映画の世界

男はつらいよシリーズ

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この映画を見ていると、人生がどんなものなのかがわかる。つまり、人間の長所や欠点を広く認めたうえで、他人を差別したりせず、寛容であることがいかに大切であるかが、「とらや」の人々と寅さんとの間のやり取りや、寅さんと世間の人々とのやり取りを聞いていて実によくわかる。山田監督が、人間とはなんなのかを熟知しているからこそ、こういう映画ができたのだろう。

2015/09/10

*出演者、マドンナ、地名などをブラウザの検索機能を使って、調べることができます。

TVシリーズ
第1作 男はつらいよ
第2作 続・男はつらいよ
第3作 フーテンの寅
第4作 新・男はつらいよ
第5作 望郷篇
第6作 純情篇
第7作 奮闘篇
第8作 寅次郎恋歌
第9作 柴又慕情
第10作 寅次郎夢枕
第11作 寅次郎忘れな草
第12作 私の寅さん
第13作 寅次郎恋やつれ
第14作 寅次郎子守歌
第15作 寅次郎相合い傘
第16作 葛飾立志篇
第17作 寅次郎夕焼け小焼け
第18作 寅次郎純情詩集
第19作 寅次郎と殿様
第20作 寅次郎頑張れ!
第21作 寅次郎わが道をゆく
第22作 噂の寅次郎
第23作 翔んでる寅次郎
第24作 寅次郎春の夢
第25作 寅次郎ハイビスカスの花
第26作 寅次郎かもめ歌
第27作 浪花の恋の寅次郎
第28作 寅次郎紙風船
第29作 寅次郎あじさいの恋
第30作 花も嵐も寅次郎
第31作 旅と女と寅次郎
第32作 口笛を吹く寅次郎
第33作 夜霧にむせぶ寅次郎
第34作 寅次郎真実一路
第35作 寅次郎恋愛塾
第36作 柴又より愛をこめて
第37作 幸福の青い鳥
第38作 知床慕情
第39作 寅次郎物語
第40作 寅次郎サラダ記念日
第41作 寅次郎心の旅路
第42作 ぼくの伯父さん
第43作 寅次郎の休日
第44作 寅次郎の告白
第45作 寅次郎の青春
第46作 寅次郎の縁談
第47作 拝啓車寅次郎様
第48作 寅次郎紅の花
第49作 寅次郎ハイビスカスの花・特別篇
第50作 おかえり寅さん

男はつらいよ・TVシリーズ第1回と最終回

昭和43年からフジテレビ系で全26回放送された連続ドラマ。現在、第1回目と最終回のフィルムが残っている。主演の渥美清以外は、映画の場合とは配役がだいぶ違うが、全体の設定は山田洋次が脚本を書いているので、とらやの雰囲気から帝釈天に至るまで舞台設定はほとんど同じである。ストーリーのあらましは、映画化された第1,2作の中に溶け込んでいる。ただしシリーズを続けるためには寅さんが死んでは困る。

第1回目では、とらやの伯父さんおばさんのもとで暮らしているさくらが、ある日電車の中で不審な男と出会うことから始まる。その男は虎谷まで付けてきて、何と、桜の腹違いの兄で、家出をしてからゆく不明になりとっくに死んでいたと思われていた寅次郎だった。

とらやでは大喜びで寅さんを迎えてくれるが、旅ガラスでもともとじっとしていないたちの上に、近隣の舎弟を呼んで大騒ぎの宴会をしたりするので、ついにさくらは腹を立てた。さくらは丸の内の一流電気会社にキーパンチャーとして勤めており、恋人との縁談も進んでいたからなおさらだった。

寅さんはとらやを去ることにするが、途中寄った中学校時代の恩師、散歩先生の家に立ち寄るとかつていじめるのが何よりも楽しみだった娘の冬子が美しくしく成長して目の前に現れる。先生の家の前で仮病の腹痛を起こした寅さんは救急車で病院に運ばれ・・・

最終回までに、寅さんの母親との再会、寅さんの弟の出現などがあった。さくらが最初の恋人ではなく、諏訪博士(ひろし)と結ばれる。とらやは人手に渡り、おいちゃんとおばちゃんはアパートに引っ越した。

散歩先生はある日突然倒れ、寅さんの釣ってきた中川のウナギを食べないうちにこの世を去る。冬子には恋人がいた。近く結婚することを聞いて寅さんはあてのない旅に出る決心をする。

寅さんが柴又を去って3ヶ月ほどしたところで、弟がさくらのアパートを訪れた。弟は大阪でやくざに因縁を付けられているところを寅さんに救われ、奄美大島に行ってハブを捕まえる計画に同行するように言われる。

捕まえたハブは高く売れるということで、勇んでジャングルに入り込んだ寅さんだったが、弟の先を進んでいるうちにハブに腕をかみつかれ、体に毒が回ってしまった。周りに人のいない密林だったため弟も手の施しようもなく寅さんは絶命してしまった。その話を聞いたさくらはしばらく信じることができなかった・・・

原案・脚本;山田洋次 監督;小林俊一 出演;渥美清(車寅次郎)長山藍子(さくら)佐藤オリエ(冬子)杉山とく子(おばちゃん)井川比佐志(諏訪博士)津坂()東野英治郎(散歩先生)佐藤蛾次郎(弟)森川信(おいちゃん)

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第1作 男はつらいよ

男はつらいよ第1作寅さんは20年前に親父と大喧嘩をし、ぷいと家を出たまま帰らなかった。渡世稼業に明け暮れていたものの、ふと葛飾柴又の家族に会いたくなってひょっこり姿を現した。

だが、両親も兄もすでにこの世を去り、残っているのは妹のさくらだけだった。彼女はだんご屋をやっている叔父叔母夫婦に引き取られ、年頃の美しい娘になっていた。

さくらは自分の勤める電気会社の社長の息子とお見合いをすることになっていたが、おっちゃんの代わりに寅さんが付き添うことになって、てんやわんや。酔って騒いで相手方の家族をあきれさせたあげく、もちろん縁談は断られてしまう。

そのおかげでとらやでは大喧嘩になるが、飛び出した寅さんは奈良・二月堂で、御前様と、幼なじみの娘とばったり会い、寅さんはすっかり彼女に夢中になってしまう。

3人で一緒に葛飾に戻るが、そこで知ったのは、隣の印刷工場で働いている工員の博が、さくらに思いを寄せていることだった。寅さんのむちゃくちゃな仲介が逆に功を奏して、二人はめでたくゴールインする。

結婚式の当日には、博が8年前に大喧嘩をして縁を切られた、北海道に住む両親が来ていた。父親はその結婚式の暖かい雰囲気に感動し、みんなの前で深く感謝するのだった。

寅さんと、御前様の娘とのデートは回を重ねるが、寅さんは実は彼女は寺の婿を呼ぶことになっていることをまったく知らない。ある日ばったりその男性と彼女が会っているところに出くわして、寅さんは失恋ですっかりがっくりきてしまう。

再び旅に出るときがやってきた。第1作から、このパターンが始まる。しかし何よりもこの作品では誰もがまだ若い。寅さんのしゃべる言葉も荒っぽくかなり衝撃的だが、登場人物全体のエネルギーがあふれている。(1969年)資料外部リンク

監督: 山田洋次 原作:山田洋次 脚本:山田洋次/森崎東 出演: 渥美清/倍賞千恵子/笠智衆/志村喬/前田吟 マドンナ;光本幸子

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第2作 続・男はつらいよ

続・男はつらいよさくらと博の結婚後、1年余りがたった。はがき一本よこさない寅さんがひょっこりとらやに帰ってきた。だが、自分に似たかわいい満男が二人の間に生まれ、みんなが引き留めるのをよそに、すぐに立ち去るという。渡世人はなんか家に居づらいのだ。

中川の堤防をぶらぶら散歩していると、ひょっこり昔、英語を習いに行った散歩先生の家の前に出た。久しぶりにと、先生の家に上がり込み、かつては鼻垂らしていた女の子だった夏子さんが、弦楽四重奏団でチェロを弾くすっかり美しい娘に成長して、寅さんの前に現れた。寅さんはもちろんすっかり彼女に夢中になる。

散歩先生は寅さんに向かって杜甫の詩をつぶやく。「人生相見ざることややもすれば参(シン)と商(ショウ)のごとし。今夕(コンセキ)また何の夕べぞ」訳:人生において一度分かれた友と再会するのは難しい。ともすれば夜空のオリオン座とさそり座のように遠く隔たったまま会えないままになってしまうことだってあるのだ。それなのに今夜はなんと素晴らしい夜だろうか。

寅さんはその夜、先生と酒を酌み交わしたが、久々にいいものを食べたので胃けいれんを起こしてしまい、病院にかつぎ込まれる。だが病院でも懲りない寅さんは、病室で患者たちを前に大騒ぎ。看護婦さんや担当の藤村先生に大迷惑をかける。

寅さんがさんざん騒ぎを起こしたため、散歩先生は、寅さんを叱責し、、夏子さんは病院の藤村先生に謝りにいく。だが、藤村先生は夏子さんを一目見て、惹かれてしまう。一方、寅さんは勝手に病院を抜け出して無銭飲食をして、さくらが警察に呼び出される事件まで起こす。寅さんはいたたまれなくなって再び旅に出る。

京都・清水寺で商売をしていた寅さんは、偶然にも散歩先生と夏子さんの父娘が京都旅行をしている最中に再会する。寅さんは、昔自分を捨てて行方不明になり、京都のどこかにいる自分の生みの親に会いたいと思って、うろうろしていたのだ。夏子さんに一緒に行ってもらい、ようやく連れ込み旅館を経営する母親お菊に出会うが、「何しに来た、金の無心ならお断りや」と言われ、がっくりして戻ってくる。

傷心をいやそうと再びとらやに戻ってくるが、夏子さんと会ったり、散歩先生と酒を飲んだりして次第に元気を取り戻す。ある日体の調子の良くない先生が寅さんを呼び出して、中川の鰻を食べたいと言い出す。とれるはずはないと思いつつ、寅さんは一生懸命釣りに精を出し、ついに鰻を一匹釣り上げる。だが、せっかく持って帰ったときには、先生は眠るように椅子に座ったまま息を引き取っていた。

葬式の日、夏子さんのために式の全部を取り仕切る寅さんだが、藤村先生と夏子さんが一緒にいるところを見てしまう。敬愛する先生を失い、夏子さんも失った寅さんだが、こうなったらまた旅に出るしかない。(1969年)

監督: 山田洋次 原作:山田洋次 脚本:山田洋次/小林俊一/宮崎晃 配役:   車寅次郎・・・渥美清 /さくら・・・倍賞千恵子 /お菊・・・ ミヤコ蝶々/ 藤村・・・山崎努 /おばちゃん・車つね・・・三崎千恵子 /諏訪博・・・前田吟 /川又登・・・津坂匡章 /印刷屋・桂梅太郎 ・・・太宰久雄 /寺男源吉・・・佐藤蛾次郎 /御前さま・・・笠智衆 /患者・・・財津一郎 /おじさん・・・森川信 /散歩先生・・・東野英治郎 マドンナ: 夏子・・・佐藤オリエ

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粋な姉ちゃん立ちション便

第3作 フーテンの寅

男はつらいよ・フーテンの寅監督は山田洋次ではないが、第3作ともなると、出演者の演技にも脂がのってくる。フーテンとしての、テキ屋としての寅さんがいよいよ鮮明に描かれる。時代はまだまだ高度成長に入ったばかりで、便所にはぶら下げられたプッシュ式の手洗い器が写っている。

久しぶりに寅さんがとらやに戻ると、いつまでも独身でいるのを心配した隣の工場のタコ社長が、縁談を見つけてくる。だがお粗末なことに、現れた女は、内縁の夫に浮気された腹いせに、妊娠中なのにお見合いに出てきた、しかも仙台で寅さんと顔見知りの駒子だった。

自分の縁談などすっかり忘れて、寅さんはこの二人を正式の夫婦にするために大活躍。タコ社長たちの手違いをいいことに、とらやでてんやわんやの結婚式を開く。このためみんなと大喧嘩になり、博に殴られて寅さんは再び旅に出る。

たどり着いたところは三重県・湯の山温泉。泊まる金もなかったので、ある古い旅館の女将に頼んで番頭にしてもらう。だが本当のところはそのお志津さんという女将が大変な美人だったからだ。しかもたまたま、おっちゃんとおばちゃんが骨休めにはるばるやってきて泊まったのがこの旅館。この先どんな展開になるか心配でならない。

お志津さんには信夫という弟がいたが、甘やかされて育ったせいか手がつけられず、染奴という幼なじみに惚れ込んでいたがうまく進展しないので大学もやめ、やけになって姉を困らせていた。

信夫ともみ合って川に落ち、手厚い看病を受けたので、お志津さんのためならと寅さんは信夫と染奴をうまく仲直りさせ、新生活に出発させる。旅館の仕事にも慣れ、このままあこがれの人がそばにいる生活を続けられそうに見えたのだが・・・

信夫が旅館を継がないとなれば、お志津さんにはもう旅館経営を続ける気はなかった。前から交際していた大学教授の吉井と、結婚の約束をしていたからだ。だが、お志津さんも、ほかの旅館の番頭や女中たちも、寅さんがショックを受けることはよく知っているから誰もなかなか言い出せない。再び失恋からあてのない旅に出かけるだろうから。(1970年)

監督:森崎東 脚本:山田洋次 小林俊一 宮崎晃 原作:山田洋次 配役;染奴・・・香山美子/父・清太郎 ・・・花沢徳衛 /信夫(志津の弟) ・・・河原崎健三 /駒子・・・春川ますみ /お澄・・・野村昭子 /旅館の女中 ・・・悠木千帆 /千代 ・・・佐々木梨里 /吉井・・・高野真二 /為吉・・・晴乃ピーチク /茂造・・・晴乃パーチク マドンナ:お志津・・・新珠三千代

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第4作 新・男はつらいよ

新・男はつらいよ休憩に立ち寄った峠の茶屋のおばあちゃんが孫から電気アンカを贈られているのを見た寅さんは、自分もおっちゃんやおばちゃんに何かしてあげなければと思う。だが金がない。

そこで手を出したのが競馬。名古屋で自分が願いをかけた馬は、勝ってくれるとうなずいてくれた。寅さんはツキにつきまくって大金を手に入れる。これを持って葛飾柴又に戻った。

だが、町中大騒ぎで壮行会まで開いてくれた、老夫婦を連れてのハワイ旅行は、直前になって旅行社の社長に払い込んだ金の全額を持ち逃げされ、羽田空港にたどり着いたところでおじゃんとなる。しかも町の人に顔向けできないと隠れていたところに運悪く泥棒が入り、あえなくばれてしまう。

「悪銭身に付かず」と言われて、とらやでは大喧嘩。もちろん寅さんは旅に出てしまうが、1ヶ月後に帰ってみると自分の部屋に、御前さまのお寺付属のルンビニ幼稚園の新任先生となった春子さんが下宿していた。

寅さんはすっかり春子さんに惚れ込み、自分を幼い頃に捨てた父親の死を知って悲しむ彼女を元気づけ、幼稚園にまでついてゆき、仲の良さは町中の評判となる。だがある日、彼女の「恋人」らしき人がひょこりとらやを訪ねてくる。

それを知った寅さんは、みんなの前で笑ってみせるが、顔はゆがんでいる。とらやの老夫婦は何が起こるかヒヤヒヤだったが、結局恋の痛手を忘れるために、再び旅に出たのだった。

山田監督とは違って、かなりねちっこい人間関係が展開する。旅の場面が少ない代わり、普段あまり出てこない柴又の近所の人たちが大勢姿を現すのがみものだ。さくらの出番は少なく、夫の博が大活躍する。(1970年)

製作・・・斎藤次郎 企画・・・高島幸夫 監督・・・小林俊一 配役  車寅次郎・・・渥美清 さくら・・・倍賞千恵子 車つね・・・三崎千恵子 諏訪博・・・前田吟 川又登・・・津坂匡章 寺男源さん・・・佐藤蛾次郎 梅太郎・・・太宰久雄 マドンナ;春子・・・栗原小巻

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第5作 男はつらいよ・望郷篇

男はつらいよ・望郷篇寅さんは旅先でたまたまおっちゃんが死んだ夢を見る。急いで柴又に帰ろうと電話すると、おっちゃんもあまり先がないなどと言うものだから、近所の人に危篤だと知らせるわ、葬儀屋を呼ぶわで大騒ぎ。

そこへ舎弟の登から札幌にいるかつての親分が危篤だと聞いて出発しようとするが金がない。どこに行っても借金を断られるがさくらは地道に生きなければならないとたっぷりと説教をした上で前に寅さんがくれたお金をよこした。

虫の息だった親分は、病院のベッドで寅さんに向かってかつて他の女に生ませた息子に会いたいと口走る。寅さんはいろいろさがしたあげく機関車の釜焚きをしている息子を発見するが、それまでの父親の仕打ちにうんざりしていた息子は病院に行こうとしない。

寅さんは誰からも見捨てられて死んだ親分を見て、自分も舎弟の登もやはり地道に生きなければならないと思う。早速柴又に帰り、職探しをする。だが寅さんをよく知っている近所の人は誰も仕事をくれようとはしない。疲れ果てて江戸川につながれている小舟の中で昼寝をしていると、もやいひもがほどけて下流の千葉県・浦安の方に流されていった。

男はつらいよ・望郷篇当時はまだ浦安は江戸時代以来の漁師町で水路には所狭しと小舟がつながれているようなところだった。寅さんは職人がやめてしまった豆腐屋でそれこそ「油にまみれた」仕事を始めたのだ。

訪ねていったさくらは、寅さんがこんなに仕事に精を出し長続きするのは、なぜかすぐに悟る。豆腐屋のおかみさんの娘、節子に惚れているのだ。そしていずれはフラれるだろうことを予想して柴又に帰る。

節子はある夜寅さんに向かっていつまでもこの豆腐屋にいてくれるかと聞いてきたところから、寅さんはこれをプロポーズと思いこみ有頂天になるが、実は国鉄に勤める婚約者と結婚して浦安を離れるためだったのだ。

節子は寅さんに向かってその詳細をはっきり言わないから、その落ち込み方はひどかった。ちょうどの仕事をクビになった源公が来たのをいいことに、代わりに豆腐屋の仕事をやらせ自分はまた旅の空に出る。(1979年)

監督: 山田洋次  キャスト: 渥美清・・・車寅次郎 /倍賞千恵子・・・諏訪さくら/ 森川信・・・車竜造/ 三崎千恵子・・・つね/ 前田吟・・・諏訪博/ 津坂匡章・・・川又登/ 太宰久雄・・・梅太郎/ 笠智衆・・・御前さま/杉山とく子・・・節子の母富子 マドンナ;長山藍子・・・三浦節子

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結構毛だらけネコ灰だらけ、おまえのお尻もクソだらけ

第6作 男はつらいよ・純情篇

男はつらいよ・純情篇寅さんは長崎から五島列島へ渡ろうとしていた。連絡船を待っていると、赤ん坊を連れた絹代が座り込んでいる。今日の最終便が出てしまったのだが、旅館に泊まるお金がない。

寅さんは快くお金を貸し、その夜彼女の身の上話を聞く。幼くして母をなくし五島に住む父親,千造のもとを駆け落ちのようにして出た絹代だったが、もうこれ以上夫には我慢できず父親のもとに帰るところだというのだ。

翌日父親に会うのをおびえている絹代に付き添って、寅さんはいっしょに行ってやる。千造は、娘の絹代に厳しくさとし、帰るところがあるからそうやって我慢できなくなるのだ、夫の元に返れという。寅さんはそれを聞いて、自分も葛飾という帰るところがあるからいつまでたっても半人前だとさとる。

だが、いったん懐かしい家族のことを思い出すといてもたっても居られない。あきれ顔の千造親子を後目に、寅さんはハシケの最終便に乗って吹っ飛んでいく。そして柴又に帰ってくるのだが、どうもおいちゃんの様子がおかしい。何となくそらぞらしいのだ。

というのも、老夫婦の遠縁にあたる、夕子という若い女性が夫とうまくいかなくて、しばらくの間いつも寅さんが寝ている2階に居候をさせてもらっているというのだ。それを聞いていったんは旅に戻ると言い出した寅さんだったが、夕子の顔を見たとたん、だらしない顔になってしまい、彼女と仲良くなろうとする。

そのころ博は印刷工場を辞め、新しい機械を買って独立したいと思っていた。だが、それをうわさに聞いたタコ社長は真っ青。何とか社長に辞意を伝えたい博も、なんとしても博にやめてもらいたくないタコ社長も、寅さんに仲介役を頼んできた。

