映画の世界

日本映画佳作

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日本映画の最盛期を過ぎたと言われてからだいぶたつ。だがすぐれた映画や小説とは時代の反映なのである。いくら作者に才能があっても題材が日常に転がっていなければすぐれた作品はできない。その意味でかつての日本映画は今ではすっかり失われた日本人の真の姿と人生をかいま見ることができる。「男はつらいよシリーズ」は、高度成長で急激に変化する日本社会を背景にした大河小説だ。誰でも日本映画といえば「黒沢」という名前が浮かぶだろう。確かに見応えはあるが、むしろ小津安二郎、木下恵介、山田洋次らのように生活に密着した監督たちに注目したい。

  1. 津軽じょんがら節
  2. 飢餓海峡
  3. キューポラのある街
  4. 雨月物語
  5. 泥の河
  6. 瀬戸内少年野球団
  7. 鬼龍院花子の生涯
  8. 蒲田物語
  9. 二十四の瞳

津軽じょんがら節 2004/11/25

津軽じょんがら節大波がうち寄せる津軽半島の海岸。津軽三味線の旋律が流れる。五所川原市までバスに乗れば2時間もかかるシジミで有名な十三湖の近くである。東京から来たふたりの男女がバス停に降り立った。

中里イサ子はかつて地元のシジミとり寺田の息子と結婚して東京に出たがまもなく別れ、ヤクザの岩城と知り合い一緒に暮らしていた。ところが岩城は相手の組の者を刺し、身を隠さなければならなくなった。津軽はイサ子のふるさとだったのだ。だが両親はすでになく、自分の幼い頃暮らした日本海の波しぶきが飛んでくるあばら屋は借金のかたにとられ杉本という一家が住んでいるのだった。

とりあえず暮らしをたてなければならない。イサ子は地元の飲み屋に勤めることになった。岩城は遊びに行くところもなくかといってへたに人の集まるところに出れば追っ手の者に発見される恐れがあり、二人で借りた狭い部屋でごろごろしているのだった。

その昔、イサ子の父と兄は漁に出て行方不明になり、まともな墓さえ建っていなかった。イサ子は故郷に戻ったのを契機に金を貯め二人のために立派な墓を作ってやろうと心に決めるのだった。そして一生懸命働き始める。

一方暇を持て余した岩城は集落のあちこちを歩き回る。ある日岩浜で釣りをしている盲目の少女杉本ユキを見かけた。彼女は母親と祖母と3人暮らしをしていた。ユキが生まれながらに目が見えないことはたたりのせいだと集落の人々は思いこんでいる。

津軽じょんがら節岩城ははじめユキをからかおうとするが彼女の純粋な心に触れて思いとどまる。そして不思議な好意が芽生えていくのだった。イタコの弟子になるために連れて行かれそうになったときは、ユキのかわいそうな運命を思って連れ戻させた。

一方イサ子は何とか父親と兄にかかっていた保険金を手に入れようとするが、保険事務局では拒絶の回答をよこした。がっかりして戻ってきたイサ子にさらに打撃が加わった。一緒に飲み屋で働いていた晴美が店の金もイサ子の貯金もみんなもって姿を消してしまったのだ。イサ子はもうこんな故郷にいる気がなくなった。

しばらくは失業保険で遊んでいる男たちとのばくちで過ごしていた岩城だったが、冬が近づいて男たちが出稼ぎのために村を出てしまうと何もすることがなくなった。シジミとり寺田のもとで試しに手伝いをやってみた。海での労働はすがすがしく岩城は汗を大いにかいて久しぶりの爽快感や充実感を味わった。集落の男たちはわずかな金が欲しいために出稼ぎに行ってしまい、海辺の産業は衰退の一途にあるのだ。「欲を少し押さえればこのあたりでも十分生活できるのに」と寺田は言う。

イサ子は岩城に別の場所に移りたいと言い出す。だが岩城はここがなんだか故郷になったような気がしはじめていた。飲み屋の親父からユキを観光客相手の売春をさせようという話を持ちかけられたときもいったんは引き受けたものの自責の念に駆られ、客の部屋にいるユキを救いにとって返した。

岩田の息子、つまりかつてのイサ子の夫が事故で死んだ。岩城は今この地を離れられないと言う。翌朝イサ子は寝ている岩城に向かって「故郷のないあんたに新しい故郷ができてよかったね」とつぶやいて津軽を去っていく。岩城はシジミとりを本格的に始めた。ユキを妻として抱いた。新しい生活が始まろうとしていた。だが・・・(1973年)

監督: 斎藤耕一 脚本: 中島丈博  キャスト(役名) 江波杏子(中里イサ子) 織田あきら(岩城徹男) 中川三穂子(杉本ユキ) 寺田農(赤塚豊)

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駅 Station 2004/11/18

駅Station北海道に住む射撃の得意な警官の10年を描く。離婚、オリンピック出場、犯人射殺を巡って3人の女が彼の前を通り過ぎる。鉄道の駅を中心に展開する人生劇の佳作である。

北海道銭函署の警察官、三上英次は射撃の腕を買われてメキシコ・オリンピックに日本代表として出場することになっていた。だが家庭生活では妻直子が犯した一度の過ちのために、三上は離婚を望んだ。銭函の駅で三上は妻とまだ幼い子が去っていくのを見送ったのだった。自分が馬鹿なんだと思いつつももはや妻との生活を続けることはできなかったのだ。

連続ピストル射殺事件が発生した。警察の検問の最中に、犯人は三上の先輩である小川刑事の心臓を撃って逃走した。小川の殉職に三上は復讐を誓うが、上司にオリンッピック出場準備に専念するように命令される。

