セブンイレブンの社会学

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竹林

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いわゆる「コンビニエンスストア」が一日24時間、一年中開店しており、日本で急速に広がってきた。都市化の進行とともに、人々はますます忙しくなり、言い換えるとますます、気短になってきているのだ。

人々は商店が休日や夜間には閉まるのは当然だとかつては思っていた。都市化は次第に人々の生活様式を変えて、その結果、最終的な方向が確立してしまったのだ。つまり商店は人類が存在する限り、開いていなければならないのだと。

セブンイレブンの商標そのものは、「午前7時から午後11時まで」というつもりだったのに、今では単なる名目上のものに過ぎない。セブンイレブンの後をたどる企業がたくさん出てきた。

コンビニが先か、人々のライフスタイルが先かについての問題は、ニワトリが先か卵が先かの問題のようなものだ。たぶん互いに相互補完的なものなのだろう。現代における産業社会がこれらの店の今日における繁栄をもたらしたのだ。

江ノ島これらの店が特に若い人々のライフスタイルを急激に変えている。お正月のある日、若い男がおにぎりを買いにこのような店に入ってきた。お正月恒例の食べ物であるお餅に、うんざりしたのかもしれない。コンビニはこのようにして長い間に培われた日本の季節の行事の持つ伝統を打ち壊しつつあるのだ。

伝統的な規範に従うのがいやで、自分たちを夜行性動物だと思っている人たちも、このような店に来ることを喜ぶ。夜更かしに慣れた若者はますます増え、小売店の中でも最も保守的な部分でさえも彼らに注目し始めている。商人たちは商店は午前零時以降も開いていなければならないし、清潔で安全な場所でなければならないとも考えるようになった。

明るい照明を欠かすことはできない。賑やかな通りに面する入り口は透明でなければならないし、だからガラスでなければならない。これは強盗を防止する立場からも必要なのだ。消費者は暗闇と寒さの中で、唯一のまるで昼間のような場所を見つけてほっとすることだろう。

だが最も大切なのは商品の展示である。小さなスーパーのように乱雑に商品を積み上げてはいけない。大きなガラスの扉がいつでも開けられるようになっていて、お好みの食品を選べる。ハンバーガーや「おでん」でさえ、提供される。

缶入りコーラと「ポストミックス」ソーダとの違いは?後者はずっと多くの炭酸ガスを含み、そのため一層さわやかだ。真夜中に突然アイスクリームがほしくなる人もいる。彼らもまた満足させられる。宅配サービスもここでは受け付けてもらえる。従業員たちはいつだって追い回されているし、これからもっと忙しくなるだろう。

商品は必ずしも値引きされているわけではなく、むしろコンビニだけの時間帯にしか手に入らないことから、高くつく。だから少々高価だが、商品の多様性に富み、たとえば、真夜中や早朝にはコンビニ以外では、手に入りにくいということから、ますます選ぶ楽しみが増す。

昔からの頑固で無愛想な経営者による、古くて汚く暗い店には消費者は寄りつかなくなるだろう。コンビニはモノを手に入れるだけではなく、荒れた海の灯台のように、くつろげる場所でもあるのだ。

日本社会に対するコンビニの社会学的影響は、アメリカ式の生活様式が日本に入り込むにつれて強くなってゆくだろう。ニューヨークや他の大都市では、大部分の公共輸送機関が一日24時間利用できる。このことは、必然的に商業地域における夜間の活性化を生み出す。日本ではこの過程が同じような道をたどることになろう。いつの日かコンビニの登場そのものが、現在に比べて公共輸送機関の営業時間を延長させることになろう。

モントレマリーナ・藤井正コンビニの持つ影響力の積極的な面の一つは都市地域の活性化である。青少年の非行、売春、犯罪の増加を嘆く人もあろうが、ローマ帝国の時代から、都市地域は思想や生活様式の震源地だったのである。ニューヨークはその典型的な例だ。24時間開店している店舗はますます多くの人々を夜間に引きつけるし、消費者たちのさまざまな需要がそれらを多様化させ、映画館、ライブハウス、小規模劇場のような専門化した施設を生み出していくことだろう。これは都市におけるもう一つの生活の始まりとなる。

テレビ、ビデオ、音響機器のような家庭用の機器の最近の発達によって家に引きこもる人が増えている。通りをぶらつくよりも、居心地のよい居間にいるほうがよいという。映画の没落を見てわかるように、いわゆる都市の無菌化(私の作った用語)、言い換えると高級化がこのようにして始まったのだ。

今こそ都市地域における新しい種類の活動を始めるチャンスを生かすべき時だ。これは少々誇張されているかもしれないが、コンビニは長い目で見れば、文化的発展の将来性のある基地になりうるのである。人々が夜更かしをすれば、夜間の行動により、必ず空腹になりのどが渇くからである。

現在、こういったことに我々はすっかり慣れきってしまった。日本にこの種の店が上陸してから20年以上になる。コンビニは都市の日本人にとっては欠かせないものの一つとなった。もっとも文化的な復興はまだ起きていないようだが。最も辛い部分はこの競争社会の中で取り残された店はもはや生き延びることはできないということだ。

初稿1986年1月
改訂2000年2月

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