誰でも作れる料理の最初はおにぎりだ! |
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基本的作り方 今まで、母親まかせ、妻まかせできた人がいざ料理を作るとなると、体が動かない。カレーやハンバーグを作ってみたいが材料をそろえたり、切ったり炒めたりするのが大変。目玉焼きでは物足りない。 そこで料理の基礎を知りのに役立ち、実用的なのがおにぎりだ。今コンビニで120円も出せば手に入るおにぎりだが、実際のお米代と、入れる中身、海苔、包装用紙を加えてもせいぜい原価は40円というところ。 しかも冷えて固いし、梅干しを除いて中身はほとんど保存料入り。そして何よりも、一見してわかるとおり、あの三角形は機械で固めたもの。清潔といえば聞こえはいいが、こんな作るのに簡単なものを金を出して買うのは情けない。 まずは昼飯用に試作してみよう。もしあなたが朝食と夕食をしっかり取っている人であれば、昼は梅干おにぎりと香の物(かのもの)で十分だ(さらに魚肉ソーセージでもついていれば文句なし)。 昔、江戸から日光へ向かう飛脚はおにぎりをほうばって走ったという。明治初期、西洋から来た栄養学者が彼らのタフさにびっくりして、でも栄養の貧弱さを心配して、彼らにタンパク質補給のつもりで、出発前に肉を食べさせたところ、とたんに走れなくなったという。激しい運動の時に、胃は肉をのんびり消化するゆとりはない。即、エネルギーに転換できるものがいいのだ。 というわけで、午後の仕事のための効率的な燃料補給と、昼飯代の節約をかねて、自家製のおにぎりに挑戦しよう。いったんうまくいけばその経済性と簡便性に、止められなくなること請け合いだ。 だが、朝飯抜きの人や、偏食をする人にはお勧めではない。朝にきちんとした食事をとらない人が、昼におにぎりではいくら何でも栄養不足になる。その人たちは店できちんとしたランチを取るべきだ。昼のおにぎりは、正常で豊かな朝食を取っている人に限る!!!こんな基礎的なことすらわかっていない人が多いから、サプリメントなどの広告にだまされるのでは? 材料は、ご飯、梅干し、海苔、塩の4種類のみ。梅干し以外の材料を考えてもいいが、飽きがこないことと、夏期の腐敗防止、含まれているクエン酸が体の燃焼を助けてくれるなどの理由で、当分は酸っぱい味を楽しもう。 ご飯は炊いたあとよくかき混ぜ空気にさらし、保温を切って少し温度を下げておく(さもないと熱くて握れない)また、炊飯器で炊くとき、水が少な目だと、握ったあと固くてまずい。ほんとうはお櫃(ひつ)に入れるのが最もよい状態のご飯が手に入るのだ。 海苔は香りを出すため、、必ず弱火の上であぶって、焦げないまでもぱりぱりに近い状態にしておく。そして、4センチ四方ぐらいにハサミで切っておくといい。 梅干しは高級品を使いたい。思いっきり酸っぱいのを。自家製なら最高。安物は砂糖や保存料はもちろん、「赤色・・・号」とかいう赤い色素で舌が真っ赤になるし、外国産の梅は、やはり味が落ちる。大きいものならちぎって、小さなものならそのまま入れればいい。 やたら甘くしたものや、鰹節を混入したものもあるけれど、顔が歪むくらいの酸っぱさのほうが、胃のためにはいいのだ。しかも歯の丈夫でない人にはお勧めではないが、タネを割って中の「仁」を取り出して食べるときのうまさは格別?でもないか。 海苔は安物でいい。高級品だと、おにぎりでお金を節約する意味が無くなる。乾物だから、保存料が入っている可能性は少ないし、わらくずやほかの種類の海草が混じっているような低級品は、独特の磯の香りがして食欲がそそられる場合がある。 ご飯はどうやって握るのか?これが意外と難しい。手にご飯粒がついてしょうがない。水をつければくっつかないが、ビチャビチャでは、ご飯がぼろぼろこぼれるし、腐りやすくなる。それで小さなボールに水を張り、その中に手を浸し、水からあげて両手のひらを数回こすりあわせると、よけいな水分がとれてご飯粒はほとんどくっつかない。お試しあれ。 忙しい人はラップを30センチ四方ぐらい切り取り、それを手のひらにのせてご飯を入れるといい。だが、ラップの成分として「塩化ビニリデン」を使っているものは、燃やすとダイオキシンがでる可能性があるので「ポリエチレン」製を。