映画の世界

中国・台湾・香港の映画

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激動の国、若い国、発展する国には、優れた映画作品が出てくる。映画はその社会の活気と矛盾を映す鏡の一つなのだ。北京語、広東語を中心とする漢字文化圏もその例に漏れない。一見荒削りな作品群の中に、光るものあり、将来への希望にあふれるものあり。

  1. 芙蓉鎮 Fu rong zhen (ふようちん)
  2. 卧虎藏龍 Crouching Tiger, Hidden Dragon グリーン・デスティニー
  3. 摇啊摇 摇到外婆桥 Shanghai Triad 上海ルージュ
  4. 新上海灘 San seung hoi taan上海グランド
  5. 冬冬的假期 Dongdong de jiaqi トントン(冬冬)の夏休み
  6. 覇王別姫 Farewell to my Concubine さらばわが愛
  7. 英雄本色 A Better Tomorrow 男たちの挽歌
  8. 靖国

芙蓉鎮 Fu rong zhen

中国に芙蓉という町(県の下に置かれる行政区を鎮という)があった。1963年、露天商をしているヒロインの玉音(ユーイン)は夫とともに屑米から作った米豆腐の売れ行きがよく、自宅を新築する。

だが、うりざね顔で美人の誉れ高い彼女は、独身のガチガチ女である革命委員会の幹部ににらまれ、町にいられないようにされてしまう。この町にも文化大革命の波が押し寄せてきたのだ。

彼女は親戚のところにも長居はできず戻ってきたものの、夫は女幹部の暗殺を企てて消され、「富農」の烙印を押されて家を取り上げられ、預けた金も横領され、寺のゴミ掃除をやらされる。

一緒に掃除をしたのが、党から追放されたウスノロ陳で、地位や名誉を求めず、まわりからは馬鹿にされるが常に自分を失わない、そして生活を楽しむことのできる男であった。いつしか二人は愛し合い、彼女は妊娠する。

だが、自身も一時紅衛兵につるし上げられたこともある女幹部はここでも二人をいじめ、陳は懲役10年を申し渡されてしまう。「死ぬな、牛や馬のように生きろ」というのが陳の彼女へ残した言葉だった。

1979年、革命の嵐は収まり、陳は故郷に戻る。家や金も還付され、生まれた息子と共に三人はやっとまともな家庭生活を送ることができるようになった。陳をはじめとして、良心を貫いた者たちは、辛いながら、この10数年を何とか生き延びた。革命のお先棒を担いで、幹部になった者もいたが、時が経ってみると惨めな境遇に逆戻りしていた。大河ドラマ的な傑作である。(1984年)

Directed by Jin Xie Writing credits A. Cheng Jin Xie Cast : Wen Jiang .... Qin,shutian / Linian Liu .... Li, Guigui / Xiaoqing Liu .... Wu, Yuyin ヒアリングーすべて中国語(北京語)だが、中国語を習っている人には理想的な、ゆっくりはっきりした発音だ。

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Crouching Tiger, Hidden Dragon グリーン・デスティニー・卧虎藏龍 (wo hu cang long) 

Crouching Tiger, Hidden Dragon 長いタイトルではある。直訳すれば「身をかがめる虎、隠れている龍」である。英語の題名は中国語の原題にほとんど忠実だが、日本でのタイトルは「緑の(碧の?)運命」である。

剣の使い手ムーバイは、自分の師を、妹弟子の碧眼狐(ビーアヘイ)に毒薬で殺された。だが敵討ちのむなしさに気づき、一度は自分の持っている優れた古来の名剣を手放そうとするが、譲り渡した知人の家から何者かに盗まれて、再びこの剣を取り戻すべく北京にやってきた。

心の底で密かに思いあっている女性剣士シューリンの助けを借りて、犯人は近くの長官の娘イェンであり、それをうしろから操っていたのはイェンの世話役を務めていた碧眼狐だと知る。

