映画の世界

小津安二郎の作品

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小津安二郎(1903‐63)。アクションシーンもなければ、めまぐるしいカメラの回転もない。彼の映像は、日本間があり、その直線美の中に、壺が一つ置かれている、といったものだ。

俳優たちのセリフも切りつめられていて、初めて聞く人は素っ気ないと思うだろう。登場人物は、電線のカラスのようにまっすぐ並ぶ。あらゆるものがシンプルに整理され、観客は、じっくりと自分で考えてストーリーを作り上げるゆとりが生まれるのだ。

小津の監督作品は大きく分けて3つにわかれる。(A)戦前の下町に芽生えた温かい人間関係を描いたもの、(B)戦前からすでにはっきり現れていた社会や会社の枠組みに人間性や未来を押さえつけられてもがく人間たちを描いたもの、(C)戦後の近代社会におけるバラバラになった人間たちの冷たさ、寂しさ、ふがいなさを描いたもの、である。

現代では「東京物語」に代表されるように、(C)の作品だけが有名になっているが、それらを見る前に(A)や(B)を通してこの監督に人間観察がいかに幅広いものであるかを知るべきだ。

この監督の偉大さのゆえんは、ビルや風景や洗濯物の「静止画」とか、ローアングルによる撮影というものだけでなく、どの作品でも最初の3分の1で描かれるごく「平凡な日常」(これを退屈な前置きだと勘違いする観客がいる)と、そのあとの強力なドラマ展開であろう。

*出演者をブラウザの検索機能を使って、調べることができます。

戦 前
《懺悔(ざんげ)の刃》(1927)
《若人の夢》(1928)
《女房紛失》(1928)
《カボチャ》(1928)
《引っ越し夫婦》(1928)
《肉体美》(1928)
《宝の山》(1929)
《学生ロマンス・若き日》(1929)
《和製喧嘩友達》(1929)
《大学は出たけれど》(1929)
《会社員生活》(1929)
《突貫小僧》(1929)
《結婚学入門》(1930)
《朗らかに歩め》(1930)
《落第はしたけれど》(1930)
《その夜の妻》(1930)
《エロ神の怨霊》(1930)
《足に触った幸運》(1930)
《お嬢さん》(1930)
《淑女と髭》(1931)
《美人と哀愁》(1931)
《東京の合唱》(1931)
《春は御婦人から》(1932)
《生れてはみたけれど》(1932)
《青春の夢いまいずこ》(1932)
《また逢ふ日まで》(1932)
《東京の女》(1933)
《非常線の女》(1932)
《出来ごころ》(1933)
《母を恋わずや》(1934)
《浮草物語》(1934)
《箱入り娘》(1935)
《東京の宿》(1935)
《菊五郎の鏡獅子》(1935)
《大学よいとこ》(1936)
《一人息子》(1936)
《淑女は何を忘れたか》(1937)
《戸田家の兄妹》(1941)
《父ありき》(1942))
戦 後
《長屋紳士録》(1947)
《風の中の牝鶏》(1948)
《晩春》(1949))
《宗方姉妹》(1950)
《麦秋》(1951)
《お茶漬けの味》(1952))
《東京物語》(1953)
《早春》(1956)
《東京暮色》(1957)
《彼岸花》(1958)
《お早よう》(1959)
《浮草》(1959)・・・34年のリメイク
《秋日和》(1960) 
《小早川家の秋》(1961)
《秋刀魚の味》(1962)

学生ロマンス 若き日

学生ロマンス・若き日都の西北にある大学の学生、山本は奇妙奇天烈なアイデアを思いついた。自分の借りている部屋の窓に「二階貸間あります」という張り紙を張るのだ。やってきた男の客には「実はもう決まってしまいました」といい、シャンな(きれいな)女の子ならその部屋を譲りその間にお知り合いになるという作戦だ。

はたして千鶯子という女性が部屋を借りに来た。さっそく山本は「明日出ます」と言って翌日千鶯子は大八車に荷物を満載して引っ越してくるが、山本はまだ次の部屋を探しさえしていないのだ。

千鶯子には渡辺という友だちがいた。実は渡辺は山本の友だちなのだが。何事につけてもへまな渡辺は塗りたてのペンキをつけた手のままデートをしたりするが、千鶯子がスキーが大好きで近々赤倉温泉に出かけることを知る。

山本は渡辺の部屋に転がり込み、部屋が見つかるまでしばらく居候させてもらうことにする。だが一方で千鶯子のことが忘れられず、自分がもといた部屋に忘れ物を探すふりをしてやってくる。持ち前のあつかましさから彼女が赤倉に行くことだけでなく、渡辺にあげるつもりの編みかけの靴下までせしめてしまう。

学生ロマンス・若き日スキーもいいが、山本も渡辺も試験の期日が迫っていた。落第点を取るわけにはいかないのだが、山本はいっかな勉強しようという気がない。赤倉へは試験が終わり次第スキー部の連中と共に出かけることになっていた。

二人はお互いに千鶯子のことをお互いに知らせることなく、赤倉へ行くことになったが、渡辺は財布を落としてしまい、山本のほうは郷里からいくら待っても送金がない。仕方なく山本は「第7天国(質屋)」へ行くことになる。

二人は無事赤倉に到着。だが渡辺はスキーが下手だ。せっかくの千鶯子とのデートをはじめても、スキーがうまく話のたくみな山本にさらわれてしまう。二人の仲は険悪となる。

ある晩、スキー部の男がめかしこんでいる。なんと千鶯子との「雪上お見合い」をやるのだと言う。母親も付き添い、みんなに冷やかされてお見合いは無事に済んだ。あとに残されたのは落胆する山本と渡辺の二人。

千鶯子との間にもう見込みがないと悟った二人はさっさと列車に乗って帰ることにする。途中列車の窓から千鶯子からもらった祝儀の食べ物と、靴下を投げ捨てた。振り返ってみると車内には採点中の大学の教官がいるではないか。彼らの点数は最悪。

冬の西風が吹き荒れる東京の貸間に戻った二人は、元の仲になったが、またシャンな女の子を求めてこりもせず再び貸間の張り紙をするのだった。(1929年・モノクロ・サイレント)

原作・脚色; 伏見晃 出演; 斎藤達雄(山本秋一) 松井潤子(千鶯子) 結城一郎(渡辺敏) 飯田蝶子(千鶯子の母) 

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突貫小僧

人さらいの子分が、適当な子供を捜しに来た。路地で遊んでいる一人の子供を誘いだし、人さらいの親分のいるところに連れていこうとする。だが、この小僧、ただ者ではない。何かと難癖つけて人さらいを困らせる。

何とかして親分の所に連れてきたものの、少しも言うことを聞かず、親分がゆっくり酒を飲む暇さえくれない。腹を立てた親分は、子分に元に戻すように命じる。

ところがこの小僧、人さらいの足元を見て、おびき寄せるために用意したおもちゃをせびりとろうとする。それどころか小僧の友だちにも巻き上げられてしまう。

何とも他愛ない物語なのであるが、この小僧のたくましさが前面に出た作品。まさに「突貫」なのである。サイレントで15分。

それにしてもこの突貫小僧を演じた少年はどこへ行ったのだろう。この子どもの演技のすばらしさには舌を巻く。そしていかにもいたずらをやりそうな顔。監督はよくこんな子供を見つけたものだ。この子どもは、「生まれては見たけれど」など他の作品にも出演している。(1929年)

出演;齋藤達夫、青木富雄、坂本武

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和製喧嘩友達

トラックの運転手とその助手は仲のいい友だち同士だった。二人は同じアパートに住み、朝御飯も交代で作っている。ある日、路上に倒れている若い女を発見した。身寄りがないというので、二人は家に連れて帰り、3人で暮らし始める。

この女は汚い服を脱ぎ、顔を洗うとなかなかの美人。当然今まで仲のよかった仲間同なのに、それぞれこの女をものにしようと考えはじめ、女を巡る喧嘩が始まりそうになる。だが、女は別の場所に恋人を作り、結婚して去っていってしまう。

残された二人は再び仲のいい友だちに戻る。俳優同士のやりとりといい、ストーリーの流れかたといい、チャップリンの映画の影響を強く受けているようだ。しかし前作に比べて格段の進歩を遂げている。サイレント。(1929年)

出演;渡辺篤、吉谷久雄、高松栄子、大国一郎、浪花友子、結城一朗、若葉信子

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大学は出たけれど

大学生活は終わった。だが、せっかく卒業しても不況のまっただ中。会社まわりをしても断られるばかり。主人公の男も職が見つからずに焦っている。そこへ田舎から母親と、許嫁がやってきた。

心配する母親は何とか帰したが、新しい妻には、本当のことを言わないわけにはいかない。だんだん蓄えが乏しくなり、妻はカフェで働き始めた。一念発起、彼は受付の仕事をやってくれるなら雇ってくれるという会社に、一度は断ったものの再び赴き、心機一転して働き始める。

不況にもめげない、いや大学卒業もあてにならぬ世の中に生きるフレッシュマンを描いた作品だ。サイレント。(1929年)

出演;高田稔、田中絹代、鈴木歌子、大山健二、日守新一、木村健児、坂本武

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落第はしたけれど

大学も終わりに近づき、みんな試験に合格しようと必死だ。ありとあらゆる手を使ってカンニングをしているやつもいる。主人公の男も、シャツに答えを書いたりしたが、このシャツはクリーニングに出され、結局他の数人の仲間と共に落第の羽目となる。

他の連中がめでたく卒業する中、がっかりしてなにもする気が起こらない。彼に好意を持っているパン屋の娘は、彼が落第したことを知っていて映画に誘って励ましてくれる。

春になって落第生たちは相変わらず学生生活を続けているのだが、卒業した連中は皆下宿にごろごろしている。実は不況でどこにも就職口が見つからないのだ。こんなことならまだ大学生のままでいたほうがよかったかな・・・サイレント。(1930年)

出演;齋藤達夫、二葉かほる、青木富夫、田中絹代、笠智衆

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朗らかに歩め

朗らかに歩め・川崎弘子恋によって、チンピラ男がまじめな男に変わる話。少しも説教じみてなくて、自然な流れになっているのが小津らしいところだ。すでにこのころから、家具を一定時間写し続けるという彼独特の撮影方法が出ているし、商社の内部の描写は、「東京物語」などの後期の作品と変わりがない。松竹女優川崎弘子の日本的な優しさがよく出ている。

神山謙二はゆすり、スリ、たかりを生業とするグループの兄貴だ。サンドバッグや縄跳びで体を鍛え、めっぽう拳闘が強く手首にナイフの入れ墨があることから「ナイフの謙二」とよばれている。一緒の部屋に暮らしている弟分は仙公といい、仲間の軍公とともに謙二の命令によって町中で悪事を働いている。

謙二の女は千恵子というが、これがほかの男に手を出したりして身持ちがよくない。この間も、酒場で謙二たちの目の前で見知らぬ男といちゃついていた。千恵子は昼間は商社に勤めている。同僚にやす江という若い女がいて、社長の命令で指輪を買いに行ったところを仙公たちに見られている。

ある日曜日、謙二が運転する自動車が危うく女の子をはねるところだった。この子はやす江の妹で二人でピクニックに行っていたところだったのだ。謙二は二人を家まで送り、すっかりやす江にひかれてしまう。やす江もすてきな男性が現れたと胸をときめかせている。

これを知った千恵子がおもしろいはずがない。ホテルにやす江をおびき寄せ、ホテルにはやす江をモノにしようと狙っている社長を待たせて、彼女を手込めにしてしまおうと計画した。謙二が危ういところを救ったが、手の入れ墨を見たやす江は謙二がまじめな仕事に就くまでは二度と会いたくないという。

朗らかに歩め謙二は悩んだ。そして今のチンピラ稼業を廃業することを決心した。同室の仙公とは兄弟の縁を切ったが、彼もやはりまじめな仕事をして再出発をはかることにした。仙公はさっそく商社の運転手の仕事が見つかり、謙二も仙公が口をきいてくれたおかげでビルの窓拭きの仕事を始めることになった。

一方、社長の下心をくじいたために、会社をクビになったやす江は、母親と妹を抱えてたちまち生活に困るが、何とか新しいタイピストの仕事を得ることができた。ふと気づくと会社の行き帰りに通るビルの窓に、謙二らしき人が窓を磨いているように見える。

ある日会社が引けたあと、気になったやす江はそっとそのビルの裏側に回ってみた。ちょうど千恵子と軍公が謙二に向かってやばい仕事の協力を頼んでいたところだった。だが、謙二は決然として断り、軍公の発砲した弾によって腕にけがをする。やす江は飛び出していって仙公の車で謙二の部屋に連れて帰る。

傷は幸い軽かったものの、千恵子たちの自白によってこれまでの謙二の悪行が明るみに出て仙公とともに警察に連行される。幸い刑期は数ヶ月で済み、やす江はようやく謙二にはれて会うことができた。(1930年・モノクロ・サイレント)

監督 .......... 小津安二郎 配役  神山謙二 .......高田稔 杉本やす江 .......川崎弘子 その妹 ........松園延子 その母 ......鈴木歌子 仙公 .........吉谷久雄 軍平 .........毛利輝夫 千恵子 ......伊達里子 小野社長 ........坂本武

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その夜の妻

その夜の妻これが小津の作品?と思うくらいの異色作。そもそも外国のミステリー小説を映画化したものだが日本風ではない。貧しい夫婦の住む部屋だが、その壁を見るとモダンなポスターや、世界地図が張ってあり、インドやチベットの地名が大きく出ている。ほとんどがアパートの一室で話が展開し、映画というよりも演劇に近い。松竹女優の八雲恵美子が出演しており、その鼻筋の通った顔は刑事にピストルを突きつける「母は強し」そのものの妻の役を見事に演じきっている。

サイレントであるが、ことさらセリフは少ない。特に強盗シーンはほとんどすべてがパントマイムで通されている。しかしながら、ここの場面は動作と緊迫した雰囲気の描写だけで十分に表現されている。特に霧の立ちこめるビル街での強盗を警官たちが追いかけるシーンはモノクロの良さを十分に生かしている。

橋爪夫婦は、幼い娘みち子と貧しいながらも慎ましく暮らしていたのだが、みち子が重病になり、どうしてもお金が必要になった。娘を見殺しにできない父親の周二は必死の思いで強盗を思い立った。

