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第5章 動詞のはなし:その1

  1. 動詞とは何か
  2. 英語の文型
  3. 日本語における動詞の格支配
  4. 動詞句(英)と動詞+格助詞(日)
  5. 日本語の動詞活用
  6. 活用形のまとめ

どんな言語にも動詞は存在するようですが、日本語ではまずい地が違います。現在完了形とか未来形というものも存在しません。それでも英語と互角に言語としてやっていけるのはなぜでしょうか?

動詞とは何か

言語を研究するとき、最初に注目してもらいたいのが<動詞>です。なぜならば一つのまとまった意味を作るのにもっともよく用いられているからです。動詞には他の語を体系的に結びつける働きがあり、<節>の中心になることができるからです。その点では英語でも日本語でも共通しています。問題なのは、意味の似ている動詞であっても両国語の間には越えることの大変難しい構造上の違いが横たわっていることでしょう。すでに述べたように英語での動詞はふつう主語のあとに来ます。これに対し日本語では動詞は文の最後に来ます。

全般的には、英語における動詞は<文型>がまず基礎にあり、その厳格な形式に沿った単語の並べ方で文が成立します。一方、日本語における動詞は名詞(相当語句)と格助詞の組み合わせによる<格支配>が中心となり、比較的自由な文作りが可能です。また動詞は時制や否定、仮定などにおいて特定の語群との接続を取るのが特徴的です。

例文1;あの人は医者です。He is a doctor.

例文2;頭が痛いです。I have a headache.

日本語では動詞のタイプを大きく二つに分けることができます。一つは「・・・です」であり、もう一つは「起きる」「走る」「置く」などの具体的は表現です。「・・・です」は「・・・である」「・・・だ」とともに名詞「医者」や形容詞「寒い」を結びつけています。これらは単なる連結のしるし(コピュラ動詞)であり、「あの人は医者」と言っても通じることは通じます。

さらにどのタイプの動詞でも共通についているものがあります。それは動詞を支配している主体、つまり主語です。英語の文では構造が異なる *** (注)ため、「私は頭痛を持つ??」に必ずしも日本語と同じ主語ではないが、いずれにせよついています。2番目の例文ではほかに主語以外のものとして「私は頭が痛いです」(「私は」という主題を追加)や、「私の頭が痛いです」(「・・・の」による所有表現を追加)とすることも可能です。

他の単語と結びつくのが得意である動詞の働きを調べる手段として、動詞1つにつき何が何組付属することが可能かを数えてみましょう。「・・・です」の場合、格助詞「・・・は」または「・・・が」または「・・・も」で始まる主語に入る<名詞>と、「・・・です」に入る<名詞>または<形容詞>ということになり、2組必要です。もちろん主語はわかり切っているならば省略できますが。公式化すれば「 A は B です」となります。

注;英語やその他の西欧語では「・・・を持つ have 」を多く使って<存在表現>を作っています。例;「妹がいます I have a sister. 」「風邪です I have a cold. 」「雨が降ります We have rain. 」「客がきます We have visitors. 」など。一方、日本語は「ある・いる・です」でできるだけ多くを表現するタイプです。

例文3;彼はけさ早く起きました。He got up early this morning.

例文4;私は佐藤氏を山田氏に紹介しました。I introduced Mr.Sato to Mr.Yamada.

もうひとつのタイプでは<一般動詞>が使われています。例3での「起きる」という一般動詞は主語1個のほかに「けさ」「早く」という副詞2個が付属しています。ただし、副詞は文の基本構造を変化させない単なる飾りですから全部とってもよいし、さらに増やしてもよい。結局のところ、「起きる」に必要なのは主語にあたる名詞1個だけでそれも省略されれば動詞だけになってしまいます。

ところが例4での「紹介する」という一般動詞は「私は」「佐藤氏を」「山田氏に」と全部で3個の名詞が格助詞と共に付属しています。この動詞はこの3個全部がそろわないとまともに意味を伝えることができません。つまりどれも必須の要素なのです。英語の場合でもそれぞれ I, Mr.Sato, to Mr.Yamada と3つの要素がそろっています。

日本語でも英語でも伝達したい内容に大きな違いはありません。ですからまるで動詞構造が違っていても最終的な情報量は大体同じになるのです。そして動詞から言語学習を始めると、まるでクモの巣の真ん中に座るクモのように、動詞が他の単語を支配し文全体を動かしていることがよくわかるのです(日本語ではこれを<動詞の格支配>といいます)。

例文5;早く起きます。I get up early.

