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第7章 動詞のはなし:その3

  1. 複合動詞(1)
  2. 複合動詞(2)
  3. ヤリモライ
  4. 派生動詞(1)受身・可能
  5. <コラム>自発
  6. 派生動詞(2)使役

「する→していく→していこう」 日本語では動詞がほかの動詞が簡単に結びつきますが、それによって新しい意味を次々と生み出すことができます。「する」という動詞のあとに「いく」を結びつければこれから将来に向かってことを進めるという意味を含むようになります。また、「いこう」だけでは単にある場所に向かって自分たちが移動開始をすることを示すだけですが、「していこう」というような結びつきを作ると自分たちである行動を続けるという意味にふくらみます。このように動詞を結びつけあって新たな意味を追加したり、変化させたりすることが可能なことから、<複合動詞><補助動詞>という用語が生まれました。

複合動詞(1)

英語でも二つの動詞を結合することによる、似たような表現方法が存在します。この場合、英語ではふた通りあって、一つは V + Ving で、もう一つは V + to V です。左は「本動詞」と呼ばれ、右を「準動詞」といいます。ただし準動詞をつけることのできるタイプの本動詞は全体の数から見ればわずかです。

並べる順序は例のごとく、日本語と前後が逆になります。つまり、意味を補完する働きの動詞のほうがさきで、重要なほうの動詞があとになります。「歩き始める begin to walk 」「読み終わる finish reading 」のようになります。さらに英語では<動詞+副詞>の組み合わせや<動詞+前置詞>の組み合わせを加えることによって、動詞の意味をさらに拡大強化することができます。

日本語ではまるで様相が違います。ひとつには<本動詞のマス形(連用形のひとつ)+補助動詞>の形で二つを結びつける方法があります。これは<複合動詞>といわれますが、別項で述べる<本動詞のテ形(連用形のひとつ)+補助動詞>とは区別しておきましょう。これらのおかげで日本語の動詞表現は著しく豊かになりました。補助動詞の実例をいくつか見ておきましょう。

「・・・ダス」

例文1;この古い町は多くの文化遺産を生みだしてきた。This old town has produced a lot of cultural heritage.

例文2;やがて男は真相を話しだした。Presently the man began to talk.

「だす(出す)」はその名の通り、中から外へ何かを出してくることです。「生みだす・ひねりだす・押しだす・聞きだす・醸しだす・話しだす・ふるえだす・笑いだす」などが思い浮かぶでしょう。ですから「生産」「出現」「判明」「開始}に関係する表現がたくさん見つかります。

英語ではこれらを一語であらわせる場合( produce, create など)もありますが、まずその具体的動作を最初に動詞で表さなければなりません。たとえば「ひねる(=考えめぐらす) think 」「押す push 」「聞く(=質問する) ask 」「かもす(=雰囲気を作る)」などです。英語ではすでに述べた二つの動詞の組み合わせのほかに、<動詞+副詞>という組み合わせもあるのです。「だす」に最も近そうなのは out や up でしょう。「考えだす・ひねりだす think out / think up 」「押しだす push out 」などはたまたまこの形式がうまくあてはまった例です。

もうひとつの「・・・だす」は「・・・をはじめる」という使い方があります。これは比較的容易です。英語では「start / begin to不定詞」がもっとも無難でしょう。中には「聞き出す」のように「聞くことを始める start to listen 」と「相手から話を引き出す get information from 」という二つの意味を重ねて持っている場合もありますが、文脈をよく見れば間違うことはないでしょう。

例文3;締め切りが迫っていたため、彼はたくさんの原稿を書きまくった。the deadline was closing on, so he wrote so many manuscripts in a row.

「まくる」とは”布を捲く”というようなもとの意味からすっかり離れてしまい、かなり口語的ですが普通のペースをはずれてむやみやたらに行うことです。「食べまくる」「飲みまくる」などが有名です。ですから英語では「むやみに excessively 」「見境なく indiscriminately 」「立て続けに in a row 」「猛烈に madly 」というような副詞を加えてみればよいでしょう。

例文4;間違いがたくさんあるから書き直しなさい。 There are so many mistakes that you had better begin to write anew.

