023/12/22

作家林芙美子の、自伝小説と言われている「放浪記」を中心に描いた作品。若い頃の赤貧の苦しみと、彼女の男運の悪さ、にもかかわらず屈託なく生きるヒロインが高峰秀子によって演じられている。ただし、高峰の顔は実際に似せたのか、特殊なメイクがなされているようだ。

九州に生まれ、行商人の両親を持ったふみ子は小さいときから転校の繰り返しであった。小説「風琴と風の町」で描かれているように、広島県尾道ではインチキ製品を売ったために父親が警察に捕まったこともあった。

やがて成人したふみ子は一度目の結婚に失敗した後、上京してきた母親と共に東京でメリヤスの行商をするが、不況下どうも商売がうまくいかない。母親を九州に帰し、自分は「淫売でも何をしても」自活すると宣言する。

だが、就職活動をしても断られるばかり。やっとカフェの女給の仕事にあり就く。同じ下宿に住むやもめ男の安岡は金を貸してくれたり何かと面倒を見てくれるが、結婚に失敗した彼女はありがたいと思いつつも、好意以上のものは持っていない。

女給として勤めるかたわら、詩人や小説家と次第に知り合いになり、自分の作品をほめられて同人誌に参加しないかと誘われるほどになった。少ない給料での苦しい生活をしながらも、ふみ子は次々と作品を書いていったが、まだ世に出るチャンスは巡ってこなかった。

やがて、文壇の人気者、伊達と同棲するが、伊達は他に婚約者を持っており、彼女に部屋を屈辱のうちに追い出されて再び独身生活に戻る。生活苦から、人形の絵付けまでするが、思い浮かんだ詩を書き留めることはやめなかった。

人恋しさから、売れない作家福地のもとにころがりこんで妻となるが、生活はますますひどくなり夫は生活力がないし殴る蹴るで肺病を病んでいるのだった。その頃ある雑誌に小説を載せるチャンスが巡ってくる。ライバルの女流作家もそれを狙っており、ふみ子は夢中で「放浪記」を執筆した。

作品は大評判となり、ふみ子は一躍文壇の寵児となった。福地の夫婦関係にも見切りを付け、その頃面倒を見てくれた藤山という男と結婚したふみ子は、たくさんの連載を抱える売れっ子作家となる。出版記念会には、あの福地がわざわざ祝辞を述べてくれた。

若い頃の苦労が大きかっただけに、その反動か大邸宅を建て、母親には豪華すぎる服を着せて、自分は書斎で執筆に取り組む。だが、夫が心配するほどのハードワークで最近は大変顔色が悪い・・・(1962年)・・・資料外部リンク

監督: 成瀬巳喜男 原作: 林芙美子 キャスト(役名) 高峰秀子(林ふみ子) 田中絹代(きし) 加東大介(安岡信雄) 仲谷昇(伊達春彦) 宝田明(福池貢) 伊藤雄之助(白坂五郎) 加藤武(上野山) 草笛光子(日夏京子) 文野朋子(村野やす子) 小林桂樹(藤山武士)

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流れる 2006/03/14

ここは京都にある「つたの屋」女主人のつた奴は、自ら座敷に出ながら、年下の女たちを住まわせて芸者派遣業を経営している。この店は看板も立派で近所では由緒或る店であったが、最近のつた奴の経営は放漫で、借金がかさんで次第に苦しくなってきた。

自分はそろそろ年だから引退したいのに、娘の勝代は芸者商売が嫌いで、折角高額なお披露目をしたのに、まもなくやめてしまい今では家の中でぶらぶらしている。つた奴の妹、米子は娘の不二子を抱えて男に逃げられ、これ又家でごろごろしている。

この家でしっかりしているのは、女中として入ってきた梨花だけである。一昨年夫に死なれ、去年は子供に死なれた天涯孤独の彼女は、何を頼んでも、きちんとやってくれるし、周りの人からも信頼されていろいろ頼まれることが多い。

ついに家は抵当に入り、、若いなゝ子と近所から通ってくる染香の二人だけが残り、あとはみんなやめていってしまった。経営はますます苦しくなり、つた奴は姉のところに借金を申し込みに行ったりしたが、大ベテランである女将、お浜は「つたの屋」を買い取ってくれることになった。

気持ちの上で安心したつた奴は、いったんはケンカをした染香にも戻ってきてもらい、新人を新たに入れて訓練を開始した。勝代はミシン縫いの下請けの仕事を始めてようやく自分のやることを見つけたようだ。(1956年)・・・資料外部リンク

監督: 成瀬巳喜男 原作: 幸田文 キャスト(役名) 田中絹代(梨花(女中))山田五十鈴(つた奴(芸妓))高峰秀子(勝代(つた奴の娘))中北千枝子(米子(つた奴の妹))松山なつ子(不二子(米子の娘))杉村春子(染香(芸妓))岡田茉莉子(なゝ子(芸妓))泉千代(なみ江(芸妓))賀原夏子(おとよ(つた奴の姉))栗島すみ子(お浜(水野の女将))

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乱れ雲 2006/03/15

十和田湖畔を舞台にしたメロ・ドラマであるが、テレビドラマのような安易さは感じられない。全体の構成がしっかりしているし、男と女の終わりのない問題に常に正面から取り組んでいるからなのだ。

江田由美子は外交官の夫がアメリカへの赴任が決まったことで心うきうきしていた。だが、夫は箱根での仕事中、三島という商社員の運転する車にはねられて死ぬ。

事故は不可抗力ということになったが、三島は由美子に、賠償金ではなく、自分の気持ちとして毎月わずかなお金を送ると申し出る。葬儀にも自らやってきた三島は、残された妻にできる限りの補償をしたいと思っていた。

