Cooking!

秋刀魚寿司

秋刀魚寿司

HOME >体験編 > 料理! > 秋刀魚寿司

 

秋になると、秋刀魚が出回る。だが、一時大量に取れるので、はじめのうちは安いから大いに食べるが、塩焼きばかりだとやがて飽きてしまう。一方漁船では、どんどん缶詰に加工してそれこそ一年中食べることができるのである。

栄養の点といい、獣肉のように血液を汚さない点といい、秋刀魚は満点だが、料理法が今ひとつ工夫がなされていない。特に新鮮な秋刀魚が手に入る時期には何か魅力的な食べ方はないものだろうか。

そこで思いついたのが、寿司である。ただし江戸前ではない。江戸前の寿司は、ご飯にあらかじめ酢を入れてしまってあたかも発酵が済んでしまったかのように見せかける、江戸時代に発明された「国産ファスト・フード」である。

本当の寿司は、じっくり時間をかけて発酵させなければいけない。そこで漬け物に普段利用している「さごはち」を使ってみることにした。これは塩と麹と米を3:5:8の割合で混ぜてあるもので、一夜漬けには最高だし、白身系の焼き魚をするときは前の晩からつけておくと実に美味である。

琵琶湖のあたりでは「鮒寿司」が有名だ。これは大変な臭いがするそうだが、発酵が進んでいるおかげで防腐作用が抜群で高温多湿の風土に住む日本人の発明した保存食品の代表格である。

まず新鮮な秋刀魚を買ってきた。これを三枚おろしにする。骨と内臓は直ちに魚焼き器に入れて少しカリカリになるぐらいに焼いて酒の肴にしてしまう。さておろした身だが、まずは皮をはぐ。頭の方からしっぽの方へはぐ、ただし脂がのっているやつはかなり皮にそれがくっついてくる。誰でもそれを捨てることだろうが、これを魚焼き器に入れてみよう。脂がしみこんだ皮は、ちょうどヤキトリの「トリカワ」と同じくすこぶる美味である。

秋刀魚寿司平べったいプラスチック容器に、ちょうど弁当のご飯のように、浅く敷き詰める。なるべく空間を作らないようにする。それはそこに雑菌が入って繁殖しないようにするためだ。おにぎりと同じ発想である。その上に、さごはちを極少量ただし表面にまんべんなく振りかける。これは発酵を開始させるためだけなのだから、ご飯と秋刀魚のみとの間にあればよいのだ。

おろした秋刀魚の身は普通の寿司にのせるぐらいの大きさに切っておいた方があとで食べやすい。もちろんこのまま刺身にして食べてしまってもいいのだが、そこをぐっとこらえて、ご飯の上に敷き詰める。この場合、身とご飯の間に隙間ができるだけできないようにする。

このためには、ラップを上からかぶせ、何か平たいもので押しつけるとよい。こうするとご飯も締まり、秋刀魚の身もさごはちをはさんでご飯に密着する。表面に雑菌がつくことがないように、上からほんのわずか塩を振りかけておく。そして再びラップをかぶせてからふたをする。

さて保存温度だが、秋刀魚の最盛期である9月から10月にかけてはまだまだ気温、特に日中の気温は高いので、常温にさらすのは心配だ。とは言っても冷蔵庫の温度は3度ぐらいだからそれでは低すぎる。いちばん適当なのは最近の冷蔵庫についている野菜室だ。ここなら7度ぐらいである。

こうして最低24時間は置きたい。発酵がきちんと進めば1週間でももつとはおもうが、まずは一日たったものを食べてみよう。まんが「美味しんぼ」に、活け作りの刺身と、ふつうの刺身とどちらが美味しいかを考察する記事があった。また獣肉の場合、屠殺してすぐ食べるより1週間ぐらいおいて腐りかける直前がいちばんうまいという話を聞いたことがある。

それらはすべて、「タンパク質の分解したあとのアミノ酸」がうまみを増すからだ。味の素のように単純なアミノ酸の結晶を振りかけるのではなく、さまざまなタイプのアミノ酸が生まれ、それらがほかの得体の知れない「不純物」と混じり、よほど舌が敏感でないとわからないような壮大な味の交響楽が演奏される。

わずかに醤油をかけて秋刀魚寿司を味わってみよう。そこには焼いた秋刀魚や新鮮な秋刀魚の刺身にはまったく感じられなかった奥深いうまみがぎっしりと詰まっていることに気付くだろう。旬(しゅん)だけに味わえる贅沢である。

2006年9月初稿

HOME >体験編 > 料理! > 秋刀魚寿司

© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

 
inserted by FC2 system