夜の9時、ガードマンのいるビルを襲い、まんまと猿ぐつわをはめて現金を奪い取ることに成功した。だが、逃走途中で拾ったタクシーには運転手を装った刑事が乗っていたのだ。妻のまゆみの待つアパートにたどり着くと、周二は寝ているみち子の枕元へ走り寄った。

その夜の妻;八雲恵美子医者によれば、今晩が峠だそうだ。もしこれを何とか通り過ぎれば子供は助かるという。父親を見たみち子は安心して、すやすやと眠りはじめた。周二はまゆみに奪い取った金を渡したのだが、妻に強盗のことがわからぬはずはない。周二はみち子が回復次第、自首するつもりだと告げる。

そこへ先の刑事がドアをノックしてきた。おびえる二人。いったん周二は台所に隠れたが、刑事がすぐにそれに気づいて出てくるように言った。ところがそのとき妻のまゆみは娘の寝ているベッドの布団の下に隠してあった夫のピストルを取ると、刑事の背中に突きつけたのだ。

刑事は仕方なく自分の拳銃を捨て、まゆみが二挺の拳銃を自分に向けている間、周二はみち子の看護に取りかかった。みち子はおかげで落ち着きを取り戻し回復へ向かっているらしい。

だが、もう二日も寝ていないまゆみは、午前2時をすぎる頃から睡魔が猛烈に襲ってきた。時々はっと目が覚めてピストルを刑事に向けるのだが、どうしてもすぐにもうろうとした状態になってしまう。やがて夜が明けた。まゆみが目を覚ましてみると、夫と娘はぐっすり眠っていたが、自分の持っていた二挺の拳銃も、奪った金もすべて刑事にとられていた。

やがて医者がやってきて、みち子の状態は峠を越したと告げた。ほっとする二人。だが一方ではいよいよ逮捕が近づいている。刑事は部屋を見回しその貧しい暮らしと、みち子への愛情あふれる夫婦の姿を見てこの時まで逮捕を延ばしていたのだ。刑事は寝たふりをして周二が逃げるのを見ていたが結局逃げ切れないことを悟って部屋に戻ってきたのをみて、周二が娘との別れを惜しむ時間を作ってやった。

午前9時が近づいた。これからまゆみは周二の刑期が終わるまでみち子と二人で生きていかなければならない。娘は父親が去ろうとしているのを感づいて泣き叫ぶ。娘をだっこして窓から夫と刑事が路地の門出姿を消すまでまゆみは後ろ姿を見送っていたのだった。(1930年・モノクロ・サイレント)

監督: ........小津安二郎 脚色・翻案: .......野田高梧 原作: .........「九時から九時まで」 オスカー・シスゴール 配役: 橋爪周二 ..........岡田時彦 その妻まゆみ ..........八雲恵美子 その子みち子 ........市村美津子 刑事香川 ........山本冬郷 医者須田 ........斎藤達雄 警官 .........笠智衆

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東京の合唱(コーラス)

東京の合唱優れた監督の下ではサイレントだろうがトーキーだろうが、そのすばらしさに少しも変わりはない。むしろサイレントでは無駄な会話が省かれ、話の本質にたやすく迫ることができる。この作品はその意味でひとつの完成域に達している。最初の校庭での体育の授業など特に見ているだけで面白いシーンだ。

昭和30年代といえば、大失業時代だ。東京には仕事にあぶれた男たちがたくさんいた。主人公も妻子を抱えて仕事探しに奔走する。家庭の幸福や家族の協力を明るく描いた作品。

学校の校庭では、体育の大村先生が生徒たちに号令をかけている。先生が目を離すとすぐに何かいたずらを始める連中だ。その中に遅刻の常連や、蚤が多くて上着の下には何も着ていない岡島も含まれていた。

時は過ぎ去り、岡島は今では東京にある保険会社の内勤社員である。妻のすが子、長男、長女、生まれて間もない赤ん坊の5人暮らしである。ボーナスの日、思ったより多かった金額で息子のほしがっている自転車を買ってやろうという岡島だったが、労社員山田が、保険に入ってすぐに死んだり怪我をした顧客を出してしまったために首になると聞いて憤激して社長と談判をすることになってしまった。

興奮して社長をどついたために、岡島は即刻首になってしまった。この時代いったん失業者になったら再就職は非常に難しい。でもうちに帰ってがっかりしている長男を見て自転車は買ってやることになった。

ところが悪いことは続くもので長女が疫痢の疑いで即刻入院。入院費を工面するために岡島はすが子に内緒で箪笥のものを質に出してしまった。びっくりしたがそんなことより娘が元気になっったことを喜ぶ夫の姿を見てすが子は涙ぐむのだった。

娘が病気の知らせを聞いた後子供たちが魚すくいをしている池を岡島が立ち去るシーンで、魚が一匹地面に投げ捨てられて苦しんで飛び跳ねる一こまがある。魚一匹をていねいに写すことによって家族が苦しんでいるという、とても象徴的な内容を伝えている。

岡島は街に出て仕事探しをする。だが少しも希望が見えて来ない。あるとき職業紹介所の外でかつての恩師、大村先生にばったり出会う。先生は教職を退いた後、奥さんと洋食屋を開業したのだという。いずれ仕事の口を見つけてやるからということで当分の間岡島は先生の店「カロリー軒」の宣伝を手伝うことになる。

ある日すが子は子供たちと路面電車に乗っていると、夫がのぼりを立ててビラを配っているではないか。家に帰ってそんな肩身の狭い思いをさせるなと懇願すると岡島は恩師のためにも仕方がないという。しばらく考えてすが子は自分もその洋食屋に言って手伝うと言い出した。

数日後、先生の教え子たちがカロリー軒に集まって同窓会を開いた。すが子も子供たちを引き連れてやってきてカレーの盛り付けに大忙しだ。そこへ先生宛に一通の手紙が届く。栃木県の女学校に英語教師の仕事があるとの知らせだった。喜ぶ二人。ようやく一家に春が訪れた。(1931年・モノクロ・サイレント)

監督..  小津安二郎 脚色・潤色..  野田高梧 原案..  北村小松 配役 岡島伸二..  岡田時彦 妻すが子..  八雲恵美子 その長男..  菅原秀雄 長女..  高峰秀子 大村先生..  斎藤達雄 先生の妻..  飯田蝶子 老社員山田..  坂本武

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淑女と髭

淑女と髭サイレントの時代の映画はストーリーは単純だが、人生のほのぼのとする場面を凝縮した佳作が多い。これもその一つ。技術に頼らずともサイレントの時代でも映画は非常に豊かな表現が可能だったのだ。ついでに戦前の黒ずんだ日本家屋や、町中の石造りの建物なども鑑賞できる。

大学の剣道部主将の河島は大学対抗の試合にも勝って、友人の男爵行本の家で行われる妹幾子の誕生に招かれている。邸宅へ向かう途中、若い女性が一見モダンガール風の女ちんぴらにナイフを突きつけられてお金を取られようとしているところに出くわした。河島はもちろん持ち前の剣道の腕の強さでちんぴらたちを追い払ってしまう。

やがて男爵の家に到着するが、そのむさ苦しい髭のおかげで女性たちに大変評判が悪く、幾子の友人たちは、いやがってみんな帰ってしまう。男爵は妹の将来の相手として河島をよんだのだが、かえって裏目に出てしまった。

河島も卒業して仕事口を探す。だがこの不況ではなかなか見つからないし。あるある会社で面接をして帰ると、あとで面接場で案内をしてくれた女性が河島のアパートを訪ねてきた。それは偶然にも女チンピラから河島が救ってやった広子だったのだ。彼女は河島に髭を剃ることを忠告しに来たのだ。

淑女と髭髭を剃ったために、友人の行本は呆気にとられ少々がっかりする。何しろ河島はリンカーンをモデルにしていたのだから。だが幾子の方はそれまで嫌いだったはずの河島に何となく惹かれるようになってしまい、ほかの男とのお見合いの席上で、剣道をやらない人とは結婚しないと言い出す始末。

髭を剃った甲斐があって河島はあるホテルに就職することができた。河島は広子の家に出かけて就職できたお礼を言う。河島が帰ったあとで広子は母親に向かって自分があの男に惹かれていること、そしてそっと河島の真意を確かめてほしいと頼む。母親はホテルまで行ってみたが、真意を聞く前にお客が来てしまった。

河島がホテルのフロントにいると、偶然ロビーにかつての女チンピラがいて、ブローチを渡し7時に会うように迫る。実はそれが盗品であったことから、河島は昔のようなかっこうにつけ髭をつけて彼女の前に現れ昔のことを思い出させる。彼女を自分の部屋に連れてきて説教しようとするが、かえって女に惚れられてしまい、部屋から出ていかない。そこへ密かに河島にあこがれる幾子が両親を連れて入ってきたから大変。変な女が部屋の真ん中にいるのを見てびっくり仰天。全員引き上げていく。

翌朝、今度は広子が訪ねてきた。やはり女がいるのを見てショックを受けるが、河島の真意を確信して寝ている前で河島の破れた服の繕い物を始める。河島は目を覚ます。目の前に広子がおり、自分を信じて立ち去らないのを見て大喜び。これを見た女チンピラもあきらめて立ち去っていった。(1931年・モノクロ・サイレント)

監督;小津安二郎 原作・脚本;北村小松 ギャグマン;ジェームス槇 出演;岡田時彦(岡島)川崎弘子(広子)飯田蝶子(広子の母親)月田一郎(行本)飯塚敏子(行本の妹幾子)伊達里子(女チンピラ)齋籐達雄(相手の大学の剣道部主将)

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生まれてはみたけれど

「親子そろって駅へ向かう」生まれてはみたけれど昭和7年であってもすでに日本は、世界に発展する経済大国を目指していた。そのためには、サラリーマン精神がしっかり確立されていなければならない。子供たちはしっかりお勉強をして偉くなるようにいわれているが、大多数は何とか食いつなぐために宮仕えの悩みを背負っていかなければならない。監督はもうすでにあまり明るくない未来の姿をこのときから描写し始めていた。

麻布に住む*さん一家は、今度お父さんが課長に昇進し、近くに重役の岩崎さんが住んでいる郊外に引っ越してきた。まだ空き地が多く、そばを通っている通勤電車は一両編成だ。お母さんと兄、弟の4人家族。お父さんはさっそく岩崎さんのところに挨拶に行く。

子供たちの世界は別だ。地元のガキ大将亀吉とそのグループは、まず弟を見つけていじめ始める。だが、兄貴が現れてこれがなかなか強い。だが、この分では当分つきまとわれそうだ。そのころ子供たちの間では雀の卵を飲み干すことがはやっていた。力がつくのだという。

兄弟は新しい学校に通うことになったが、また亀吉グループがいると思うと登校する気になれない。途中の野原で二人は昼間を過ごすことにした。お母さんの作った弁当を食べ、習字を書いて、酒屋の小僧に「甲」の署名をしてもらった。

だが、先生の話を聞いたお父さんにその晩叱られる。翌朝からはなんとしても学校に行かなければならない。その日、兄貴は酒屋の小僧に頼んで亀吉をやっつけてもらう。おかげでこのグループの大将になれそうだ。ここでの儀式は「家来」に向かって十字を切る。そうすると家来はその場で仰向けに倒れなければならない。もう一度合図をすると起きあがることが許される。

生まれてはみたけれどこうして次々と亀吉の子分たちを自分の家来にしたし、その中には岩崎重役の息子の太郎ちゃんも含まれていた。さて、その晩重役の家では活動写真の映画会が行われることになった。会社の人たちの他に、近所の子供たちも駆けつけた。

岩崎さんは映画を撮影することが趣味で、今度16ミリで作成し、みんなの前でご披露となった。上野動物園、浅草とおもしろい場面が次々と出たあと、会社の風景をうつした場面が出てきた。その中には兄弟のお父さんが写っていたのだ。それも変な顔をしたりタコ踊りをしたりして。

これを見たみんなは大喜びだったが、兄弟はおもしろくない。偉くなるために勉強しろと言っていたし、お父さんはきっと偉いんだと思っていたのに、こりゃなんだ。あんなふざけた格好で映画に写るなんて、恥さらしだ!兄弟は怒って家に帰ってしまった。

あとから帰ってきたお父さんの前で、兄弟は憤慨している。そして何で岩崎さんの前で深々とお辞儀をしたり、ぺこぺこしなければならないのかと問いつめる。お父さんはもちろん答えることができない。あまりしつこいので、兄貴の方を殴ったが、ますます強情にするばかりだった。

兄弟そろっての反抗にお母さんは心配したが、お父さんの方もやりきれない。酒ビンを持って考え込んだ。おまえたちを食わせるためには、したくないけど我慢して上司のいうことをハイハイと聞かなければならないというのに。おまえたちだって大学を出てサラリーマンになれば同じような侘びしい人生が待っているんだぞ・・・

翌朝、兄弟は朝御飯を食べようとしない。ぺこぺこしてまでもらったお金で用意した食べ物なんていらないと言うわけだ。両親はいつまでハンストが続くか心配したが、お母さんがおにぎりを作って横に置くと、まず空腹に耐えかねた弟が手を出した。ようやく二人は食べ始めた。

両親がほっとしたところで登校の時間が迫ってきた。父親と踏切まで一緒だ。踏切には岩崎さんの車が止まっている。子供たちの手前近づくのをためらっている父親を見て、兄貴の方が言った。「お父さん、早くお辞儀をしに行った方がいいよ」。昨晩の事件は兄弟を少し大人にしたようだ。(1932年昭和7年・モノクロ・サイレント)

監督:小津安二郎 脚本:伏見晁 原作:ジェームス槇 撮影:茂原英朗 キャスト:斉藤達雄(父) 吉川満子(母) 菅原秀雄(兄) 突貫小僧(弟)

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青春の夢いまいづこ

青春の夢いまいずこたとえ小品であっても、必ずそこに人生が含まれているのが小津安二郎の作品である。最初は平凡な風景の描写から始まっていても、いつの間にか観客は、一つの世界に投げ入れられていることに気づく。それがまた全然教訓的でないのがいい。