寅さんは二人の正反対の頼みをいいかげんに引き受けてしまい、タコ社長の開いた工場連中の祝賀パーティでこれがばれて大騒ぎ。怒り狂い、自分たちの感情を素直に吐き出す人たちを見て、夕子は自分たちの夫婦生活がいかに空疎なものだったかを思い知るのだった。

そのころから寅さんの食欲がなくなり、ふさぎ込むようになった。もちろん体調が悪くなったのではなく、恋の病なのだ。だが夕子が江戸川の川縁に連れていってもらいたいというと、いっぺんに元気を取り戻す。

江戸川で、夕子は寅さんに言う。「私のことを思っている人がいるのだけれど、その人をあきらめさせたいのよ」寅さんはそれが誰のことだか深く考えずにその「誰か」を探しに行く。それは寅さんのことかもしれないし、もしかしたら自分の夫のことかもしれない。女の心はわからない。

突然とらやに夕子の夫が訪ねてくる。夕子を迎えに来たのだというのだ。困った顔をしていた夕子だったが、さくらに「こんな時女って弱いのね」とつぶやいて夫と共に家に帰ることになった。

寅さんは突然失恋をした。さくらに柴又の駅のホームまで送ってもらって電車のドアが閉まるときに言う。「帰るところがあるからいつまでたっても俺は半人前さ・・・故郷ってやつは・・・」(1971年)

監督: 山田洋次  製作: 小角恒雄  原作: 山田洋次  脚本: 山田洋次 宮崎晃 配役: 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 森繁久彌/森繁久弥 (千造) 宮本信子(絹代)松村達夫(山下医師)垂水悟郎(夕子の夫) マドンナ;若尾文子(明石夕子)

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第7作 男はつらいよ・奮闘編

男はつらいよ・奮闘篇寅さんは、只見線の越後広瀬の駅で、集団就職をする子供たちの旅立ちと一緒になる。貧しい農村では、子供たちの多くが故郷を離れて東京へ働きに出なければならない。それは寅さんにも柴又への望郷の思いを募らせた。

とらやに、大阪から、寅の母親がひょこりおとずれてくる。なんでも一年前に寅からもうじき結婚するんだというはがきを受け取り、忙しさでそのままになっていたが、ようやく暇になったので、それを確かめにはるばる柴又までやってきたのだった。

その直後に寅さんが帰ってきて、すったもんだのあげく、さくらをつれて母親の泊まっている帝国ホテルにおもむくことになった。しかし恋と失恋の繰り返しの話を聞いて母親は激怒し、寅さんに悪口雑言を浴びせる。寅さんもカンカンに腹を立ててホテルを出る。

とらやに戻ってもおいちゃんや周りとうまくいくわけがない。再び大喧嘩を演じて、たった一泊しただけで旅に戻ってしまう。沼津とその周辺で商売をして、駅近くのラーメン屋で食べていると、隣に座っている若い女の子の様子がおかしい。ラーメン屋の主人は、集団就職をして逃げ出した子で、少し頭が弱いのではないかという。

駅前の交番を通りかかると、この子がお巡りさんにいろいろ聞かれていた。寅さんも加わっていろいろ聞きただすと、彼女は花子といい、青森県西津軽郡驫木(トドロキ)からやってきたらしい。何とか旅費を捻出して帰らせたが、心配でならない寅さんは柴又の住所を教える。

翌日とらやに行くと、やはり花子はこの家に転げ込んでいた。家族のみんなが世話を焼いたおかげで花子は落ち着き、団子屋の手伝いも始める。だがその純粋な姿に寅さんは惚れてしまった。しかも花子が一緒にいたいというものだから有頂天になる。

男はつらいよ・奮闘編これがうまく結婚に結びつけばいいとさくらが思っていた矢先、故郷の青森から彼女の面倒を見ていた福士先生が迎えにやってくる。福士先生を見た花子は大喜び。夕方寅さんが外出から戻ってくる前に、青森へいっしょに帰ってしまう。

がっくりした寅さんは、そのあと花子の様子をうかがいに青森まで行くが、空腹と寒さの中で書いたとらやへのはがきがまるで自殺を予告するような暗い調子だったので、大いに心配したさくらは、はるばる五能線の驫木(とどろき)まで出かけて行く。

福士先生のいる小学校で、花子は用務員の手伝いのようなことをして元気にしており、さくらはほっとするが、寅さんの行方がわからない。帰りのバスに乗っていると、五能海岸の千畳敷あたりで、投身自殺の死体が上がったらしい。まさか・・・・

停留所で温泉の帰りらしい爺さん婆さんの一群がバスに乗り込んでくる。笑いさざめく中で、ひときわ甲高い聞き慣れた声が聞こえてきた。「さくら、おまえ俺が死んだと思ったか?」「お兄ちゃんが死ぬわけないでしょ、ばかばかしい!」(1971年)

製作: 斎藤次男  原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 朝間義隆 キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(妹さくら) 柳家小さん(ラーメン屋) ミヤコ蝶々(菊) 田中邦衛(福士先生) 犬塚弘(おまわりさん) 光本幸子(冬子) マドンナ;榊原るみ(花子)

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第8作 男はつらいよ・寅次郎恋歌

男はつらいよ;寅次郎恋歌寅さんとおいちゃんが喧嘩をするシーンは緊張感が強く出ていて、後期の作品とだいぶ趣が違う。旅回りの少女との出会い、妻を亡くし一人暮らしを始める老人との出会い、いずれも「人生の旅」を強く打ち出した場面づくりである。

田舎町で寅さんは雨に降られ商売はあがったりだ。同じ町に来ていた旅回りの一座と知り合い、宿まで小百合ちゃんという名の少女に傘をさして送ってもらう。立派な役者になりたいと希望に燃える少女を見て寅さんは思わず涙ぐむ。

ある日さくらが買い物から泣いて帰ってくる。おばちゃんが訳を尋ねると八百屋のおかみさんが自分の子供を叱りつけるときに「寅さんのようになっちゃうよ」と言っているのが聞こえたのだという。これを聞いておばちゃんもおいちゃんも悲憤慷慨する。

そこへ寅さんが帰ってきた。不自然な歓迎ぶりに気分を損ねた寅さんはおいちゃんと大喧嘩。その夜仲間を連れて酔っぱらって帰ってきた寅さんに、怒り狂うおいちゃんだったが、さくらは黙ってビールをつぎ、歌まで歌う。ここで自分の馬鹿さ加減に気づいた寅さんはその夜再び旅立っていってしまった。

しばらくして博の父親一郎から「母危篤」の電報を受け取った博とさくらはすぐに岡山県備中高松へ向かう。が死に目にあうことはできなかった。なんと寅さんもちょうど近くにいたことで葬儀に出席する。葬儀が終わって博を含む3人の息子たちが父親を囲んで食事をしていた。ふたりの兄は何か冷たく、父親一郎も好き勝手に生き、死んだ母親はあまり幸せではなかったようだった。

葬儀のあと、寅さんは大きな屋敷に一人残った一郎につきあって2,3日過ごす。別れ際に一郎は寅さんに旅の話をするのだった。夕暮れ時の信州の田舎道を歩いていたとき、ある農家の前を通り、窓越しに一家が食事をしようとしているところが目に入った。そのときリンドウの花が一面に咲いていたのだという。一郎は寅さんに運命に逆らわず家族と幸せな時を過ごすことの大切さを諭す。

この話に感じ入った寅さんはさっそく柴又に帰り、みんなにその話をして聞かせるのだった。そのころ帝釈天の横に新しい喫茶店が開店した。3年前に夫と死に別れた女性寛子が小学校3年の子供を連れて移ってきたのだ。とらやのみんなは何とか寅さんが寛子と顔を合わせないようにと躍起になるが、狭い町内のことだからそれは無理。帝釈天の境内で出会ってしまう。

寛子は町の評判の美人なのだから寅さんが惚れ込まないはずはない。内気で友だちができない小学生の息子と遊んでやり、仲間を作ってやったことから寅さんは喫茶店に入り浸りになる。とらやのみんなが心配するなか、寅さんは自分の家庭を持つという夢が叶う気がしていたのかもしれない。

ある夜寅さんは寛子の家を訪れ、いつでも助けになると申し出る。だがいつしか話は寅さんの旅のことになった。寅さんは寛子と身を落ち着ける夢を抱いていたのに、寛子は寅さんの旅の生活をうらやましいといい、夕暮れ時に感じる孤独感のことを話しても、かえって自分もそんな体験をしたいというばかり。まったく自分の望む夢とは歯車が合わないと悟った寅さんはこれ以上柴又にいても苦しみが増すだけだと感じてその夜旅に出てしまうのだった。(1971年)

監督 ......山田洋次 脚本 ......山田洋次 朝間義隆 原作 ......山田洋次 配役: 車寅次郎 ........渥美清 さくら ........倍賞千恵子 小百合 .......岡本茉莉 一郎 .......志村喬 マドンナ;寛子 ......池内淳子

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第9作 男はつらいよ・柴又慕情

男はつらいよ・柴又慕情帝釈天の門にあるツバメの巣には今年も巣作りにやってこない。巣を取り壊そうかという御前様だったが、さくらはもし帰ってきたら、泊まるところがなくてかわいそうだという。御前様はさくらが寅次郎のことを心配していると気づく。

博とさくらの夫婦は手狭になったアパートを出て家を新築をしたいと望んでいたが、資金が足りないのでおいちゃんおばちゃんは寅さんがいつも泊まっている二階を貸間にして少しでもお金の足しにしようと考えていたのだ。だが運悪くその札を取り去る間もなく寅さんが帰ってきてしまう。

貸間の札を見るなり、寅さんはがっかりしてとらやを立ち去っていってしまう。みんなが狼狽しているうち、不動産屋に連れられてきた寅さんがやってくる。寅さんは機嫌を直して家に落ち着くことになったが、無理矢理取られた不動産屋への手数料6千円のこともあって、その日の夕食は大荒れ。お互いを傷つけ合う言葉の応酬の果て、寅さんはその晩のうちにとらやを飛び出す。

寅さんは金沢の街で行商をしていた。旅館では久しぶりに舎弟の登に出会い、翌日には福井へ移動した。そのころ東京から、みどり、マリ、歌子の三人娘が北陸旅行に来ていたのだが、観光地の見物だけで今ひとつ旅がおもしろくない。偶然に茶屋で知り合った寅さんは写真を撮る際に「チーズ」の代わりの「バター」と言って笑わせ三人娘と意気投合し、東尋坊の海岸を回ってその日は楽しく過ごす。

4人はすっかり仲良くなり、東京での再会を約し特に歌子は記念の品を寅さんに渡して、3人娘は夕方の列車で東京に帰っていく。歌子は何となく幸せが薄いような雰囲気があり、寅さんはそんなこともあって里心がおきたか、ついふらふらと中川の土手に戻ってきてしまった。

男はつらいよ・柴又慕情柴又見物をしていたマリとみどりに再会した寅さんはようやくとらやに戻り、二人の話を聞いた歌子も翌日早速とらやに駆けつける。とらやでの歓迎を受けた歌子は暖かい雰囲気に感激して帰っていく。母親が離婚して家を去った後、偏屈な作家である父親との二人暮らしが続いている歌子にとっては何の遠慮もないとらやの人々に感激したのだ。

歌子の喜ぶ姿に、すっかり参っていた寅さんはすっかり彼女に惚れ込んでしまい再びとらやに遊びに来てくれる日を今か今かと待ちこがれる毎日となった。家族はまた恋の病が始まったかと困り果てたが、どうしようもない。

家族が寅さんの恋のゆくえを話し合っていたところを寅さんは聞いてしまい憤然ととらやを出ていこうとする矢先、歌子が再び訪れてきた。父親と喧嘩して泊めてもらいに来たのだ。寅さんはもちろん有頂天。翌日も歌子と中川へ遊びに行く。夕方は、博さくら夫婦によばれているという。

歌子の悩みは愛知県瀬戸市で陶芸の修業をしている恋人と結婚したいが、一人では何もできない父親のことがあって行動に踏み切れない歌子を博とさくらは元気づける。相談をしたおかげで歌子は勇気を取り戻し、恋人のもとに行く決心がついた。

寅さんもその夜真相を知る。再び旅に出るときが来た。さくらと中川の堤防に腰を下ろしながら「俺またフラれちゃったな」と独り言をつぶやくが、それがさくらに聞こえなかったはずはない。(1972年)

監督:山田洋次 配役 車寅次郎 :.渥美清 さくら :.倍賞千恵子 車竜造 :.松村達雄(今回より) 車つね :.三崎千恵子 諏訪博 :.前田吟 車満男 :.中村はやと 梅太郎 :.太宰久雄 源公 :.佐藤蛾次郎 御前様 :.笠智衆 登 :.津坂匡章 みどり :.高橋基子 マリ :.泉洋子 高見 :.宮口精二 マドンナ;歌子 :.  吉永小百合

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労働者諸君、今日もご苦労さん

第10作・男はつらいよ・寅次郎夢枕

男はつらいよ・寅次郎夢枕恋愛とは何か、これは実際に恋した者でなければわからない。意外と世の中には一度も恋愛感情を抱いたこともない人は多いものだ。もちろん寅さんはそんなときどんな気持ちになるのかよく心得ている。ただしそのあとが・・・。今回は相思相愛だから、もしこれでハッピーエンドになっていれば、寅さんシリーズはこれで終わっていたかもしれない。

ある日、寅さんが柴又にふらりと戻ってくると、お寺で母親が子供に向かって叱る声が聞こえる。「そんなことをすると、寅さんみたくなっちまうよ・・・」これを聞いた寅さんは愕然とする。しかもお寺の門には「トラのバカ」と落書きがしてある。

とらやに帰ってもみんなが談笑しているのを見て自分を馬鹿にしているのだと思いこんでしまう。一時はお互いにほめ合うことがみんなでうまくやっていくために必要だとわかったものの、寅さんが身を固めるためにと翌日からみんなで始めた嫁探しはことごとく断られ、大喧嘩のあげく寅さんは家を飛び出す。

信州を歩き、旧家を守るおばあさんのもとで一服した寅さんは、仲間の一人がここを訪れた際に急に気分が悪くなりこの家で息を引き取ったと聞かされる。墓参りを済ませたあと、渡世人の葬式まで出してくれたおばあさんの心優しさに打たれた寅さんは再び柴又に戻る気持ちになった。

男はつらいよ・寅次郎夢枕戻ってみると理論物理学の東大助教授、岡倉が二階の自分の部屋に官舎の改築が完成するまで当分下宿するということを聞いて大喧嘩になり、寅さんは飛び出して行こうとするが、店先でさくらに会いに来た同級生の千代とばったりあってしまった。

千代はかつては裕福な呉服屋の一人娘で華やかな結婚式を挙げたのだが、呉服屋はつぶれ、夫とも別れて柴又町内の母親のもとで美容院をやっている。昔とは見違えるように綺麗になった千代を寅さんが放っておくはずがない。

寅さんは何かと理由をつけて美容院のまわりを出たり入ったり。だが千代も悪い気がしない。別れた夫のもとに暮らす息子がはるばる自転車で柴又まで会いに来たが、ほんの一瞬しか会えなかったために悲嘆にくれる千代を寅さんは一生懸命慰めようとする。

一方、学者で学問にしか興味のない岡倉だが、これも千代を見てすっかり参ってしまう。だが今まで恋愛の経験がまったくないからどうしていいか分からない。研究もまったく手につかず、恋の病がこうじて寝込んでしまった。

寅さんは自分も千代に惚れてはいるが、岡倉がかわいそうになった。まずは恋愛とはどんな感情なのかを”講義”する。そして千代に岡倉の気持ちを伝える役をかってでることになった。

千代を一日外に連れだし、あちこち連れ回った寅さんだったが、なかなか本題に入らない。しびれを切らした千代が、「そろそろ身を固めた方がいいのではないの」と寅さんに言われ、自分にプロポーズしたと思いこんでしまう。千代は寅さんが気に入っていた。プロポーズを受けてもいいと思っていたのだ。

ところが寅さんは、早く「あいつ」に伝えに行くという。「あいつ」が岡倉だと聞かされた千代は、自分が寅さんに対して思っていたことを話し始めるが、最後のつめで甲斐性のない寅さんはすっかり萎縮してしまっている。悔恨の瞬間!それを見て千代はさっと表情を変えると、「今のは冗談なのよ」と言って去って行く。寅さんのシリーズの中で、この作品が最大の“悲劇”ではないだろうか。

みんなが心配して注視する中、とらやに帰ると待っていた岡倉に話はダメだったと告げ、自分もすぐに身支度をして旅に出る。さくらにも何も言わずに。あれからも千代は自分が寅さんに「振られた」と思いこんでいる。(1972年)

監督 .....山田洋次 脚本 .....山田洋次 朝間義隆 原作 ....山田洋次 配役;車寅次郎・・・渥美清 さくら・・・倍賞千恵子 岡倉・・・米倉斉加年 信州のおばあさん・・・田中絹代 登・・・津坂匡章 マドンナ;千代・・・八千草薫

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第11作・男はつらいよ・寅次郎忘れな草 

男はつらいよ・寅次郎忘れな草第11作は、浅丘ルリ子の出演だ。今回の作品は、かなり社会派的な様相が強く、「生き方」がかなり真剣に論議される。発端は、さくらが通りかかった家庭から聞こえてくるピアノの音を聞いて、息子にも習わせたいと思ったこと。

だが貧しい印刷職工の稼ぎでは、さらに狭いアパート暮らしでは、寅さんの買ってきたおもちゃのピアノしか持つ余裕はない。あきらめるしかないのだ。いつものように家族と喧嘩をして飛び出した寅さんは北海道へ向かう。そしてそこで流しの歌手、リリーに出会う。

共に家族を持たない放浪の身、二人は短い出会いながらも意気投合する。自分たちが泡ブクのような人生だとリリーが言うと、寅さんは早速牧場に行って住み込みを志願するが・・・

日射病にやられて、ほうほうのていで葛飾柴又に舞い戻った寅さんの所へ、リリーがひょっこり姿を現す。場末では誰も聴いてくれない歌を歌い、酔っぱらいに絡まれ、母親には金だけを当てにされているリリーは、独り身の寂しさが身にしみていたのだ。

リリーの登場に、とらやの面々はすっかり面食らうが、寅さんやリリーのような放浪生活、柴又での人々ののんびりした生活、牧場での厳しい生活が話題に上り、みんなで誰が中流階級に、上流階級に属するかで話の花を咲かせる。

リリーは寅さんを慕っていたけれども、酔ったときの些細な行き違いから二人は別れ別れになってしまい、相変わらず寅さんはフーテンの生活を続けるが、リリーは寿司屋の職人と結婚してやっと幸せな家庭生活を手に入れたのだった。(1973年)

監督:山田洋次 原作:山田洋次 脚本:山田洋次/朝間義隆/宮崎晃 出演:渥美清/倍賞千恵子 マドンナ;浅丘ルリ子

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第12作・男はつらいよ・私の寅さん

男はつらいよ・私の寅さん寅さんのみた夢は、葛飾郡柴又村での大飢饉の際、悪徳商人にさくらがいじめられているところを兄の寅次郎が救い、一揆をひきおこすというもの。

さて、寅さんが柴又に帰ってみると何かみなそわそわしている。自分に対しても何かとても親切なのでおかしいなと思いきや、叔父叔母夫婦と博桜夫婦と満男がそろって九州旅行へ行こうとしていたところ。

ぶつくさ言う寅さんを留守番に頼んで、5人は飛行機で早朝旅立つ。別府から阿蘇へと叔父叔母ははじめのうちは感激するが、そのうち残してきた寅さんのことや店のことが気になりだして、観光にも身が入らなくなる。

留守番を頼まれ、はじめのうちはひがみ根性丸出しで、タコ社長と酒を飲んでいたが、4日後みんなが帰るとなると一生懸命店を掃除して風呂を沸かし、食事の用意までしておく寅さんだった。

ある日、店に小学校同級のデベソが久しぶりに遊びにやってくる。彼は柳井医院のお坊ちゃんだったが病院はつぶれ、今ではテレビの脚本などの物書きをやっているという。寅さんと話がはずんで、妹りつ子のアトリエへ行って一杯やらないかという。

さっそく二人は出かけていったが、酔ったはずみにりつ子の書きかけのキャンバスに絵の具をつけてしまう。そこへ彼女が帰ってきたから大変。りつ子の剣幕に恐れをなした寅さんは腹を立てて帰宅する。