イェンは、天性の才能と、碧眼狐から受けた訓練によって、すさまじい能力を身につけていた。だが、性格的に曲がっており、ムーバイが自分の弟子になるようにとの薦めも受け付けず、傍若無人な振る舞いを続ける。

しかも、かつて旅行中に出会った盗賊団の首領ローと恋に落ち、親の勧める官僚との結婚にも気が進まなかった。シューリンが姉代わりになってローと結ばれるように取りはからっても、かえって腹を立てて、シューリンに戦いを挑む。

ムーバイは、イェンを追って山深く入るが、そこには碧眼狐が待ち受けていて、ムーバイは仇を討つことはできたが、自分の師と同じ毒薬を体に受けて、シューリンの手に抱かれたまま命絶える。イェンも、ローのところに会いに行くものの、碧眼狐にだまされた上、ムーバイを死なせてしまったことで自分も身を投げてしまう。

スケールの大きい中国大陸を舞台にした物語になっており、剣やカンフーの戦いの場面もスリル満点ながら、官僚的な漢民族、武芸の世界に生きる人々、西域の荒野に住む少数民族が織りなす、多数の登場人物と、広大な大陸の風景をバックに展開した構成は、久々の大作である。(2000年)

Directed by Ang Lee Writing credits (WGA) Du Lu Wang (book) Hui-Ling Wang (screenplay) Cast: Yun-Fat Chow .... Master Li Mu Bai / Michelle Yeoh .... Yu Shu LienZiyi / Zhang .... Jen Yu (Mandarin version) * Xiou Long (English dubbed version) / Chen Chang .... Lo 'Dark Cloud' (Mandarin version) * Xiou Hu 'Dark Cloud' (English dubbed version) / Sihung Lung .... Sir Te (Mandarin version) * Be-La-Ye (English dubbed version) / Pei-pei Cheng .... Jade Fox (Mandarin version) * Be-Ah-Hui 'Jade Fox' (English dubbed version) / Fa Zeng Li .... Governor YuXian / Gao .... Bo (Mandarin version) * Yo-Shi (English dubbed version) リスニング;北京語だが、驚くほど明瞭でわかりやすい発音、単語もやさしい。

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上海ルージュ Shanghai Triad 摇啊摇 摇到外婆桥 (Yao a yao yao dao waipo qiao)

上海ルージュ 中国の鬼才、イーモゥ監督の作品。まだ14にしかならない唐家の少年シュエシュン(水生)は、田舎から上海の同じ唐家に属するおじさんを頼って、中心街ブンドに着いたばかりだ。おじさんについて仕事を習い、いずれはこの大都会で出世をしたい。

だが、おじさんは、この町を牛耳るマフィアの幹部だったのだ。シュエシュンは早速ボスの愛人で歌姫であるチンパオ(金宝)の世話係をさせられる。

チンパオは、わがままを絵に描いたような女で、ボスに隠れて恋人を引き込むわ、クラブの舞台ではほかの女たちに対して威張りくさるわ、シュエシェンはただ呆然と眺めるばかり。しかも田舎者ということでドジの連続だ。

それでも3日目ぐらいになってようやくまわりの様子がつかめるようになってきた。マフィアたちの抗争、連日の会議、周りを取り囲む女たち、とシュエシュンは次第にこの世界になじんでゆく。

ところが4日目の夜、チンパオの館で大変な物音がして、シュエシュンが駆けつけてみると、自分のおじさんが抗争相手に無惨にもナイフで引き裂かれていた。相手グループのボスは、おじさんたちのグループが上海を牛耳っているのを好ましく思わず、乗っ取りをたくらんでいるのだ。

敵に見つけられないように、ボスはいやがるチンパオを連れて、上海から離れた小島に避難する。周りは厳重に監視され、シュエシュンたちはろくに外にも出られない生活が始まる。

真っ先に退屈を感じたのは、都会暮らしに慣れきったチンパオだ。自分たちの食事を作ってくれる島の土着の母娘と親しくなる。娘はまだ10歳ぐらいだが、とてもかわいくて歌もうまいので将来はチンパオのようになりたいと思っている。