だが、思わぬ運命に翻弄された由美子は三島の申し出を拒絶する。姉の取りなしで金を受け取り、何度か会うことはあったが、由美子のかたくなな態度は変わることがなかった。

やがて、事故のほとぼりが冷めるまでなのか、三島は青森への転勤を命ぜられる。そこへ突然由美子が訪ねてくる。由美子は夫の実家から離縁され、十和田湖畔の郷里で旅館をやっている勝子に呼ばれて仕事の手伝いをする気になったのだ。

三島は自分を訪ねてきた由美子に再び侘びの気持ちを伝えようとするが、由美子の態度はあまり変わらなかった。やがて三島は仕事の取引先と、勝子の旅館に泊まることになる。食事の後かたづけをする由美子に対して三島は強い調子で過去にこだわる態度を批判する。三島の言葉に、由美子は自分が殻にこもっていたことを思い知らされるのだった。

再び二人は、青森市内のバーで出会うが、自分の苦心の苦しみに耐えがたい思いをして酒を飲んでいた由美子は、三島に強い言葉をかけて別れる。三島もひどくいやな気分で酒をしたたか飲み、アパートに帰ってみると、心配した母親が来ており、息子には内緒で、翌朝由美子のところに謝りに行くのだった。

ある日、一人バスに乗っている由美子を見た三島は十和田湖を案内してもらう。折から急に雨が降ってきて、風邪気味だった三島は高熱を出す。バスの便も少ないところで、由美子は、三島に旅館に行って休むことを強く勧めるのだった。

二人は部屋を借り、三島が医者に診察してもらった後、由美子は一晩中寝ないで看病をした。高熱に浮かされてうわごとを言う三島の手をそっと握ってやるのだった。由美子はこれまでの憎悪を含んだ反発から、まったく別の感情に変わってしまった。

三島が前から申請していた転勤願いが聞き届けられた。だがその行き先は何と、これらが流行し誰もが忌避する赴任先である、パキスタンのラホールだった。三島は、旅館の近くの山で山菜取りをしていた由美子に再び会う。初めて口づけをした三島は一緒にラホールに来てくれるように頼むが、そんなことはできるはずはない。

いよいよ青森を発つ日が来た。前回気まずく別れた二人だったが、由美子は荷物をまとめている三島のアパートへやって来た。二人はタクシーに乗ると、誰も知らない山奥の旅館へ向かった・・・(1967年)

監督: 成瀬巳喜男 キャスト(役名)加山雄三(三島史郎)司葉子(江田由美子)土屋嘉男(江田宏)森光子(四戸勝子)加東大介(林田勇三)藤木悠(石川)草笛光子(石川文子)中丸忠雄(藤原部長)浦辺粂子(三島ぬい)中村伸郎(武内常務)

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愛と死をみつめて 2006/03/18

吉永小百合の体当たりの演技がなかったら、この映画はさほど注目を浴びずに終わったかもしれない。カメラによる大写しの俳優たちの顔は、運命に翻弄される心の動きを観客にじかに伝えてくる。

高校生の小島道子は、体調を崩して入院した際に、同じ病院に入院していた浪人の高野誠と知り合いになる。二人は親しくなり、道子は京都、誠は東京へとそれぞれの大学に進むが、まもなく道子は目の下に軟骨肉腫ができていた。

この病気は死に至る病であり、当時の医学では治療法が見つからないのだった。はじめは眼帯をしていたが、次第に進行するため、道子は大学を中退せざるを得なかった。京都から大阪の病院に移る。

道子の病気のことを知った誠が病院を訪ねてくる。自分の人生が短いことを知っている道子は、誠に自分を忘れて別の道を進んでほしいと告げるが、誠はどこまでも彼女をサポートしたいと言い張る。

医者は、少しでも余命を伸ばすために、顔の左半分を切除することを勧める。道子は気が進まなかったが、父親と誠は手術を受けるように言うのだった。手術は成功する。登山の好きな誠は信州の山に登り、いつの日か道子を連れて登ることを夢見る。

だが運命は過酷であった。まもなく右の目がかすみ、腫瘍は転移していることがわかった。2度目の手術が行われたけれども、あまりに悪化しているために手術は中止された。それでも道子は、誠のために手編みのレースを編み続けるのだった。また詩を書き、日記をつけた。

誠はアルバイトをして旅費を稼ぎ、何度も京都に足を運んだ。「禁じられた遊び」をギターで演奏して電話で聞かせたこともあった。だが、目の強烈な痛みは、腫瘍がもういよいよ大脳に達しようとしているのだということがわかった。

相部屋の患者たちは、過酷な運命にありながら常に快活に振る舞い、人の世話を買って出る道子に感心する。やがて病院でもすっかり有名になってしまった。自分の人生の終局が近いと悟った道子は、身の回りのものを整理しはじめる。病院の焼却場のおじさんは、「人間も何もかも最後は煙や」という。

ついに立っていることができなくなった。誠がやってくると、彼がうつした信州の写真をみて一緒に山へ登っている様子を想像する。目がかすんでいるために山の写真も霧が出ていると思ってしまう。誠が病室を出るとき、道子は「さようなら」とつぶやいた。(1964年・日活)

監督: 斎藤武市 原作: 大島みち子 河野実 キャスト(役名)浜田光夫(高野誠)吉永小百合(小島道子)笠智衆(小島正次)原恵子(母)内藤武敏(K先生)滝沢修(中山仙十郎)北林谷栄(吉川ハナ)ミヤコ蝶々(佐竹トシ)笠置シヅ子(中井スマ)杉山元(大久保)

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きけ、わだつみの声 2006/03/20

わだつみとは、海をつかさどる神、海神のことである。第2次世界大戦中、太平洋の藻屑と消えた若者たちを飲み込んだ海の神の声を聞けと言うことだろう。戦没学生の書簡を集めた本が多数出版されているが、これはそのうちの一部を使って映画化している。1950年作品のリメイク。

鶴谷は、現代日本の若者で、明治大学ラクビー部に所属する。競技場で試合中に大雨が降ってきて、その時に不思議な幻覚を見る。50年前の先輩たちが姿を現し、この競技場で、出征する学生たちの壮行会が行われたことを告げる。