男はつらいよ・私の寅さんところが翌日もう旅に出ようとした矢先、とらやの店先に現れたりつ子はお詫びの印に花を持ってやってきた。これを見た寅さんは突然一目惚れ。とらやの食卓に招き、すっかり入れ込んでしまう。

りつ子が独身でひたすら絵を描こうとしているのに貧しい暮らしから抜け出せないでいるところを見ると、寅さんは自分がパトロンになれたらどんなにいいかと思う。

茶の間では芸術家談義がまきおこり、食えればいいというタコ社長に対して、人生に喜びを加える仕事があってもいいのではないかという話になる。

りつ子が片想いの人が結婚することになってふさぎ込んでいると、彼女のアトリエまで見舞いに出かけ、すっかり恋の病にとりつかれてしまった寅さんは今度は自分が起きあがれなくなる。逆にとらやへ見舞いに訪れたりつ子は、寅さんのうわごとから自分を恋していることを知ってしまう。

寅さんが再びりつ子のアトリエを訪れると、彼女は自分が恋やその他のことに煩わされずに絵に取り組みたいと告げる。そこを寅さんはまともに受け取ってしまった。りつ子は別の返事を待っていたのだが、寅さんは彼女の気持ちをそれ以上確かめることなく、お友だちでいましょうと言って帰ってしまう。

もちろんその夜寅さんは旅に出てしまった。後日さくらがりつ子にそのことを告げると、「ばかね、寅さんは」とつぶやくのだった。女の気持の心底をくみ取れなかったために、寅さんはむざむざまた失恋してしまった。(1973年)

監督;山田洋次 配役    車寅次郎 .........渥美清 柳文彦 .....前田武彦 さくら .........倍賞千恵子 東竜造 ........松村達雄 東つね ....... 三崎千恵子 諏訪博 ...... 前田吟 諏訪満男 ....... 中村はやと 社長 .......太宰久雄 源公 ..........佐藤蛾次郎 御前様 .........笠智衆 画商 .....津川雅彦 りつ子の恩師 .........河原崎国太郎  りつ子の恩師の夫人 ........葦原邦子 マドンナ;柳りつ子 .....岸恵子

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第13作・男はつらいよ・寅次郎恋やつれ

男はつらいよ・寅次郎恋やつれ寅さんは島根県温泉津(ゆのつ)温泉から柴又へ戻ってきたところ。自分が嫁さんを連れてとらやに入る夢を見ているうち、乗り過ごしてしまう。実はかの地で寅さんは絹代という、夫が蒸発してしまった壺焼きの女にすっかり惚れてしまい、近くの旅館で番頭をしながら暮らしていたのだ。

海の幸をたくさん土産に持ち帰った寅さんを前にしてとらやのみんなはてっきり絹代と結婚の約束をしたのだと早とちりしてしまう。そこまで話が進んでいないとがっかりしたがそれでもさくらはちょうど大阪に用事のあるタコ社長と一度絹代に会ってみることにする。

現地に着いてみると、なんと絹代のゆくえ不明だった夫が戻ってきたのだという。一瞬のうちに恋が潰えた寅さんは一人、中国山地の方へさまよって行く。津和野についてラーメンをすすっていると、土地の図書館員が店に入ってきた。それは「柴又慕情」で父の反対を押し切り、青年陶芸家と一緒になった歌子だったのだ。

前年の暮れに夫は病気で死に、最期を見とった実家のあるこの津和野で姑や小姑と一緒に暮らしていたのだった。誰も知る人もなくひとりぼっちで知らない土地に暮らす歌子だったが、寅さんはバス停で別れたときの彼女の顔が忘れられない。すっかり憔悴しきって再びとらやに舞い戻った。

寅さんはせっかく会いながらも寂しい暮らしをしている歌子を津和野の地においてきたことを後悔して再び戻ろうと決心したとき、とらやの店先に歌子が現れた。寅さんの姿を見て東京に戻る決心がついたのだ。寅さんは有頂天になる。歌子はしばらくとらやの二階に寝泊まりして、自立するのにふさわしい仕事を探すことになった。

男はつらいよ・寅次郎恋やつれ気のおけないとらやの人々の歓迎に、歌子は再び元気を取り戻す。ただ結婚に反対して夫の葬式にもやってこなかった父親とは歌子はどうしても会いたくなかった。さくらが心配して父親に会いにゆき、歌子が柴又にいることを告げる。

夫のいない今、歌子は何とか自立したい。そして自分のやりたいことを通して幸せになりたいのだ。とらやの茶の間でみんなが集まっているとき、金があれば幸福かという話になる。金があればある程度は幸福になる準備はできるが、まわりの人とのつながりがあれば本当の幸福になれると博は言う。

父親との絶縁のことで心配になった寅さんはさっそく父親のもとに乗り込む。ナポレオンをからにして待ったあげく、寅さんは父親に向かって娘に対する態度のことを強い調子で説教した。余計なことをしたというみんなの心配とはうらはらにこれが功を奏し、反省した父親は歌子に会いにわざわざとらやまで訪ねてきたのだった。

おかげで父娘の和解が実現した。仕事も見つかった。伊豆大島にある施設で障害のある子供たちの世話をすることになったのだった。父親譲りの頑固さを持った歌子は、自分がいったんやると決めたらまっすぐ進むだけだ。花火大会で夜空が明るくきらめく晩、寅さんは歌子を訪れた。「浴衣姿が綺麗だね」とつぶやいたのが歌子には聞こえなかったらしいが・・・再び放浪の旅に出た。(1974年)

監督: 山田洋次 脚本: 山田洋次  朝間義隆 キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら)宮口精二(高見修吉) マドンナ; 吉永小百合(歌子)

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第14作・男はつらいよ・寅次郎子守唄

男はつらいよ・寅次郎子守唄第14作。ひろしが工場でうっかり手を怪我するが、たまたま通院している病院の看護婦さんが、十朱幸代で、寅さんがいればきっと惚れてしまうとみんなが予想する。

寅さんは九州を回っている途中、旅館で隣り合わせになって、女に逃げられ男の赤ん坊を連れた若い男と知り合いになるが、朝に目が覚めると、なんと書き置きがあり、寅さんの手元にその赤ん坊が残されていた!

仕方なく寅さんはその子を連れて柴又に舞い戻るが、長旅の疲れで子供は熱を出し、病院で見てもらうことになる。悪い予感は的中するもので、さくらと仲良くなったこの看護婦さんが仕事の帰りがてら、とらやの店に顔を出してしまい、寅山はあっというまに彼女の虜になる。赤ん坊はそのあと無事引き取られて九州へ帰っていった。

だがさくらと一緒に誘われて出席したコーラス・サークルのリーダーは、実はその看護婦さんに惚れており、寅さんは酒を飲んだ勢いで、その男に勇気を出し、彼女にむかって愛を告白することをたきつける。なんと酒に酔ったその男は、ふだんはまったく恥ずかしがりやなのに、たまたまとらやにいた彼女に向かって、みんなの見ている前にもかかわらずに好きだと言ってしまう。

瓢箪から駒とはこのことで、これがなんと彼女の心をとらえ、リーダーの必死の思いはかなってしまう。思いがけない告白で目の前で彼女をむざむざとられてしまった寅さんだが、もちろん即荷造りをして、歳末の九州へと旅立ってゆく。佐賀県・唐津・呼子(よぶこ)では、あの赤ん坊は元気で、父親と、赤ん坊の「育ての母親」にも再会するのだった。(1974年)

監督:山田洋次 原作:山田洋次 脚本:山田洋次/朝間義隆 出演:渥美清/倍賞千恵子 マドンナ;十朱幸代

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第15作・男はつらいよ・寅次郎相合い傘

男はつらいよ・寅次郎相合い傘寅さんの見た夢は自分が海賊船の船長になって奴隷船を襲い、その中で捕まっていた妹さくらを救い出して柴又島へと向かうところ。目が覚めてみると自分は北海道にいる。八戸からついてきた男、兵藤(ヒョウドウ)謙次郎はいつまでの離れようとしない。

兵藤は東京のサラリーマンだったが、妻や娘たちの冷たい接し方に嫌気がさし蒸発してきたのだった。人生も会社も家庭も何もかもいやになっていた。それでも寅さんと旅をしていると、今までになかった人生がみえてきて新鮮な感動を受ける。

寅さんも責任を感じてとらやに長距離電話をかける。電話に出たさくらに兵藤の妻に連絡して夫が元気にしていることを伝えてくれるように頼む。一方、ある日、第11作で寿司屋の職人と結婚したリリーがとらやをひょっこり訪ねてきた。落ち着いた生活が性に合わず、夫とは別れてしまったのだという。寅さんがいないと知ると再び放浪の旅に出ていった。

男はつらいよ・寅次郎相合い傘函館の街で、リリーは寅さんと夜泣きソバの店で偶然再会する。兵藤と連れ立っての道中途中金がなくなり、3人で駅のベンチに寝たり、素人の兵藤がたたき売りをしてみたら客が大勢来てみたり。

兵頭が小樽の街にやってきたのは昔惚れていた初恋の人の姿を一目見たいからでもあったのだ。初恋の人は夫に死なれ、喫茶店をひとりで切り盛りしていた。兵藤が店にはいると彼女はすぐに気づいたのだが、すぐに口もほとんど聞かずに出てきてしまった。でもそれでよかったのかも。だが、兵頭の行動をリリーが批判すると、些細なことでリリーと寅さんは大げんかになり、兵藤も東京に帰ることになって三人はバラバラになる。

久しぶりに寅さんは柴又に戻ってきた。リリーと喧嘩別れしたことを悔やむ寅さんを家族はみんな心配してくれているところへ、リリーがやってきた。寅さんは大喜び。喧嘩をしてもすぐに仲良くなるところなど、夫婦喧嘩みたいなものだ、とさくらと博は話し合っていた。しばらくリリーはとらやに泊めてもらうことになった。だが流しの歌手であるリリーの暮らしは辛い。場末の小さな居酒屋みたいなところで歌い、やっと暮らしをたてているのだった。

ある日、家に戻った兵藤がメロンを持って挨拶にやってきた。おばちゃんが寅さんの分を切るのを忘れたために、本人は大むくれ。大騒ぎとなり、リリーが諭すと怒って出ていってしまったが、その日遅く、雨の中仕事から帰ってきたリリーを、寅さんは傘を持って柴又駅前で待っていたのだった。

その仲の良さに、博とさくら夫婦はリリーに寅さんと結婚する気があるか聞いてみる。リリーは大きくうなずいた。さくらはリリーにその気があると確信した。それなのに、寅さんが帰ってきてその話をしても、寅さんはまじめに取り合おうとしない。「お前そんなの冗談だろう?」という寅さんの問いに、一瞬考えた様子のリリーは「もちろんよ、冗談に決まっているじゃない」と答える。その瞬間、寅さんの顔が引きつる。第10作「夢枕」の時の千代との場合によく似ている。心と言葉のすれちがい。リリーはアパートを見つけてとらやを去っていった。(1975年)

監督:山田洋次 脚本:山田洋次 朝間義隆 原作:山田洋次 配役:車寅次郎 ・・・.渥美清 さくら ・・・.倍賞千恵子 兵藤謙次郎 ・・・.船越英二 マドンナ;リリー ・・・.浅丘ルリ子

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第16作・男はつらいよ・葛飾立志篇

男はつらいよ・葛飾立志篇とらやに山形県・寒河江からやってきた修学旅行中の女子学生が入ってきた。彼女の母親は、10年以上も前に寅さんが餓死寸前のところを救ってくれた食堂の女将で、その後、寅さんは欠かさず便りと、わずかなお金を送っていたが、去年亡くなったという。

ちょうど帰ってきた寅さんを囲んで、とらやのみんなはこの話に感動する。寅さんはさっそく寒河江まで行って墓参りを済ませると、そこの寺の住職が、その女性が学問がなかったことを悔やんでいた話になり、寅さんに「おのれを知る」ために学問をすることを奨め、子曰く、「朝に道を聞くも、夕べに死すとも可なり」という言葉を教えてくれた。

そのころ、とらやでは御前様の姪で、大学で考古学を研究する礼子さんが2階の部屋に下宿することになったが、ちょうどそこへ帰ってきた寅さんは、学者でしかも美人に会えたということで大喜び。さっそく個人的に授業を受けることになる。

だが、考古学を親孝行の学問と取り違えたり、授業中は必死に眠いのをこらえるなどで、とても寅さんには合いそうもない。そこへ登場したのが、礼子さんをひそかに恋している、大学の教授だが、彼は寅さんよりも10才も年上である上に、独身主義、その身なりのひどさはどう考えても学者とはかけ離れていたのだが、寅さんとは意気投合し、恋愛の「極意」を教えてもらうことになる。

考古学教室と、隣の印刷会社のメンバーが中川の河原で野球大会をして、みんなでさんざん酔っぱらって帰った夜、教授は礼子さんに酒の勢いでラブレターを渡す。礼子さんは教授にはまんざらでない気持ちもあったのだが、ひとたび結婚となると、これまでの学問がいつの間にか心から消散してしまっているのに気づき、その悩みを寅さんにうち明ける。

最近礼子さんの元気がなく寅さんは心配していたが、結婚の話を聞いたとたん、その相手が誰だかわからぬままに、また失恋したことに気づき、すぐさま年末の町へ旅立ってゆくのだ。もっとも教授も礼子さんに断られ、やはり傷心の旅に出ることになるが・・・(1975年)

監督: 山田洋次 原作:山田洋次 脚本:山田洋次/朝間義隆 出演: 渥美清/倍賞千恵子/笠智衆/米倉斉加年 /小林桂樹/桜田淳子 マドンナ;樫山文枝

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第17作 男はつらいよ・寅次郎夕焼け小焼け 2004/12/23 2011/02/12

男はつらいよ・寅次郎夕焼け小焼け家族全員が海の凶暴なサメによって食われてしまった夢から覚めた寅さんはちょうど満男の小学校の入学式にあわせてとらやに戻ってくる。だが、入学式から帰ってきたさくらが、先生が満男のことを「あの寅さんの甥っ子さんですね」と言ったとたんに教室内が爆笑の渦に巻き込まれたことが悔しいといって泣く。

おかげで気を悪くした寅さんは再び旅に出るべく、とらやを飛び出して上野の居酒屋で飲んでいた。客の中にいかにもみすぼらしい老人がいて、無銭飲食で警察に突き出される直前、寅さんは金を出してやり、とらやに連れ帰る。

とらやではこの爺さんの傍若無人な振る舞いに、家族はみんなあきれ果てるが、実はこの店を最初から宿屋と思いこんでいたのだとのこと。爺さんはそのわびの印に筆をとって紙に何か落書きのようなものをさらさらと書きなぐった。寅さんが言われたとおり神田神保町の古本屋に持っていくと、なんと7万円で売れてしまった。爺さんは日本画の第1人者と言われる池ノ内青観だったのだ。

寅さんは神田から戻って家族に7万円のことを話すと、貧富の差の話が持ち上がる。たまたま満男が青観に書いてもらった画用紙を、タコ社長との取り合いで破ってしまったことから大喧嘩になり、寅さんはとらやを飛びだして行く。

商売は岡山県、播州竜野に向かった。夕焼け空の「赤トンボ」の歌が生まれ古い町並みが残り、青観の生まれ故郷でもあった。市役所の観光課に招待されていた青観と偶然出会った寅さんは旅館に来ていた芸者ぼたんと仲良くなり、市の職員と共に飲めや歌えの楽しい数日を過ごす。

名所巡りや宴会の接待をすべて寅さんに任せた青観は、市内に住むかつての恋人、志乃のもとに密かに訪れるのだった。妻もいて大邸宅に住み、押しも押されぬ大画家である青観もかつては青春の中で選択を迫られたときがあったのだ。あのソ連への恋の逃避行を遂げて日本に戻ってきたばかりの岡田嘉子が演じる志乃は「人生にはしなかったと後悔することもあれば、してしまったと後悔する場合もある」と静かに語るのだった。

男はつらいよ・寅次郎夕焼け小焼けすっかり仲良くなったぼたんに「今度会ったら所帯を持つぞ」と言い残して、寅さんと青観は東京へ戻った。とらやで寅さんは毎日竜野の思い出ばかりを口にして、ただごろごろしているばかりだ。そこへぼたんがひょっこり訪れてきた。だまされて貸した虎の子の二百万円を取り戻しに来たのだという。

金のことに詳しいタコ社長が一日ぼたんにつきあって、貸した相手に掛け合いに行ったが、およそ勝ち目はなかった。がっかりして戻ってきた二人を前に憤然とした寅さんは外に出るが何とかなる相手ではないはず。そこで青観の家に向かい、ぼたんの窮状を話して二百万円相当の絵を描いてくれるように頼む。そんなことはできないと言う青観に、寅さんは腹を立てて出ていってしまう。

ぼたんは二百万円を取り戻せなかったけれども、とらやの人たちが本当に親切に自分のことを心配してくれたことに感動し、寅さんが戻らないうちにとらやに別れを告げる。「寅さんには好きな人がいるんでしょ」という質問に、さくらは答える暇がなかった。旅に出た寅さんは再び竜野を訪れる。ぼたんの家に入るとなんと、彼女の部屋の壁には・・・!(1976年)

監督;山田洋次 配役: 車寅次郎 (渥美清) さくら (倍賞千恵子) 竜造 (下条正巳) つね (三崎千恵子) 博 (前田吟) 社長 (太宰久雄) 源公 (佐藤蛾次郎) 満男 (中村はやと) 観光課長 (桜井センリ) 観光係長 (寺尾聰 )鬼頭 (佐野浅夫) 大雅堂の主人 (大滝秀治) 御膳様 (笠智衆) 志乃 (岡田嘉子) 池ノ内青観 (宇野重吉)マドンナ:芸者ぼたん (大地喜和子)

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第18作 男はつらいよ・純情詩集

男はつらいよ・純情詩集寅さんが柴又に戻ってみると、小学校に通う甥の満男の産休代用の雅子先生がちょうど、とらやに家庭訪問に向かうところだった。自分の娘ぐらいの若い先生に向かって大騒ぎを演じた寅さんは、当然のことながら家族たちの大反発をくい、すぐに旅に舞い戻る。

行った先は、長野県・別所温泉。そこでは、旅回りの昔なじみの芝居芸人たちに出会い、大宴会を開く。ところが払う金がない。無銭飲食ということで、はるばる柴又からさくらが、お金を持って駆けつける。

柴又に戻ってみると、雅子先生の母親綾が、3年ぶりの退院で、とらやに挨拶に来ていた。それがなんと、昔のとらやに通っていた幼なじみだということが判明。娘に劣らず美しい、だが年齢的には寅さんにぴったりの「昔のお嬢様」である未亡人の綾に寅さんは夢中になる。

二人は意気投合し、寅さんは近所の噂にもお構いなく、綾と雅子先生の住む大邸宅に通う。だが、綾の退院は、実はもう余命がないためだったのだ。医者は好きなことをさせてあげようと、病院生活から綾を解放したのだった。

二人の楽しいひとときはわずか1ヶ月だった。でもお互いに「恋人」と呼べるような間柄になったのだった。体調が悪くて、寅さんが駆けつけてきたとき、綾は聞く。「ねえ、どうして人は死ぬのかしら」と。寅さん曰く、「それはねぇ、人がどんどん増えちゃって、ぎゅうぎゅう詰めになり、そのうち押しくらマンジュウがひどくなって、海岸の縁に立っている人があーっと言って海にドボンとおちるわけなので。」

やがて、イモの煮っ転がしを届けるにも間に合わず、綾は息を引き取る。とても意気投合した二人だったのに。雅子先生も自分の母親が本当に楽しそうにしていたのを思いだしている。寅さんもさくらに向かって、綾さんには花屋さんを開業してもらい、俺はいっさいの仕事を取り仕切ろうと思ったのになあ、とつぶやく。(1976年)

***寅さんが相手の望むものを届けようとして間に合わなかったケースは、第2作でも見られる。

監督: 山田洋次 原作:山田洋次 脚本:山田洋次/朝間義隆 出演: 渥美清/倍賞千恵子/檀ふみ/笠智衆 マドンナ;京マチ子

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第19作・男はつらいよ・寅次郎と殿様

寅次郎と殿様寅さんの夢は自分が鞍馬天狗になって五条大橋の上で暴れているところ。嵐寛寿郎が、かつてその役で有名だったから。

殿様の義理の娘さがしが、偶然にうまく見つかるなんて、いかにも寅さんの話らしい。シリーズの中でも感情の機微に触れた場面が多く、秀作。とらやの家族の間の言い争いが特に良くできている。いつもの喧嘩は満男に買った鯉のぼりから。

寅さんが、四国は愛媛県・大州を旅していると、なき夫の墓参りをした帰りの若い女性に旅館で出会う。東京の堀切近くに住んでいるが、名前を聞かずに別れた。

大州は、かつて五万石の殿様の末裔が住んでいた。たちまち二人は意気投合し、殿様は勘当同然で駆け落ちした後、早世した息子の嫁である、まり子にしきりに会いたがっていた。東京のどこかにいるから何とかして探してくれと寅さんに頼む。そこは断れない寅さんで、さっそく探し始めるが、すぐにそんなことは不可能だと悟る。

ところが、偶然とは不思議なもので、墓参りをしていたあの若い女性が、とらやに会いに来た。まり子だったのだ。すぐ近くの青戸団地に住んでいるという。すぐに殿様とまり子の会見は実現し、寅さんは胸をなで下ろす。

殿様から手紙が来て、ぜひまり子に大州に来て一緒に暮らしてほしいと言ってくる。しかも再婚の相手として寅さんを推薦したのだ。だが、さくらに頼んで、まり子に聞いてみると、実は会社には再婚してもいい相手がいるという。寅さんは愕然として、またもや失恋。でも、亡き夫の墓参を勧めてくれるような心の広い男がこの世に一体いるのか?