事件は未解決のまま数年後、今度は赤いミニスカートをはいた若い女が次々と乱暴され殺される事件が発生した。オートバイに乗った若い男吉松五郎が犯人らしいがゆくえがわからない。刑事たちは妹のすず子が働く留萌本線増毛(ましけ)駅そばにある風待食堂に張り込みを続けた。

鈴子は頭が弱いふうでいながら実は兄のしたことも所在もわかっているらしい。三上は妹が兄と出会うことを突き止め、町のチンピラですず子とつきあっている木下の協力を得て、上砂川の駅を線路づたいにやってきた吉松五郎を張り込んで逮捕した。兄に取りすがって泣き叫ぶ妹の姿を見て、最近妹が遠いところへ嫁いだばかりの三上は何かゃりきれないものを感じていた。

オリンピック出場後、後輩の不満からコーチを降ろされた三上は狙撃班に任命され、ピストル事件が発生するたびに出動させられた。ある時はビルに立てこもった凶悪犯二人を、出前のラーメン屋を装った三上が射殺した。ところがその場にいた犯人の一人の母親は三上を「人殺し!」とわめき立てるのだった。それはあとになっても三上の夢にたびたび現れた。

それから数年後の暮れ、吉松五郎の死刑が執行された。三上は密かに匿名で刑務所にいる吉松に差し入れをしていた。知らせを聞いたあと三上はまだ風待ち食堂で働くすず子の様子をそっと伺ったあと、五郎のまだ新しい卒塔婆に花を手向けるのだった。

三上の郷里は増毛の港から道路がないために船で海岸づたいに南に下ったところにある雄冬(おふゆ)という港町だった。12月30日、折からの雪まじりの強風のため連絡船は欠航となり三上は増毛の町に足止めされる。

年の暮れにも関わらず開いていたためにふらりと入った飲み屋「桐子」で三上は女将の桐子に気に入られる。桐子は独り身で処女だそうだ。年末から正月にかけて水商売の女の自殺が増えるのだという。どんなに遊び好きな男もこの時期には家庭に帰ってしまうからだ。テレビからは八代亜紀の「舟歌」が流れる。「お酒はぬるめがいい・・・肴はあぶったイカでいい・・・、女は無口な方がいい・・・」で始まるこの歌が桐子は大好きなのだ。

翌日親しさが増した二人は映画館に出かけ、大晦日の夜を共に過ごす。翌日二人は元朝参りに近所の神社へ出かけた。桐子が髭面の男に会釈をしたのを見て、三上はようやく運行を再開した船に乗り込んで郷里へ赴いた。

兄夫婦と暮らす母はもう年を取り少しぼけてはいたが三上の帰郷を喜んだ。同郷の学校時代の仲間たちと会い、警官の仕事を辞めて戻ってこようかなと漏らすのだった。弟は関東に出稼ぎに行った折り直子と会っていた。電話番号を教えられた三上はひそかに夜にかけ、涙声の直子から息子の成長を知るのだった。

増毛に戻った三上は桐子に自分は警官をやめここに戻ってくるつもりだと告げて列車に乗り込む。深川に着いてみるとピストル射殺事件が発生していた。駅の人相書きにあった男は10年前に三上の先輩小川刑事を撃った犯人だったのだ。同時に女の声でこの男についてのたれ込みがあった。

神社で見た髭面の男を思いだした三上は直ちに桐子のアパートへ向かう。部屋の奥には男がいた。十年前の出来事を告げると男はいきなり発砲してきた。すかさず三上は男を射殺する。桐子は「そういうことだったのね」とつぶやく。

取調中、桐子は自分は男に脅されていたのではなく自分からかくまっていたのだと言った。ではなぜたれ込みをしたのかと係官が尋ねると「男と女の間だから」と言うだけだった。三上のことは口にしなかった。三上は「桐子」で無言で別れを告げると駅に向かい、待合室のストーブの中に辞表を投げ入れた。(1981年・東宝)

監督:降旗康男 脚本:倉本聰 音楽:宇崎竜童 キャスト(役名) 高倉健(三上英次) いしだあゆみ(三上直子) 池部良(中川警視) 烏丸せつこ(吉松すず子) 根津甚八(吉松五郎) 宇崎竜童(木下雪夫) 田中邦衛(菅原)鬼雷太(小川刑事)倍賞千恵子(桐子) 武田鉄矢(列車の客)

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飢餓海峡 2004/11/06

飢餓海峡日本映画としては珍しくスケールの大きい作品。岩内→函館→大湊→東京→舞鶴と列島縦断の舞台展開もさることながら、この時代の貧困の中にうごめく人々の生きざまが180分という時間の中に大きく描き出されているのだ。

昭和22年、津軽海峡にやってきた台風のため青函連絡船「層雲丸」は函館の手前で転覆し、500人以上にのぼる死者を出した。このとき大勢の人々が救援にかけつけていた砂浜に3人の男たちの姿があった。

網走の刑務所から出てきた沼田と木島は積丹半島の付け根、岩内の町で質屋を放火し金を奪った。もう一人の男犬飼もこれに関わっていたらしい。三人は急いで北海道を離れ内地へ向かおうとしたが、台風の影響で列車が函館の手前で運行を見合わせたため、徒歩で海岸にやってきたのだ。

