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今年見た映画(2008年)
Quai des Orfevres 犯罪河岸 2008/04/17 戦前パリのシャンソンのはなやかなりし頃、マルティノー夫妻は、妻のジェニーの魅力的な歌、夫モーリスのピアノ伴奏が人気をよんで、劇場は大入り満員だった。だが最近、モーリスはふさぎこんでいる。妻が有名になるにつれ、多くの男たちとの付き合いやパーティへの出席が増え、もとから恋多き女として知られていた彼女の素行に疑いを抱き始めていたのだった。 ジェニーはモーリスを深く愛していたが、その行き過ぎた嫉妬の感情に辟易(へきえき)していた。その頃、映画会社からジェニー出演の話があり、社長やブローカーとの話し合いが頻繁におこなわれていた。ある夜、モーリスが家に帰ってくると、ジェニーがいない。彼女が連絡もせず行方不明になったために、怒り狂ったモーリスは、あるホテルの住所のかかれた紙切れを発見する。 そこは仲間の運営する劇場の近くだった。拳銃を持っていったのは、妻の不実の相手を殺すためである。劇場に何食わぬ顔で出かけ、出し物を見ているふりをしながら、裏口からそっと出てそのホテルに向かったモーリスは、ホテルの一室で、ブローカーの一人が死んでいるのを発見する。頭にはワインのビンで殴られたあとがあった。大慌てで外に出ると、自分の車が動き出している。自動車泥棒にやられたのだ。 妻がやったのだろうか?だが、ジェニーは家に帰ると、友人で写真家のドラに自分がビンで殴ったために相手を殺したらしいと告げる。そのときに自分のスカーフを現場においてきてしまったのだ。ドラは現場に向かい、スカーフを処分し、指紋のついていそうなものをきれいにして戻ってきた。 被害者はワインで殴られただけでなく、ピストルで撃たれ金も奪われていた。警察が動き出した。ベテラン刑事のアントワーヌは、殺人現場に3人もの人間が出入りしたために、初動捜査を混乱させられる。ジェニー、ドラ、モーリスのいずれにも嫌疑がかかったが、拳銃を所持し、劇場での行動でうそをついたモーリスが最も疑われた。 留置場で絶望的になったモーリスは手首を切って自殺を図る。だが、最終的には4人目の人間が現場にいたのだ。こうやって事件は解決を見て、マルティノー夫妻はやっと平和な生活を取り戻すことができるようになった。見事なシャンソンが披露され、こんなすばらしい作品が埋もれているなんて実にもったいないことだ!(1947年) Director:Henri-Georges Clouzot Writers:Henri-Georges Clouzot (dialogue) Henri-Georges Clouzot (screenplay) Cast Suzy Delair ... Marguerite Chauffournier Martineau, aka Jenny Lamour / Bernard Blier ... Maurice Martineau / Louis Jouvet ... L'inspecteur adjoint Antoine / Simone Renant ... Dora Monier 言語;フランス語 上へIl Vangelo secondo Matteo 奇跡の丘 2008/04/21 シンプルなイエス伝。イエスの一生を新約聖書の4人の著者による福音書をもとにつづる。キリストの誕生、そして30年間をおいて布教が始まる。いくつかの奇跡をして見せながら、次第にその教えの本質を明らかにしてゆく。 途中、12人の弟子を連れてゆくが、いずれも人間的に弱く判断力もなく、いざとなると逃げてしまうような連中ばかりだった。その中には本当に裏切った、イスカリオテのユダも含まれていた。イエスの教えはイスラエルの地で広がり、次第に支持者が増え始めた。 人々が教えに熱狂し、国の平安が乱されると危惧した権力者たちは、イエスを殺すことを計画する。といっても人々を納得させる理由はなかったのだが。こうしてイエスは逮捕され、十字架を背負ってゴルゴだの丘に磔(はりつけ)になる。このときでさえ弟子たちはただうろたえるだけでなすすべがなかった。 弟子たちに見放され、そして神にも見放され、イエスは非業の死を遂げる。映画「冬の光」ではこのイエスの苦しみを肉体的なものではなく、「神の沈黙」による大きな孤独であると説明していたが、映画ではその判断は観客にまかされている。 そして復活。墓を出たイエスは、ガリラヤに姿を現し、弟子たちに世界中にこの教えを広めるように指示する。不思議なのは、このときからあの弱い弟子たちは変身し、どんな拷問にも耐える熱烈な布教者になったことだ。(1964年) Director:Pier Paolo Pasolini Writer:Pier Paolo Pasolini (writer) Cast (Cast overview, first billed only) Enrique Irazoqui ... Christ / Margherita Caruso ... Mary (younger) / Susanna Pasolini ... Mary (older) / Marcello Morante ... Joseph / Mario Socrate ... John the Baptist / Settimio Di Porto ... Peter / Alfonso Gatto ... Andrew 言語;イタリア語 上へ板倉亮子は地方税務署の職員だが、課長のもと、地域の商店主たちの脱税やごまかしを次々と暴き、有能な働きをしていた。会社に乗り込み、帳簿を次々と調べ、肝心の隠していそうな場所を、すぐれた勘で言い当てる。収入と支出とのわずかな食い違いに目をつけ、次々とごまかしを発見していった。 そのころ、近所でラブ・ホテルを経営する権藤英樹の経営に、怪しいうわさがたっていた。亮子は実際に権藤に会い、ホテルの内部やその他の施設を十分に見せてもらったが、彼は決してシッポを見せなかった。しかし異様に高い金をベッドのシーツに使うなど、何か引っかかるものがあったのだ。 それから1年ぐらいして、亮子は転勤となり、国税庁のベテラン査察官の中に加えられた。ここでも彼女は目覚しい働きをして、同僚の信頼を得た。そして権藤の名前が再び浮上したのだ。自分のかつての管轄地域だっただけに、彼女は自ら調査をかってでた。 いよいよ内偵が始まる。これは絶対に相手に気づかれてはならない。夜間でも画像をとらえることのできるカメラを駆使し、雨の日も風の日も張り込み、果てはゴミ袋を清掃車のあとを追って埋立地までゆき、中から怪しい計算書を取り出したこともあった。 権藤は妻が死に、息子、内縁の妻、お手伝いと大きな邸宅に住んでいた。また女を一人、アパートに囲っており、そこは現金や書類の受け渡しに使っているらしい。また暴力団の親分とも付き合いがあり、証書なしで巨額なお金を動かしているようだった。 証拠がそろい、いよいよガサ(家宅捜索)を始める日が来た。亮子も含め、百人以上の職員が参加する。お手伝いがゴミを出すために門を開けたとたん、職員は邸内になだれ込んだ。権藤に書類を隠す暇を与えないように迅速に行動したが、彼は本棚の後ろに隠し部屋を持っており、それに気づくまでかなり時間がかかった。 