例文6;早く起きました。I got up early.

例文7;早く起きるでしょう。I will get up early.

例文8;早く起きていたものでした。I used to get up early.

さらに「起きる」の形を変化させることによって、現在なのか過去なのか未来なのか、動作なのか状態なのかなどが一見してわかるようになっています。これは動詞の<語形変化>または<接尾辞追加>であり、これらも文のほかの単語と違う重要な働きです。「・・・でしょう」などは<助動詞>とよばれ、未来というよりは<推量(話者の態度)>を示す表現の一つになっています。

英語では語形変化のほかに3,4番目の例にあるように<助動詞>を動詞の前にくっつけて表す方法も採用しています。これは文字で書きあらわせば、別の単語が追加されているわけですが、耳で聞くぶんにはひと息に発音され、前に何か(接頭辞)が加わったひとつづきの単語のように思われます。

余談ですが、音だけで成立する文盲の人の文法世界と、音も視覚記号も両方理解できる人の文法世界とは異なる場合があるのです。前者にとっては一続きの発音はそれが大きなひとつの単語のように聞こえ、後者にとっては文字の表記法によって定められた、これ以上分解することの不可能ないくつかのかたまりとして理解されます。この違いは言語の本質を理解する上で忘れてはならないことです。

もう一つの問題は主語と動詞の<一致>です。地球上の多くの言語は、主語によって動詞の形を変えます。たとえば I am / You are / He is などです。I have / He has の場合、後者の has は<三人称単数現在>という名前で学校英語では教えています。ところが日本語ではそのようなルールが存在しない。どんな主語であっても動詞の形は不変です。これは便利なのか不便なのか?

たとえば主語が省略された場合には、誰がやったのかわからないではないかという疑問がわきます。確かにその点でしばしば問題が生じます。ただし<敬語>がしっかり根を下ろしていた時代には、その使い方いかんで主語を推定できたものでした。敬語が衰退したり誤用がまかり通ったりする現代ではそのメリットも薄れつつあります。しかし、主語の欠如を補強する働きが日本語にはけっこうあるものなのです(後述)。

最後に動詞の重要性を大きく3つに分けてみましょう。

(1)他の単語をあるルールに基づいて結びつけること

(2)動詞自体が語形変化や他の単語の助けを借りて時制や心的態度を示すことができること

(3)主語が何であるかの手がかりとなる記号を動詞が持っていること(日本語では語形変化以外に求めることができるが)

mso-bidi- mso-font-kerning:0pt'>英語の文型

英語の動詞は典型的な語順重視タイプです。5つの主な文型と、5種の動詞句のタイプで文章の基本を構成します。この文型を厳格に守る限り、文法的に正しい文を誰にでも作ることができます。世界語であるためにはできるだけ組み立てが簡単であってほしいですが、その要求をほぼ満たしているのです。

英語はたいへんわかりやすい基本ルールで出発しました(もっともこのことは初心者にとってのみ通用することで、中級者以上にとっては語彙の異常なほどの多さや個々の単語の特性、いわゆる”語法”が複雑であることから必ずしも学習の楽な言語ではありませんが・・・)。

重要なことは、これらの5つの文型を使いこなすには、それぞれの動詞がどの文型に属していて(2つ3つ兼ねている場合もあります)、さらに細かくどのような形式を用いるのかまで知っておかなければならないということです。実際の英語の動詞では第1文型と第3文型が圧倒的に多いのです。第2,第4,第5は実用に供しているのは全部あわせても100個強ですから、一気に覚えてしまうのが得策です。

例文1(第1文型);She goes./ He is in the park.