だが、上海から刺客がやってきて、シュエシュンは、男たちがチンパオとボスを殺す計画を話し合っているのを立ち聞きしてしまう。大急ぎで二人に伝えるが、すでにボスはその計画を知っていて、裏切った男を処刑することにした。

だが、おしゃべりなチンパオが母娘と親しくしていたので、マフィア全体の秘密が漏れることを防ぐために、その母親も、隣村から夜這いに来ていた婚約者も、犠牲になる。そしてチンパオ自身も、ボスは前から恋人が彼女のもとに出入りしていたことを知っていて、チンパオも一緒に処刑される。

翌朝、チンパオを救おうと突っかかっていったシュエシュンはお仕置きのために、上海に戻る船のマストから逆さまにつり下げられ、その横には何も知らない幼い娘が心配そうに見つめているのだった。(1995年)

Directed by Yimou Zhang Writing credits Bi Feiyu Li Xiao (novel) Cast :Li Gong .... Xiao Jingbao / Baotian Li .... Tang, the Gang Boss / Wang Xiaoxiao .... Shuisheng, the boy / Xuejian Li .... 6th Uncle / Sun Chun .... Song, Tang's No. 2 / Biao Fu .... Tang's No.3 リスニング:北京語、せりふは明快で、とても聞き易い。

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上海グランド 新上海灘 San seung hoi taan

上海グランド時は1935年。日本軍が満州へ侵略を開始し、中国各地では抗日運動が激化しつつあった。折から台湾の抗日運動員のひとり、アーハンは、同志と共に貨物船に幽閉され、残酷な拷問を受けていた。

次々と同志たちが、怒り狂った女尋問官に機関銃で殺される中、猛烈な嵐の中を海中に飛び込んだ。彼の運はついていた。彼の目の前には上海のバンド地区がかすんで見えたのだ。

海岸公園に倒れていたアーハンを発見したのは、町の汲み取り屋リクだった。下町のチンピラ仲間はアーハンのピストルを取り上げようとするが、リクは自分の母親に、彼に食事を与えるように頼む。

リクは、上海の町で、何とか頭角を現そうとあがいている。この時期の上海ではギャング抗争が派手に展開し、有望なボスのもとにつけば、何とかなるかもしれない。

たまたま通りかかった黒塗りの乗用車に乗っていた娘、ファン・チンチンに一目惚れしたリクは、たまたま誘拐しようとしたちんぴらのボスを追いかけて彼女を無事助け出す。

家へ帰ってみると自宅が火事だった。ボスを怒らせたためらしい。母親がいない。まず助からないと思っていた矢先、アーハンがリクの母親を担いで炎の中から現れた。

リクはアーハンと兄弟のように助け合うことを誓う。二人は火を付けたボスのアパートに乗り込み、幹部を殺す。リクの名は一躍有名になり、ビジネスとギャング界にのし上がっていく。

ひげを生やし、映画館を経営するほどになったリクだが、ファン・チンチンは今ひとつ自分に気持ちを傾けてこない。それもそのはず、実はアーハンとの間に過去の秘密があったのだ。(第1部)

ファン・チンチンがかつて中国北部を列車で旅をしていたとき、アーハンは日本軍に追われ彼女のコンパートメントに飛び込んできたのだ。わずかな間だったが、彼女はアーハンをかくまい同時に深く愛し合うようになる。

だが追っ手が迫り、二人は多分二度と会えないであろう運命に引き裂かれて別れたのだった。それが上海の町で二人は再び会うことになった。今回もアーハンは追っ手と激しい撃ち合いをして、九死に一生を得た。

リクは、事実を知ってショックを受けるが、潔くファン・チンチンを譲る気持ちになる。ただし彼女を不幸にしたらアーハンを殺すという条件付きで。(第2部)

しかし運命は過酷だった。かつて台湾の抗日のメンバーを陥れ日本軍に引き渡したのは、今では上海の大物のひとりとして実業家として成功しているチンチンの父親キンユーだったのだ。同志たちから身の潔白を証明するように迫られたアーハンは決然としてファンの家に赴く。