暴力団の親分も、内縁の妻も、囲っていた女もすべて調べられ、権藤は巨額の隠し金を持っていることが判明した。権藤は1年ほど前に自分に会いに来た亮子が職員の中にいるのに気づいてびっくりする。それから数年たって偶然、権藤が亮子と駅頭で出会ったとき、彼は彼女の根性に舌を巻き、最後まで隠していた大金の隠し場所を彼女に告げたのだった。(1987年) 監督: 伊丹十三 脚本: 伊丹十三 配役(役名)宮本信子(板倉亮子)山崎努(権藤英樹)津川雅彦(花村)大地康雄(伊集院)桜金造(金子)柳谷寛(食料品店店主)杉山とく子(食料品店店主の妻)伊東四朗(パチンコ屋社長)マッハ文朱(秋山)芦田伸介(蜷川喜八郎)小林桂樹(査察部管理課長)岡田茉莉子(杉野光子) 上へ吹けば飛ぶよな男だが 2008/05/03 (再)2020/06/21 大阪の町に天草諸島から家出少女、花子が流れ着いた。待ち受けていたのはポルノ映画を作って一儲けたくらむチンピラたち。花子に強姦場面を演じさせようと、うまく丸め込んで仲間にしたのだった。花子は頭が足りないのか、底抜けに人を信じるたちなのか、ひどい扱いにもじっと耐える。 だが仲間の一人、サブは花子への同情心がいつしか愛しい想いへと変わっていった。うまく仲間をはぐらかすと舎弟のガスとともに神戸に逃れ、二人で暮らそうとした。だがもともとまともに働く気のないサブのことだから、日増しに金がなくなっていくばかり。 ついには花子を立ちんぼに仕立て上げて客をおびき寄せ、ホテルに入ってことが及ぼうとしたその矢先に姿を現して、客から金を脅し取ることを思いついた。最初の犠牲者は学校の先生。彼は気前よくお金を払ったばかりか二人にビールまでおごってくれるのだった。 花子をさらったかつての仲間がサブを見つけてしまった。しかたなくサブは彼らの前で自分の小指をつめて見せる。これはアパートで隣に住む本物のやくざにならってのことだった。花子は生活費を稼ぐためにトルコ嬢になる。というよりは実はサブがそこの女主人に花子を売ったのだ。 花子は体の変調を感じて産婦人科で見てもらう。実は5ヶ月前、天草を出るときに強姦され、妊娠してしまっていたのだ。トルコはやめ、サブにおろせといわれたがカトリックである花子は子供をおろすことも自殺することもできない。その時、あの親切な学校の先生がしばらく面倒を見てくれた。 自分の子供でないとわかり、ヤケになったサブは街中で騒ぎを起こし、相手のやくざをナイフで刺してしまう。幸い軽症で初犯だったので刑期は短くてすんだが、しばらく拘置所に入ることになった。花子は面会に来たが、学校の先生のもとに身を寄せるなというサブの言葉にどうしようもできなくなり、ついには町をさまよって、流産をしたまま出血のために死んでしまう。 サブは拘置所を出てはじめて花子の死を知らされる。後悔したがもう時は遅し。彼女の遺骨を持って天草の実家に届けに行った。サブはすべてを一から出直す気になった。神戸から出航する外航船の乗組員になったのである。(1968年) 監督:山田洋次 脚本:森崎東 山田洋次 撮影:高羽哲夫 音楽:山本直純 配役 三郎(サブ):なべおさみ 花子:緑魔子 先生:有島一郎 お清:ミヤコ蝶々 不動:犬塚弘 ガス:佐藤蛾次郎 鉄:芦屋小雁 弁士:小沢昭一 上へ同胞(はらから) 2008/05/05 (再) 2013/06/30 (再) 2024/01/16 岩手県松尾村で牛飼いをやっている、青年会会長の斉藤高志のもとに、一人の若い女性が訪れた。河野秀子と名乗る彼女は劇団「統一劇場」の紹介に来た。他の数人の劇団員とともに盛岡に事務所を置き、東北の村や町をめぐって、自分たちの作品、「ふるさと」を上演するのが目的なのだ。自分たちは金儲けではなく、地域の人々に楽しんでもらいたいのだと彼女は言う。 突然の申し出に高志はとまどってしまう。無口で恥ずかしがりやな彼は、演劇の何たるかもわからず、とにかく理事会にかけようということになった。村の青年たちは、農業、牧畜業、郵便配達、トラックの運転手など多彩である。しかし日本の他の地域でもそうであるように、多くの青年たちが都会へ流出している。 高志がひそかにあこがれていた佳代子もそうだったが、彼女も両親と大喧嘩した挙句、この村を去ってしまった。村の沈滞を救うのに、この公演はひとつの起爆剤になるかもしれない。しかし青年たちには、まるで演劇のことがわからない。65万円の資金を集めるためには800円の切符を650枚売らなければならないが、もし赤字が出たらどうするのか?しかも公演の行われる7月は多忙な時期だ。 理事会はかんかんがくがくの議論が交わされ、何度も臨時の会が開かれたが一向に結論が出ない。だが演劇の実現には何か夢があった。河野が最後の結論を聞きに来たとき、彼らは断るつもりでいたのだが、高志が「赤字が出たら、おらのベコば全部売って弁償する」ということばが効いたのか、一気に実現に向けて動き出した。 しかし、村は広く保守的で、芝居の切符を売るのは大変なことだった。少しも売れないため、青年団員ひとりひとりがセールスマンになって戸別訪問を開始した。こうやって次第に売り上げが増していった。高志たちはこの村がいかに広いか、そのためお互いの行き来が少なく、コミュニケーションが希薄であることを学ぶ。農家を一軒一軒訪れて説得することは、新たな付き合いを始めるきっかけとなったのだ。 多くの困難を乗り越え、ついに中学校の体育館での公演の日となった。切符はなんと850枚も売れ大幅な黒字になった。「ふるさと」は都会に流れる若者たちと、さびれ行く地域を憂慮する年寄りたちを中心にして展開した。村の人々の大きな共感を得て、公演は大成功だった。 無事公演を終え、河野は村の駅から青年たちの見送りをうけて去ってゆく。青年たちにはあることを成し遂げたという、爽快な表情があった。そして河野の胸にも夢がもうひとつ実現したという大きな感動が生まれていた。(1975年)・・・資料 監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 朝間義隆 キャスト(役名) 倍賞千恵子(河野秀子)寺尾聰(斉藤高志)下絛アトム(柳田進)市毛良枝(小野佳代子)井川比佐志(斉藤博志)杉山とく子(斉藤富美)大滝秀治(松尾中学校校長)三崎千恵子(小野きぬ)渥美清(消防団団長)統一劇場(「統一劇場」劇団員) 上へある町の小さなスーパーの専務、小林五郎は頭が痛い。すぐ近くに「安売り大魔王」というライバル店が出店したのだ。そこは何から何まで安く、近所の人々はどんどんそこへ買い物に向かい、五郎の店、「正直屋」の客数はもとからさえなかったが、ますます減ってしまった。 ある日、街角で五郎は学校時代の同窓生、花子に出会う。かつて二人は学芸会でダンスを踊った間柄なのだ。50台にさしかかっている二人は、それぞれ配偶者を病気でなくし独身だ。五郎は花子に色目を使おうとするが、花子が安売り大魔王の店の感想を述べ、次に正直屋のひどいさまを批判するに及んで、仕事の何かヒントになるのではないかという気がした。 大魔王の店は「安かろう悪かろう」の方針であった。肉売り場には赤い電灯がともり、和牛と偽って輸入牛肉を売っていた。ここは100円のものを80円で売るような安売りではなく、30円ぐらいの粗悪品を40円で売るような店だったのだ。 花子はかつてさまざまな店で働き、レジの腕前はチーフレベルだということで、さっそく五郎は彼女を自分の店に雇い入れる。