主語となる名詞相当語句(S)と動詞(V)は疑問文や特殊構文における<倒置>をおこなわない限り、かならず S-V の順番におかれます。これはすべての文型に共通です。まず第1文型です。このタイプの動詞は目的語(O)をもたないので骨格となる文はこれで終わりになります。あと何かつくとすれば形容詞や副詞などの修飾語句です。

例文2(第2文型);He is a student. / He became a student. / He remains a student.

例文2追加;The fact is that he is alive. / His idea is to start at once. / His pastime is reading newspapers.

第2文型も自動詞ですが、be動詞が大部分使われています。動詞のあとに、主語を説明する語である補語(C)を伴います。このタイプの動詞はそれぞれのもつ意味は違っていても、主語と補語の”橋渡し”をする役目は同じです。補語の大多数は、名詞を説明しやすいので形容詞ですが、特殊な概念、職業、地位の名前などには名詞を使います。

また第2文型では、be動詞の補語にあたるところに that/wh-/how で始まる文やtoV / Ving  をおく場合もあります。

例文3(第3文型);She struck him. / He was struck by her.

例文3追加;She knows that he won't come. / She wants to drink coffee. / She enjoyed listening to the music.

第3、4,5文型はみな他動詞で、必ず目的語(O)となる名詞(相当語句)を伴います。第3では O が一個ですが、”ひと”をあらわすか”もの”をあらわすかは動詞によってたいてい決まっています。そしてこの第3文型からは<受動態>が可能になります。受動態とは O を S にした形態のことです。ただし、すべての第3,4,5文型動詞が受動態にできるわけではありません。

また第3文型では、目的語にあたるところに that/wh-/how で始まる文や toV / Ving  をおく場合もあります。

例文4(第4文型);He gave her the flower. / She was given the flower by him. / The flower was given to her by him.

例文4追加;He told me that he won't come. / He promised me to pay.

第4文型に使われる他動詞は目的語を2個持っています。原則として、前にくる間接目的語は”ひと”を、うしろにくる直接目的語は”もの”をおきます。O が二つありますので、機械的に操作すれば受動態が二つできることになります。

また、第4文型では、直接目的語にあたるところに that/wh-/how で始まる文や、toV をおく場合もあります。

例文5(第5文型);They allowed him to come. ( ← He comes )/ He was allowed to come./ They advised me to go home. / I was advised to go home.

例文5追加;They heard him knock. the door. / They saw him coming. / They saw him hit by a car. / He made her happy. / He made her his secretary.

第5文型に使われる他動詞はそのあとに”ミニ文”を含んでいます。ミニ文とは、例3追加の場合のような that を使った正式な文を書くところを、簡略化して”取り込んだ”ものです。このタイプの動詞は、日常でも頻繁に使われているものだといえます。

簡略化の方式は、ミニ文の主語にあたる語が O として入り、そのあとの述語動詞の部分は大多数がtoV になります。または、原形 / Ving / Ved のいずれかの形で入り、ミニ文で be動詞が使われていた場合は、 be はふつう削除し、そのあとにきていた形容詞または名詞がそのままの形で入ります。

以上、ここまでが基本五文型と呼ばれるパターンです。次に<動詞句(成句)>の基本構成を5つあげます。動詞句とは、動詞に副詞、前置詞、またはその両方をつけることによって別の単語といえるほどの新しい意味を生み出すものをいいます。動詞句として公認されると、辞書の動詞をひいたときに”見出し”としてのるようになります。

例文6;He ran away. / They came in. / A button came off.

もっとも単純なパターンで、第1文型の動詞のあとに適当な副詞をつけたものです。副詞といっても”短副詞”とでもいうべきもので20個ほどあり、多くは前置詞を兼ねています。この副詞のおかげで、もとの動詞が持っていた意味が広がるか、新たな意味がつけ加わるのです。

例文7;She listened to the radio. / The radio was listened to by her.