鶴谷もいつの間にか50年前の世界に飛び込んでしまう。大学では、最後の授業が行われていた。教授の中には、死んで帰るなと訴えるものもいた。大東亜共栄圏を賛美する教官もいた。

少しでも反抗的な態度を示すと上官から殴りつけられる。鶴谷は故郷の瀬戸内海にある島に帰ると、自分の壮行会が行われようとしていた。彼は両親に兵役拒否をするつもりであると告げると、島の中に逃げ込んだ。山狩りが行われ、両親は近所の者たちに非国民だと罵倒される。

フィリピンの海岸に向かう船があった。アメリカ軍の攻勢の前に絶望的であったが、上陸を強行し病院キャンプにたどり着く。だが、日本軍の劣勢はあきらかで、歩ける病人を連れて、病院から脱出し、あてのない逃避行をやむなくされる。残された病人たちは手榴弾を持たされて自爆させられた。

本土の航空隊では、もはや沖縄にアメリカが迫り、今飛行隊の取れる残された手段は、爆弾を積んで敵の航空母艦に体当たりすることしかなかった。指揮官が体当たりをする志願者を募る。ある若者は一日もらった休暇に故郷に帰り、母や妹に会ってくるが、最後の彼の「さよなら」を聞いて家族はこれが最後の再会だと悟る。

フィリピンでの戦況は一方的で、兵隊組織はバラバラになる。住民がゲリラの疑いで虐殺される。朝鮮からは慰安婦が連れてこられていた。脱走兵が相次ぐ。ついに北の山中に逃げ込んだ兵隊の生き残りは、みんなアメリカ軍の戦車の前に玉砕する。看護婦長や医者も最後を悟ると薬を飲み込んだ。アメリカの降伏の呼びかけに答えるものはなく、みな自らによる死を選んだのだ。

徴兵を拒否した鶴谷はついに捕まり、広島の憲兵隊のもとで取り調べを受け、刀で惨殺される直前、空が真昼のように輝き、原爆は一瞬にして町を灰にする。だが、これが戦争の終わりだったのだ。気が付くと、鶴谷は競技場の真ん中に仰向けに寝ていた。太陽は燦々と輝き、先輩たちがトライをしようとしていた。(1995年・東映)

監督: 出目昌伸 音楽: ギル・ゴールドスタイン キャスト(役名)織田裕二(勝村寛)風間トオル(相原守)仲村トオル(芥川雄三)緒形直人(鶴谷勇介)鶴田真由(津坂映子)的場浩司 (大野木)もたいまさこ(橋本婦長)河原崎建三(原口中尉)遠藤憲一(近藤中尉)斉藤暁(大橋軍曹)

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The French Lieutenant's Woman フランス軍中尉の女 2006/03/22

映画の最初から最後まで、「フランス軍中尉」なるものは登場しない。それは、サラという女の心のなかにしか存在しないからだ。またこの映画は、19世紀の物語と、現代の撮影スタッフとが同時進行する。最初の場面で、撮影スタッフが、カットの合図をすると、ヒロインが、海の突堤づたいに先端へ歩いていくのが見える。

撮影スタッフのうち、マイクは、チャールズ役で、シナリオ全体も担当している。相手役のアンナはサラ役である。二人とも家庭があるが共演しているうちに親しくなり、ロケ地では、一緒に寝泊まりするようになった。

チャールズは、裕福な「古生物学者」で、イギリスのある海岸で、化石集めをしている。地元の富豪の娘エルネスティーナと親しくなり、ついに二人は婚約をした。チャールズは海岸を歩いていると、突堤の先に佇む奇妙な女に気付く。地元の噂によれば、「悲劇さん」とあだ名され、頭がおかしいのだと思われている。

チャールズは、再び近く野山の中でサラに出会うと、不思議にこの女に関心を抱きいろいろと話しかける。はじめは避けるようにしていたが、サラは自分の話を聞いてほしいと言い出す。チャールズは、その申し出を受けることにためらっていたが、なぜか約束の場所に行ってしまう。

サラは家庭教師をして暮らしを立てていたが、恋人に恵まれずこれまで独身できた。失職したときには、暮らしに困って身体を売ったこともあったという。「フランス軍中尉」は彼女が夢中になった男だったが、二度と会うことはなかったのだという。

チャールズの知り合いの医師の話によれば、彼女はうつ病であるらしい。だが、彼女と話すとそんなのではなく、愛する人がいないために生きる力をなくしているだけなのではないかと彼は思い始め、同時に何か得体の知れない感情がサラに向かって生まれるのだった。

訳もなく山野や海岸を歩き回るので、折角得た仕事もクビになり、サラは山奥の納屋に野宿する。チャールズはこれが最後と思ってそこまで出かけ、生活費を渡してこの町を去るようにとすすめる。だがその時に交わした口づけは、もはや二人の間の気持ちを決定してしまった。

サラが移った町のホテルにチャールズは追いかけて行き、二人は結ばれる。そしてサラが実は純潔であったことも知る。サラは、自分がこの愛によって生きる力を得たという。その想い出だけでもこれからは生きていけると。

エルネスティーナとの婚約解消を決心したチャールズは、いったん海岸の町に戻ることになった。その代償は高かった。新聞に告白書を載せられ、召使いはやめて行き、紳士の資格を剥奪され、社会的信用を失った。

だが、ホテルに戻ってみるとサラは姿を消していた。興信所にも頼み、必死で探し求めたが、どこにも見つからなかった。ロンドンの貧民街をさまよい、娼婦たちの顔を一人一人見ていった。

こうして3年がたったあるとき、サラから自分の居場所を知らせる手紙が来た。彼女はなぜ自分が姿を隠したのかは多くを語らず、ただ今の自分が大きな自由を得たのだと言った。サラはチャールズに、もし自分を愛しているのだったらこのことを許して欲しいと嘆願するのだった。

