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歯磨き

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昼ごはんのときに使った茶碗をそのまま洗わずに夕食に使う人はいるだろうか?そんなに多くはいないだろうと思う。だが、自分の口の中を考えてみる人は少ない。料理のはなしをするならば、歯の健康のことを忘れるわけにはいかない。

入れ歯になれば、硬いものをかむことができなくなる。大多数の日本人は肉などを「やわらかいね」ということが”ほめ言葉”と思い込んでいるようだが、とんでもないことで、硬いものを噛まない食生活なんぞ、”生物としての人間”を放棄したのも同然である。料理を云々する前にまずやるべきことは、スルメを楽々と食いちぎる頑丈な歯を持つことである。

そのためには歯茎(はぐき)の健康を守ること。もちろん虫歯も困るが、それ以上に困るのは歯槽膿漏に代表されるように、歯を支えている付け根の健康である。ここが腫れていたり、雑菌の巣になっているようであれば、早晩歯抜けになってしまう。

料理の話をする前に、歯を鍛えようではないか。「8020運動」というのがある。つまり、80歳になるときには自分の歯を少なくとも20本は残しておきましょうというのだ。これはやさしいようでなかなかむずかしい。

というのも歯科技術の発達により、簡単に入れ歯が作られるようになったからだ。サプリメント崇拝でわかるように、人々は本物であれ、ニセモノであれ、安易に医療技術に頼ろうとする。だが、すでになくなった歯についてはどうしようもないが、今残っている歯をできるだけ長くもたせたほうが、生命力全般を考えた健康を維持するうえでもプラスになる。

歯ブラシ先端部日本社会の生活が豊かになって以来、食物がどんどん甘く、やわらかくなっているのは周知のとおりだ。子供たちは舌先でつぶれてしまうようなほど歯ごたえのないハンバーガーをほおばっている。とてもおいしいらしい。中に固いスジでも入っていたら、食中毒でも起きたのごとく大騒ぎだ。自動販売機の清涼飲料水は、煮詰めれば大匙の砂糖が取れてしまうほど甘味がつけてある。

すべて消費者の欲求に製造業者がおもねっているためなのだが、消費者自身が少しも賢くならないから、いつまでたってもこの傾向はおさまらない。ようやく行政が重い腰を上げて”食育”とやらをはじめたが、消費者自身が、無農薬野菜など、自分のまわりを取り巻く自然への回帰を志向していながら、自分の体の中の”自然”にまるで無関心なのが問題なのだ。

自分の祖先が100万年以上にわたってどういう生活をしてきたか。草の根をかじり、酸っぱい実を集め、十分な運動をし、エネルギーの収入と支出をかろうじてバランスをとってきたということをきちんと認識していなければ、安楽の中に流されてしまう。

残念ながら、硬いものを力を入れて時間をかけて噛むということはこの安楽の流れに反することなのだ。やわらかいものを食べると、歯間にカスが残りやすくなり、あごの筋肉は緩み、歯茎はぐらついてゆく。これらは体全体の調子、たとえば免疫機構に対する刺激が減少するような影響を与え、生命力全体の衰弱につながってゆく。

現代人はここで気を取り直し、人体は、原始時代のときと同じパワーを取り戻すために、内側からも自然を取り戻していかなければならないのだ。その手始めは歯を鍛えることだ。フニャフニャのゆですぎた野菜は敬遠し、野草やそれに近い、スジ(繊維)の多い植物を取るように心がける。家畜よりも野生動物の肉を食べる機会を増やす。酒の肴はスルメに。

そして歯茎を常に刺激して血行をよくし、清潔に保つことだ。幸い歯科技術の進歩は、入れ歯やインプラントの方面のみならず、日常の歯の手入れ方法の面にも及んでいるのだ。ただ人々はそんなことにはあまり関心がないようだ。すぐれた歯科医とは、歯型がきちっとあう入れ歯を作ることができる人と思われている。歯の磨き方の指導は、わずか300円しかかからない。保険の点数でも軽く見られている。

ところがどうしてどうして、歯の磨き方こそ、歯の健康の中心なのだ。よく昔の映画で、歯ブラシ1本持って旅に出るなどという場面があり、何もかまわない人でも歯だけは気をつけているのだな、などと感心されたりするが、実は1本の歯ブラシではまるで役に立たないのだ。

部屋の掃除をするとき、モップ一本で床も窓ガラスも洗面台もみんなやってしまう人はいないだろう。ところが歯を磨くことに関しては人々はまるで無頓着なのだ。磨きの腰がたくさん出て、そこはいつまでも清掃されることがないから食べものかすが腐り、いやな臭気を発し、ついには歯茎の炎症が始まる。

このページの上にある写真のように、最低5本は必要なのだ。何でそんなに?と思うかもしれないが、歯とは虫眼鏡で見てわかるように、大穴あり、オーバーハングあり、垂直面あり、水平面あり、北アルプスあたりの岩山のように実に複雑な形状をしているのだ。それを一本の、それもでっかくて細長い歯ブラシ1本で磨けるだろうか?