三人は大騒ぎの最中に消防隊だとだまして小舟を借り受け、荒れた海峡に乗り出した。だが沼田と木内はそれぞれ額に特有の傷を受けて溺死し、犬飼だけが下北半島の仏ヶ浦にたどり着いた。犬飼が二人を船上で殺したのだろうか。

奪った金は犬飼のもとに残っていた。乗ってきた船を岩場に引き上げて燃やして証拠を消した。森林鉄道に便乗して大湊へ向かう。車内には大湊の色町の女、杉戸八重が乗っており、二人は親しくなった。

先を急ぐ犬飼はそのまま南下するはずだったが八重のいる宿に寄ってみたくなった。八重は大喜びで伸びた爪を切ってやるなど、犬飼を優しく受け入れてくれた。疲労と空腹に参っていた犬飼は元気を取り戻し、お礼の気持に数万円を渡して大湊を立ち去る。

突然に大金が手に入った八重は呆気にとられる。母親が死んでひとり残された父親や、まだ独立していない弟たちにお金を分け与えると、残りを持って東京へ出る決心をする。だが連絡船の溺死者がどうしても二人余計に出たことで動き始めた警察では、刑事弓坂が八重父娘の宿泊する温泉宿に聞き込みに来ていたのだ。

弓坂の質問に八重は知らぬ存ぜぬを通し東京へ向かう。弓坂も出張を願い出て東京で待ち伏せするが、八重に気づかれてしまいついにこれ以上の詳しい情報を得ることはできなかった。八重は最初飲み屋の手伝いをするがヤクザが出没するのに嫌気がさし、娼家で正式に働くことになった。

八重は夜になるとちり紙の中に入れた犬飼の爪を取り出してはその夜のことを思い出して恍惚となるのだった。今や犬飼が自分にとっての生きる原動力となり、すでに持っているお金に上乗せしてせっせと金をためている。

ある日新聞に舞鶴の富豪、樽見京一郎という男が慈善団体に巨額の寄付をしたことが載っていた。その写真を見た八重は犬飼だと直感し、直ちに舞鶴へ向かう。だが自分の過去が知れることをおそれた樽見は自分が犬飼であることを認めようとしない。だが八重は親指の傷を見つけた。

夢中ですがりつく八重に恐れをなした犬飼はその場で八重を抱き殺してしまう。しかもその現場を見てしまった書生の竹中も殺してしまう。雨の中オート三輪に死体を乗せて岩場から投げ捨てた犬飼は二人が心中をしたかのように見せかけ、何食わぬ顔で警察に出頭する。

若手の刑事、味村は下北半島から駆けつけた八重の父親の話から八重が樽見にはるばる会いに来ていたことを知り、樽見が犯人だと目星をつけるが犯行の決定的証拠がない。10年前に犬飼を追っていた弓坂の助けがどうしても必要だと、青森県まで今では刑事をやめた弓坂に協力を要請しにいく。

だが、最初の取り調べでは捜査一課の準備が不十分で樽見に軽くいなされてしまう。再び調査を行った刑事たちは、今更ながら樽見や八重たちの「飢餓」のつきまとう極貧生活の過去を知り、一連の犯罪がそこから生まれてきたことを知る。八重が大切に持っていた自分の爪を見せられた樽見はようやく自分が八重や竹中を殺したことを認める。

だが、戦後の混乱や連絡船遭難の事故のさなかに起きた放火殺人やふたりの男の殺害に関しては今や物的証拠は何もなく樽見が自分の無実を主張しても、味村たちは反論するすべを知らなかった。帰り際に弓坂が留置場にいる樽見に袋に入れた灰を置いてゆく。あの小舟を燃やした跡にあった灰だ。

何も八重を殺さなくても、犬飼を深く敬愛する彼女は決して過去の秘密を漏らすことはなかっただろうと言う弓坂の言葉に深刻な衝撃を受けた樽見は、自分の過去を検証するために手錠をはめたまま、下北や函館の地へ訪れることを願い出た。自白のチャンスと見た捜査陣は樽見を連れて青函連絡船に乗ったのだが・・・(1965年・モノクロ)

監督 ・・・内田吐夢 脚本 ・・・.鈴木尚也 原作 ・・・.  水上勉 配役:犬飼多吉こと樽見京一郎 ・・・.  三国連太郎 / 杉戸八重 ・・・.  左幸子 / 味村時雄・東舞鶴署捜査係長 ・・・.  高倉健 / 弓坂吉太郎・函館署警部補 ・・・.  伴淳三郎

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キューポラのある街 2004/05/06

キューポラのある街戦後まもなくの埼玉県川口市を中心とした鋳物工場(キューポラ)のまわりに暮らす人々を描いた。貧しくて何も持っていないが希望と前向きの姿勢だけがある張り切り少女、ジュンを中心に展開する物語は「生きる力」があふれている。

現代の無気力な若者と比較すると、これが同じ国のことかと信じられないだろう。さらに結果はどうあれ集団の流れや常識にとらわれず「自分でものを考えて行動する」ことが現代いかに少なくなっているかを思い知らされる。父も母も頼りないのに、このヒロインは、後にその影響を受けて弟も自立した生き方で向かっていくのは何ともすがすがしい。

ジュンは中学三年生だ。県立の高等学校に入ることを願っているが、弟が生まれたばかり。しかも弟がすでに二人いる。しかも悪いことに鋳物職人である父親は以前怪我をして以来きつい仕事ができなくなっている矢先、会社の持ち主がかわり転職を余儀なくされてしまった。

職人気質で古い考え方に固執する父親はあてにならない。ジュンは何とかして高校に行こうと、朝鮮人のヨシエに頼んでパチンコ屋でアルバイトを始める。一方で友だちから口紅をもらって初めてつけてみたり、大人への入り口にさしかかっているところだ。

