この本は海舟の談話を中心に編集したものだが、この口調は「シンドバッドの冒険」を髣髴とさせる。だからと言って法螺(ホラ)の連続ではないが、常人がびっくりするような、特に集団志向の日本人には考えもつかないことがポンポンと飛び出すのだ。
同じ革命でもパリ・コミューンでは3万人以上の人々の命が失われたことを比べてみると、海舟と西郷によって実現した、幕末の江戸城無血開城だけでも、歴史の上では非常にまれなことだろう。海舟が言うには、「戦争は小心者によって起こされる」という。そういえば、すぐに2008年でその任期を終えるブッシュ大統領の名前が誰にでも浮かんでくるだろう。
権力を少しでも扱うものは、途方もない胆力が、そして誠が必要なのだと、彼は繰り返し説いている。そして維新の際に、西郷があらわれてくれたことが日本国の歴史にとって、非常に幸運だったといっている。西郷との江戸城開城直前の会談の模様が何度も語られる。彼の人生にとって、最高のハイライトであったことは言うまでもない。
数多くの彼の談話のうち、いくつかを選んだが、今の政治家たちの語るたわごとと比べて、あまりにレベルが違うのでまったくため息が出るであろう。今度日本に勝のような政治家が生まれるのは何百年、いや何千年後のことだろう?
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