「・・・ナオス」

「直す」はもとの意味がそのまま生かされています。訂正のためもう一度はじめから行うことをいいます。単に「再び繰り返す」とは少し違い、あくまでよりよく完成されたものを目指します。ですから、英語では単なる again ではなく、 anew のように出なおす形が求められます。

例文5;突然の夕立のあと、空がすっかり晴れ上がった。The sky cleared up after the sudden shower.

例文6;その報告書は今月の末までに書き上げてくれ。I want you to finish the report by the end of this month.

「・・・アガル」

「上がる」は「飛び上がる」「のし上がる」のように文字通り上へ上がる、地位や運命が上がるという意味のほかに、例5のように頂点に達する、すっかり・・・するという意味があります。単なる「晴れた」ではなく、完璧に100%晴れた結果を示しているようです。

英語では「すっかり completely 」のような一般副詞を使ってみるか、up のように特定の動詞と結びついてやはり完璧さを示す副詞を使ってみるのがよいでしょう(例;使い切る use up )。また、例6のような場合にはある動作が済んだ、完成したことを示します。「書く write 」のように特定の動詞でなくても差し支えなければ、「完成させる accomplish / finish 」などを使えばよいのです。

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複合動詞(2)

複合動詞の2番目のタイプは<本動詞のテ形(連用形)+補助動詞>で結びつき新しい意味を作り出します。補助動詞といっても本来は独立した動詞だったので、もとから持っている意味が基本動詞に大きな影響を与えます(「・・・てクル」の”ひらがな部分”はテ形のしるしです)。こちらは有名な<ヤリモライ>をはじめとして、「マス形」よりも重要な表現が目白押しです。

「・・・てクル」「・・・てユク」

本来、「来る」は遠くから近くへ接近し、「行く」は近くから遠くへと遠ざかるという意味を持ちます。単独ではこのような空間的な観点で話を進めますが、ほかの動詞と結びつくといろいろな意味が生じます。その点、「いってくるよ」というあいさつは”ちょっと外出してまた戻る”ことを的確にあらわしている傑作ではないでしょうか。

例文1;彼はその空き家の中に入っていった。He went into the vacant house.

例文2;帰り道に野菜を買ってきてください。Please buy some vegetables on your way home.

例文3;兄は今日たくさんの荷物を抱えて(会いに)きた。Carrying a lot of baggage, my brother came to see me today.

例文4;同僚が助けを頼んできた。One of my colleagues asked me for help.

例1では彼が「入っていく」というのは話者が今いるところから「立ち去る」ことでもあります。逆の「入ってくる」を考えてみるとわかるようにこれは話者から遠ざかるか接近するかのいずれかとなります。これがもっとも本来の「行く」「来る」に近いものといえましょう。ですから英語では go / come を使い分け、さらに方向をあらわす前置詞か副詞( out of / into / away / off / to など)を結合することになります。

例2ではまず「買う」そのあと「来る」という”手順”もあらわします。英語の場合ここでは「家に帰る途中で on one's way home 」と組み合わせてみました。例3では「抱える」のと「来る」のが”同時”です。「・・・ナガラ」によく似ています。英語では<付帯状況>のつもりで現在分詞 Ving を使ってみました。そして come to see / come and see は決まり文句です。なお、日本語でも英語でも、「会いに」は目的をあらわすので<副詞句>としてとらえられ、「抱えてきた」のまんなかに挿入されていると考えます。

例4での「頼んでくる」は、話者に向かって誰かが”働きかけ”をした意味であり、空間移動の意味はありません。しかし一方で、「頼んでゆく」にするとむしろ例2のタイプに近くなってしまいます。英語では日本語にはなかった、暗黙の話者である「私に me 」をつけることによってあらわしてみるのはどうでしょう。

例文5;結婚してから少しずつ太ってきた。I have grown a little fatter since I got married.

例文6;4年間数学を研究してきました。I have been studying mathematics for four years.

例文7;テニスの選手は年を取るにつれて少しずつ腕が落ちていきます。As they grow older, tennis players gradually lose their touch.

例文8;真夜中になるとトランペットの音が聞こえてきた。At midnight, the sound of trumpet began to be heard.

