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スロー・フードと

プレイン・フード

スローフード

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世の中の忙しさが、ファスト・フードを生み出し、食べ物を中心とする生活をあまりに粗末にする風潮が、世界的に反省されるときが来た。それがスロー・フード運動である。

効率と利益第一主義のアメリカ中心文明は、それとともに安易な食生活を生み出した。調理の時間や、材料吟味の時間を惜しみ、人間の健康の根本である食生活をないがしろにしてきた。

健康が悪化すれば、医者に薬をもらい、自己流の一は「サプリメント」と称する補助食品を買い求め、自分の偏った食生活を何とか元に戻そうとする。だが、このように薬万能、医学万能の考えが、人類にとって明るい未来を約束するものではない。

このようなことに気づいた人々の中から、スロー・フード運動の気運が盛り上がってきた。自国の食文化をジャンク・フードに汚染され、それまでの中小の料理店や食品メーカーを潰してきた現状を見て、これではいけないと思う人々が増えてきたのだ。

上のもそのうちの一つ(英語)。本部はイタリアにあり、タイトルの下にある、カタツムリがシンボルマーク。日本でもたくさんの団体が生まれている。下が日本支部だ(日本語)。

スローフードジャパン

大量生産された加工食品を拒否し、畑や海や牧場で獲れた材料そのものから出発して時間をかけ、バランスを考え、自分の住む風土の特色を考えた料理を目指そうというのがこの運動の主眼だ。

実は、かつての食生活は、だれが定義するまでもなくスロー・フードであったのだ。もしそうでなければ、自然から得られるものを調理せず、そのまま食べてしまう「プレイン・フード」が中心だったのだ。

われわれは、意図的にスロー・フードにする必要はない。単に、ジャンク・フード、ファスト・フード、そして食生活を安易なものにする数々の材料を拒否しさえすればよい。

ライフスタイルの大幅な転換も必要ない。ただこれまでと違って、余裕のある生活を目指しさえすれば、スロー・フードの当たり前な世界は実現するのだ。食品の世界にまで飛び込んできた利潤・効率第1主義を排すればよいのだ。

ファスト・フードを取らなければ24時間では足りないような人生は無意味だ。人生70年から80年というきわめて短い間に、食のもたらす恵みをじっくりと味わい、工夫を重ねることのできる豊かさを持ちたいものだ。

もちろんそう思わない人々もいる。将来的には、人々のライフスタイルは両極化するかもしれない。一方では、手間ひまかけて自然の恵みを味わい、もう一方では、宇宙飛行士の「エサ」のように、チューブから一のみして食事を済ませる人々が生まれよう。

最も宇宙飛行士たちは、宇宙での滞在時間が長引くにつれ、従来の単純な食事では耐えられなくなってきている。地上の世界と違って「ビジネス」に追い回されることがないためだろう。

人間にとって一番大切なのは実は「ヒマ」であって、退屈を潰すのに困るくらいの時間がたっぷりあるとき、初めて何か後世に残せるような「作品」が生まれるのだ。

としてみれば、今のように「ヒマ」がない文明とは、まったく残す価値のないものしか生み出せないことを意味する。今日の高度な技術がいい例だ。だれが一口で食べられるハンバーガーを、後世に伝えたいと思うものか。

もし本物のハンバーガーを食べたかったら、その種の専門店に行って食べるのがよい。材料を吟味し、手間ひまかけて作ったハンバーガーであれば、後世にも、友人にも是非勧めたくなるではないか。

では、スロー・フードを食べる時間も金もない人はどうすべきか?これに対しては、かつての人類の大部分や、現在でも多くの人々が採用している、「プレイン・フード」にかかわるのがよい。

これは、材料に関しては、できるだけよいものを選び、例えば養殖よりも自然な魚、肥料や農薬はできるだけ投入していない野菜、十分に運動させ、健康な食生活をおくった家畜などを選ぶ。

料理のレシピはできるだけ簡単にする。食事の多様性は、さらに何種類の材料を並べるかによって高めてゆけばよい。なるべく材料に手を加えない。できることならば生で食べる。

そして最も大切なことは、加工食品を極力抑えることだ。素材を使うにしても、それらを工場で様々な調味料やら添加物を加えてしまったのでは、メーカーを儲けさせるだけである。

例えば「蕎麦つゆ」が販売されているが、これは手を抜くために考え出された画一的な味に過ぎないから、自分で醤油、砂糖、味醂、カツオブシを加えて作ってみる。

つまり従来からある基礎的な調味料は、台所に備えておいて、それ以上の加工品は置かないことだ。これだけ実行しても、現在の食生活をずっとシンプルに改善することができる。

プレイン・フードの真髄は、複雑な調理ではなく、材料の多様さと新鮮さなのだから。スローフードと合わせて、現在の文明に対抗するようなライフスタイルを作りたいものだ。

2001年10月初稿2008年5月改訂

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

 
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