映画の世界

山田洋次の作品

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山田洋次(19‐)。黒沢や小津とは異なり、芸術作品としての映画で知られた監督ではない。では、スピルバーグのような大衆受けのする娯楽作品を作るだけかというとそうではない。

彼の作品には人生がある。そして人々の間に交わされる会話の中に、普通の人なら見逃してしまう豊かな心のやり取りを映し出す。何にも気取らない庶民の生活の中に、あるいはドタバタ喜劇の中に、見る人をしゅんとさせる、だがそのまま忘れてしまうことのない余韻を作り出す。

山田の監督作品は大きく分けて3つにわかれる。(A)庶民の生活を背景にしたドタバタ喜劇、(B)いわゆる「寅さん」シリーズ、(C)家族、仲間の関係の中における「絆」を描いた社会派もの。

現代では寅さんと山田監督のつながりだけがクローズアップされているが、(A)や(C)の映画群が、この監督の別の面を表しているのではないだろうか。多くの喜劇などは、当時は大勢の観客を集めたが現代では21世紀の若い世代に知られているものは少ない。ここでもう一度振り返ってみたい。また、「家族」「同胞」「幸せの黄色いハンカチ」などは人々の人生観に深く訴える作品である。なお、「男はつらいよシリーズ全48作」は別ページにまとめてあるので参照されたい。

*出演者をブラウザの検索機能を使って、調べることができます。

男はつらいよ(全作品)

監督作品

1961.12.15 二階の他人  松竹大船
1963.04.18 下町の太陽  松竹大船
1964.01.15 馬鹿まるだし  松竹大船
1964.04.29 いいかげん馬鹿  松竹大船
1964.12.26 馬鹿が戦車でやって来る  松竹大船
1965.05.28 霧の旗  松竹大船
1966.03.19 運が良けりゃ  松竹大船
1966.11.12 なつかしい風来坊  松竹大船
1967.01.02 九ちゃんのでっかい夢  松竹大船
1967.04.29 愛の讃歌  松竹大船
1967.08.05 喜劇一発勝負  松竹大船
1968.01.03 ハナ肇の一発大冒険  松竹大船
1968.06.15 吹けば飛ぶよな男だが  松竹大船
1969.03.15 喜劇 一発大必勝  松竹大船
1969.08.27 男はつらいよ  松竹大船
1969.11.15 続・男はつらいよ  松竹大船
1970.08.26 男はつらいよ 望郷篇  松竹大船
1970.10.24 家族  松竹大船
1971.01.15 男はつらいよ 純情篇  松竹大船
1971.04.28 男はつらいよ 奮闘篇  松竹大船
1971.11.20 男はつらいよ 寅次郎恋歌  松竹大船
1972.08.05 男はつらいよ 柴又慕情  松竹大船
1972.10.28 故郷  松竹大船
1972.12.29 男はつらいよ 寅次郎夢枕  松竹大船
1973.08.04 男はつらいよ 寅次郎忘れな草  松竹大船
1973.12.16 男はつらいよ 私の寅さん  松竹大船
1974.08.03 男はつらいよ 寅次郎恋やつれ  松竹大船
1974.12.28 男はつらいよ 寅次郎子守唄  松竹大船
1975.08.02 男はつらいよ 寅次郎相合い傘  松竹大船
1975.10.25 同胞  松竹大船
1975.12.27 男はつらいよ 葛飾立志篇  松竹大船
1976.07.24 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け  松竹大船
1976.12.25 男はつらいよ 寅次郎純情詩集  松竹大船
1977.08.06 男はつらいよ 寅次郎と殿様  松竹大船
1977.10.01 幸福の黄色いハンカチ  松竹
1977.12.29 男はつらいよ 寅次郎頑張れ!  松竹
1978.08.05 男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく  松竹
1978.12.27 男はつらいよ 噂の寅次郎  松竹
1979.08.04 男はつらいよ 翔んでる寅次郎  松竹
1979.12.28 男はつらいよ 寅次郎春の夢  松竹
1980.03.15 遙かなる山の呼び声  松竹
1980.08.02 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花  松竹
1980.12.27 男はつらいよ 寅次郎かもめ歌  松竹
1981.08.08 男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎  松竹
1981.12.28 シュンマオ物語タオタオ  シュンマオ製作委員会=天津市工芸美術設計...  ... 監修
1981.12.28 男はつらいよ 寅次郎紙風船  松竹
1982.08.07 男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋  松竹
1982.12.28 男はつらいよ 花も嵐も寅次郎  松竹
1983.08.06 男はつらいよ 旅と女と寅次郎  松竹
1983.12.28 男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎  松竹
1984.08.04 男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎  松竹
1984.12.28 男はつらいよ 寅次郎真実一路  松竹
1985.08.03 男はつらいよ 寅次郎恋愛塾  松竹
1985.12.28 男はつらいよ 柴又より愛をこめて  松竹
1986.08.02 キネマの天地  松竹
1986.12.20 男はつらいよ 幸福の青い鳥  松竹
1987.08.15 男はつらいよ 知床慕情  松竹映像
1987.12.26 男はつらいよ 寅次郎物語  松竹映像
1988.08.06 ダウンタウン・ヒーローズ  松竹
1988.12.24 男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日  松竹
1989.08.05 男はつらいよ 寅次郎心の旅路  松竹
1989.12.27 男はつらいよ ぼくの伯父さん  松竹
1990.12.22 男はつらいよ 寅次郎の休日  松竹
1991.10.12 息子  松竹
1991.12.23 男はつらいよ 寅次郎の告白  松竹
1992.12.26 男はつらいよ 寅次郎の青春  松竹
1993.11.06 学校  松竹=日本テレビ=住友商事
1993.12.25 男はつらいよ 寅次郎の縁談  松竹
1994.12.23 男はつらいよ 拝啓 車寅次郎様  松竹
1995.12.23 男はつらいよ 寅次郎 紅の花  松竹
1996.10.19 学校 II  松竹=日本テレビ=住友商事
1996.12.28 虹をつかむ男  松竹
1997.11.22 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇  松竹
1997.12.27 虹をつかむ男 南国奮斗篇  松竹=TBS
1998.10.17 学校III  松竹=日本テレビ=住友商事=角川書...
2000.11.11 十五才 学校IV  松竹=日本テレビ=住友商事=角川書...
2002.11.02 たそがれ清兵衛  松竹=日本テレビ=住友商事=博報堂=日販...
2004.10.30 隠し剣 鬼の爪  松竹=日本テレビ=住友商事=博報堂...
*****母べい
*****東京家族

下町の太陽 2007/07/21

金がすべてという風潮に批判的な山田監督の態度はもうこのころからはっきり現れている。倍賞千恵子はことばだけではなく表情で見事に悩める少女を演じている。

ここは高度成長期に入った浅草界隈。狭い路地には近所の人々が集まって世間話をしている。この一帯は工場の吐き出す煙で視界はかすみ人々の生活は楽ではないが少しずつ状況が良くなるのではないかという希望と夢が人々の間にはあった。

寺島町子は母を失い、酒を飲むのが唯一の楽しみである父親、継母、二人の弟と暮らし自分は町工場で働いている。恋人の毛利は今勤めている大企業の正社員になろうと必死だ。もしなれれば豊かな将来が約束されるのだ。町子もより豊かな暮らしが望みではないわけではなかったが猛烈社員と結婚した同級生の暮らしが見た目ほど幸せでないのを見て人生にはお金以外の大切なものがあるのではないかと思い始める。

そこへいきなり北という男が自分とつきあってくれとやってくる。あまりに唐突な申し出に町子は断るが、最近問題を起こして周囲を困らせている弟を元気にしてくれ、北の働く鉄工所での真っ赤な銑鉄の流れを見て町子は何かを感じる。

毛利は会社の試験を受けたがライバルの次点だった。ところがその男が交通事故を起こし毛利が運良く正社員採用となる。だが町子はライバルを押しのけての社内競争や、収入がすべてと考える毛利の態度に違和感を感じてしまう。このままサラリーマンの妻になって公害の空気のきれいな団地で豊かな暮らしをすることが幸せなのだろうか?