木彫をやった人なら知っているように木を削るのにさまざまな形状の道具がいる。歯の場合だと表面をざっと磨くためのものが一本(これが普通の人の持っている1本のこと)、奥歯の裏側を磨くのに1本(4箇所もある)、そして年齢が進むほど増えてゆく歯と歯の間の隙間、つまり歯間を磨くためのブラシで、それも狭いところ用と、比較的幅の広いところ用の2本は必要だ。

そして昔の歯科医の技術では見逃されていた部分、つまり歯とそれにかぶさる歯茎との境界を磨くための歯ブラシが必要になる。これこそ最も今まで見逃されていた部分である。境界部分は歯と歯肉が密着しているわけではない。

自分のつめを見てみるがいい。つめを切りすぎると、つめと肉の境界が押し広げられ、無理な力が加わると裂けてしまう。そこにバイ菌が入って化膿した人もいるだろう。そうなると指先がシクシクと痛む。耐え難い痛みだ。

これと同じことが歯と歯肉の境界線にも言える。ここは常に清潔にして、ごみを取り除き、刺激を与えて血行をよくし、密着を保たなければならない。そのために歯ブラシの毛の先端は細くとんがって作られる。これで間にあるごみを吹き飛ばし同時に、弾力性でもってマッサージをするのだ。歯のこの部分の清掃は窓ガラスではなく、窓の桟(さん)をきれいにするのに似ている。

これは微細な隙間に入るように、先端が非常に細くなっており、曲がりやすいので1ヶ月ごとに交換しなければならない。これを歯の表面にたいして約45度の角度で軽く当てると、ブラシの先端が隙間に入り込む。

もちろん今までのブラッシングのように左右に毛を引きずってはいけない。そんなことをしたら境界線が裂けてしまう心配がある。弾力性のある毛の先端を隙間に突っ込み、こするのではなく、微振動をあたえるのだ。振動の弾みで残っていたべたべたしたカス(プラーク)を外にはじき出す。さらに振動を続けて歯肉をマッサージする。

ほかの部分については、毛先の丸いブラシで表面から、食べかすをかきとる。これは今までも多くの人々がやっていたとおりだ。ただ、横方向に強くこすると歯の表面が磨り減ってしまう。前歯の場合、縦にブラシを持ち、上の歯はかき上げるように、下の歯はかき下げるように磨く。

あとはきれいな水ですすげばよい。チューブ入り歯磨き剤はまったく不要。「水磨き」でまったく問題ない。「白くピカピカ」などという広告にだまされないように。歯磨きは、現代の広告業者が作り出した「まるで要らないもの」のチャンピオンだ。どこの誰がこんなものを作り出したのだろう(一説によると、女の腋毛をそる習慣と同じく、アメリカ人らしいが・・・)。ついでに言うと、歯磨きには研磨剤が含まれている。これを長年使うと歯はすっかり磨り減ってしまう。もっとも、コーヒーを飲んで茶色くなった歯には、たまに磨いて渋(しぶ)を落とすのもいいかもしれないが、とにかく歯磨き剤は毎日使うものではない。

歯磨きにはミントやら、さまざまな”さわやかな”香りのする成分が入っている。人々はそれが”よいもの”と錯覚するらしい。でもよく考えてみよう。それらが必要なほどあなたの口は”臭い”のか?臭くなければそんなものはいらないはず。便所の芳香剤を考えてみればいい。「臭いものにフタ」の発想ではなく、本当に清潔な状態を目指すなら、水で磨くのがよい。もし汚れた成分が歯の間に残っていれば、必ず臭うだろう。それでも水だけではどうしても不安な人、特に旅行中や激務で歯の手入れがしにくい人は、最後に「殺菌剤」を口に含みうがいをすればいいだろう。

しかしこれほどていねいにやっても半年ほどすると、食生活にもよるが、どうしても歯垢がたまってゆくのである。そのときは専門家、つまり歯科医のところへいって「クリーニングしてください」といえばよい。素人には気づかなかったカスがいっぱい歯の根元からぼろぼろ取れていく。歯垢をとるときの作業はどうも不快ではあるが、普段の食事が美味しく食べられるのなら、我慢する価値が大いにある。

2009年8月最新稿

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

 
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