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今年見た映画(2000年) Falling in Love 恋におちて(再) 2000/01/15 : 2005/05/15 : 2009/03/30 : 2023/03/06 このシンプルな映画を見るのはもう何回目だろうか。フランス映画に「男と女」(1966年)があるが、もしかしたらこれを念頭に置いて作られたのではないか。最後のシーンが共に鉄道のホームである。 既婚の男と女がニューヨークの通勤列車で恋に落ちてしまう話で、一見他愛ないと思われるが、なぜそんなに引きつけるのか。答えは、彼らの「外側の世界」には愛がないからだ。まわりの友だちは離婚したり、空疎なセックスを繰り返すかしている。男の妻が、「There's no love any more.(愛なんかどこを探してもないのよ)」と口走る場面があり、これを象徴している。 ストーリーはシンプルで、セックスシーンもなく、プラトニックな恋なのに、いやそのためなおさら二人の間の純粋な気持ちが強調されるのである。最後の場面で、通勤列車の中で抱き合うところで終わっているのが何ともいい。それにしてもこの恋は、実生活でも経験することであるが、「偶然」の要素は非常に大きい。 モリーは医者の夫を持ち、郊外に住んでいる。病気の父親を見舞ったり、鉄道でマンハッタンへ商業アートの仕事で出かけている。フランクは妻と二人の息子を持つ建設会社の監督で、大きなビルの現場にいるが、たまたま彼の車が故障して鉄道で通勤することになった。 クリスマスイブの日、二人は5番街と6番街の間にある、 Rizzoli という本屋で混雑の中でお互いにプレゼントのために買った本を取り違えて持って帰ってしまう。偶然は二人をそれから再び会わせる。お互いに好感を持ったため、いつの間にかデートを重ねるようになった。二人は親しさを増してゆくがまさに愛し合う運命にあったのだといえよう。 父親の入院を機にモリーは自分の恋の行方に一瞬ためらいを感じるが、かえってそれは愛を深めることになる。フランクの友だちのアパートに忍んだ二人は体を結ぶことはなかったけれども、かえってそれが純粋な気持ち高まっていったのだった。 やがてモリーの父親が死に、しばらくの間二人の間の音信は途絶えた。フランクは妻に自分に起こった出来事をうち明けて別居生活にはいることになった。フランクはかねてから上司から言われていたヒューストンへの単身赴任を引き受けたのだった。 家の整理をして出立の日、たまらずフランクはモリーの家に電話をかけて一目でも会いたいという。夫の止めるのも聞かずに豪雨の中を車で飛び出したモリーは猛スピードで遮断機の下りかかった踏切へ突進したが、激突寸前で急停止し、車のエンジンも動かなくなってしまった。 それから一年後、これまで住んでいた家の売却のためにクリスマスの日にニューヨークへ戻ったフランクは渋滞の中、タクシーを降りて再び Rizzoli の店内に入る・・・(1984年) しかしこのストーリー全体があまりに偶然に恵まれすぎているとはいえないか。普通の恋人たちのことを考えるとばかばかしくなるほど、幸運に恵まれている。何度勇気を奮って行動してもうまくいかなかった人から見るとやはり現実離れしているかも。それでも登場する男と女の純粋性が前面に出ているために、この映画には価値があるのかもしれない。➡資料 Directed by Ulu Grosbard; Writing credits Michael Cristofer ; Cast; Robert De Niro .... Frank Raftis ; Meryl Streep .... Molly Gilmore ヒアリング:聞き取りやすいなめらかなニューヨーク標準英語 上へMoby Dick 白鯨 01/22/00 あまりにも有名な海洋小説の映画化だが、実によく映画なりの世界を作り上げ、最後までスクリーンから目が離せない。船出をするとき、捕鯨船を見送る女たちの虚ろな表情。 船上でのエイハブ船長の持つすさまじい迫力。白鯨を殺すことに憑かれた船長が、乗組員を巻き添えにして海底の藻屑になるすさまじさ。44年前の作品なのに、「ジョーズ」をはるかに上回る緊張感を持ち、コンピュータグラフィックもないのに、臨場感を実によく出している。 そしてグレゴリー・ペックのエイハブ船長役が実にぴったりではないか。彼は恋愛映画だけかと思ったらとんでもない、この映画での執念の男を見事に演じている。 