ここは東京のとある大学。商学部であるが、どうも少しも勉強せず、あるいは勉強してもさっぱり成績の上がらない連中が混じっているようだ。その中での4人組は授業中に将棋は指すわ、試験ともなればカンニング用紙を出してきてお互いに配布し合うわ、どうも卒業もできるかもあやしい。

キャンパス内のベーカリーにはお繁ちゃんという可愛い女の子がいた。いつも朗らかで生き生きとしていてみんなのあこがれの的であった。時にこの中の堀野哲夫とは親しく、みんなの前でシャツの修繕をしてもらったりしていた。

堀野は「堀野商事」という会社を経営している父親がいる。副社長でもある叔父は哲夫を何とか結婚させようといろいろ話を持ってくるが、お繁ちゃんのことがあるのか、みんな話を断ってしまう。

やがて学期末試験が迫ってきたが、その当日父親が急死し、哲夫は突然若くして堀野商事の社長になることになった。大学を中退し、慣れぬ会社の仕事に毎日専念することになった。お繁ちゃんと会うこともなく毎日仕事に忙殺されるようになった。

それから3年ほどたって卒業シーズンが近づいてきた。大学で勉強を続けている残りの3人もそろそろ就職の場を見つけなければならないのだが、何せカンニング常連組であるし、不景気もひどいので普通の会社ではとても入れそうもない。3人は哲夫に泣きついてきた。

昔の学生生活をまだ懐かしく思っている哲夫は3人のためにカンニング用紙を用意までして、入社させてやった。しかもお見合いデートの最中に、ベーカリーが閉鎖されて引っ越しの最中だったお繁ちゃんと偶然出会い、彼女のためにも仕事の場を用意してやる。

哲夫はお繁ちゃんと一緒になる気になった。3人の前で彼女と結婚することを宣言する。3人はみな「異論ない」と言ってくれた。だが3年もの間会わないでいたことで、彼女はあきらめて3人の中の一人、斎木と結婚の約束をしていたのだ。ところがそのことを斎木は何も言わない。

哲夫は男らしくお繁ちゃんには、斎木と幸せになるようにと言って彼女の部屋を去る。自分が社長だからといって人の花嫁を奪う権利などないのだと言って。それにしても自分の許嫁をあっさり譲ってしまう斎木の態度のふがいなさはいったいなんだ!

哲夫は斎木の家に乗り付けると、3人を前にして、斎木を殴りつけた。そして3人とも仕事が欲しいがために自分の気持ちを曲げることまでする態度をなじった。はじめはびっくりしていた3人だが、ようやく哲夫の気持ちをわかってくれた。しばらくたって、会社の屋上には斎木とお繁ちゃんが新婚旅行に出かける列車を見送って手を振る3人の姿があった。(1932年・モノクロ・サイレント)

監督.......小津安二郎 脚本.......野田高梧 原作.......野田高梧 配役 堀野哲夫 .......江川宇礼雄/ベーカリーの娘お繁 .......田中絹代/斎木太一郎 .......斎藤達雄/哲夫の父謙蔵 .......武田春郎/叔父貢蔵 .......水島亮太郎/哲夫の友熊田 ......大山健二/島崎 .......笠智衆/大学の小使 ......坂本武/斎木の母おせん .......飯田蝶子/山村男爵夫人 ......葛城文子/令嬢 ......伊達里子/婆や .......二葉かほる/花嫁候補の令嬢 ......花岡菊子

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非常線の女

非常線の女田中絹代がギャングの女を演じる。彼女は何を演じさせても独特の人柄をかもし出す。この小津監督の下で最初は蓮っ葉な女だったのが恋人がほかの女に気が向くときに自分の生き方を180度変換させる見事な演技を見せてくれる。

時子はタイピストだが、街のチンピラ仲間の間では姉御的な存在だ。ボクシングジムのボス、襄二の女として幅を利かせている。その魅力的であけっぴろげな性格で、会社では社長の息子に言い寄られ、ルビーの指輪などの贈り物を受け取ったりしている。

襄二はボクシングの修行をやめてもその強さはジムではぴか一なので、多くの子分を引き連れ、みんなの憧れだった。ジムの新人である宏もその一人で、わざわざ襄二の部屋までやって来て自分も子分にしてほしいという。襄二はあまり気が進まなかったが、一応メンバーに入れてやることにする。

宏は学生で姉と二人暮しだった。姉の和子は(犬のマークの)レコード店に勤め、弟の勉強のために働いていた。ところが最近弟の帰りが遅い。ろくに勉強もしていないようだし、タバコもすっている様だ。心配した和子は直接襄二に談判を申し込み、弟を仲間からはずしてくれるように頼む。

宏を追い出した襄二だったが、まじめでおとなしい和子にすっかり惹かれてしまい、蓄音機を買い込んで自分の部屋でぼんやり音楽を聞いている毎日だった。仲間の女からの報告で真相を知った時子はすっかり落ち着きを失ってしまった。

和子に襄二を取られそうなのは自分に女らしいところがないせいだと思った時子は、家庭的に振る舞い男の気持ちを戻そうとするが襄二はうわの空。一度は社長の息子の求めに応じようかという気にもなったが、やはり襄二のもとに戻ってきてしまった。やはり与太者同士のほうが気が合うということか。

そこへ和子が弟を探して部屋にやってくる。襄二はもう彼女を追いかけることもせず、宏とははっきり手を切ったことを告げる。しばらくして宏自身がやってきた。姉の店の金を使い込んでしまったのだという。その返済のための200円を借りに来たのだ。

足を洗い再起を誓い合った襄二と時子はその200円を手に入れるために「最後の仕事」に取りかかる。社長の息子に拳銃を突きつけて強奪したのだ。」あっけに取られる宏に200円を手渡すと二人は警官たちが張り込む街の中を逃げ回った。

だが所詮逃げおせるものではない。二人でつかまって2,3年刑務所で我慢しようと時子は提案する。だが襄二は何とか逃げようということを聞かない。時子は襄二の足を拳銃で撃った。あきらめて二人は警官に連行されることになる。2,3年の別れを前に二人はしっかりと抱きしめあうのだった。(1933年・モノクロ・サイレント))

監督:小津安二郎 原案 :ゼームス・槇 配役:時子(田中絹代) 襄二(岡譲二) 和子 (水久保澄子) その弟宏 (三井秀夫) みさ子 (逢初夢子) 仙公 (高山義郎) 三沢 (加賀晃二) 社長の息子岡崎 (南條康雄)

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出来ごころ

出来ごころ下町の温かい人情を描いた作品のうちの一つ。このような人間関係を扱った小津の作品が戦前存在したことで、戦後の家族崩壊を描いた「東京物語」の意味がいっそう大きく浮き彫りにされてくる。観客は「東京物語」を見る前にこのような作品を見ておくとよい。

喜八は下町に住むやもめ男。小学3年生の息子、富夫と二人暮らし。別棟には喜八の弟分で独身男の次郎が住んでいる。二人はビール工場の工員だ。貧しい生活ではあるが、休みの時には三人で浅草の寄席などに行ったりしている。

ある夜のこと、寄席帰りにおとめさんのところで一杯やって帰ろうとしたところ、外に若い女が一人立ちつくしている。次郎はよくある引っかけ女だといってさっさと帰ろうとするが、その美しさにひかれた喜八は気になってしょうがない。聞くと千住の紡績工場をクビになって行くところもないと言う。

おとめさんに頼み込んで、女を泊めてもらった。女は春江といい、おとめさんによれば、とてもいい子だからうちの店で手伝ってもらうことにしたと言った。さあ、独り身の喜八は春江が気になって仕方がない。一張羅を売って簪(かんざし)を買い求め、春江にプレゼントをしたりするが、どうも春江は髭面の次郎の方にひかれているようだ。

おとめさんはぜひ春江を次郎と一緒にさせようと大乗り気なのだが、次郎ははじめからこんなタイプの女は嫌いだといって取り合わない。喜八の方はすっかり春江に参って、工場も休みがちになった。酒ばかり飲んでいるものだから、しっかり者の富夫に抗議された。まだ年端もいかない息子に叱られては喜八も立つ瀬がない。

翌朝から心を入れ直して、富夫には子どもにとっては大金のお小遣いを渡して学校へ送りだした。ところが富夫は今までこんな金をもらったことがないものだから、片っ端からお菓子や食べ物を買い込みいっぺんに食べてしまい、急性腸カタルを起こしてしまった。

一時は命も危ないほどだったが、春江、おとめさん、次郎の看病を受け、学校の先生がお見舞いに来てくれてようやく富夫は回復した。だが、そのあとの入院代が大きな負担となって喜八にのしかかった。宵越しの金を持たない生活をしてきただけにまったく払う金がないのだ。

春江が何とか金を作り出すと言い出す。それを聞いた次郎はそれがなにを意味するか知っているからそれをやめさせようとした。これがきっかけで二人の間のわだかまりは一気に解けた。

次郎は知り合いの理髪店のオヤジに頼みに行き、金を工面してもらった。借金の支払いは北海道で人夫として働きにいこうという気でいたのだ。それを聞いた喜八は猛然と反対し、逆に自分が行くと言い出す。事情を知った理髪店のオヤジはそれを聞いてそんな金ならあきらめても言いといいだした。

まわりの反対を押し切り喜八は富夫を近所の人に任せて船に乗り込んだものの、持参した富夫の習字を見たとたん家に帰りたくなり、船はまだ東京湾の運河づたいを走っていたので、海に飛び込み岸に泳ぎ着いてしまった。(1933年・モノクロ・サイレント)

監督 ......小津安二郎 原案 ......ジェームス・槇 配役 喜八 ......坂本武/春江 ....../伏見信子/次郎 ......大日方伝/おとめ ......飯田蝶子/富夫 ......突貫小僧/床屋 ......谷麗光

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東京の女

東京の女;岡田嘉子姉が家計を助けるために娼婦になっていたことを知って自殺した弟の物語。時代によってこの解釈は違うだろうが、当時は1933年、太平洋戦争へと日本がまっしぐらに進んでいる時代だった。ヒロイン役は樺太からソ連へと恋の逃避行をする数年前の岡田嘉子である。田中絹代はまだ幼くていかにも娘役にぴったりである。

ちか子と良一の姉弟は二人きりで暮らしている。ちか子は昼間は商社でタイピストとして働き、そのあと千駄ヶ谷で大学教授の翻訳の手伝いをしているという。良一は大学生で、苦しい家計の中からなんとか学費を姉に出してもらっている。それどころか時々お小遣いさえもらっている。

ある日ちか子の勤める商社に警察官がやってきて、上司にいろいろと尋ねていった。ちか子の会社での勤務は4年になり精勤を続けまじめな働きぶりなのだが、外であらぬうわさが立っているので調べに来たのだという。

良一には、春江という親しくしている娘がいた。今夜も「百万円もらったら」という外国のオムニバス映画を一緒に見に行ってきたばかりだ。春江が家に帰ると、兄の木下が出かけようとしていた。兄は巡査だが、ちか子のよからぬ噂を耳にしたので、一度ちか子にじかにあって話をしたいという。

春江はそれを聞いて自分が直接話をしたいと申し出たので兄は渋々それを認める。だが、春江が夜になってちか子の家に出かけると、まだ彼女は帰っておらず良一が一人留守番をしていた。いぶかる良一にはじめは話す気はなかったが、つい春江はそのうわさ話をばらしてしまった。

ちか子が勤務のあとに翻訳の手伝いをしていたなどというのはまったくのウソで、実は酒場に出入りし、男の客を拾っていたのだというのだ。それを聞いてこれまでそのような世間を知らずひたすら学生生活を通してきた良一はショックを受ける。そして春江を追い返してしまう。

夜も更けて、ちか子から電話がかかってきた。今日も遅くなるというのだ。良一は途中で電話を切り、深夜に帰ってきたちか子にその真意をただす。だが、ちか子はこれもすべて良一が無事学校を卒業してくれるためには必要だったのだと繰り返し、これを聞いて激高した良一はちか子を殴ってしまう。

良一は家を飛び出し二度と戻ってこなかった。それまで経験したことのなかったショックで自らの命を絶ってしまったのだ。良一の枕元にちか子と春江が座っいる。春江は自分ではなく兄に言ってもらえばこんな事にならなかったと後悔している。

ちか子はこんな事ぐらいで自殺した弟のことが残念でならない。なぜショックを乗り越えるぐらいの強さがなかったのか。姉の愛情が弟を弱くしてしまったのか。外には、特ダネを期待してちか子の家を訪れた新聞記者たちががっかりして帰って行くところだった。(1933年・モノクロ・サイレント)

監督 ................  小津安二郎 脚色 ................  野田高梧 池田忠雄 原作 ................  「二十六時間」 エルンスト・シュワルツ 翻案 ................  野田高梧 池田忠雄 配役 姉ちか子 ................  岡田嘉子 弟良一 ................  江川宇礼雄 娘春江 ................  田中絹代 兄木下巡査 ................  奈良真養

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母を恋はずや

母を恋わずや全部で9巻のフィルムで構成されているが、最初の1巻と最後の9巻が紛失しているそうだ。息子の母親に対する心理描写が実に細かく現れている。女の部屋にJoan Clawford のポスターがかかっているのだが、これが何度も繰り返し映し出されるのはなぜだろう。

両親と二人の男の子の幸せな家庭が突然、父親の心臓麻痺による死によって崩れた。長男貞夫も次男幸作も小学生で、まだこれから先が長いのだが、それは母親千恵子の肩に全部かかってきた。それでも何とか二人は無事に成長し、二人とも大学生になることができた。

ある日、戸籍謄本を見た貞夫は自分が千恵子の本当の子ではないことを知る。貞夫を生んですぐ死んだ先妻の子だったのだ。貞夫は千恵子に向かってどうしてこれまで知らせてくれなかったかとなじり、そのことにいつまでもこだわっていた。やがて3人は郊外に小さな家を求めて引っ越しをした。

ある時幸作が伊豆旅行に行こうとして、母親に家の家計が苦しいから行っては駄目だと言われたとき、貞夫はどうして自分には家計の苦しさを教えてくれないのだろうといぶかる。千恵子はこれまで極力ふたりの兄弟を決して区別しないで育ててきたというのだが、貞夫から見ると自分が特別扱いを受け、幸作と違って厳しく叱られることもないのは千恵子が遠慮しているのだと思いこむ。