花子は店の床の汚さ、まったく不要な生簀(いけす)、誰も買わない高級な肉や魚の展示を指摘し、こんな無駄をなくすべきだと主張する。 パートさんたちはすぐに花子の考えに同調した。だが、この店には肉と魚の部門にそれぞれプライドの高い職人がチーフとして威張っていて、店の運営も彼らの発言によって動かされていたようなものだった。このため流れ作業は行われず、彼らが自分の腕を人に教えることもせず、安くて質のいい商品が店頭に並ばなくなっていた。 それでも野菜部門には職人がいなかったおかげで、さまざまな工夫が施された。捨てる直前の野菜に、高めの定価をつけ、それをバツで消し、ものすごく安い値段をつける作戦は成功した。午前中に安く売る作戦も、お盆にすべての品物を1割引で売る作戦も成功した。 その頃、正直屋をつぶすつもりでいる安売り大魔王の社長は、スーパーの丸ごと買取を提案する。五郎はもちろん断ったが、五郎の兄が運営する経営母体は、このところの低調な売れ行きを憂慮して店を手放したい雰囲気だった。 花子はそれを聞いて断固この店を日本一の店にしたいと思う。それは規模でもなく、売上高でもなく、日本一お客に喜ばれる店にすることだ。すべてをお客様第一にすることを目指すのだ。リパックをやめ、新鮮なものだけを置くようにした。店長や職人たちの頑固な抵抗を少しずつ取り去り、次第に正直屋は生気を取り戻してゆく。 店の買収がうまくいかないことに業を煮やした安売り大魔王の社長は、職人たちに金を渡して一気に店を出ることを勧める。実は店長と肉部門の職人は以前から取引先からリベートを受け取って私腹を肥やしていたのだ。しかも肉の職人は、高級な肉を横流しし、自分のところで売る肉は、中を低級な肉にして外側だけを高級肉でかぶせる細工をしていた。 肉を横流ししているところを花子に見つかった。しばらくたって、店長はみんなの前で正直屋が買収されることを告げ、従業員全体で安売り大魔王に移ることをけしかける。だが、これまでの花子の努力とそれによる客の信頼を勝ち取った経緯を知っている彼らは次々と花子の側についいた。 クビになることになった肉部門の職人は、肉を冷凍庫から盗み出し逃亡を図る。花子が冷凍トラックの中に閉じ込められるが、大捕物の末、漁港の近くでトラックは捕まる。低温症から回復したばかりの花子だが、さっそくそこの漁師に、元旦の日に新鮮な魚を届ける取引を結んでいるのだった。(1996年) 監督: 伊丹十三 脚本: 伊丹十三 キャスト(役名)宮本信子(井上花子)津川雅彦(小林五郎)伊東四朗(安売り大魔王社長)野際陽子(お客さま)佐藤蛾次郎(トラック運転手) 上へ前回の話では東京に住む青年、平山亮が徳島県の小さな町の映画館主、銀活男に拾われて映写の手伝いをしたあと、東京に戻ってきたところで終わっていたが、その後亮は家電販売店の店員となり、何一つ生活に満足を見出せず鬱々(うつうつ)とした生活を送っていた。 ある日突然、活男から電話がかかってくる。東京に出てきたのだが、、ボラれそうになり大騒ぎの果て警察に拘留されたのだ。身元引受人になった亮は自分のうちに連れて帰り、両親に紹介するが、風呂を壊すわ、土鍋はひっくり返してしまうわ、イビキで家中が眠れないわで、みんなに恨まれてそうそうに姿を消す。 活男の出現がきっかけになったのか、亮はその後すぐ仕事をやめてしまい、父親とけんかして家を飛び出した。徳島に行くと、オデオン座は”休業”の看板があり、奄美諸島に巡業に行ったのだという。すぐに亮は現地に向った。着いた港で、6歳の子供をつれた若い母親の節子と親しくなる。 活男と合流した亮は村や町の公民館や学校の教室を借りて、以前のように人々に映画の喜びを伝える仕事を始めた。節子は駆け落ちしたあと相手の男と別れ、実家に戻ってきたのだった。すっかり節子にほれ込んでしまった亮は節子の兄、清治に見咎められ、殴られるやら怒鳴られるやらするが一向にひるまない。 一方、活男は映写会で、かつて若い頃自分の映画館で働いていてほのかに恋焦がれていた松江に再会する。彼女は小さな島でペンションをやっているのだという。活男は昔のことを思い出してすっかりのぼせ上がってしまう。 だが、結末は悲しかった。せっかく活男は松江のいる島に向かったのだが、そこには彼女の子供たちが元気に暮らしていて早々に引き上げなければならなかった。亮は勇気を奮って節子に愛を告白するが、年下でしかも失業保険で暮らしていることをいわれ、泣き崩れる節子を後にして逃げ帰ってきた。 亮は、何をさておき一生続けられるような技術を身につけなければならないと心に決めて東京に戻り、職業訓練を受け始める。はるか南の島の活男から携帯電話がかかってきたが、あいも変わらず夢に生きる彼は、目の前に大きな虹が見えていることを大真面目で説明するのだった。(1997年) 監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 朝間義隆 音楽監督: 山本直純 キャスト(役名):西田敏行(銀活男)吉岡秀隆(平山亮)小泉今日子(祝節子)松坂慶子(麓松江)哀川翔(祝清治)倍賞千恵子(絹代)田中邦衛(祝幸吉) 上へアメリカ大陸発見後、ヨーロッパ各国の絶対王政は国内での権力を急激に増大させ、新世界での植民地獲得競争にしのぎを削るようになった。南アメリカのアマゾン川流域では、スペインとポルトガルが互いに領土を拡大しようと躍起だった。 かつて両国はカトリックの盛んなところで、特にイエズス会の宣教師たちは中国をはじめとして世界中に布教のために活躍していた。だがこの時期に至ってローマ法王を中心とする宗教勢力は、絶対王政の発展にとっては邪魔になってきた。ことあるごとに商業的利益を求める国家と、来世を目指す教会は衝突が起こってきたが、当然のことながら宗教勢力は衰退の道をたどるしかなかった。 イエズス会から派遣されたガブリエル神父は、スペイン領とされる大きな滝を越えたジャングルの奥地で、音楽好きで平和を愛する敬虔な原住民たちに布教を行い、わらぶきの教会を立てるほどまでに成功していた。ある日、町でガブリエル神父はロドリゴという名の男を見舞う。傭兵あがりのロドリゴは女をめぐって弟を決闘で殺してしまい深い絶望に陥っていた。 ロドリゴを立ち直らせるために、神父は自分の教会につれて帰る。そこで苦労し働くうちにロドリゴはようやく気持ちを整理し、原住民の言葉も覚え、そして神に仕えることを決心する。神父の見習いをしながら、将来、布教のために身をささげることにした。 ところがこの時期、スペインはポルトガルと領土の調整を行い、この土地はポルトガル領となることになった。当地の枢機卿(すうききょう=カトリック教会の各地域を代表する最高幹部)は、ポルトガルが奴隷売買を容認していることを憂い、領地の移行には反対だったが、絶対王政の為政者たちの前にはもはや抗議する力はなかった。 軍隊がやってきて村を掃討することになり、枢機卿はガブリエル神父が布教している村まで出向き、原住民たちに村を捨ててジャングルの中に入るように説得するが、原住民たちはそれを拒絶する。ガブリエル神父はあくまで非暴力を貫こうとするが、ロドリゴや他の仲間の神父は徹底抗戦に向けて動き出した。 滝を越えてやってきた西洋の装備を備えた軍隊に、原住民が立ち向かえるはずがない。彼らは次々と虐殺され、教会には火がつけられた。ガブリエル神父も子供たちと聖歌をうたいながら、胸に銃弾を受けて死ぬ。