アーハンは、激しい撃ち合いの末、キンユーをプールに追いつめた。目の前にはチンチンがいたが、彼女の父親を撃ち殺す。すべては片づいたが、チンチンが以前の快活さを取り戻すはずはなかった。

リクと会ったアーハンは自分から銃撃を仕掛けて自分のピストルは空砲にして瀕死の重傷を負う。チンチンを幸せにできなかったからだ。

リクは何とかしてアーハンを無事上海の町から出してやりたいと尽力するが、ギャングたちは分裂し、リクは、アーハンを殺したと思いこんだ台湾系の若者に撃たれて命を落とす。

アーハンは仲間に連れられて病院に急ぐが、薄れゆく意識の中に、リクやチンチンとの思い出が走馬燈のように浮かび上がるのだった。(1996年)

Directed by Man Kit Poon Credited cast:Leslie Cheung .... Hui Man Keung / Andy Lau .... Ding Lik / Woo-sung Jung .... Ryu So Hwang / Almen Wong Pui-Ha .... Female Assassin / Jing Ning .... Fung Ching Ching / Amanda Lee (I) .... Lai-Man / Hsing-kuo Wu .... Fung King-Yiu / Shun Lau .... Uncle Lau リスニング;広東語なので北京語との違いを知るのによい機会だ。北京語の版もあるはず。

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トントン(冬冬)の夏休み 冬冬的假期 Dongdong de jiaqi A Summer at Grandpa's

トントンの夏休み台湾からやってきた、心に残る小品である。最初の場面は、トントンが小学校を卒業したところだ。台湾の小学校では、日本と同じ、「我が師の恩・・・いざさらば」のメロディが中国語の歌詞とともに流れる。ただし6月か7月であり、夏休みのあと中学校の新学期は9月から始まる。

台北に住むトントンは、妹のチャオチャオとともに夏休みは田舎の開業医をしているおじいさんの所に遊びに行くことになった。でも母親は、胆嚢の病気で入院しており、兄妹はそのことが気がかりだ。

母親の弟が、ガールフレンドとともに列車に乗ってつれていってくれることになるが、どうも頼りない小父さんで、途中の駅でいったん降りてから乗り遅れてしまい、兄妹は、目的地の銅鑼駅で待つ羽目になる。

だが、早速亀をつれた田舎の子供たちと友達になり、裸になって川で遊んだりしてすっかり地元になじむ。おじいさんは医者の仕事で忙しい。

言葉がまともにしゃべれず、人をたたいてまわることで有名な寒子という女がいた。子供たちから怖がられ、父親も手を焼いていたが、チャオチャオは鉄道に危うく轢かれるところを助けてもらい、すっかり仲良くなる。

小父さんは、今度は相手の女の子を妊娠させてしまって、父親であるおじいさんから勘当され、トントンだけが新郎側の親族として出席した結婚式をして、町外れに二人で住み始めた。

あるとき、居眠りをしているトラック運転手を二人組の強盗が襲うところを子供たちは目撃する。しかもその警察から追われた犯人たちは、昔の友達ということで、小父さんの家にかくまわれていた。

トントンの通報で犯人たちは捕まり、小父さんもかくまった罪で捕まってしまう。そのころ、トントンたちの母親は緊急手術を受けたが、麻酔薬からいつまでも目が覚めないという。トントンは病院からの電話を待ってなかなか眠れぬ夜を過ごす。チャオチャオも、たまたま寒子が木から落ちてケガをしたので、心配でたまらない。

夏休みも終わりに近づき、母親は無事手術を終えて回復に向かっている。父親が車で迎えにきた。兄妹は、「赤トンボ」のメロディが流れる中、田園の中を台北に向かって帰っていく。

