Basic Japanese

Fuji-yama by Yamashita Kiyoshi

む じ な

(listening)

目次

作品解説 作者紹介 作品注

現在の紀之国坂を歩く

原稿 Script

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作品解説

たまごの表面想像力豊かな人々がさまざまな怪物を発明してきた。足がなかったり、恐ろしい顔だったり、タコのように手や足がたくさんあったり、火を吐いたり実に多種多様だ。

だが、顔に表情がないというのは、人間の心理を凍り付かせる。なぜなら普段、人は相手の顔を無意識のうちに観察してその心の動きを読みとろうとしているからだ。それがなくなっていたら・・・

これは短いストーリーであるが、目も鼻も口もない、まるで卵の表面のような顔という化け物は、誰をもえもいわれぬ恐怖心を抱かせてしまうのである。

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作者紹介

ラフカディオ・ハーン Lafcadio Hearn 1850‐1904

小泉八雲文芸評論家,小説家。日本名は小泉八雲(こいずみやくも)。ギリシアのレフカス島で生まれた。幼時ダブリンに移り、その後フランス、イギリス、アメリカを転々とし、1890年来日,島根県立松江中学校の英語教師となり,翌年熊本の第五高等中学校へ移った。

神戸で一時英字新聞記者を務めた後,96年から6年半にわたって東京大学で英米文学を講義し,早稲田大学に移った1904年に亡くなった。小泉八雲は日本に帰化したときに選んだ名前である。

ハーンの十数冊に及ぶ日本時代の著作の中で,出雲の生活を描いた《知られぬ日本の面影》,日本人の内面生活をとらえた《心》,また日本の怪談の再話はとくに著名である(《怪談》)。この中に「むじな」が収められている。

邦訳は《小泉八雲作品集》が良く,アメリカ時代の作品を中心とする《ラフカディオ・ハーン著作集》もある。妻小泉節子に〈思ひ出の記〉がある。

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紀之国坂(きのくにざか)を歩く
紀之国坂地図 JR四谷駅の赤坂口を出て左へ進むと大きなY字路に出る。正面は迎賓館(げいひんかん)の建物だ。これを右に見ながらY字路を左へ折れて200メートルほど進む。「紀之国坂」交差点から下り坂になっているのがわかる。残念ながら左側は首都高速4号新宿線がいつもの渋滞をさらけ出しているし、この坂道は片道2車線の広い道路だ。だが左側の濠に沿った歩道は草木が生い茂り、まだ少しは昔の面影を残している。→周辺地図
紀之国坂の左側が、話の中にも出てくる、三日月の形をした「弁慶堀」。首都高速の高架に遮られているものの、まわりは樹木が鬱そうとしげり、人が立ち入らないので自然のままだ。
坂の最高地点はホテル・ニューオータニにつながる堤(つつみ)になっている。ここも樹木がよく茂り、昼間でも薄暗いのでお化けやむじなが出てもおかしくない。
紀之国坂を最高地点から歩道を見下ろす。左にある首都高速や、右側の広い自動車道路を見なければ、かなり趣(おもむき)のある道である。これが弁慶堀に沿ってゆるやかなS字型のカーブを描きながらなだらかな下り坂となる。この話の老商人はこの坂を息せき切って駆け下りたのか?
紀之国坂交差点の手前。この茂みの部分が坂の入り口にあたる。この近辺は、江戸時代と同じく、東京には珍しくいつも人通りが少ないのが不思議だ。
右を走る自動車道を隔てて迎賓館(げいひんかん)の敷地である。これは東門。江戸時代にはこの一帯が紀州藩の藩邸であった。小泉八雲は、なぜこんな名前なのか知らないといっていたが、坂の名前はこれに由来するようだ。

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むじな(全編)speaker(6分8秒)

注;
  1. きのくにざか/紀之国坂 : 東京都港区元赤坂2丁目。江この近辺は「四谷怪談」で知られるように、妖怪やお化けの話がたくさんある。この坂の脇にある弁慶堀も「お岩」の死体が浮かんだ所だという。
  2. ごしょ/御所 : 天皇の住まい。現在の皇居内にある。
  3. じんりきしゃ/人力車 : 椅子のついた2輪車で前に延びたかじ棒を「車夫(しゃふ)」が握って引っ張る。明治時代においてとくに都市内での人々の輸送に使われた。
  4. いくまいるも/幾マイルも : 著者の出身国の単位を用いている。1マイル=約1.6キロメートル。
  5. きょうばし/京橋 : 東京都千代田区京橋。東京駅八重洲南口方面。
  6. ほりばた/堀端 : ここでは旧江戸城(現在の皇居)を取り巻いている「弁慶堀」のそば
  7. りょうけのしじょ/良家の子女 : きちんとした家柄の家庭で大切に育てられた若い娘
  8. おじょちゅう/お女中 : 明治時代の頃に婦人に呼びかけるのに使った語。召使いの意味ではない。
  9. たもと/袂 : 日本の着物で、袖にあたる部分で下に垂れ下がっており顔を隠すほどの面積がある。
  10. ゆるゆると : 動きがゆっくりとしているさま
  11. むせびなく/むせび泣く : 激しく涙を流しながら続けて泣く
  12. ちょうちん/提灯 : ロウソクのまわりに光を通す紙で作った球状の囲いで、夜間の携帯用照明。
  13. やたい/屋台 ; 営業時間になると車で引いてきて一時的に開業して主に飲食を提供する店
  14. よなきそば/夜泣き蕎麦 : 夜間路上に屋台を出して食べさせるそば
  15. ぞんざいに : あらっぽく
  16. おいはぎ/追い剥ぎ :道路上で通行人から金品を奪い取る強盗
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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

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