町子は毛利の結婚の申し出を断る。ふっきれた町子が電車に乗っていると、もう我慢できなくなった北が乗り込んできてどうしてもつきあってくれと強引に迫る。町子はことばを発しなかったがそのほほえみは北へ気持ちが傾いていることを物語っていた。(1963年)

監督: 山田洋次 脚本: 山田洋次  不破三雄  熊谷勲 キャスト(役名) 倍賞千恵子(寺島町子) 勝呂誉(北良介) 早川保(毛利道男) 石川進(鈴木左衛門) 田中晋二(小島薫) 東野英治郎(源吉) 菅井きん(のぶ江) 左卜全(善助) 青山ミチ(ジャズ喫茶の歌手)

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馬鹿まるだし 2008/04/10

終戦間もない中国地方の海に面した町、芦津。そのころ大勢の引揚者が日本に戻ってきていた。あるお寺にも安五郎というシベリア帰りの男が食い詰めて本堂に泊めてもらいたいといって来た。その夜、付近を荒らしまわっていた札付きの泥棒が本堂に忍び込み、盗みをしようとしたところを安さんに見つかり御用となった。

それ以来、お寺にいることを許され、和尚さんのお供や、家の手伝いなど、とても重宝がられた。このお寺の嫁さん、夏子は夫が結婚後わずか3ヶ月でシベリアに出征し、その後行方不明である。夏子は安さんをかわいがって、何かと世話を焼いたり説教をしたりしてくれた。

しばらくして安さんは寺を出て町内の辰巳屋という旅館で働くことになったが、この時期にこの町にあった工場のストライキにかかわって、賃上げを会社の会長から勝ち取ることに成功してしまったものだから、一躍町の英雄になってしまった。

どこかからやくざ流れの八郎という男がやってきて、安さんを主人に持ちたいというものだから、町の真ん中に事務所を持つことになった。ここも人々の人気を集め、賭博によって警察に捕まったこともあったが、町のお偉方が顔を利かせてすぐに釈放してくれたのだった。また、町のボスの娘が旅回りの芸人と駆け落ちしそうになると、刀を持って乗り込み、その娘を救い出したりしたものだからますます喝采を浴びることになった。

だがよいことは続かず、やきもち焼きの男のことばを真に受けて、その男の妻に手を出したといわれる中学校教師を痛めつけたりしたものだから刑務所送りになってしまった。しかも八郎が安さんと夏子の間に何かがあるといううわさを流したこともあって、出所すると町の人間は冷たい視線を安さんに向けるのだった。

その状態を挽回するチャンスがやってきた。辰巳屋の娘に縁談ができ、いいなずけと二人でいるところを、ダイナマイトを持った暴漢たちに誘拐されたのだ。警察も怖がって犯人たちのところに近づくこともできない。安さんが呼び出された。夏子がとめるのも聞かず、安さんは山の中に単身出かけて誘拐された娘を救出する。

だが、犯人たちの投げたダイナマイトの爆発で重傷を負い、失明してしまった。夏子の看病を受けてけがのほうは回復したが、安さんは”無法松の心境だったのかもしれない。それから15年、お寺に安さんが死んだ知らせが届いた。夏子は再婚して大阪に暮らし、安さんのことを覚えている人々は町には少なくなった。(1964年)

監督: 山田洋次 原作: 藤原審爾  音楽: 山本直純 キャスト(役名) ハナ肇(安五郎) 桑野みゆき(夏子) 花澤徳衛(浄閑和尚) 高橋とよ(きぬ) 清水まゆみ(静子) 関千恵子(小万) 犬塚弘(八郎) 三井弘次(主水屋) 石黒達也(辰巳屋) 桜井センリ(伍助) 長門勇(日之出巡査) 渥美清(万やん) 藤山寛美(宮さん) 小沢栄太郎(赤木会長)

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いいかげん馬鹿 2008/03/19

昭和19年、東京から空襲を逃れて瀬戸内海の春が島に疎開してきた、母娘があった。母親は程なく死んだが、娘の水上弓子はまだ小学校低学年の身で、この島の親戚に預けられて育った。近所にいつも親父に怒鳴られているどうしようもない悪ガキの海野安吉がいた。だが弓子には何かと親切で、一緒に遊んでくれたりしたものだ。

ある日安吉は弓子を連れて勝手に船を漕ぎ出し、離れ小島で水中を乱舞する魚たちを見せてくれたのはよかったが、船のとも綱が解け、大騒ぎとなった。安吉は父親にこっぴどくしかられ、その晩、ぷいと島から姿を消してしまった。

それから10数年。弓子は岡山大学に合格し、一週間岡山に住んで週末には島に帰る生活を始めていた。そこへひょっこりドサまわりの楽団が島にやってくる。なんと渉外役が安吉だったのだ。ところが翌朝、楽団の夫婦が色恋沙汰を引き起こし、その弁償のために安吉は島の旅館で働く羽目になる。

はじめは厄介者になっていたが、弓子の説教で少しはましになろうとした矢先、島出身のブラジル移民が帰郷したのを機会に、自分も開拓民になると言い出す。だが、捨て子だった彼には戸籍がない。仕方なく密航を企てるがあえなく逮捕され、その後行方不明になっていた。

数年後、安吉はひょっこり島に姿を現す。一緒に連れてきた放送作家が書いた春が島における滞在の思い出がラジオで全国に流れたものだから、それまでジリ貧に苦しんでいた島は一躍観光地になり、安吉は英雄としてあがめられるようになってしまった。

安吉はかつて弓子に見せてやった美しい海底を思い出し、グラスボートのアイディアを実行に移す。ところがガラスが割れ、観光客たちは危うく溺れるところだった。安吉は島を追われるような形で再び姿を消した。その後、春が島にはホテルが建ち、本格的に観光地として繁栄を始めたが、弓子が懐かしんだような昔ののんびりしたところは失われてしまった。

弓子は大学卒業後、島で先生になった。修学旅行を引率して大阪へ行くと、安吉が道端で商いをしているではないか。再会はしたものの、父親の死を告げる暇もなく、仲間同士の抗争に巻き込まれていた安吉はたちまち姿を消してしまった。(1964年)

監督: 山田洋次 脚本: 山田洋次 熊谷勲 大嶺俊順 キャスト(役名) ハナ肇 (海野安吉) 岩下志麻(水上弓子) 花澤徳衛(海野源太) 桑山正一(海野茂平) 松村達雄(舟山和彦) 殿山泰司(海神丸)石黒達也(竜王丸)犬塚弘(鮫島巡査) 渡辺篤(悪い男) 荘司肇(浩)

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馬鹿が戦車でやって来る 2008/06/12

ある海岸で、沖合い釣りの二人づれが、船頭から「タンク根」という不思議なところへ案内される。何でそんな名前がついたのかを知りたがる二人に、船頭は次のような話をして聞かせたのだった。

北浜と呼ばれる海岸には丸い形をした山が迫っているがその後ろ側には日永という集落がある。そこの住民はみんな一風変わっていて噂話が大好きだった。村一番の貧乏人はサブといい、耳の遠い母親と頭のおかしい弟、兵六の3人暮らしで鳥を飼い、畑を耕して暮らしている。

サブの畑は、かつて農地改革で、小作人だったサブの父親が地主の仁衛門から分けてもらったところだが、その境界線をめぐって争いが絶えない。いまでも二人はにらみ合い、解決のために仁衛門が土地を高額で買収するという話にもサブは乗ってこなかった。

その頃仁衛門の娘、紀子が長い病からようやく回復してサブの家にもやってきた。彼女は幼馴染のサブと自分の父親が仲良くやってくれることを望んでいたのだ。だが翌日の全快祝いにせっかくサブが背広を着込んで出席しようとしたのに、仁衛門からは体よく追い払われてしまう。