ロドリゴも戦いの中で撃たれ、ガブリエルの死を見て無念の思いで死ぬ。 生き残った子供たちはジャングルの中に逃げ込んだ。枢機卿は虐殺を止めることのできなかった自分の無力さをローマ法王に手紙で書き送るのだった。このはなしは事実を基にしているという。また、映画「Dances with Wolves 」が原住民虐殺の北米版だとすれば、こちらは南米版だとといえよう。(1986年) Director: Roland Joffe Writer:Robert Bolt (writer) Cast Robert De Niro ... Rodrigo Mendoza / Jeremy Irons ... Father Gabriel / Ray McAnally ... Altamirano 言語;英語 上へフォークソングのヒット曲、「帰って来たヨッパライ」の流れる中、3人の大学生が、福岡の海岸を歩いている。砂丘の中に服を脱ぎ捨て、みんなは泳ぎに出かけた。ところが戻ってみると、二人分の服がなくなり、代わりに汚い濃い緑色の服がおいてある。誰から勝手に衣服をすりかえたらしい。大ノッポは無事だったが、中ノッポとチビはその服を着るしかなかった。 あまり気にすることもなく、タバコ屋に「シンセイ」を買いに行く。その時海上保安庁の船が出動し、パトカーが町を巡回し始めたことに彼らはまだ気づかなかった。田舎のばあさんならシンセイが値上がりしたことを知らないのではないかと値上げ前の値段を言ったのが悪かった。ばあさんはさっそく警察に通報し、三人は追われる身となってしまう。このあたりで「イムジン川」の曲が流れる。 地元の銭湯に入っていると、見知らぬ美しい女が、ほかの人の服を盗んでしまえとすすめる。風呂を出て寂しい場所に来ると韓国から脱走してきた二人の男が待ち受けていた。青年はベトナム戦争従軍から脱走してきており、少年のほうは中学生だという。3人は仲間割れで銃殺されることになる。 そこへ先の女とその夫が姿を現して危ういところを助かる。もし見つかって送還されれば3人はベトナム送りになったかもしれない。その代わり先の二人組に命を狙われ、列車の中では便所に隠れ、追跡される。ついにつかまって本当に銃殺されるところまで来るが、ここで二人組みも夫婦もみな韓国人であることが判明する。 どうもストーリーの流れがよくないということで、場面は再び福岡の海岸へ。場面の”復習”が行われる。最初の場面でひどい目にあっているから3人の若者たちは今度は銃殺されないように注意を払う。逆に自分たちが韓国人だと言い張り、密航してきた二人組は偽者で日本人に過ぎないのだと言いくるめようとする。 大ノッポがうまくトラックの運転席から、この二人組みをピストルで射殺することに成功し、女の夫も射殺した。ところがかれらが東京へ帰る列車の中に韓国人たちは乗っていたのだ。夫婦は変装していた。いぶかる彼らだったが、警察の捜査網はすでに伸びていて、二人組は逮捕される。おそらく彼らはベトナム送りになるだろう。(1968年) 監督: 大島渚 キャスト(役名)加藤和彦(大ノッポ)北山修(中ノッポ)端田宣彦(チビ)佐藤慶(青年)車大善(少年)渡辺文雄(毒虫)緑魔子(ネエちゃん)殿山泰司(煙草屋の老婆)小松方正(漁師)戸浦六宏(警官) 上へAlexis Zorbas その男ゾルバ 2008/05/24 (再)2016/06/03 「日曜はダメよ」では、アメリカ人がギリシャ人にコケにされる映画だった。この映画では、文化のもっと深いところで違いを乗り越えた何かを感じることができる。ギリシャの港ピレウスでクレタ島行きの船を待つのはイギリス人の作家、バジルだった。彼の父親がクレタ島に残していた炭鉱跡を再び生産可能にしようという計画を持っていた。 悪天候で船の出発が延期されてくさっていたところに現れたのがギリシャ人、ゾルバ。その巧みな口上に乗せられてバジルはつい自分の計画のための助手として雇ってしまう。ゾルバはアメリカ帰りで英語を流暢に話せるし、島には大勢の知り合いや親戚がいるらしい。バジルは彼の働きぶりに賭けることにした。 バジルは典型的なイギリス人で独身、しかも机に向かって本を読んでいるのが似合うタイプだった。これとは反対に、ゾルバはもう相当年のはずだが、軽々と踊って見せるし、自分の感情を思い切りはき出す、いささかも Madness を持つ開放的な性格だった。 島に到着すると、バジルは外国人として注目される。この島に昔から住んでいて、各国軍の元帥と恋人だったと吹聴するフランス人のマダム・オルタンスの宿に招かれた。彼女はかつての怪しげな”仕事”を自慢するが、もう高齢なのだ。ここでも感情を表に出すことが下手なバジルはマダムを泣かせてしまい、代わりにゾルバが機嫌を取ることになる。 島の炭鉱は大がかりな改造が必要だった。ゾルバは材木を買い入れて内部を補強した。いよいよ石炭の掘り出しが始まった。そしてよせばいいのにゾルバはその山の上に生えている木を見て新たな計画を思いついた。木を切り出し、自前でケーブルカーを作って海岸まで運ぶという案だ。石炭と材木とで莫大な収入が見込める。世事に疎いベジルはそれにのせられてゾルバに計画を任せることにした。 バジルは大金を持たせてゾルバを町に資材を買いに行かせた。もらった金で豪遊し、女と遊んでいるという手紙を受け取ったバジルは激怒するが、一方では何も行動できない自分にいらだっていた。というのも大変美しい未亡人が、町の酒場でバジルに対して気のあるそぶりをしたのだ。町のある男がその未亡人に恋焦がれていたが、彼女はその男にはまったく関心を示さなかったのだ。 意を決して彼女の家に忍び込んだバジルに対して未亡人は受け入れた。だが、恋する男は父親に叱責され、絶望のあまり身投げしてしまう。葬式の日、男の父親や兄らが未亡人を取り囲み、ナイフを持って襲ってきた。ゾルバが助けに走ったが、未亡人は怒り狂った男たちによって刺殺されてしまった。 一方、ゾルバが好きになっていたマダム・オルタンスは、バジルがほんの軽い気持ちで伝えたことを真に受け、ゾルバが自分と本当に結婚してくれるものと思い込む。だが、その時彼女は病に冒され、死期が迫っていたのだった。彼女がゾルバに抱かれて事切れると、村の女たちが、金切り声を上げて部屋に侵入してきた。異教徒で、身寄りのないマダムの持ち物一切合財を持ち去るためだ。ゾルバはマダムの飼っていたオウムの鳥かごだけを引き取ると外に出てきた。 いよいよケーブルカーの完成である。試走式には僧侶も含めて大勢の人々が集まっていた。山のてっぺんから切り出された丸太がすさまじい音をあげて海岸に降りてきた。人々はあまりの勢いに恐れおののき、しかも支柱がぐらつき始めた。3回目の試走で、支柱はまるで将棋倒しのように倒れ大失敗。 金を使い果たしたバジルは島を去ることになった。しかし彼はゾルバのおかげで貴重な人生経験をした。そして何よりも自分でダンスを踊る気持ちが出てきたのだ。あの内向的なバジルが自分の感情を表現できるようになったのだ。(1964年)・・・資料 Director:Mihalis Kakogiannis Writers:Nikos Kazantzakis (novel) Mihalis Kakogiannis (screenplay) Cast Anthony Quinn ... Alexis Zorba / Alan Bates ... Basil / Irene Papas ... Widow / Lila Kedrova ... Madame Hortense 言語;英語 上へ喜劇 一発大必勝 2008/05/31 (再)2020/06/08 ここはとある九州の小さな町。