Directed by John Huston ;Writing credits Herman Melville (novel) Ray Bradbury Cast : Gregory Peck .... Captain Ahab / Richard Basehart .... Ishmael, Narrator / Leo Genn .... Starbuck James Robertson Justice .... Captain Boomer Harry Andrews .... Stubb, second mate Orson Welles .... Father Mapple 上へThelma & Louise テルマ&ルイーズ 2000/01/31 : 2004/03/14 (再)2024/02/20 テルマは、郊外に住む専業主婦だが、夫のダリルとの息苦しい生活にもううんざりしている。そこへ降ってわいたのがウェイトレスをしている友だちルイーズと山荘に息抜きをする話だった。彼女は長い主婦の生活で世間のことを知らない。これに対してルイーズの方はレストラン勤めでかなり苦労してきた。 テルマは出発の日までダリルに旅行のことを告げる気がない。どうせダメだと言われるに決まっている。結局書き置きをして出てきてしまった。そしていつもは触れることすらしない護身用のピストルを持ち出してきた。これが運命の始まりである。 ルイーズの車に乗って出発したが、ドライブそのものが珍しいテルマはあちこちに立ち寄りたがるので、目的地に着く前に暗くなってしまった。Silver Bullet (銀の銃弾)という大きな駐車場のあるレストランで二人は食事をとることにした。 このレストランにいた男は女癖が悪く、調子に乗っているテルマに近づいてきた。そしてルイーズの牽制にも関わらずテルマにしたたか酒を飲ませダンスに誘うのだった。ダンスの激しい回転で気分が悪くなったテルマはその男に駐車場まで連れていってもらった。 もちろん下心は丸見えなのだが、テルマは気がつかない。危うくレイプされるところをルイーズに見つかった。ルイーズは銃で脅したのだが、それでも平気でわいせつな言葉をはく男にカッとなった彼女は心臓めがけて引き金を引いてしまった。 テルマは気が動転していたが、ルイーズはまず現場からできるだけ遠くまで離れることを考えた。警察に届けても男は死んでしまっている以上、正当防衛であることを信じてもらえないだろうと二人は考えた。とにかく逃げるしかないのだ。 モーテルに泊まり金が不足しているので、ルイーズのボーイフレンド、ジミーに金を送ってもらうことになった。オクラホマ・シティーで送金を受け取るはずだったが、そこには異常を感づいていたジミーが金を持って自ら来ていた。 一方テルマは、途中で乗せたヒッチハイクの大学生、JDと仲良くなってしまう。ルイーズがジミーとモーテルの部屋に泊まり、テルマが一人で夜を過ごそうとしていると、豪雨の中をさっき別れたはずのJDがドアの所まで来ていた。 テルマはJDを部屋の中に入れその夜は楽しく過ごす。だが、翌朝ちょっと目を離した隙に大金はJDと共に消え去っていた。今度はルイーズが動転してしまった。だが、テルマは前の晩JDに教わった「紳士的強盗」の方法を地方の雑貨屋で試みる。結果は大成功でもう金の心配はなくなったが、これで殺人容疑のほかにれっきとした強盗の罪が二人に加わることになった。 Silver Bullet での殺人事件を担当したのがハルという刑事であった。彼は次々と手がかりを追い、この二人が男を殺したのだと結論づける。そしてダリルを電話機の前に座らせてテルマからかかってくる電話を待つことにした。 二人はメキシコに逃れることを考えた。だが途中のテキサスではルイーズにとっての暗い思い出があり、そこを通らずに行きたい。かくして大回りのコースをとることになったが、それが警察の追跡をも難しくした。 途中スピード違反でパトカーに捕まるが、逆に警官をトランクルームに閉じこめてしまう。しかも銃を新たに確保した。猥褻な言葉をはくトラック運転手に何度もからかわれた後、彼のトラックを銃撃して炎上させる。 そしてルイーズの電話によってハルたちについに逆探知された。荒野をパトカーの大集団が二人の車を追跡する。長旅で二人はたくましくなりパトカーを振り切るほど運転もうまくなった。そして何よりも二人にとってこれは「人生最高の旅」となったのだ。二人はこのときほど自分たちが「生きている」ことを実感したときはないと思う。ヘリコプターが姿を現し、目の前に巨大な峡谷が広がっていた・・・ 初めて横浜の映画館で見て以来、ヒアリングの最高の教材となっている。レイプされそうになって男を射殺し、そのあと強盗などを重ねて、最後に崖から飛び降りるという、女性版の「俺たちに明日はない」や「夕日に向かって撃て」でもあるが、スケールはこれらに劣らず大きいし、彼女らのシンプルな考え方がいい。 