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納豆を作る

できたての納豆

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納豆のすばらしさは、いくら強調してもし過ぎることはない。この食品は、納豆菌という稲ワラの中に暮らしていた細菌が、大豆にとりついて、その蛋白質(卵白質)を分解してくれることに気づいたために生まれた。

蛋白質の分解だけではない。その他数多くの有用な副産物を生み出し、獣肉よりも総合的な栄養で勝る完全食品といえるものになった。

問題はそのネバネバだろう。特に西日本のひとに、この腐った物に特有の糸を引く点と強烈な匂いが我慢できないという感想が多い。10年ほど前まで西日本のスーパーで納豆を見つけることは難しかった。

今では糸を引かない納豆や匂いのしない納豆が開発されているが、もちろん本来の食物を大切にする人にとっては、これらは問題外である。

さて、納豆菌が元気に生育するためには添加物や保存料があっては困る。納豆はその点、スーパーで売っている食品の中ではまれな存在である。さらに考えてみると、自分で作ってみても添加物の点では何らメリットがないということになる。しかも納豆製品の安さには定評がある。

納豆素従ってそれでもあえて納豆を作ろうというひとは、その手間や費用を考えても、失敗の確率の高さを考えても、よっぽどの物好きといえる。本当に「自作」の好きな人なのだ。

まず納豆菌が手に入らない。一体都会暮らしのひとで、稲ワラがすぐ入手できるひとがどこにいるか。仮に手に入ったとしても農薬漬けの栽培方法であるから、そこに納豆菌が付着している可能性は薄いのだ。

空中に浮遊する納豆菌がとりついてくれるのを待つ方法もある(かつて椎茸はそのようにしていたという)。しかし農家の庭先ならともかく、都会の汚れた空気の中では無理だろう。

日本には、納豆学会によると納豆菌を純粋培養しているところが3カ所ある。その中の一つ、高橋菌を求めてみた。3グラム入りで750円である。覚醒剤のように高そうだが、実はこれで納豆が30キロ作れる。菌は乾燥粉末になっていて、寝ている(休眠状態)。高温蒸気にさらすと目覚めるのだ。

さて、大豆を選ばなければならない。スーパーや八百屋さんで売っている、「北海道十勝産丸大豆」というのが最も一般的に出回っているようだ。豆のまま食べるのだから、せめてこれくらいは国産を目指したい。アメリカ産は、サラダ油を絞るのが主目的に作られているからやめた方がいいだろう。

水に浸けた大豆300グラムを水に浸け、一昼夜おく。水がすっかり吸われてなくなってしまうほどの吸水力なので、たっぷりの水に(3倍以上)に浸けておかねばならない。

300グラムというのは、スーパーで売っている一回分の納豆が50グラムなので1週間分をめざしたのと、私のもっている保温器には入るぎりぎりの量だからだ。実際には水を吸っているのでもっと重くなっている。

このあと豆を煮るのだが、鍋に入れて柔らかくなるまでグツグツ煮ることは、時間と燃料代がもったいないだけでなく、煮汁に栄養分が出てしまうので、大きな損失である。

圧力釜ここで絶対に必要なのは、圧力鍋である。沸騰させてから15分弱で済んでしまう。それから煮るのではなく蒸すのである。中国料理にあるように、この蒸すという料理方法は栄養分も風味もみんな保ってくれる素晴らしい方法だ。

圧力鍋のそこに3センチぐらい水を入れ、市販の金属製でかごのようになった蒸し器を鍋の中に入れてその中に豆を入れる。蒸し器がなければ、深皿で代用できるかもしれない。

沸騰してから約15分後、まだあつあつだが、すっかり柔らかくなった大豆からはモウモウと湯気が上がっている。納豆菌の粉末は、みみかきに半分ぐらいを30ccほどの冷水に溶いて用意しておく。

圧力鍋に入ったままの大豆の上に、これを手早く振りかけ、まんべんなく行き渡るようにする。ただし豆はとろとろになっているから、下手に力を入れてかき混ぜるとつぶれてしまうので注意を要する。

大豆をセットまだ80度以上はある豆にかけたら、納豆菌がやけどを負って死んでしまうのではないかと心配するが、さにあらず。彼らはこうして熱ショックを与えてやらないと休眠状態から覚めないのだ。遠慮なく納豆菌を高温にさらしてよい。