町でもてあまされた、やくざ男が死んだ。誰も身寄りがいないし金を全然残さなかったので、仲間たちは葬式代を出すものもなく、死体を段ボール箱につめてバスで火葬場に運ぶ有様だった。 そこへやってきたのが死んだ男の旧友、ボルネオ帰りの団寅造だった。といっても死者の弔いに来たのではなくて町の金を何とかふんだくろうとたくらんでいたに過ぎない。仲間たちにお骨のジュースを無理やり飲ませた挙句、近所の町内会ではまんまと「墓石」を作るのだといって5万円も巻き上げられてしまった。やがて寅造はどことなく姿を消す。 仲間の一人、荒木定吉の娘、荒木つる代は町でも評判の美人だが、甲斐性のない夫は刑務所に入れられ、離婚をしたいがその金もなく、今は小さな息子を家においてバスガールをしている。その彼女を何かれとなく面倒を見てくれるのが近所に住む心臓弁膜症の独身青年、左門泰照だった。離婚が成立したら、ぜひつる代と結婚したいと願っていたのだが、気も体も弱い彼には無理かもしれない。 やがて町内会で、京都や信州をめぐるバスツアーが開催された。つる代がバスガイドを勤め、みんなは和気藹藹(ワキアイアイ)と旅を楽しんでいたが、あるバス駐車場の前で、寅造にばったりと会ってしまう。町のメンバーは全員、いち早く身を隠したのだが、顔を知らないつる代に話しかけてバスに勝手に乗り込んでしまった。それからの旅はすべて寅造が中心に動いた。 町に戻り、寅造がつる代をみて気に入り、お酌をさせようとしたときに、助けようとした泰照は敢然と立ち向かったのはいいが、腹を立てた寅造は大暴れ。町中の建物を片っ端から壊してしまった。 つる代の離婚を達成するために何とか金を工面をしようと、泰照と仲良くなった寅造はわざと怪我をして労災保険をせしめる手を思いつく。だが、飛び降りたのはよかったが、泰照の体にぶつかり、彼の心臓は停止してしまう。すぐに葬式が執り行われたが、寅造の与えたとんでもないショックが効いたのか生き返った。 泰照はどうしてもつる代に結婚のことを言い出せない。散々ドジを踏んだ挙句、想いを告白したが断られ、絶望のあまり町を去った。以後、どこかの工事現場に放置してあったバスの車体の中で寝泊りして、毎夜つる代の姿を思い浮かべている。そこへブルドーザーがやってきてバスをひっくり返した・・・(1969年)・・・資料 監督: 山田洋次 脚本: 森崎東 山田洋次 キャスト(役名)ハナ肇(団寅造)倍賞千恵子(荒木つる代)谷啓(左門泰照) 佐藤蛾次郎(野田松吉)田武謙三(荒木定吉)犬塚弘(横路巡査) 上へTo Kill a Mockingbird アラバマ物語 2008/06/02 ここはアラバマ州の片田舎。弁護士をするアティカスは、数年前に妻を失い、6歳のおてんば娘スカウトと10歳の息子ジェムと3人で暮らしている。夏になると、鉄道会社の社長の息子が遊びにやってきて、3人で近くの森で遊びまわったのだった。 アティカスは、腕利きの弁護士というわけではなく、むしろ地味な人柄であったが、忙しい仕事の合間に子供との時間をたっぷりとり、話をすることを忘れない。普通の家庭ではたいてい子供たちは「パパ」と呼ぶのに、ここではまるで友達のようにファーストネームで呼ぶのであった。 2件ほど隣のあばら家には、「ブー」という名前の得体の知れない人物がすんでおり、それは怪物だとか、気違いだとかといううわさが立っていて、子供たちはみな怖がっていた。ジェムはそれでもある日自分の勇敢さを自慢するために、他の2人とともにその家の入り口まで忍び込み、黒い人影を見て大急ぎで逃げるときに、金網にズボンを引っ掛けて、パンツ一丁で帰ってくる。 その後、自分たちの家とブーの家の間に生えている大きな木の洞(うろ)に壊れた懐中時計や、メダル、人形などが入っており、兄妹はいったい誰が入れたのだろうといぶかしがる。そのころアティカスは、トムという黒人の弁護を依頼される。彼は白人の娘を乱暴した容疑で留置場に入れられていた。 土地柄、黒人に対する偏見はひどく、アティカスが依頼を引き受けたことが伝わると、”被害者”の父親をはじめとして大勢の土地の者が彼にやめるように圧力をかけてきた。兄妹もその場に居合わせるが、スカウトの何気ないことばが男たちを引き上げさせた。このようにして兄妹は父親の仕事を通じて世の中の不公正の存在を知り、次第に成長してゆく。 ある日、狂犬病の犬が暴れており、アティカスはこれを一発でしとめた。ジェムはこれに心から感心し、自分も銃を撃てるようになりたいという。アティカスは、最初は鳥を撃つことから始めるといいといったが、mockingbird という鳥だけは撃たないほうがいいという。それはこの鳥が美しく、人々の心を和ませる歌を歌ってくれるからだという。 やがて公判の日がやってきた。トムが右利きなのに、犯人が左利きであることを指摘したり、実は娘の父親が暴力を振るったらしいことが、アティカスの質問により次々と明らかになるのだが、地元の人間によって固められた陪審員たちの評決は有罪と出た。しかしその後、護送中にトムは脱走し、射殺されてしまう。 アティカスはトムの妻のところに報告に行かなければならない。車にはジェムが同行した。トムの家の近くでは、訴えた娘の父親が待ち受けていてアティカスにつばを吐きかけた。そしてその後、ハロウィーンの祭りの帰りに兄弟が森の中を二人きりで帰っているところをこの男が再び襲い、ジェムは殺されかかった。 その時、誰かがこの男をナイフで刺殺し、ジェムは腕の骨を折るだけですんだ。助けてくれたのはブーだったのだ。保安官は、アティカスに向かって正当防衛なんだから、このことはそっとしておいたほうがいいという。それを聞いていたスカウトは、これは mockingbird を殺してはいけないことと同じなんだと悟るのだった。(1962年)・・・資料 Director:Robert Mulligan Writers:Harper Lee (novel) Horton Foote (screenplay) Cast Gregory Peck ... Atticus Finch / Mary Badhum ... Scout / Phillip Alford ... Jem/ John Megna ... Charles Baker 'Dill' Harris / Frank Overton ... Sheriff Heck Tate / Rosemary Murphy ... Maudie Atkinson / Ruth White ... Mrs. Dubose / Brock Peters ... Tom Robinson 言語;英語 上へThe Apartment アパートの鍵貸します 2008/06/05 (再)2014/04/01 ここはニューヨーク、マンハッタンの高層ビルの19階。見渡す限り計算機が置かれていて従業員が一生懸命保険の計算書を入力している。ここは大きな保険会社の事務処理室なのだ。その中に一人のあまりさえない男がいる。バクスターといい、仕事のことよりも、別のことに気をとられている。 