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無洗米を考える

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長い間、日本人は、お米を炊く前に、「とぐ」ということを繰り返してきた。これは米を食する文化にはどうしても切り離すことのできないものである。寒い朝でも腕をまくり、しびれる手を我慢しながら一生懸命といだものだった。

米は、精米したあとでも多量の「ヌカ」が表面に付着している。ヌカ自体は、ぬかみそやその他数多くの食品を作るための貴重な材料だが、残念ながら炊くときに混じってしまうと、せっかくの米の味が損なわれ、いわゆる「ヌカ臭く」なってしまう。

それだけでなく米が古くなると、ヌカが一部酸化してますます米の味を悪くする。農薬を使いすぎると、ヌカにその毒素が集中する恐れがある。このように、ヌカが白米の表面にいつまでも密着しているとろくなことがない。

だから昔から人々は、米を炊く前に、水の中で、米の表面をお互いに十分こすり合わせて、ついているヌカをこそぎ落としたのだ。だから、ちょうどナイフや包丁を「研ぐ」つもりで、水の中にヌカを分散させたのだ。

だから、最初のとぎ汁は当然真っ白に濁っている。ここにはヌカの成分がたくさんとけ込んでおり、十分に腐敗させれば、植物の肥料としても役に立つほどなのだし、ヌカそのものはスイカの栽培の時にまわりに埋め込んで、いざ実が成長するときには大活躍をする。

だが、とぎ汁を一回で止めてしまう人はあまりいないだろう。白い色が消えるまで・・・といっても5回を越せば、せっかくの栄養分もいっしょに流れてしまうと警告されてしまうだろう。

だいたい平均して、米を火にかけるまで4回ぐらいはどこの家庭でもすすいでいるようだ。事実、相変わらず白く濁ってはいるが、これ以上といでも今度はヌカではなくデンプンが溶けていってしまうのだ。これで初めて、米の香りの立つほかほかな飯が炊けるのだ。

だがそのために要した水の量が馬鹿にならない。一回に5リットル以上、これが毎日繰り返されるわけだ。そうでなくとも、トイレに使う水や、洗濯のすすぎ水で、上水道の使用量はウナギ登りになっている。

また、中には研ぐために要する時間がもったいないという人もあろう。だがなんといっても困るのは研ぎ方の上手下手、前もって米の表面に付着しているヌカの量によって、出来上がりの飯の味が大きく変わってきてしまうことなのだ。

せっかくの優秀な味を持つ特定産地の米も、このヌカの味のせいで、まったくのまずい味に変わってしまうことも少なくない。この問題を解決するためにはどうしたらよいか?ここで登場してきたのが無洗米なのだ。

無洗米は、あらかじめ工場で、米の表面からぬかを取り去ってしまう。方法はいろいろあるが、くっついて離れない餅に、餅を押しつけてはぎ取ってしまうように、ヌカにヌカを押しつけてはぎ取る方式が主流のようだ。

最大のメリットは、各家庭で無駄に流れていた水の使用量を、大幅に減らすことができることだ。もちろんお風呂や洗濯の水の使用量も減らなければ意味はないが。

料理の際に「便利さ」を強調することはあまり感心したことではないのだが、忙しい生活の合間にでもなるべく手料理を食べたいという人は多いだろうから、そのような人々には朗報である。

では肝心の味はどうか?これは正に失敗のない、たとえ米が古くてもさほど影響が出ない味となる。白米そのものの味は、それぞれの産地や品種によって決まるとしても、ヌカという余計な味が付いていないご飯は、低級な米だとしても十分に食べうる味となっている。

ただし本当にうまい味にするためにはこれからも絶えざる研究が必要だろう。これまでブランド米を珍重してきた人々にとっては、無洗米に切り替えることは相当の抵抗があることだろう。

今のところ、無洗米は、そうでない米に比べるとやや高いが、これはまだ普及度が十分ではないからである。だが、そのメリットは差額を考えても十分にもとがとれるし、今後使用者は必ず増えると思われるから、長期的には値段は下がってゆくだろう。

問題は、スーパーなどでは知名度がもう一つで、陳列棚においていないところがまだかなりある。しかも消費者は、そんなことより、産地や品種を重視する「ブランド」志向がまだまだ強いから、無洗ということにまだ目が向かないのだろう。

無洗米の登場は、自然の汚濁防止に特別な効果があるわけではないから、これで自然環境悪化への免罪符になるわけではないが、人間の食生活全体を見直すいい機会にはなるだろう。

今のところ、まだまだ無洗米製造技術に関しては改善の余地がある。しかし将来的には環境へのインパクトが減る期待は捨てない方がいいだろう。これまでにも電気代をくわない冷蔵庫、分解が早く、石鹸のようなカスのでない洗剤、ばかでかいブラウン管を使わないテレビなどが登場して、わずかながら良い方向に向かっている。

ただ、残念ながら世界全体の環境破壊の規模から見ると、大河の中をさかのぼる一匹の鮎というところなのだが・・・

2001年8月初稿・2002年2・5月改訂

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

 
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