いったんそう思い始めたらその考えを吹っ切ることができない。幸作と喧嘩をして家を飛び出し、チャブ屋の知り合いの女のもとに転がり込んで、迎えに来た母親に向かって自分は一人暮らしが性にあっていると言って追い返してしまう。

だがそばでそのやりとりをきいていた掃除婦がぽつりと言った。「木の股から生まれてきたわけじゃあるまいし、母親を泣かせるんじゃないよ。うちの息子ももっとしっかりしていたら、私はこんなことはやっていないだろうよ」

貞夫はそれを聞いて我にかえった。自分の思いこみがいかにつまらないものであるかに気づき、すぐに母親の元へ帰った。しばらくして3人は再び家を買い、引っ越しをする。千恵子も改めて霊前の夫に報告することができた。(1934年・モノクロ・サイレント)

監督:小津安二郎 原作:小宮周太郎 配役 父梶原氏:岩田祐吉/母千恵子:吉川満子/長男貞夫:大日方伝/貞夫の少年時代:加藤清一/次男幸作:三井秀男/幸作の少年時代:野村秋生/岡崎:奈良真養/その夫人:青木しのぶ/ベーカリーの娘和子:光川京子/服部:笠智衆/光子:逢初夢子/らん子:松井潤子/チャブ屋の掃除婦:飯田蝶子

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浮草物語

浮草物語(旧作)役者たちはまさに浮草である。でも舞台に立つというのは底知れぬ魅力があり、どんなにつらくてもこの仕事から離れることはできない。平凡で安泰な生活にあこがれてはいるが、再び放浪の旅に出て行くのである。もしかしたらこれは「寅さん」シリーズの根幹とも通じるところがあるかもしれない。

これは後に戦後、「浮草物語」としてリメイクされる。舞台の場所を変え、名前も変えてあるが、基本的には同じストーリーだ。ただ、内縁の女、おたか(八雲理恵子)がすみ子(京マチ子)となり、二人の女優の性格には大きな開きがある。同じ監督のリメイクということで実に興味深い。

テレビの普及する前の日本では、田舎町に一座がやってきて人々に娯楽を提供していた。ここは木曽の旅籠宿で有名な中央本線、奈良井(ならい)駅。周りは木曽の山々に囲まれている小さな町だ。喜八の率いる旅回りの芝居一座が鈍行列車に乗ってやってきた。さっそくチンドン屋が狭い街並みを練り歩き、旗がひるがえって町は活気を帯びた。地元の子どもたちが役者につきまとう。

だが、内縁のおたかは、何でこんな小さな町に立ち寄るのか喜八の真意がわからない。客が来てもたかがしれているし、雨でも降ったらほとんど入りがないだろう。だが、喜八には他の目的があった。昔からのご贔屓の客に挨拶に行くと言って、昔の女、かあやんと自分の実の息子信吉に会いに来たのだ。

喜八とかあやんはずっと昔に別れ、かあやんは今小料理屋をやっているが、まだ学生で実直な信吉には、喜八をおじさんということで父親であることをあかしていない。かあやんは喜八がもう歳だからこんな浮草稼業から足を洗い自分たちといっしょに落ち着いた暮らしをしてもらいたいと心の底では思っている。

だが喜八は、今のままでいいと思っているし、信吉をハヤ釣りに誘い出したりして息子とのわずかな時間を過ごすのだった。だが、これをおたかが気づかないはずがなかった。自分と知り合う前にできた子供とはいえ、こうやって会いに来ている喜八に腹が立ち何とか復讐してやろうと考える。

おたかはかあやんや信吉と喜八がいるところに押しかけていったりしたが、逆に喜八から殴られ、罵られる。豪雨の中、それぞれが街の長屋のひさしに雨宿りしながら相手がはっきり見えないほどの豪雨越しに怒鳴り合う場面は見事。おたかは喜八に捨てられては行くところもない弱みがあり、他の作戦を考える。

そこで目を付けたのは一座での妹格のおときだった。その美しさで信吉に接近し、色仕掛けで誘惑させようと考えたのだ。これはあっけなく成功してしまった。これまでまじめ一筋だった信吉が、おときにすっかり入れ込んでしまい、おときの方も好きになってしまったが、こんな仕事をしているからには信吉との間に未来がないこともわかっていた。

二人の仲が発覚し、喜八は激怒し、おときをそそのかしたおたかとは縁を切ると宣言する。だが、悪いことは重なるもので、この町での興行成績が良くなく豪雨にたたられたため、経営が行き詰まり一座はたちまち解散に追い込まれた。

最後の晩、みんなで別れの酒を酌み交わす一座の人たち。長年ここで働いてきた役者たちにとっては青天の霹靂だった。喜八が最後の別れを告げにかあやんの店へ行ってみると、信吉とおときは駆け落ちしたらしいことがわかる。二人はその晩店に戻ってきたけれども、信吉は喜八が急に今更父親と名乗り出ても、もはや喜八を受け入れる態度を示さなかった。

一座の解散でどん底に落ちた喜八は、実の息子にも背を向けられ、やはり自分は浮き草稼業しかないと思い、駅へ向かう。上諏訪あたりにでも行って一旗揚げようかと思っていた喜八だったが、待合室にはちょうどおたかが座っていた・・・(1934年・モノクロ・サイレント)

監督:小津安二郎 原作 : ジェームス・槇 配役 喜八 :.坂本武/かあやん(おつね) :飯田蝶子/信吉 :三井秀男 /おたか :八雲理恵子/おとき :坪内美子/富坊 :突貫小僧

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菊五郎の鏡獅子

鏡獅子六代目尾上菊五郎による追真の演技を記録映画として撮影したもの。歌舞伎舞踊。長唄。本名題《春興鏡獅子(しゆんきようかがみじし)》という。原曲《枕獅子》の廓趣味を排除し,傾城(けいせい)を大奥の女小姓の役に変えて筋をつけ,後ジテは立役の能様式の獅子の精に改作したもので,明治期の高尚好みの作品といわれる。

大奥の鏡曳きの余興に,御小姓弥生が踊るうちに,名匠の魂こもる獅子頭がのりうつり引かれて入る。獅子による軽快な身のこなしと勇壮な振り付けは外国人もうならせる圧巻である。(1935年・モノクロ)

監督:小津安二郎 撮影:茂原英雄 配役  舞:尾上菊五郎(六代目) 謡:松永和楓 三味線:柏伊三郎 太鼓:望月太左衛門

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東京の宿

東京の宿外国の小説からストーリーを取った人情話。失業した男が人に助けられ、また人を助けるために盗みまで犯すという人々の助け合いの連鎖が描かれる。このリアリスティックな映画を見れば太平洋戦争の始まる前には、21世紀の殺伐とした世知辛い世の中からは想像もつかない、ホームレスにならずに済む社会もあったのだとわかるだろう。

女房に逃げられた男、喜八は失業者。息子の善公、正公とともに工場地帯を歩き回り、工場の門番に仕事がないかたずねて回るが、一向に見つからない。夜は宿無しが集まる宿泊所に泊まるが、もうお金もほとんどそこをつきかけている。

子供たちが捕まえた野犬を警察に引き渡せば40銭が手に入るのだが、善公はほかの子どもが持っていた海軍の帽子を手に入れるためにそのお金を使ってしまう。さらに荷物を入れた風呂敷包みも、子供たちが運ぶ役目を相手に押し付けている間に誰かに持ち去られてしまう。

泊まる金もなくなった3人はまずは一杯飯屋で空腹を満たすが、野宿しようと店を出た矢先、折り悪く雨が降ってきた。そこでばったり会ったのが幼馴染の女、おつねであった。3人の窮状を聞いておつねは仕事を見つけてくれ、親子はやっとまともな家に暮らすことができるようになった。善公も学校へ行けるようになった。

ある夜、宿泊所で知り合った非常に美しい女おたかと幼い女の子君子と彼らは原っぱで再び出会う。子供たちはすぐに仲良くなり、喜八とおたかも少しずつ親しくなる。おたかも仕事がなくもちろん夫もいない。喜八はおたかのために仕事を見つけてやろうと奔走する。子供たちは毎日原っぱで楽しく遊んでいた。だが、ある日君子は遊びに来なかった。

同時におたかも急に姿を現さなくなったために喜八はがっかりしてしまう。だがやけ酒を飲んでいた飲み屋におたかが働きに出ていることで、幼い君子が疫痢にかかりその治療費を捻出するためにおたかがこうやって金を作ろうとしているのを知った。

喜八はおたかを励まし君子のそばに付き添っていてやるようにと言い残して金を工面しようとした。だが30円もの大金は盗むしか方法はない。喜八は何とか金を手に入れると息子たちにおたかの元に届けさせた。

すでに町には警官たちが出動していた。喜八はおつねに子供たちの世話をしばらくしてくれるように頼むと、自首するために近くの警察署へ向かうのだった。「ここに一つの魂が救われた・・・」(サイレント・1935年)

監督 :.小津安二郎 脚本:.池田忠雄 荒田正男 原作:.ウィンザアト・モネ 配役:喜八 :.坂本武 /善公 :.突貫小僧 /正公 :.末松孝行 /おたか:.岡田嘉子 /君子 :.小嶋和子 /おつね :.飯田蝶子 /警官 :.笠智衆

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一人息子

「僕、中学校へ行くんだ!」一人息子戦前も戦後も日本社会は、田舎から大勢の「野心あふれる」若者たちを東京に吸い出してきた。そして、もちろんだが、その多くは挫折し貧困にあえぎ、見通しのない一生を耐えていかなければならなかった。そうなると人生はつまらなく見えるが、小津監督はその中にも希望の光を描くことを忘れない。

1923年の信州。当時は養蚕が盛んで、野々宮つねも生糸の工場に働いていた。夫を早くになくし、一人息子の良助との二人暮らしだった。小学校も終わりに近づいたある日、担任の大久保先生が訪ねてきて、お宅のお子さんが中学校に進めると聞いて喜んでいると言った。

実は、つねには良助を中学校に行かせるお金のめどなど立たない。だが級長をして成績も優秀な良助のために必死で働くことに決めた。これからの時代は学問がなければ出世はできないと大久保先生は言っていたし、彼自身もまもなく教師を辞め東京へチャンスを求めて去っていった。

それから十数年。良助は上の学校に進み、今では東京に暮らしている。少し余裕のできたつねは、久しぶりに息子の顔を見たいと東京に出ることにした。だがようやくたどり着いた息子の家はぼろぼろで、隣の工場からの騒音がやかましい。そして何よりもつねにとってショックだったのは結婚し、子供が一人産まれていたことだった。

幸い良助の妻杉子はおとなしく素直な女でつねは気に入ったが、良助はいったいどうやって暮らしをたてているのか。この間市役所を辞めたばかりで今は夜学の先生をしているという。あまりにも少ない給料なので母親の突然の訪問をもてなすために同僚から少しずつ金を借りる有様だった。

「東京は人が多すぎるんだ」一人息子翌日、つねは良助に連れられて近所に住む大久保先生の家を訪れた。だが希望に燃えた若者だったはずの先生は、一枚5銭のトンカツを揚げる店を細々とやっていた。妻がおり、次々と産まれる子供の世話に忙殺されていた。

つねはそれから良助に連れられて東京見物に出かけるが、良助にしてみればこの大散財の後の給料日までどうやって暮らしていくかが気がかりだった。まだ若いのに双六はもう上がりだと言う姿を見て、つねはもう少ししっかりしないかと良助を叱責する。こんなに苦労して育てたのに、今の状況ではふがいない。東京には出世して偉くなっている人もいるではないかと。

妻の杉子は自分の着物を一枚売って良助に渡しこれでお母さんをどこかに連れていってやってくれと言う。ところがそのとき近所の悪ガキ、富坊が馬に蹴られたという知らせが入る。幸い怪我は軽かったものの、母親のおたかには治療費を払えない。病院で良助はそっと先のお金をおたかに渡した。

こんなやさしい子だと知ってつねは喜んだ。貧乏暮らしの中ではいつでも互いに助け合う気持が必要なのだ。そう言いつつ、つねは東京を離れ信州に戻る。良助夫婦は鏡台の上に、つねが置いていったささやかなお金を発見する。

つねは、生糸の工場に戻ったが、仲間から東京からどうだったかと尋ねられた。いや何でもとても大きくて人が多かったよ、と話したあとで、自分の息子もずいぶん偉くなったとつい言ってしまう。だが、工場の外に出ると、つねはついため息が出てしまうのだった。(1936年・昭和11年)

原作;ジェームズ槇 出演;つね 飯田蝶子 /良助 日守新一 /杉子 坪内典子 /大久保先生 笠智衆 /富坊 突貫小僧 /おたか 吉川満子

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淑女は何を忘れたか

淑女は何を忘れたか大学の医学博士である通称ドクトルは妻と二人暮し。暇な妻は仲良しの女友達とおしゃべりをして時を過ごしている。そこへ大阪から姪の節子が遊びにやってきた。

若い節子はタバコを吸うのが大好き。最近は自動車にも凝り、なんにでも好奇心を持つ。ある土曜日のこといつもならとまりが毛でドクトルはゴルフに行くはずだったのに仕事のことが気になってどうも行く気がしない。だが妻に急き立てられいやいやながら家を出る。

ひそかに学生の岡田の下宿に向かうと、ゴルフ道具を彼の部屋に置いて街の居酒屋「ドンキホーテ」へ向かう。そこにはゴルフへ向かう友だちがいるからその男に妻宛の「アリバイ証明」用のはがきを託し、現地の伊豆で投函してもらうつもりなのだ。

ところがウィスキーを飲んでいるドクトルのもとへどこでどう聞いたのか節子が現れた。芸者を呼んでもらいたいという彼女の頼みをしぶしぶ聞いたドクトルは一緒に付き合うが、節子は飲みすぎて一人で帰れなくなってしまう。仕方なく岡田に頼んで自動車で自宅に送ってもらい、自分は岡田の部屋に泊まることになった。

午前1時を過ぎてしかも酔っ払って帰ってきた節子を見て妻はかんかんに怒る。しかも後日届いたはがきに快晴と書いてありながら実際は大雨だったことからドクトルがゴルフに行かなかったこともばれて妻は絶対に許そうとしない。