まだ冷めないうちにさっそく保温器に入れる。保温方法は、スチロールの箱にお湯を入れてそこに入れる方法もあるが、なんと言ってもヨーグルト製造器が最も簡単だし、量的にもちょうどよい。

ただ、温度的に少々低いのではないかと思う。夏の間は問題ないが、冬の間は、しっかりと毛布かタオルでくるんで、家の中の一日中最も暖かいところにおいておいた。

ところでヨーグルト製造器の容器は、ねじふたになっていて、最初はそのふたをきっちり閉めて保温をした。ところがそうすると納豆菌の繁殖があまりはかばかしくない。乳酸菌と違って、納豆菌の繁殖には、酸素が多量にいるらしいのだ。

ヨーグルト保温器ふたを取り、代わりにラップをかぶせ、輪ゴムをかけて、楊子で穴を10カ所ぐらい開けて再びやってみると、見よ、豆の表面が真っ白になって立派な納豆ができあがっている。

所要時間は最低24時間と見ておこう。それ以上置いていても分解が進むだけで特に問題ない。豆が納豆菌にしっかり覆われている限り、ほかの菌が入り込む余地はないようで、納豆は結構長持ちする保存食品だともいえる。

また、繁殖に多量の空気が必要なだけでなく、多量の水も作り出す。ぐちゃぐちゃになるほどではないがラップの裏側にたまった水滴は適宜取ってやった方がいいだろう。また冬季には温度が不足しがちなので、40度を保てるように、タオルケットなどをかけてやる。

十分に納豆が繁殖したと思ったら保温器から出し、自然にさましてから冷蔵庫に入れておく。冷蔵庫の中でもゆっくり分解が進むだろうが、10日ぐらいのうちに食べきってしまえばまったく問題ない。むしろすぐに食べないで2,3日置いた方が味が落ち着くようだ。

白い膜の張った納豆できあがった納豆を試食してみると、納豆菌の匂いは強烈で、市販品の大部分とは比較にならないほどだ。同時に大豆のふくよかな香りや風味もしっかり生きている。納豆の美味さと豆の美味さが同時に楽しめる。問題なくこれは「高級納豆」である。

今後の問題点としては、ヨーグルト容器が縦長の円筒形で、一番上の層の豆には、びっしり白い納豆菌がこびりつくが、3粒ほど下の層は、納豆特有の粘りと糸はできるものの、白く覆われないことである。やはり下の層では空気が不足し、納豆の繁殖が盛んになれないためらしい。

従って改善策として、円筒形の容器の中に、ちょっとした「カイコ棚」のようなものを作り、できるだけ豆が空気に触れる表面積を増やすことを考えた。

丸形簀の子円筒の直径よりも小さめの薄い円盤を6枚ほど用意して、豆と円盤を互い違いに重ねていくというのはどうだろう。円盤はやはり空気の通りがよいように何個か空気穴を開けておくのだ。このため、浅草の有名なカッパ橋道具街へ出かけて、適当なものがないか探し回った。さすが道具の街である。

何軒か見て歩くうち、そばをふかすのに使う蒸籠(せいろ)の簀の子(すのこ)下敷きを見つけた。これにもいろいろな直径があるもので、ヨーグルト容器にぴったりのものはなかったのだが、少し大きめのものを買い求め(5枚1セット)うちに帰ってから適当な長さに切りそろえた。無理に押し込むと、「しわ」がよるから、そこに空気が通るのではないかと思ってわざと少し大きめにしておいた。

左上の写真だが、これをヨーグルト容器の中で納豆と交互に積み上げていく。結果は満足すべきものであった。思った通り、一番下でもちゃんと納豆の表面が白く覆われていたのである!だが、何回も作るうち、必ずしも下層までうまくいかないことが多いことが判明した。つまり仕上がりにムラがあるのである。最近は、ある程度上層が白く覆われたら、別の容器に移し、すぐには冷蔵庫に入れないで、常温でしばらく放置しておくことにしている。直ちに冷蔵庫に入れると納豆金が元気を急になくすのだ。

どうもヨーグルト製造器に代わる、納豆専門の製造器を考案しなければなるまい。市販のものもあるようだが、自分の経験を生かしていつの日かきっと完成させるぞ!

2003年5月初稿2004年1月追加

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

 
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