これは第1文型タイプの動詞を基盤にして、そのあとに前置詞をつけたもので、意味の変化だけでなく前置詞のあとに目的語がつくので、第3文型のような扱いができ、その多くは受動態が可能です。こうなると<自動詞+前置詞>を一語の他動詞としてとらえたほうが便利かもしれません。

例文8;They could not put up with such a word. / Such a word could not be put up with.

これも同じく第1文型の動詞を基盤にして<自動詞+短副詞+前置詞>の順番に並べたものです。自動詞と前置詞との間に短副詞が加わることによって、さらに新たな意味が生じます。これもこの3つを一語の他動詞としてとらえて第3文型のような扱いができるので、受動態が可能な場合もあります。

例文9;They put off the meeting.. / They put it off. / The meeting was put off.

これは第3文型の動詞に”短副詞”をつけ加えたものです。もっともバラエティに富んだ方式で、短副詞のおかげで動詞本来の意味から相当かけ離れた成句が多数生まれています。<動詞+O+副詞>と<動詞+副詞+O >の二つの書き方が可能ですが、O が代名詞の場合には必ず前者の並べ方にします。多くは受動態が可能です。

例文10;They supply us with water. / We are supplied with water.

これが一番複雑なタイプで、第3文型動詞の目的語のあとにさらに前置詞をつけ加えたものです。<他動詞+O+前置詞+O >となりますから、目的語が2個に増えます。これにより第4文型と同じような働きができるようになります。したがって一方が間接目的語「ひと」の代わりをして、もう一方が直接目的語「もの」の代わりをしていると考えられます。ただ第4文型と違って、「ひと」「もの」の順番が逆になることもありますし、<前置詞+O>の部分が取れてしまうこともあります。なお、受動態は前置詞の目的語ではなく、動詞の目的語を主語にした場合のみ可能です。

以上の10種類が、英語動詞の基本的構成です。あとはさらにこの動詞が時制によって変化したり、助動詞のあとについたりして実際に用いられていますが、それぞれの構造が変化することはありません。また強調構文や関係代名詞によって主語や目的語が移動することもありますが、あくまでルールに基づいて場所が変わるというだけです。使われている要素が突然消えたりすることは原則として起こらないのです。ですからこれらの枠組みをしっかり頭の中に入れておきさえすれば、動詞についてはこれ以上むずかしいルールは必要ないということになります。

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日本語における動詞の格支配

それではあらためて、日本語において動詞を取り巻いている<格支配>のシステムを眺めてみましょう。英語と違い、日本語では、主題も主語も目的語も形容句も副詞句も、後置詞(格助詞)によって示されるのが正統とされます。「正統」とされるといったのは格助詞がなくても結構通じる場合もあるからです。しかも動詞によってそれぞれ取りつける格助詞の種類や数は異なります。動詞が中心になって格の支配をしているのです。

例文1;「濡らす」 雨が君の頬を濡らす Rain wets your cheek.

例文2;「濡れる」 (私は)(雨に)濡れた I got wet in the rain.

他動詞である「濡らす」という動詞の格による部分(補足語)は2本必要です。英語で書いてみると主語と目的語にそれぞれ該当します。ここでは「濡らすもの」と「濡らされるもの」が示される必要があります。英語でも、たとえば他動詞 wet を用いると同じような形式が出現するのです。

これに対し自動詞「濡れる」では主語にあたる「私は」はふつう省略されるが、聞き手にとって誰であるか何であるかはわかっているはずだから、暗黙のうちに主語がついていると思ってよいでしょう。「雨に」については日常の場面では誰でも雨だと想像がつく場合があります。従ってこれも場面しだいで省略可能な格です。これは「酒を飲む→飲む」と同じような省略であって「濡れる」単独で立派に意味を伝えることができるのです。

英語では「 wet 」というような動詞はあってもズバリ「濡れる」ことを意味する動詞がなく、get wet のように< get + 形容詞>の形式を借りたほうが自然です。それでも、これは<2語でできた自動詞>として考えることもできます。in the rain は場所の副詞です。従って英語での表現は「(乾いていたものが)雨の中で濡れる(ようになる)」となります。もはやここまで来ると日英言語の構造的違いを越えて新たな表現方法をつきあわせなければならなくなります。

例文3;森から川へと小道をたどり、一行はとある石碑の前に出た。Following the trail from the wood to the river, the party got in front of a stone monument.

