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ヨーグルトはすぐ作れる

自家製ヨーグルト

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発酵食品への挑戦

大昔の人々が、酒、味噌、納豆、チーズの製法を発見したおかげで、私たちの食生活は大変多様になった。細菌類のおかげで、原料本来の味が深みを増したり、保存が良くなったり、消化が良くなったのだから。

ヨーグルトもその一つだ。牛乳は主として牛の乳だから、人間の胃袋にはぴったり適合するわけではない。牧畜を営んでいなかった日本人には、牛乳の成分を消化する酵素が欠けていて、飲むと必ず下痢する人もいる。私もその一人だ(ただし、早朝に飲んだときのみ)。

「よい子は一日一本の牛乳を!」とよく言われ、学校の給食では中心的存在だったが、ヨーグルトのほうがはるかによい。牛乳は確かに完全食品だが、消化に問題があるからだ。消化できなければまったく無駄になる。また、日本人は乳製品の消化はこれまであまり食べてこなかっただけに、あまり効率的でない。

ところが乳酸菌という至る所にいるこの細菌の助けで、一晩のうちにすっかり消化吸収しやすい完全食品に変わってしまうのだ。しかも中に含まれる乳酸のおかげで酸性が保たれて雑菌の増加を防いでもくれる。

市販されているヨーグルトは牛乳の約2倍の価格である。それはいいとしても、なぜあれほど酸味が少ないのか?自分で作ってみてこの差には驚かされる。

最近果物、特にかんきつ類やイチゴ類の酸味の低下が気になる。どれを食べても酸味が少ないからフニャフニャした食感でちっとも美味しくない。「キリッ」としないのである。

これは酸っぱい味の嫌いな消費者に合わせた品種改良や栽培の仕方をしているせいだろう。「舌のしびれる」ような酸っぱさはいまでは好まれなくなっている。そういう人々が多数派になれば、食品の味も変わってゆくのだろう。

だから、ヨーグルトを製造した後、各メーカーは何か薬剤を入れて酸性度を中和しているに違いない。乳酸菌はその名の通り、「酸」を出すから酸っぱいのである。たとえば重曹とか・・・。変なクスリでなければいいが。

ヨーグルト製造器(東芝)
東芝 TYM シリーズ外部リンク

というわけで、ヨーグルトの自作に取りかかろう。問題は6時間ぐらい、乳酸菌の繁殖に適した温度を維持することだ。室温が摂氏4度ぐらいだと、温度低下が心配だから毛布とかマフラーなどの保温するものをかけてやるべきだ。逆に夏は高温によって反応が進みぎることがあるので、6時間よりやや短めにして、そのあとすぐ冷水にしばらくつけるほうが安心だ。

人肌ぐらいの温度だから夏なら魔法瓶でも十分だろう。季節によって注意は必要だ。ただ、たいていの魔法瓶は口が狭いから、せっかくできても中身を取り出したり、洗浄したりするのが大変だ。幸いなことに、市販の「ヨーグルトメーカー」というものがある。これは実に簡単な原理で、ただ、電気で一晩中一定した温度に保ってくれるだけのもの。

まず最初に、魔法瓶で作って成功し、市販でないヨーグルトを毎日食べたい人はぜひ購入すると良い。これはパンの発酵や納豆づくりにも応用がききそうだ。

さて、ヨーグルトの「タネ」はどうするか?何のことはない、ただ市販のさまざまな種類のヨーグルトの中から、自分の気に入った味のヨーグルトを買ってくるだけ。よりよい味を求めていろいろな「タネ」をブレンドしてみたらどうだろう。乳酸菌同士が喧嘩をするかもしれないが。海外旅行に出かけて、デンマークのような畜産国で帰り際にちょっぴりいただいてくるという手もある。

牛乳は電子レンジかなんかでまず30度ぐらいに暖めておく。その後「タネ」を大さじ2,3杯入れてよくかき混ぜる。これでおしまい。後は温度をそのまま一定に保てばよいのだ。夜寝る前に仕込んでおけば朝食に間に合う(ただしなまぬるい)。

その後継続的に作るなら、市販の「タネ」は2度といらない。なぜなら、作るたびに少し残して次に作るとき「続投」させればいいからだ。それに不思議なことに代を重ねるごとに、次第になめらかで、味が良くなってくる。

雑菌の繁殖を防止するため、容器は常に清潔にしておく必要がある。取り出すのに使うスプーンも乾いていて、一回限りにする。ただし先に述べたようにヨーグルトそのものの酸性がかなり強いので、それほど神経質になることはない。