というのは、独身である彼のアパートは、交通の便利なところにあり、そんなに悪い内装でもないものだから、会社の上司たちが自分たちの愛人たちと密会するのに絶好の場所となってしまったのだ。おかげで彼は会社が終わっても部屋を借りている連中が出ない限り、中に入れないものだから、会社で残業することもしょっちゅうだった。 しかも女の出入りが盛んなものだから、彼自身はまじめな性格でおくてなのだが、管理人や隣に住む医者たちは、なんという遊び人だとあきれ果てている。今日もスケジュールの調整に忙しい。しかし費用のほうはちゃんと面倒を見てもらえるし、上司たちが何かとよいうわさを流してくれるので、いずれは昇進に結びつくだろうとバクスターは期待している。 彼の通勤するビルのエレベーターガールに会社でも人気のフランという女の子がいて、バクスターもあこがれていたが、身持ちが堅く、なかなかデートにこぎつけることができない。ある日部長に呼び出される。アパートの件がばれたと思ったら、なんと部長自身も部屋を貸せというのだ。こうして”顧客”は5人になった。 部長からもらったミュージカルの券を持ってフランを誘うと、その晩付き合ってもいいという。大喜びのバクスターだったが、一向に現れない。実はフランは部長の愛人であり、別れ話をするつもりだったのに逆にほだされて、自分のアパートに二人で泊まっていたのだ。フランはそのアパートが誰のものであるかは知らないのだ。 デートはすっぽかされたものの、バクスターは係長に昇進する。そして自分の部屋に置き忘れられていた割れた手鏡がフランのものと知って、もう彼女をあきらめることにした。そしてしばらくたってクリスマスの夜、部長が自分の妻に一向に離婚話を始めないことにいらだっていたフランは、部長の秘書から彼が次々と女を渡り歩くタイプであることを知らされる。 別れることに決めたフランだったが、バクスターのアパートで100ドルを手切れ金にもらったあと、絶望的な気持ちになり洗面台にあった睡眠薬を全部飲んでしまう。部屋に帰って来たバクスターは、隣の医者をたたき起こしてフランは危ないところで息を吹き返した。フランは数日間バクスターの部屋で回復を待つことになる。 フランの面倒を見てくれたことで、部長は感謝の印にバクスターを自分の補佐役に昇格させた。だがフランの面倒を見たことで彼女への思慕が募ったバクスターはこんな生活がイヤになり、再び鍵を貸せという部長の要求を拒否して会社を辞め、そしてアパートからも出て行くことにした。これを知ったフランは彼がまだいるアパートへと一目散に駆け出した・・・(1960年)・・・資料 、Director:Billy Wilder Writers:Billy Wilder (written by) & I.A.L. Diamond (written by) Cast Jack Lemmon ... C.C. 'Bud' Baxter / Shirley MacLaine ... Fran Kubelik / Fred MacMurray ... Jeff D. Sheldrake / Ray Walston ... Joe Dobisch / Jack Kruschen ... Dr. Dreyfuss 言語;英語 上へUccellacci e uccellini 大きい鳥と小さい鳥 2008/06/07 イタリアの田舎町を二人の父子が歩いている。周りはかなり荒れ果てていて、人ごみが集まっているかと思えば、家の中に惨殺された夫婦の死体があったためだった。やがて二人は、郊外の建設途上の高速道路の上を歩いていた。どこかで変な声がすると思ったら、人間のことばを話せるカラスだった。 カラスは、二人にいろいろ話しかけるが、大昔に起こった話をしてくれた。ある神父の集団の中で、二人の男が人間ではなく鳥たちにキリストの福音を述べ伝えるように命じられる。鳥語を話すことのできない二人は困ってしまった。 やがて1年がたち、年上のほうが鋭い叫び声で鳥たちに通信することに成功したが、いつまでも野原の真ん中にいる二人を周囲の人々は好奇の眼で見始め、ついには屋台まで立つ観光名所になってしまった。これではうるさくて少しも鳥語の勉強ができない。 ようやく人々を追い払うと、二人は鳥の間のコミュニケーションが、実は声ではなく飛び跳ねるときの動作であることに気づく。こうしてようやく鳥たちに伝道することに成功するのだが、ある日、タカ(大きい鳥)がスズメ(小さい鳥)を襲って食べてしまうのを目撃した。二人は何のためにキリストの愛を述べ伝えたのかわからなくなり絶望してしまう。 父子とカラスは旅を続ける。父親が野グソをしようとしたら持って帰れと銃で脅す農民が現れたり、ツバメの巣を料理する農婦にであったり、キャデラックを押してくれと頼む集団に出会ったりした。父親の借金の返済を迫る男に会ったりもした。空港の道路わきで娼婦に出会い、父も子も客となる。この頃からカラスの存在が疎ましくなってきた父子は、いきなりカラスを捕まえて食べてしまう。そして二人の旅は続くのだった。(1966年) Director:Pier Paolo Pasolini Writers:Pier Paolo Pasolini (screenplay) Pier Paolo Pasolini (story) Music; Ennio Morricone Cast; Toto ... Innocenti Toto = Brother Cicillo / Ninetto Davoli ... Innocenti Ninetto = Brother Ninetto (as Davoli Ninetto) 言語;イタリア語 上へ馬鹿が戦車でやって来る 2008/06/12 (再)2020/06/13 ある海岸で、沖合い釣りの二人づれが、船頭から「タンク根」という不思議なところへ案内される。何でそんな名前がついたのかを知りたがる二人に、船頭は次のような話をして聞かせたのだった。 北浜と呼ばれる海岸には丸い形をした山が迫っているがその後ろ側には日永という集落がある。そこの住民はみんな一風変わっていて噂話が大好きだった。村一番の貧乏人はサブといい、耳の遠い母親と頭のおかしい弟、兵六の3人暮らしで鳥を飼い、畑を耕して暮らしている。 サブの畑は、かつて農地改革で、小作人だったサブの父親が地主の仁衛門から分けてもらったところだが、その境界線をめぐって争いが絶えない。いまでも二人はにらみ合い、解決のために仁衛門が土地を高額で買収するという話にもサブは乗ってこなかった。 その頃仁衛門の娘、紀子が長い病からようやく回復してサブの家にもやってきた。彼女は幼馴染のサブと自分の父親が仲良くやってくれることを望んでいたのだ。だが翌日の全快祝いにせっかくサブが背広を着込んで出席しようとしたのに、仁衛門からは体よく追い払われてしまう。 さあ、腹の虫が収まらない。サブは大酒を飲み村中で大暴れをして警察に捕まってしまった。しかも彼が拘留されている間に悪辣な金貸しがやってきて母親にメクラ判を押させ、サブの畑を抵当に入れてしまった。それを知ってサブの怒りは再び爆発する。 これまでサブの納屋の屋根から突き出した黒い棒は煙突かと思われていた。だが実はこれは太平洋戦争で用いられた旧陸軍の戦車だったのだ。サブは戦車を始動させると仁衛門の家をはじめとして村中の家を叩き潰して回った。村は大騒ぎ。巡査が県警の応援を求めても冗談だと相手にしてもらえない。 