使用後は香の物を包むのに利用し、食べるときはおにぎりをつかむのに使える。大切なことは、塩、できたら荒塩をふり、おにぎりの表面がうっすらと塩味がつくようにしておくことだ(「味の素」を振る年輩の方もいるようだが、別のところで述べるように「アミノ酸等」はおすすめできない)。塩がないと何とも物足りないし、夏は表面からの腐敗防止に役立つだろう。 日用品売場にはおにぎり用の「型」を売っている。だが、幼稚園児を抱えた不器用な母親じゃあるまいし、エンピツをナイフで削れる程度の器用さを持っていれば誰でもできるし、第一、使用後に「型」を洗うという手間が増える。 うまくおにぎりの形ができるようになるのも、おにぎり作りの楽しみの一つになりうるのだ。この実に人間的な食べ物は、機械文明への挑戦でもあることを忘れないようにしよう。 さて、片手に一個分の半分のご飯を取り、平らにならし、指で真ん中に梅干しを入れるためのくぼみをつける。好みの量の梅干しを入れたら、その上にさらにのこりのご飯をかける。いよいよ「握り」だ。 原理はかんたん。「拍手」をするとき、シンバルのように両手のひらをたたきつける人もいるようだが、普通は、中に「空洞」を作っていい音を立てるものだ。 この「空洞」をさらに深くした中にご飯を入れてやればいい。そして満身の力を込めて「圧縮」してやれば、おむすびの形に近いものができあがる。片手で「へ」の形を作り、もう一方の手で「一」の形にしてやれば、自然に三角形ができあがる。 おにぎりは5面体である。5面を同時にバランスよく強力に押しつけられるようになればベテラン。できたのが割れてしまうのは大きすぎるか、この「圧縮力」が足りないからだ。 底辺、高さ共に5センチ以内に抑えた正三角形にすると食べやすい。幼稚園児はもっと小さいのを食べているようだが、大人から見れば、物足りないし、手間がかかってしょうがないのだ。 したがって、握りは2段階に分けて行うとよい。最初はご飯をラップに乗せて、力を入れず、形だけを整える。第2段階では思いっきり、自分の握力のすべてをかけて押し固め、間に残っている空気をすべて追い出して、腐敗菌が入る隙を与えない。 ある料理研究家が、「男の手は強すぎるから硬くなってしまう。女の手で握り、適度にやわらかいのがいい」とのたもうた。この人はおにぎりの目的が何であるかわかっていない。おにぎりは実は”料理”ではなく携帯食・保存食なのだ。柔らかなおにぎりなんて、5キロもの重さがある携帯電話みたいなもの。戦国時代の武士が携帯する食事として発明されたのだ。日持ちがしなければならない。ご飯とご飯の間に隙間があると、夏の日はたちまちのうちにそこから腐り始める。塩を混ぜるのも梅干を入れるのもすべて、この高温多湿の国での変質防止のためなのだ。つまり、おにぎりは”モバイル”の代表である。やわらかく握ってはいけない。しっかり握って空気を追い出すべきだ。 いよいよ海苔をのせる。上記の寸法であれば、海苔は3センチと4センチの長方形を2枚用意し、1枚を3面にまたがってタテに貼り付け、もう1枚を残りの2面にまたがって貼り付ければよい。ミイラのようにぐるぐる巻きにする人もいるようだが、そこまでしなくても、ご飯の白い部分はほとんど隠れる。 包装は握るのに使ったラップに包めばいいが、蒸れるので美味しくない。なんと言っても「竹の皮」である。丈夫で数回は洗って使えるし、行きは重くても、帰りはぺちゃんこだから、持ち運びに楽だ。ほかに四角形の籠(かご)もよい。しかし、冬季には乾燥しやすいので、むしろ密閉容器のほうがいいようだ。 世の中には、海苔がぱりぱりで乾燥していなければならないと主張する人がいる。コンビニおにぎりのセロファンはそれであのようにかさばるものとなった。だが、湿ってご飯に張り付いた海苔のほうが、実は香りがいいのだ。好みはあるが、慣れてしまえば簡便な方がいい。 おにぎりづくりはこんなに簡単だ。ごくごくわずかな部分ながら人に頼らずに、食生活が営める。ファストフードの店で列を作ってお金と引き替えに、目に見えないところで工場生産されたものを食べることから卒業する手始めになるのではないだろうか。おにぎりを作るのが面倒だという人、ではおにぎりを作る以上の価値あることをしているというのか?お聞かせ願いたい!!! 