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固い肉礼賛

ハマグリの網焼き

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テレビ番組などで、おいしそうな肉料理を出されて、ゲストが最初に発する感想はなんだろうか?ご存知の通り、「わあ、柔かい!」である。ほめ言葉として日本では肉が柔かいことがが最高?とされているようだ。肉の味そのものの評価はついで聞いたことがない。

しかし、ヨーロッパなどで出されるステーキなどは、決して柔かくない。むしろ馬鹿でかくて、ゴムぞうりに近いといったほうがいいくらいだ。しかも歯ごたえがある。スジだらけというのも困るが、普通の成人なら無理なく咬めるが、結構努力を要する固さである。そしてそういう肉に限って、香りがいい。香りは食事においては欠かすことのできない要素だ。甘い、辛い、などの味覚だけに頼ってしまうのでは、食物を総合的に味わうことにはならない。そのためには香りが手助けしなければならない。

最近の家畜用に簡素化したエサは栄養はたっぷりだが、ただひたすら太ること、そして早く成長して市場に出荷することしか考えていないから、できた肉の香りなどは完全に無視される。ところで日本で出回る高級肉のその柔かさだが、有名なビールによる飼育方法がある。そして自分の体ですでに実験済みの方も多いと思うが、できる限り運動しないで、筋肉がたくましく発達することを妨げることが肝要なのである。つまりつまんでみてプリンのような感触がある肉を目指すのだ。

ところで、このような筋肉形態では人も動物も健康であるはずがない。野生動物では、できるだけ早く走って獲物を追いかけたり、敵から逃げたりできる能力が生存にもかかわるのだから、当然スマートで贅肉がなく、効率的な筋肉組織を持っているのが理想的である。家畜は、その点をまったく無視して作られたから、仕方がないかもしれないが、それにしてもそれが極端にまでいくと、あるトンカツ屋の看板にあるように、「唇でも切れる柔かさ!」が実現するのである。

もっとも、高齢化社会では、歯なしの人が歯茎だけで咬めるトンカツの存在は朗報ではあるだろうが。実際の味覚は味や香りに加えて、歯ざわりも大切だ。肉は柔かければ柔かいほど味が落ち、固ければ固いほど味がよくなる傾向にある。また、骨に近いところほど、味わいが深まる傾向にある。

年老いた家畜の肉はこの上なく固いが、それはスジだらけだからだ。青年期にあり、毎日はげしい運動をしている健康な個体が最もうまいのだ。それでも人間のあごが持つ、噛み切る力にも限界がある。磨り減っても次から次へと補充されるサメのはとは違う。そこに登場するの圧力鍋だ。これがあれば怖いものなし。しかも燃料費が大幅に節約できる。40分かかるところが6分で済む。骨付き肉の調理には欠かせない。

これからは、サーロイン・ステーキや鳥のささみ肉などは、お座敷犬あたりにくれてやって、あばら骨についた肉を野生人のごとくかぶりつこうではないか。

2011年2月初稿

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

 
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