例文3追加;(1)”突然”、森から川へと小道をたどり、一行はとある石碑の前に出た。(2)森から川へと小道をたどり、”突然”一行はとある石碑の前に出た。(3)森から川へと小道をたどり、一行は”突然”とある石碑の前に出た。(4)森から川へと小道をたどり、一行はとある石碑の前に”突然”出た。

この例文の動詞、「たどる」と「出る」には「森から」「川へと」「小道を」「一行は」「とある石碑の前に」という5つの格助詞によってできた補足語がついています。考えようによっては話者が思いつくところの補足語を次々と足していき、最後に動詞で終わらせればいいのですから、抽象的な表現や論理的文章でない限りはかなり楽に発語することができるといえます。

ただ困ったことに格による追加には明確なルールがなく、話者の気まぐれでその順番が決められてしまいます。ですから、本来動詞を修飾すべき大事な副詞的要素が近くになくて、わかりにくいという”事故”がたびたび起こります。たとえば、例3で「突然」という副詞をいろいろな部分に入れて検討してみてください。英語の場合ですと、主語その他の要素の位置は慣習的に決まっていますからその流れをつかんでいれば、平凡でも誰でもある程度のレベルの文章を作ることができるわけです。

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動詞句(英)と動詞+格助詞(日)

例文1;その男は私から鞄を奪った The man robbed me of the bag. → I was robbed of the bag.

例文2;その男は私から鞄を奪った The man stole the bag from me. → The bag was stolen. → I had my bag stolen.

この表現では3つの名詞(代名詞)「その男」「私」「鞄」が必要とされています。動詞「奪う」を中心として事態を表現するには「加害者」、「被害者」、「品物」の3つの関係を的確に表すために格助詞の助けを借りなければなりません。当然のことながら、「鞄から私を奪った」がおかしいことは日本語を母語とする人ならすぐ気づくことです。「・・・ハ」は主語を表すということで特に問題はありませんが、二つの目的語「~カラ」と「~ヲ」の2点に関しては「奪う」にふさわしい格助詞を選んでいます。

ところが英文に目を移してみると一瞬、そのように書いてあるのではないかと思ってしまいます。確かに rob を英和辞書で見れば「奪う・盗む」とは書いてあるが、steal とはちがう。ここに安易に訳語を当てはめる際の落とし穴があります。おおざっぱに言うと、 rob = steal something from のことであり、ちょうど drink というのが多くの場合に drink alcohol のことをいっているという暗黙の了解があるのと同じなのです。しかも rob は他動詞となってしまっている。だから The man robbed me. だけの文も成り立ちます。ただ聞き手としては盗まれた金品に興味があるだろうからそのときは前置詞 of (<剥奪>を表すといわれる)を使って追加しています。

教訓;日本語と英語の対応関係が一致するときはよいが、この rob のように異なった性質に基づいている場合は安易に単語を決めてしまわず、正しい「型」を覚えてしまう。ここでの正しい型とは<加害者 rob 被害者 of 金品>となります。ただし、” of 金品”は取り外し自由。ついでに受動態をかんがえてみると、<被害者 be robbed of 金品>となり、加害者にあたる単語が消えます( by によって追加することもできるが)。

これを上で述べた steal という日本語の語感に近い動詞を使って書いてみると、 The man stole the bag from me. となります。受動態は The (My) bag was stolen. となりますが、この変形に従えば、 I を先頭にして受動態を作ることができないことがわかります。日本語ではできても、英語では固定された受動態の形式に基づいているために勝手に変形はできないのです。

そのときには「被害や依頼」を表す have / get 動詞に登場してもらって書き直さなければなりません。つまり例2での展開で見るとわかりますが、 I had my bag stolen. という具合に had のうしろに先に書いた受動態を( be動詞を抜いて!)取り込むのです。ここまで来ると日本語とはまったく違った世界に入ってしまいます。格助詞による表現に頼る日本語ではこの have 動詞のような単語は必要ないのですから。