サブの動向を見張るために火の見櫓(やぐら)に村人たちが登っているのを見た兵六は、自分は鳥だと思い込んでいるから、さっそくまねをして上ってしまった。そしててっぺんで飛び立つまねをしているうちに墜落して死んでしまった。弟の死を知ったサブは死体を戦車に載せて峠を越えて北浜に出た。そこの医院で兵六が死んでいることを悟ると、タンクに載せたまま海の中に沈めてしまったのだ。 そのときからその周辺の海域は「タンク根」と呼ばれるようになった。紀子は恋人の北浜の医者とここを通るのが好きで、サブが通った道は「タンク道」と呼ばれている。サブは母親を連れてそれきり村から姿を消してしまった。(1964年)・・・資料 監督: 山田洋次 原案: 団伊玖磨 脚色: 山田洋次 音楽: 団伊玖磨 キャスト(役名) 松村達雄(中年の男) 谷啓(若い男) 東野英治郎(船頭) ハナ肇(サブ) 犬塚弘(兵六) 飯田蝶子(とみ) 花澤徳衛(仁右衛門) 小沢昭一(郵便配達夫) 岩下志麻(紀子) 上へBalzac et la petite tailleuse chinoise ( Xiao cai feng ) 中国の小さなお針子 2008/06/21 かつての青春テレビドラマ、「俺達の旅」のように、一人の娘に2人の青年が恋をしてしまうラブストーリー。中国が舞台で、俳優も中国人であるが、フランス映画である。ひそかに禁じられた本をまわし読むするシーンは「華氏458度」をほうふつとさせる。 中国での文化大革命の最中、ルオとマーという二人の青年が都会から、今は三峡ダムの底に沈んでいる村へ農作業の労働(下放)を従事しに来た。ルオは歯医者の息子で、自分も少しは治療の心得がある。マーはバイオリンを少し弾くことができた。二人の共通点は、外国の小説、特にフランスの文豪の作品に興味があるということだった。 知的階級に属しているということで、この時代”反革命分子”のレッテルを貼られた二人は、その考えを”矯正”するためにこの村にやってきたのだが、村長以下険しい谷間に住む住民たちは完全に都会の文化から取り残され、無知でほとんどが字を読むことさえできなかった。 2人は田舎の仕事はまるでダメで、肥え桶を担がせればこぼしてしまうし、村内にある銅山での運搬作業でもへまをやってばかりいた。しかし彼らは村民にとって新しい文明をもたらしたのだ。モーツアルトのソナタは「毛(モー)にささげる曲」ということで、堂々とマーによって演奏された。 二人の持ってきた目覚まし時計は、村の仕事の開始や終了を告げるペースメーカーの役割を果たすことになったし、娯楽に飢えていた村民たちに、二人は町へ行って見てきた映画をまるで目の前に映像が見えるかのように巧みに話して聞かせたものだから、彼らは熱中し、夜は広場に集まって彼らが話してくれるようにせがんだ。 その村民の中に、少し遠く離れた山の奥に、仕立て師の祖父と暮らしているかわいいお針子がいた。ルオもマーもすっかり彼女に夢中になってしまい、何とかこの無知の環境から引き出して新しい世界に目を向けることができるようにと考え始めた。 そのころ、下放から開放されて都会へ帰るメガネの青年が本をたくさん隠し持っていることを知り、二人はまんまとその本を盗み出してしまう。その中には当時の中国では禁書となっていたたくさんの外国の小説が含まれていたのだ。大喜びの2人はこれを洞窟の中に隠し、一冊づつ持ち出してはお針子に呼んで聞かせ、自分たちでも夢中になって読みふけった。 外国かぶれになった孫娘のことを怒った祖父だったが、いつのまにか二人の巧みな話術に引き込まれ、村の娘たちは彼の作るモダンなデザインの服を着始めることになった。ルオの父親が病気になり、彼は都会に2ヶ月間ほど戻ることになった。お針子はルオの子を宿したが当時の中国では結婚も産み育てることもできない。 マーは外国の文化にあこがれていた町の産婦人科医に自分のバイオリンと、衣服に縫いこんだ小説を与えて、お針子は堕胎の手術をうけた。手術は成功したが、お針子は二人が読んで聞かせたバルザックの小説によってすっかり人生に対する考え方を変え、祖父ともけんかしてこの村を飛び出していってしまう。 それから数十年後、お針子の行方は依然として不明である。それぞれ優秀なバイオリニストと歯科医になったマーとルオは、2人が青春時代を過ごしたあの村がまもなく三峡ダムによって湖底に沈むニュースを聞きながら、自分たちの甘酸っぱい思い出に浸るのだった。(2002年) Director:Sijie Dai Writers:Sijie Dai (novel) Sijie Dai (screenplay) Cast (Credited cast) Xun Zhou ... Little Chinese Seamstress / Kun Chen ... Luo / Ye Liu ... Ma / Shuangbao Wang ... Head of the Village / Zhijun Cong ... Old Tailor 上へ運が良けりゃ 2008/06/26 (再)2020/06/20 花のお江戸のど真ん中にある長屋。ここに住む住民は、左官職人の熊五郎と相棒の八をはじめとしてみな貧しいが、隣近所の仲はすこぶるよい。熊五郎は早くに妻を亡くし、幼い子供がおり、妹のせいも一緒に住んでいる。 時にはハメをはずしたいこともあって、みんなで千住まで飲みに行き、散々飲み食いした挙句に支払いを迫る番頭を川に突き落として逃げ帰るという連中でもあった。長屋には定期的に汲み取りにやってくる爺さんがいたが、寄る年波に、これからは息子がやってくるという。せいは喜んだ。その男が気に入っている。 その男が言うには、最近この長屋のし尿が”薄く”なっているのは、暮らし向きが悪くなったせいではないかという。家賃の支払いはどこの部屋でも滞っていた。時は天明の飢饉の頃であったから、みんな暮らしがつらかったのだ。 近くに住むお武家様が、せいに一目ぼれして自分の側室にしたいと言い出したが、せいは妾など絶対イヤだと思っていたところ、熊五郎がその武家の酒宴に招かれて酒の勢いで大暴れをしてこの話を破談にしたものだから、彼女は兄にひそかに感謝しているのだ。 この長屋の持ち主は、大きな商店を営んでいるが、ボロ長屋を解体して、もっと実入りのいい厩舎を作ると言い出したものだから、住民たちは熊五郎を中心にして一計を案じる。秋刀魚を何十匹も焼いて火事のふりをしたものだから町中大騒ぎ。熊五郎はお上にし尿をぶっ掛けたために数ヶ月牢屋に入れられてしまう。 せいたちの住む部屋の隣に住む嫌われ者の高利貸しの老婆が死んだ。自分の全財産を餅にくるんですべて飲み込み、窒息死したのだ。牢屋から帰ったばかりの熊五郎は老婆の死体を商店までかついで行って、カッポレ踊りを披露し、長屋の解体をやめさせる。 老婆の死体はそのまま火葬場に運ばれ、焼いた灰の中から飲み込んだお金を取り出した。商店の馬鹿息子が協力してくれたおかげで、熊五郎はつかまらずに済んだ。こうしてようやくせいは待望の結婚式を挙げることができることになったのだ。(1966年) ・・・資料 監督: 山田洋次 脚本: 山内久 山田洋次 音楽: 山本直純 キャスト(役名) ハナ肇(左官熊五郎) 犬塚弘(相棒の八) 武智豊子(おかん姿) 倍賞千恵子(せい) 安田伸(赤井御門守) 桜井センリ(クズ屋の久六) 松本染升(按摩の梅喜) 花澤徳衛(差配の源兵衛) 富永美沙子(八の女房とめ) 砂塚秀夫(七三郎) 番頭(藤田まこと) 上へ長崎県の沖合いにある炭鉱の島、伊王島に住む風見精一、民子夫婦は、長男の剛と長女の早苗、そして精一の父親源造の5人暮らし。