監督:山田洋次 原作:山田洋次 脚本:山田洋次/朝間義隆 出演:渥美清/倍賞千恵子/ 寺尾聡(警官)/三木のり平(執事)/嵐寛寿郎(殿様) マドンナ;真野響子(松竹)

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第20作 男はつらいよ・寅次郎頑張れ!

男はつらいよ・寅次郎頑張れ!寅さんが見る夢はとらや一家がみな金持ちになり、自分が豪華なベッドに寝かされており、汚いカバンを捨てられてしまうところ。今回は恋の手助けをする一方、自分も恋をしてしまうという2重進行だ。

ある日、寅さんがとらやに帰ってくると見知らぬ若者がいる。良介といい、博のいるアパートの近くに住んでいたが、新しい部屋が見つかるまでとらやの2階に仮住まいをしていたのだ。電気工事をやっているので、ワット君という。

例のごとく寅さんははじめは喧嘩腰だったがすぐに仲良くなり、良介が近所の定食屋の娘、幸子に恋をしていることを知る。幸子は秋田の出身で父親は死に、弟の学費の面倒を見るためにおじさんのやっている定食屋で働いていたのだった。

恋愛経験のない良介を見かねて寅さんはデートの仕方をいろいろと教授する。幸子の方も良介の方を好いているようだったが良介は彼女に向かって決定的なことばを言い出せないでいる。良介はそれを口にする機会を求めてもだえ苦しむ。

幸子の母親が胃潰瘍で倒れたという電話が食堂にかかってきた。そのとき「結婚してくれ!」と食堂に飛び込んできた良介はタイミング悪く幸子に追い返される。断られたと思いこみ絶望した良介は二階の部屋に目張りテープを貼り、ガス管の口をひねったが、最後の煙草の一服を吸うためにマッチをすった瞬間大爆発。

男はつらいよ・寅次郎頑張れ!幸いやけどは大したことはなかったが二階はめちゃめちゃになり、良介は長崎県平戸へ帰ってしまった。心配した寅さんは良介の様子を見に平戸へ向かう。毎日釣りをしてぼんやり過ごしている良介を見てひとまず安心はしたものの、彼の姉で街でも船長からも神父からもあこがれの的、藤子に一目惚れ。彼らの家に泊まり込んだ寅さんは毎朝早起きして土産物屋を手伝い、教会にも一緒に出かけるのだった。

一方母親の病気がよくなったので戻ってきた幸子が良介のことを好いていることを知ったさくらは、さっそく平戸に電話する。これを聞いた良介はすぐに東京に向かう。藤子も同行することになり、寅さんは藤子と二人きりで過ごす夢は破れ、留守番をすることになる。

良介と幸子は誤解が解けてみんなの祝福を受ける。心配でいたたまれなくなった寅さんもとらやに戻ってきて、幸子のおじさんも加わりとらやでは祝賀パーティが開かれた。みんなの酔いが回った頃良介が藤子に平戸まで送っていくと言い出す寅さんは実は惚れているのだと告げ、姉に態度をはっきりさせるように迫る。階段の陰でそれを聞いていた寅さんは翌朝早く旅に出てしまうのだった。(1977年)

監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 朝間義隆 キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 中村雅俊 (島田良介) 米倉斉加年(巡査)桜井センリ(神父) 石井均(連絡船の船長)マドンナ;藤村志保(島田藤子) 大竹しのぶ(福村幸子)

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第21作 男はつらいよ・寅次郎わが道をゆく

男はつらいよ・寅次郎我が道をゆく寅さんはUFOに乗って故郷の惑星に戻る夢を見る。とらやに戻ってみるとおっちゃんが体調を崩していた。世の中不景気だらけで隣の印刷工場はもちろんのこと、団子屋の経営もそして寅さんの商売もいっこうに好転しない。おっちゃんにもしものことがあったら寅さんがこの団子屋をついでくれるのだろうか。

寅さんがお見舞いにとお金を包んで渡すとおっちゃんは感激したのはよかったが、寅さんの語るとんでもないとらやの未来図にみんなうんざり。大喧嘩の末、寅さんはすぐに飛び出してしまう。行き先は熊本県の山奥だった。

ひなびた温泉に泊まった寅さんは一人、自分のことを振り返りとらやでの喧嘩のことを反省する。あくるひ川沿いに散歩をしていると大きな杉の木の根本に若い女にふられたばかりの青年がいた。留吉といい寅さんの教えにすっかり心酔し、もう女の子を追いかけずにまじめに農業をしようと決心する。

金が足りなくなった寅さんは、柴又に手紙を出し、心配したさくらがわざわざお金を届けに来て一緒に東京へ帰ることになる。すっかり反省したらしくとらやに戻ってからは店の手伝いをしたりして、みんなが感心するのだった。タコ社長が縁談を探しに行くくらいになったのだ。

ところが博の印刷会社での今年の親睦会が浅草のレビュー(いまはなき SKD-松竹歌劇団)見物ということになり、そこでさくらは幼なじみで中心的ダンサーである奈々子と再会した。ちょっととらやに顔を出した奈々子を見て寅さんが捨てておくはずがない。その日から寅さんのレビュー通いが始まる。

男はつらいよ・寅次郎わが道をゆくしかも寅さんを頼って留吉が上京してきた。東京見物はどこがいいかと聞けばなんと浅草のレビューを見に行きたいという。留吉は根っからのファンだったのだ。

すっかり寅さんと親しくなった奈々子はたびたびとらやを訪れた。彼女は今あぶらの乗り切った時期ではあるが、そろそろ年齢的にも仕事を続けるのは厳しくなってきた。

たいていの人が若い頃の夢がつぶれてそれなりの暮らしをする中で、小さい頃からから歌と踊りが大好きな奈々子は、希望通り自分の仕事を実現した。一方寅さんも小さい頃の夢である「テキヤ」が今実現していて、二人とも「我が道」をゆくことができて、みんなで大笑い。

奈々子には舞台係のなかに自分を好いてくれている男、隆がいる。奈々子はこのまま仕事を続けるべきか悩んでいる。それとも結婚すべきか。いったんは隆に手を切ると言っておきながら、さくらの前で決心が定まらずに泣く奈々子。

いったん恋人がいると知ってあきらめかけた寅さんだったが、仕事に専念すると聞いてさっそく奈々子を慰めにかかる。だが彼女の部屋の窓から雨の中に立ちつくす隆の姿が見えたとたんに奈々子は恋人のもとに駆け寄っていった。どんなに仕事が魅力的でも女は恋をするのだ。

その姿を見た寅さんはそろそろ旅支度だ。奈々子はその年の「夏の踊り」で引退披露をすることになった。奈々子が熱唱するとき、さくらは見に行ったが、寅さんも座席のずっと後ろの方でちらりとその姿を見ていたのだった。(1978年)

監督: 山田洋次 脚本: 山田洋次 朝間義隆 キャスト(役名)渥美清 (車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 武田鉄矢(後藤留吉) 杉山とく子(留吉の母) 竜雷太(宮田隆) マドンナ;木の実ナナ(紅奈々子)

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第22作 男はつらいよ・噂の寅次郎

男はつらいよ・噂の寅次郎葛飾柴又村に住むさくらたちを悪徳金貸しから救ってくれたのは寅次郎地蔵だった、という夢。お彼岸の日、寅さんはふと思いついて亡き父親の墓参りをする。ちょうど来ていたさくらたちと出会い、とらやに戻るが、せっかくのよい心がけもまた夕食の席で喧嘩になりすぐに旅に逆戻りしてしまう。

信州の田舎。通りがかりの虚無僧が「あなたは女難に遭う」と告げる。なるほどダムのふちに佇む女、瞳は男に逃げられて悲嘆にくれていた。寅さんが話を聞いてやりごちそうしてやると元気を取り戻し、バス停の前で別れた。

バスに乗ると、なんと後ろの席に座っていた男は博の父親、一郎だった。岡山から気楽な一人旅に出ていた。寅さんはスポンサーが付いたので芸者を呼んだり、タクシーで寺などを巡る。一郎は「今昔物語」の一つを話して聞かせ、寅さんは大いに感じいるのだった。

ある男が非常に美しい女を妻にしたが、わずか1年でその女は病でこの世を去り、残された男はどうしてもそのおもかげが忘れられない。我慢ができず墓を掘り、棺桶を開けてしまった。妻の腐った姿を見て男は無情を感じ、出家して残りの一生を仏に仕えて過ごしたのだという。

男はつらいよ・噂の寅次郎そのころとらやでは老夫婦の寄る年波に、手伝いを一人雇うことになった。職安から紹介されてきたのは早苗という若い女だった。あまりに早苗はきれいなのでもし寅さんが帰ってきたらまたひと騒動起こるのではないかとみんなは心配する。心配は現実になった。

早苗はこれまで夫と別居していたが離婚届に判を押して以来ふたりはすっかり親しくなる。一目惚れした寅さんは早苗につきまとい、とらやでの夕食で楽しい時を過ごした彼女は、久しぶりに心が温まる気持ちを感じたのだった。「私寅さん好きよ」とはっきり言うので、家族もみんなどっきりする。

早苗の引っ越しの手伝いに行った家で、寅さんは早苗のいとこにあたる高校教師をやっている男と出会う。やがてその男はとらやにやって来て今度郷里の小樽に転勤になったのだという。この男が早苗に惚れていることをすぐに感じ取った寅さんは、旅立ちが迫っていることを知った。(1978年)

監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 室田日出男(添田肇) 泉ピン子(小島瞳) 志村喬(諏訪一郎) 大滝秀治(旅の雲水) マドンナ:大原麗子(荒川早苗)

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第23作 男はつらいよ 翔んでる寅次郎

男はつらいよ・翔んでる寅次郎便秘を治す薬を研究している学者になった夢から寅さんが目覚める。寅さんは旅の移動のついでに柴又に寄ることにした。最近は結婚ブーム。今日もタコ社長の職工のひとりの結婚式があったばかり。寅はいつになったら結婚するのか・・・みんながため息をついているときに寅さんが店先に姿を現す。

だがその夜、学校で三重マルをもらった満男の作文を寅さんがみんなの前で読み上げたときから雲行きが怪しくなる。寅さんが恋愛と失恋を繰り返すことが生々しく書いてあり、学校の先生はこれを大変よくできましたという評価をくれたのだ。

例によって大喧嘩となり、とらやを飛び出した寅さんは北海道南部の海岸に向かう。遠くの海を見つめながらぼやっとしていると、一人で車を運転していた若い女性が近づいてくる。同乗を申し出をいったん断ったのだが、数日後に彼女が支笏湖で若い男に危うく暴行されそうになるところを助けて、旅の道連れとなる。

女は入江ひとみといい、東京の田園調布のお金持ちのお嬢さんだった。結婚が間近に迫っていながら、相手の男の態度がつかめないまま結婚話が周囲によってどんどん進められてしまい、自分の幸せがどうも実感できなくて一人旅に出たのだという。

寅さんは、病気の父親の治療代を出すために大嫌いな名主の息子と無理矢理結婚した薄幸の女の話をして聞かせて、ひとみの悩みがいかに贅沢なものかに気づかせる。寅さんの話を聞いたひとみはいったんは東京へ戻ることにする。

それからしばらくして、ひとみがとらやを訪れるのではないかと気になってしょうがない寅さんは再び柴又に舞い戻ってきた。思った通りひとみはとらやにやって来たが、なんと純白のウェディング・ドレスを着たままタクシーに乗って結婚式場から逃げ出してきたというのだ。

男はつらいよ・翔んでる寅次郎迎えに来た母親の説得にも応じないので、落ち着くまでとらやではひとみを預かることにした。寅さんは大いに喜び、ひとみのためになんやかやと世話を焼く。しばらくしてあらわれたの新郎になるはずだった邦夫だ。

気が優しくて何となく頼りない邦夫は会社社長の息子で、今度の結婚でも自分の意志表示をきちんとしなかった。だが今回の花嫁逃走事件で邦夫はひとみに恋してしまったのだった。自分父親の会社を辞め、勘当されて自活を始めた。だがひとみははじめのうち邦夫をどうしても受け入れる様子を示さない。

だが、とらやの人々の生活に次第に感化されてゆく。タコ社長などは、お見合いの写真の相手と結婚式場の現れた女が違うので仲人に問い正すと、妹を連れてきたのだそうだ。しかも抗議をしようにも仲人に借金をしていたのでできなかったとか。

とらやの人々のささやかながら幸せそうな暮らしに、ひとみは今までは自分の幸せだけを考えていたのだと気づく。自分の幸せはまずまわりの人を幸せにすることによって生まれるのだと知ったのだ。

ひとみは邦夫のぼろアパートを訪れ、愛を誓う。当てが外れた寅さんだが、旅に逃げ出すところをさくらに引き留められ二人の新たな結婚式の仲人をつとめる羽目になった。ささやかな結婚式だったが、金をかけた豪勢な結婚式よりもはるかにすてきだった。(1979年)

監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 朝間義隆 キャスト(役名)渥美清(車寅次郎)倍賞千恵子(さくら) 布施明(小柳邦夫) 湯原昌幸(旅館の若旦那) 木暮実千代(ひとみの母親)マドンナ; 桃井かおり (入江ひとみ)

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第24作 男はつらいよ・寅次郎春の夢

男はつらいよ・寅次郎春の夢サンフランシスコをさまよう寅が、場末の酒場で妹さくらを発見、船長博の助けによって無事日本に帰国する夢から覚めた。秋も押し迫る頃、ブドウを土産にとらやに戻ったのはいいが、二階にはもらいもののブドウが山のように置かれ、台所に降りてみるとタコ社長のお裾分けというわけでまたブドウをもらってしまう。

博が寅さんが持ってきたものとは知らずにこれは酸っぱくてまずいといったものだから、さあ大変、寅さんは再び旅へ出てしまう。行った先は紀州だが、行商仲間の一人が女房に逃げられ、小学生の息子が寂しく弁当を書き込んでいるのを見て、寅さんは無性に柴又に戻りたくなる。

一方柴又では御前様のお寺に迷い込んだアメリカ人、マイケルがその夜の泊まる宿もなく困り果てていた。御前様がマイケルを連れてとらやに行くと、ちょうど満男の英会話の先生、めぐみの母親である圭子がいたものだから、親切なとらやの家族はマイケルと寅さんがいつも使っている二階に当分下宿させてやることにした。

マイケルは日本人の歓待に感激し、しばらくここを根拠地にして、ビタミン剤のセールスをすることにした。ところがそこへ運悪く寅さんが帰ってきてしまった。アメリカが嫌いだという寅さんはさくらたちの止めるのもきかず、何とかマイケルを追い出す計画を立てるが、ちょうど圭子が店にやってきて対決は免れた。

圭子は3年前、アメリカで夫を交通事故でなくし、今柴又に戻って英会話講師の娘と共に二人暮らしをしていたのだ。すっかり圭子が気に入った寅さんは、彼女らの家の増築が遅れているのを見て、昔なじみの大工の棟梁と掛け合う。その結果すっかり入り浸りになってしまった。

恵みと圭子はとらやのディナーに招待される。話題はもっぱら日本人とアメリカ人との愛情表現の違いだった。アメリカでは何でも自分の思っていることははっきりと主張しなければ、なにも進まない。めぐみはかつてボーイフレンドに求愛を受けたときに、「だめよ( That's impossible. )」と言ったこともある。

男はつらいよ・寅次郎春の夢これに対して日本人は博も死んだ圭子の夫も無口で何も言わないが、それは愛情がないというのではなく、お互いの心を察するのに長けているということなのだ。別に I love you. と声を大にして言わなくてもお互いに分かっている。

一方マイケルは一生懸命セールスをするが、日本語も下手で営業に向かない優しい男だったから、少しも売り上げが伸びず毎日疲れ果ててとらやに戻っていた。そして優しくいたわってくれるさくらにひかれるようになってしまった。一度は京都まで遠征してみたが、やはりうまくいかず町中で見た旅回り一座による「蝶々夫人」の劇を見て、又さくらのことを思い出してしまう。

大雨の中柴又に戻ってきたマイケルはなにやかやと面倒を見てくれるさくらに I love you といってしまう。困ったさくらはめぐみの言った言葉をとっさに思い出して impossible と返事をした。マイケルは落胆する。

いつものように寅さんが圭子の家に遊びに来ていたとき、タンカーの船長がやってきた。ふと感じる胸騒ぎ。思った通り、彼は再婚相手だったのだ。長居をしすぎたと感じた寅さんはとらやに戻って旅支度。

マイケルに言われた言葉をさくらが話すのを聞いて、寅さん曰く、「アメリカ人は何でも口にしなければ通じない。俺たち日本人のように相手の心を察することができないんだから、許してやれ」。マイケルと寅さんは仲良くとらやを出る。マイケルはアメリカに戻ってもさくらの写真を持ち歩くのだ。(1979年)

監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 レナード・シュレイダー  朝間義隆 栗山富夫 キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 林寛子(高井めぐみ)ハーブ・エデルマン(マイケル・ジョーダン) マドンナ;香川京子(高井圭子)

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第25作 男はつらいよ・寅次郎ハイビスカスの花

久しぶりに寅さんがとらやに帰ってくると、ちょうどみんなで金町の水元公園へピクニックに出かけるところ。みんなが気をつかって行くことを隠しているのを寅さんがなじって、あわや喧嘩になるところへ速達が届いて、なんとリリーが血を吐いて倒れ、沖縄県・那覇の病院に入院しているという。

その前に博が東京の場末でリリーにばったりあったばかりだったのだが、彼女は相変わらず酒場の歌手をしながら全国を放浪していたのだ。びっくりした寅さんは、大嫌いな飛行機を利用して那覇へ直行する。

沖縄の空も海も真っ青。だが空にはアメリカ軍の飛行機の爆音がやむことはない。孤独な生活からすっかり捨て鉢になったリリーは、病状が少しも良くなっていなかったのだが、寅さんが来てくれてから、みるみる回復し、めでたく退院する。

本部(もとぶ)の海洋博の会場近くに住まいを借りた寅さんは、(別々の離れだが)しばらくリリーと一緒に暮らす。とらやではもしや同棲では?という思う者もいたが・・・寅さんは、相変わらず人気者で、水族館のお姉さんと親しくなったりして毎日忙しい。

だが、今まで通りの気さくな寅さんだけでは、リリーは何か落ち着かない。寅さんの一生で女が惚れてくれたのはこれが最初で最後だ。だが寅さんはいつもの照れ屋の癖が直らず、女の気持ちが分からないのだとリリーはがっかりしてどこかへ行ってしまう。

リリーの後を追って寅さんも沖縄を出て、行き倒れ同然で柴又に戻る。リリーもひょっこりとらやに立ち寄った。寅さんが、「おまえと所帯を持ってもいいな」とぼそりと言う。リリーはちゃんとそれを聞いているのだが、聞こえなかったふりをして再びさすらいの旅に出ていってしまうのだった。

監督:山田洋次 原作:山田洋次 脚本:山田洋次/朝間義隆 出演: 渥美清/倍賞千恵子/江藤潤 マドンナ;浅丘ルリ子

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第26作 男はつらいよ・寅次郎かもめ歌

男はつらいよ・寅次郎かもめ歌柴又村の悪代官をやっつけて妹のさくらと再会した夢から覚めると、寅さんは久しぶりにとらやに向かった。ちょうど国勢調査の最中で寅さんがとらやの居住者かどうかもめているところだったのだ。博とさくらはとらやの店を担保に入れて貰い、月々のローンを払うことで念願の一軒家を近くに買うことができた。

