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酒を飲むなら

昔のビール

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  酒の発明 不思議なことに世界中どこを探しても、酒のないところはない。昔サル酒といって、猿たちも木の股にたまった雨水に木の実や唾液を落とし、それがいつの間にか美味しい飲み物になることを発見していたというから、人類の歴史よりも古いのかもしれない。

しかし、酩酊だけが酒の目的ではない。料理をひきたてること、まずい料理を食べられるようにし、わずらいごとで食欲をなくした胃に刺激を与えて食べる準備を整えたり、集まった人々の間を和気あいあいにしたりしてくれるわけだ。

この中で、なんといっても長い文化的伝統に支えられてきたのが、料理と酒の相性である。世界の無数の酒には、それと合った無数の料理が存在する。人々が毎日の食事で食べる内容は地域によって違うように、それに伴う酒の種類もさまざまなものとなったのだ。

かくして酒にには驚くべき多様性が生まれてきたわけだが、これまたアメリカナイゼーションの画一化の攻勢にあい、次第に単純な種類に淘汰されてきているというのは、嘆かわしい事態だといわねばならない。

日本での特に悲しい現象は、「何でもビール」という習慣である。寿司にもビール、懐石にもビール、焼き鳥にもビール、刺身にもビール、まったく制限がない。確かに大麦が原料で、出しゃばらない苦さを持ったこの飲み物が、米の好きだった民族にも抵抗なく受け入れられるのはわかるが、これでは酒の楽しみがない。しかも料理を引き立てる役割を、すべてビールに負わせてしまっている。

食生活の豊かさには、多様性が最も大切である。ハンバーガーだけが食事という犬のような生活でよい人には関係ない話だが。生活を楽しむことを大切にする人は、少なくともアルコールを受け付けるのであれば、それを大いに活用しようではないか。

電気熱燗器和食には日本酒 当然である。米と麹が原料であるから、米のおかずにふさわしいものには当然合う。しかもその中でも醤油や味噌を使ったもの、かつての和食の中心、魚、海草、日本古来の野菜にはぴったりなのだ。幸いなことに最近、醸造アルコールとかアミノ酸とか酸味料などの混ぜものを入れない、米と麹だけの酒が現れてきている(当たり前なのだが)。特に秋から冬にかけては熱燗が鍋物とか、刺身で冷えてしまった胃にはとても適している。

焼酎とつまみ 醸造酒と比べると、蒸留酒はアルコール度が強すぎて一般料理にはあまり向かない。それでも焼酎は、鯣や干物を肴にすればお湯割か、ロックで四季を問わず楽しめるはずだ。泡盛はもちろん、沖縄郷土料理と共に。

イタリア・フランス料理には葡萄酒 ワインブームとなれば、何でもかんでも料理にお構いなくワインを出すという輩がいる。葡萄酒はパンとチーズがその最適の相手である。したがって乳製品を使った料理と共に飲むべきなのだ。その点ピザにワインはぴったりだ。これからピザを注文したら、コーラとかオレンジジュースのような甘ったるいものはやめて、辛口のワインで溶けたチーズを洗い流すと良い。今までよりも驚くほどたくさんピザを食べてしまうだろう。

ブランデーは肴がいらない これほど香りに気を使った蒸留酒は、もはや肴は必要ない。グラスを手で暖めて、ただひたすら香りを楽しめばよい。ただ低級品だと、どの方法にも合わず悲惨なことになる。安物の葡萄酒なら料理で救われるが。

ビールには肉料理 やっとビールの出番だ。ビールはイギリスや北欧が本場だ。ということはイギリス料理や北欧料理に合うもの、つまりハム・ソーセージ・ローストビーフの類だろう。焼き鳥も醤油のタレなら日本酒だが、塩味ならばビールのほうがよい。そしてすべての酒のうちで最も清涼飲料水に近いのがこのビール。焼けた砂浜で飲む真夏の冷えたビールに説明はいらないだろう。

ウィスキーの肴はジャズ 同じ蒸留酒でもブランデーと違い、ウイスキーは香り一点張りではない。だがこれもしっくりくる肴がない。強いて言えば深夜のジャズだろうか。

暖をとるならウォッカ この酒は誰でも気楽に飲めるわけではないが、夜の雪道を(崖から落ちる心配のないところで)長時間、寒さに耐えながら歩いたり、釣りをして座り続けるのなら、最適の飲料だ。暖房の利いた部屋なら完全に酔っぱらうような量を飲んでも、寒空のもとでは平気だから不思議だ。

中華料理には老酒 次から次へと運ばれてくる中華のコースで、ビールを飲んだら自殺行為だ。せっかくの多様な味が楽しめる前に胃袋が早々と満杯になってしまう。角砂糖を入れたりせず、そのまま熱燗で食事の前半に飲む。食事の後半でかなり胃袋がきつくなったら、お茶に切り替えると良い。アルコール度が少々高いので、老酒であまり酩酊すると料理の味が損なわれる。

その他世界中の酒を取り上げたらきりがない。大切なことは飲む酒の種類を限定しないこと。その国の料理はその国の酒と共に飲む方針で望み、人類の知恵の一つを味わいたい。

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro
 
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