さあ、腹の虫が収まらない。サブは大酒を飲み村中で大暴れをして警察に捕まってしまった。しかも彼が拘留されている間に悪辣な金貸しがやってきて母親にメクラ判を押させ、サブの畑を抵当に入れてしまった。それを知ってサブの怒りは再び爆発する。

これまでサブの納屋の屋根から突き出した黒い棒は煙突かと思われていた。だが実はこれは太平洋戦争で用いられた旧陸軍の戦車だったのだ。サブは戦車を始動させると仁衛門の家をはじめとして村中の家を叩き潰して回った。村は大騒ぎ。巡査が県警の応援を求めても冗談だと相手にしてもらえない。

サブの動向を見張るために火の見櫓(やぐら)に村人たちが登っているのを見た兵六は、自分は鳥だと思い込んでいるから、さっそくまねをして上ってしまった。そしててっぺんで飛び立つまねをしているうちに墜落して死んでしまった。弟の死を知ったサブは死体を戦車に載せて峠を越えて北浜に出た。そこの医院で兵六が死んでいることを悟ると、タンクに載せたまま海の中に沈めてしまったのだ。

そのときからその周辺の海域は「タンク根」と呼ばれるようになった。紀子は恋人の北浜の医者とここを通るのが好きで、サブが通った道は「タンク道」と呼ばれている。サブは母親を連れてそれきり村から姿を消してしまった。(1964年)

監督: 山田洋次 原案: 団伊玖磨 脚色: 山田洋次 音楽: 団伊玖磨 キャスト(役名) 松村達雄(中年の男) 谷啓(若い男) 東野英治郎(船頭) ハナ肇(サブ) 犬塚弘(兵六) 飯田蝶子(とみ) 花澤徳衛(仁右衛門) 小沢昭一(郵便配達夫) 岩下志麻(紀子)

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運が良けりゃ 2008/06/26

花のお江戸のど真ん中にある長屋。ここに住む住民は、左官職人の熊五郎と相棒の八をはじめとしてみな貧しいが、隣近所の仲はすこぶるよい。熊五郎は早くに妻を亡くし、幼い子供が降り、妹のせいも一緒に住んでいる。

時にはハメをはずしたいこともあって、みんなで千住まで飲みに行き、散々飲み食いした挙句に支払いを迫る番頭を川に突き落として逃げ帰るという連中でもあった。長屋には定期的に汲み取りにやってくる爺さんがいたが、寄る年波に、これからは息子がやってくるという。せいは喜んだ。その男が気に入っている。

その男が言うには、最近この長屋のし尿が”薄く”なっているのは、暮らし向きが悪くなったせいではないかという。家賃の支払いはどこの部屋でも滞っていた。時は天明の飢饉の頃であったから、みんな暮らしがつらかったのだ。

近くに住むお武家様が、せいに一目ぼれして自分の側室にしたいと言い出したが、せいは妾など絶対イヤだと思っていたところ、熊五郎がその武家の酒宴に招かれて酒の勢いで大暴れをしてこの話を破談にしたものだから、彼女は兄にひそかに感謝しているのだ。

この長屋の持ち主は、大きな商店を営んでいるが、ボロ長屋を解体して、もっと実入りのいい厩舎を作ると言い出したものだから、住民たちは熊五郎を中心にして一計を案じる。秋刀魚を何十匹も焼いて火事のふりをしたものだから町中大騒ぎ。熊五郎はお上にし尿をぶっ掛けたために数ヶ月牢屋に入れられてしまう。

せいたちの住む部屋の隣に住む嫌われ者の高利貸しの老婆が死んだ。自分の全財産を餅にくるんですべて飲み込み、窒息死したのだ。牢屋から帰ったばかりの熊五郎は老婆の死体を商店までかついで行って、カッポレ踊りを披露し、長屋の解体をやめさせる。

老婆の死体はそのまま火葬場に運ばれ、焼いた灰の中から飲み込んだお金をみんなで取り出した。商店の馬鹿息子が協力しておかげで熊五郎はつかまらずに済んだ。こうしてようやくせいは待望の結婚式を挙げることができることになったのだ。(1966年)

監督: 山田洋次 脚本: 山内久 山田洋次 音楽: 山本直純 キャスト(役名) ハナ肇(左官熊五郎) 犬塚弘(相棒の八) 武智豊子(おかん姿) 倍賞千恵子(せい) 安田伸(赤井御門守) 桜井センリ(クズ屋の久六) 松本染升(按摩の梅喜) 花澤徳衛(差配の源兵衛) 富永美沙子(八の女房とめ) 砂塚秀夫(七三郎) 番頭(藤田まこと)

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なつかしい風来坊 2007/09/23

湘南の茅ヶ崎に住む早乙女良吉は防疫の仕事をしている役人である。冗談を叩くこともなく、ツツガムシなどというありがたくないあだ名をちょうだいし風采の上がらないうえにひどい痔をわずらっている。家には妻、娘、息子とで4人暮らしだ。

ある日電車の中で訳のわからないことを騒ぎ立てる酔っぱらい、源五郎と顔見知りになる。それがまたタクシー乗り場であったものだから、話をするうち意気投合し二人とも泥酔のまま、源五郎は早乙女家に上がり込んでしまう。

はじめは怖がっていた家族たちもこの源五郎がとても器用で修理は何でもしてくれるものだからすっかり仲良くなってしまった。ふだんは土方をしており、庭石を持ち込んでくれたり保健所で迷いイヌを連れてきたあとそのもとの飼い主の青年と良吉の娘がこれが縁で結婚することにもなった。

ある日湘南海岸で入水をしようとしていたらしい娘、愛子は源五郎に救われて早乙女家に連れて帰られる。医者でもある良吉がいくら尋ねても愛子が鹿児島の義父から逃れてきたこと以外少しもわからない。心と体の回復のため愛子はしばらく早乙女家に滞在することになった。

その間に源五郎はすっかり愛子に惚れ込んでしまい、いろいろと意志表示をしようとするのだが、現金を渡したりするなどやり方がまずくてかえって彼女を遠ざけてしまう結果となった。

そんなある日源五郎は愛子をなんとか映画に誘ったのだが、帰り道の公園で愛子が転んだのを源五郎が救おうとして彼女の服を破ってしまい、愛子は靴は片足のまま、泥だらけで早乙女家に帰り着く。

その姿を見たみんなはてっきり彼女が暴行されたと思いこみ、警察に通報したものだからあえなく源五郎は捕まってしまう。愛子は何にもしゃべらない。良吉が告訴を取り下げに面会に行っても源五郎は自分が暴行をしたと言い張り、もう口も利きたくないと言う。

源五郎は別の場所で働いた盗みや暴力事件が発覚してしばらく警察のやっかいになることになったが、それきり良吉は彼に会うことはなかった。愛子はしばらくして早乙女家を出ていった。良吉には割り切れない思いが残った。

それから数年後、良吉は青森県八戸に転勤命令が下りひとりさびしく単身赴任することになった。列車が常磐線の平(たいら)駅を過ぎた頃、彼の向かいに乗ってきたのは・・・(1966年松竹)

監督: 山田洋次 脚本: 山田洋次 森崎東 キャスト(役名) ハナ肇(伴源五郎) 倍賞千恵子(風見愛子) 有島一郎(早乙女良吉) 中北千枝子(妻絹子) 真山知子(娘房子) 山尾哲彦(息子学) 山口崇(伊達一郎) 久里千春(隣の奥さん) 松村達雄(林局長) 市村俊幸(吉川課長補佐)

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愛の讃歌 2008/08/06

瀬戸内海に浮かぶ小島、日永島。ここでも多くの若者が島の外に生活の場を求めたがっていた。一方、昔からここに住む中高年の人々はこの島が気に入り、一生ここにいたいと願っている。亀井竜太はなんとブラジル移住を考えている若者だった。父親千造の反対などまったく耳を貸さない。けれども恋人立花春子をおいていくことは気がかりだった。