パトカーの警官を銃で脅しながら、「 You be sweet to'em, especially your wife. My husband wasn't sweet to me and look how I turned out.(あんたの奥さんには優しくしてやりなよ。あたしは優しくしてもらえなかったからこうなったんだ)」と口走るところなど、変な理論で武装しているわけでなく、直接的な感情が素直にあらわれているのだ。 (1991年)➡資料 Directed by Ridley Scott/ Writing credits Callie Khouri / Cast : Susan Sarandon .... Louise Sawyer / Geena Davis .... Thelma Dickinson / Harvey Keitel .... Hal Slocumb / Michael Madsen .... Jimmy / Christopher McDonald .... Darryl / Stephen Tobolowsky .... Max / Brad Pitt .... J.D. リスニング:かなり高度だが、練習には最適。 上へそよかぜ 00/02/03 照明係の女の子がまわりの優しいお兄さんたちに助けられて「スター誕生」をするまでの物語。 終戦の年の作品だが、主演の並木路子自身も、その年の3月に空襲で母を亡くし、どうしても明るい声で歌えなかったけれど、上野駅にいる親をなくした靴磨きの子らを見て、その気持ちを心に入れて歌うようにと、作曲した万城目氏に言われたのが、あの「 リンゴの歌」だ。 戦争の終わった年で、日本中焼け野原だらけだったのだが、こんな映画が作られたということは、制作者たちは精神的に少しも負けていなかったのだろう。(1945年・松竹) 監督:佐々木康 脚本:岩沢庸徳 出演:上原謙/佐野周二/斎藤達雄/並木路子 上へ羅生門 00/02/07 (再)2018/10/02 雨の降りしきる羅生門。崩れ果てたその門で焚火をしている3人がいた。木こりの男、旅法師、下人たちだ。三人は最近、山の中で起きた殺人について話を始める。たまたま木こりは目撃者だった。 京都の山中を行く夫婦者の前に現れた山賊、多襄丸(タジョウマル)。夫の目の前で妻は山賊に手込めにされ、夫は殺される。だが、韓非遺使(ケビイシ)の前での証言は(死んだ男も巫女の口を借りて)、みな自分の立場から語るので、まるで内容が食い違っている。 山賊は自分が女の夫の綱を解き、正々堂々と戦った末に殺したのだと豪語する。女は、手籠めにあった後、夫が自分を冷たい目をしてみるので、自分が捨てられるのだと絶望して、無意識のうちに夫を刺し殺してしまったのだと語る。殺された夫は、妻になじられ、恥のあまり、自分の胸を突いて死んだのだという。だが、第一発見者である木こりの男が実は、一部始終を見ていて、関わり合いになりたくないから黙っていたのだった。その話によれば、手籠めにされた女は、自分の夫からも、山賊からも見捨てられ、絶望したかに見えたが、女の強さを見せて二人をあざ笑い、互いに殺し合うように仕掛ける。男たちは泥仕合の末、夫は山賊の刺殺された。これが真相であるらしい。 最後の目撃者の証言を見れば、当事者3人ともエゴと疑心暗疑の固まりだったことがわかる。役者それぞれの持ち味を生かした、迫力満点のドラマだ。特に京マチ子のめまぐるしく変わる表情の変化がすごい。妖しい女も、惨めな女も同時に演じてしまう。 (1950年・大映)➡資料 監督 ...黒澤明 助監督 ...加藤泰 若杉光夫 田中徳三 脚本 ...黒澤明 橋本忍 原作 ...芥川龍之介 配役 多襄丸 ...三船敏郎 真砂(妻) ...京マチ子 杣売(キコリ) ...志村喬 金沢武弘(夫) ...森雅之 旅法師 ...千秋実 下人 ...上田吉二郎 巫女 ...本間文子 放免 ... 加東大介 上へ麦秋(再) 00/02/10 (再)2024/01/22 もうこれを見るのは何回目になるだろう。最初に家族3代の暮らしが描かれるとき、オルゴールの「埴生の宿」がバックグラウンドに流れる。だが娘の結婚を機に、子供がけ飛ばして割れてしまった食パンが象徴的に表しているように、バラバラの暮らしになってしまう。 人は年老い、子供は成長して家族の姿は次々に移り変わってゆくわけだが、それがいかにも自然に流れてゆく。このような展開は、文字でなく、やはり映像によって可能なのだ。娘が嫁いでゆくと知ったときの父親の「ハーッ」というため息は<晩春>の場合と同じだ。 