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天ぷらかフライか?

天ぷら鍋

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食品を油で揚げることの利点は、短時間に高温で料理できるので、栄養、香りが失われることが少ないこと。衣をつけることによって、おいしい肉汁や野菜などの水分が失われずに済むことだ。(衣をつけないいわゆる「素揚げ」では、この点が問題だ)

水を沸騰させても100度。圧力釜の蒸気でも、それをやや上回る程度でしかない。これに対し油の温度は170度から180度にもなる。はじめのうちは経験や勘に頼れないので、しっかりと温度計で測ることが望ましい。

ところで西洋の発明によるフライと、日本人の発明による天ぷらではどちらがいいか?フライは衣にパン粉をつけるわけだから、パンを食生活に取り入れているからこそ発生した。他の食文化圏では別の衣も存在するかもしれない。

これに対し日本では小麦粉(薄力粉)を水で溶いてこれを衣にすることを考え出した。パンがないのだからでんぷん質としては、これが一番適している。パン粉と違いどろりとした液体なので、外形がどんなものでも簡単に衣がつく。

豚肉といえば、誰でもトンカツ、つまりフライを思い浮かべるだろうが、豚肉の天ぷらも存在する。これはコショウを混ぜた塩をつけて食べたが、実に美味であった。肉汁が外に漏れ出さず、肉が良質であればそのうまさがとっくりと味わえるのである。

トンカツの場合だと、濃厚なソースが主役となるが、天ぷらの場合はむしろ質素な味付け、単なる塩味ぐらいの方がよい。つまり素材の持つ味を引き出すのであれば、やはり天ぷらだろう。もっとも牡蠣フライに対して牡蠣天ぷらはどうもイメージがわかないのはなぜだろう。

さらに油の摂取量が気になる人はフライの場合だと、パン粉の間にたっぷり油がしみ込んでいるのに対し、名人芸の天ぷらでは実に衣が薄い。もっともこんな薄い衣は、一般家庭では無理だろうが。

さて、どちらの衣をつけるにしてもまず乾いた小麦粉をまぶす。これはなぜだろう。一つには素材からよけいな水分を粉に吸い取らせることがあろう。もう一つは実際やってみるとわかるが衣のつきが違う。フライの場合だと卵を溶いたものの中に素材を入れるが、そのときには粉をまぶした方が断然卵のつきがよい。

野菜天ぷら天ぷらの場合は水で溶いた小麦粉の場合は衣のつきにあまり差がないが、素材の水分が外へ漏れ出すことを防止しているようだ。油で揚げるときは水分があると飛び跳ねてやけどの原因になるから、粉で十分よけいな水分を吸収しておくことが肝要だ。

さて、天ぷらをやるとなると、単に小麦粉を水で溶くだけで十分だが、その中にふくらし粉をほんの少量混ぜる人もいる。これによって泡が出てふっくらする(らしい)。またフライのように前もって卵を溶いた液に浸す場合もあるが、これは野菜などの場合はいかなるものか。不要だと思うのだが。

水で溶いた場合、その温度は低ければ低いほどいいという。何しろ天ぷらでの一番の難題は、いかにカラッと揚げるかだからだ。まだ揚げたてなのにジトジトしているのは実に気分が悪い。それでなくても時間がたって温度が下がれば、まるでスポンジのようになってしまうところは、フライにかなわない。

油は何がいいか。普通はやはりいわゆる天ぷら油・サラダ油ということになろう。だが、西洋野菜を揚げる場合はオリーブ油を試みてみるとよい。また日本野菜の場合は、ゴマ油を試みよう。ごま油の香りの良さはその値段の高さにも関わらず病みつきになる。

せめて揚げたてをカリッとさせるには、温度をできる限り上げることだ。つまり180度ぎりぎりまで(煙の出る一歩手前)。この温度になるとぼやぼやしているとたちまち黒く焦げてしまう。特にエノキのような野菜の場合はすぐに炭になる。また揚げている最中にこぼれた天カスもたちまち真っ黒になって油を汚す。

本当は料理店のように、170度と180度の二つの油槽を用意し、まず170度で揚げたあと、180度の中で二度揚げをすると実にカラッと揚がる。それができないのなら「高温で素早く」を実行する必要がある。

そしてこの天ぷらを酒の肴にするつもりなら、もう揚げているときから酒は飲み始めているべきだ。つまり揚げたてで舌をやけどしそうな温度が天ぷらの一番旨いときである。何?酔ってしまっては危ないって?危険を冒さなければ美味は味わえません。

ししとう初心者が天ぷらを揚げるのに一番適しているのは、表面の堅い野菜だろう。ピーマン、シシトウ、甘唐辛子、オクラ、ナスなどである。これらは180度近くで揚げればまたたくまに煮えるから、待たずに油から引き上げることができる。すぐに油を切って(できるだけ衣に油を残さない)

クッキング・ペーパーの上に置いて余分な油を吸収させる。いずれも生の時には考えられないような甘みを帯び、ビールをはじめとしていかなる酒類にも合う。特にピーマンなど、煮たり痛めたりしたときのあのヘナヘナの状態と比較するとパリッとしている。ピーマン嫌いのガキが多いと聞くが、これを食べさせたら病みつきになる(酒飲みにもなる)だろう。

次に根菜類を試みる。サツマイモをはじめとして、芋類やニンジンなどは厚みがあるから中心まで火が通るまでの見極めが難しい。最初は薄く透けて見えるぐらいに切りパリパリの舌触りを楽しむのもよいだろう。次にスティック状に切り市販のスナック菓子のような雰囲気を味わうのもおもしろい。

魚の場合はなんと言っても小魚である。いわゆる「雑魚」と呼ばれるものが適している。魚には皮があり、切り身でないから外に肉汁がもともと流出しにくい。いわゆるフリッターである。オリーブ油が適している。イタリアのベニスのレストランで出たその味は最高であった。いわゆる「全体食」なので栄養のバランスが最高によい。

日本ならもちろんハゼがその王者となろう。他にイカの天ぷらが考えられるが、他の料理でもわかるとおりこれは温度を加えすぎると味が落ちる。天ぷらの高温を生かしてさっと揚げ、さっと引き上げる。衣をはがして湯気が立つぐらいがいいのである。カチカチになったらおしまいだ。

変わり種としてはそばがきの天ぷら。アイスクリームさえ天ぷらになるというのだから、誰も驚かないが、もともと粉っぽくて脂気の少ないものは天ぷらに向く。オオバの天ぷらもおもしろい。葉っぱの持つ香りや舌触りを生かすために、天ぷら液は片側だけにつけてそれを下にして揚げる、と言うよりは油の上に浮かべる。

いよいよ肉の天ぷら。だがこれが一番難しいだろう。火の通し方によって中にふくまれる肉汁が生きるか死ぬか。油の中に溶け出してしまったら失敗だ。これもやはり最初は薄切りから出発するべきだろう。また野菜と違ってはじめから高温にしない方がいいかもしれない。むしろじっくりと熱を加える方がよいだろう。

鶏肉の場合など、フライドチキンを作るならまず酒と醤油とショウガで一晩つけてから、天ぷら液ではなく片栗粉をまぶした方がよい。豆腐もそうだ。揚がったときに、表面にカリカリの膜ができあがるので、これはとても舌触りがいいのである。

2003年9月初稿

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

 
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