場面は現代に戻り、マイクは、自分の家にアンナをほかのスタッフと共に招待する。だが、アンナはマイクの妻を見たせいか、再びマイクに会うこともなくパーティの会場をあとにした。(1981年)

Directed by Karel Reisz Writing credits John Fowles (novel) Harold Pinter (screenplay) Cast: Meryl Streep .... Sarah/Anna / Jeremy Irons .... Charles Henry Smithson/Mike / Hilton McRae .... Sam / Emily Morgan .... Mary / Charlotte Mitchell .... Mrs. Tranter / Lynsey Baxter .... Ernestina リスニング;イギリス英語

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私が棄てた女 2006/03/28

格差社会の到来、若者のいちず情熱や真理を目指す心の挫折というテーマは何と現代的だろうか。この映画に出てくる金持ちの坊ちゃんの言葉に、「女は半人前」とあるが、主人公にとって女を棄てたということはまさにそれを象徴していたのだ。

吉岡は、大学生の時、雑誌の紹介欄で、森田ミツという若い女工と知り合う。ミツは情の深い女で、吉岡にすべてを捧げていた。海岸で「東京ドドンパ娘」の歌が流れていると、喜んで踊りに参加するような女だった。二人は深い仲になるが、田舎育ちの女と一緒になったのでは、将来の出世に響くと友だちに言われる。

当時は安保闘争の決着が付き、国民的な盛り上がりがあったが結局のところ保守党が政権に居座り、いよいよ日本の経済成長が始まろうとしていた。世に賢い若者たちは「将来は車を所有する連中と、その車を掃除をする連中に分かれる」というような格差社会を予知していたのだ。

吉岡はミツを棄てる。ミツは妊娠しており、子供を堕しバー勤めをしていた。一方吉岡は自動車会社に就職し、トントン拍子に出世する。しかも婚約者は三浦マリ子という、社長の姪だった。結婚後親類縁者はみな大金持ちで、順風満帆と思われていたが、彼の心は家の壁に掛けてある能面のように不安定だった。

ある日、車を運転中に偶然ミツの姿を見かけた吉岡は、後を追いかけ彼女の居所を突き止める。だが、そのあとは多忙を極め、彼女に会ってやることができなかった。吉岡のことを思い続けるミツは、悲嘆にくれたが自殺しようとした老婆と知り合い、老人ホームに就職することができた。

ミツの知り合いの女は、売春斡旋のようなことをしていたがミツが引っ越すときに残していった手紙を見ると、これをマリ子に見せて恐喝することを思いつく。ミツと吉岡は再会し、二人が抱き合うところを盗み撮りをされる。手紙を受け取ったマリ子は老人ホームに行ってミツと会うが、誤解は解けないままだった。

思いあまったミツは、恐喝女のところに出かけて抗議するが取り合ってもらえず、女の情夫とももみあううち、窓から地面に転落して死んでしまう。後に残された吉岡は、マリ子にも去られる。(1969年・日活)

監督: 浦山桐郎 原作: 遠藤周作 音楽: 黛敏郎 キャスト(役名)河原崎長一郎(吉岡努)浅丘ルリ子(三浦マリ子)加藤治子(三浦ユリ子)小林トシ江(森田ミツ)加藤武(森田八郎)岸輝子(森田キネ)夏海千佳子(深井しま子)江角英明(武隈)江守徹(長島繁男)山根久幸(友人太田)

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白いドレスの女 Body Heat 2006/04/01

フロリダ州のある町、連日熱い日が続いている。弁護士のラシーヌは独身で、女に飢えている。女と泊まっている部屋から、真っ赤に燃え上がるホテルの火事が見える。そうでなくても誰もが暑さでいらいらしているというのに。身体からも熱が出てくる( body heat )。

ある夜の演奏会で、ラシーヌは非常に魅力的な白いドレスの女、マティに出会う。すかさず口説き、彼女の住む豪邸にまで押しかけて行く。マティは、いったん火がつくと激しく燃える女だった。二人は深い仲になったが、マティの夫はよからぬことを繰り返す大金持ちで、もし自分の妻の浮気相手を見つければ即座に殺すと息巻いている。

ラシーヌはすっかりマティのとりことなり、マティを本当に自分のものにする方法を考える。当然の事ながら、それはマティの夫を殺すしか方法はない。先日のホテルの火事を思い出し、マティの所有するホテルに放火することを思いついた。かつて自分が助けてやった被告のもとに行き、時限爆弾を手に入れた。

マティの夫がマイアミに出張した時を見計らいマティの前で殺して、車のトランクに積み込み、ラシーヌは濃霧の中を目的のホテルを目指す。地下室に死体を置いて、時限爆弾は計画通りホテルを粉々にする。計画は成功したが、死因がはっきりしないため、警察の捜査は執拗をきわめる。

死後の遺書に、驚くべき事が起こる。州の法律で定められた文言が入っていないためにその遺書は無効となり、本来ならばマティと夫の妹とで半分ずつだった遺産分けがすべてマティのもとにいくことになったのだ。しかもその過ちはラシーヌのせいとされた。これはみなかつて法律事務所に勤めていたマティの仕業だった。

そして遺書の立会人として署名があったマティの高校の同級生であるメリー・アンを探すが、ヨーロッパに行ったとかで所在が不明なのだ。その間に捜査の網は狭まり、ラシーヌが逮捕されるのは時間の問題だった。証拠として重要なのは、マティの夫がかけていた眼鏡の行方だ。どうやら眼鏡はクビにしたマティの家政婦が持っているようだ。

ある日ラシーヌはマイアミからのマティの電話を受ける。なくなった眼鏡は豪邸のボートハウスのロッカーに入れるという取引が成立したから、それを確かめに行ってほしいというのだ。ラシーヌは承諾の返事をしたが、その前に、二つの不審点が浮かび上がっていたのだ。一つは、前年に自分が別の弁護士によってマティに紹介されていたということ。そしてもう一つは例の時限爆弾装置を作ってくれた男が、実はマティが数日前にドアにつなぐ爆発装置の作り方を尋ねてきたと言うことだ。