寅さんは新居に自分が泊まる部屋まで用意してあるのに感動し、源公から無理矢理2万円を借りて、さくらたちに新築祝いとして手渡す。その金額の多さに驚いた博はこんなに受け取るわけにはいかないと返そうとするが、それに腹を立てた寅さんはすぐに旅に出てしまう。

北海道江差町では民謡のど自慢大会が開かれていた。久しぶりに集まった行商仲間の間で、大酒のみでギャンブラーの男のことが話題になる。だがその男はもうすでに病気で死んでいた。親しくしていた寅さんはせめて線香の一本もあげようと奥尻島に向かう。

島には一人のこされた娘、すみれがいて墓参りに連れていってくれた。母親はすみれが3歳の頃に生き別れ、海岸のあばら屋に彼女一人で暮らしていた。「柴又」の字も読めず、口数の少ないすみれだったが、東京に出て定時制高校に通いながら働きたいという希望を寅さんに話す。

自分の娘のような気がした寅さんは、すみれを連れて柴又に戻ってきた。とらやの人々はいつものように気がいいから、すみれが自立できるようになるまで店の二階に泊めてやり、定時制の入学試験のために博とさくらが特訓までしてくれた。

男はつらいよ・寅次郎かもめ歌試験当日、すみれは急におじけづき、目の前の困難から逃げようとするが、寅さんは「大酒のみでばくち打ちの男の娘だからぼんくらなんだ、と言われてもいいのか」と言ってすみれを励ます。

試験は合格し、タコ社長の世話でセブンイレブンのパート店員の仕事も世話してもらった。すべては順調な滑り出しを始めた。父親代わりといっても、寅さんはすみれの学校の送り迎えをし、学校では生徒たちの人気の的になってしまった。

学校の授業では浜口国男の詩「便所掃除」が紹介される。その詩に込められた社会への意識がすみれの気持ちに影響を与えただろうか?すみれはクラスの中でも交流を通じて多くのことを学んでいく。

そのころ、札幌に住む大工の貞夫はかつての恋人が奥尻島からいなくなっているのを知り、はるばる東京まで彼女を追いかけてくる。ちょっとした諍いで離れていた二人はもとのさやにもどる。

一晩電話連絡もせず戻らないので、とらやのみんなが心配する中、すみれは翌朝姿を現した。寅さんはすみれの姿をみて怒りで爆発しそうになったが、それを押さえてすぐに旅に出る。必ず幸せになるんだぞと言い残して。(1980年)

監督: 山田洋次 原作: 山田洋次  脚本: 山田洋次  キャスト(役名) 渥美清 (車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 村田雄浩(菊地貞夫) 松村達雄(林先生) 米倉斉加年(青山巡査) あき竹城(スルメ工場のおばさん) 関敬六(テキ屋の忠さん) 杉山とく子(国勢調査のおばさん) マドンナ;伊藤蘭(すみれ)

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第27作 男はつらいよ・浪花の恋の寅次郎

男はつらいよ・浪速の恋柴又では、隣のタコ社長が頭を抱えていた。印刷工場の経営がうまくいかず、借金を抱え不渡り手形をつかまされたりで、工場を閉鎖しようかと悩んでいた。

そこへ寅さんが帰ってきて、脳天気にも自分が竜宮城の乙姫様と遊び、横にいたタコ社長そっくりのタコにスミを吹きかけられたなどというものだから、二人は大喧嘩。タコ社長は一層みじめな気持で金策に出かけて行く。

その日はタコ社長は連絡もなく、帰ってこない。心配した寅さんは自分の言葉が原因で身投げでもしたのかと思いこみ、江戸川を下流にむけて水死体を探しに行く。

遅く帰ってきたタコ社長は無事金を借りることができ、ほっとして酒を飲んでいたとのこと。それを聞いた寅さんは怒るが、翌朝タコ社長にはまわりに心配してくれる人が大勢いるのに、自分には誰も心配してくれる人がいないと言い捨てて再び旅に出ていく。

瀬戸内海のあるひなびた小島。寅さんが墓地の近くの丘の上で一休みしていると、大変な美人が墓参りに訪れた。寅さんが話しかけると二人は意気投合。浜田ふみという名で大阪で働いているといい、また会える日を楽しみに別れた。

寅さんは、久しぶりに大阪に出た。だがこの土地の商売はどうもうまくいかない。くさくさしているところ、向かいのおみくじ屋にふみが現れたのだ。「待ち人来る」の占いはぴったり当たってしまった。

二人は大阪中をデートする。ふみは芸者だったのだ。寅さんは有頂天である。そんなある日ふみに幼い頃に別れた弟がいることが話に出て、寅さんは早速弟に会いに行こうと言い出す。

だが弟のつとめていた神戸の運送会社には悲しいニュースが待ち受けていた。ところが、会社の主任が現れ、弟は先月心不全でなくなったのだという。悲しみに暮れるふみ。その夜宴会の仕事を終えるとふみは酒を飲んで、寅さんの泊まっている旅館に転がり込んだ。

ふみはこんな気持の中、寅さんに抱いてもらいたかった。だが寅さんはそっと部屋を抜け出ると別の部屋で寝た。ふみは早朝、「先のことは一人で考えます」という置き手紙を残して出ていった。旅館の息子、喜介が「女を手に入れるには根性がなかあかん」とアドバイスしてくれたが寅さんにはその根性がない。

傷心の思いで寅さんは葛飾に帰るが、ある日ふみがひょっこり姿を見せる。だが、寅さんの喜びもつかの間、彼女は芸者をやめ、まじめ一本の若者と結婚して対馬に渡り、寿司屋をやるという。これを聞いて、寅さんは再び大ショック。

再び失恋した寅さんは何ではるばる、ふみが柴又まで報告にやってきたのだろうといぶかる。「はがき一本出せばそれで済むことじゃないか」。寅さんには、あの旅館での一夜抱いてもらえなかった”女の恨み”がわからなかったのだ。(1981年)

監督: 山田洋次  製作: 島津清  佐生哲雄  原作: 山田洋次  脚本: 山田洋次  朝間義隆  キャスト:渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 芦屋雁之助(喜介) 大村崑(主任) マドンナ;松坂慶子(浜田ふみ)

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第28作 男はつらいよ・寅次郎紙風船

男はつらいよ・寅次郎紙風船柴又小学校の同窓会があった。ちょうどその日にとらやへ帰ってきた寅さんは、早速出かけていく。だが、みんな立派な社会人になっている中で渡世人の暮らしをしているとなれば、誰も寄りつかない。しかも小学校の時にはみんな寅さんにさんざんいじめられた。

ぐでんぐでんに酔っぱらって帰ってきた寅さんはすぐに旅に出る。同級生がみんな寅さんを避けていたのだ。あとには満男に買って帰った紙風船が所在なく転がっていた。

九州は大分県・日田(ひた)市にある夜明駅。たった一つしかない旅館に泊まっていると若い女性が相部屋を求めているという。愛子という名の娘はまだ高校生の年齢で、男を作った母親がいやになり静岡県焼津の実家から家出してきたのだった。

寅次郎紙風船愛子は寅さんにすっかりなつき、商売の手伝いをする。久留米、柳川などを巡り、ある祭りの屋台で見かけたのは、渡世人仲間、常三郎の女房・光枝だった。常三郎は病気だという。寅さんは一度は見舞いに行かねばと、甘木(朝倉)のはずれ、秋月にある、古い石橋のかかる川のほとりの彼の家を訪れる。常三郎は退院したばかりで光枝もいた。

常三郎はたいへん喜ぶが、寅さんにもし自分が死んだら光枝を女房にもらってくれと約束させる。寅さんは半分本気で、半分病人の頼みということで引き受けてしまう。だが帰り道、光枝から常三郎はあと一ヶ月も持たないことを知らされる。

はかない命を見て、寅さんは愛子をおいて柴又に帰り、真人間になって出直そうと考える。愛子は再びあとを追ってやってきたが、マグロ漁船の船員である兄の健吉が心配してとらやまで訪ねてきて、妹を叱りとばし、焼津へ帰っていった。

しばらくして光枝が文京区の旅館で仲居をやっていることを知り、とらやに食事に招くのだった。だが光枝が来たのは夫が死ぬ間際に自分が死んだら寅さんの妻になるように言われたことが本当なのか確かめたかったからだ。

柴又の駅前で光枝が寅さんに向かって、本当にそんな約束を常三郎としたのかと尋ねると、寅さんは病人の前だからそう言ってしまったのだと答え、光枝は犬や猫じゃあるまいしと言いながら、それを聞いて納得したような顔をした。男と女の行き違い。夫婦になるかもしれなかった男女がその瞬間、通り過ぎるだけの相手に変わってしまった。(1981年)

監督: 山田洋次  製作: 島津清  佐生哲雄  原作: 山田洋次  脚本: 山田洋次 朝間義隆  キャスト;渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 吉岡秀隆(満男)岸本加世子(小田島愛子) 小沢昭一(倉富常三郎) 犬塚弘(棟梁) 前田武彦(柳) 地井武男(小田島健吉) マドンナ;音無美紀子(倉富光枝)

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第29作 男はつらいよ・寅次郎あじさいの恋

男はつらいよ・寅次郎あじさいの恋信州の貧しい百姓夫婦の家に泊めてもらった寅さん扮する旅の男は、自分たちにはろくな食べ物もないのに客人のために白いご飯を用意してくれた夫婦のために、ふすまに雀の絵を描いて去る。雀は翌日になってふすまから抜け出て、これが近所の大評判・・・という夢だった。

信州から京都の葵祭りへ。寅さんは今日も旅を続ける。鴨川のほとりで下駄の鼻緒が切れて困っていた加納老人を助けたのが縁ですっかり気に入られ、寅さんはこの国宝である大陶芸家の家にしばしば出入りするようになる。

加納老人の家にはばばと弟子の他に女中のかがりがいた。かがりは数年前に夫に死なれ、母親と娘を丹後半島に残して京都に働きに来ていたのだった。寅さんはかがりと仲良くなるが、かがりが結婚するはずだったもう一人の弟子が別の女と結婚したため、加納老人からその控えめすぎることを叱咤されたこともあって、丹後半島へ帰ってしまう。

話の始終を加納老人から聞いた寅さんは、風の吹くままといいながら早速、丹後半島に向かう。絶壁に囲まれた狭い水際に小さな家が寄せ合うように並んでいた(舟屋集落)。寅さんの思わぬ訪問を受けたかがりはびっくりしながらも、このひとなら今の寂しい生活を救ってくれると思ったのかもしれない。

その夜、泊めてもらった寅さんだが、そっとしのんできたかがりの前で寝たふりをする。何事もなく、翌朝別れるが寅さんは別れた瞬間から急に恋いこがれ、そのまま柴又に帰って寝込んでしまう。みんなは心配するが、恋煩いだということは誰でも知っている。

そこへかがりが突然とらやを訪れた。加納老人の、これというときには命を懸けてもぶつかって行けという説教の通り、はるばる丹後半島からやってきたのだ。そして寅さんに、鎌倉のあじさい寺で待っているという手紙を密かに渡す。博がおどろいた。これは今までにないケースだと。

アジサイの咲き誇る寺の中で、果たしてかがりは待っていた。だがこともあろうに、寅さんはいやがる甥の満男をいっしょに連れてきたのだ。かがりは失望の色を隠せない。そして二人の間にはしゃべる言葉もない。京都ではあんなにおもしろくて優しい寅さんだったのに、なぜ今こうして二人でいると気まずい気持なのだろう。

この出会いが無駄だったと悟ったかがりは、その日のうちに新幹線で帰っていく。いつもフラれてばかりの寅さんはかがりをフッたのか?いやそうではない。おっちゃんの言葉によれば、寅さんには甲斐性がないんだとのこと。(1982年)

監督: 山田洋次 撮影: 高羽哲夫 出演; 渥美清(車寅次郎) /倍賞千恵子(さくら)/杉山とく子(かがりの母)/関敬六(仲間のテキヤ)/柄本明(近藤)/津嘉山正種(蒲原)/片岡仁左衛門(加納) マドンナ;いしだあゆみ(かがり)

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第30作 男はつらいよ・花も嵐も寅次郎

男はつらいよ・花も嵐も寅次郎このタイトルは、昔の流行歌「花も嵐も踏み越えて・・・」で始まる歌詞からとったもののようだ。恋を成就するためにはそのくらいの覚悟が必要なのだ。冒頭の夢は、ミュージカル「ウェストサイド・ストーリー」をひねったもの。沢田研二が一曲歌ってみせる。

久しぶりに葛飾に戻ってきた寅さんだったが、店の前で幼友達だった女といちゃつき、すでに亭主がいるとも知らずに手を握ったりしたものだからおっちゃんは憤慨し、夕食の時にもろくに口を利いてくれない。せっかくの松茸ご飯も手を着けぬまま寅さんは再び旅へ。

九州では、杵築、臼杵など別府周辺ではお祭りが相次ぎ、寅さんは各地を回っては商売をしていた。湯布院から奥へ入り、くじゅう連山の麓、湯平(ゆのひら)温泉の昔なじみの親父がやっている旅館に泊まることになった。

その晩は、東京から車でやってきたおとなしそうな青年三郎と、同じく東京からやってきた若い女性の二人組も泊まっていた。親父と寅さんがその晩話し込んでいると、三郎がやってきて自分は実はこの旅館に昔働いていた女中の息子だという。最近東京で病死し、郷里のお墓に納める前に、回り道をして生前しきりに懐かしがっていたこの旅館を見せてあげようとお骨を運んできたのだった。

その親孝行に感激した寅さんは、その夜おやじと共に、その女性とかつてゆかりのあった人や東京からやってきた二人の女性たちも巻き込み、わざわざ坊さんをよんで盛大な読経をやってもらう。こんな人の出会いこそ、「袖振り合うも多生(タショウ)の縁」なのだ。

翌朝、それぞれは出発するが駅への途中で、寅さんはあの二人の女性たちと一緒になる。そのうちの一人蛍子はまだ恋人もいないデパートの店員だった。3人はあたりを散策していたが、いい加減疲れたところに、三郎青年が車でたまたま通りかかり、寅さんに世話になったこともあってみんなでサファリパークやらあちこちをドライブして回る。

その間に三郎は蛍子がすっかり気に入ってしまったらしく、大分港のホーバークラフト乗り場で別れるとき、何か言おうとするが内気な性質で、間際にいきなり「つきあってください」としか言えなかった。蛍子は困った顔をしていってしまう。寅さんはそれを見ていてそんなんではいつまで立っても恋人はできないと、恋の手管を伝授する。

二人で車に乗って東京へ帰り、とらやでは珍しく寅さんの連れてきた男性の訪問客で、にぎやかになった。三郎は動物園でチンパンジーの飼育を担当しており、「自分の子供」とよぶほどだ。寅さんは三郎に頼まれて蛍子に会うことになる。それとなく気持を伺うが、それではと、とらやに二人を別々に招待して、不意打ちお見合いをさせることにする。

かくして二人は江戸川の川縁で初デートということになるのだが、三郎は女性とのつきあいがまったく得意でないのでどうも会話が弾まない。チンパンジーの話題ばかりだ。将来のことが不安になった蛍子は寅さんに相談する。

寅さんにカツを入れられた蛍子はみずから動物園に突然出かけて三郎に真意を聞こうとする。だが心配無用。観覧車に乗っている間、三郎は勇気を奮い起こして蛍子にプロポーズできたのだ。二人がうまくいったことを聞いて寅さんも旅に出る。今回の寅さんは恋をしない。キューピット役であった。(1982年)

監督: 山田洋次  製作: 島津清  佐生哲雄  原作: 山田洋次 配役;渥美清(車寅次郎)倍賞千恵子(さくら)沢田研二(三郎) マドンナ;田中裕子(螢子)

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第31作 男はつらいよ・旅と女と寅次郎

男はつらいよ・旅と女と寅次郎旅の途中での夢は、佐渡の金山で一揆を引き起こしたお尋ね者の寅吉が、故郷の柴又に舞い戻るが妹さくらの夫、博が岡っ引きになっていて、寅吉はおとなしくお縄になるという話。

ある日、タコ社長がとらやの店先で借金に追われる毎日であるが人間だれしも「重し」を背負っていきている話になる。そして「重し」がないのは誰かという話になろうとしたとき、寅さんが帰ってくる。寅さんは重しもないし財布も軽い。

おいの満男の小学校最後の運動会に、博が仕事があるために行けないので、寅さんは応援に行ってやると言い出すが、学校での騒ぎが起こることをみんな恐れているので、誰も寅さんに行ってもらいたくない。

翌日は大雨で運動会は中止。応援を断られておもしろくない寅さんは再び旅に出るが、満男は邪険におじさんの応援を断ったと、しょんぼりしている。満男は成長するにつれ、寅さんには他の家族と比べて次第に同情的になってきているのだ。

田圃に沿って防風林が生えている光景がみえる。寅さんは新潟の街で商売を始めたのだ。新潟港をぶらつくうち、佐渡に帰るところの漁師と親しくなり彼の漁船に乗せていってもらうことにする。いざ出発というときに、トンボめがねをかけた謎の若い女が現れる。いっしょに佐渡島に連れていってくれという。

船酔いでフラフラの寅さんと女は、上陸し民宿に泊まることになる。浴衣に着替えた彼女を見たとたん寅さんはすぐに一目惚れ。宿の婆さんから全国的に有名な演歌歌手である京はるみであると聞かされるが、失踪中であることも知らぬふりをして何か悩みが多そうな彼女につきあって翌日から島内を巡る。

ユリの咲き乱れる海岸や、生き物がうごめく磯を歩き回り、はるみは得意の歌を歌ってみせ、すっかり元気を取り戻す。だが、プロダクションの連中はついに小木の港の食堂ではるみを発見し、戻ってくれと嘆願する。晴海は楽しいひとときをいっしょに過ごせたと寅さんに礼を言い、手を置いて指輪を渡し、連絡船で去っていってしまう。

ひとり残された寅さんは、為すすべもなくフラフラと柴又に帰り、放心したようにはるみの歌をカセットで繰り返し聞いてばかり。また恋の病かと心配する家族だが、はるみがある日とらやを訪れる。柴又界隈は大騒ぎ。タオルとトイレ用の手洗いタンクのぶら下がる縁側で近所の人々を前にして、はるみは「あんこ椿」を歌うのだった。

とらやの二階で二人きりになったとき、はるみは別れた恋人とやり直す気だと寅さんに告げる。これを聞いて、寅さんも再び旅に出るのだった。半年後、博とさくらがはるみのリサイタルを聴きに行っていた。はるみはステージ上から、佐渡で寅さんにどんなに元気づけられたかを語る。

このストーリーは、おしのびの王女が新聞記者と恋をしてしまうあの「ローマの休日」を彷彿とさせる。恋というものは、短くて成就しないとわかっていればそれだけ美しい思い出になるものなのだ。(1983年)

監督: 山田洋次  製作: 島津清  佐生哲雄  原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次  朝間義隆  キャスト:渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 藤岡琢也(北村社長) 桜井センリ(三田) マドンナ; 都はるみ(京はるみ)

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第32作 男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎

男はつらいよ・口笛を吹く寅次郎今年は博の父親が亡くなって3年目。中国地方を旅していた寅さんは、備中高梁に立ち寄って、博の代わりに墓参りに訪れる。寺の境内の階段を下りるところで、この寺の和尚とその娘、朋子に出会った。寅さんが遠く東京からやって来たときいて二人はぜひ寺に立ち寄るようにとすすめる。

その晩、和尚と寅さんはすっかり意気投合し、一晩泊まることにした。もちろん朋子も強くすすめるので。翌朝出発しようとする矢先、法事の迎えにタクシーがやってくるが、和尚は前の晩に飲み過ぎて二日酔いになりふらふらだ。寅さんは急遽代理としてつとめることになった。

帝釈天で小さい頃から遊んでいただけあって、お経のあげ方はわかっている。しまいめには見事な法話で出席者の喝采を浴び、寅さんは一躍町の人気者になってしまった。それからというもの、和尚の助手として法事に、寄り合いに活躍することになってしまった。

朋子は一回結婚に失敗し戻ってきて父親の身の回りの世話をしている。寅さんはもちろん夢中になってしまい、毎日が楽しく過ぎて行く。朋子には一道という弟がいるが、せっかく入った大学の授業にも出ず、カメラを片手にそこら中を歩き回っているために、父親とは口も聞かない。