特に筋もない映画だが、都会からきた兄妹を中心に田舎のさまざまな人々が印象深く描かれる。フランス映画「田舎の日曜日」と同じく、いわゆる「帰省映画」の傑作であろう。

原作‥‥‥朱天文 脚本‥‥‥侯孝賢 朱天文 撮影‥‥‥陳坤厚 録音‥‥‥忻江盛 編集‥‥‥廖慶松 監製‥‥‥呉武夫 制作‥‥‥張華坤 出演‥‥‥王啓光 李淑[木貞] 古軍 梅芳 顔正國 陳博正 楊麗音 楊徳 昌 リスニング:北京語。子供たちの発音は明快で単語もやさしく、初級者の聞き取り練習にはうってつけ。

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さらばわが愛 Farewell to my Concubine 覇王別姫 Ba wang bie ji

さらばわが愛英語での原題は「わが側室よさらば」。演劇訓練所で厳しい修練を受け、大スターになった二人の男が、結婚、日本軍侵略、戦後の動乱、文化大革命の歴史の荒波をかいくぐって生きてきた一大大河ドラマ。

1924年の北京。大勢の人々の行き交う街の一角に京劇の学校があった。そこでは師匠が才能のありそうな子供たちを全国から集めてきて、俳優になるための厳しい訓練を行っている。子供たちは柔軟体操や発声練習などを朝から晩まで受け、少しでもへまをするとぶん殴られる。

そこへ、遊郭から一人の男の子を連れた女が姿を現した。遊郭では子持ちの女はおいてもらえない。6歳ぐらいをすぎたら子供は追い出されてしまうのだ。女は師匠に自分の息子を訓練生として採用してくれるように懇願した。

見たところ女の子のようであまり見込みがなさそうだったが、女は無理矢理その子を一座においていってしまった。この新入りの男の子は小豆といい、一座の中でも大将格で、レンガを自分の頭に打ち付けて割ることが得意なことから「石頭」というあだ名でよばれている少年と仲良くなった。

毎日厳しい訓練が続く。師匠は小豆の細くて華奢な体つきを見て、女形に育てることにした。一方の石頭は頑丈で男っぷりもいいことから、戦いに明け暮れる大王役にぴったりだった。

ある日、表の門がわずかに開いていたことから、小豆ともう一人の男の子はそれまでのあまりにつらい訓練生活に嫌気がさして、街中に脱走する。あちこちうろついて、飛び込んだのが京劇をちょうど上演中の劇場だった。舞台で演じられる見事な立ち回り。熱狂的に喝采を送る大群衆。小豆はそれを見て息をのむ。

このとき小豆の心の中に、京劇の俳優として身を立てようという決意が生まれたのだった。厳しいお仕置きが待っていることを覚悟で小豆は一座に戻る。それからはひたすら技の精進に勤めたのだった。

さらばわが愛成長するにつれ、小豆も、石頭も訓練生の中で頭角を表し、京劇の関係者に次第に認められるようになった。小豆の女形は、よく言われるように本物の女より美しかった。そのため京劇に理解のある金持ちや貴族に誘いの声がかかるのだった。

やがて石頭と小豆はそれぞれ、段小樓、程蝶衣という名前で全国的に有名になる。ファンが殺到し二人は押しも押されぬスターとなった。小豆は石頭を兄として慕い、舞台での王と后のつながりが私生活でも何か続いているようだった。

やがて石頭は遊女であった菊仙という女を妻にめとる。これを知って一度は激高した小豆だったが、京劇界のパトロンである袁先生と親しくなり、何かと面倒を見てもらうようになる。

やがて日華事変が始まり、蘆溝橋事件をきっかけに日本軍が市内に入ってきた。袁先生の後押しもあって、京劇に理解のある日本軍将校の前で小豆はさまざまな芸を披露する。だが日本軍を憎む石頭は結婚を機に菊仙の要求もあって小豆から遠ざかり、一時は俳優廃業まで考える。

年老いた訓練所の師匠によばれた二人は、京劇を汚すものとして厳しくしかられ、再び芸の道に進む。日本が敗戦で姿を消すと動乱の時代がやってきた。国民党の支配は短命に終わり、共産党政権が樹立されたのだ。