監督:小津安二郎 脚本:野田高悟/小津安二郎 出演:原節子/笠智衆/東山千栄子/佐野周二/淡島千景/三宅邦子/杉村春子/井川邦子/二本柳寛 上へThere's Something About Mary メリーに首ったけ 00/02/11 ストーカーと本当の恋はどうやって区別したらいいんだろう。本当に好きなのに、ストーカー扱いされるなんてとても悲しい!いい女がいて、男たちが探し求め、知恵を絞り、相手を出し抜こうとして躍起になるのは当たり前のこと。 このストーリーのメリーはすてきな女の子だが、知的障害の弟がいて、分別があり、それでいて不思議なほど素直だ。現代映画に多いセクシータイプとはまた違った新しいイメージを持っている。 高校の時に彼女と知り合った「不器用な」男は、13年後でも忘れられず、マイアミまで探し求め、最後にハッピ-エンドとなるが、単なるドタバタ喜劇になっていないのがいい。シンガーソングライターのジョナサン・リッチマンの歌が画面の中でギターの伴奏で入る、楽しい映画。(1998年) Directed by Bobby Farrelly Peter Farrelly Writing credits Ed Decter & John J. Strauss Cast : Cameron Diaz .... Mary Jensen Matthews / Matt Dillon .... Pat Healy / Ben Stiller .... Ted Stroehmann / Lee Evans (I) .... Tucker Norman Phipps / Chris Elliott (I) .... Dom Woganowski / Lin Shaye .... Magda ヒアリングーかなり聞き取りやすく、単純なセリフ 上へCitizen Kane 市民ケーン 02/14/00 民主主義は3権分立が建前だが、4権分立といわれることもある。それはジャーナリズムが他の3つに対して対立的な立場をとることがあるからだ。だがこれが強くなりすぎて、民衆を扇動したり、戦争を起こさせたりするようでは困る。 ケーン(実在したハーストだといわれる)はその代表格だったのだ。権力者の名にもれず、孤独な私生活、強引さ、人を徹底的に利用する態度、金に任せた生活、などが元妻や同僚たちの話から次々に明らかになってゆく。 特に死の直前に口走った、「バラの蕾 (Rose Bud) 」というのが全編を通じての暗号となる。それは少年時代の家庭生活の象徴である「橇」のことだったのだ。(1941年) Directed by Orson Welles Writing credits Herman J. Mankiewicz and Orson Welles Cast : Orson Welles .... Charles Foster Kane /Joseph Cotten .... Jedediah Leland *Newsreel Reporter /Dorothy Comingore .... Susan Alexander / Agnes Moorehead .... Mrs. Mary Kane / Ruth Warrick .... Emily Norton Kane ヒアリングーナレーションは時代がかったニュース英語調 上へBeneath the Planet of the Apes 続・猿の惑星 02/15/00 (再)2012/12/30 : 2020/11/30 最初の傑作「猿の惑星」の続編。原題は「猿の惑星の地下に」となる。多くの続編の例に漏れず、どうしてもレベルは落ちてしまう。ましてや地下に核兵器を持った人類がすごんでいるという設定には無理があろう。しかし、軍国主義者の台頭やどうしようもない人類の攻撃性や破滅志向については実に興味深い寓話となっている。 テイラーは若い女ノバとともに海岸をゆき、そこに倒壊した自由の女神を発見したのが前回の作品の終わりだったが、そのあと二人は”無人地帯”としてサルたちが立ち入りを禁じられている、岩山の中に入っていった。テイラーは忽然と姿を消すが、残されたノバは、地球からテイラーを探しにやってきて近くに不時着したブレントと出会う。 ブレントはノバとともに、テイラーを探し回るが、サルたちにつかまってしまい、彼らの中の特にゴリラが無人地帯への侵略を計画していることを知る。脱出したブレントらは、地下の洞穴が、ニューヨークの地下鉄の駅(Queensboro Plaza)だったことを知り、核戦争でこの町が滅びたことを知る。 中に入ってゆくとそこに、奇妙な人々が住んでいた。爆弾を神とあがめ礼拝をおこない、特別な仕掛けでサルたちを近づけないようにして、ずっと地下生活を続けていたのだ。