Basic Japanese

Fuji-yama by Yamashita Kiyoshi

へんろう宿

(listening)

作品と注 (1) (2) (3)

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作品解説

昭和15年4月に雑誌「オール読物」に発表。土佐の遍路岬というところにたまたま宿泊することになった主人公は、その宿の従業員がもとはみな女の捨て子ばかりであるのを知って驚くが、おばあさんから小学生までみんな明るく生きているのを見てほっとするという珠玉の短編。

作者紹介

井伏鱒二 いぶせますじ 1898‐1993(明治31‐平成5)

井伏鱒二小説家。広島県生れ。本名満寿二。早稲田大学仏文科中退。1929年《山椒魚》その他で文壇に登場し,翌年には創作集《夜ふけと梅の花》を刊行。その後《ジョン万次郎漂流記》(1937)で直木賞を受賞,38年には歴史小説の佳作《さざなみ軍記》を完成した。

駐在巡査の日誌の形をかりた《多甚古村》(1939)は多くの読者を獲得した。《川》(1932),《集金旅行》(1937) 42年から1年間陸軍徴用員としてシンガポールに滞在した体験は傑作《遥拝隊長》(1950)となった。

敗戦後は46年から作家活動をはじめ,《本日休診》(1950)その他により第1回読売文学賞を受けた。以後、《漂民宇三郎》(1956),《駅前旅館》(1957),《珍品堂主人》《武州鉢形城》などがある。

《黒い雨》(1966)では原爆の大惨事を描き出して野間文芸賞を受け、映画化もされた。《厄除け詩集》(1937)など独自の詩集もある。また、児童文学の傑作「ドリトル先生物語全12巻」(岩波書店)の訳者としても知られ、今日でも愛読されている。

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へんろう宿(1)speaker

注 : 
  1. しょよう/所用 : 用事、ビジネス
  2. じょうしゅびにはこんで/上首尾に運んで : うまくいって、
  3. あきまち/安芸町 : 高知市の東にあり、現在は市。
  4. 大山崎へんろうみさき/遍路岬 : この岬は、大山岬(安芸市)がモデルといわれている。残念ながら、大山岬には遍路宿は実在しない。井伏鱒二は、昭和15年、安芸で吐血し重態に陥っていた恩師田中貢太郎を見舞うために安芸を訪れている。この時、田中貢太郎が滞在していたのが、安芸市本町の小松屋旅館で、井伏も泊まっている。小松屋旅館は、現在のダイソー(眞慶寺南向かいのショッピングセンター)の所にあり、この旅館をモデルに作品が書かれたそうである。
  5. しゅうしゃ/終車 : その日の最終バス
  6. ろくり/六里 : 約24キロ
  7. ひらや/平屋 : 一階建ての家
  8. かたわら/傍 : はじ、横
  9. みちしるべ/道しるべ : 目的地を示す案内板
  10. はとうかん/波濤館 : 旅館の名前。「波濤」とは波が勇ましく打ち砕けるさまをいう。
  11. がいとうする/該当する : あてはまる
  12. りょうしや/漁師屋 : 漁師たちが泊まったり休憩したりする場所で社交所にもなる。
  13. のき/軒 : 日本の家屋で壁より長く突き出た部分。日除けや雨よけになる。
  14. どま/土間 : 家の内部で入り口から土足で入ってもよい部分。
  15. としのころ/年のころ : 年齢が
  16. おとまりですろうか/お泊まりですろうか : (土佐方言)お泊まりですか
  17. ひばち/火鉢 : 直径4,50㎝ぐらいの多くは瀬戸物でできた容器で、灰を敷き詰めた中に炭をおこして暖房具や湯沸かしとして使う。
  18. おいでなさいませ : (土佐方言)いらっしゃいませ
  19. おくへあがってつかさいませ/奧へあがってつかさいませ : (土佐方言)奧にあがって下さい。
  20. のぼりぐち/上り口 : 靴を脱いで中へはいるところ、玄関、または二階への入り口。
  21. おぜん/お膳 : 一人分の食事をまとめて入れておく食卓兼用のお盆。
  22. めしびつ/飯櫃 : 炊いたご飯を入れる木製の入れ物
  23. すずりばこ/硯箱 : 筆で字を書いた時代、筆記用具の一切を収めた箱。
  24. またいで : 踏みつけないようにしながら
  25. きょくろう/極老 : 一番歳をとった
  26. けんど : (土佐方言)けれども
  27. くろうございますきに/暗うございますきに : (土佐方言)暗いですから
  28. どくほんのかきとり/読本の書取 : 国語の教科書の書かれている文章をノートに写し取ること。
  29. うわのそらのように/上の空のように : 何か他のこと考えているかのように
  30. あさぎいろ/浅黄色 : 黄色を薄くしたような色。わらなど草の枯れた茎によく見られる色。
  31. やぐ/夜具 : 布団、枕、寝間着の一式。
  32. ねてつかさい/寝てつかさい : (土佐方言)寝て下さい
  33. けさずにおいてつかされ/消さずにおいてつかされ : (土佐方言)消さずにおいて下さい
  34. ひゃこくづみのたからぶね/百石積みの宝船 : 百石とは大変な財産をさす。それを積んだ船。
  35. よございますろう : (土佐方言)よろしいでございましょう
  36. おあいそ/お愛想 : 人を喜ばせるような挨拶言葉
  37. マント : 明治、大正、昭和初期時代に外出する際に背中にかけた大きめで保温のための布。
  38. はおり/羽織 : 明治大正、昭和初期において、袴とともに礼装として広く用いられた日本風の衣装。
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へんろう宿(2)speaker