キューポラのある街すぐ下の弟のタカユキは小学生で、ヨシエの弟であるサンキチと仲がいい。鳩の飼育をしている。だがヒナをもらい受ける約束で友だちから前金を受け取り、その後でヒナがネコに食われてしまい、ごたごたが絶えない。ジュンはいつもそんなとき親代わりになって面倒を見ている。前金を返却する話し合いをするために玉突き場まで単身出かけていかなければならないこともあった。

酒をくらい、せっかく組合の塚本が苦労して交渉してくれた申し出も断り、新しい職場にもなじめず家で怒鳴り散らす父親を前に、母親も近くの飲み屋によるアルバイトに出かけるようになった。修学旅行に出発する朝、また父親が暴れたためにジュンは無断で欠席する。

その日は一日植木等の「スーダラ節」の流れる川口の街をさまよい、夜には盛り場に遊びに行って危うく若い男たちに暴行されそうになる。だが、いつまでも自暴自棄に陥っているジュンではない。自分の行く末をどうしようかと一生懸命考える。そしてそんなとき初潮が始まった。

やがてヨシエ、サンキチ兄弟は父親と共に北朝鮮に帰ることになった。駅前に集まった大勢の見送り客の中、ヨシエが日本人である母親と別れて暮らすことを決心し、最後の別れにやってきたのも断固として追い返す姿を見て、ジュンは覚悟を決めた決意の強さを知る。

タカユキは、サンキチと川でボートを盗み、おかげで迷惑を被った病気の母親を看病している少年の姿を見て自らを恥ずかしく思い、自分も人の世話にならないようにと考えて新聞配達を始めた。サンキチは母を慕って舞い戻ってきたが、再婚のためすでにこの街を去っていた。

ジュンは定時制高校にはいることを決心する。父親に頼らず自分の生活を立てていくことと、学校のみならず職場でも多くのことを学ぶことができると考えた末だった。ジュンとタカユキは陸橋の上から姉や父親の後を追って北朝鮮に向かうタカユキの乗った列車を見送って、自分たちの未来に向かって出発をするのだった。(1962年・モノクロ・日活)

監督: 浦山桐郎 原作: 早船ちよ  脚色: 今村昌平 浦山桐郎  音楽: 黛敏郎  美術: 中村公彦  編集: 丹治睦夫 キャスト(役名) 東野英治郎  (石黒辰五郎) 吉永小百合(ジュン) 市川好郎(タカユキ) 鈴木光子(金山ヨシエ) 森坂秀樹(サンキチ) 浜村純(父) 菅井きん(母美代) 浜田光夫(塚本克巳) 北林谷栄(うめ) 殿山泰司(松永親方) 加藤武(野田先生)

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雨月物語 2004/05/07

雨月物語時は戦国時代の末期。琵琶湖の北岸にある部落には、百姓の片手間に陶器を作る源十郎と宮木の夫婦とその子供がつつましく暮らしていた。ところが近くの長浜では戦による好景気のおかげで、瀬戸物が飛ぶように売れた。

これに気をよくした源十郎はもっと儲けようと、大量の瀬戸物づくりに励む。宮木はそんな金儲けよりも一家3人のんびり暮らした方がいいと思っているが、夫はこのチャンスを逃したくない。隣に住む妹阿浜と藤兵衛の夫婦にも手伝ってもらう。

ところが窯に火を入れていよいよ完成というところで、村に軍団が入り込み、食料の挑発を始めた。仕方なく村人は山に逃げたが、こっそり戻って様子を見に来た源十郎は陶器がほとんどできあがっているのを見て、小舟に積み込み対岸へ売りに行くことを思いつく。

途中海賊が出るということで、危険を避けて宮木と子供は村に残り、藤兵衛夫婦と源十郎が船に乗り込んで売りに出かけた。果たして対岸の街でも瀬戸物は大いに売れ、藤兵衛も源十郎も大儲けをした。かねてから藤兵衛は戦に参加したいとあこがれており、金が入ったとたん武具を買い込み阿浜が止めるのも聞かず、姿を消してしまう。

一方源十郎は、若狭と名乗る美しい女に瀬戸物の注文を受け、その屋敷まで届けに行く。若狭とその乳母、お付きの女たちのいる壮大な屋敷に招かれ、彼の作った瀬戸物をほめられてごちそうになった。そして源十郎は若狭と寝所を共にしてしまったのだ。

その夜から源十郎は快楽の日々を送る。いつしか妻子のことを忘れ、若狭との生活におぼれていった。だが、ある日若狭のために着物を求めに街に出たところ、衣服店の主人は屋敷の名前を聞いただけで彼を店から追い出し、夕暮れに出会った神官は源十郎の顔に死相が出ているという。

雨月物語はじめは一笑に付した源十郎だったが、神官のすすめで身体に魔除けの呪文を書いてもらった。屋敷に戻ると若狭がいつもと違う源十郎に気づき、夫婦のちぎりを結ぶようにと迫るのだった。若狭も乳母も織田信長の軍勢によって惨殺された一族の死霊で、若くして死んだ若狭は若い男を引き入れようとしていたのだ。

呪文のおかげで源十郎はさわられることなく、屋敷から飛び出した。気がついてみると朽ち果てた家屋の跡が残る野原の真ん中に倒れていた。手元には一族の名刀が転がっていた。地元の人間に刀も所持金も取り上げられ、源十郎はほうほうのていで村に帰ってきた。