ボートハウスに行くとラシーヌはドアの中をのぞき込んだ。何かロープのようなものが上から垂れ下がっている。いやな予感がしてドアには近づかなかった。夜遅くなって、マティ自身がやってきた。自分がこれまで利用されてきたことをなじると、自分は予定外のこととして貴方を愛してしまったのだといい、ボートハウスに向かって歩いていった。

暗闇の中、ラシーヌが止めようと走り出したとたん、ボートハウスが大爆発を起こした。これでマティは爆死したのか?拘置所の中でラシーヌは、これまでのいきさつがおかしいと思い始める・・・(1981年)

Directed by Lawrence Kasdan Writing credits Lawrence Kasdan Cast:William Hurt .... Ned Racine / Kathleen Turner .... Matty Walker/Mary Ann Russell / Richard Crenna .... Edmund Walker / Ted Danson .... Peter Lowenstein / J.A. Preston .... Oscar Grace / Mickey Rourke .... Teddy Lewis / Kim Zimmer .... Mary Ann Russell リスニング;英語

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Man of La Mancha ラ・マンチャの男 2006/04/12

狂気と正気とではどちらが真実をよりよく捕らえることができるだろうか?妄想にかられながらもかえってそのために、正義や真実を全うすることができる場合もある。さらに他の人の人生を変えることができる場合さえある。

ラ・マンチャの男とは、あの「ドン・キホーテ」と、その作者であるスペイン人、セルバンテスのことをさす。The Impossible Dream を代表作とする、ミュージカル仕立てになっており、アメリカ・イタリア(スペインではない)の合作で、ソフィア・ローレンが大活躍する。

時は16世紀のスペイン。セルバンテスは、詩人かつ旅回りの芝居役者でもあった。ある日、宗教裁判の場面を演じていたところ、教会の取締官がやってきて、異端者の疑いがあるということで、助手と共に牢獄に幽閉されてしまった。たいていは生きて帰ることはできず、宗教裁判の結果火あぶりの刑になるのであった。

牢獄には、政治犯からかっぱらいに至るまで大勢の男女が入れられており、二人は新入りだということで、自分たちの仲間に適するかどうか調べられることになった。セルバンテスが自分は役者兼詩人だと名乗ると、それではやってみろという。

逮捕されたときに携えてきた台本をもとに、自分はドン・キホーテに、助手はサンチョ役に、そして囚人たちの何人かをそれぞれの役に指名する。はじめは驚き怪しんでいた囚人たちだったが、自分たちも参加できるとあって大いに乗り気になった。映画では、実際の背景のもとで演じられているところを見せる。暖炉のそばでうずくまっている若い女も役を演じることを頼まれる。

ラ・マンチャの男芝居が始まる。引退した大金持ちアロンソは読書を重ねるうち、ふと思い立ち、悪をやっつけるために騎士になる修行のためスペイン中を旅することを思い立つ。名前をドン・キホーテに変え、サンチョをつれ、張り切って外に出る。巨大な風車を巨人と思いこみ、突っかかって行くが、あえなく地面にたたきつけられてしまう。

近くのみすぼらしい宿屋を見事な城と思いこみ、一晩の宿泊を頼む。宿の主人は、狂った貧乏人などいるはずがないと思い、喜んで泊めてやる。さて、宿屋には、多くの荒くれ男たちも宿泊していたが、宿の下働きアルドンサの体つきがいいものだからなんとかものにしようと思っているが、財布に金のない男には用はないと彼女は取り合わない。

そこへドン・キホーテが現れて、一目惚れし彼女を貴婦人と思いこんでダルシネアと呼び、自分の名誉もすべてを騎士にふさわしく彼女に捧げると告白する。そんな言葉を生まれて初めて聞いたアルドンサは、はじめのうちはきちがいじじいだとまったく取り合わなかったのだが、そのひたむきさに見方を変え、襲ってくる男たちからドン・キホーテが自分を守ってくれたことから、尊敬の気持ちさえ抱きはじめる。

翌早朝、男たちは、アルドンサをさらって、野原の真ん中で順番に手込めにして置き去りにしていった。そこへ宿を出たドン・キホーテとサンチョの一行が通りかかる。アルドンサは自暴自棄になり、自分をダルシネアなどと呼ぶなと叫ぶ。

一方、アロンソの実家では、妻や、結婚を控えた姪や担当の神父たちが心配している。狂った言動で世間を騒がせれば、姪の結婚にも差し障りが出てくる。そこで姪のフィアンセは一計を案じた。

彼は、家族らと共に鎧甲(かっちゅう)の身なりをしてアロンソを待ち伏せし、その狂った頭にショックを与えることを考えついたのだ。ドン・キホーテの前に現れると、自分は魔王だと名乗り、鏡を見せてドン・キホーテは勇ましい騎士なんかではなく、みすぼらしい老人に過ぎないと気付かせる。

ショックと疲労からアロンソは倒れてしまった。病室で意識を取り戻したときには、ふだんのアロンソに戻っており、もう命もいくばくもなないと悟ったので、心配する家族の前で遺書を口述しはじめた。

そこへ駆けつけてきたアルドンサが現れる。不可能な夢に挑めと教えてくれた(アロンソではなく)ドン・キホーテに戻ってほしい、そして自分はダルシネアなんだという言葉に、アロンソはふっと我に帰り、ドン・キホーテとなっていた。次の瞬間ダルシネアの腕に抱かれて事切れていた。

その時監獄では扉が開いて監視人が、セルバンテスを裁判にかけるために迎えに来た。火あぶりの刑も覚悟しているセルバンテスだが、背後から囚人たちが The Impossible Dream の歌を歌うのを聞きながら、階段を上がっていくのだった。(1972年)