例5から8まで共通していえることは、いずれも”変化”を含んでいる表現ですから、もとから不変な動詞、「そびえる→そびえていく」などは不自然になります。時間の観点からすると、「くる」は過去から基準となる時点に向かって時間が進んでくるとき、「いく」は基準となる時点から未来に向かって時間が進んでいくときに使われます。基準となる時点は「過去」「現在」「未来」の3通りが考えられます。

例5では「結婚した」のが過去の時点であり、「太ってきた」とタ形を使っていますから太り続けて現在の結果に至る図式です。これは英語では現在完了の<結果>によって変化をあらわしてみました。時制を考えればそれぞれ過去完了、未来完了も可能です。一方、「太ってきている」ならばタ形を含まないので、まだこれからもどんどん太り続けることを暗示しています。

例6では「研究開始」が4年前、そして絶えず研究を続けて現在に至る。これも現在完了の<継続>を使い、変わらずに続いていることを示すために(動作)動詞の進行形を使っています。「太る get fat 」がある”到達点”を目指している表現なのに対し、「研究する study 」は終わりのない”連続行為”を表す表現であることに注目してください。

例7にあるように、客観的に観察できる”消滅”ですと「・・・てユク」を使います。一定期間の変化というわけではないので英語では、完了形より単なる現在・過去・未来形のほうが向いています。ここでは一般論なので現在形にしました。「(腕が)落ちてくる」だと自分の”体験”という主観的なニュアンスが加わるようです。

例8は話者にとってそれまでなかったことが始まることを示しています。つまり”出現”なので「・・・てクル」を使っています。、だから「???聞こえていった」がありません。英語では start to不定詞、begin to不定詞などが考えられますが、いきなり「 Suddenly I heard....」などとやってもいいのかもしれません。

「・・・てシマウ」

「しまう(仕舞う)」とは本来、道具をしまう、店をしまうに使われている動詞であり、”片づける”という意味や”後戻りできない”という意味を含んでいます。ですからこれが補助動詞をして使われると<完了>の意味がつけ加わると想像できます。

例文1;ホテルに着く前に日が暮れてしまった。The sun has already set before I got to the hotel.

例文2;あまりむずかしいので宿題をするのをやめてしまった。The assignment was so difficult that I gave up finishing it.

例文3;あまりおかしいのでつい笑ってしまった。It was very funny, so I couldn't help laughing.

例文4;家に帰る途中、鍵を落としてしまった。It was not until I got home that I found I had lost my key.

例文5;楽しみにしていたテレビドラマが終わってしまった。I was looking forward to seeing the TV drama series, but now it finally came to an end.

意外にも、いろいろな方面で使われているようです。これらの5つの例文には<未完了>の要素は入っていません。例1を見ますと「・・・する前に」など、「すでに」の意味を持つ語句が含まれていますので、もっとも普通な完了表現です。英語では現在の時点であれば<現在完了>、後日談であれば、<過去完了>を使うことになります。

例2では単なる「やめた」ではなく、困難に直面してもう本人があきらめた、またはやる気がなくなったことを示しています。英語では「・・・するのをあきらめる give up Ving 」「・・・する努力をやめる stop trying to不定詞」などの表現方法が考えられます。

例3では「つい」という言葉に現れているように、自分自身でコントロールすることの難しい状況です。よそ行きの場面で笑うとか、(禁じられているのに)たばこを吸ってしまうとか、(肝臓を悪くしているのに)酒を飲んでしまうとか、(わかっているのに)万引きをしてしまうとかのような場合があてはまります。英語では「つい・・・ in spite of oneself (副詞句)」とか「・・・せずにいられない cannot help Ving / cannot but 原形」などが使えるかもしれません。

例4では自分の不注意のために失敗をしてしまった場合です。こんな表現は英語では一言では済みません。「不注意にも carelessly / inattentively 」のような副詞を使うか、例文のように「家に帰ってはじめて気づいた・・・」のような新しい形での作文が必要かもしれません。

最後の例5では自分の期待にあわない結果、自分にとって不都合な事態が生じたときに使います。例文の日本語では「楽しみにしていた」が名詞である「テレビドラマ」にかかる<連体修飾節>になっています。しかし英語では結果を示すために、これを普通の主語・動詞の文で書き、接続詞 but を使ってあとの文につないでいます。

日本語の文では「終わってしまった」があるために、それ以前におきたことはいろいろと自由に書けますが、英語の文ではやはり最終的な結果に導かれるように文を構成したほうが自然な流れになります。またこれは「ついに(終わった)」というニュアンスですが、これについては「(長いこと待ちわびて)ついに at last 」ではなく、「(時間が経過して)ついに finally 」という意味でしょう。

「・・・てオク」

「おく(置く)」はその語の通り、いったん何かの上に置いたらそう簡単に移動したりしないことから、その意味が本動詞に加わります。

例文1;長方形の中に車を止めておいてください。Keep your car in the rectangle.