だが、無防備な彼らの生活は、サルたちの侵略によって終わりを告げることになる。かれらは、自分たちの手元にある”最終爆弾 Doomsday Bomb にスイッチを入れた…。しかし、彼らの愚かさも、福島原発事故の後にしてみれば、身にしみてよくわかるのであるが… 第1作があまりに偉大なため、2作目を作るときにはアイディアが枯渇し破れかぶれになったのではないだろうか。とにかく、主人公のテイラーも、連れの女ノバも、あとから別のロケットで不時着したブレントもみんな猿との闘いで殺され、最後に「最終爆弾」が炸裂して、今度こそ地球は跡形もなく消滅する。(1970年)・・・資料 Directed by Ted Post Writing credits Paul Dehn (story) Mort Abrahams Cast: James Franciscus .... John Brent / Kim Hunter .... Dr. Zira / Maurice Evans .... Dr. Zaius / Linda Harrison .... Nova Paul / Richards (I) .... Mendez ヒアリングーセリフが単純で聞き取りやすい 上へÁ Bout de Souffle 勝手にしやがれ 2000/18/02 : 2005/09/27 : 2011/01/30 : 2020/12/23 : 2023/12/07 フランス語の原題は「へとへとに疲れて」、英語での題名は「息がつけずに Breathless」なのだが、日本名も的確に内容を表していてなかなかいい。パリのごろつきみたいなのが、警官を射殺して追われつつも、あるアメリカ女に惚れてしまうが、なんかもう「疲れて」しまって、背後から刑事にピストルを撃たれて死ぬ。 ヌーベル・バーグの先駆けと言われているが、特に難解な作品でもない。男と女の会話に耳を澄ますと、相手が聞いていようといまいと、勝手にしゃべっているのがわかる。それでいて互いに惹かれてゆく。 ミシェル・ポワカールはたちどころに路上駐車している車のエンジンをかけて盗んでしまう。とにかく憎めないチンピラである。マルセイユから盗んだ車でパリから田園に向かったミシェルはスピードを出しすぎ、追いかけてきた白バイの警官を射殺してしまった。パリに戻ると、貸した金を取り立てに行くが、相手がなかなかつかまらない。 昔の女に金を借りようとしたが、小額しか”盗め”なかった。ミシェルにはニースで知り合った惚れている女、パトリシアがいる。アメリカ娘でフランスの大学に在籍して、かたわらシャンゼリゼの路上で新聞(今はなき New York Herald Tribune 紙)売りをしている。そしていずれは新聞記者になりたいと思っている。 パトリシアはミシェルに惹かれてはいるが、いまひとつ不安があり、深い関係に入る決断がつかない。だが、ミシェルはパトリシアが一緒に寝てくれないからといって、レイプしたり、暴力を振るったりは決してしない。ひたすら説き伏せる。スエーデン・ホテルの狭い部屋での、二人のやり取りで、互いの心の動きを垣間見ることができる。男と女の会話というものを見事に描写している。 パトリシアは記者見習として、空港で有名作家にインタビューする。作家の返答に「アメリカでは女が男を支配している」というセリフが含まれているが、そのとおりで、だから逆説的にレイプが頻繁に起こる。 ところがフランスでは、男と女の関係は尻を触ったり、スカートをまくったりはしても、決して(まだ?)支配的、被支配的なものでない(のかもしれない)。また、あなたの最大の野心は?と聞かれてこの作家は「不老不死になって死ぬこと」などと応えたりもしている。 ミシェルを追う警察は次第に捜査の網をせばめ、パトリシアは一緒にいるところを見られ、刑事からミシェルを見かけたら直ちに通報するように言われる。だが惚れた女は男をかくまおうとした。 だが、パトリシアは隠れ家にたどり着いたところで、ミシェルの居所を警察に通報する。部屋ではモーツァルトのクラリネット協奏曲が流れる中、男に自分が通報したことを告げるのだ。彼女は決して噓をつかない。パトリシアのそのときの心の動きはすべて、観客の想像に任されている。 路上で警官に撃たれ、虫の息のミシェルが薄目を開けてパトリシアを見上げて、最後に「(おまえは)最低だよ」とつぶやく。「最低」の意味のフランス語をパトリシアは聞き取れていない。そのあと女の顔が大写しになるが、セリフはない。監督はここでも観客に、男と女の心理を想像させたがっているのだ。