小豆は日本軍の前で踊ったということで、旧日本軍への協力の嫌疑をかけれ裁判で危うく有罪になるところだったが、特赦によって再び舞台に上がることができた。袁先生のところで覚えた阿片にすっかりとりつかれた時期もあったが、石頭のおかげで回復することができた。

だが、時代は文化大革命へとすすみ、紅衛兵たちがブルジョア趣味であるとして中国古来の伝統芸能の排斥に乗り出した。二人もとらえられ民衆の前で首から看板を下げて自己批判をさせられる。お互いの過去を人々の前で洗いざらい語り、それぞれを非難する。

だがそれも時代の流れの一部にすぎなかった。11年がたち狂気の革命の嵐は去った。二人はもはや若くはない。新しく作られた劇場で懐かしさを込めてあの演技が再現されるのだった。(1993年・香港映画)

Directed by 陳凱歌 Kaige Chen Writing credits 李碧華 Lillian Lee (also novel) 芦葦 Wei Lu / Cast: 張國榮 Leslie Cheung ....程蝶衣 Cheng Dieyi (segment "小豆 Douzi") / 張豊毅 Fengyi Zhang .... 段小樓 Duan Xiaolou (segment " 石頭 Shitou") / 鞏俐 Li Gong .... 菊仙 Juxian / Qi Lu .... Master Guan リスニング;標準中国語、きわめて聞き取りやすくやさしい語彙が多い。初心者に最適。

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男たちの挽歌 A Better Tomorrow 英雄本色

男たちの挽歌父親を殺された兄弟の間の確執を描いた傑作。単なるアクション中心のギャング映画にとどまらず、親友への一貫した態度、刑期を終えて社会更生する姿など、多くの社会的個人的問題を含んでいる。

1980年代の香港は、ギャングがばっこし、インドネシアや台湾にもその影響力を伸ばしていた。シンの率いる巨大組織では、偽札づくりでその勢力をどんどん拡大していた。その幹部に、ホーとマークがいた。二人は親友同士で、力を合わせると大きな仕事をどんどんやってのけるのであった。

ホーにはキットという弟がいた。とても仲が良く、病身の父親を二人で面倒を見ていたが、キットは自分の兄がギャングだとは少しも知らない。キットも学校を卒業してジャッキーと言う許嫁もいた。

ある日、ホーに台湾出張の命令が下る。現地に赴いたホーは偽札の取引をしようとしたが、相手の裏切りで警察に捕まってしまう。取引相手はホーから自分たちの悪行がばれるのを恐れて、父親を誘拐しようとする。だが、ジャッキーやキットも巻き込んだ乱闘となり、父親は乱入者に刺されて絶命する。

男たちの挽歌それから3年後、刑期を終えてホーは出所した。出所者を雇ってくれるタクシー会社に勤め、まじめな生活を始めようとしていた。だがキットは兄のことを許せず会いに来ても追い返すどころか、刑事としての仕事についてシンの組織をつぶそうと毎日走り回っているのだ。しかも兄が出所したとはいえギャング出身であるから、警察での昇進も押さえられていた。キットのホーに対する恨みはつもる一方だった。

ホーはあるときマークに出会う。マークはホーが捕まったのを腹いせに、相手の組織の宴会を襲って皆殺しにしたのだが、わずかな隙に足に銃撃を受け、今では義足を付けて歩く生活だった。シンの組織でもその地位はすっかり落ちてしまっていた。それでも証拠不十分のためにいまだに警察に捕まらないでいる。

やがてシンからホーに呼び出しがあった。かつての有能な幹部を自分の組織で再び働かせたいのだ。だがホーはきっぱり断った。自分はどんなことがあってもカタギの生活に戻るのだと宣言したのだ。これに腹を立てたシンは部下にタクシー会社を襲わせ、マークにも暴行を加える。

やっとの事でマークを救出したホーだったが、マークは何としてもシンへの復讐をすると言って聞かない。偽札の原版を奪うとこれをホーに渡した。ホーはこれをシンたちを壊滅させるチャンスととらえ、港でシンと取引をすることにした。