春子は両親が死に、まだ幼い妹二人の世話に加えて、食堂の手伝いやら仕入れやらで毎日めまぐるしく働いている。とても島を離れることはできない。春子は竜太に自分の夢を実現するため一人でブラジルに行くようにはっきりと伝える。竜太は父親にも内緒でひとり島を出て神戸から旅立って行った。

千造はそれ以後酒びたりになり、たまにしかこない竜太からの手紙を待ち望んでいた。ある日、春子は仕事中にめまいを起こして倒れる。地元で、ばあやとの二人暮らしでまだ独身だがもうすでに中年の域に達した吉永伊作は医者で、春子が妊娠していることを知る。いうまでもなく父親は竜太だった。春子はどうしても子供を生むといってきかない。

みかねた伊作は春子を自分の家に引き取った。やがて元気な男の子が生まれ、その子は伊作の養子となった。いつしか島では伊作が春子と一緒になるのではないかといううわさが立つ。そこへひょっこり竜太が帰ってくる。サンパウロでの生活に見切りをつけ、大阪の工場で働くことにしたのだ。

はじめ、伊作は子供だけは島においていけと言い、千造も病んだ体をおして、自分の息子に一人で大阪に行くように命じる。だが竜太が島を去ったあと、千造は死ぬ。伊作は子供が両親と水入らずで暮らすことの大切さに気づく。春子を説得すると、彼女は子供をつれて大阪に向かうのだった。連絡船を見送る伊作の目には泪がたまっていたのだが、それでよかったのだ。(1967年)

監督: 山田洋次 脚本: 山田洋次 森崎東 音楽: 山本直純 キャスト(役名) 倍賞千恵子(立花春子) 中山仁(亀井竜太) 伴淳三郎(亀井千造) 有島一郎(吉永伊作) 千秋実(船長) 太宰久雄(備後屋) 渡辺篤(千家五平) 小沢昭一(郵便屋) 北林谷栄(おりん) 桜京美 (ハツ) 青柳直人(清) 中島玲子(信子) 内田由美子(文子) 大杉侃二郎(長吉)

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喜劇 一発勝負 2008/04/03

「ひなだ」という名前の駅がある、川の流れる田舎町に、代々やっている古い旅館があった。当主である二宮忠は、息子の孝吉を勘当にして家を追い出してしまった。まだ学生なのに妾を囲っていたからである。孝吉が女に産ませた娘、マリ子は二宮家の養女となった。

それから数年のうちに忠の妻は心労で死去し、今日はその一周忌だというとき、突然、この町に孝吉が再び姿を現したのだ。忠はトラブルを起こされるよりも、再びどこかに行ってもらいたかった。孝吉の妹、信子は大学に進み、将来は画家になりたいので、孝吉のことにはあまり関心がない。マリ子はまだ小さくて自分の父親だということを知らされていなかった。

ただ、ふみという旅館に長く奉公した女中だけが孝吉に理解があり、味方だった。これは若大将シリーズでの”おばあちゃん”に似ている。一周忌の宴会で飲みすぎた孝吉はアルコール中毒を起こし、死んだと思われて葬式までが執り行われる。

いったん死んだとなれば、腹が決まった。何も怖くない。孝吉はこの町に温泉が出そうだといううわさを聞き、仲間を組んで掘削作業に取り組んだのだ。もちろん町の人は半信半疑で、父親は一刻も早く撤退してもらいたいと願っていた。

温泉はどこを掘っても出てくることがなく、資金は窮乏し、山に行ってとってきた茸がワライタケだったために危うく命を落としそうになったり、信子からお金をせびったりして状況は苦しくなってきた。ふみをだまして家から高価な壺を持ち出したりしたものだから、ふみは責任を感じて郷里の青森に帰ってしまった。

そしていよいよ仲間がこの町を去ると告げたときだ、突然井戸からお湯が噴出したのは。最後のぎりぎりのところで孝吉は一発勝負に勝ったのだ!ふみを郷里から呼び返し、町に一大リゾートセンターを作った。ところがマリ子が悪友たちと車に乗って東京へ行くといってきかない。「なんとなく」を歌いながら出て行ってしまった。親不孝のかたまりみたいな孝吉はこうして今度は娘から親不孝の目にあう番になったのだ。(1967年・松竹)

監督: 山田洋次 脚本: 山田洋次 宮崎晃 音楽: 山本直純 キャスト(役名) ハナ肇(二宮孝吉) 倍賞千恵子(二宮信子) 加東大介(二宮忠) 露原千草(二宮礼子) 瞳ひかる(二宮マリ子) 北林谷栄(清野ふみ) 三井弘次(石丸先生) 犬塚弘(赤山) 桜井センリ(青田) 谷啓(山口大三郎) 左とん平(葬儀屋) ザ・スパイダース(悪友たち)

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吹けば飛ぶよな男だが 2008/05/03

大阪の町に天草諸島から家出少女、花子が流れ着いた。待ち受けていたのはポルノ映画を作って一儲けたくらむチンピラたち。花子に強姦場面を演じさせようと、うまく丸め込んで仲間にしたのだった。花子は頭が足りないのか、底抜けに人を信じるたちなのか、ひどい扱いにもじっと耐える。

だが仲間の一人、サブは花子への同情心がいつしか愛しい想いへと変わっていった。うまく仲間をはぐらかすと舎弟のガスとともに神戸に逃れ、二人で暮らそうとした。だがもともとまともに働く気のないサブのことだから、日増しに金がなくなっていくばかり。

ついには花子を立ちんぼに仕立て上げて客をおびき寄せ、ホテルに入ってことが及ぼうとしたその矢先に姿を現して、客から金を脅し取ることを思いついた。最初の犠牲者は学校の先生。彼は気前よくお金を払ったばかりか二人にビールまでおごってくれるのだった。

花子をさらったかつての仲間がサブを見つけてしまった。しかたなくサブは彼らの前で自分の小指をつめて見せる。これはアパートで隣に住む本物のやくざにならってのことだった。花子は生活費を稼ぐためにトルコ嬢になる。というよりは実はサブがそこの女主人に花子を売ったのだ。

花子は体の変調を感じて産婦人科で見てもらう。実は5ヶ月前、天草を出るときに強姦され、妊娠してしまっていたのだ。トルコはやめ、サブにおろせといわれたがカトリックである花子は子供をおろすことも自殺することもできない。その時あの親切な学校の先生がしばらく面倒を見てくれた。

自分の子供でないとわかりヤケになったサブは街中で騒ぎを起こし、相手のやくざをナイフで刺してしまう。幸い軽症で初犯だったので刑期は短くてすんだが、しばらく拘置所に入ることになった。花子は面会に来たが、学校の先生のもとに身を寄せるなというサブの言葉にどうしようもできなくなり、ついには町をさまよって、流産をしたまま出血のために死んでしまう。

サブは拘置所を出てはじめて花子の死を知らされる。後悔したがもう時は遅し。彼女の遺骨を持って天草の実家に届けに行った。サブはすべてを一から出直す気になった。神戸から出航する外航船の乗組員になったのである。(1968年)

監督:山田洋次 脚本:森崎東 山田洋次 撮影:高羽哲夫 音楽:山本直純 配役 三郎(サブ):なべおさみ 花子:緑魔子 先生:有島一郎 お清:ミヤコ蝶々 不動:犬塚弘 ガス:佐藤蛾次郎 鉄:芦屋小雁 弁士:小沢昭一

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喜劇 一発大必勝 2008/05/31

ここはとある九州の小さな町。町でもてあまされた、やくざ男が死んだ。誰も身寄りがいないし金を全然残さなかったので、仲間たちは葬式代を出すものもなく、死体を段ボール箱につめてバスで火葬場に運ぶ有様だった。