男はつらいよ・口笛を吹く寅次郎博の父親の法事が近づいてきた。さくらや満男も連れて博と兄姉たちが高梁に集合した。和尚のあとにくっついている寅さんを見てさくらはショックを受ける。とらやでは寅さんがいったいどうやって寺に居着いてしまったのかといぶかり、今度の恋の相手は誰だということになった。

一道は大学の授業料をカメラに使ってしまったことがばれ、父親に追い出される。東京にいる友だちを頼って働きながら写真家になる修行をしに行くといい、恋人のひろみをおいて列車に飛び乗ってしまった。

町には和尚が寅さんを婿養子にしてお寺を継がせるのではないかといううわさが広まった。和尚が風呂に入っていたとき、すぐ近くに寅さんがいるのに気づかないまま、娘に向かって寅さんとの結婚話をしてしまう。居づらくなった寅さんは書き置きを残していったん柴又へ帰る。住職になるのはなかなか大変だし、年月もかかると分かった。

突然ひろみが上京してきた。一道ととらやで再会することができた。しばらくして弟のことが心配で朋子も上京してきた。とらやの人々が若い二人のことを親切に世話してくれたことを聞いて安心した朋子だったが、実は寅さんの「真意」を確かめたかったのだ。

肝心のことは朋子が柴又駅のホームから電車に乗り込む瞬間まで先延ばしされた。朋子がどんな返事を求めているかは寅さんは十分に承知しているのだが・・・(1983年)

監督: 山田洋次  原作: 山田洋次  脚本: 山田洋次 キャスト(役名)渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 中井貴一(一道) 杉田かおる(ひろみ) 下絛正巳(車竜造) 三崎千恵子 (車つね) 前田吟 (諏訪博) 太宰久雄  (社長) 佐藤蛾次郎 (源公) 吉岡秀隆  (諏訪満男) 笠智衆  (御前様) 松村達雄 (和尚) マドンナ;竹下景子(朋子)

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第33作 男はつらいよ・夜霧にむせぶ寅次郎

男はつらいよ・夜霧にむせぶ寅次郎今回は寅さんは失恋しない。むしろ若い娘から惚れられるのだが、あのリリーなどと違って彼女が根無し草になるようなタイプの娘でないことから、何とかして彼女を普通の生活に落ち着かせたいと思う。

それにからまる、中学校のブラスバンド部に入った満男、堅気になった登や結婚の決まったあけみ、夫を捨てた妻の4つのエピソードはすべて「落ち着いた生活への志向」を暗示している。

寅さんは盛岡にいる。これから祭りを追って、北上していくのだ。ある日、祭りを見物に来たかつての舎弟、登に出会った。すっかり堅気になり妻と幼い娘をもうけて、今川焼きの小さな店をやっている。

そのころ柴又ではタコ社長の娘、あけみちゃんがようやく結婚をすることになった。親戚や知り合いが次々と片づいて、さくらたちは「あと一人」だけ残っていることを思い出す。寅さんは依然として渡世人家業から足を洗わないでいる。

盛岡から八戸、そして釧路へと寅さんはやってきた。町の床屋で散髪してもらっていると、美容師の資格を持っているという若い女の子が、断られるのを承知で働き口がないかと店に入ってきた。

店を出て、ベンチに座っている彼女に話しかけると、とうに母を亡くし、その後は一つの所にとどまることができずにいろいろな場所を点々としてきたという。それで、「フーテンの風子(ふうこ)」というのだった。同じフーテン同士の出会いに、二人は気があってしばらく旅をいっしょに続けることになる。

その晩泊まった旅館は満員で、一人の男が寅さんと相部屋になる。根暗な奴だと思ったら、常磐線の牛久沼に家を買ったのはいいが、ローンが払えずに女房が働きに出て、たちまち男ができて彼と娘を置いて姿を消したのだという。

霧多布(きりたっぷ)あたりに住んでいることがわかったので、連れ戻しに行くのだという。寅さんと風子は無理矢理つきあわされた。だが、その場所に行ってみると、男の妻は、新しい男と幸せそうに暮らしていた。かわいそうだったが、寅さんはすべてをあきらめて家に帰るようにとその男に勧めた。

根室に着くと、風子はおばさんに会い、小さな理髪店に世話をしてもらうことになった。寅さんは、ここで商売をする。だが、風子は寅さんに惚れてしまい、これからの旅もずっとついてきたいと言い出す。だが、寅さんは風子が実はまじめな娘で放浪には向いていないことを知って、この町で落ち着くことをすすめる。

久しぶりに寅さんはとらやへ帰るが、ちょうど店にいたのはあの女房に逃げられた男だった。風子が東京に来ているという。だが金を借りに来てそのまま追い返したために、行方しれずになってしまっていた。寅さんは見つからないことは承知で新聞広告に出したり、東京中を探し回る。

ある日、店にトニーと名乗る若い男がやってくる。根室ではサーカスのオートバイ乗りをやっていた男だ。風子に惚れて、東京に連れてきたのだが、今病気でふせっているのだという。寅さんは風子を連れ帰り、とらやで静養させる。

寅さんは、回復した風子にはこの町で理髪店の仕事を見つけてやり、いい男が見つかったら結婚させて平凡な幸せを持てばいいと思っていた。トニーの所にも出向き、風子とは別れさせた。

だが、風子にはこれが気に入らなかった。トニーとのことは自分で決着をつけるつもりでいたのに、寅さんのとった行動に腹を立て、とらやを出ていってしまうという悲しい結末となった。

だが、時はすべての傷を癒すもの。北海道に帰った風子はやがて落ち着き、一緒に暮らす相手を見つけたのだ。博と桜と満男も、そして寅さんまでがはるばる結婚式にでかけていったのだ。(1984年)

監督: 山田洋次 キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら)加藤武(金吾) 文野朋子(伯母きぬ) 秋野太作(登) 人見明(理容店主) 谷幹一(黒田) 関敬六(寅の仲間) 佐藤B作(福田栄作) 美保純(あけみ) 渡瀬恒彦(トニー) マドンナ;中原理恵 (木暮風子)

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第34作 男はつらいよ・寅次郎真実一路

男はつらいよ・寅次郎真実一路最初の10分間は、怪獣映画である。寅次郎扮する博士がタコ社長の扮する総理大臣に、怪獣をやっつけるようにと頼まれる夢だ。ゴジラというよりもエリマキトカゲに似た怪獣が東京を破壊し、博士の住む筑波山麓に迫る。

ある日寅さんがとらやへ帰ってみると、タコ社長の娘あけみが夫と喧嘩して戻ってきたところだった。寅さんはさっさと別れろというが、せっかく家に帰るようにと説得したばかりだったので、社長と大喧嘩になる。御前様の仲裁が必要になった。

ふてくされて上野で酒を飲んだのはいいが、払う金がない。さくらに電話してもいろよい返事をしてくれないので、電話を切ってしまう。さあ、いよいよ無銭飲食で留置場入りか?さいわい横で飲んでいた鹿児島出身の男、富永が金を払ってくれた。

翌日寅さんはバナナを携え、東京駅にある一流会社、スタンダード証券に、富永を訪ねていく。仕事が終わったら昨日のお礼にいっしょに飲もうと思ったのだが、仕事がなかなか終わらない。やっと10時近くになって富永は仕事から解放された。

二人はてんでに酔っぱらい、富永は枕崎の自分の故郷のことを話す。富永はこの会社の課長で、今度茨城県の常磐線にある牛久沼の近くに家を買ったのだ。前後不覚の寅さんは、いっしょに電車に乗り、彼の家に泊めてもらってしまった。

朝、目が覚めると、大変な美人の奥さんが朝食の用意をしてくれた。夫は7時半の会議に出るために6時にもう家を出たという。壁には富永のまじめな性格がよく出て、「真実一路」と書いた色紙が貼ってある。小学生の息子と3人暮らし。寅さんは夫人に心引かれながら早々に沼のほとりの家をあとにする。

それからしばらくたって夫人からとらやに電話があった。夫が会社を出たきり帰ってこないのだというのだ。大急ぎで牛久の家に駆けつけた寅さんだったが、いったいどこへ行ったのか見当もつかない。ただ毎日の過酷な通勤と猛烈な残業、ストレスの多い職場が、蒸発の原因だろう。

寅さんは不安で夜も眠れない夫人を慰めようと、とらやに招待した。夫人は自分と息子だけの寂しい食卓に比べて、とらやがなんて暖かくにぎやかかと驚いてしまう。息子はみんなの前で上手に歌をうたってみせた。

夫人は、九州の親戚が夫らしき人を見かけたというので、鹿児島まで行くことになった。金のない寅さんはタコ社長に頼み込んで金を貸してもらいいっしょに探しに行く。夫の実家に泊めてもらい、タクシーであちこち行ってみることになった。

枕崎を中心として、富永が小さいころ過ごした場所をあちこち回った。コスモスの咲き乱れる低い山に囲まれて波一つない小さな浜辺、ひなびた温泉、どこへ行っても目の覚めるような美しい風景に満ちあふれていた。夫人もこれまで夫がこういうところで子供時代を過ごしたということを知らなかったのだ。

温泉宿の宿帳には、宿泊者の名前が「車寅次郎」としてのっていた。確かに数日前この宿に富永は泊まったのだ。二人は霧島まで足を延ばしたが、結局見つからなかった。

柴又に戻ると、寅さんは寝たきりになった。すっかり夫人に惚れてしまい、心の底で富永が帰らなければいいという気持がわいてきて、自分はなんて醜い人間なんだと悩んでいたのだ。

だが突然とらやの店先に富永は姿を現した。無精ひげを伸ばし、このまま家に帰りにくいから、寅さんにいっしょに行ってほしいのだという。二人は大急ぎで牛久へ向かう。夫人が大泣きするのを聞いて、寅さんもほっとした。このまま土浦から旅に出ることにした。(1984年)

監督: 山田洋次  製作: 島津清  中川滋弘  原作: 山田洋次  脚本: 山田洋次  朝間義隆  キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 津島恵子(静子) 風見章子(和代) 辰巳柳太郎(進介) 美保純(あけみ) 米倉斉加年(富永健吉) マドンナ;大原麗子(富永ふじ子)

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第35作 男はつらいよ・寅次郎恋愛塾

男はつらいよ・寅次郎恋愛塾寅次郎の夢は柴又村の悪代官によって、老人はみな姥捨て山に捨てられることになった場面。寅さんが居眠りから目が覚めると、そこは長崎県の無人駅。仲間のポン州とともに、商売にやってきたが、フェリーで耶蘇教会があちこちにたつ、五島列島の一つ中通島の上五島町にたどり着いた。

二人で港にたたずんでいると、腰の曲がったおばあさんが通っているのがみえる。ところが二人の目の前でおばあさんは突然倒れ、介抱して家まで送っていくことになる。おばあさんは一人暮らしで、ハマといい助けてくれた二人に焼酎を振る舞いその夜は3人で大いに楽しい時を過ごした。

だが、明け方になってハマは急に具合が悪くなり、神父さんを呼んでくれという。ハマは明け方に亡くなり、年寄りしかいないこの島で、二人は墓掘りを引き受けることになった。重労働をした後の飯はうまい。労働者はいつも飯がうまいんだと寅さんは言う。

葬儀の日、東京からハマの孫娘である若菜がきていた。教会堂の出口で出会った寅さんはすぐに惚れてしまうが、長く話し込むわけにはいかずとらやの住所を渡して別れる。

その夜旅館で聞いたところによれば、ハマの娘は外からきた男にだまされて父なし子を生み、まわりからのうわさに絶えられず自殺したあと、ハマが若菜を一人で育ててきたのだった。その若菜も今は東京に住んでいるとのことだった。

男はつらいよ・寅次郎恋愛塾柴又では、満男は将来の進路に悩み、タコ社長も毎日の金策に疲れ、ふと自由な寅さんのことが懐かしくなってきた頃だった。寅さんはひょっこりとらやの店先に姿を見せた。若菜からの手紙が届いていないか気になっていたのだ。

やはり、手紙は来ていた。寅さんはさっそく彼女の住むアパートに乗り込む。大家の小春と仲良くなって、すぐに若菜と会うことができた。寅さんはハマさんと過ごした最後の夜のことを話し、二人は急速に親しくなる。

アパートの一階には、くそまじめな学生、民夫が一人ハチマキを締めて司法試験に挑んでいた。そこへ寅さんが冷やかしに入ってくると、どうやら若菜に熱を入れて勉強にも身が入らないらしい。だが民夫は壁に飾ってあるベートーベンと同じく、どうも恋愛には向かないタイプなのだ。

寅さんは若菜をとらやに招待し、若菜はずっとこれまで一人で暮らしてきただけにそのにぎやかで楽しい食卓に感激する。彼女は写植の技術を持っていたが、これまで勤めて印刷会社を辞めてしまったので、印刷工である博のつてで新しい会社を紹介してもらった。

男はつらいよ・寅次郎恋愛塾柴又駅での別れ際、民夫のことをひやかした寅さんは若菜が彼のことを憎からず思っていることを感じ取って、二人を何とかくっつける役目を引き受けることにする。さっそく寅さんは民夫を墓地に呼んで、細かな点までデートの仕方をコーチした。

三人で映画にゆくという約束をした日、寅さんは腹が痛くなったといってやってこなかった。仕方なく二人はデートをする羽目になる。レストランや酒場、公園の散歩と、民夫は寅さんに言われたとおりにやって二人の仲はスムーズに進展した。

雨が降ってきて二人はアパートにたどり着くと、果たして若菜は民夫を自分の部屋に誘った。せっかく彼女の部屋に入ったのに、昨晩から緊張のあまり一睡もしておらず水割りを5杯も飲んでいた民夫は緊張の解けたせいかたちまち眠りこけてしまった。

翌朝は若菜に口も聞いてもらえず、寅さんからはあきらめろとどなられて民夫は絶望した。生きるのがいやになって、故郷の秋田に帰ると鹿角から八幡平の山中にさまよい込んでしまった。寅さんと若菜、そして担当教授の牛山は大慌てで民夫の後を追い、山腹にいた民夫をやっと発見する。(1985年)

監督: 山田洋次 キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 平田満(酒田民夫) 杉山とく子(小春) 初井言栄(江上ハマ) 関敬六(ポン州) 松村達雄(牛山教授) 笠智衆(御前様)マドンナ; 樋口可南子(江上若菜)

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第36作 男はつらいよ・柴又より愛をこめて

男はつらいよ・柴又より愛をこめて会津で寅さんの見る夢は、NASAの有人宇宙飛行士に無理矢理させられて打ち上げられるところ。この作品は、寂しい女二人が登場しなかなか人生の機敏に触れるところがあって思わずほろりとさせられる。またいつも家族に迷惑をかけてばかりいる寅さんが見事に家出娘を見つけて連れ帰るとは実に珍しい。

寅さんがとらやに帰ってみると、タコ社長が泣きついてきた。娘のあけみが夫をおいて家出をしてしまい、進退窮まった社長は、恥を忍んでテレビの尋ね人のコーナーに出演したが、そのおかげで彼女が伊豆半島の下田にいることだけはわかった。

あけみが寅さんにだけは会いたいと言っていると聞かされて躊躇する場合ではなかった。さっそく寅さんは下田に向かう。幸い地元の水商売の世界に詳しい昔の仲間が住んでいてあけみはすぐに見つかった。だが海を見つめて沈み込んでいるあけみをすぐに柴又に連れ帰ることはできなかった。

あけみは寅さんに「愛」って何なのかとたずねる。「そうだなあ、この人を大切にしてやりたい、と思うことかな」。寅さんは家出の事情は焦らずゆっくり聞くことにして、下田の目の前に見える式根島に二人で渡ることにする。いっしょに乗船したのが、式根島小学校同窓会11名の面々。島には美人の先生がいると聞いて、寅さんはさっそく12人目の同窓生ということにして「24の瞳」としゃれこむ。

島に到着するとちゃっかり真知子先生に近づいてみんなの宴会に参加する。一方あけみは一人放っておかれたところを旅館の息子、茂に拾われ途中息をのむような絶景や温泉を経由して旅館まで連れていってもらう。

翌日同窓会の連中が帰った後、寅さんは真知子先生と二人だけの時を過ごす。若くして「24の瞳」の先生を夢見た彼女は、柴又の近く、堀切の出身だったが、この島に渡り夢中になって仕事に打ち込んでいるうち、もう若くないことに気づいたのだ。もちろん寅さんはすっかり彼女に惚れ込んでしまう。

あけみは茂にあちこち連れていってもらいその自然の美しさに感動する。茂は、あけみにぜひこの島の住人になってほしいというプロポーズをする。それを聞いて明美は思わず後悔する。だがもう遅い。「私は人妻なの、ごめんなさい」と言い残して茂の所から一目散に駆けていった。

その夜、あけみは寅さんに向かって明日の朝の船で帰ると言う。帰りたくない寅さんはおまえだけ帰れよと言いたいが、さくらが必ず連れ帰るように言っていることなので、仕方なく小学校まで行って真知子先生に別れを告げる。

無事あけみが帰ってきたのでタコ社長は大喜び。だがあけみの夫は依然として仕事に忙しく二人の間が接近したとはいえないし、恋の病にやられた寅さんの状態はまことに惨めなものだった。

だが、父親の病気のために堀切に戻っていた真知子先生がひょっこりとらやに姿を見せる。すっかり元気を取り戻した寅さんだったが、その夜真知子先生は死んだ親友の娘の父親から、プロポーズされる。真知子先生はうれしいやら、でもその男はロシア語辞典の編纂をしているとても地味な男でお世辞にも美男子とは言えない。

式根島へ戻る真知子先生を寅さんは調布飛行場まで送って行く。プロポーズの話を聞かされた寅さんは、迷っている真知子先生にぜひ結婚して幸せになるようにと励ますのだった。彼女を乗せた小さな飛行機は、空のかなたへと飛び立っていった・・・・(1985年)

監督: 山田洋次 キャスト(役名) 渥美清(寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 美保純(あけみ) 川谷拓三(酒井文人) 田中隆三(茂) 森本毅郎(キャスター) 関敬六(寅の仲間) 人見明(麒麟堂) マドンナ; 栗原小巻(真知子)

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第37作 男はつらいよ・幸福の青い鳥

男はつらいよ・幸福の青い鳥寅さんは次第に恋愛の当事者ではなく、若い二人のキューピッド役を果たすことが多くなってきた。これも年の功か。それでも寅さんの手にかかると、不思議なことに二人のロマンスは実に円滑に進むようになる。

寅さんのみた夢では、一族郎党をつれて青い鳥を求めて柴又を離れ、半年の間さまよい、ついに青い鳥と桃源郷を見つける。が、列車の中の車掌に検札のため起こされてしまった。

山口県の萩で行商を営んでいると、コンピュータ占いの結果、「南に行けばすばらしい出会いがある」と出た。さっそく寅さんは九州に渡り、直方(おがた)に行ってみる。かつては炭坑ブームで栄えた街もひっそりとしており、芝居小屋を訪れても昔なじみの役者はその年の春に死んでいた。

役者の娘が近くにいるときいて寅さん仏壇参りに行く。かつて芝居をしていたときはかわいい少女であった美保は、輝くばかりの美女となり身寄りもなく近くの旅館で女中をしていた。別れ際、幸せの青い鳥を探してくれと頼む美保に向かって寅さんは東京に来たらぜひ柴又に来るようにと告げる。

それからしばらくして美保は単身東京に出てきた。寅さんを頼れば何か新しく人生の展望が開けるのではないかと思ったのだ。ところが到着してまもなく風邪を引き高熱が出て、ホテルを探すことすらできない状態になる。

ラーメン屋で美保の忘れ物を注意してくれた青年、健吾は美保に惹かれチンピラにつきまとわれているところを救い出し、自分の仕事場につれてくる。鹿児島出身の健吾は画家志望の看板屋だった。

おかげで一晩よく寝たあと美保は回復し、とらやに向かう。寅さんはもう一年あまりもご無沙汰していた柴又に帰ってくると、名前を告げないですぐ切ってしまう女からの電話が2回ほどあったことを聞かされるが、ちょうど美保が店先に姿を現したところだった。

さっそくさくらたちが美保の面倒をみて、近くのラーメン屋の手伝いの仕事を見つけてもらう。折しもタコ社長の印刷工場では田舎に帰って家業を継ぐために一人の少年が退職するところだったが、代わりに美保が東京に住み着くことになったのだ。

近所では「寅の恋人」を噂されたために照れくさくなった寅さんは家族に向かって美保のためのお婿さん探しを始めると宣言する。もちろん惚れている気持ちを隠そうにも隠すことができないが。