真夜中に帰ってみると、息子も宮木も家にいて源十郎は安心して朝まで眠った。だが目が覚めると宮木がいない。村を襲った落ち武者に槍で刺されて殺されていたのだ。昨夜の宮木は源十郎の見た幻だったのだ。

藤兵衛夫婦も戻っていた。藤兵衛は戦で手柄を立てたものの、偶然泊まった宿にいた阿浜は遊女になっていた。藤兵衛は自分の愚かな野望が妻をこんな目に遭わせたことを後悔し、百姓に専念すると約束して再び村での生活を始めていた。源十郎は息子と共に宮木の墓の前で手を合わせ陶器づくりに精を出す。(1953年・モノクロ・大映)

監督: 溝口健二製作: 永田雅一脚本: 川口松太郎  依田義賢  配役(役名): 京マチ子(若狭) 水戸光子(阿浜) 田中絹代(宮木) 森雅之(源十郎) 小沢栄(藤兵衛) 青山杉作(老僧) 羅門光三郎(丹羽方の部将) 香川良介(村名主) 上田吉二郎(衣服店の主人)南部彰三(神官)

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泥の河 2004/03/31

泥の河一面モノクロの世界である。もちろん81年の作品だからカラーが普通だ。それをあえてモノクロにしたのはその時代背景によるものだ。

貧しさにあるが、つかの間の交流をした信雄一家と松本姉弟には現代ではすっかり失われた暖かさが強くしみいってくる。

昭和31年大阪。戦争が終わって10年たつが、まだその傷跡から立ち直っていない人々がたくさんおり、神武景気などといっても暮らし向きがよくなったわけではなかった。

ここは環状線福島駅に近い、数ある河の一つ安治川。板倉という小さな家族がようやく軌道に乗り始めた食堂を営んでいた。

父親の晋平は、満州から引き揚げて若い妻貞子をもらい、40歳を過ぎてから長男の信雄が生まれた。信雄も今では小学3年生だ。ある暑い夏の日、彼らの食堂に立ち寄った馬引きのおじさんが転倒した馬車の下敷きになって橋の上で死んだ。

戦死を免れても、この日本の中でもいつ死ぬかわからない、と晋平はいう。信雄は激しい雨降りの日に、事故のあった橋の上で、きっちゃんと出会う。きっちゃんは今度移動してきた川船の子供だった。松本喜一という。信雄の家から窓越しにその船はよく見える。

信雄ときっちゃんは仲良くなり、船まで遊びに行く。そこには姉の銀子もいて、信雄にとても親切だった。不思議なことにその川船はわたし板が2枚あって、船尾にはその姉弟がいたが、船首の方には母親が独りで住んでいるのだった。最初の日にはその母親の声しか聞くことができなかった。

ゴカイとりのおじいさんがある日河の上で行方不明になった。死体は見つからない。河ではそういうことが頻繁にあるのだ。松本姉弟は学校に来るようになるが、なぜか信雄の友だちはきっちゃんを避けるのだった。みんなあの船は「廓船ーくるわぶね」だということを知っていたのだ。

信雄は松本姉弟を家に招待する。両親は川船の秘密を知っていたにもかかわらず二人を大歓迎してくれた。はじめはなかなか慣れなかった二人だが、自分たちの家庭になかった雰囲気を知り、しだいにうちとけてきた。きっちゃんは「戦友」を歌う。死んだ船長だった父親が教えてくれたものらしい。晋平はじっと聞き入っていた。

ある日、信雄が川船に遊びに行くと、きっちゃんはおらず母親の呼ぶ声がする。そこではじめて信雄はきっちゃんたちの母親の姿を見た。狭い船の中には布団が敷かれ、彼女は厚化粧をしていた。

晋平は、かつて世話になっていた女性がいた。貞子が現れなかったらその人と結婚していたかもしれない。だが戦後の混乱はその女性を引き離し、今では病院で死の床にあった。その女性がどうしても信雄の顔を見たいという。信雄は両親に連れられて京都の病院へ行った。

泥の河福島天神さんの祭りの日になった。連れていってくれるはずの晋平がどこかへ行って帰ってこないので、信雄はきっちゃんと二人で夜店に出かける。運悪く穴のあいたポケットからお金を落としてしまったが、夜遅く帰ってきた二人はきっちゃんの宝物であるカニを見ることにする。

川船の中で、きっちゃんはカニに火をつけて遊ぶ。それをやめさせようとする信雄。そのとき隣の船室からうめき声が聞こえてきた。逃げ出したカニを追って甲板を這った信雄は、船窓からきっちゃんの母親と目が合い、入れ墨をした男が覆い被さっているのを見てしまった。

翌朝、川船はタグボートにひかれて突然移動を始めた。信雄は追いかける。きっちゃんの名を呼びながら追いかけた。船は信雄が追いつくぐらいゆっくり進む。だが船の甲板に人影はなく、ついに信雄の視界から消えた。(1981年)

監督:小栗康平 製作:木村元保 原作:宮本輝  キャスト(役名) 田村高廣(板倉晋平) 藤田弓子(板倉貞子) 朝原靖貴(板倉信雄) 加賀まりこ(松本笙子) 柴田真生子(松本銀子) 桜井稔(松本喜一) 殿山泰司(屋形舟の男) 芦屋雁之助(荷車の男)

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瀬戸内少年野球団 2003年10月9日

瀬戸内少年野球団(金比羅様の石段)すがすがしい少年映画。終戦直後の瀬戸内の淡路島に起こった、先生と小学生を中心とした物語。同じ瀬戸内海を舞台にした「二十四の瞳」と違い、コメディタッチだが、むしろ「銀河鉄道999」のような帰らない青春の甘酸っぱさを持っている。