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日本語の動詞活用

動詞が文の中心であり、自身がさまざまな姿に形を変えることによって、多くの方面の目的に使うことができます。英語では現在形、過去形、現在完了形などの<時制>の形式があり、go なら go-went-have gone などと作り替えるわけですが、日本語の動詞ももちろん<活用形>があります。ただし、日本語の場合の活用は時制を示す形だけでなく、他の文や語と結びつくときの形にさまざまにわけられます。

学校文法は古典的日本語との結びつきを重視したものですが、外国人に教えている日本語文法は現代日本語により即したものです。ここからは、より国際的に通用する日本語文法の用語を使ってみていきましょう。まず、動詞を見るときは<語幹+活用語尾>にわけて考えます。語幹とは常に変化しない部分、活用語尾はそれぞれに応じて形を変えて語幹につく部分です。

英語の規則動詞の過去形を例に取りますと、want - wanted / ask-asked / call-called などとなります。つまり動詞の時制的変化は2つだけに退化してしまい、その他の機能は<準動詞( toV / Ving / Ved )>にするとか、<助動詞>を前につけるとか、<前置詞>をうしろにつけるというようにすっかり他の品詞に移してしまっているのです。

日本語教育での動詞活用形は7種類で教えてゆくことが多いです。名前も外国人がわかりやすいように面倒な文法用語はできるだけさけてあります。なお、動詞変化の表記はひらがなだけでなく、ローマ字を併記すると便利です。というのも、ひらがなは<子音+母音>の組み合わせが一つの文字にまとまっているのに対し、ローマ字はアルファベットで子音+母音の組み合わせが目に見えるからです。

日本語の動詞はみなウ段(ウ・ク・ス・ツ・ヌ・フ・ム・ユ・ル)で終わりますが、これも普段、意識しないけれどもすべての動詞をローマ字で書いてみると、たしかに母音「 u 」で終わっていることに気づきます。では「読む yomu 」「食べる taberu 」「する suru 」「来る kuru 」を例にとってみましょう。それぞれ「 yom 」「 tabe 」「 s(h) 」「 k 」が語幹となります。

「読む」の語幹は yom であって最後に母音がついていません。これはそのあとの母音部分に a i u e o のどれかが入る可能性を示しており、学校文法では「5段活用」とよんでいるわけです。これに対して「食べる」では最後に母音の e がついているために常に「エ(下一段)」が発音されています。常に母音の i がついている場合は「イ(上一段)」です。

「する」と「来る」に関しては、最初の子音 s が発音されることだけが一定していて、その後にくる母音は一定しておらず、いわゆる不規則動詞(変格活用)です。これらについては、たった二つですから、日本語学習者にとっては理屈を説明されるよりも暗記してしまった方が早いでしょう。次に動詞活用の具体的な形を見てみます。

(1)ル形・・・またの名を辞書形、基本形;(連体形と兼用)

これはまさに辞書を引くときに見出しにでている形で、外国語では「動詞の原形」などといっている場合もあります。すでに述べたようにすべてウ段で終わっています。「読む yom-u 」「食べる tabe-ru 」「する s-uru 」「来る k-uru 」となります。

一方、これらは「読む時間 yomu jikan 」「食べる人 taberu hito 」「すること suru koto 」「来るつもり kuru tsumori 」というようにも使えます。いずれもうしろに名詞がついてそれを修飾しています。これは形容詞のような働きで<連体形>といいますが、形はついていない場合と比較していずれも変わっていません。かつては異なっていたのですが、実は現代日本語ではル形と連体形は常に同じなのです。ですから連体修飾という言葉は残っていても、連体形という名前を使うのをやめてしまいました。

ちなみにこの3つを英語に言い換えた例としてあげてみますとそれぞれ time to read (不定詞の形容詞用法・目的格)、eater (名詞・「ひと」をあらわす名詞語尾 er を追加)、something to do (不定詞の形容詞用法・目的格)、intention to come (不定詞の形容詞方法・ intend to do からの転用)などが考えられます。このうち eater をのぞいては不定詞です。不定詞は「未来志向」ですので、少なくとも「これから・・・する予定の」という文脈では、連体修飾と何らかの形で重なり合うことがわかります。