美保は世話になったお礼にとあったときから何となく惹かれていた健吾に会いにゆく。だが、健吾はあまりに性急にベッドに押し倒したりしたので美保は腹を立てて逃げ出してくる。

だがしばらくして健吾はとらやの店先に姿を現した。団子をつまみにビールを注文したりするから店番をしていた寅さんはこの青年が失恋をしているなとすぐわかってしまう。

そこへ注文を届けにきた美保が現れて、いったんは健吾が謝るのを拒絶するものの、すべてを悟った寅さんのすすめで柴又駅まで追いかけてゆき、二人は仲直りする。(1984年)

原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次  朝間義隆  キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 長渕剛(倉田健吾) じん弘(金森) すまけい(嘉穂劇場の男) イッセー尾形 (車掌) 関敬六(ポンシュウ) 不破万作(キューシュー) 笹野高史(係員・近藤) 有森也実(温泉場の娘) マキノ佐代子(ゆかり)マドンナ;志穂美悦子(島崎美保)

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第38作 男はつらいよ・知床慕情

男はつらいよ・知床慕情久しぶりに寅さんが柴又に帰ってくると、おっちゃんが風邪をこじらせて肺炎になり、一時は危ないところだったという。退院したおっちゃんを助けるべく、寅さんは店を手伝おうとするが、放浪の自由な生活に慣れた寅さんは一日店に座っていることすらできない。

跡取りがこれではと嘆く家族をあとに、寅さんは北海道、知床半島へ旅立つ。牧場を行くうち、ポンコツトラックを運転していた獣医の上野に拾われる。上野は10年前に妻に死なれ、いまでは変わり者で頑固なので近所から煙たがれ、近所のおばさん、悦子が身の回りの世話をしてくれている。

娘のリン子は上野が認めない男と結婚し東京に住んでいる。寅さんは上野と妙に気が合い、一晩泊めてもらい、近所で悦子がママをしているスナック・ハマナスでは地元の漁師たちと知り合い、人気者になる。

そこへ突然リン子が帰ってきた。連絡もなくやってきて、離婚をしたのだという。もし上野とリン子だけの対面だったら父娘の関係はどうしようもなくこじれていただろうが、寅さんがうまく取りなしたおかげでリン子は実家に落ち着くことができたのだ。

美しい知床の自然を寅さんは満喫する。上野の獣医の仕事を見学し、リン子と、新しくできた知床の人々と、あちこち夏の知床をつれていってもらう。だが、この地域にも過疎と不景気の波が押し寄せていた。観光客は町を素通りし、離農する人々が後を絶たなかった。

悦子は、もう長い間上野の世話をしてきたが、手を握ってもらえるわけもなく、売り上げ減からハマナスも人手に渡ることになり、ついに北海道を捨て、新潟にいる妹の所へ移る決心をした。

リン子の帰郷歓迎バーベキュー・パーティの席上で悦子がみんなの前でそのことを発表すると、上野は悦子に去ってもらいたくないのだが、それをうまく言えない。今度も寅さんが励ましてくれて、めでたく悦子にプロポーズする。

そのあとの二次会で、みんなは多いに盛り上がるが、漁師仲間に寅さんはリン子に惚れているのではないかと言われて、知床を去る決心をする。今回は寅さんだけの片思いというわけでもなかったのだが・・・(1987年)

監督: 山田洋次 出演:.渥美清/ 倍賞千恵子/ 三船敏郎(上野)/ 淡路恵子(悦子)/ 笠智衆 マドンナ竹下景子(リン子)

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第39作 男はつらいよ・寅次郎物語

男はつらいよ・寅次郎物語寅さんの物語は回を重ねるにつれ、次第に人生の味がじっくりと染みわたるようになってきたようだ。旅の先々で出会う人々とも、甥の満男との間でも寅さんの持ち味が至るところで広がっている。又、今回の作品は爆笑させるセリフのやりとりがとりわけ多い。

ある日、とらやに一人の男の子が迷い込む。寅さんからの年賀状を持った郡山から来た秀吉というこの子は、母親は行方不明で、父親は死ぬときに寅さんを頼って柴又へ行けと言ったのだという。

さいわい翌日寅さんが戻ってきて、実は秀吉の父親は渡世人仲間で、生前は酒ばくち女の限りを尽くした極道者だったという。妻のふでとの間に子供が産まれ名付け親は寅さんだった。さっそく寅さんは秀吉をつれて母親探しの旅に出る。

最初に出かけたのは和歌山県の和歌の浦にあるホテル。だが、ふでは客とのもめ事でそこを去っていた。次に訪れたのが奈良県の吉野であった。へとへとになった寅さんと秀吉は、ようやくふでが女中をしていたホテルにたどり着くが、すでにそこをやめてどこかに去っていた。

疲れがたまったのか、秀吉はその夜高熱を出した。医者を呼び、危ないところを命拾いしたが、夜通し看護をしてくれたのは、隣の部屋にたまたま泊まりあわせた、隆子のおかげだった。彼女は寅さんのことを(秀吉の)「お父さん」と呼び、寅さんは彼女を「お母さん」と呼んで親しくなった。

医者は隆子に「お尻を見せなさい」という。びっくりして戸惑う隆子に、医者は「あんたのお尻じゃない、坊やのだ!」という爆笑場面が入る。

男はつらいよ・寅次郎物語隆子は軽自動車で関西地方の小売店で化粧品を売り歩くセールスをやっていた。この晩は待ち合わせた男がやってこなかったので死にたい気分だった。自分の選んだ人生にとかく絶望的になりそうな隆子を寅さんは励ます。隆子も自分が幼い命を助けることができて生きていてよかったと感じるのだった。

寅さんと秀吉は隆子と別れ、三重県の伊勢志摩に向かった。そこにある真珠店に行く。ふでが大病をしたあと、今静養中であるという。息子に会いたいのにかなわずすっかり気落ちしているところだった。秀吉はめでたく母親と再会することができた。

秀吉は病気を看病して貰ったこともあってすっかり寅さんになついていた。だが一晩でもここに滞在してふでとの間が深入りしてしまうことを恐れ、心を鬼にして秀吉と別れを告げる。

大任を果たして寅さんは柴又に帰ってきた。御前様は寅さんは仏様に愛されているのだという。再び旅に出る寅さんを駅に見送る満男は自分の進路に悩み、ふと訊ねる。「人は何のために生きるの?・・・」寅さんは直ちに哲学者に変身して曰く、「ああ、生きていてよかったなあと思うことが一生の間に何回かあるからじゃないかな?」(1987年)

監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次  朝間義隆 キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 五月みどり(ふで) 伊藤祐一郎(秀吉) 下絛正巳(車竜造) 三崎千恵子(つね) 前田吟(諏訪博) 太宰久雄(社長) 佐藤蛾次郎(源公) 吉岡秀隆(満男) 美保純(あけみ) 笠智衆(御前様) イッセー尾形(警官) 笹野高史(白雲荘主人・長吉) 関敬六(ポンシュウ) すまけい(船長)マドンナ;秋吉久美子(高井隆子)

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第40作・男はつらいよ・寅次郎サラダ記念日 

男はつらいよ・寅次郎サラダ記念日寅さんは信州は長野県・小諸を旅していると、田舎に夫を亡くし一人暮らしをしている老婆と知り合い、意気投合して、幽霊も一緒に、一晩つきあうことになる。ところが翌日体の具合を心配した小諸病院の女医さんが老婆を迎えに来る。

婆さんは自分の家で死にたいといやがるのだが、寅さんも説得して病院に入院させる。美人で、やはり夫を亡くした女医さんに寅さんは意気投合し、早稲田の学生の姪と共に楽しい夕食を共にする。姪は国文科で、藤村の「小諸なる古城のほとり・・・ユウシかなし・・・」のユウシは何なのか寅さんに尋ねるあたりが、大笑い。

葛飾に戻った寅さんは、女医さんが忘れられず、早稲田大学まで出かけて姪に会いにゆく。たまたま紛れ込んだ「産業革命」の講義で、教授に「難問」を質問したところから、たちまち寅さんは学生たちの人気者に。なお、寅さんが早稲田の教室で語った”ワット君”のエピソードは第20作のもの。このキャンパスの場面では、サザン・オールスターズの「ステレオ太陽族」がかかる。

ちょうど骨休めに東京に戻ってきた女医さんは、息子を連れ、姪たちを連れてとらやを訪問する。この楽しい合間にお互いが好きになるのだが、小諸へ戻った女医さんから老婆が危篤だという連絡を受け、寅さんは大急ぎで駆けつけるが、間に合わなかった。

女医さんは何もかもいやになり、この病院を辞めて東京へ帰りたいと院長に言い出す。だが、何もかもお見通しの寅さんは姪に言い残して、一人再び旅に出るのだった。

話の節目に短歌が挿入されるしゃれた作りになっており、せりふのおもしろさも群を抜いている。ベストセラーになった「サラダ記念日」の名前をもらったこともあろうが、寅さんが別れ際にサラダをつまんで、これはうまいぞ、と姪に向かって言ったことから、彼女は自分の歌集にこの名前をつけたのだった。つくられたのはちょうどバブルの始まる頃。「地上げ屋反対」の看板が写っている。最後の場面は長崎県・島原半島。(1988年)

監督:山田洋次  原作:山田洋次 脚本:山田洋次/朝間義隆 出演:渥美清/倍賞千恵子/三田寛子/奈良岡朋子 マドンナ;三田佳子

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第41作・男はつらいよ・心の旅路

男はつらいよ・心の旅路北海道の話(第38作)に続いて再び竹下景子が登場する。寅さんは宮城県のローカル列車に揺られていると、急ブレーキで投げ出される。線路に投身自殺をしようとした男がいたのだ。幸い、間一髪で列車は止まり、男は傷一つ負わずに助かる。

世話好きな寅さんは旅館に、そのお面をかぶったような男を泊め、身の上話を聞いてやる。東京の競争の激しい会社の課長で、あまりのストレスにうつ病気味らしい。課長は寅さんをすっかり尊敬し、あこがれの町、ウィーンにもぜひついてきてして欲しいと熱心に頼み込む。

気乗りしない寅さんだったが、いつの間にか航空券が送りつけられ、気が付いたらウィーンのホテルに閉じこもっていたのだった。だが、モーツアルトや美術館は寅さんの好みでない。日本食を食べたい!何度も頼み込まれていざ町に出たら、たちまち迷子に。

だが、寅さんは外国へ行っても何も変わらない。寅さんがオーストリア人に日本語で話しかけると、ちゃんと通じて、向こうはドイツ語で話しかけるが、それも寅さんは何を言っているのかちゃんとわかる。人間の世間話はどこでも同じなのだ。しかも寅さんのような態度、口調、目つきであれば、世界中どこへ行ってもコミュニケーションが成立してしまうのだ。

全くわけが分からないまま、街中をうろうろしていると、日本人観光客の美人の添乗員に拾われる。彼女や、現地の人と結婚した未亡人のおかげでやっとホテルに戻ることができるが、彼女と仲良くなった寅さんは、シェーンブルン宮殿やドナウ川を歩きながら、彼女にすっかり里心を起こさせて、日本へ帰りたい気持ちにしてしまう。

彼女には現地の男性が好意を寄せていたが、今ひとつふたりの間は煮え切らず、ウィーンに引き留めるものがなくなったと感じた彼女は、寅さんについて日本に帰る決心をする。

だが、間一髪、空港の手荷物検査所を通り抜けようとした瞬間、かの男が息せき切ってやってきて彼女を決して離さないというのだ。話は決まった。彼女は残る。力の抜けた寅さんはそのままふらふらと日本へ帰る。しばらくは魂が抜けたようだった。

寅さんは自分がウィーンに行ったのは夢ではないかと、いつまでも疑っている。御前さまは、この男の一生そのものが夢みたいなもんだからと言っている。図星である。大学入試に落ちて浪人生活を始めた甥も、満員電車に揺られる生活が定年まで続くことを思ってふと、おじさんみたいになりたいなと口走ったりする。

自殺未遂の課長はその社会の中で心の病気になってしまったのだ。一方で、添乗員の彼女は会社を辞め、恋人と別れ、日本を飛び出してウィーンで経済的にも不安定で孤独な暮らしを送っていた。さて、人生どの道もつらい。(1989年)

監督;山田洋次 原作;山田洋次・浅間義隆 出演;渥美清・倍賞千恵子 マドンナ;竹下景子

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第42作・男はつらいよ・ぼくの伯父さん

男はつらいよ・ぼくの伯父さん満男は大学受験に失敗して、予備校生になっているが、もう夏も近いのに少しも勉強に身が入らない。高校ブラスバンド部の後輩の女の子、及川泉の面影がちらついてしょうがないのだ。しかもそれを親にいえないから、毎日ふさぎ込みとくに父親のひろしとは挨拶もしない。

困り果てた博とさくらは何とかならないかと誰か相談相手を求める。そこへ寅さんが戻ってきた。おぼれる者はワラをつかむということで、両親はつい寅さんに満男に何か忠告をしてもらいたいと頼んでしまう。博は自分で息子と対決するのを避けているようだ。

もちろんおっちゃん、おばちゃん、タコ社長もろくな忠告にならないだろうと反対するが、後の祭り。どぜう屋に連れて行かれた満男は、寅さんに酒の飲み方から訓練を受ける。そして泉への思いを洗いざらい話して少しは気持ちがすっきりしたのだった。

だがそのあと満男はしたたか酒を飲まされ二人で酔っぱらったまま家に帰り、食事代もタクシー代も払わなかったものだからとらやでは大喧嘩。翌朝寅さんは出ていってしまう。

満男は泉は両親が離婚したあと、母親と名古屋に住んでいることから、バイクに乗って旅に出ることにする。青年にとっての初めての長旅。両親もとらやも大騒ぎだが、どうしようもない。でもさくらは満男が泉に会いに行ったのだろうとは察しがついていた。

名古屋でスナックに勤める母親礼子に会うが、泉は佐賀県に住む妹のところへ引っ越してしまったのだという。礼子は満男の一途な性格が気に入ったせいか、佐賀県での住所を教えてくれる。

満男はもう何も考えることはない。直ちに西を目指してひたすら進むだけだ。まっすぐな青春。途中バイクが転倒して親切な男が助けてくれたが、その夜泊めてもらったホテルで言い寄られ、ほうほうの体で逃げ出したりしたものだ。

佐賀県にはいると、さっそく泉の住む家に向かう。学校から帰ってくる泉を待ち受けて久しぶりに再会することができた。しかしまわりの目がうるさい田舎だし、すぐに夕暮れが迫ってきた。

その晩は旅館に泊まろうとした。だが満員で相部屋しか空いていないという。ところがその相部屋の相手とは神社のお祭りで商売に来ていた寅さんだった。これでようやく満男はとらやに電話をかけることができた。満男はさっそく寅さんに翌日一緒に泉の家に行ってくれるように頼み込む。

泉の住んでいる奥村家は大きな屋敷で、郷土史研究家でひとに説明するのが大好きな祖父が寅さんたちを迎え入れ、二人はすっかり気に入られてしまった。その晩はぜひ泊まってゆけという。母親の妹に当たる寿子も親切にしてくれた。夫の高校教師だけは人が家に泊まるのをいやがっていたが。

翌日は日曜日。寅さんは郷土史研究会の老人たちのお供をして古代遺跡巡りに出かける。満男も泉と連れだってバイクで散策を楽しんだ。二人は夕暮れには遅くなってしまい、寿子の夫から嫌みを言われたけれども、泉に別れを告げて一路東京に帰ることになる。

とらやでは、渋い顔をしている博をよそに、満男の帰りを待ちわびてみんなで歓迎パーティの準備。帰ってきた満男は素直に両親に謝ることができ、旅の中で多くの経験をして、ひとまわり成長したようだ。(1989年)

監督: 山田洋次  原作: 山田洋次  脚本: 山田洋次  朝間義隆   キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 前田吟(諏訪博) 吉岡秀隆(満男) 檀ふみ(奥村寿子)笠智衆(御前様) 夏木マリ(礼子) マドンナ;後藤久美子(及川泉)

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第43作 男はつらいよ・寅次郎の休日

男はつらいよ・寅次郎の休日満男は大学生になったばかり。だが入学して少し時がたつと遊びに、アルバイトに、と勉強にあまり身が入らない。通学に片道2時間もかかる。やがてさくらの世話も何かうっとうしく、大学の近くにアパート暮らしをしたいと言い出した。さくらと博は息子が言うとおりにしないのですっかり手を焼いている。

そこへ突然高校のブラスバンドの後輩で、前作「ぼくの伯父さん」に出てきた及川泉が名古屋から突然とらやにやって来る。母親と別れて東京の職場にいるはずの父親一男に会いたくなったのだ。泉に恋している満男は引っ越しを急遽延期してすっかりうきうきしている。

満男は翌日一緒に都内の会社へ向かう。だが一男は連絡もせず会社を辞め、新しい女の故郷である九州へ行ってしまったのだという。がっかりしてとらやに戻ってきたところ、寅さんが帰ってきていた。寅さんに悩みをうち明けてすっきりした泉は翌日新幹線で帰ることになる。だが見送りに来た満男の前で泉は博多行きのきっぷを見せるのだった。

どうしても父親に会い、相手の女と別れさせたいという泉の言葉に、ろくに金も持っていない満男は自動ドアが閉まる前に列車に飛び乗ってしまう。目指すは大分県日田市。果たして父親は町中にある薬局を経営する女と一緒に暮らしていた。祭りの喧噪の中、父親と相手の女の交わすまなざしを見て、泉は別れてくれなどととても言えなかった。納得した気持ちで満男と二人で父親のもとを離れた。

男はつらいよ・寅次郎の休日一方、とらやに泉を迎えに来た母親、礼子と二人寝台列車に乗って駆けつけた寅さんは、満男と泉を発見する。その晩温泉旅館に泊まった4人は、まるで親子水入らずの旅行のようなふりをしたが、深夜礼子はもう戻らない夫との生活を思って号泣するのだった。

翌朝置き手紙を残して母娘は旅立った。バス停まで駆けつけた満男は泉の手を握って別れを惜しむのだった。満男はまた寅さんのおかげで人生の勉強をした。いったい幸せとは何だろう。泉の父親はあれで幸せなのだろうか?自分ももっと幸せになるためにどん欲になろう・・・(1990年)

監督: 山田洋次原作: 山田洋次脚本: 山田洋次キャスト:(役名)渥美清 (車寅次郎)倍賞千恵子(さくら)後藤久美子(及川泉)吉岡秀隆(満男)寺尾聰(一男)宮崎美子(幸枝)下絛正巳(車竜造)三崎千恵子(つね)前田吟(諏訪博) 太宰久雄(社長)佐藤蛾次郎(源公)笠智衆(御前様)マドンナ;夏木マリ(礼子)

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第44作 男はつらいよ・寅次郎の告白

男はつらいよ・寅次郎の告白満男は朝からそわそわしている。泉が、昼の新幹線で東京にやって来るというのだ。学校の先生の紹介で楽器店に就職を頼みに来たのだ。泉は大学に進学することをあきらめ、母親と一緒に暮らしたくないので名古屋ではなく東京で仕事を見つけようとしている。

ちょうど寅さんも帰ってきて、泉は久しぶりにとらやでみんなと再会する。だが翌日満男に一緒に行ってもらった楽器店では高卒は採用しないとのこと。がっかりして泉はその日の新幹線で名古屋に帰った。しかもその夜は母親が新しくできた男性と家に帰ってきたところだった。泉は自分がこの上なく不幸だと思いこむ。

しばらくして泉から満男に絵はがきが来る。「淋しい私は淋しい海に会いに来ました」という手紙は鳥取から来ていた。泉は母親と大喧嘩をして家出をしたのだ。不気味な文面にいたたまれなくなった満男はすぐに鳥取へ向かう。

泉は鳥取の街を歩き回り、あんパンを買った小さな店のおばあさんに引き留められて夕飯をごちそうしてもらうことになった。豆腐を買いに行った道すがら、何と寅さんの姿があるではないか!泉は寅さんにしがみついて思いの丈泣き出してしまった。

男はつらいよ・寅次郎の告白親切なおばあさんの家に泊めてもらった二人は翌朝鳥取砂丘に向かう。巨大な砂丘のてっぺんには満男がぼんやりと座り込んでいた。再会した二人は寅さんの古い友だちだという女将の聖子のやっている旅館に泊めてもらう。

実はその昔寅さんはこの旅館の板前と、聖子を巡って張り合ったことがあったのだ。結局聖子は板前と結婚するほうを選んだ。それから十年、寅さんは旦那は元気にしているかと訊ねた。ところが聖子の旦那は普段寅さんがふざけていっていたとおりに、雨の中での鮎釣りの最中に鉄砲水に流されておぼれ死んだという。