例文2;子供たちを公園で遊ばせておいた。I let the children play in the park.

例文3;ビール代はここにおいておきますよ。I'll put the fee for beer here.

例文4;10時までに部屋を掃除しておいてね。Please finish cleaning the room before 10.

あることを意図的にその状態を”持続”させるのがこの言い方のもっとも代表的なものです。例1がそれにあたります。「いったん車を止めたらその場所から動かさない」を表しています。英語では「保つ」で有名な動詞の keep が <keep O +分詞・形容詞・前置詞lプラス名詞>の形でよく用いられます。

例2では意図的ではなく、”放任”の意味合いが入っています。子供たちは遊ぶことを望んでいるのであり、親はそれをとめないからです。英語では<使役動詞>のひとつである< let +人+動詞原形>がもっとも有名です。また例1でも keep を leave に入れ替えることが文型的に可能です。

例3は「おきっぱなし」ではありません。うかうかしていると置引きにあってしまいますから、”一時的”においておくだけです。これは同じ語同士をテ形で結んだ珍しい例です。英語では leave より put のほうがいいのかもしれません。

例4は、たとえば来客準備の場面です。絶えずきれいにしておくならば例1のタイプになりますが、ここでは”前もって(所定の時間前に)やるべきことをやっておく”という意味です。英語では「掃除する clean 」よりも「掃除を終える finish cleaning 」としたほうが確実でしょう。

「・・・てミル」

「みる(見る)」とは確認すること。つまり本動詞によってある所定の動作を実際にしたあと、それがどのような結果を生むかを明らかにすることになります。

例文1;難しいことはわかっていたが、その大学を受験してみた。Though I knew it was very difficult, I tried taking the entrance examination of the university.

例文2;会ってみると、とても親切な人だとわかった。I met him and found him very kind.

例1では「試みに・・・してみる」ということでそのあと成否を確かめることになります。試行が先で結果判定があとになります。英語でいうと try Ving がこれに近いといえるでしょう。「・・・しようとする try to不定詞、attempt to不定詞」とは努力中であってまだその行動には移っていませんからこれと区別しなければなりません。

例2の場合はもともと結果を求めて行動したわけではないが、そのあとになって、あることに気づいたことを示しています。これは行動が先で、そのあと(偶然の)発見が現れることになります。成否確認の目的が伴いませんから英語では先の try Ving はかえってじゃまになります。何もつけたさないか、「(勇気を奮って)会ってみた dared to meet him 」にするなどが考えられます。

「・・・てミセル」

「みせる(見せる)」とは品物を提示すること。ですからこれに本動詞が結びつくと相手に自慢、説明、紹介の目的で行動することを示します。

例文1;先生はその単語を発音してみせた。The teacher pronounced the word and showed us what it was like.

例文2;今度のテストで満点をとってみせるよ。You may not believe it, but I'll get full marks in the next test.

例文3;彼女は悲しそうな顔をしてみせた。She made herself look sad.

例1はもっとも典型的な使用法で、発音することを通して生徒に<実演による説明>を試みています。英語では前半の文でも十分ですが、後半に「それがどんなものかを(私たちに)示した」とつければ、舌足らずになる心配はありません。

例2では説明ではなく、明らかに相手に対する<誇示(場合によっては”とらぬ狸の皮算用”?)>になっています。英語では後半の文だけでも十分ですが、前半に「君は信じないだろうが」という前置きをつけてみました。

例3をみてください。本当は悲しんでいない、でもまわりの人はそうだと信じさせられてしまっている。つまりこれは”演技”です。「彼女は悲しそうに見えた She looked sad. 」は、彼女自身悲しい顔にしようという意識はありませんが、これに例文のように make の中にこの文を加えると意図的にそのような顔にしたことがわかります。She tried to look sad. でもうまくいきそうです。

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「ヤリモライ」(授受動詞)

