変わりゆく人間関係

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定義の竹林

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今日の科学技術の進歩は、人間関係に多大な影響を及ぼしている。個人主義は、良かれ悪かれ、西ヨーロッパに生まれて、今や現代世界の主要な潮流となっている。

独身の男女がひとり住まいをする例が増えている。うんざりするような大家のおばさんや近所の人に悩まされるよりむしろ、自分の好き勝手な暮らし方を望んでいる。

民主主義に基づく考え方に、誰も報酬や同意なしに奉仕する必要はないというのがある。この考え方と、急激な技術革新もあって、人々は雇用者、両親、指導者、そして自分の配偶者からすら切り離して行動するようになったのである。

昔の時代には、王と騎士、主人と召使いなどの間には「忠誠」の間柄があったものだ。何らかの報酬が与えられたり、契約が破棄される場合もあったが、全体としては何らかの「人間的」な結びつきがあって、お互いにうまくいっていたものだった。

冒険小説「ロビンソン・クルーソー」の世界的に有名な登場人物「フライデー」は人食い人種たちに食べられる瞬間をロビンソンに救われ、彼に対して大きな親愛の情を抱く。人間は、群れて暮らすのが好きな動物であるから、犬や狼のように自分の主人に忠誠を示すのはごく当然のことなのだ。

奴隷とその持ち主でさえ、アンクル・トムの小説の場合のように、時に奴隷制度を擁護するために利用されることはあるが、永続的な人間関係になることもあった。そして夫と妻は、人間の結びつきでは最も典型的な例だが、これもまた何らかの調和の形を取っていたものだった。つまり一方が他方に仕えるということだった。

18世紀から19世紀にかけての政治制度における民主主義的な刷新が起こると、19世紀後半から20世紀の半ばにかけて、人間関係の急激な変化が起こった。

忠誠心や奴隷的態度は激しく糾弾され、他人のために強制労働をさせられるとか、自由がない状態だとみなされた。古代社会や封建社会の遺物に過ぎないとされたのである。

だが、何か暖かく、ほっとするようなものも、この関係が消滅するとともに失われてしまった。たとえば信頼、誠実、正直といったもの。代わりに個人主義が、産業社会の訪れとともに、台頭してきたのだった。

I個人主義は、非人間的な奴隷的態度だけでなく、他の人々とのつきあいに必要な何か、潤滑油のようなものまで否定してしまった。人々は自分の生活に関心を持とうとはしても、他人に立ち入ることはなくなっている。

言い換えると、大部分の現代人は、人々と集まることの好きなかつての人々とはまるで異なっている。もはや現代人は協力的でも、意思の疎通に努力することもなくなっている。彼らは猫のように、他と交渉のない世界に閉じこもる方が好きだ。技術的進歩は人間対人間の接触をそれほど必要にはしなくなったのだ。

そのくせ、マスコミの動向には人一番敏感で、携帯電話で誰かとつながっていないと不安で仕方がないという面もある。ある工場では、従業員をわざわざ小集団に分けているが、これは従業員が同僚と親密な関係を作り、それによって生産性が上がることを期待しているからである。

そうでもしないと、巨大な工場の中で人々は孤立化し、時に疎外されてしまう傾向があるからだ。孤独に陥りがちな生活スタイルは、ある意味でまさにコンクリートジャングルの産物であるといえる。おそらく都会生活に適応した形なのだろうが。

このように適応した場面は、巨大マンションでは互いにあいさつもしないというほどにもなる。たとえお互いを顔で知っていても、「親密な」他人(心理学用語)であるふりをして、このおかげで隣人たちと無用な摩擦を起こさずにすむのだ。

「家庭内離婚」という本では、このような傾向が夫婦関係の中にも浸透していることを示している。離婚が厳しく制限されているような場合には、夫婦はともに暮らし続けることを余儀なくされ、当然のことながら、自分の「同居人」に全く関心を示す必要がない暮らし方に適応してゆくのだ。

この傾向はもう逆戻りすることはないように思われる。「猿の惑星」にでも行かない限り、現代社会のこのような「解体」が止むことはなさそうだ。だが、歴史の中で目にした事柄はすべて、極端にまで到達するたびに、こんどは逆方向に動く、つまり「揺り戻し」があるものだ。

今アメリカでは離婚率の低下が起こり始めている。人々はアフリカの惨状を救うために集まり、ともに歌ったりしている。建築の設計や都市計画がうまくゆくと、新しいコミュニティーが生まれる可能性も出てきた。楽観的にはなれなくとも、振り子は必ず反対方向には振れてゆくだろう。

20011986年6月初稿、2001年5月改訂

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