単身で現れたシンに対し、札束を受け取ったマークはモーターボートで国外に逃走しようとする。だがホーは自分は残るという。キットが単身乗り込んでくることを知っていたからだ。シンと部下に捕まっていたキットとを交換した瞬間、壮絶な銃撃戦が始まる。

ホーとキットが押され気味のところへ、思い直したマークが戻ってきて戦いに加わった。マークはキットに向かってなぜ自分の兄を許さないのかと絶叫した。その瞬間マークは頭を打ち抜かれる。警察が到着してシンが自首しようと出ていったとき、キットはそっと拳銃をホーに渡した・・・(1986年)

Directed by John Woo Writing credits Hing-Ka Chan / Suk-Wah Leung Cast: Lung Ti .... Tse-Ho Sung / Leslie Cheung .... Tse-Kit Sung / Yun-Fat Chow .... Mark Gor =Mark Lee (as Chow Yun Fat) / Emily Chu .... Jackie / Waise Lee .... Shing / Fui-On Shing .... Shing's right hand man / Kenneth Tsang .... Ken / Hark Tsui .... Music Judge / John Woo .... Inspector Wu リスニング;広東語、北京語

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靖国 Yasukuni

中国人監督によって造られた、靖国神社に関するドキュメンタリー映画。この話の精神的な中心は、靖国神社に奉納する刀を作る、現役最後の90歳になるおじいさんだ。監督がつたない日本語でいろいろな質問をするけれども、ことばが出ないのか、何も内容のあることをしゃべらない。政治論議の中心にいるからそのような発言は一切控えているのかもしれない。

その代わり、彼の行う作業は高齢者とはとても思えないたくましさを持っている。真っ赤に焼けた溶鉱炉の中から鉄の塊を取り出す。それを打ちたたいているうちに、見事な刀の形をなしてくる。水につけて焼入れを行い、自分の名前を入れて完成する。これは靖国神社に祭られている霊を象徴するものだといわれているのだ。彼はことばを語らずともこの無言の作業により、この政治的な問題の真っ只中にある”象徴”を体力の続く限り作り続けるのだ。

カメラは終戦記念日など、靖国神社に多くの人々が参拝する場所に目を向ける。旧軍隊の服装で大声で御霊に敬意をささげる人。台湾から兵隊にとられ、この神社に祀られたことに抗議して合祀をはずすようにと要求する中国人の人々、自分の父親が僧侶でありながら兵隊になって戦死した寺の住職の思い、などが次々に紹介される。

そして外交問題に発展した当時の小泉首相の参拝。同様に石原慎太郎東京都知事のように右翼の集まりであいさつをする人々。このような流れに抗議してその会場に飛び込み、参拝の廃止を絶叫して殴られて会場を追い出される若者。はるばるアメリカから小泉首相支援のプラカードを持ってきたヤンキー。神社の境内は政治の世界の対立がそのまま浮き出ている。

神社は明治維新以来の方針を変えるつもりはない。日本が行った戦争はすべて自衛であり、そこで戦死した日本兵は戦犯であるかないかにかかわらず、すべて英霊であるとの立場だ。”千人斬り”と称して自分の殺した中国人の数を得意になって発表した者たちも含まれる。そしてその遺族を取り込むために彼らの行為をほめ、奉る。遺族はこのため政治的に身動きができない。そしてそこへ群がる自称”愛国主義者”たち。

愛国主義者の最大の特徴は、自分の属する国を越えての想像力を働かすことが決してないことだろう。これはどこの国の愛国主義者にも共通していえることである。だから南京の虐殺も、慰安婦も”存在しない”のである。小泉(元)首相は”自分の信念を持って何が悪い”といって譲らない。彼らの最大の特徴は”被害者の立場”には一切たつことがないということであろう。(2007年)

Director:Ying Li Writer:Ying Li (writer) Cast (Credited cast) Naoharu Kariya ... Himself / Junichiro Koizumi ... Himself

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