妻に対して常にした出に出ようとするドクトルを見て、節子はふがいなく感じ、ドクトルにもっと妻に威厳を持ってあたるようにけしかける。その気になってドクトルは妻の頬にびんたを一発お見舞いするが、その後で節子が真相を語り、自分がやりすぎたことを知った妻はドクトルに自分の非を認めた。これを聞いたドクトルは大喜び。

だが鏡の前でニヤニヤしているドクトルを見た節子はそんな態度だから妻になめられるのだというと、ドクトルは済ました顔でまだ若い娘にはわからないだろうが、「逆手」にとり妻を持ち上げていい気持ちにさせるのが良いなどと得意げに説明するのだった。(1937年)

監督 ・・・小津安二郎 脚本 ・・・ 伏見晁 ゼームス・槇 配役 麹町の夫人時子 ・・・栗島すみ子 その夫小宮 ・・・ 斎藤達雄 大坂の姪節子 ・・・桑野通子 大学の助手岡田 ・・・佐野周二 牛込の重役杉山 ・・・坂本武 そのマダム千代子 ・・・飯田蝶子 大船のスター ・・・上原謙 田園調布の未亡人光子 ・・・吉川満子 その子藤雄 ・・・葉山正雄 近所の小学生富夫 ・・・突貫小僧 料亭の女将 ・・・鈴木歌子 女中のお文 ・・・出雲八重子 酒場のマダム ・・・立花泰子 大学の先生 ・・・大山健二

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戸田家の兄妹

戸田家の兄妹後の「東京物語」の原型になった作品ではないだろうか。兄弟姉妹たちの不人情によって父親の死後、母親と末娘が居場所をなくすという、いわゆる日本の家族関係の崩壊がすでにこの昭和16年の作品に芽生えているのだ。

由緒ある家柄の戸田家の父、進太郎は69歳の誕生日を祝ったがその夜、5人の子供たちの祝福を受けた後狭心症で急死する。裕福な家柄だったのだが、弁護士によると、多くの借金の肩代わりを引き受けていて財産を整理した後はいくらも残らなかった。

骨董品は売り払われ、母親と三女の節子はそれまで住んでいた屋敷を追われ、長男進一郎の家に居候をすることになる。ところが嫁の和子がこの二人が自分の家に入ってきたことの気に入らない。友達が自宅にやってくるから二人にその間外出していてほしいという。夜になれば人はばかることなくピアノの練習をする。

いやがらせにいたたまれなくなった二人は長女千鶴の家に移るが、これも同じだった。それどころか千鶴の息子が不登校なのを知ってすぐに報告しなかったということで母親が逆に責められてしまう。

節子は親友の時子が、勤め先を見つけ母親と二人暮しをしているのをみて自分も仕事を見つけようとするが、世間体を気にする千鶴に止められてしまう。思い余った二人は、もうぼろぼろになってしまって訪れる人もいない鵠沼の別荘(神奈川県藤沢市)に移り住むことを決心する。

こうして女中のきよも一緒に住んで久しぶりに二人は平和な時をすごすのだった。そのうちに進太郎の一周忌がやってきた。父の死後、奮起して中国の天津に仕事の場を求めた次男昌二郎が、1年ぶりに帰国した。昌二郎は法事の後の宴席で母親と節子が長男と長女の間をたらいまわしにされ、挙句の果てあばら家の別荘に追いやられたことで兄弟姉妹たちを激しく責めるのだった。

昌二郎は母親と節子に向かって、自分と一緒に天津にやってきて住むことを勧める。自分が二人の面倒を見るという。そこでは日本の古臭い偏見や見栄とは無縁で、のびのびと暮らすことができるというのだ。これを聞いて、母も娘もその気になる。

節子は自分の親友である時子を昌二郎が嫁にもらってくれることを望んでいた。一方昌二郎も天津に行ったら自分の同僚の中から一番いい男を紹介すると節子に約束する。すぐその後、鵠沼に咲子が訪ねてきた。照れ屋の昌二郎は砂浜に逃げ出したが、新しい未来は確実に始まっていたのだ。(モノクロ・1941年)

監督・・・小津安二郎 脚本・・・池田忠雄 小津安二郎 配役 戸田進太郎・・・藤野秀夫/母・・・葛城文子/長女千鶴・・・吉川満子/長男進一郎・・・斎藤達雄/妻和子・・・三宅邦子/二男昌二郎・・・佐分利信/二女綾子・・・坪内美子 /夫雨宮・・・近衛敏明/三女節子・・・高峰三枝子/友人時子・・・桑野通子/鈴木・・・河村黎吉/女中きよ・・・飯田蝶子/友人・・・笠智衆/骨董屋・・・坂本武

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父ありき

父ありき父を慕いながらさまざまな事情で一緒に暮らすことができなかった息子の思いをつづる。残念ながら小津の作品の中では最も音声の保存が悪い。ほとんど聞き取れない部分や雑音が多く入ってしまっている。

堀川周平は金沢で中学校の数学教師をしていた。妻は息子の良平が小さい頃亡くなり、再婚もせずに二人きりで暮らしていた。そのせいか周平はいつも良平のことを気にかけ何かにつけて励まし、息子も父親の言うことをよくきいていた。

学校の修学旅行で東京に出かけたときに事故が起こった。周平が3年間面倒を見てきた生徒が、箱根の芦ノ湖で勝手にボートをこぎ出し湖の真ん中で転覆して溺死したのだ。周平は責任を感じ、同僚の平田たちの止めるのもきかず教師を続けることをやめる決心をする。

周平は良平を連れて自分の生まれ故郷の信州上田に戻ってきた。親しかった和尚の世話もあって役場に勤めることができ、良平も土地の学校になじんだ。やがて良平は中学校に合格し、寄宿舎にはいる。周平は良平が将来大学まで進むことも考えて、東京に出てもっと収入のある仕事を目指す。良平は悲しんだが父親のいうことをきいて二人は別々の生活が始まった。

やがて良平は順調に高等学校を出て仙台の大学に入り、さらに秋田の学校で化学の教職が決まった。相変わらず東京で元気に働く周平はいつまでたっても息子と一緒に暮らせなかったが、時々温泉や釣りをしに落ち合って、東京に来たがる息子に今の仕事や人生にできる限りのことをするようにと説得するのだった。

あるとき周平は碁会所でかつての同僚平田に出会う。平田も妻を亡くし、男の子とその姉のふみと3人暮らしだった。かつての金沢の学校の教え子が東京に十数人おり、周平のことを聞きつけて同窓会を開いてくれた。ちょうどその前日から良平も秋田から遊びに来ていたのだが、教え子たちの心遣いに大いに喜ぶ。

翌朝、周平は急に体の調子がおかしくなった。急いで病院に連れていったけれども良平の目の前で息を引き取った。それを見ていた平田は周平が息子に見守られて、できる限りのことを尽くした人生だったとしみじみ語った。

良平はふみと結婚し、秋田への汽車の中だ。自分が小学校以来一度も父親と暮らすことができなかったことを思い出し、ぜひ平田とふみの弟を秋田に呼んで一緒に暮らしたいものだと思う。(1942年モノクロ)

監督 小津安二郎 脚本 池田忠雄 柳井隆雄 小津安二郎 配役 堀川周平:笠智衆/良平:佐野周二/良平(少年時代):津田晴彦/黒川保太郎:佐分利信/平田真琴:坂本武/ふみ:水戸光子/清一:大塚正義/内田実:日守新一/和尚さん:西村青児

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長屋紳士録

長屋紳士録時は終戦間もなく。上野公園には浮浪少年がたくさんいて、食糧難で世の中が混乱している中、子供たちは引き取り手もなく餓死したり病死したりする世の中だった。東京の下町は数多くの人々が長屋住まいをしていた。鼻をつき合わせて暮らしているからみんなで集まったり食料の配給などでお互いに助け合っていた。

ところは東京九段の近辺。よくある長屋に後家のおたねさんが住んでいる。一人暮らしが慣れたのか、近所ともつきあいがよく、気楽に暮らしている。ある日のこと、向かいに住む田代が九段の坂の上で宿なし少年,幸平を拾ってきた。同居している為吉は早く追い出せという。だが路上に放り投げるわけにもいかない。最初の夜は無理矢理おたねさんの家に泊めることにした。

だが最初の夜から幸吉は馬のような寝小便をしておたねさんはカンカン。幸吉は悪い子ではないがどうも強情である。シラミがいるらしくいつも体をむずむずさせている。父親と茅ヶ崎に住んでいたが九段に来たときにはぐれたらしい。いったい誰が面倒を見るかみんなで役目を押しつけあった。

みんなの計略でおたねさんがくじに当たり、幸吉を連れて茅ヶ崎まで出向くことになる。八王子で焼け出されたという大工の父親は行方知れず。幸吉は捨てられたのではないか。江ノ島が遠望される茅ヶ崎の砂浜でおたねさんは何とかして幸吉を置いていこうとするが、どうしても離れない。仕方なく地元の安い芋を買って満員列車で東京に戻ってくる。

おたねさんは膨れ面だ。だが幸吉は何となく憎めないところがある。煙草の吸い殻や釘を父親のためを思って道ばたで拾ってくる。叱りすぎをともだちに言われたことも手伝って、幸吉に何となく親しみを持ち始める。動物園に連れていったり、写真館で写真を撮ってもらったりする。

すっかり可愛くなって、肩を叩いてもらっている矢先、幸吉の父親が入り口に現れた。父親はまじめな人で、九段をうろうろしているうち息子を見失ったそうだ。おたねさんに丁寧に礼を言い、芋の入った大きな包みまでよこした。幸吉はおたねさんの買ってやった服を着て父親と一緒に帰っていった。

田代たちがやってきて、おたねさんは言う。私たちは自分勝手でありすぎた。もっとあの子に優しくしてやればよかった。もしあの子を放り出したりしていたとしたら、父親はどう思うことだろう。なんか一人子供を貰いたくなったよ・・・(1947年モノクロ)

監督 小津安二郎 脚本 池田忠雄 小津安二郎 配役 おたね・・・飯田蝶子/幸平・・・青木放屁 /父親・・・小沢栄太郎 /きく女・・・吉川満子 /為吉・・・河村黎吉 /ゆき子・・・三村秀子 /田代・・・笠智衆 /喜八・・・坂本武 /とめ・・・高松栄子 /しげ子・・・長船フジヨ /平ちゃん・・・河賀祐一 /おかみさん・・・谷よしの /写真師・・・殿山泰司 /柏屋・・・西村青児

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風の中の牝鶏

風の中の牝鶏夫の不在中に生活苦から妻がおかしたあやまちを乗り越える夫婦の姿を描いた。だが少しも教訓的なにおいはせず、むしろ戦争直後の周りの人々の暖かく差し伸べられる援助を加えながら非常に人情味のある作品に仕上がっている。ヒロインとと親友との間は、後の作品「麦秋」を思わせる。

時子は息子の浩と二人、ガスタンクのある町に住んでいる。夫は戦後だいぶたつが復員しない。蓄えもなくなり、親友の秋子とたすけあい、持っている着物を売りに出したりしながら何とか暮らしを支えようとしていた。

買ってやったあんこ飴のせいか、浩は運悪く腸カタルになり、一時は死にかけるところだったが危機を脱した。だが時子は入院費用を出すことができない。見境もなく時子は売春の手引きをやっている織江に頼み込み、月島の宿で客を紹介してもらい、何とか払い終えることができた。

ようやく夫の修一が復員して来た。喜びにあふれる時子だったが、一切を隠しできない性格からすべてを修一に話してしまう。ショックを受けた修一は苦しみ、悩む。月島まで出かけてゆき、客になって待つと、若い女が姿を現した。なぜこんな仕事に身を落としたのかと尋ねると、母親はおらず、父親はもう働けず、弟たちを養わねばならないのであった。

修一はその女のためにわざわざ事務の仕事を探してやり、妻が同じく追い詰められた結果こんなことをしたことを理解する。だがたった一度の過ちを頭でわかっていても心の中はどうしてもそれを受け入れられずにどうしても苦しみは去らない。同僚の佐竹も早く忘れることを勧める。

家に戻ると妻が喜んで迎えてくれた。それを邪険に払いのけようとした弾みに時子は階段を頭から転がり落ちた。幸い軽い怪我ですんだが、修一は妻の誠意を知り、過去の過ちは二人で忘れ二人で励ましあって生きることを誓い合うのだった。(サイレント・1948年)

監督 :.  小津安二郎 脚本 :.  斎藤良輔 小津安二郎 配役:雨宮修一 :.佐野周二/ 時子 :.田中絹代 /井田秋子 :.村田知英子 /佐竹和一郎 :.笠智衆 /酒井彦三 :.坂本武 /つね :.高松栄子 /野間織江 :.水上令子 /小野田房子 :.文谷千代子 /時子の息子浩 :.中川秀人

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晩春 

晩春これも購入すべき作品。娘が、妻を亡くした父親のもとから嫁として家を離れるだけのストーリーなのに、なぜこれほど奥行きがあるのだろう。

北鎌倉に住む大学教授周吉は、妻を亡くし娘の紀子と二人暮らし。紀子も適齢期を過ぎようとして、周吉も、その妹の叔母も誰かいい相手がいないかと探し回る。

周吉の弟子、服部はすでに許嫁がいるのだが、心の底では紀子にひそかに思いを抱いている。でも、二人はあまりにも友達みたいで、真意を言い出せないうちに、服部はその女性と結婚をしてしまう。

叔母が何とかお見合いの話を見つけてきて何とか紀子にその気にさせようとする。だが、紀子は父親のもとにいたいのだ。その少女のような思いが、父に縁談の話が持ち上がったとたん、紀子の気持ちは動転する。

能見物に行ったときに周吉が相手の女の人に客席越しに会釈するのを見て、紀子の心は乱れる。感情は彼女の顔に出て、表情の激しい変化が心の内をすべて物語る。周吉は、仕方なく自分も再婚する予定であると、うそをつき、なんとか紀子にお見合いの承諾をさせるのだった。

最後に二人で出かけた京都旅行。叔父の再婚には「不潔だわ」と言ってしまったことを後悔した紀子だったが、旅館の部屋の明かりを消して、窓辺にぼんやりと浮かぶ壺を紀子が見つめる場面は何を象徴しているのだろう?