梅干しの歴史的価値を知りたい人は、歴史学者、故・樋口清之氏の傑作評論、「梅干と日本刀」を一読されたい。 *2000年2月初稿・2009年6月追加 味噌塗りに挑戦 いつも海苔ばかりでは飽きてしまう。たまには変化をつけてみたい。それで登場するのが、味噌塗りだ。ご飯は裸では表面から乾燥し、また手に持つことから考えても「カバー」があった方がいいわけだ。 味噌の種類は「八丁味噌」とした。これはあとで表面を焼くときに最も香りがよいと思われるからだ。上で述べたような方法で、おにぎりを握ったあと、塩をまぶさずその代わりに味噌を表面に薄くまんべんなく塗る。 どんな方法で塗るとよいか?それは「バターナイフ」なのである。ちょうどトーストに薄くバターを塗る要領で、5面すべてに塗る。手が汚れないように、ラップにのせたまま塗るとよい。 塗りすぎると塩辛くなり、梅干しの辛さを上回ってしまう。ご飯粒の谷間に埋まるくらいでよいだろう。そのままではまだべたべたしているから、手早く表面をうっすらと焼く。 オーブントースターが最も手軽でよいが、おにぎり自体が湿っているため、相対的に加熱力が弱く、トーストのようなカリカリ状態にするためには、10分以上かかってしまう。 朝の忙しい時間を上手に使うには、ガスコンロに付いている、魚焼きバーナーだ。もちろん焦げないように中火ぐらいにしておく。卵の殻のように、おにぎり全体を固く覆うようになればできあがり。 味噌の持つうまみが生きて、おにぎりの新しい魅力が生まれた。 2000年3月追加 麦を加える 毎日白米を食べていると、いつしかその味に飽きが来る。おかずの種類が豊富ならそんな心配はない。だがおにぎりのように梅干しや味噌のようなものだけが続くと、今ひとつ変化が欲しくなるものだ。 このときには麦を加えることを勧めたい。あのお腹に黒い筋の入った「押し麦」はビタミンと食物繊維の宝庫であり、これでビン入り栄養剤とは永久におさらばできるだろう。 これを白米ご飯を炊くときに1割から2割好みに応じて加える。出来上がりは、黒っぽくあまり美味しくなさそうだが、よく噛むと麦の味と香りが米とうまく混ざり合って何とも言えない。 「牛タン定食」はこの麦ゴハンが定番だ。また山芋をすったものを入れたとろろ飯も麦が入っているのが正統だ。いずれも他の食品とのビタミンバランスから自然に生まれたものだろう。 かつて江戸の小金をためた商人たちは、「銀シャリ」と称して、何も混ざらない徹底的に精米した米をステータスシンボルと見なしてこれ見よがしに食べて見せた。その結果江戸の町には脚気がはやったという。 愚かな見せかけ第一主義の好例だが、貧しい地域でも、隣人が米に麦やイモを混ぜるのを見て軽蔑する傾向が強かったと言うから、人間の虚栄はどこまでも終わることを知らない。 一方では大分県のように、戦後あまり米が手に入らなかったところでは、小麦を主体にしてさまざまな料理法を工夫し、多様な食文化を作った例も見られる。要は虚より実を取れということだ。 ところで麦を加えた結果、おにぎりが多少もろくなって崩れやすくなったが、そこはにぎり方の技術や、水加減で工夫をすることにして、今のように美人かな?と誤解させる「なんとか小町」やら「なんとかニシキ」のような相撲取りのような名前のブランドにこだわるのはやめて、安くて肥料も少なくて病害虫に強い品種の米を中心に麦をうまく配合して食べようではないか。 それに麦が日本の畑で作られなくなってから久しいこともある。日本の食糧自給率が末期的症状にあることは周知のことだが、麦の状況は悲惨というしかない。小津の名作「麦秋」と聞かされても何のことだかわからない人が大部分だ。 麦秋は5,6月の「春」のことだ。なぜ「秋」なのかといえば、麦にとっては収穫期に当たるからだ。冬を過ごして暖かくなった頃、麦は実を結び、刈り取られる。 「わら一本の革命」の著者である福岡正信氏は、この麦わらを肥料にして今度は米を栽培し、またその米わらを肥料にして、麦を植え付け一年中、米と麦が交互にできるような方法を提案した。 このような点から考察すれば、麦を食べることは、栄養的に米と補い合う関係のみならず、農業生産の面からも、大きくは自然の循環という観点からも実に有効な考えだといえる。 2000年6月追加 © 西田茂博 NISHIDA shigehiro |