注 : 
  1. せんべいぶとん/煎餅布団 : 煎餅を思わせるほど薄くて、中の綿が少ないかつぶれていて、保温力に乏しい布団。
  2. ちぢかめて : ちぢめて、小さくして
  3. みぎまくらになって/右枕になって : 頭の右側を下にして
  4. どうぐだて/道具立て : 必要な道具が整え並べられているところ
  5. てんじょうのはり/天井の梁 : 昔の日本家屋で、屋根を支えるために用いられた太い木材。
  6. せんじゃふだ/千社札 : 数多くある神社で、仕事、結婚など人生に様々な願いを込めて神に祈ってもらった木や紙の札。部屋の中に張り付けておく。
  7. さぬき/讃岐 : 四国地方北東部。現在の香川県あたり。
  8. たいがんじょうじゅ/大願成就 : 自分の大きな望みが叶うこと
  9. さんじゅっせん/三十銭 : 太平洋戦争前の日本の貨幣単位。1円が百銭。
  10. たっぴつに/達筆に : 字を書くのが上手で
  11. ひっせき/筆跡 : 紙の上に残った個人独特の書き方の癖。
  12. しょうぎばん/将棋盤 : チェスに当たる日本のゲーム、将棋をするために作られた分厚い木材でできた板。4本の脚がついている。
  13. そうしょくひん/装飾品 : 飾りもの。絵、掛け軸、工芸品など。
  14. きぶんをそそる/気分を唆る : その気にさせる。やってみたいという気分にする。
  15. そろばん/算盤 : 商売で四則計算をやるための、玉の移動を利用した簡単な計算機。
  16. ばらせん/バラ銭 : 小銭。
  17. のりだして/乗り出して : 身体を前の方に出して。興味を持って何かに引きつけられているさま。
  18. うんにゃ : (土佐方言)いいえ、そうではありません。
  19. あかご/嬰児 : まだ歩くことができず、皮膚の色の赤さが目立つ時期の新生児。
  20. ほっちょかれていかれましたきに/放っちょかれて行かれましたきに : (土佐方言)ほったらかしにされたものですから。
  21. いったがです/行ったがです : (土佐方言)行きました
  22. いうたら・・・ですらあ : (土佐方言)言ってみれば・・・に似ていますね。・・・のようなものですね。
  23. あたりをはばかるところがない/あたりを憚るところがない : まわりにまったくかまわずに
  24. あるじ : (宿の)主人
  25. いさぎよく/潔く : 思い切って
  26. いきなことば/意気なことば : 粋なことば、とも。気の利いたことば、しゃれたことば。
  27. いっしょうばあ/一升ばあ : (土佐方言)1.8リットルもの量を
  28. だれぞが/誰ぞが : (土佐方言)いったい誰が
  29. ここなやど/ここな宿 : (土佐方言)こんな宿
  30. なっちょります : (土佐方言)なっています
  31. しきたり : 昔から習慣や暗黙の決まりとして繰り返されていること。
  32. やどちょうじゃあいうもの/宿帳じゃあいうもの : (土佐方言)宿帳なんていうもの。宿帳は宿泊者の名前、住所、職業などを記入したもの。
  33. ありませざっつろう : (土佐方言)ありませんよ。
  34. こどもらあに/子供らあに : (土佐方言)子供たちに。
  35. わしらは : わたしたちは
  36. りょうけん/料簡 : 考え、態度
  37. どうちゅうして/道中して : 旅をして
  38. ふうしゅうをならいましつろう/風習を習いましつろう : (土佐方言)風習のことを知ったのでございましょう。
  39. じゅうねんごっといに/十年ごっといに : (土佐方言)十年ごとに

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へんろう宿(3)speaker

注 : 
  1. ふとうなってしくじりますきに/太うなってしくじりますきに : 成長して大きくなってから失敗したりしますので
  2. こせきめん/戸籍面 : 日本の役所で登録されている、生まれ、結婚、死亡などを書き込んだ書類について
  3. おんがえしに/恩返しに : 他人から受けた援助や親切へ感謝の気持ちを込めて同じことをしてあげようと
  4. ごけのつもりで/後家のつもりで : 夫に死なれた女になったつもりで
  5. うわき/浮気 : 他の男に気を寄せること
  6. でまかせ/出まかせ : 何も考えないで思いつくまましゃべること。
  7. うす/臼 : 餅を作るとき、「杵きね」という太い棒で強く突くために、太い木に大きく穴をくりぬいたもの。
  8. けいよう/形容 : 言い表し方
  9. ちゅうにくちゅうぜ(い)/中肉中背 : 太ってもいず、やせてもおらず。
  10. めはなだち/目鼻だち : 顔つき。目や鼻、口の大きさ形、位置。
  11. じんじょうしょうがっこう/尋常小学校 : 戦前の10歳ぐらいまでの児童の通った学校。
  12. なふだ/名札 : 名前を記した札。出入り口につける。
  13. よこて/横手 : 少し横の方
  14. はまゆう/浜木綿 : 日本の主に暖かい地方の海岸に生育する植物。
  15. いくかぶも/幾株も : たくさん生えて
  16. かくべつだった/格別だった : 最高に良かった、何とも言えずすばらしかった。
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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

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