帰り支度をしながら、やはりどうしても父親の元を離れたくない。いつまでも少女のままでいたいのだ。周吉は落ち着いて、たしなめてようやく紀子に新生活への気持ちを整えさせる。

無事結婚式を済ませ、周吉は誰もいない自宅に戻った。リンゴの皮をむいても、眠気が襲ってきた。これからは孤独な、長い長い生活が始まるのだ。(1949年)

監督:小津安二郎 原作:広津和郎 脚本:野田高悟/小津安二郎 出演:笠智衆/原節子/杉村春子

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宗方姉妹

「お姉さんと私はまったく違うのね=薬師寺」宗方姉妹まるで性格の違う姉妹が、夫やまわりの人々との交流を通して自分の生き方を求めていく姿を描く。姉妹役の田中と高峰がそもそも完全に異なった個性を持つ女優だけに、画面ではますますその違いが際だっている。

京都のお寺のシーンが美しい。特に薬師寺の前では、かつて節子と恋人田代が座ったところであり、久しぶりに京都を訪れた姉妹が座り、最後に節子と田代が別れる場面が展開する、ストーリーでの大切な節目である。。

京都に住む父親の忠親 がガンにかかりもう命幾ばくもないと知り合いの医者、内田教授に聞かされて、東京に住む節子、満里子の姉妹は急ぎ父親の元に向かう。忠親 は意外と元気であった。妻を亡くして以来東京の大森の家から京都に移って暮らしていたが、もう自分の先も長くないと知った忠親 は娘たちの幸せだけが気がかりだった。

節子は夫に仕え家庭を守ることを第一に戦前からの価値をしっかり身につけた女だった。妹に古いと非難されるとき、彼女の持論は「いつまでも古くならないものこそが新しい」というものである。これに対し妹の満里子は戦後の何でも新しいものに飛びつく風潮の中で育っていたし、元来性格が明るく外向的にできていた。

忠親 のもとにたまたま訪ねてきた神戸の家具商、田代宏に満里子は久しぶりに出会う。実は宏はかつて節子の恋人であったがお互いに口に出すことができないまま宏はフランスに行ってしまい、残った節子は今の夫である村亮助 と結婚してしまったのだ。

満里子はそのような成り行きがどうしても納得がいかない。田代の家を訪れては姉との間を成就させなかったことをなじるのだった。おまけに田代に思いを寄せている女性、頼子を何とか田代から遠ざけようとする。

「何かあればかこつけて飲むが、何もなくても飲む=ドンーキホーテ」宗方姉妹姉妹は東京へ戻ったが、節子の経営するバーが移転させられることになり、田代から金を借りることになった。節子の若い頃の日記を盗み見した夫の亮助はそれがおもしろくない。失業中でネコを相手にする毎日だけにますますイライラが募り姉妹に当たるようになっている。

ある日田代のことが気になる亮助からのトゲのある言葉を受けた節子は店をやめる決心をする。それを知った満里子は憤慨するが、節子は何とか生活を切り盛りできるから自分は家にいるという。

だが他日、今度は亮助が別れる話をちらつかせて節子のとった態度にいきなり腹を立て何度も殴ったことから、ついに節子は離婚を決意する。節子は田代のもとに相談に行き、二人は再び結ばれる希望に胸を膨らませたのだが、これを知った亮助はやけ酒を食らったあげく大雨の中を歩き、突然心臓麻痺で死んでしまう。

満里子は亮助の急死を歓迎し、節子は新しい生活を始めるようにと励ますのだが、節子自身は正式に別れることなく亮助が一種の自殺のような形を取ったことが心を暗くしてしまった。結局、田代との結婚も断り自分の納得ゆく生き方を求めて新しい人生を目指そうとするのだった。(1950年・モノクロ・新東宝)

脚本 ......野田高梧 小津安二郎 原作 .....大佛次郎 配役  宗方節子 .........田中絹代 満里子 ........高峰秀子 田代宏 ..........上原謙 真下頼子 ......高杉早苗 宗方忠親 .......笠智衆 節子の夫三村亮助 .......山村聡 前島五郎七 ......堀雄二 教授内田譲 .......斎藤達雄 藤代美惠子 .......坪内美子

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麦秋

麦秋春になるとすべての生命が花開くのに、麦はその刈り入れ時期を迎える。これが麦秋だ。人間の家族にもこれから新生活に入るものもいれば、老後の隠居暮らしに入るものもいる。その人生のやりとりがささやかな家族を通して描かれる。

横須賀線北鎌倉に住む、医者として油ののった康一は妹の紀子、妻の史子、息子の實と勇、両親の周吉としげを加えた7人家族だ。毎日がにぎやかでその日常シーンは「埴生の宿」のオルゴール曲が流れる。ちょうど、まほろばの大和から、周吉の兄である茂吉が遊びに来ていた。

商社に勤める紀子はもう28歳。もうそろそろと言われながらも、女学校同級のすでに結婚した安田や高梨たちに向こうを張って親友のアヤとともに未婚同盟を結成している。独身の自由がいいか、家庭の幸せがいいか、いつも二手に分かれて議論が沸騰するのだ。

だが紀子のことについてはまわりが黙ってはいない。会社の専務、佐竹が自分の先輩を紹介しようとしてきた。紀子はその話しにあまり気が進まないが、専務がせっかく持ってきた話だし兄の康一も乗り気なので、次第に具体的な縁談の形を取り始めた。

紀子と周吉の間には正二という二男がいたが、スマトラの戦地におもむいたまま行方不明となり、しげを除きもうだれもがあきらめていた。正二の高等学校の時の同級に矢部という男がおり、周吉の病院で同じく医者の仕事をしていた。だが彼の妻は2年前に亡くなり、残された小さな女の子が謙吉の母親、たみに育てられていた。

麦秋ある日康一が囲碁友だちで同じ医者の西脇から、謙吉の転勤話を聞かされる。秋田県の県立病院の内科部長として3,4年行ってもらえないかというのだ。謙吉は将来のことを考えて、必要なステップとみなし引き受けることにする。問題なのは幼い娘と母親をどうするかだ。

鎌倉に住み慣れたたみはこの地を離れたくない。そこでたまたまお使いもので訪ねてきた紀子に、自分の息子の嫁に来てもらえないかと、断られるのを覚悟で聞いてみる。すると何と紀子は行ってもいいと返事をしたのだ。思わぬ返事にたみはびっくり仰天。もちろん謙吉も翌日秋田へ出発するのだがろくに眠れないほどだった。

紀子は佐竹が紹介してくれた男が40も過ぎて結婚しないままでいることに、何か信用できないものを感じていた。それよりも何よりも謙吉は幼なじみでそれまで空気のような存在だったし、前の妻と結婚してからは全く結婚対象として考えていなかったのだが、今言われてみると信頼できそうでごく自然に受け入れる返事をしてしまったのだ。

女の幸せを逃さず、子連れであるとか、地方で暮らすというような問題を飛び越えて、ぐずぐず思い悩むことなくいさぎのよい紀子の決断は、大胆ながら自分の人生をしっかりと自分でつかんだ姿があった。

麦秋もちろん康一も両親も大いに心配する。かつて医者とは結婚したくないと公言していたのも紀子だったからだ。母親のしげは、「まるで一人で大きくなったように、一人で何もかも決めちゃって・・・」とつぶやくが、紀子の気持ちはいったん決めたら揺らぐことはない。

佐竹に縁談のことを断りに行くと、「すごく古風なアプレゲール( après guerre 戦後派 )だね」といわれた。紀子は日本の女の芯の強さと、自分で自分の人生をしっかりと決めていく新しい女の両面を兼ね備えていたからなのだろう。

紀子の結婚を機に、両親も鎌倉を離れ兄、茂吉の住む大和へ引退することになった。いちどきにこの家から3人もいなくなるわけだが、また再会する日を楽しみに、それぞれの生活が始まっていくのだった。(1951年)

監督: 小津安二郎 脚本: 野田高梧 キャスト(役名) 菅井一郎(間宮周吉)東山千栄子(しげ)笠智衆(康一)三宅邦子(史子)原節子(紀子) 村瀬禪(實)城澤勇夫(勇)高堂国典(茂吉)淡島千景(田村アヤ)高橋豊子(のぶ)佐野周二(佐竹宗太郎)二本柳寛(矢部謙吉)杉村春子(たみ)宮内精二(西脇宏三)井川邦子(安田高子)志賀真津子(高梨マリ)

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お茶漬けの味

お茶漬けの味夫婦も年を重ねると、相手がいやになり自分のしたいことのために結構うそをついたりすることが多くなる。互いに限られた面しか見なくなっているためだろうか。妻の妙子も、会社の部長なのだが一見鈍感に見える夫、茂吉がいやでたまらない。

こんどもうそをついて4人の女友達と示し合わせて伊豆の修善寺にやってきた。妙子の姪に当たる年若い節子も同行したのだが、大人たちのそんな様子を見て、自分はお見合なんかまっぴらだと言い出す。そして自分の夫の悪口を言うような妻にはなりたくないと言う。

実際に歌舞伎観劇での自分のお見合の際には節子はその会場から逃げ出して大騒ぎとなる。茂吉がそんなことをしてはいけないと諭してもいうことを聞かず、茂吉の後輩の岡田について競輪やパチンコをやりたいというのを許してしまう。

お茶漬けの味妙子はそんな夫の姿を見てかんかんに怒るが、茂吉は君と僕のような夫婦をもう一組作るようなことをしたくないと節子がお見合の場から逃げ出したことを擁護する。妙子はそれ以来茂吉とは口を利かなくなった。

だが彼女がまた勝手に神戸の友達のところへ出かけている間に茂吉は会社の命を受けて急に南米のウルグアイに向けて出発するのだが、妻は飛行場まで見送りにも来なかった。

だが茂吉が出発した夜、一人になってみると夫のことが急に心配になり、これまでつらく当たったことを後悔し始めた。そこへ夫が急に戻ってきたのだ。離陸後飛行機が故障して空港に引き返してきたのだという。

お陰で夫は一晩出発が延びた。妻は夫の一部しか見ていないことに気づいた。妻から見た家にいる夫というものは、亀が甲羅を干しているところしか見えないのと同じなのだ。妙子は目に涙を浮かべて茂吉にわび、二人は深夜にお茶漬けを食べながら仲直りをして、夫は翌日出発していく。(1952年・モノクロ)

監督: 小津安二郎 製作: 山本武 脚本: 野田高梧 小津安二郎 撮影: 厚田雄春 音楽: 伊藤宣二 美術: 浜田辰雄 キャスト(役名);佐分利信(佐竹茂吉) 木暮実千代(佐竹妙子) 柳永二郎(山内直亮) 三宅邦子(山内千鶴) 津島恵子(山内節子) 設楽幸嗣(山内幸二) 鶴田浩二(岡田登) 淡島千景(雨宮アヤ) 十朱久雄(雨宮東一郎) 上原葉子(黒田高子)

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東京物語

東京物語勤勉で働き者の日本人。だが、高度成長により「忙しさ」という大義名分のもとに家族の結びつきをはじめとして多くのものを失ってしまった。小さい頃はやさしい子供でも生存競争の波にもまれ、自分の生活を第一に考えてしまうようになった。小津監督は、日本における家族の絆が切れていくさまを静かに描き出した。

たとえば、自分たちの母親が危篤になったとき、兄に向かって妹が「ねえ、喪服持っていった方がいいかしら」「そうだな、それがいいだろう」と何気なく交わされる会話のなかにさらりとその心象が描き出されるのだ。

広島県尾道に住む平山周吉、とみの老夫婦は、東京に住む子供たちを訪問することにした。学校の先生をしている末娘の京子に留守番をしてもらって、二人は子供たちの暮らしぶりをうかがいに汽車に乗る。

長男の幸一は東京のはずれで町医者をしていたが、せっかく両親が訪ねてきたというのに、日曜日の朝から患者がやってきて東京見物はおじゃんになった。そこで二人は、長女の志げの経営する美容院へ出かける。だがここでも彼女は仕事に追いまくられ、夫の庫造も集金に忙しい。

そこで志げは、戦争で死んだ次男の嫁である紀子の働く会社に電話をかけて二人を東京見物に連れていってくれるように頼む。紀子は快く引き受け、翌日会社を休んで周吉たちを見物に連れ歩き、夕方には自分が夫と暮らしていたアパートへ二人を招待して、心からのもてなしをする。

「とてもきたない部屋ですけれど」東京物語幸一と志げは相談して二人で金を出し合い、周吉たちを熱海の温泉に行ってもらうことにした。二人は喜んで出かけていったが、その夜の旅館はどんちゃん騒ぎ、翌朝の海辺の散歩では、とみがちょっとめまいを感じて、二人はそろそろ尾道が恋しくなってきた。

熱海で一泊した翌日、二人は早々に志げの美容院に戻ってきたものだから、志げは困り果ててしまう。今夜はこの美容院で寄り合いがあるのだ。二人は宿無しになってしまった。それで周吉は古い尾道時代からの知り合いである服部を訪ね、とみのほうはまた紀子のところに泊めてもらうことにした。

紀子が嫌な顔をするどころか再び心からのもてなしをしてもらい、とみは実の子どもたちよりやさしい彼女に感動するのだった。そして次男が死んでからもう8年もたつのだから、そろそろ新しい生活を始めるように紀子に勧めるのだった。

一方周吉は服部の家に行ったものの狭い家で泊まるところもなく、かつて尾道の警察署長であった沼田をまじえて3人で飲みに出かけ、昔話や子供たちへの期待がはずれたことで話が弾んだ。3人ともぐでんぐでんに酔っぱらった後、周吉と沼田は深夜に交番の巡査のお世話になって志げの美容院に届けられた。

「とうとう宿なしになってしもうた」東京物語翌日、午後9時30分の列車で二人は尾道に帰ることになった。みんなが送りに来たが、とみはみんなの歓迎に感謝した後で、もうみんなに会えたから何かあってもわざわざ尾道までこなくてもいいよとぼそりと言った。