そこへやってきたのが死んだ男の旧友、ボルネオ帰りの団寅造だった。といっても死者の弔いに来たのではなくて町の金を何とかふんだくろうとたくらんでいたに過ぎない。仲間たちにお骨のジュースを無理やり飲ませた挙句、近所の町内会ではまんまと「墓石」を作るのだといって5万円も巻き上げられてしまった。やがて寅造はどことなく姿を消す。

仲間の一人、荒木定吉の娘、荒木つる代は町でも評判の美人だが、夫は刑務所に入れられ、離婚をしたいがその金もなく、今は小さな息子を家においてバスガールをしている。その彼女を名に彼となく面倒を見てくれるのが近所に住む心臓弁膜症の独身青年、左門泰照だった。離婚が成立したらぜひつる代と結婚したいと願っていたのだが、気も体も弱い彼には無理かもしれない。

やがて町内会で、京都や信州をめぐるバスツアーが開催された。つる代がバスガイドを勤め、みんなは和気藹藹(わきあいあい)と旅を楽しんでいたが、ある公衆便所の前で、寅造にばったりと会ってしまう。町のメンバーは全員、いち早く身を隠したのだが、顔を知らないつる代に話しかけてバスに勝手に乗り込んでしまった。それからの旅はすべて寅造が中心に動いた。

町に戻り、寅造がつる代をみて気に入り、お酌をさせようとしたときに、助けようとした泰照は敢然と立ち向かったのはいいが、腹を立てた寅造はおおあばれ。町中の建物を片っ端から壊してしまった。

つる代の離婚を達成するために何とか金を工面をしようと、泰照と仲良くなった寅造はわざと怪我をして労災保険をせしめる手を思いつく。だが、飛び降りたのはよかったが、泰照の体にぶつかり、彼の心臓は停止してしまう。すぐに葬式が執り行われたが、寅造の与えたとんでもないショックが効いたのか生き返った。

泰照はどうしてもつる代に結婚のことを言い出せない。散々ドジを踏んだ挙句、想いを告白したが断られ、絶望のあまり町を去った。以後、どこかの工事現場に放置してあったバスの車体の中で寝泊りして、毎夜つる代の姿を思い浮かべている。そこへブルドーザーがやってきてバスをひっくり返した・・・(1969年)

監督: 山田洋次 脚本: 森崎東 山田洋次 キャスト(役名)ハナ肇(団寅造)倍賞千恵子(荒木つる代)谷啓(左門泰照) 佐藤蛾次郎(野田松吉)田武謙三(荒木定吉)犬塚弘(横路巡査)

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家族 2008/07/03

長崎県の沖合いにある炭鉱の島に住む風見精一、民子夫婦は、長男と長女、精一の父親源造の5人暮らし。精一は下請けでの仕事に嫌気が差し、独立して仕事をしたいと願っていた。そこに、北海道のなし別に住む友達から酪農をしないかとの誘いを受けた。

農業の経験もない精一だったが、今の仕事と生活を抜け出したくて、直ちにいく決心をする。しかし民子は精一が一人で行っても挫折するだろうと思い、4月に家族全員で出発することになった。島民の見送りを受けて住みなれた島を出た彼らは、まず精一の弟、力の住む福山に立ち寄る。

力も結婚して子供がいた。工場労働者だったが一戸建てを持ち、マイカーまで手に入れていた。だが父親の源造を引き受けるほどのゆとりはない。そしてなぜ事前に自分と北海道行きのことを相談してくれなかったのかと、精一をなじった。

結局、源造を一緒に連れて行くことになった。大阪では万博が開かれており、彼らもついでに寄ってみた。だがその人ごみが災いしたのか、まだ乳飲み子の長女の早苗が体調を崩し、東京にたどり着いたところで死んでしまった。悲しみに嘆く夫婦。教会を探して葬式をあげてもらうと、火葬場から持ち帰った小さな骨箱を民子は抱えてさらに北上を続けるのだった。

北海道に入り、中標津に近づいた。長崎ではとっくに桜が咲いていたのに、まだここは雪で覆われている。ようやく牧場にたどり着くと、いよいよ生活が始まるのだった。だが、歓迎会の夜みんなの前で炭坑節を歌ってご機嫌だった源造がその世のうちに息を引き取っていた。

5人で出発した家族は3人になった。6月になった。雪がとけて北海道はいたるところ草花に満ち溢れている。子牛が生まれた。精一は草の刈り取りに精を出している。そして民子のおなかに新しい命が宿っていた。(1970年)

監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 宮崎晃 キャスト(役名) 倍賞千恵子(風見民子) 井川比佐志(風見精一) 木下剛志(風見剛) 瀬尾千亜紀 (風見早苗) 笠智衆(風見源造) 前田吟(風見力)

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故郷 99/07/11 (再)2007/07/25

故郷「寅さん」の山田洋次監督らしい作品だ。瀬戸内海で旧式の石積み船の船長とその妻が高度成長の陰で、船を捨て、勤め人になる話。渥美清扮する魚屋の親父がいう。「(勤め人より)そりゃ船長の方がずっと給料が安いさ。船長の方がずっとつらいさね。でも、船長さんは船長さんだものなあ・・・」独立した仕事の誇りを捨てねばならない、男の哀しみを描く。  

瀬戸内海の島に住む石崎精一と妻民子は二人の幼い子供とおじいちゃんとの5人暮らし。精一は砕いた岩石を埋め立て地に運ぶ石船の船長だ。弟の健次がこの仕事をやめて広島でサラリーマンになってからは民子が慣れぬ勉強をして機関長の資格を取り夫婦でこの仕事をしていた。

だが精一の木造船は老朽化し、それを修理する金も新造船を作る金もない。健次や周りの人の勧めもあって精一は船長をやめ尾道の造船所で働くサラリーマンになる決心をした。

時代の波は何代ものあいだ故郷で暮らしてきた人々を追い立て都会へと向かわせる。島影で燃える廃船の炎を眺めながら、最後の航海につく精一は「おおきなもの」に逆らえない無力さをひしひしと感じるのだった。(1972年・松竹)

監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 宮崎晃 撮影: 高羽哲夫  キャスト(役名) 井川比佐志(石崎精一) 倍賞千恵子(石崎民子) 伊藤千秋(石崎光子) 伊藤まゆみ(石崎剛) 笠智衆(石崎仙造) 渥美清(松下松太郎) 前田吟(石崎健次) 田島令子(石崎保子) 矢野宣(石田耕司) 阿部百合子(石田和枝)

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同胞(はらから) 2008/05/05

岩手県松尾村で牛飼いをやっている、青年会会長の斉藤高志のもとに、一人の若い女性が訪れた。河野秀子と名乗る彼女は劇団「統一劇場」のオルグだったのだ。他の数人の劇団員とともに盛岡に事務所を置き、東北の村や町をめぐって、自分たちの作品、「ふるさと」を上演するのが目的なのだ。自分たちは金儲けではなく地域の人々に楽しんでもらいいたいのだと彼女は言う。

突然の申し出に高志はとまどってしまう。無口で恥ずかしがりやな彼は、演劇の何たるかもわからず、とにかく理事会にかけようということになった。村の青年たちは、農業、牧畜業、郵便配達、トラックの運転手など多彩である。しかし日本の他の地域でもそうであるように、多くの青年たちが都会へ流出している。

高志がひそかにあこがれていた佳代子もそうだったが、彼女も両親と大喧嘩した挙句、この村を去ってしまった。村の沈滞を救うのに、この公演はひとつの起爆剤になるかもしれない。しかし青年たちにはまるで演劇のことがわからない。65万円の資金を集めるためには1000円の切符を650枚売らなければならないが、もし赤字が出たらどうするのか?しかも公演の行われる7月は多忙な時期だ。