Directed by Arthur Hiller Writing credits Dale Wasserman (musical play) and Dale Wasserman (screenplay) Cast :Peter O'Toole .... Don Quixote de La Mancha/Miguel de Cervantes/Alonso Quijana / Sophia Loren .... Aldonza/Dulcinea / James Coco .... Sancho Panza/Cervantes' Manservant リスニング;英語

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Splendor in the Grass 草原の輝き 2006/04/23

草原の輝きアメリカの片田舎を舞台に、自分が本当に願っていることがたとえ実現しなくとも、成長することによってそこから新たな希望や未来が開けるという人生の真理が実に気持ちよく描かれている映画。

時は1920年代。アメリカの中央部にあるカンザス州の小さな田舎町だ。次々と石油を掘り当てるスタンパー家の主、エースには息子のバッドと娘のジニーがいる。ジニーは小さい頃から親に反抗し、駆け落ちをしたあげく離婚してこの町に出戻ってきた。だが、高校生のバッドは父親の言いなりだ。

バッドには、ディーニーという同じく高校生の恋人がいる。だが、父親の言いつけ通り、クラスメートがしているように一晩をベッドで過ごすようなことは控えている。一方ディーニーの両親はこの一人娘を子供扱いして、成長していく娘の姿を直視しようとしない。

若い情熱がほとばしるはずのバッドは、キスだけで我慢しているのが耐えられなくなり、ディーニーに会うのを避けるようになる。だがその結果二人はいっそう求め合うようになってしまった。バッドが自分のクラスの尻軽女に手を出したという噂が広がると、まじめなディーニーは心に大変な動揺をきたす。

ふさぎ込み家に閉じこもってしまったディーニーは、心配していろいろ尋ねる母親に、バッドは「自分を汚してくれさえしなかった」と叫ぶ。学校の授業ではワーズワースの詩が取り上げられた。ぼんやりしていたディーニーは立って朗読するように求められる。

That though the radiance which was once so bright be now forever taken from my sight. Though nothing can bring back the hour of splendor in the grass, glory in the flower. We will grieve not, rather find strength in what remains behind. William Wordsworth

草原の輝き頭が混乱していた彼女は、読んでもその詩の真意が理解できなかった。何もかもいやになり、クラスのパーティでは酒をしたたか飲むと滝に飛び込んで投身自殺をしようとする。やっとの事で救い出されたディーニーは、精神病院に送られることになった。

一方バッドは、どうしても父親の期待の中から抜け出すことができない。荒れた生活を送る姉のジニーは、父親から自立しないと取り返しのつかないことになると警告してくれるのだが・・・父親のコネとカネで、バッドは名門エール大学に入学することになった。

だが、本当は牧場をやりたいというのが希望だったバッドは、1年目からまったく勉強せず落第の宣告を受けることになり、父親エースが呼び出された。折りもおり、ニューヨークではあの1929年の大恐慌が始まり、エースの石油会社も一夜のうちに負債を抱えて倒産してしまった。大学での面接が終わるとエースは息子を連れてニューヨークに出向く。ホテルで息子に娼婦をあてがっている間、エースは他の多くのビジネスマンと同じく投身自殺をしてしまった。

ディーニーは、精神病院で2年半を過ごした。自分を見つめ直し、自分の両親も客観的に見ることができるようになった。さらにこの病院に患者として入院していた若い外科医と親しくなり、愛情を抱くようになる。そしていよいよ医者から退院の許可が出た。

両親の元に帰ったディーニーは、やはり何といっても昔の恋人、バッドに再会したかった。、現実は直視しないと恐怖は去らないのだ。同級生に付き添われてバッドの働く牧場に向かう。バッドの姿を見て彼女は再会の喜びに心が躍るが、そこには新しい現実が待っていた。

父の死によってようやく自立できたバッドは、あれから一文無しになりながらも自力で牧場をはじめ、大学時代に知り合ったイタリア人の若い女と結婚してすでに長男が生まれていた。

バッドとその幸せそうな家庭を見てもディーニーはたじろがなかった。彼女の方も、外科医との結婚を心に決めることができたのだった。そしてようやく、あのワーズワースの詩の意味がわかったのだ。バッドと再会できたことを心から感謝しながらディーニーは牧場をあとにしたのである。(1961年)

Directed by Elia Kazan Writing credits William Inge Cast : Natalie Wood .... Wilma Dean 'Deanie' Loomis / Pat Hingle .... Ace Stamper / Audrey Christie .... Mrs. Loomis / Barbara Loden .... Ginny Stamper / Zohra Lampert .... Angelina / Warren Beatty .... Bud Stamper / Fred Stewart .... Del Loomis / Joanna Roos .... Mrs. Stamper リスニング;英語

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Et Dieu... créa la femme 素直な悪女 2006/04/27

素直な悪女原題は「そして神は・・・女を創造された」である。ヒロインの性格をずばり説明した日本語の題名がよいか、聖書の創世記の中におけるアダムとイブの物語の冒頭の方が、より中身を表しているかは議論のわかれるところだ。とにかく主演のブリジッド・バルドーは、小悪魔的な魅力を画面いっぱいにふりまく。

南フランスの港町。船大工をする三人の兄弟とその母親が、海辺に面したドックで細々と暮らしている。近辺で豪華なヨットを乗り回す中年過ぎの実業家エリックは、このドックの敷地に目を付け、ここにホテルを建てようと、売却を兄弟に迫るが長男アントワーヌは先祖代々の土地だからといってはっきりと断った。

そのころ、ようやく孤児院から出してもらったジュリエットが町に戻ってくる。思ったことは即実行し遊び回り仕事も裸足でやったりするものだから、近所の評判ははかばかしくない。誰も彼女が生娘だとは信じていない。アントワーヌはある日彼女と知り合ったが、まともにつきあう気はない。一緒に連れて行くという空約束をして、翌朝仕事先の町に、彼女を置いたまま旅立ってしまった。