補助動詞の中で特に重要なもののひとつは<やりもらい>です。「・・・てモラウ」「・・・てアゲル」「・・・てクレル」「・・・てヤル」「・・・てサシアゲル」「・・・てイタダク」「・・・てクダサル」の七つは、日本の煩雑な人間関係を表す象徴的な表現方法です。この七つは単独用法もありますが、ここでは<本動詞のテ形+補助動詞>の組み合わせを中心としてみていきましょう。

なぜ<ヤリモライ>が生まれたのか。日本語にはどうしてこの独特な語法が存在するのでしょうか。「金をわたす→金をやる・金をあげる」「金を受け取る→金をもらう」というふうに中立的な表現からこれらが変化して生まれたのは、ひとつには主語のない文でも主語にあたる人物を推定しやすいように、もうひとつは、かつては身分の上下、現代社会では債権者と債務者の区別を非常に気にする国民性のためだと思われます。

債権者とは恩恵を与える人、温情的な立場にある人のことであり、債務者とは恩恵を受ける人、援助を受ける立場にある人のことです。誰がどちらの立場に属するのかを確かめずにはいられない気質がこのような表現方法を生んだのではないでしょうか。個人の主張より集団内の調和を重視する社会的雰囲気によって、それぞれの立場を間違いなく特定できるような言い方が求められてきたようです。

これらのタイプは目上と目下、債権者と債務者、恩恵者と受益者、義理などの複雑な人間関係を含んでいます。しかも主語が省略された場合には、ますます外国人にとっては不思議な表現法です。英語で表す場合には明確にするために「優越感、劣等感、お高くとまった態度、卑下する態度」などを表す副詞的表現を追加する必要があるかもしれません。

例文1;私はあなたに指輪を買ってあげましょう。I will buy a ring for you.(←買いましょう)

例文2;彼女は彼にドレスを贈ってもらった。She was given a dress from him.(←贈られた)

日本ではお中元やお歳暮の季節になると、会社などでは贈答品の山が築かれます。日本人にとって「ヤリモライ」とは単にモノを渡すだけでなく、サービスをやりとりすることの意味でもあります。ですから普通の動詞テ形に<補助動詞>として追加することによって相手や自分への利益の供与を示すようになりました。

例1の文によれば「私」は「あなた」より経済的に優位にあるということが容易にわかります。たとえば母親とその年若い娘の間柄など。英語では前置詞の for がそのような利益関係を示す場合があります。これに対し、単なる「買いましょう」ではその関係はあまりはっきりとは見えてきません。

同様に、例2では「彼」がドレス代の支出者、「彼女」が(何らかの事情により)プレセントを受け取る立場にある人、ということがわかります。”依存性”が示されているために、彼女には金持ちの恋人がいるのかな、などと想像できます。このように「ヤリモライ」は人間関係の様子がすぐわかる非常に便利な道具なのです。

例文3;(お金に余裕がありますから)私はあなたに指輪を買ってあげましょう。I will buy a ring for you as I can afford to.

例文4;(自分への愛の印として)彼女は彼にドレスを贈ってもらった。She was given a dress from him as a token of his love for her.

例文3,4は、例文1,2にそれらの解釈を加えたものですが、英語に翻訳する場合にも「あげる」「もらう」という言葉遣いを使うに至った”背景”がわかるような表現が追加されればわかりやすいでしょう。

「する→してあげる」「する→してくれる」「する→してもらう」の表現に変えるだけで、受け手と与え手の立場がすぐわかり、敬語とならんで主語のない日本語をわかりやすくする援護射撃になっています。英語では「あなたのために for you 」とか「彼女に to her 」などと追加したり、例5以降の< have 構文>を使ったりして工夫することは可能ですが、基本的にこの種の表現はありません。西洋と日本の人間関係への見方の違いが言語の形式にもあらわれているのかもしれません。

例文5;彼は私の自転車を修理してくれた。(←彼は私の自転車を修理した。He repaired my bicycle.) →彼に自転車を修理してもらった。 I had him repair my bicycle. = I had my bicycle repaired by him.

例文6;彼は彼女の自転車を修理してあげた・してやった。(←彼は彼女の自転車を修理した。He repaired her bicycle.)→彼女は自転車を修理してもらった。She had him repair her bicycle. = She had her bicycle repaired by him.