帰りの列車の中でとみは気分が悪くなり、大阪で途中下車をして、三男で国鉄に働いている敬三の世話になった。幸い間もなくとみは回復しようやく尾道に帰ってくることができたのだった。

だがそれからしばらくたって、京子から「ハハキトク」の電報が入る。前から太っていたこともあり、熱海でよろめいたのそのせいかもしれない。旅行の疲れがそれを悪化させたのかもしれない。家族がとみの枕元に集まったときは、意識は戻らず大きないびきをかいていた。幸一と志げは準備よく喪服を持参していた。

翌朝午前3時にとみは息を引き取る。敬三は出張のため親の死に目に間に合えなかった。まさに世に言う、「孝行したくても親はいず、さりとて墓にふとんは着せられず」であった。周吉は一人日の出を見て、迎えに来た紀子に向かって「今日もまた暑うなるのう」と言った。

「今日も暑うなるのう」東京物語葬儀が済むと、幸一と志げはすぐに東京へ帰ろうとする。敬三も去った。紀子だけがしばらく滞在していろいろと面倒を見てくれた。いよいよ紀子も東京へ帰る日がやってくると、京子は兄姉たちの親子の情の薄さを嘆くのだった。仕方がないのよ、みんなそうなっていくのよ、と紀子は答える。

ちょっとしたことだが、京子が学校に出勤する場面がある。出かける前に靴下を履くのだが、畳の上に尻餅をついて履くのではない。若い娘らしく鶴の一本足よろしく、片足をあげてバランスを取りつつ履いている。精神は姿勢に現れるというのはこのことだろうか。現代の(全員ではない)娘たちを比較してみるとよい。

周吉は紀子に向かって自分の子供以上に自分たち夫婦によくしてくれたことに感謝した。東京行きの列車が尾道駅を出る。京子は授業の合間に窓の外の線路をばく進する機関車を見ていた。紀子は周吉からもらったとみの形見である時計を握りしめていた・・・(1953年)

監督: 小津安二郎 脚本: 野田高梧  小津安二郎 キャスト(役名) 笠智衆(平山周吉) 東山千栄子(平山とみ) 山村聡(平山幸一) 三宅邦子(平山文子) 村瀬禪(平山実) 毛利充宏(平山勇) 杉村春子(金子志げ) 中村伸郎(金子庫造) 原節子(平山紀子) 大坂志郎(平山敬三) 香川京子(平山京子) 十朱久雄(服部修) 長岡輝子(服部よね) 東野英治郎(沼田三平) 高橋豊子(隣家の細君)

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早春

早春倦怠期に入った夫婦の危機を描く。登場人物達の性格が非常に丁寧に浮き彫りになっている。また、会社を辞めてカフェを開いている人や戦友で自営業を営む人を登場させたりして、戦後から高度成長時代に入った日本のサラリーマン人生の悲哀も取り混ぜている。

杉山正二と昌子の夫婦は最近どうもうまくいかない。子供は一人産まれたが疫痢で死んで以来、二人きりの生活だったが生活に余り余裕がないことを昌子が始終口にする。いつも心に不満をためているようだ。

昌子の母親、しげはおでん屋を営み、昌子はときどきその店を訪れて帰りに夫のためにおでんを持って帰ることもあったが、最近それも少なくなっていた。毎朝夫は蒲田から通勤列車に揺られて丸の内の会社に行く。同じ時刻に通う仲間が自然に出来上がっていた。

ある日曜日には通勤仲間で連れ立って江ノ島に出かけたが、正二は一緒に通りがかりのトラックにヒッチハイクした女の子、キンギョと急に親しくなり、一夜をともにしてしまう。昌子は、正二が一晩帰らなかったことをことさら口にはしないが、内心安らかではない。

早春キンギョと正二はその後もつきあいを続けるが、仲間に気づかれ噂の種になる。昌子からは冷たい目で見られ、仲間からも何やかや言われ、四面楚歌になった正二だったが、岡山県の山の中にある営業所に転勤の話が持ち上がる。

噂に耐えかねてキンギョが突然杉山家にやってきたものだから、昌子は家に帰ってこなくなる。ここで東京での生活から心機一転を遂げようと、正二はその転勤命令を受け入れる。昌子とのよりを戻さぬまま一人で新しい職場に赴任することになった。

ある日正二が自分の部屋に戻ると、そこには昌子の荷物がおいてあったのだった。田舎の慣れない不便な生活だが、二人は最初からやり直そうという気持になっている。(1956年・モノクロ)

監督: 小津安二郎 脚本: 野田高梧 小津安二郎  撮影: 厚田雄春  キャスト(役名) 池部良(杉山正二) 淡島千景(杉山昌子) 浦辺粂子(北川しげ) 田浦正巳(北川幸一) 宮口精二(田村精一郎) 杉村春子(田村たま子) 岸恵子(金子千代=キンギョ) 高橋貞二 (青木大造) 藤乃高子(青木テルミ) 笠智衆(小野寺喜一) 山村聡(河合豊) 三宅邦子(河合雪子) 増田順二(三浦勇三) 長岡輝子(母さと) 東野英治郎(服部東吉) 加東大介(坂本) 菅原通済(管井のツーさん)

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東京暮色

東京暮色途方もなく暗い映画である。いつもなら前向きの女を演じる原節子が、結婚がうまくいかずにどうにもならなくなった主婦の役を演じている。そして母親を知らない若い娘の孤独が悲劇へとつながっていく。

杉山周吉は、初老にさしかかった男だが、10数年前に妻に逃げられ、長男は山で遭難して死んだ。長女の孝子は結婚して幼い女の子がいるが、夫との間がうまくいかず、先頃実家に戻ってきて以来帰ろうとしない。

末娘の明子は大学を出て速記を習っているものの、気持ちが安定せず木村という男から離れられないでいる。実は明子は木村との子を妊娠していたのだ。子供をおろす費用として叔母重子に金を借りようとして断られ、さらに夜遅く喫茶店にいるところを刑事に見つかり、これも周吉と孝子にばれてしまう。

姉の孝子は心配して何とか事情を聞き出そうとするが、明子は誰にもうち明けようとしない。そのうち仲間のいる麻雀屋で、実の母親らしき人に対面する。しかし明子は母親喜久子が男をこしらえて家出したときにはまだ3歳で顔をまったく覚えていないのだった。

東京暮色だがその後、重子から偶然喜久子を見かけたことを聞かされた孝子は麻雀屋まで出かけていって会いに行くが、明子にはそのことを秘密にしておいた。母親の暗い過去を妹に知らせたくなかったのだ。だが明子はことの真相を知ってしまう。

木村は明子が妊娠したことが分かると逃げ回り、相手の誠意に絶望した明子は中絶の手術を受ける。だが、母親の過去のことを知った上に、自分のしたことで後悔にさいなまされた明子は、ラーメン屋でしきりにいいわけをする木村をおもいきり殴ると、踏切から電車に身を投げた。

虫の息で、周吉や孝子の前でもう一度人生をやり直したいと口にしながら明子は死んだ。孝子は明子がこうなったのも、母親が家出をして寂しい思いをしたからだと考える。室蘭へ去っていく母親の見送りにも行かなかった。でも自分の子供にはそんな思いをさせてはならないと、再び夫のもとへ帰る決心をするのだった。(1957年)

監督: 小津安二郎 脚本: 野田高梧 小津安二郎  企画: 山内静夫 撮影: 厚田雄春 キャスト(役名) 笠智衆 (杉山周吉) 有馬稲子(杉山明子) 信欣三(沼田康雄) 原節子(沼田孝子) 森教子(沼田道子) 中村伸郎 (相島栄) 山田五十鈴(相島喜久子) 杉村春子(竹内重子) 山村聡(関口積) 田浦正巳(木村憲二) 宮口精二(和田刑事)

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彼岸花

彼岸花中年男の身勝手を描いた作品。娘の幸せのために自分の考えをあくまでも通そうという頑固さが、反対や計略にあい、次第にまわりと折れていく物語。主人公は表面的には偉そうに見えても意外と気弱で次第にまわりの女たちのペースに飲まれていく。

中年の重役、平山渉は妻の清子、長女の節子、次女の久子と4人暮らしだ。節子はもう年頃だから、できるだけよい縁を見つけて結婚させてやらなければならないと渉は考えている。中学時代の同級生も同じような年頃の子供たちを抱えていて、いずこも同じようなものだ。

さっそく節子のためにお見合い相手を準備するが、ある日渉が会社にいると、谷口という青年が訪ねてきて、いきなりお宅のお嬢さんをいただきたいという。近く広島に転勤するので早く結婚式を挙げたいのだという。渉は相手の男が好青年ながらあまりに唐突な申し出なのでしばらく考えさせてくれととりあえず谷口に帰ってもらった。

ところが家に帰って節子に問いただしても、自分の問題だからとはっきりと答えたがらない。しかも今まで二人のつきあいについて少しも知らせてくれなかったものだから渉は腹を立て、二人の結婚は許さないと言明する。妻の清子は節子を家まで送ってきた谷口を見て気に入るが、何せ渉の命令が強硬なので、とりあえずは反対できないでいる。

彼岸花渉の会社に、京都のおばさん佐々木初が訪ねてきた。わざわざ東京の病院で人間ドックでの診断を受けに来たのだという。実はその病院には娘の幸子のお見合い相手にふさわしいという若い医者がいるというのだ。ところが幸子の方はそんな母親の計略はすでにお見通しでさっさと京都に帰ってしまう。母親の押しつけがましいお見合い作戦にはうんざりしていたのだ。そこで、京都へ帰る前に同じ年頃である節子と、もし縁談がこじれたらお互いに助け合おうという約束を交わす。

さらに渉の会社に中学時代の仲間、三上が訪ねてくる。仲間の一人の娘の結婚式に彼が出席しなかったのは自分の娘文子がとの間がこじれているせいだったのだ。文子は得体の知れない男と同棲し、銀座のバーに勤めているのだという。三上は渉にそのバーへ行ってちょっと娘の様子をうかがってほしいと頼んだ。渉は自分の娘が反抗して手を焼いているのに、仕方なく三上のために部下を連れて銀座のバーまで様子を見に行く。

そこでわかったのは、独立心に燃える娘は、何でも自分の思い通りにしないと気が済まない父親にはうんざりしていることだった。これでは自分の娘の場合とまるで同じである。そして人の娘には客観的で冷静な意見をすることができるのに、いったん自分の娘となると感情が先走っていつだって喧嘩腰になってしまうのだが、渉は妻の清子や次女の久子の意見にも耳を貸さず、矛盾しているとわかっていながら頑固にも節子に対する態度を変えようとしない。

そこへ京都から幸子が突然やってきて、自分が母親から気の進まないお見合いを押しつけられて家出してきたと渉に告げる。渉はやはりひとごとなので自分の好きなようにした方がいいと幸子にアドバイスするが、実はこれは節子を助けに来た幸子のトリックで、渉は同じ意見を節子に対してもとらなければならない羽目になる。幸子の計略に負けたとたん、節子と谷口との間はトントン拍子に進み、結婚式が行われてしまう。

はじめのうち式にも出ないと言っていた渉も最後の土壇場で折れ、二人は谷口の新任地広島へと旅立っていった。その後渉は愛知県の蒲郡で中学の同窓会に出席し、仲間たちと子育ての難しさを話題にする。せっかくここまで来たのだからと、西に足を延ばし京都の佐々木母娘にも会ってくる。幸子は、節子が自分の父親の優しい笑顔を見られずに結婚してしまって寂しい思いをしていると話し、無理矢理に渉はさらに西へ広島まで節子に会いに行かされてしまう。(1958年)

監督: 小津安二郎 製作: 山内静夫 原作: 里見■ 脚色: 野田高梧 小津安二郎 撮影: 厚田雄春 キャスト(役名) 佐分利信(平山渉) 田中絹代(平山清子) 有馬稲子(平山節子) 桑野みゆき(平山久子) 佐田啓二(谷口正彦) 浪花千栄子(佐々木初) 山本富士子 (佐々木幸子) 中村伸郎(河合利彦) 清川晶子(河合伴子) 北竜二 北龍二 (堀江平之助) 笠智衆(三上周吉) 久我美子(三上文子)高橋とよ(若松の女将)

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お早よう

お早よう大人たちが挨拶に使っている一見無駄なように見える言葉も、実は社会の潤滑油になっている。テレビを買ってもらえないので子供たちが反抗の印として口を利かない作戦に出たことを中心に、押し売り、物の貸し借りを題材に日本の近所同士の関係をコミカルに扱っている。

大きな川の堤防の下に4件の家が寄り添うように建っていた。子供たちはなかよく一緒に学校に通う。今彼らの間ではオナラを上手に出すことが自慢の種になっている。軽石を粉にして飲み込むと、いい音が出るそうだ。

4人の奥さんたちも仲がいいが、ちょっとしたことでいろいろな噂を立てるのが好きだ。今度も原田会長宅に届けたはずの町内会費がわたっていないことで、もしや会長夫人が新しい電気洗濯機になってしまったのではないかという話になる。結局それはお金を預かっていた原田家のおばあちゃんがすっかり忘れていたためだったが。

お早よう林家の二人の兄弟は、他の子供たちと同じくテレビに夢中だ。英語の先生のところに習いに行かなければならないはずなのに、近くのテレビを持っている若夫婦の家に入り浸りになっている。

テレビを買ってくれと子供たちがいくら頼んでも林家の両親はうんと言ってくれない。子供たちはストライキを起こした。父親に黙ってろと言われたものだからいっさい口を利かないことにしたのだ。

近所のおばさんとも挨拶をしないし、学校で教科書を読むように言われても黙っているし、母親の妹節子や、彼女が翻訳をちょくちょく頼んでいる英語の先生の言うことも聞こうとしない。

腹が減っておひつを堤防の上に持ち出しているところを巡査に見つかり、二人は姿を消してしまう。あちこち探し回って英語の先生が夜遅く子供たちを見つけてくれたが、家に帰ってみると、テレビがあった。

近所の定年を迎えセールスマンになった隣のおじさんに買わされたらしいのだ。子供たちは機嫌を直し、やっと口を利くようになった。こうやって日本の家庭にもじわじわと「一億総白痴(大宅壮一)」になる機械が入っていったのだ。(1959年・カラー)