校庭で、終戦の詔がラジオで放送され、戦争が終わった。駒子先生は小学校5年生男組の担任。突然の教育体制の変化は、子供たちに古い教科書に墨を塗ることから始まる。

駒子先生は夫が戦死したばかりで、弟のしつこい求婚にも受け入れることができない。級長の足柄竜太は、集落唯一の警察官である祖父と祖母に育てられている。三郎はバラケツ(やくざ)なることを夢見ていていていつも駒子先生の悩みの種だ。

やがてアメリカ軍が島にやってくる。島にある大砲が爆破され、大人たちはびくびくものである。子供たちもはじめは撃退するつもりでいたが、米兵の投げるチューインガムやチョコレートに群がるのだった。

そこへ、海軍の元艦長とその娘、武女(むめ)がやってきた。父に似てさっぱりした気性の武女と、竜太たちはすぐ仲が良くなる。だが、父親はいずれ戦犯として連行される運命にあった。父娘は、わずかな間この島の生活を満喫するつもりでいたのだ。しばらくして父親は巣鴨プリズン連行されて行き、武女は知人の世話で島に残る。

竜太と三郎は山奥の神社で、片足のない男に出会う。それはなんと駒子先生の死んだはずの夫、正夫だったのだ。かつての名投手だった正夫は二人に野球の硬球を駒子先生に渡してもらうが、弟に犯されたばかりの駒子先生は会うことを拒絶する。

島では、床屋が飲み屋に変わり、外からやくざやパンパン風の女が入り込んで、にぎやかになる。その中には三郎の兄も含まれていた。外部の風潮に生徒たちが感化されることを心配した駒子先生は、野球チームを作ることを思いつく。チームのメンバーは男の子だけでなくあの武女も参加していた。

駒子先生は夫の正夫がいる高松の金比羅様へ行く決心をする。同行した竜太と武女にうながされ、駒子先生は社務所で働く正夫と再会する。新しい生活を再び始めることを決心した二人は、島に戻り、正夫は花を栽培し野球チームの監督を引き受ける。

はじめは負けてばかりいたチームも、グローブを働いて手に入れ、ユニホームもしつらえて、次第に成長していく。だが、6年も終わりに近づいた頃、武女の父親がシンガポールで絞首刑になったニュースが届く。

だが、武女はめげない。アメリカチームと、みんなで力を合わせて戦い抜いた。だが、島には変化が訪れていた。かつてのにぎやかさは次第に失せて、島を出る人が増えてきた。そして武女も東京の兄の元に戻ることになった。

村祭りの夜、武女は竜太に翌日島を離れることを告げる。彼女がおしっこをしている間に竜太が歌を歌ってくれなかったために、喧嘩別れになるという奇妙な顛末だったが。(1984年)

監督: 篠田正浩 製作: 原正人 原作: 阿久悠 キャスト:山内圭哉(足柄竜太)/大森嘉之(正木三郎・バラケツ)/佐倉しおり(波多野武女)/ 夏目雅子(中井駒子)/ 大滝秀治(足柄忠勇) /加藤治子 (足柄はる)/ 渡辺謙(中井鉄夫) /ちあきなおみ(美代) /島田紳助 (正木二郎) /内藤武敏 (中井銀蔵)/ 上月左知子 (中井豊乃)/ 桑山正一 (校長)/ 浜村純 (老船大工) /不破万作 (青年団長)/ 清水のぼる (スポーツ振興係)/ 河原崎次郎 (中井宗次)/ 谷川みゆき (節子)/ 宿利千春  (正木葉子)/ ビル・ジェンセン(アンダーソン中尉)/ ハワード・モヘッド(GI)/津村隆 (通訳)/ 服部昭博(中井照夫・デブ国)/ 山崎修(新田仁・ニンジン) /森宗勝(折原金介・ボラ)/ 丸谷剛士(神田春雄・ガンチャ)/ 辰巳努 (吉沢孝行・ダン吉)/ 戸田都康 (高瀬守・アノネ)/ 沢竜二(池田新太郎)/ 伊丹十三(波多野提督)/ 郷ひろみ(中井正夫)/ 岩下志麻(穴吹トメ)

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鬼龍院花子の生涯 2003年10月23日

鬼龍院花子の生涯日本のゴッドファーザーとも言うべき作品。土佐弁が全編にわたって流れるために、慣れない人には聞きづらいが、南国高知の気風がよく伝わってくる。侠客世界の悲劇が姉妹を中心に立て続けに起こるドラマチックな作品。

昭和12年、高知土佐には、鬼龍院という侠客一家があり、政五郎(鬼政)という名の男が取り仕切っていた。だが、妻、歌との間に子供がなかったために男女一人づつを養子にした。男の子はすぐ逃亡してしまったが、女の子は松恵といい、鬼政が目がつけたとおり器量よしでとても頭の良い娘とわかった。

歌には冷たくあしらわれる松恵だったが、すくすくと成長し、女学校入学に合格するまでになる。一方鬼政は侠客同士の闘争の処理に忙しく、ろくに松恵の面倒を見えてやることはなかったが、使用人の間でかわいがられ学校の先生を目指す。

松恵が養子にされてまもなく、鬼政の妾の一人が妊娠して女の子、花子を出産した。鬼政は実の娘ができたと大喜びでかわいがるが、歌は自分に子供がいないことで、酒浸りになり生活が荒れていく。