その日のうちに帰る予定であった泉たちも急遽、墓参りをかねてもう一泊その旅館に泊めてもらうことになった。生きていた頃は夫は浮気の連続だったと話す、淋しい聖子は寅さんとしたたか酔い、からみついたところで、心配してやって来た満男が腐った手すりから転落して、水の中に落っこちた。

翌朝、どうして伯父さんは恋がうまく実を結ばないかと聞く泉に、伯父さんは恋が自分の手に届きそうもないときはその女の人に夢中になるのだが、いざ目の前に恋があるととたんに逃げ出してしまうのだと満男は説明する。

泉は、鳥取で見ず知らずのおばあさんに親切にして貰い、寅さんからは慰められ、満男には探しに来て貰い、聖子の身の上話を聞いて、自分が世界でいちばん不幸な女ではないことを悟ったようだ。名古屋に帰ると母親に幸せになってほしいと声をかけるのだった。(1991年)

監督: 山田洋次  原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 朝間義隆 キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 後藤久美子(及川泉) 吉岡秀隆(満男) 吉田日出子(聖子) 夏木マリ(及川礼子) 下絛正巳(竜造) 三崎千恵子(つね) 前田吟(博) 太宰久雄(社長) 佐藤蛾次郎(源公) 笠智衆(御前様) 関敬六(ポンシュウ)

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第45作 男はつらいよ・寅次郎の青春

男はつらいよ・寅次郎の青春火曜日は泉の勤めているレコード店の休みの日だ。彼女が東京に来てから半年経つ。満男は月曜日の夕方に自分の家に泉を招待するつもりで朝からそわそわしている。名古屋の母親をおいてひとりで東京の寮に暮らしている泉に家庭の雰囲気を味わってもらいたいという心遣いだ。レコード店に来た変なお客の話から、博と泉は北原ミレイの「石狩挽歌」を口ずさむ。

二人がかつて属していた高校のブラスバンドで、泉と親友だった娘が近く宮崎で結婚するのだという。泉は有給休暇を取って現地での結婚式に出席することになった。見知らぬ人々に囲まれての式が終わった後、泉はひとりでお城の見物に出かけた。

何と向こうには寅さんの姿があるではないか。しかもどこかの女の人と一緒だった。女二人はお互いに遠慮してその場を離れようとするが、突然寅さんが転んで足をくじいてしまった、いや骨が折れたかもしれないと叫ぶ。いつもの仮病の癖が始まったのだ。

寅さんは数日前、日南市のすぐ横にある油津の町にいた。ふと知り合ったひとりで理髪店をやっている若い女、蝶子に調髪してもらった後、夕食をごちそうになり、泊まってゆくことになる。ギターを弾く弟の竜介がいるが、船員で普段はいつも船に乗り込んでいる。

泉から電話を受けた満男は学校の授業もうち捨ててあわてて宮崎に向かう。寅さんの足は大したことはなかったが、いかにも重傷であるかのように松葉杖をついている。泉が、竜介の運転する車に乗って迎えに来たので、満男はぎくっとするが、竜介に許嫁がおり、近いうちに結婚するという話を聞いてほっとする。

男はつらいよ・寅次郎の青春蝶子は誰か幸せをもたらしてくれる男を待っていた。ある時床屋にやってきたひとりの男が一緒にならないかと口走った。その時はただ驚いて返事ができなかった蝶子だったが、いまではまたその男が現れたらすぐに承諾するつもりだという。若い泉はそんな考えではない。自分で幸せを見つけるのだと言っている。

その夜、寅さんは満男に泉とうまくやっているかと訊ねる。手を握ったぐらいしかないと言う満男を笑う寅さんだったが、翌朝船に乗るため早く出かけようとしている竜介が姉に向かって寅さんと結婚したらどうかと言っているのが聞こえてきて、考え込んでしまう。

そして浜辺での昼過ぎ、これから東京へ戻る満男と泉に寅さんも一緒に帰ると言い出すと、蝶子は怒りだした。自分といてくれると思っていたのだ。でも、満男の言うとおり、寅さんは最初のうちは女とうまくやっても「奥行きがない」からそのうち駄目になるのだと判断して蝶子と別れたのは良かったのかもしれない。

寅さんは久しぶりに柴又に戻ってきた。怪我をしたといううわさが広まり、無事戻ってきたことで町内のみんなが大歓迎をしてくれた。一方、博とさくらは息子の恋の行く末を心配しているのだが、寅さんはわざととぼけた返事をするばかり。そのうち大喧嘩になった。

泉の母親が手術をすることになった。宮崎から帰ったばかりでレコード店では休みを取ることを許してくれない。思いあまった泉は店をやめ、母親の待つ名古屋に帰り、そこで仕事も見つけることにした。東京駅に駆けつけた満男に泉は抱きつき口づけをして別れたのだが・・・(1992年)

監督: 山田洋次 原作: 山田洋次  脚本: 山田洋次  朝間義隆  キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 永瀬正敏(竜介)下絛正巳(竜造) 三崎千恵子(つね) 太宰久雄(社長) 佐藤蛾次郎(源公) 関敬六(ポンシュウ) 笠智衆(御前様) 前田吟(博) 夏木マリ(礼子) 吉岡秀隆(満男) 後藤久美子(泉) マドンナ;風吹ジュン(蝶子)

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第46作 男はつらいよ 寅次郎の縁談

男はつらいよ・寅次郎の縁談満男は何度就職試験をしても落ちてしまう。もう三十数回目を受けて、これもダメだったとき何もかもいやになった。自分を無理矢理大学に行かせたのは父親の博のせいだとし、面接の時に心にもないことを言うのもうんざりした。突然満男は家出をして、その晩の高松行き寝台列車に乗ってしまう。

大慌てのさくらと博だったが、さいわい寅さんが戻ってきて、満男を連れ戻してくれるのだという。席を温めることもなく直ちに寅さんは香川県丸亀の沖合、瀬戸内海に浮かぶ、小手島に向かった。小さな島だからすぐに満男は見つかったが、旅館などないので満男が世話になっている家に向かうことになった。

だが、急な坂を上っていくときの美女との運命の出会い。寅さんもこの島での滞在は長くなってしまうことになった。満男はこの島にたどり着くと、老人ばかりの住民から若い労働力として頼りにされ、ママカリの漁やら、段々畑の耕作やらで、大自然の中で真っ黒になって働いていた。都会には戻りたくない。

しかも看護師の亜矢とも仲良くなり、住民は二人がいつか一緒になるのではないかと噂しあっていたところだ。満男が泊めてもらっている家は、元船長で隠居している田宮というおじいさんが住んでいたが、自分が若い頃に女に産ませた娘、坂出葉子が神戸からたびたび訪ねてくるのだった。しばらく病気をしていたが、やっと回復してきた矢先に寅さんに出会った。

その夜の住民たちの歓迎会で父親とタンゴを踊る葉子。酔ってしなだれてくる葉子に、いつものように寅さんは逃げ腰になったが雨のせいで離島は無期延期となる。寅さんも満男もすっかり島の生活になじみ次第に島民にとっても大切な住民になりつつあった。

男はつらいよ・寅次郎の縁談亜矢はすっかり満男に惚れ込み、セーターを編んでプレゼントしてくれた。葉子は寅さんとこんぴら、栗林公園など、讃岐地方をしばらく旅して回った。だがある晩、葉子が満男に寅さんのことをたずねたとき、寅さんが葉子のことを好きであると言ってしまう。葉子は寅さんの口から直接聞きたかったのに、満男がそんなことを言ったものだからお節介だと言って怒っていってしまう。図星なだけにそれを聞いた寅さんはいよいよこの島を出ることに決める。

翌朝早く連絡船に乗り込んだ寅さんと満男は堤防の上からちぎれるように手を振っている亜矢に別れを告げて岸壁を離れた。満男は戻りたくなったが、寅さんに止められる。寅さんはいつもの稼業に戻り、満男は就職試験を続けてチャレンジする気になった。しょせんサラリーマンの子供は都会から離れられない。(1993年)

監督 ・・・山田洋次 脚本 ・・・山田洋次 朝間義隆 原作 ・・・山田洋次 配役 車寅次郎 ・・・渥美清 さくら ・・・倍賞千恵子 諏訪満男 ・・・吉岡秀隆 車竜造 ・・・下條正巳 車つね ・・・三崎千恵子 社長 ・・・太宰久雄 源公 ・・・藤蛾次郎 ポンシュウ ・・・関敬六 花嫁の父 ・・・すまけい 亜矢 ・・・城山美佳子 冬子(御前様の娘→第1作 ・・・光本幸子 諏訪博 ・・・前田吟 田宮善右衛門 ・・・島田正吾  マドンナ;坂出葉子 ・・・松坂慶子

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第47作 男はつらいよ・拝啓車寅次郎様 2005/04/29

男はつらいよ・拝啓車寅次郎様寅さんの甥、満男はだんだん寅さんに似てきたとまわりから言われる。だがどんなふうに似てこようとも、寅さんのあの他人の気持ちの悩みや寂しさを分かち合うことのできる性格は満男が誇りに思っていることなのだ。

ある街で寅さんは売れない女性歌手と郵便局で出会う。彼女の顔を見た寅さんは目と目の間をじっと見つめて大器晩成の顔だからこれから一生懸命がんばれと励ますのだった。喜んだ歌手は寅さんの後ろ姿を追い続けるのだった。

一方満男は就職したばかりの靴屋の営業がうまくいかず、だんだん仕事がいやになってきたところだった。そこへちょうど寅さんが帰ってきた。とらやの茶の間で鉛筆を売るところを披露する。今日の晩飯や宿代がかかっている寅さんの売り方は見事で、満男は寅さんの生き方に改めて感心する。

翌日満男は久しぶりに寅さんと飲もうと思ったのだが、いつものようにとらやの家族と喧嘩してまたどこかへ旅に出てしまった。満男は日頃の仕事の疲れもあって、気分転換のために琵琶湖の長浜にいる先輩、川井信夫の招きに応じてお祭り見物に出かけることにした。

着いてみるとそこは大きな屋敷で、両親と妹の菜穂が住んでいた。満男は祭り見物や街の中を案内してもらっているうちにすっかり菜穂と仲良くなってしまった。実は兄の信夫は満男を菜穂の将来の結婚相手にしようかともくろんでいたのだが・・・

一方寅さんは琵琶湖の湖岸をさまよっているうちに、鎌倉の奥様で写真撮影に夢中の典子という女性に出会う。別れ際に彼女は岩の上で足を滑らして手を脱臼してしまい、二人は同じ旅館に泊まることになる。典子は仕事で少しも自分にかまってくれない夫との生活からの息抜きもかねて、自分で車を運転して琵琶湖にやってきていたのだ。寅さんは彼女の淋しい気持ちを和らげる。だが、怪我の報告を聞いて駆けつけてきた夫が迎えに来た。

男はつらいよ・拝啓車寅次郎様満男は短かったが楽しかった休日を終え東京に戻った。菜穂とは気持ちが通じ合っていたつもりだったが、信夫がやってきて、自分の言い方が悪かったために菜緒は怒りだしてしまった、この話はなかったことにしてくれと言い出す。

そこへ寅さんが戻ってきて、鎌倉まで車を運転して連れていってくれという。実は寅さんと行き違いに典子はとらやに姿を見せていたのだ。気になった寅さんは自宅から出てきた彼女の幸せそうな姿を車の窓から見ていた。話しかけることもなく遠くから見て安心した寅さんは満男に引き返すようにいい、二人は江ノ電の「鎌倉高校前」駅で別れる。

せっかく生まれかけた恋を失ってがっかりした満男は何もかもつまらなくなってしまった。正月が来てもふてくされてみんなの話の輪にも加わりたくない。一人中川の堤防を歩いていると、そこに菜穂の姿があるではないか!寅さんはそのころ島原にいた。あの売れなかった歌手が大ヒットし、寅さんの姿を見つけてぜひ今夜のコンサートに来てくれという。(1994年)

監督: 山田洋次 脚本: 山田洋次 朝間義隆 キャスト(役名) 渥美清 (車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 小林幸子(歌手) 吉岡秀隆(満男) 牧瀬里穂(川井菜穂) 下絛正巳(竜造) 三崎千恵子(つね) 前田吟(博) 太宰久雄(社長) 佐藤蛾次郎(源公) 山田雅人(川井信夫) 平泉成(宮幸之助)マドンナ;かたせ梨乃(宮典子)

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第48作 男はつらいよ 寅次郎 紅の花

男はつらいよ・寅次郎紅の花いよいよもってこれが最終回となる。不思議なことに、今回の話は観客に寅さんや満男の将来についていろいろ思いめぐらせるような内容となっているのだ。いずれにせよもうこの先は作られることはない。大河小説は終了したのだ。

寅さんは1995年1月の阪神大震災以後、その年の暮れが近づいても音沙汰がなく、とらやの人たちは心配して新聞に尋ね人広告を出してみたほどだった。ところがある日のテレビで神戸でのボランティア活動の模様が紹介され、その中に寅さんの姿が映っていた。もっともそれは数ヶ月前の話で今どこにいるかはわからない。

満男のもとに突然泉がたずねてきた。実は少し前に彼女は岡山県の津山に実家のある医者の息子とお見合いをして結婚話が持ち上がっている。その事を正直にも満男に伝えに来たのだ。だが、例のごとく寅さんの遺伝子を持つ満男はそんな誠実な彼女を前にして「おめでとう」の一言しか言えない。

暗い気持ちで名古屋に帰った泉は結婚を了承し、津山で盛大な式が行われることになった。だが、当日花嫁を運んだハイヤーが狭い津山の道を通り抜けるとき、一台の対向車が目の前に現れどうしても道を譲らない。「戻る」ことが絶対に許されないその日にその車はハイヤーを押し戻した!

結婚はキャンセルとなり、泉は名古屋に戻り、満男は警察でさんざん油を絞られたあげく、何のあてもなく奄美群島にたどり着いた。あまり暗い顔をしているので連絡船に乗り合わせたリリーは心配になって自分の家に一晩泊めてやることにする。

満男がその家に行ってみると、何と寅おじさんがいた。もう何ヶ月か無一文のまま転がり込んで居候を続けているという。もうひとりの居候が加わって南国の夜は更けてゆく。思えばリリーが寅さんと出会ったのは、第11作の根室で、第15作の函館で、第25作の那覇でと何と3回も出会っている運命の人だ。

男はつらいよ・寅次郎紅の花満男が近所に住む政夫に寅さんとリリーは夫婦なのかときくと、断固として違う、という返事が返ってきた。本当に居候なのだ。満男は帰りの飛行機代を親に頼らず稼ぐべく、いろいろな仕事に汗みどろで取り組む。そしてある日海岸で海を見つめていたときに、うしろに泉が立っていた。

あんな大騒ぎと大迷惑をまわりにかけたが、やっと満男は泉に向かって「愛している」と言うことができた。満男、寅さん、そして母親に会うためにリリーも柴又に向かう。久しぶりの帰郷とあって、寅さんが帰ってくる日は、柴又の人々が大勢詰めかけた。

養老院に暮らす母親と会ったリリーはその日友だちの家に泊まるが、とらやに戻ってくると寅さんが不機嫌でまたまた喧嘩に。タクシーを呼んでひとり帰ろうとするリリーを前にさくらは二階に閉じこもっている寅さんに、リリーと一緒になってもらえるのが自分の夢だったと訴える。寂しくタクシーに乗ったリリーの前に、寅さんが姿を現した。送ってやると言う。それもリリーの住む奄美の家の門の前まで・・・(1995年)

監督・・山田洋次 脚色・・山田洋次 朝間義隆 原作・・山田洋次 配役 車寅次郎・・渥美清 /諏訪さくら・・倍賞千恵子/ リリー・・浅丘ルリ子/ 諏訪満男・・吉岡秀隆/ 及川泉・・後藤久美子 /車竜造・・下条正巳/ 車つね・・三崎千恵子/ 諏訪博・・前田吟/ 社長・・太宰久雄 /源公・・佐藤蛾次郎/ ポンシュウ・・関敬六 /及川礼子・・夏木マリ /船長・・田中邦衛/ 政夫・・神戸浩 /リリーの母・・千石規子/ 神戸のパン屋いしくら・・宮川大助/ パン屋の妻・・宮川花子 /箕作伸吉・・笹野高史/ 駅舎の男・・桜井センリ/ タクシー運転手・・犬塚弘/ 神戸の会長・・芦屋雁之助

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第49作 男はつらいよ・寅次郎ハイビスカスの花・特別篇

男はつらいよ・寅次郎ハイビスカスの花・特別篇満男はすでに大学を卒業し、地方まわりのセールスマンになっている。そしてどうしても旅先で思い浮かぶのは自分のおじさん、寅さんのことだ。この「特別篇」では、20年も昔の寅さんとリリーとの出会いが、満男の回想を通して描かれる。

久しぶりに寅さんがとらやに帰ってくると、ちょうどみんなで金町の水元公園へピクニックに出かけるところ。みんなが気をつかって行くことを隠しているのを寅さんがなじって、あわや喧嘩になるところへ速達が届いて、なんとリリーが血を吐いて倒れ、沖縄県・那覇の病院に入院しているという。

その前に博が東京の場末でリリーにばったりあったばかりだったのだが、彼女は相変わらず酒場の歌手をしながら全国を放浪していたのだ。びっくりした寅さんは、大嫌いな飛行機を利用して那覇へ直行する。

沖縄の空も海も真っ青。だが空にはアメリカ軍の飛行機の爆音がやむことはない。孤独な生活からすっかり捨て鉢になったリリーは、病状が少しも良くなっていなかったのだが、寅さんが来てくれてから見る見る回復し、めでたく退院する。

本部(もとぶ)の海洋博の会場近くに住まいを借りた寅さんは、(別々の離れだが)しばらくリリーと一緒に暮らす。とらやではもしや同棲では?という思う者もいたが・・・寅さんは、相変わらず人気者で、水族館のお姉さんと親しくなったりして毎日忙しい。

だが、今まで通りの気さくな寅さんだけでは、リリーは何か落ち着かない。寅さんの一生で女が惚れてくれたのはこれが最初で最後だ。だが寅さんはいつもの照れ屋の癖が直らず、女の気持ちが分からないのだとリリーはがっかりしてどこかへ行ってしまう。

リリーの後を追って寅さんも沖縄を出て、行き倒れ同然で柴又に戻る。リリーもひょっこりとらやに立ち寄った。寅さんが、「おまえと所帯を持ってもいいな」とぼそりと言う。リリーはちゃんとそれを聞いているのだが、聞こえなかったふりをして再びさすらいの旅に出ていってしまうのだった。

ここで満男の回想は終わる。満男は地方まわりから柴又のとらやに戻っていくのだ。道行く人が満男に挨拶をしていく。お寺が夕日に浮かび上がっている。(第25作の改作特別篇・1997年)

監督:山田洋次 原作:山田洋次 脚本:山田洋次/朝間義隆 出演: 渥美清/倍賞千恵子/吉岡秀隆/江藤潤 マドンナ;浅丘ルリ子

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第50作 男はつらいよ・おかえり寅さん

寅さんが活躍していた時代からだいぶたち、満男は作家になっている。妻は6年前に先だった。さくらと博の夫婦はすっかり年老いた。タコ社長の娘は元気だ。団子屋はカフェになっていたが、三平が店長をしている。おばちゃんもおいちゃんもタコ社長もすでに遺影の中だ。満男には高校生の娘がおり、時々満男が執筆する出版社のある女性に勉強の面倒を見てもらっている。妻の六回忌では再婚を勧められている。

満男の今度の作品は売れ行きが良く、書店でのサイン会を開くことになった。そしてその場に現れたのは、単身外国へ行き結婚して国際機関で働く泉だった。たまたま東京に仕事があり、ふとこの催しに気づいたのだ。リリーはすっかり年老いたが、泉との再会を喜ぶ。

泉は母親と連れ立って、かつて彼女の家族を裏切った父親を見舞いに老人ホームに向かうが、満男はその運転手をかって出た。父親が死んでも日本に簡単には戻れない泉はその時に父親とあっておきたかったのだが、母親はそれまでの辛かった家庭内のいきさつを思い出すのだった。

わずか数日の滞在だった。空港に泉を見送りに行った満男は自分の妻がすでに死んでいたことをそれまで言わないでいたことを泉に詫びる。泉はそれが満男らしいと言って、それを快く受け入れたのだった。家に帰ると娘が「お父さんがこの数日間、別の世界に行っちゃっていたみたい」と真顔で語ったのだった。

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