精一は下請けでの仕事に嫌気が差し、独立して仕事をしたいと願っていた。そこに、北海道の中標津(ナカシベツ)に住む友達から酪農をしないかとの誘いを受けた。 農業の経験もない精一だったが、今の仕事と生活を抜け出したくて、直ちに行く決心をする。しかし民子は精一が一人で行っても挫折するだろうと思い、4月に家族全員で出発することになった。島民の見送りを受けて住みなれた島を出た彼らは、まず精一の弟、力の住む福山に立ち寄る。 力も結婚して子供がいた。工場労働者だったが一戸建てを持ち、マイカーまで手に入れていた。だが父親の源造を引き受けるほどのゆとりはない。そしてなぜ事前に自分と北海道行きのことを相談してくれなかったのかと、精一をなじった。 結局、源造を一緒に連れて行くことになった。大阪では万博が開かれており、彼らもついでに寄ってみた。だがその人ごみが災いしたのか、まだ乳飲み子の長女の早苗が体調を崩し、東京にたどり着いたところで死んでしまった。悲しみに嘆く夫婦。教会を探して葬式をあげてもらうと、火葬場から持ち帰った小さな骨箱を民子は抱えてさらに北上を続けるのだった。 北海道に入り、中標津に近づいた。長崎ではとっくに桜が咲いていたのに、まだここは雪で覆われている。ようやく牧場にたどり着くと、いよいよ生活が始まるのだった。だが、歓迎会の夜みんなの前で炭坑節を歌ってご機嫌だった源造が、その夜のうちに息を引き取っていた。 5人で出発した家族は3人になった。6月になった。雪がとけて北海道はいたるところ草花に満ち溢れている。子牛が生まれた。精一は草の刈り取りに精を出している。そして民子のおなかに新しい命が宿っていた。(1970年) 監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 宮崎晃 キャスト(役名) 倍賞千恵子(風見民子) 井川比佐志(風見精一) 木下剛志(風見剛) 瀬尾千亜紀(風見早苗) 笠智衆(風見源造) 前田吟(風見力) ・・・資料 上へ靖国 Yasukuni 2008/07/06 (ロードショーにて) 中国人監督によって造られた、靖国神社に関するドキュメンタリー映画。この話の精神的な中心は、靖国神社に奉納する刀を作る、現役最後の90歳になるおじいさんだ。監督がつたない日本語でいろいろな質問をするけれども、ことばが出ないのか、何も内容のあることをしゃべらない。政治論議の中心にいるからそのような発言は一切控えているのかもしれない。 その代わり、彼の行う作業は高齢者とはとても思えないたくましさを持っている。真っ赤に焼けた溶鉱炉の中から鉄の塊を取り出す。それを打ちたたいているうちに、見事な刀の形をなしてくる。水につけて焼入れを行い、自分の名前を入れて完成する。これは靖国神社に祭られている霊を象徴するものだといわれているのだ。彼はことばを語らずともこの無言の作業により、この政治的な問題の真っ只中にある”象徴”を体力の続く限り作り続けるのだ。 カメラは終戦記念日など、靖国神社に多くの人々が参拝する場所に目を向ける。旧軍隊の服装で大声で御霊に敬意をささげる人。台湾から兵隊にとられ、この神社に祀られたことに抗議して合祀をはずすようにと要求する中国人の人々、自分の父親が僧侶でありながら兵隊になって戦死した寺の住職の思い、などが次々に紹介される。 そして外交問題に発展した当時の小泉首相の参拝。同様に石原慎太郎東京都知事のように右翼の集まりであいさつをする人々。このような流れに抗議してその会場に飛び込み、参拝の廃止を絶叫して殴られて会場を追い出される若者。はるばるアメリカから小泉首相支援のプラカードを持ってきたヤンキー。神社の境内は政治の世界の対立がそのまま浮き出ている。 神社は明治維新以来の方針を変えるつもりはない。日本が行った戦争はすべて自衛であり、そこで戦死した日本兵は戦犯であるかないかにかかわらず、すべて英霊であるとの立場だ。”千人斬り”と称して自分の殺した中国人の数を得意になって発表した者たちも含まれる。そしてその遺族を取り込むために彼らの行為をほめ、奉る。遺族はこのため政治的に身動きができない。そしてそこへ群がる自称”愛国主義者”たち。 愛国主義者の最大の特徴は、自分の属する国を越えての想像力を働かすことが決してないことだろう。これはどこの国の愛国主義者にも共通していえることである。だから南京の虐殺も、慰安婦も”存在しない”のである。小泉(元)首相は”自分の信念を持って何が悪い”といって譲らない。彼らの最大の特徴は”被害者の立場”には一切たつことがないということであろう。(2007年) Director:Ying Li Writer:Ying Li (writer) Cast (Credited cast) Naoharu Kariya ... Himself / Junichiro Koizumi ... Himself 上へ1936年2月26日に起こった226事件のを追う。東京の青年将校の間に、不満が高まっていた。当時の極右の思想家たちによる政治の腐敗、大企業の専横、国民の窮乏に直面し、それをなんら有効な手をうとうとしない政府首脳部と財界に対しての非難が彼らの胸にも響いていたのだ。彼らは昭和維新を企てる。 慎重派の意見をよそに若さによるためか将校たちは血気にはやり、それぞれの部下たちを率いて26日の雪の夜、出動した。行き先は永田町の政府中枢部と、首相官邸など大臣の住居である。十分な武器弾薬の準備をしていたため、占拠はスムーズに行った。大臣、重臣の多くを殺したが、岡田首相は襖(ふすま)の中にうまく隠れ、命が助かった。 はじめ、陸軍首脳部は、陸軍大臣布告と称して、将校たちを懐柔するかの姿勢を見せた。しかしこれは単なる時間稼ぎであり、天皇への上奏もしないまま、陸軍と政府首脳はいかにして彼らを壊滅させるかに腐心していた。 占拠から2日、3日たち部下の中には空腹を訴え、なぜこのような挙に出なければならないのか不満を漏らすものも出てきた。将校の一部には彼らを原隊へ帰すものも現れた。将校の多くはまだ強気だったが、岡田首相が無事だったことを知り、自分たちがこもっている山王ホテルの周りは陸軍によって包囲されているのを聞き及び、次第に動揺の度を高めていく。 陸軍はバルーンを上げたり、ビラをまいたりして、ついてきている部下たちの原隊復帰を呼びかけた。多くの将校たちは若い妻がおり、幼い子供がいて家庭を作り始めたばかりだった。このため将校たちの中にあせりの色が濃くなり、ついに一人二人とホテルを出て行った。リーダー格はピストル自殺をしたが、残りは軍法会議にかけられて結局全員銃殺される。(1989年) 監督: 五社英雄 原作: 笠原和夫 脚本: 笠原和夫 音楽: 千住明 キャスト(役名) 芦田伸介(鈴木貫太郎侍従長海軍大将)新克利(武藤章中佐)有森也実(丹生すみ子)石橋保(林八郎少尉)うじきつよし(中橋基明中尉)梅宮辰夫(山王ホテル支配人)大和田伸也(小野木伍長)沖田さとし(対馬勝雄)小野寺昭(広幡忠隆侍従次長)賀来千香子(香田富美子) H O M E > 体験編 > 映画の世界 > コメント集(37) © 西田茂博 NISHIDA shigehiro |