理事会はかんかんがくがくの議論が交わされ、何度も臨時の会が開かれたが一向に結論が出ない。だが演劇の実現には何か夢があった。河野が最後の結論を聞きに来たとき、彼らは断るつもりでいたのだが、高志が「赤字が出たら、おらのベコば全部売って弁償する」ということばが効いたのか、一気に実現に向けて動き出した。

しかし、村は広く保守的で、芝居の切符を売るのは大変なことだった。少しも売れないため青年団員ひとりひとりがセールスマンになって戸別訪問を開始した。こうやって次第に売り上げが増していった。高志たちはこの村がいかに広いか、そのためお互いの行き来が少なく、コミュニケーションが希薄であることを学ぶ。農家を一軒一軒訪れて説得することは、新たな付き合いを始めるきっかけとなったのだ。

多くの困難を乗り越え、ついに中学校の体育館での公演の日となった。切符はなんと850枚も売れ大幅な黒字になった。「ふるさと」は都会に流れる若者たちと、さびれ行く地域を憂慮する年寄りたちを中心にして展開した。村の人々の大きな共感を得て、公演は大成功だった。

無事公演を終え、河野は村の駅から青年たちの見送りをうけて去ってゆく。青年たちにはあることを成し遂げたという、爽快な表情があった。そして河野の胸にも夢がもうひとつ実現したという大きな感動が生まれていた。(1975年)

監督: 山田洋次原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 朝間義隆キャスト(役名)倍賞千恵子(河野秀子)寺尾聰(斉藤高志)下絛アトム(柳田進)市毛良枝(小野佳代子)井川比佐志(斉藤博志)杉山とく子(斉藤富美)大滝秀治(松尾中学校校長)三崎千恵子(小野きぬ)渥美清(消防団団長)統一劇場(「統一劇場」劇団員)

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遥かなる山の呼び声 2006/02/01

ここは根釧原野。牛飼い女の民子は夫を病気でなくした今、親戚や友達は牧場を売って、身軽になった方がいいというが、まだ小学生低学年の息子、武志と共に牧場を守っている。

冬のある日、猛烈な雨が吹き荒れる中、ガラス窓をノックする男がいた。全身ずぶぬれで今夜どうしても泊めてもらいたいという。気持ちが悪いとは思いながら、追い返すわけにもいかず、民子はその男を牛のいる納屋に泊めてやる。

深夜、牛の一頭が産気づいた。民子はその男に手伝ってもらい、その雌牛は無事子牛を産んだ。翌朝男は出ていったが、武志の渡すお金をいったん断ったものの、最後には受け取って鉄道線路沿いに去っていった。

それから半年後、この男が突然民子の牧場に現れた。仕事をやらせて欲しいのだという。女一人の牧場経営に疲れ切っていた民子は、ぜひ手伝いがほしかった。きわめて口数が少なく身の上話もほとんどしないので気持ちが悪いとは思いながらも、納屋に寝泊まりしてもらうことにした。

かつて牧場で働いたこともあって、この田島という男はとても役に立った。柵作りからトラクターの運転までどんどんやってくれたし、武志もなついた。民子に再婚を迫る近所の虻田と二人の弟を追い払ったどころか、逆に味方につけてしまった。

民子はある日腰を痛め緊急入院する。2週間ほどの間、田島はきちんと牧場を維持してくれていたし、何よりも武志が田島を父親代わりにすっかり信頼しているのだった。その姿を見て、民子は田島にある種の感情を持つ。

納屋に民子の亡き夫の使っていた乗馬用の鞍を見つけると、田島は馬に乗ることに熱心になり、武志にも乗り方を教える。そして地域の草競馬大会に出場して見事1位を獲得した。だが、そこに近づいてきたのは刑事だった。

かつて借金取りに追われ自殺した妻に対して葬式の席で金貸しを殴って死なせた田島は、警察に追われていたのだ。そのために兄も仕事を失い、田島自身もこのような人のいない地域に逃げ込んできていたのだ。だが競馬に出場したばかりに顔を知られてしまった。

民子はその夜から田島に母屋に寝泊まりしてもらうつもりでいた。明日の朝この牧場を出ていくときき、仰天するが、牛が一頭容態が悪化し獣医による手術を行うという騒動の中で、やっとのことで自分の気持ちを田島に伝える。

翌朝牧場の前にはパトカーが待っていた。民子と武志の見守る中、田島を乗せたパトカーは地平線の向こうに消えていった。裁判が行われ、田島は2年間は網走刑務所に送られることになった。田島を護送する列車は民子の住む村の駅に止まった・・・(1980年)

監督: 山田洋次 脚本:山田洋次 朝間義隆 キャスト(役名):高倉健(田島耕作)倍賞千恵子(風見民子)吉岡秀隆(風見武志)鈴木瑞穂(島田駿一郎)ハナ肇(虻田太郎)神母英郎(虻田次郎)粟津號(虻田三郎)武田鉄矢(勝男)木ノ葉のこ(佳代子)小野泰次郎(福士)渥美清(人工授精師)

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ダウンタウンヒーローズ 2007/09/16

終戦直後の旧制松山高等学校。バンカラたちが、「完全な自治」のもとに寮生活を営んでいた。志麻洪介は通学途中で出会う少女中原房子に思いを寄せている。しかも彼女は自分が家庭教師をしている家に出入りしていることを知って一層親密感を覚える。

寮では遊女の咲子が悪い男にだまされ借金に追われているところを学生たちに救われてかくまわれることになった。ふだんはドイツ語のむずかしい格言を口にする学生たちも彼女の前では純朴な青年になりあれこれ面倒を見てやるのだった。しかし最後には借金を取り返しに来たやくざに見つかりそうになり、学生たちは大計を組んで彼女を山奥の郷里に送り届けるのだった。

やがて学園祭が近づく。学生たちはヒロイン、アガーテを巡る若者と彼女の父親の間の確執を描いた演劇をすることになった。アガーテには房子が決まった。そして若者役には洪介がやることになったのだ。演出を担当する「オンケル」をはじめとして連日の練習が実り学園祭では大好評を博す。

劇が無事終わったあと、すっかり房子に惚れ込んだオンケルは洪水浩介に頼んで自分の恋文を持っていってもらうが、房子は人に頼んで自分の恋文を届けるオンケルに対してはもちろんのこと、使いの者になった洪介にも腹を立てて追い返す。房子は心の底では洪介に惹かれていたのだが。

洪介と大喧嘩をしたオンケルはその日から学校をやめ行方不明になる。そして学生たちには卒業式の日が近づいてきた。旧制高校はこの年で廃止になり学生たちは来年の春には大学を目指してここを出ていかなければならない。

洪介は九州大学を受験した。帰り道オンケルが演出する町の旅芸人の演じる劇を偶然見かける。久しぶりに二人は再会することができた。そして最後に松山を訪れたとき洪水浩介は長いこと会っていなかった房子にも再会する。友はそれぞれに旅立って行く。熱き青春は終わったのだ。(1988年・松竹)

監督: 山田洋次 原作: 早坂暁 脚本: 山田洋次 朝間義隆(役名)薬師丸ひろ子(中原房子)中村橋之助(志麻洪介)柳葉敏郎(檜圭吾(オンケル)) 石田えり(谷口咲子) 米倉斉加年(ドイツ語教師)