心では惚れていたのに置いてきぼりにされたジュリエットは怒り心頭に達し、次男ミシエルとつきあい始める。二人は深い仲になり、ついにまわりの大反対を押し切って結婚してしまった。だが遊ぶことが大好きなジュリエットは、夫との平凡な生活に幸せを感じることはむずかしい。それでも食べることやレコードを聴くことに慰めを見つけて毎日を送っていた。

エリックもひそかにジュリエットに惹かれてはいたが、まずは何とかしてドックの土地を買い取りたかった。里帰りしていたアントワーヌは、自分が社員になることを条件にようやく売却に応じる。自分の性格を良く知っているジュリエットは、かつて自分を棄てたアントワーヌがこの土地に居着くことを望まなかった。エリックにも頼み込んだのだが、当分は兄弟はそろって一緒に暮らすことになった。

ある日ミシエルがマルセイユに商用で出ている間に、ジュリエットはモーターボートを勝手に持ち出したがエンジンが火を噴いて、漂流しはじめた。家にいたアントワーヌは海岸から泳いで船にに向かい、燃えて沈もうとするボートから彼女を間一髪で助け出した。

ジュリエットは砂浜で自分を救ったアントワーヌに自然に身体をゆだねてしまった。家に帰ったジュリエットは自分のやったことを後悔し頭が混乱し家を飛び出した。一部始終を知った母親は、ジュリエットは誰とでも寝る女と思っているから、帰ってきたミシエルに早く彼女とと別れることを勧める。

ジュリエットが酒をあおっている酒場にミシエルが向かうとそこにはエリックもいた。興奮したミシエルは踊り狂うジュリエットに向かって発砲するが、弾はエリックの腹をかすった。アントワーヌの運転でエリックは知り合いの医者のところに向かう途中、アントワーヌをどこか遠くの場所に赴任させることを約束する。一方ミシエルは思いきりジュリエットを殴ったが、彼女はそれでなぜかほっとしたようだった。(1956年)

Directed by Roger Vadim Writing credits Roger Vadim and Raoul Lévy Cast : Brigitte Bardot .... Juliete Hardy / Curd Jûrgens .... Eric Carradine (as Curd Jurgens) / Jean-Louis Trintignant .... Michel Tardieu / Jane Marken .... Madame Morin (as Jeanne Marken) リスニング;フランス語

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伊豆の踊子 2006/05/03 再2011/06/17

まだ、書生さんが尊敬され、学生と踊子ではまったく不釣合いで一緒になれる見通しなどまったくなかった時代の話。ヒロイン薫の役には数多くの女優が挑戦したが、これは吉永小百合による作品。薫は過ぎ去った青春の象徴でなければならず、単に「可愛い子」では観客に余韻をあとまで残すことができない。

東京の老教授、川崎はいつもの授業を終わると、街中で若い男子学生に呼び止められた。踊り子である恋人と結婚したいから、ぜひ相談に乗ってほしいというのだ。(その恋人は一瞬、顔をこちらに向けるが、それは吉永小百合である)それを聞いて教授は自分の若いころの甘酸っぱい経験を思い出した。

東京の学生である川崎は伊豆半島にふらりと旅に出た。高原の山中を歩いていると、旅芸人の一座の前を通り過ぎた。その夜宿泊した町で、彼らと再び出会ったあとは、お互いに親しくなる。「旅は道連れ」ということで、下田まで一緒にいくことになった。

お芳という女の息子、栄吉とその妹、薫を中心に、栄吉の妻や数人の若い衆で旅一座はなっていた。彼らは大島出身で下田から波浮の港に帰るのだ。その中でひときわ踊りがかわいらしい薫はまだやっと女らしくなったばかり。子供たちと幼い遊びもするが、大人の世界を夢見る乙女でもあった。

囲碁(というより五目並べ)が得意な薫は川崎と急に仲良くなった。お座敷に呼ばれる合間を縫って、川崎と一座は親しさを増す。伊豆にいる間、薫は結核におかされて死にかけているお清に出会う。お清は、こんなときでも枕元に客を呼ぶような生活をしていたのだ。

人生の悲惨を見聞きして落ち込んだ薫にとって、まじめでまっすぐな川崎は心を支えてくれるような気がした。しかも自分が楽しみにしていた物語の本を、川崎は朗読までしてしてくれたのだ。下田に行ったら必ず活動(映画館)に連れて行ってくれることを約束させる。さらに栄吉は一緒に大島まで行こうというのだ。

母親のお芳は、書生と踊り子の恋が決して成就しないことをわかっていた。娘のためには心を鬼にしなければならない。下田に到着すると、宴会の仕事の約束があるからと、薫を川崎と一緒に出歩くことを禁じる。川崎は大島に渡らず、東京への船に乗ることを薫に告げる。

翌朝、薫は朝早く出る東京への船を見るために波止場に出た。船はすでに岸壁を離れ、次第に遠ざかってゆく。薫はハンカチをふった。川崎はその姿に気づく。ふたりはお互いの姿が見えなくなるまで必死に手をふり続けるのだった。恋の別れを描いた映画や小説は数え切れないほどあるけれど、見る人に感動を与える作品は、いったいどこが違っているのだろうか?(1963年・にっかつ)

監督: 西河克己 原作: 川端康成  脚色: 三木克巳  西河克己 企 キャスト(役名) 高橋英樹(川崎) 吉永小百合(薫) 大坂志郎(栄吉) 堀恭子(千代子) 浪花千栄子(お芳) 茂手木かすみ(百合子) 十朱幸代(お清) 南田洋子(お咲)<参考>薫の役を演じた主な女優:田中絹代(33年)美空ひばり(54年)鰐淵晴子(60年)吉永小百合(63年)内藤洋子(67年)山口百恵(74年)

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乙女ごころ三人娘 2006/05/04

意地悪で強欲な母親から生まれた人生に荒波に苦しむ3人の娘たちの話。次女のお染は、母親の命令で浅草の飲食店街で、三味線の流しをしている。他にも若い子を外から入れてその上がりは母親が仕切っている。