そのころ土佐電鉄のストライキが頻発し、ストつぶしを頼まれた鬼政はストライキの中心人物、田辺という青年を気に入り花子の婿にしようと考える。だが刑務所から出されたばかりの田辺は獄中で世話になった松恵にすっかり引かれ、鬼政の前で彼女を嫁にくれることを頼む。

鬼政の方は自分の望み通りにならないので怒り心頭に発し、激しい口論の末に田辺の指を詰めてしまう。田辺は高校教師をクビになり、自分の信念を持って京都の方へ出て行く。

花子はこうして自分の未来の夫を松恵にとられた。姉と違って器量よしではなかった。親が必死に捜してもなかなか相手が見つからなかったが、ようやく侠客仲間に相手が見つかったのだがその男はまもなく浅草で殺されてしまう。

鬼龍院花子の生涯妻の歌が腸チフスにかかる。松恵は伝染の危険も省みず懸命の看病をしたが、自分が松恵に冷たかったことをわびて歌は死んでいく。歌の死後、松恵は田辺の後を追って関西へ出る。だが彼らの社会運動は当時の治安維持法のため、弾圧を受け生活は苦しかった。

二人は鬼政に自分たちの結婚の報告をするために土佐に戻るが、途中で松恵は流産してしまう。鬼政は松恵を迎え入れ、二人のことを祝福してくれるが、田辺は祭りの夜を歩いているところを侠客仲間の敵討ちに巻き込まれて腹を刺されて死ぬ。

松恵は徳島にある田辺の実家から田辺の遺骨を取り返し、侠客の強さを身につけ始める。そして鬼政は田辺の敵討ちに出かけてくれるが、花子が敵方の相手の男と一緒になっているところを見て、いっさいの攻撃をやめて警察に自首した。それから数年後、行方不明だった花子が自殺したことを松恵は知らされる。(1982年)

監督: 五社英雄  原作: 宮尾登美子 脚本: 高田宏治  キャスト:仲代達矢 (鬼龍院政五郎) 岩下志麻 (歌) 夏目雅子  (松恵) 仙道敦子  (少女時代の松恵) 佳那晃子  (つる) 高杉かほり  (花子) 中村晃子  (牡丹) 新藤恵美  (笑若) 小沢栄太郎  (田辺源一郎)

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蒲田行進曲 2003年11月14日

蒲田行進曲松坂慶子の最高潮の頃の作品。銀四郎に押し倒されるシーンは、女の色気を申し分なく出している。「道頓堀川」の深作監督にしても、これは最も記念すべき作品だろう。イタリアの「ニューシネマ・パラダイス」という映画界を描いた傑作に匹敵するといえる。途中、主題歌として、桑田佳佑作曲で中村雅俊の「恋人も濡れる街角」が流れる。

映画産業がまだ栄えていた頃、東映撮影所では(この映画の制作は松竹!)竜馬と新撰組の幕末の戦いが撮影されていた。竜馬役の橘は、本来主役であるはずの新撰組の銀ちゃん(銀四郎)をすっかり食ってしまっていた。

次第に落ち目になる銀四郎だったが、大人をそのまま子供にしたような純粋な人柄は、傍目から見るとまさにめちゃくちゃだった。子分たちを引き連れて何とか橘を圧倒しようと考えているが、なかなかうまくいかない。

かつては華々しくデビューした恋人の小夏は妊娠4ヶ月だったが、銀四郎は朋子という新しい恋人もできたことで、小夏を誰かに譲り渡すことを考える。白羽の矢が当たったのが、長年付き人をやってきたヤスだった。

銀四郎はいつもの調子で訳も言わずに無理矢理小夏をヤスに押しつける。腹の子を抱えたままで結婚しろと言う。だがヤスは親分が絶対で断るわけにはいかない。

小夏は結局ヤスに「譲られ」て、二人の生活が始まる。ヤスはまじめな性格で、大部屋暮らしのうだつの上がらない男だったが、妻との生活のために危険なスタントの仕事を次々引き受けて体中傷だらけになる。

はじめのうちはヤスをいやがっていた小夏も、妊娠中毒症で入院している間にも銀四郎と違い、献身的なヤスの姿を見て次第に心が和んでいく。

蒲田行進曲二人は九州の山の中に住むヤスの母親のもとに会いに行く。大歓迎を受けた後、母親は小夏をひとめ見て父親が別だということを察しながらも、ヤスを見捨てないように懇願する。

決心を新たにした小夏は、銀四郎とも完全に手を切り、ヤスとの新生活を始めるのだった。おなかは次第に大きくなってきた。

その間に銀四郎はますます落ちぶれ、最後の決め手として新撰組が竜馬の泊まっている旅館を襲撃するときに、とんでもない高い階段から銀四郎に切られた相手が転がり落ちるというシーンに賭けたいという。

ヤスは、転がり落ちる役を引き受けてしまう。銀四郎への忠誠というよりは小夏を引き受けてしまった責任の重さ、苦しさがそうさせたのかもしれない。

危険手当をもらい、生命保険にも入って、映画会社の偉いさんが集まる中、いよいよその場面の撮影をすることになったのは雪の降る、なんと小夏の出産の日だった。

いよいよ斬り合いのシーンの撮影が開始された。大きな音がしてヤスは階段を転げ落ちる。前代未聞の大スタントのために待ちかまえていた救急車が走り出した!撮影所の門の前にいた小夏は気を失って倒れてしまった。(1982年)

