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大学イモを作る

大学イモの見本

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なぜ大学イモというのだろう?何はともあれ、これを発明した人は大学生で、貧困のどん底にあり、少しでも甘いものを食べたいという欲求に駆られていたということにしよう。

飽食の時代には、おやつの条件として、「脂肪が少ない」「カロリーが少ない」という点は決して見逃すわけには行かない。脂たっぷりのショートケーキなんぞ食べていたら、確実に寿命が縮む。早死にだけならまだよい。まだ若いうちに脳卒中でも起こして、死ぬまで体が動かなかったら悲劇だ。

粗食を実行し、穀物中心の生活をしていると、どうしても労働が激しいときは、3食の間にコバラがすく。そこで補うのが「おやつ」だ。だが次の食事まで胃の中にとどまっていて、せっかくの正式な食事の食欲を失わせては何もならない。食べたら、直ちにエネルギーになり、あとになにも残らないのが理想だ。

薩摩芋の大きいのが手に入ったらチャンスだ。見るからに重そうで、縦に割ってみると、真っ白なイモの内部が新鮮そうだったら、さっそく作ってみよう。薩摩芋は、暖かいところに置くと、意外に腐りやすく、鮮度が落ちる。ふかし芋もいいが、冷蔵庫に入れておかないと、その豊富な水分のためにカビを呼ぶ。

大学イモのいいところは、しっかり加熱して砂糖で覆い、細菌の侵入を極力抑えることによって、一種の保存食品になることだ。まぶした砂糖としみこんだ食用油が、エネルギー切れの際の緊急補給源となる。

まず薩摩芋を一口大の適当な大きさに切る。薄切りではなく、厚めの塊に。皮はつけたままの方がいい。魚でも野菜でも無害なら、皮はどんどん食べるべきだ。実(み)とは違った趣がある。そのあと、水に5分から10分ぐらいつけておこう。中には水分が著しく不足しているイモもあるらしい。

このあと、すぐに油で揚げないで、いったん熱湯に入れて、5分ほど、さっと表面ぐらいを茹でておくと、出来上がりがきれいだ。急がないで、スロー・クッキングといこう。別にシンが柔らかくなるほど茹でる必要はないし、そんなことをすると、水分が余計にはいる。

このあと、160度ぐらいに熱したサラダ油の中に入れて揚げるのだが、これがなかなか時間がかかる。これはイモの内部まですっかり熱がなかなか通らないせいだが、急ぎたいと思ってイモを薄切りにすると、ポテトチップスの出来損ないになってしまうから、やはり時間をかけてじっくり揚げるのがいい。最初は強火で揚げるが、少しずつキツネ色を帯びてきたら中火にしてゆっくり芯まで熱を通す。

熱の通し具合はどのくらいがいいかは、はっきりしたことは言えないが、表面がぱりぱりの硬めが好きなら、焦げる直前まで揚げるのがいいし、全体が柔らかめがいいのなら、早めに油から引き上げる。前者の方が、保存性はいいが、歯の弱い人には都合が悪いだろう。

油から上げたら、よく油を切る。このまま我慢できずに食べてしまっても熱いうちは実にうまい。味見をしている間に食べ尽くしてしまうかもしれないが、ここからは、砂糖を表面にかぶせるという、大学イモの最大の特徴の演出だ。

まずアメを作らなければならない。イモ一個300グラムにつき、大さじ3杯分の砂糖と、大さじ1ぱいのサラダ油を混ぜ、鍋に入れて火にかける。この際水をいっさい入れないで、熱で砂糖を溶かしてしまうのが理想だが、たいてい焦げ付かせてしまうから、事前にほんのわずか水を足しておく方がいい。

これもベテランになったら、もちろん砂糖の種類にもよるが、ねっとりした砂糖を、ちょうどマロン・グラッセのようにイモの表面にかぶせることができるようになる。できるだけ濃い砂糖溶液を塗り、細菌の侵入を防ぐのだ。今回は上白糖ではなく、三温糖を使用したので、わずかなにおいが野趣を呼んでイモの性格とぴったりだ。

砂糖をかぶせると言ってもわざわざ刷毛で表面に塗るわけではない。ただ、鍋の中でゴロゴロ転がすだけだ。勝手に回りについたら引き上げればよい。もっとも粘度が高くなると、泡粒がついたりして見かけが悪くなる。

塗り終わったら、バットに一個ずつ並べて、冷やす。はじめベタベタしていたイモが、冷やされると水分も抜けて、固い皮膜がイモの表面にできる。これで出来上がりだ。揚げ方がきついと、表面がかなり黒っぽくなってしまう。味はどうか?これはなかなか止められない味だ。ポテトチップスに似て、もう一個、もう一個と食べたくなるタイプの食物なのだ。

どこかの食品工場で作られ、従業員が間違って床に落としても素知らぬ顔で、再び拾い上げてベルトコンベヤーに乗せる昨今の加工食品と違い、これは正真正銘の自家製の食い物だ!

2002年9月初稿

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

 
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