流しの生活は楽ではない。店の人にいやがられたり、酔っぱらいに絡まれたり、身体を触られたりする。後輩たちはまだ経験が浅いから、なかなか収入が増えていかない。うちに帰って母親に怒鳴られるとお染は彼女らをかばってやるのだった。

末娘の千枝子は三味線の修行を止めて、舞台で西洋の踊りを踊る道を選んだ。最近では老舗の料理店の息子、青山とつきあっているが、年令が離れているので、母親には秘密にしている。お染は一度通りがかりに二人が一緒に歩いているのを見たことがある。

長女のおれんは浅草の暗黒街の中を生きていたが、数年前に駆け落ちをして家出をした。お染はある日偶然におれんに町中で出会う。結婚した相手の男は結核を患いおれんは苦しい生活をしていた。近いうちに東北の男の郷里に行きたいが、旅費もままならないのだ。

おれんは何とかしようと昔の悪い仲間の仕事に協力することになった。ところがおびき寄せろと彼らが頼んだ相手は何と千枝子の恋人、青山であったのだが、おれんはそんなことを知らない。報酬を受け取ると駅に向かった。

青山は不良たちに脅迫されていた。いうことをきかないと見ると彼らはナイフを持ってもみ合いになった。ちょうどその時仕事で近くに来ていたお染は窓からその現場を見てしまったのだ。

大急ぎでその部屋に駆けつけると青山を救おうとした。それはうまくいったが、自分が腹に刃を受けてしまった。出血するにも関わらず、よろめきながら千枝子夫婦が出発しようとしている駅に向かう。彼らに間に合うか?(1935年)

演出:成瀬巳喜男 脚本:成瀬巳喜男 原作:川端康成 『浅草の姉妹』 主題歌作詞:佐藤惣之助 ・サトウ・ハチロー 配役:おれん:細川ちか子 お染:堤真佐子 千枝子:梅園竜子 母親:林千歳 青山 :大川平八郎

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女が階段を上る時 2006/05/25

女が階段を上るとき矢代圭子は夫を交通事故で失い、それ以後銀座のバー「ライラック」で雇われマダムとしてやって来ている。若い女の子を指示し、店の売り上げの責任を負うのだが、このところお客さんの数が少しずつ減っている。マネージャーの小松と共にオーナーに呼ばれ、はっぱをかけられた。

かつて自分のもとで働いていたユリが独立して店を持ち、その天才的な客扱いのうまさから彼女の店には客があふれかえっている。落ち目になると店の中の活気が違うのだ。結局の所、圭子は「ライラック」をやめ、別の店「」に移ることになった。圭子を密かに想っている小松も一緒に移ってきた。

そろそろ三十路を迎え、圭子は結婚するか店を持つかいずれにせよ人生のコースを決めなければいけないが、最近は何もうまくいかないのだ。占い師に見て貰うと最近縁談があるという。うまい話もあるが、じっと辛抱して切り抜けたほうがよいとアドバイスされる。

突然ユリが尋ねてきた。実は借金で首が回らないのだという。店で反物を買い込んだりしたが、毎日のように借金取りの催促を受け、狂言自殺でもしてやろうなどと言い出す。ところが数日たってユリは本当に死んでしまった。ユリの母親のもとには、葬式だというのに執拗に借金取りがやってきていた。

店を持とうかと考え、下心のある大阪の金持ちの申し出を受けたり、奉加帳をまわしたりしたが、やはり店をあきらめた方がいいかもしれないと圭子は思った。新しい店での心労も重なったのか、軽い胃潰瘍になり店で血を吐いてしまった。

しばらくは妻に逃げられた兄、その小児マヒの息子が住む佃(つくだ)島の実家で休養することにした。母は愚痴を言うくせにいつも圭子に金を頼っているし、兄はどうしようもないお人好しで妹の援助がなければ裁判の弁護士さえ雇えないのだった。

年が明けて少し体調を取り戻した圭子は店に戻ることにする。かつての客の一人で、療養中にもお見舞いにやってきて、小太りで風采の上がらない工場主、関根は圭子さんはマダムより家庭が似合うと言ってくる。

ある日関根と食事をした圭子は送ってきてもらったときに「黒水仙」の香水をプレゼントとして貰い求婚される。寂しさとこのところの辛いこと続きで圭子はつい求婚に承諾の返事をしてしまう。ところが関根の「妻」から電話があり、この男が女を次々とたぶらかして結婚の約束をする常習犯だと聞かされる。

ショックのあまり店で強い酒をあおる圭子の目の前にかつてから何となく惹かれていた銀行支配人藤崎が姿を現す。酔った勢いで圭子は体を許してしまうが、翌朝藤崎に大阪転勤の話を聞かされるのだった。

そこはかねてから圭子に思いを抱いていた小松がやってきて、藤崎と寝たことをなじる。彼は圭子が夫が死んだときにその骨壺に決してほかの男と一緒にならないと書いた手紙を入れていたことを知っていたのだ。自分に愛を迫る小松を圭子ははねのけ、駅で見送りを受けている藤崎一家のところに出かけて妻の目の前で藤崎から貰った株券を返すのだった。

辛い日々が続いたが、それも一つ一つ切り抜けて何か吹っ切れた。圭子は今日もバーの階段を上がって行く。マダム稼業はこれからも当分続きそうだ。(1960年・東宝)

監督 ;  成瀬巳喜男 音楽;黛敏郎 配役 矢代圭子 ;高峰秀子 銀行支店長・藤崎 ;森雅之 女給・純子 ;団令子 マネージャー・小松 ;仲代達矢 工場主・関根 ;加東大介 実業主・郷田 ;中村鴈治郎 利権屋・美濃部 ;小沢栄太郎 マダム・ユリ ;淡路恵子 圭子の兄・好造 ;織田政雄

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