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息子 2007/08/22

戦後日本の行動成長期のさなか、地方の若者はどんどん都会へ出て行く。浅野家も例外ではない。一年前に妻に死なれた、岩手県の軽米でタバコ栽培を営む浅野昭男は一周忌を行うことになった。長男の忠司は家業を継がずに大企業のサラリーマンになった。今は千葉にマンションを買って妻と幼い二人の娘を抱える。退屈でまじめだけが取り柄だけに、企業内での苦労は並大抵ではない。浅田美代子の「私の彼は左利き」がはやった時代に育った二男の哲夫は大学を出ないでそのまま東京へ行ったが周りが見つけてくれた仕事も長続きせず、今は飲み屋の手伝いだ。一周忌でみんなが集まると一人暮らしをしている昭男を忠司が引き取るべきだという話が持ち上がったが、昭男は田舎の気楽な暮らしがいいと言い張る。いっぽう、哲夫は汗を一杯かいて仕事をやり遂げた気持を味わいたいと思いわざわざ好きこのんで鉄工場にアルバイトをすることになった。配達をする倉庫で川島征子という耳の聞こえない娘にすっかり惚れ込んでしまう。ある冬の日父親の昭男はかつての戦友との同窓会に出席するため上京する。最初の夜は長男のマンションに泊めてもらったが、その狭苦しい部屋にとてもこんなところに暮らせはしないと思う。熱海での懇親会の帰り、昭男は二男の哲夫のアパートに寄る。心配して訪ねていったのだが鉄工場では臨時職員の地位ももらいしっかり仕事をしているらしい。それよりも驚いたのは征子を紹介されたことだ。手話やファックスを使ってお互いに伝え会う二人は近く結婚するのだと聞いて昭男は大喜びをする。翌朝何かうきうきした気分で雪の降りしきる岩手へ一人帰っていった。(1991年)

監督: 山田洋次  原作: 椎名誠  脚本: 朝間義隆  山田洋次  撮影: 高羽哲夫 キャスト(役名) 三國連太郎(浅野昭男) 永瀬正敏(浅野哲夫) 和久井映見(川島征子) 原田美枝子(浅野玲子) 田中隆三(浅野忠司) 浅田美代子(とし子) ケーシー高峰(哲夫の叔父・守) 浜村純(田舎の老人) レオナルド熊(社長) 松村達雄(戦友・寺尾) 中村メイコ(女事務員) 音無美紀子(きぬ江) 奈良岡朋子(昭男の隣人) いかりや長介(おっさん) 田中邦衛(タキさん)

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学校 11/12/00 

学校夜間中学は、貧しくて小さい頃に学校に行けなかったとか、病気のためとか、外国から来たばかりで読み書きができない人々を教えるためにある。学びたい者と教えたい者とが、殆ど費用もかからずに教室という場で出会うのであるから、いわば教育の原点である。

西田敏行が演じるこの学校の教師は、わざとらしい熱血教師ではない。自然体で生徒に接し、むしろ生徒から教えてもらおうというふうだ。何しろ人生経験では、一枚も二枚も上手な人間揃いなのだから。その点、竹下恵子演じる女の先生の方が、こうあらねばと自分のいたりなさに悩む。

朝鮮人である、焼き肉屋の女主人(奈良は朝鮮帰化人が「私たちの祖国;ウリナラ」と呼んだことから生まれた名前だそうだ)。薬でぼろぼろになったあげくに自分を取り戻しにやってきた若い娘、清掃作業で昼間は汗を流す生意気な青年、母親が日本人である中国人青年、それまでかたくなに登校拒否を続けてきた女子中学生らが、それぞれの身の上話を交えながら話は展開する。

いよいよ卒業式が迫った頃、入院していた50過ぎのおじさんが故郷の病院で死んだという知らせが入る。字の読めない、でも競馬新聞は理解できるこのおじさんが、いかにこの夜間中学に入学を求めてきたか、勉強に苦労し、女の先生に恋心を抱いてしまった顛末が、みんなのホームルームの中で語られる。

奇をてらわず淡々と進行するストーリーで、「寅さんシリーズ」の山田監督は学校とは何かをわれわれに教えてくれるのではなく、われわれに逆に答えさせたいのだろう。(1993年)

監督:山田洋次 脚本:山田洋次/朝間義隆 出演:西田敏行/竹下景子/渥美清/田中邦衛/萩原聖人/裕木奈江

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学校2学校Ⅱ 11/10/01

北海道のある養護学校に新入生が入ってきた。サラリーマンから転進してこの仕事に移ってきた先生は、女の先生や、入ってきたばかりの新米の先生と共に、これからの3年間、これらの子供たちを引き受けることになる。

小学生まではあんなにおしゃべりだったのに、中学校に入ってまったく口を利かなくなったユウジは、障害を持ちながらも、自分の置かれている状態が分かっているために、なおさら落ち込んでいた。

だが、先生たちの手にも負えない弟分の少年が、自分のいうことを聞き、面倒を見てやっているうちに、次第に自信を取り戻して口もきくことができるようになってゆく。そしてついには作文コンクールに入選までしてみせるのだ。

だが、卒業が近づいて、クリーニング会社に実習生として働くうち、自分が職場に適応できそうもないと思いこんで、再び落ち込んだ状態になってしまう。先生に慰められても、もっと重症の弟分は「自分がバカだとわからないから幸せだ」とつぶやく。

アムロファンである彼は、弟分をつれて旭川まで無断でコンサートに出かける。たっぷりとあこがれの歌手の歌を楽しんだあと、養護学校の先輩が勤めるホテルへ行き、温泉に入れてもらい、仕事の苦しさや悩みを聞くのだった。

あてもない彼は、弟分は学校に戻して自分だけはどこかへいってしまいたいと願うが、弟分は決して彼のそばを離れてくれない。先生たちは彼らの行方を追って必死に探し回るが、層雲峡近くの雪原で見たのは、何と二人が熱気球に乗って自分たちの真上をふわふわと通り過ぎて行くときだった!

コンサート、温泉、熱気球と素晴らしい体験をしたユウジは、すっかり元気を取り戻して卒業式に臨んだ。彼の前にはまだ分からないが、何か突き進んで活けそうな未来が見えてきたのだ。(1996年・松竹)

監督:山田洋次 脚本:山田洋次、朝間義隆 出演:西田敏行/吉岡秀隆/中村富十郎/いしだあゆみ/永瀬正敏

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虹をつかむ男 2007/06/24

平山亮は両親と妹と東京葛飾柴又のマンションに住む。大学を卒業したのだが就職先がいっこうに見つからず、日本各地をアルバイトしてふらふらしているだけだ。今回も父親に殴られて家を飛び出しやってきたのが徳島県光町。

町中をぶらつくうち、映画館のオデオン座の前に出た。そこでは映画館の社長がちょうど「ニュー・シネマ・パラダイス」の看板を取り付けているところだった。亮は無理矢理手伝わされ、もうけのことぬきでこの町に文化と映画の楽しさを伝えたいという情熱に燃える社長の社員になってしまう。

映画館は映写係の常さんと二人でやってきたが公民館などでの出張映画界を行うためにはもうひとり手伝いが必要だったのだ。亮は手伝いをして町の人々に接していくうち人生のさまざまな姿を学ぶ。そしてもちろん感動的な映画を何本も見る機会を持つことができた。

社長は亡き親友の妻だった八重子さんに惚れ込んでいたが、寅さんと同じくその気持ちを何年にもわたって彼女にぶつけることができずにいた。八重子さんが社長の妻と間違えられてそれでも妻になりすましてくれたときもそうだった。

やがて八重子さんの父親が死去し、葬儀に訪れたかつての夫の同僚の強い望みで彼女は大阪に再婚することになった。社長は振られたことでそれまでずっと堪え忍んできた映画館の赤字問題も一気に浮上しこれを機会に映画館を閉鎖することにした。

ところが常さんはこれまで貯めてきた1200万円のお金をぽんと投げ出し映画館はピザ店を併設して継続されることになった。すっかり社長と映画への情熱に惚れ込んでいた亮だったが、社長は東京への航空券とそれまでの給料を渡すと亮はクビにされた。亮はやっぱりふつうの青年と同じく「まともな」仕事を探さなければならない羽目になった。(1996年)

監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 音楽:山本直純 ・山本純ノ介 キャスト(役名)西田敏行(白銀活男)吉岡秀隆(平山亮)田中裕子(十成八重子)田中邦衛(常さん) 倍賞千恵子(平山春子)