(1960年)・・・資料 Directed by Jean-Luc Godard Writing credits Jean-Luc Godard Cast: Jean-Paul Belmondo .... Michel Poiccard alias Laszlo Kovacs / Jean Seberg .... Patricia Franchini リスニング;フランス語。パトリシアはアメリカ人で、フランス語が流ちょうであるが、ヤクザ言葉はわからない設定になっている。メリハリの利いたセリフ 上へWitness 刑事ジョンブック;目撃者 02/20/00 アメリカには、「アーミッシュ」という、質素な生活を尊ぶキリスト教の宗派が、ペンシルベニア州を中心に住み着いている。非暴力をつらぬき、文明の利器、たとえば TV、自動車を使わないで馬車を利用するのが主流派である。 その一員である女レイチェルの息子が殺人事件を目撃してしまうのだが、それがジョンの属する、彼の上司も含めた警察内部の腐敗から生じていたために、命を狙われることになる。 負傷した彼をかくまったのはレイチェルと、義父だが、ジョンは自分が住んでいた「文明社会」とはあまりに違う生活にとまどいつつも、いつしかレイチェルに恋をしてしまう。最後に事件は解決するが、二人は一緒になれるだろうか・・・ アメリカという国は懐が広い。世界の文明の最先端をいきながら、同時にその国の中に永続的な宗教集団がいくつも存在し、その浪費文明とは全く関係のない生活を営々と続けているのだ。(1985年) Directed by Peter Weir Writing credits William Kelley (also story) Cast: Harrison Ford .... John Book / Kelly McGillis .... Rachel / Josef Sommer .... Paul Schaeffer / Lukas Haas .... Samuel / Jan Rubes .... Eli Lapp / Alexander Godunov .... Daniel Hochleitner ヒアリングー刑事の英語はくずれて分かりにくいが、アーミッシュの話は分かりやすい 上へEscape from the Planet of the Apes 新・猿の惑星 00/02/24 : 2020/12/01 「猿の惑星」シリーズ第3弾。こうなったら全5作を見てしまわずにはいられないだろう。第2作が期待はずれだったのに対し、今回の作品は、死んだ者たちを乗り越えて進んでゆく「歴史」をよくとらえていて、なかなか優れている。大河ドラマの輪郭が見えてきた。 猿の惑星に住んでいた学者夫婦の猿たちはテイラーが乗ってきた宇宙船を修理して操縦できるようになっていたが、前回の地球の消滅の衝撃のおかげで、1970年代の人間社会に吹き飛ばされ、最初の作品でのテイラーたちと全く逆の立場に置かれてしまう。 話ができる猿の存在は大ショックを起こした。それでもアメリカ社会の人気者となり、最初は動物園だったのが、ホテルに引っ越しして、粋な服まで作ってもらい、テレビにも出演した。 だが将来に自分たちを支配する生物を面白がってみている人間たちだけではなかった。猿たちが口を滑らせたことから、未来の地球が猿によって支配され、人間が解剖されたり、奴隷にされたり、口がきけなくなったりする状況が明らかになるにつれ、猿たちを抹殺すべきだという人々が出てきた。しかもジーラは妊娠していたのだ。 猿たちは尋問を受け、待遇に怒った彼らは脱走する。追い詰められ、猿たちは生まれたばかりの小猿もろとも撃ち殺される。これで人類は安泰だと思われた…だが、サーカスの檻の中にはもう1匹の小猿が「ママ、ママ」と言葉をつぶやいていた・・・ このシリーズは最初の作品での チャールトン・ヘストンに始まり、主役が次々とバトンタッチされ、壮大な叙事詩になっているのが大きな魅力だ。これに高速で飛ぶロケットによるタイムマシン効果が加わる。(1971年)・・・資料 Directed by Don Taylor Writing credits Paul Dehn Cast : Roddy McDowall .... Cornelius / Kim Hunter .... Dr. Zira Bradford / Dillman .... Dr. Lewis Dixon / Natalie Trundy .... Dr. Stephanie / Branton Eric Braeden .... Dr. Otto / Hasslein William Windom .... The President / Sal Mineo .... Milo H O M E > 体験編 > 映画の世界 > コメント集(4) © 西田茂博 NISHIDA shigehiro |