味噌にもヨーグルトにも共通する雑菌防止の大切なおきてがある。それは「池を作るな!」ということだ。スプーンなどで外に取り出すと、その跡にくぼみができる。それを放っておくと一昼夜たって水がたまる。これは金が入っているのだが、液体であるために雑菌の恰好の攻撃の的だ。くれぐれもくぼみができないように、すぐさま平らにならしておくことが大切だ。

5,6年前、日本で「ケフィア」という変なキノコのようなものが流行したことがある。何でもロシア、それもカスピ海地方からやってきたらしいが、これに牛乳を注いで常温で一晩おくと、やはりヨーグルトができあがってしまう。その温度にもよるが、その酸っぱさは歯が溶けるのではないかと思われるほどだった。あれなら雑菌は即死だろう。残念ながら、この興味深いケフィアを私は冷凍庫に入れて死なせてしまった。

だが、誰かが日本に持ち帰った、今度は、「カスピ海ヨーグルト」という名の新しい菌株が、急速に普及しているという。料理法の紹介だけでなく、株も分けてくれるそうだ。(STEIN外部リンク)こちらはなんと常温か、30度ぐらいまでで、発酵するのである。これまでの普通の菌のように電気やお湯で暖めておく必要がない。常温で発酵するとはなんと元気のいい菌だろう!!

幸いにして入手できたので、さっそく家の風呂用温水器の上に置いて(冬季だったので)、試食してみた。実に濃厚でマッタリした舌触りだ。しかもできあがってから冷蔵庫に入れておけば1週間ぐらいは余り変化しない。今まで通り、ジャムやカルピスともよく合う。おかげで、上の写真に写っている「ヨーグルト製造器」とはお別れだ(ただし、将来イースト菌の発酵に使うこともあろう)。

市販のヨーグルトに含まれている乳酸菌はそれほど威勢は良くないようだが、自分で作ってみるとはるかに酸っぱいことがわかる。だからできあがったあと、うっかり冷蔵庫に入れるのを忘れても、普通の牛乳と違って、日中おいてても酸敗することはない(あまり積極的な実験はしない方がいいだろうが)。これに対して地中海ヨーグルトは常温においておくとどんどん変化するから、冷蔵庫のない時代には、作ったらさっそく食べていたのだろう。

原料の牛乳は、普通乳脂肪分を3・6パーセント含むものが最も多く売られている。だが一説によるこんな濃度の脂肪分を出すためには、牛に濃厚な飼料を四六時中食べさせなければならないそうだ。脂肪分が薄いと、市場に出すときランクが落ちているとしてはねられる。だから飼料代がかさむし、粗食でないから牛の体にいいわけがない。

これも消費者が脂肪分が多いほうが「美味しい」と感じるからだそうだ。そのくせ太りすぎでダイエットなんぞしている。しかもクリームやチーズをばくばく食べる。今の現代人のような運動不足の状態では「脱脂粉乳」がいちばんなのだ。せめて低脂肪乳にしたい。

日本のような高温多湿な気候のもとでは、乳牛の出す脂肪分をもっと減らしてやったほうが無理ない飼育ができるだろう。そして人間の動脈硬化も減るだろう。そして我がヨーグルトも「低脂肪牛乳」で作ってみた。この脂肪分は1パーセント台、あるいはそれ以下だ。

低脂肪の牛乳で作ると、はじめはしっかり固まらず、サラサラ、しゃぶしゃぶのヨーグルトができてしまう。もちろんタンパク質成分は同じだから、「飲むヨーグルト」と決めて愛用しても良い。私が作ったところによれば、最初は水っぽかったのに、次第に3代、4代と代を重ねて行くうち、固めのものができるようになってきたが、ネットリ感を期待する向きには物足りない。

低脂肪のヨーグルトはうまくない、という人があろう。そういう人には、発酵を始める前に、砂糖を追加することを勧める。市販のヨーグルトによく付いてくる「粉糖」が溶けやすくて良い。これによって、できあがったものは「甘酸っぱさ」が主体となり、とても食べやすくなる。

そもそも乳酸菌のエサとは乳糖のような「糖」なのであって、タンパク質をアミノ酸に分解するわけではない(それは納豆菌などだ)。だから前もって砂糖を加えることで発酵が盛んになることも考えられる。

最近は、「低温殺菌牛乳( pasteurized milk )」に切り替えた。脂肪分の多い少ないより、製造過程におけるタンパク質「変性」の方が気になったからだ。日本のほとんどの牛乳製造者は、大量生産の原理に基づき、130度2秒間の殺菌方法を実践している。