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虹をつかむ男 南国奮斗篇 2008/05/10

前回の話では東京に住む青年、平山亮が徳島県の小さな町の映画館主、銀活男に拾われて映写の手伝いをしたあと、東京に戻ってきたところで終わっていたが、その後亮は家電販売店の店員となり、何一つ生活に満足を見出せず鬱々(うつうつ)とした生活を送っていた。

ある日突然、活男から電話がかかってくる。東京に出てきたのだが、、ボラれそうになり大騒ぎの果て警察に拘留されたのだ。身元引受人になった亮は自分のうちに連れて帰り、両親に紹介するが、風呂を壊すわ、土鍋はひっくり返してしまうわ、イビキで家中が眠れないわで、みんなに恨まれてそうそうに姿を消す。

活男の出現がきっかけになったのか、亮はその後すぐ仕事をやめてしまい、父親とけんかして家を飛び出した。徳島に行くと、オデオン座は”休業”の看板があり、奄美諸島に巡業に行ったのだという。すぐに亮は現地に向った。着いた港で、6歳の子供をつれた若い母親の節子と親しくなる。

活男と合流した亮は村や町の公民館や学校の教室を借りて、以前のように人々に映画の喜びを伝える仕事を始めた。節子は駆け落ちしたあと相手の男と別れ、実家に戻ってきたのだった。すっかり節子にほれ込んでしまった亮は節子の兄、清治に見咎められ、殴られるやら怒鳴られるやらするが一向にひるまない。

一方、活男は映写会で、かつて若い頃自分の映画館で働いていてほのかに恋焦がれていた松江に再会する。彼女は小さな島でペンションをやっているのだという。活男は昔のことを思い出してすっかりのぼせ上がってしまう。

だが、結末は悲しかった。せっかく活男は松江のいる島に向かったのだが、そこには彼女の子供たちが元気に暮らしていて早々に引き上げなければならなかった。亮は勇気を奮って節子に愛を告白するが、年下でしかも失業保険で暮らしていることをいわれ、泣き崩れる節子を後にして逃げ帰ってきた。

亮は、何をさておき一生続けられるような技術を身につけなければならないと心に決めて東京に戻り、職業訓練を受け始める。はるか南の島の活男から携帯電話がかかってきたが、あいも変わらず夢に生きる彼は、目の前に大きな虹が見えていることを大真面目で説明するのだった。(1997年)

監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 朝間義隆 音楽監督: 山本直純 キャスト(役名):西田敏行(銀活男)吉岡秀隆(平山亮)小泉今日子(祝節子)松坂慶子(麓松江)哀川翔(祝清治)倍賞千恵子(絹代)田中邦衛(祝幸吉)

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たそがれ清兵衛 2007/05/30

幕末、山形県の小藩に生きた平侍、清兵衛(せいべい)の一生を描く。清兵衛には妻と幼い二人の娘がいたが、妻は長い間労咳(結核)に苦しんだあげく多額の借金を生んでこの世を去った。

その後その借金の返済と、お城での事務職による安月給に苦しみながら清兵衛はボケのひどくなった実の母親と娘たちを男手一つで養っていた。娘たちを愛し、虫かごを作る内職をして貧しいながらも平和な家庭を作ろうとしていた。

無欲な男で出世など望まず家族を第一に生きる男だった。服もよれよれである。たそがれ時になり勤務が終了すると酒を飲むのも断りまっすぐに家に帰るものだから、いつしか彼は「たそがれ清兵衛」というあだ名で呼ばれるようになっていた。

ある日親友の飯沼と再会し、彼の妹で幼なじみの朋江(ともえ)が酒乱の夫と離縁し家に戻ってきていることを聞く。朋江は家に訪ねてきたが、帰りに前夫と出会い、清兵衛は果たし合いをする羽目になってしまった。彼は大変な剣の使い手で、木の棒でもって前夫を打ちのめしてしまった。

そののち朋江はしばしば清兵衛の家を訪れるようになり、母親や娘の世話をしたり家のことをいろいろと面倒を見てくれていた。そのいきさつを知って飯沼は清兵衛に朋江を嫁にもらうことを勧めるが、自分たちの貧しい生活のひどさには耐えられまいと断ってしまう。

藩主が若くして死んだ。上層部の争いや切腹が相次ぎ、そこに巻き込まれた井口という男が切腹を拒否して家に立てこもった。彼も大変な剣の使い手で清兵衛が藩命でもって討ち取ることを命ぜられる。

覚悟を決めた清兵衛はすべて吹っ切れて、朋江にきてもらい服と髪を整えてもらう。そして自分が本当は朋江が好きだったことを告白するのだった。

一軒家に入った清兵衛は井口もまたつらい生活を送り自分の娘さえも16歳の時になくしたのだと聞かされる。だが清兵衛の持ってきた刀を見た井口は斬りかかってきた・・・(2002年)

監督 ; 山田洋次 脚本 ;山田洋次 朝間義隆 原作 ;藤沢周平 「たそがれ清兵衛」「竹光始末」「祝い人助八」 音楽 ;冨田勲 主題歌 ;「決められたリズム」 作詞・作曲・歌 ;井上陽水 配役  井口清兵衛 ;真田広之 飯沼朋江 ;宮沢りえ 井口萱野 ;伊藤未希 井口以登 ;橋口恵莉奈 晩年の以登 ;岸惠子 井口藤左衛門 ;丹波哲郎

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母べい 2008/02/28 (ロードショウにて)

戦前の東京の下町。みすぼらしい家に、ドイツ文学者である父べいと母べい、姉のハツべい、妹のテルべいの四人家族が仲良く暮らしていた。だが、父べいの書いた書物が原因で、治安維持法に触れ、真夜中にやってきた刑事たちに逮捕される。

それからの一家の暮らしは一変した。やがて拘置所に移された父べいは健康を害していった。母べいは代用教員をして生活を支え、隣組の親切なおじさんたちのおかげで何とか暮らしていくことができた。やがて日本は戦争へ突き進み、中国での戦いは、太平洋へ広がりそうであった。

山口の警察署長をしている母べいの父親がやってきた。結婚に反対していたが、今度の逮捕には心を痛め、何かの足しにと金を置いていく。奈良からはおじさんがやってきた。歯に衣着せぬ言動に一家の顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまったが、帰り際に自分の金の指輪をそっと渡すのだった。

シューベルトの「野ばら」の得意な山崎という父べいの教え子が訪ねてきて、一家のためにさまざまな手伝いを惜しまなかった。さらに父べいの妹で画学生のチャコもやってきて家事の手伝いをしてくれるようになった。おかげで打ちひしがれていた姉妹たちも少しずつ元気を取り戻してきた。

母べいを中心に5人が家族のように協力し合い、ようやくいつもの生活に戻ろうとしていた矢先、父べいの死の知らせが届く。戦時下でもあり、葬式をそそくさと済ませた。やがて、チャコは広島の母親の病状が悪化したために、故郷に戻ることになった。帰る間際、山崎がひそかに母べいにあこがれていたことを告げる。

ついに太平洋での戦争が始まった。山崎にも赤紙が来た。山崎は姉妹たちに別れを告げるのがつらくて、母べいにだけひと目会って去っていったのだった。これで終戦まで3人だけの生活が続いた。そして戦争が終わった。奈良のおじさんは山の中で野垂れ死にし、チャコは広島の原爆で死に、山崎は太平洋の真ん中で魚雷に撃沈された船に乗っていて海の藻屑と消える。

10数年後、美術の教員となったテルべいのもとに母べい危篤の知らせが入る。医師となったハツべいとともに見守る中、母べいは死の間際に、あの世で再会なんかしたくない、この世で再会したかったと嘆きの声をあげたのだった。

聖書では、アダムとイブが神様にうそをついたとき、「あなた方は塵から生まれたから塵に返る」と言われてエデンの園を追い出されている。人間生きているときがすべてなのだ。そしてその短い人生そのものが貴重なのである、と監督は言いたかったのだろう。(2007年)

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

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