監督: 深作欣二  製作: 角川春樹  プロデューサー: 佐藤雅夫  斎藤一重  小坂一雄  原作: つかこうへい  脚本: つかこうへい  撮影: 北坂清  音楽: 甲斐正人  美術: 高橋章 タカハシアキラ  キャスト(役名) 松坂慶子(小夏) 風間杜夫(銀四郎) 平田満(ヤス) 高見知佳(朋子) 原田大二郎(橘) 蟹江敬三(監督) 岡本麗(トクさん) 汐路章(山田) 榎木兵衛(トメ) 高野嗣郎(太) 清川虹子(ヤスの母)、千葉真一、真田広之、志穂美悦

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二十四の瞳 1999年6月18日 & 2003年05月25日

二十四の瞳高峰秀子主演のこの映画は、教育映画ではない。れっきとした、反戦、日本の貧困に対する抗議の映画だ。これが公開されたとき、日本中の紅涙を絞ったと言われているが、今冷静に見るとき、それだから、この映画の本当の目的が生かされなかったのではないかとも思える。これは単なるメロドラマではないのだ。また文部省推薦の安っぽい映画でもない。時代が作られたときから離れれば離れるほど、ますます木下恵介監督の意図がよく見えてくる。それは子供たちの歌う「ふるさと」の歌一つとってもわかる。学級崩壊が叫ばれる今、この「別世界」の物語は、現代、失われたものがいかに多いかを痛感させるのである。

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昭和3年、瀬戸内海に浮かぶ小豆島の岬分校に、師範学校を出たばかりの新米先生が赴任してきた。大石先生だが、小柄なのでみんなは小石先生と呼ぶ。

この年に入ってきた小学一年生は12名。はじめての子供たちに、大石先生は大奮闘する。母親と暮らす家から50分もかけて自転車で通ってきたために、地元の父兄から好奇の目で見られるが、子供たちは先生の楽しい歌を歌ってすっかりなついていく。

秋になって大石先生は子供たちといつものように海岸で遊んでいたが、うっかり足をくじき入院し、しばらく学校にも出てこられなくなる。心配した子供たちは4里の道を連れ立ってお見舞いに向かう。

疲れるわおなかはすくわで子供たちの体力も限界に来た頃、バスに乗った通院帰りの先生が子供たちを発見し、うちでご馳走して、船で帰す。陸づたいならとても遠いのに、内海湾を横切ればすぐなのだ。

二十四の瞳こうして先生と子供たちのつながりは深まるが、足はそうかんたんにも治りそうもなく、先生は島の本校に転勤となり、3年後の再会を約束して子供たちと別れる。(第1部)

5年後、子供たちも5年生となり、大石先生も瀬戸内海遊覧船の船員をお婿さんに迎えることになる。6年生の卒業が近づくにつれ、子供たちの将来の希望もはっきりしてきたが、それぞれの家の事情がそれを許さず、先生は心を痛める。修学旅行も全員が参加できたわけではなかった。

一人娘ということで音楽学校に行きたがっているのに島の外に出さない親、借金で首が回らない家庭、そして母親が弟を産んだが産後の肥立ちが悪くすぐ亡くなり、島の外に奉公に出された女の子、と先生はいろいろな話を聞くが、励まして一緒に悩んであげること以外にできることはない。

時は軍部の台頭と、戦争への流れが急速に早まる中で、社会は不況になり、子供たちも否応なくその中に巻き込まれることになった。子供たちが卒業すると、先生はちょっとした発言も共産党支持だとにらまれるような学校生活に限界を感じ、自分の子供が産まれることもあって6年間の教職を辞めてしまう。(第2部)

修学旅行の船上で8年後、子供たちは18歳になった。あんなに元気だったのに、病床に付いたままでもう命幾ばくもない娘もいた。先生を見舞いに行ったあの大遠足の時の写真をいつも床から見つめているのだった。

最大の心配は自分の夫も、教え子の男の子たちもいずれは兵隊に取られるだろうということだった。世の中の風潮は、母親が喜んで自分の息子たちを差し出すかのように聞こえた。だが大石先生は悲しい結末を予感していたのだ。

ついに太平洋戦争が始まり、この島の若者も大勢戦地に赴いた。そして夫にも召集命令が下った。苦しい生活のあと、ようやく終戦が来た。夫は戦死した。教え子の男の子も3人戦死した。ひとりは命は助かったが失明した。さらに母親が死に、末娘が木から落ちて死んだ。

だが、長男と次男を抱えて、これからも生きていかなければならない。先生は再び岬の小学校に勤めることになった。当面は長男のこぐ船で湾を横切って通うことになった。最初の授業の日、教え子たちの娘や息子が新しい生徒として、先生の涙を誘う。「泣きみそ先生」のあだ名が付いた。

昔の教え子たちが集まって同窓会を開いた。参加できたのは女四人、男二人だった。あまりに大きな世の中の激変のため今は遠い過去となったあの小学生時代を振り返る。大石先生は、教え子たちから自転車を贈られた。再び雨の日も風の日も学校に通い続けるのだ。(第3部)

3時間近くの長大ストーリーだが、観客は目を離すひまがない。ある女教師の生活から見た、静かに訴えてくる反戦映画である。「浜辺の歌」「仰げば尊し」などが歌われる。だが、落ち着いて人生を描くことの滅多にないアメリカ映画に毒された観客には理解できないだろう。(1954年・モノクロ)

監督 ........木下恵介 脚本 ......木下恵介 原作 ........ 壺井栄 出演 .......高峰秀子 月丘夢路 田村高広 小林トシ子 笠智衆

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