なお、連体修飾については時制や肯定・否定や完了・未完了の区別を入れて「食べる人」「食べない人」「食べている人」「食べていなかった人」「食べた人」「食べなかった人」など多種類ありますから要注意です。→形容詞節参照

(2)ナイ形

動詞の否定形を作るための形です。学校文法では<未然形>に含められています。”未然”とは「まだ終わらないこと、未完了」という意味です。つまり、本来は純粋の否定形ではなく、「まだなのだ!」という意味から転化したらしいのです。

それぞれ「読まない yom-anai 」「食べない tabe-nai 」「しない sh-inai 」「来ない k-onai 」となりますが、語幹と活用語尾との間に入れたハイフンに注目してください。ひらがなではわかりませんがローマ字であればどんな母音や子音が追加されているか一目瞭然です。英語では動詞の前に not などの否定語が来ると否定ができますから、これと比較するとまったく違った発想で文が作られていることがわかります。

そもそも「ナイ」というのは存在動詞、「アル」の否定形で使われていましたから、これも本来は一種の動詞であるとも考えられます。ですから動詞の否定形とは「動詞+動詞」、または「動詞+助動詞」の連結としてとらえることができるでしょう。日本語の否定表現が文末にくるのはそのためだともいえます。

結局のところ、このナイ形を作る必要に迫られたのはこの二つの「動詞」を結びつけてしまった(膠着させた)ために発音上の変化が生じ、それをまとめて形を整理しなければならなかったからです。

(3)意志形・・・またの名を意向形

これも<ナイ形>と同じく、学校文法では<未然形>に含められていますが、自分の意志や相手への誘いを示すことは否定とはまったく違った使い道であることから、別の名前になりました。「オウ」または「ヨウ」という助動詞を連結する形式になっています。それぞれ「読もう yom-ou 」「食べよう tabe-you 」「しよう sh-iyou 」「来よう k-oyou 」となります。英語では助動詞 will / would / might などを動詞の前につける方法がもっとも一般的です。「誘い」については Let's +原形などがあります。

(4)マス形

これを使うと、「読みます yom-imasu 」「食べます tabe-masu 」「します sh-imasu 」「きます k-imasu 」となります。マスに続く形というわけですが、マルをつけてこれで文章が終わりというだけではありません。「読みたい yom-itai 」「読みながらyom-inagara 」「読みかける yom-ikakeru 」「読みましょう yom-imashou 」「読み込む yom-ikomu 」などと、「読む」に代表される<五段活用>では語幹のあとの i を保持しながら数多くの助動詞や補助動詞との結びつきが可能です。うしろには名詞以外の要素が結合するので、これを<テ形>とともに<連用形>と呼んできました。

(5)テ形

<テ形>は「読んで yon-de 」「食べて tabe-te 」「して sh-ite 」「来て k-ite 」となります。これも「読んでから yon-dekara 」「読んでくれ yon-dekure 」「読んでみる yon-demiru 」など数多くの形をあとに続ける<連用形>の一つです。この形は不規則なため外国人学習者泣かせで有名です。最後のテがデになったり、語幹 yom が yon になったり、「書く kaku →書いて ka-ite 」「行く iku →行って i-tte 」「見る miru →見て mi-te 」「跳ぶ tobu →跳んで ton-de 」のように語幹とテの間に入るものがさまざまです。これはテが比較的発音しにくいので間に発音をなめらかにする語をはさんだ、つまり<音便(おんびん)>のためです。

なお、このテ形の前半は変えないままで最後の e を a にすれば過去を表す<タ形>になります。「読んだ yon-da 」「食べた tabe-ta 」「した sh-ita 」「来た k-ita 」。このタ形は場合によっては<過去形>というよりは<完了形>と呼んだ方がふさわしいのですがこのことは別のところで後述します。