だが、100度を超えれば、タンパク質の性質がもととは変わってしまうわけで、むしろ「焦げ付き」さえ考えられる。だが、「安く」「大量に」が経済の原則だから、そんなことにかまっちゃいられないらしい。子牛が飲むとき母牛の体温の乳を飲むわけだから、異常な高温にさらすことが何らかの悪影響を与えるだろうことは素人にでも推測できる。

昔、フランスのパスツール先生は、狂犬病の研究の方がはるかに有名だが、63度30分で殺菌ができることも発見した。だから(低温)殺菌のことを英語で pasteurization といい、ワイン・ビールでは57℃、数分間。ミルクは63℃、30分。flash heating 法では、71℃、15秒、なんだそうだ。

63度30分なら、殺菌はできても大量生産は無理だ。1リットル牛乳の小売店での売値は、高温殺菌に比べて約50円も高い。だがタンパク質変性のおかげで味は落ち、栄養価も落ちているとすれば、長い目で見れば低温殺菌の方がむしろお得ではないか。安くても品質が悪くて、ウンコになって出るだけだったら肥やしにするしかない(実際には下水に垂れ流し)。どちらも高脂肪だから、値段が高いなら、がぶ飲みするのをやめるので、脂肪の取りすぎを抑えることにもなる。

ただ、問題は普通の高温殺菌に比べて時間がかかり気味であることと、気温によって品質が一定せず、管理が難しい。この理由は勝手な推測に過ぎないが、低温であるためにほかの乳酸菌が牛乳の中に生きていて、”タネ”がそれらと競合するためではないかと疑っている。確実なことはわからない。

前置きが長くなったが、この「低温殺菌」牛乳で作るヨーグルトは、そのなめらかさが驚くほどよい。ちょっと信じられないほどだ。信じられない人は、実際に作って見よ。暖かいところに放置して、酸っぱすぎることにならないように注意すれば、この味は最高である。ただ、いかんせん高価格なので、1週間に1リットル一本を消費する程度にしている。

試作した低脂肪ヨーグルト発酵後、ふたを開けてみるとできあがったヨーグルトの上に薄黄色の液体が上澄みのように浮かんでいる。これを気持ち悪いと言って捨てる人がいるがとんでもない。これは「乳清」と言ってタンパク質の宝庫だ。そのまま飲んでしまうか、固まった部分とよく混ぜてしまえばよい。

なお、腸の余り丈夫でない人に警告。できたばかりのヨーグルトでは乳酸菌の威勢が良すぎて、特に上澄みがたくさん浮いているときは、胃腸をいたく刺激するらしく、「下剤」がわりになるほどだ。冷蔵庫に入れてしばらく置き、菌を落ち着かせると大丈夫(3時間ぐらい)。

市販のヨーグルトは買ってからいつまでも味が変わらない。これは変ではないか。というのも自作ヨーグルトでは毎日少しずつ味が変化しているのだ。生き物が入っている限り、酸っぱくなったり、いろいろ状態が変わってもいいはずではないか。それなのに市販品は、品質が一定している。これがニセモノ臭い。

これを「清潔だ」「品質管理が行き届いている」と感じる人も多いだろう。「便利だ」と思う人すらいる。だが自然に存在する食品が”不変”というのはどう考えても不自然だ。腐ったり変質したりするのが当たり前。そうでないときは「保存料」が入っているのを疑うべきだ。たとえラベルに「保存料は使っておりません」と明記してあっても。

昔20年以上も前、町で売られている豆腐は今より大変長持ちした。ちっとも腐らないのである。そのわけは・・・今は禁止されている、強烈な発ガン物質の「AF2」が保存料として入っていたのだ。われわれは歴史から学ぶべきである。そのうち法律ができて、AF2 は使われなくなったが、製造者も薬品メーカーも食品行政も、それが社会全体にどんな影響を与えたかについてはいっさい口を閉ざしている。(それが現実なのだ。この世に責任逃れをしない人はほとんどいない。)

乳酸菌は生き物だ。変な薬剤や保存料や残留農薬を入れたら死んでしまう。その点で、添加物の心配がほかの食品に比べて少ないのがいい。しかも胃や腸の中に入って、悪い細菌をやっつけてくれもする。こんなに手軽な製法なら毎日食べ続けられるだろう。また「自作」の食品を自分のメニューに新たに加えよう。

ヨーグルトと相性のいいのはジャムである。もともとすっぱいだけに果物とはすんなりいっしょになるが、保存料として加えた砂糖の甘さが、ますます受け入れやすくさせているようだ。「ストロベリー」「ブルーベリー」「カシス」「オレンジマーマレート」といった定番のほかに、桃、梨などの変り種を楽しむのもよい。また、カルピス系も悪くない。殺菌してはあるが、もともと”乳酸菌”によるものだから。

2000年3月初稿・2011年7月追加

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

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