監督: 小津安二郎 製作: 山内静夫  脚本: 野田高梧 小津安二郎 撮影: 厚田雄春  音楽: 黛敏郎 キャスト(役名) 笠智衆(林啓太郎) 三宅邦子(林民子) 設楽幸嗣 (林実) 島津雅彦(林勇) 久我美子(有田節子) 三好栄子(原田みつ江) 田中春男(原田辰造) 杉村春子(原田きく江) 白田肇(原田幸造) 竹田浩一(大久保善之助)

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浮草

「赤城の山も今日限り・・・」浮草役者たちはまさに浮草である。でも舞台に立つというのは底知れぬ魅力があり、どんなにつらくてもこの仕事から離れることはできない。平凡で安泰な生活にあこがれてはいるが、再び放浪の旅に出て行くのである。これは前作「浮き草物語」のリメイク。

戦争から10年。テレビの普及する前の日本では、田舎町に一座がやってきて人々に娯楽を提供していた。ここは紀伊半島の小さな漁港の町。灯台をモチーフにした風景が美しい。嵐駒十郎の率いる歌舞伎一座が船に乗ってやってきた。さっそくチンドン屋が狭い街並みを練り歩き、旗がひるがえって町は活気を帯びた。

だが、妻のすみ子は、何でこんな小さな町に立ち寄るのか駒十郎の真意がわからない。客が来てもたかがしれているし、雨でも降ったらほとんど入りがないだろう。だが、駒十郎には他の目的があった。昔からのご贔屓の客に挨拶に行くと言って、昔の女、お芳と自分の実の息子清に会いに来たのだ。

駒十郎とお芳はずっと昔に別れ、お芳は今小料理屋をやっているが、実直な清には、駒十郎をおじさんということで父親であることをあかしていない。お芳は駒十郎がもう歳だからこんな浮草稼業から足を洗い自分たちといっしょに落ち着いた暮らしをしてもらいたいと心の底では思っている。

だが駒十郎は、今のままでいいと思っているし、清を釣りに誘い出したりして息子とのわずかな時間を過ごすのだった。だが、これをすみ子が気づかないはずがなかった。自分と知り合う前にできた子供とはいえ、こうやって会いに来ている駒十郎に腹が立ち何とか復讐してやろうと考える。

すみ子はお芳や清と駒十郎がいるところに押し掛けていったりしたが、逆に駒十郎から殴られ、罵られる。豪雨の中、それぞれが街の長屋のひさしに雨宿りしながら相手がはっきり見えないほどの豪雨越しに怒鳴り合う場面は見事。すみ子は駒十郎に捨てられては行くところもない弱みがあり、他の作戦を考える。

浮草そこで目を付けたのは一座での妹格の加代だった。その美しさで清に接近し、色仕掛けで誘惑させようと考えたのだ。これはあっけなく成功してしまった。これまでまじめ一筋だった清が、加代にすっかり入れ込んでしまい、加代の方も好きになってしまったが、こんな仕事をしているからには清との間に未来がないこともわかっていた。

二人の仲が発覚し、駒十郎は激怒し、加代をそそのかしたすみ子とは縁を切ると宣言する。だが、悪いことは重なるもので、新宮の方へ使いに出ていた部下が駒十郎が預けた大金を持ち逃げしてしまったのだ。この町での興行成績も良くなく豪雨にもたたられたため、一座はたちまち解散に追い込まれた。

最後の晩、みんなで別れの酒を酌み交わす一座の人たち。長年ここで働いてきた役者たちにとっては青天の霹靂だった。駒十郎が最後の別れを告げにお芳の店へ行ってみると、清と加代は駆け落ちしたらしいことがわかる。二人はその晩店に戻ってきたけれども、清は駒十郎が急に今更父親と名乗り出ても、もはや駒十郎を受け入れる態度を示さなかった。

一座の解散でどん底に落ちた駒十郎は、実の息子にも背を向けられ、一人寂しく駅へ向かう。どこに行く当てもなくぼやっとしていた駒十郎だったが、待合室にはすみ子が座っていた・・・(1959年・カラー)

監督: 小津安二郎 脚本: 野田高梧 小津安二郎 キャスト(役名): 中村鴈治郎(嵐駒十郎) 京マチ子(すみ子) 若尾文子(加代) 浦辺粂子(しげ) 三井弘次(吉之助) 潮万太郎(仙太郎) 伊達正(扇升) 島津雅彦(正夫) 田中春男(矢太蔵) 中田勉(亀之助) 杉村春子(本間お芳) 川口浩(本間清) 笠智衆(旦那) 野添ひとみ(小川軒のあい子)

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秋日和

秋日和「晩秋」や「秋刀魚の味」では、妻を亡くした男が、結婚してゆく娘に去られる設定だが、今回は逆に夫を亡くした女が娘に去られる設定となっている。男も女も、独り身の孤独をかみしめるエンディングは同じである。

三輪家の主人の7回忌が今執り行われている。未亡人の秋子、、むすめのアヤ子、そして昔の仲間たち間宮、平山、田口の3人が集まった。アヤ子はもう24歳で、そろそろお嫁に行っていい頃だ。仲間たちは、かつて学生時代には秋子にあこがれていたが、今度はアヤ子のことを心配し始める。

間宮が自分の会社の後藤をアヤ子のお見合相手にすすめるのだが、アヤ子は自分がいなくなれば一人暮らしになる母親のことを思ってか、今のままの暮らしでいいと言い、結婚に少しも乗り気でない。そのくせ偶然に後藤を見かけると、気に入ったらしくデートを始める。

秋日和そこで間宮は一計を案じる。アヤ子がなかなか結婚しようとしないのなら、まず母親の秋子を再婚させてしまえばいい。その相手としては仲間の一人である平山を「とりあえず」選んで、アヤ子にそれとなく母親のことをにおわせた。平山は妻を亡くして以来不便な生活を強いられており、この話には有頂天である。

だがこの計略は裏目に出て、三輪母娘の間に突然諍いが生まれてしまう。再婚のことなどまったく心当たりのない秋子は娘の怒りに当惑して為すすべもない。そこでアヤ子の同僚、寿司屋のちゃきちゃき娘、百合子が二人の仲裁にかって出た。

百合子は田口がいい加減な噂を広めたために秋子の再婚話がでたらめであると知った後、昔の仲間たちのところに怒鳴り込んでいく。百合子の剣幕に恐れをなした3人だが、おかげで母娘の仲はもとに戻る。アヤ子は母親が再婚するらしいことから後藤との結婚を決意する。だが、二人きりでの最後の旅行で、秋子は自分は再婚する意志はなく、このまま一人で暮らしていくのだとはっきり言うのだった。(1960年)

監督: 小津安二郎 製作: 山内静夫 原作: 里見■ 脚色: 野田高梧 小津安二郎 撮影: 厚田雄春  キャスト(役名) 原節子(三輪秋子) 司葉子(三輪アヤ子) 笠智衆(三輪周吉) 佐田啓二(後藤庄太郎) 佐分利信(間宮宗一) 沢村貞子(間宮文子) 桑野みゆき(間宮路子) 島津雅彦(間宮忠雄) 中村伸郎(田口秀三) 三宅邦子(田口のぶ子) 田代百合子(田口洋子) 設楽幸嗣  (田口和男) 北竜二 北龍二 (平山精一郎) 三上真一郎(平山幸一) 岡田茉莉子(佐々木百合子) 岩下志麻 (受付の女の子)

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小早川家の秋

小早川家の秋酒問屋の主人が自分の気ままに生き、時代の流れの中でそれまで栄えた家が次第に没落してゆくさまを描く。最後の火葬場から煙が上がるシーンや姉妹が喪服姿で将来のことを語り合うシーンが印象深い。

大阪に住む酒問屋を営む小早川万兵衛はもう年で、仕事の責任は娘文子の夫、久夫に任せ、競輪やら女やらといまだに遊び癖が直らない。ずっと前に妻を亡くし、他に娘秋子と紀子がいる。

秋子は夫と死別したので、万兵衛の弟、北川が磯村という町工場を経営している男を彼女と会わせ再婚させようとする。末娘の紀子もお見合いをすすめられているが、会社の同僚で札幌へ転勤した寺本のことが忘れられず、はっきりした返事を出すことができないでいる。

最近万兵衛は昔の妾、佐々木つねと自分が父親かもしれないその娘のもとに足繁く通うようになった。家族や番頭たちが尾行をしたりして万兵衛の遊び癖を心配するが、本人はどこ吹く風。自分の好きなように生きている。

小早川家の秋それでも万兵衛は亡き妻の命日には家族で京都嵐山に行ってみんなで食事をしようという。久しぶりに家族で楽しい時を過ごしたのだが、その夜家に帰ってから万兵衛は心筋梗塞で倒れてしまう。

病状を聞いて、東京や大阪から万兵衛の姉や弟が心配して駆けつけてくるが、そんなことにお構いなく自分はもうすっかり治ったと宣言して相も変わらず遊びまくる。しかも秋子の子供とのかくれんぼを隠れ蓑に、口うるさい文子の目をかすめて再びつねのもとに会いに行く。

だが競輪で負けて無理がたたったのか、つねの家で再び倒れ、知らせを受けて久夫と紀子が駆けつけてみると、帰らぬ人となった万兵衛がつねの家に寝かされてあった。

思いっきり好きなことをして一生を過ごした万兵衛だったが、おかげで酒問屋は経営が思わしくなくなっており、久夫は資本の大きな会社と合併することを考える。秋子もいろいろ考えたが、このまま息子二人と暮らすつもりでいる。紀子もまわりの希望よりも自分の幸せのことを考え、札幌の寺本のもとへ行く決心をする。

火葬場の高い煙突から煙が上がった。河原にはカラスがたくさん舞い降りている。万兵衛がこの世を去って、代々続いた小早川家も没落への道を進み始めたのだった。(1961年)

監督: 小津安二郎  製作: 藤本真澄 金子正且 寺本忠弘  脚本: 野田高梧 小津安二郎  キャスト(役名) 中村鴈治郎  (小早川万兵衛) 原節子  (小早川秋子) 小林桂樹  (小早川久夫) 新珠三千代  (小早川文子) 島津雅彦  (小早川正夫) 司葉子 (小早川紀子) 白川由美  (中西多佳子) 宝田明  (寺本忠) 浪花千栄子  (佐々木つね) 団令子(佐々木百合子) 杉村春子(加藤しげ) 加東大介(北川弥之助) 東郷晴子 (北川照子) 森繁久彌(磯村英一郎) 山茶花究  (山口信吉) 藤木悠 (丸山六太郎) 笠智衆(農夫)

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秋刀魚の味

秋刀魚の味会社員の平山は、妻をだいぶ前になくし、息子の和夫と娘の路子と三人暮らし。路子はまもなく24歳になろうとしているが、父親や弟の世話に追われ、結婚のことは考えていない。

平山は、学校時代の同窓会に出席し、恩師佐久間先生(ひょうたん)を家まで送るが、実は漢文の先生を辞めたあと、しがないラーメン屋のおやじになっていることを知る。しかも先生も早くに妻を亡くし、娘の伴子はもはや嫁に行くことができないうちに年をとってしまっていた。

酔いつぶれた先生の姿から、娘を結婚させてやれなかった後悔と、結局年をとってひとりぼっちになっている寂しさを平山を否が応でも自分の未来の姿を思い浮かべてしまうのだった。

生活が不便になっても、寂しくなってもやはり娘の幸福を願う平山は、娘の路子に結婚するべきだと宣言する。はじめは取り合わなかった路子だが、父親がはっきり言うので結婚を了承する。

秋刀魚の味早速、路子の縁談のために奔走し始める。路子が長男幸一の友人三浦を気に入っているらしいときいて調べてみるが、かわいそうにほんのわずかな差で、彼は別の人と約束をしてしまっていた。さすがに気丈な路子もそれを聞いて、泣いてしまったらしい。

でも、同窓生の河合の紹介してくれた縁談はうまくゆき、路子はこの家を出ていった。後に残された平山は、こうなることは知っていたがやはりやりきれない寂しさが襲うのだった。

このストーリーには、別の流れがある。長男の幸一は結婚して別居しているが、稼ぎが少なく妻秋子の尻にひかれていた。夕食も共同で作り、妻のほしがる冷蔵庫を買うために、父親に金を借りなければならない。好きなゴルフのクラブも妻の許可を得てやっと月賦で買えることになった。

同窓生である堀江は、やたら若い妻をめとってすこぶるご機嫌である。平山や河合はうらやましいやら、半ば軽蔑するやらだが、妻の死後ずっと独身のままでいる平山にとってはまったく逆の生き方をしているのだ。

秋刀魚の味平山は同窓会の帰り、戦争中戦艦の艦長をしていたときの部下、坂本に出会う。なつかしい軍艦マーチが流れる。どうして日本が負けたのか。いっしょに飲んだバー、「かおる」のマダムは、なぜか死んだ平山の妻に似ているところがあった。そのあと平山は何回かこのバーを訪れるのである。

可憐な女優たちが勢揃いし、坂本、佐久間先生の持ち味がよく、同窓生も、バーのマダムも皆何か懐かしい雰囲気を持っているのだ。「晩春」や「麦秋」のような完成された作品ではないにしても、人間味が豊かにあふれ出ていることは間違いない。

*** *** ***

「晩秋」の焼き直し・・・でないところがすごい。まったく同じパターンなのに、どうしてこうも違うのか。秋刀魚は人生、それも平凡な人生だ。全編にわたる、妻を亡くした中年男の寂しさが、娘の嫁入りによってますます深くなる。人生をじっくり描いた作品だから、筋が平凡でも、観客に何事かを想像させてしまうのだ。(1962年)

監督: 小津安二郎 脚本: 野田高梧 キャスト(役名) 笠智衆(平山周平) 岩下志麻 (平山路子) 三上真一郎(平山和夫) 佐田啓二(平山幸一) 岡田茉莉子(平山秋子) 中村伸郎(河合秀三) 三宅邦子(河合のぶ子) 北龍二(堀江晋) 環三千世(堀江タマ子) 東野英治郎(佐久間清太郎) 杉村春子(佐久間伴子)吉田輝雄(三浦豊) 加東大介(坂本芳太郎) 岸田今日子(「かおる」のマダム) 高橋とよ(「若松」の女将)

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