(6)バ形

これも一種の連用形といえますが、<仮定>を専門にしているのでこう呼ばれます。「読めば yom-eba 」「食べれば tabe-reba 」「すれば s-ureba 」「来れば k-ureba 」となります。これは「・・・バ」にのみあてはまり、似たような仮定表現である「・・・ナラ」「・・・ト」には使えませんから、使用範囲は狭いのです。

英語では接続詞 if によって表すのが一般的です。しかし「一般的に言えば」「本当のことを言えば」などに使われている「・・・バ」は仮定というほどの意味はありませんから generally speaking とか to tell the truth のように準動詞を使った成句表現を使うことになります。「そういえば・・・」などではもはや仮定の気持ちはほとんど失われているといっていいでしょうから When I come to think of it あるいは Come to think of it というように接続詞は when にしたほうが近くなります。

(7)命令形

命令形には過去にいろいろな形成過程があったらしく、かなり不規則ですし変形タイプも見受けられます。「読め yom-e 」「食べろ tabe-ro ・食べよ tabe-yo 」「しろ s-hiro ・せよ s-eyo 」「来い k-oi 」とこれも日本語学習者を悩ませます。英語の場合にはすべて主語なしの動詞の原形が基本になっているのとは対照的です。ただし「降る」「落ちる」「輝く」など人間の意志が入らない動詞、つまり<無意志動詞>の場合は、命令形の形は作れても他人に命令を下すのではなくて、「そうなればいい」と願望・祈願を表すだけです。英語の場合でもその点では単純な命令形ではなく、「雪よ降れ Let it snow 」「長生きしますように Long may you live 」などといったりします。

(8)可能形

これは学校文法では扱っていませんが、何かができる、可能だということを示すための語尾です。それぞれ「読める yom-eru 」「食べられる tabe-rareru ・食べれる tabe-reru 」「(する→)できる dekiru 」「来られる k-orareru ・来れる k-oreru 」となります。このうち tabereru と koreru は間に ra がありませんので「ラ抜き表現」と言われているわけです。これが生じた原因はおそらく<受動態>と混同されないようにという気持ちの表れのためでしょう。英語での可能表現は動詞原形の前に can / be able to のような助動詞(相当語句)をつけることによって表すことができます。

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活用形のまとめ

このように日本語の動詞変化はほかの語との接続を重視して作られています。英語の活用と違い、時制に関しては「・・・タ」以外にとくに見るべきものはありません。動詞変化の中に規則性を探してみますと、「読む」については yomanai-yomimasu-yomu-yomeba-yomou とならべてみると yo のあとが「 ma mi mu me mo 」となっていることで学校文法では<(マ行)五段活用>と呼ばれています。日本語文法では、「Ⅰ類動詞」「グループ1動詞」「強変化動詞」「子音語幹動詞」などといいますが、最後の名前がもっともあっているのではないでしょうか。

「食べる」については tabenai-tabemasu-taberu-tabereba-tabeyou とならべてみると ta のあとがすべて「 be be be be be 」となっているので学校文法では<下一段活用>と呼ばれています。同じ理由で「見る」も minai-mimasu-miru-mireba-miyou となり、すべて「 mi mi mi mi mi 」となっているので<上一段活用>と呼ばれています。上一段も下一段も同じ母音で続くという点で共通しています。日本語文法では、「Ⅱ類動詞」「グループ2動詞」「弱変化動詞」「母音語幹動詞」などといい、最後の呼び名が「子音語幹」と対応します。

「する」の shinai-shimasu-suru-sureba-shimashou や「来る」の konai-kimasu-kuru-kureba-kimashou は、それぞれ<サ行変格活用>、<カ行変格活用>、つまり不規則動詞ですから外国人学習者には暗記してもらうしかありません。しかも、すでに述べたように「する」の可能形は「できる」と、まるで音が違います。

このように整理すると一見複雑怪奇に見えるシステムですが、日本語を母語とする人々はこれを何とも思わず自然に切り替えながら日常会話を行っているわけです。どんな言語でも動詞が文の中心になることが多いために、用途に応じてその姿をいろいろ変えなければならないことがわかります。

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

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