例5と例6では「くれる」「あげる」「やる」「もらう」の違いがでています。例5ではカッコ内の文と比較すると、「話者」である1人称”私”の感想が前面に押し出されているのがわかります。「くれる」には修理した人の自主的なサービス精神への”感謝”が、「もらう」には話者のサービスをしてくれた人への”依存”が示されています。

一方、例6では3人称同士の関係が示されており、「あげる」には修理できる人のできない人への”サービス精神”が、さらに「やる」には”優位性”の感情が追加されています。「もらう」には修理できない人の修理できる人への”依存”が示されています。

英語ではヤリモライがなくとも、サービスの提供者とサービスの受益者をきちんとあらわして許される文型の範囲内で書き、あとは必要に応じて適当な修飾語句を追加することになります。例文5,6では自転車が誰の物であるか<所有格>がいちばんのポイントとなります。というのもここで my や his がついていることによって所有者、ひいては受益者がはっきりするからです。さらに例5,6では have / get の構文(うしろに目的語と動詞原形または過去分詞を使って最初の文章を取り込んだもの)を使ってみました。これは心理的に「・・・てモラウ」に最も近いかもしれません。

例文7;幸子がシチューを作ってくれた。Sachiko made stew for me. / Sachiko made me stew.

例文8;彼は私の写真を撮った。He took my photo. / My photo was taken. →彼は私の写真を撮ってくれた。私は写真を撮ってもらった。 I had my photo taken. / I had him take my photo.

例文9;彼は私を助けてくれた。私は彼に助けてもらった。→ He helped me. / I was helped by him.

最後に、英語とよく比較されるいくつかの文型の例を挙げてみます。例7の場合ですと、make の3文型(モノをあらわす目的語一つ)プラス for me と、4文型(人・モノをあらわす目的語合計2つ)を使って書いてみました。例8での「写真をとる take a photo 」のように3通りの書き方しかない場合(能動・受け身・have構文)と、例9での「助ける help 」のように2通りの書き方しかない場合(能動・受け身)とがあります。

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派生動詞1(受け身・可能)

派生動詞とは、「読む yom-u →読まれる yom-areru ・読める yom-eru ・読ませる yom-aseru 」などのように、基本になる動詞語幹のあとに一定の働きをする<助動詞>をつけることによって新しい機能が付け加わった動詞のことををいいます。助動詞はそれだけでは独立した単語の働きはできず、必ず基本動詞に”寄生”してはじめてその機能を発揮できるという点で補助動詞とは異なります。英語の一般的助動詞や、受動態に使われる be動詞、使役動詞などがこれらに相当するといえます。

mso-bidi- mso-font-kerning:0pt'>受け身

形の上では動詞に助動詞「レル・ラレル」をつける必要がありますが、動詞によっては子音字がついたりつかなかったりするので、ローマ字で表記しますと、areru / rareru / reru の3通りとなります。これらは場合によっては<可能><自発><尊敬>ともとれるので、構文上の考察が必要です。

日本語では、主語の変わらぬままに自由に受け身の体制を作れますが、英語の受け身は他動詞(または自動詞+前置詞)の目的語を主語に変えることがまず第1におこなわれなければならないのです。また、英語の場合には、受け身にできる他動詞も無制限ではありません。これに対して、日本語ではどんな動詞でも原則として受け身を作ることができるのです。たとえば「雨に降られる」「息子に死なれる」「いやな客に長居される」など多くは<被害・迷惑>の気持ちを強調するためのものです。

例文1;彼女は私を殴った。She hit me. →私は彼女に殴られた。 I was hit by her. (他動詞の目的語が主語に)

例文2;彼女は私を見た。She looked at me. →私は彼女に見られた。 I was looked at by her.(自動詞+前置詞の目的語が主語に)

英語では例文1、2のように規則通りの正しい変形が必要です。まず能動文の目的語にあたる言葉を主語にたて、動詞は be+Ved(過去分詞)の形にして、もとの主語が「動作主」であるとはっきりすれば by でつなぎます。しかしながら「私は待っていた I was waiting. 」から「私は待たされた」を表す英語での受身形はこのやり方ではできません。なぜなら英語でのこういう場合の wait はれっきとした自動詞であり、前置詞がつかない限り目的語がないから、主語をたてられないのです。ではどうすればいいのか?

例文3;私は待っていた。I was waiting. →太郎は私を待たせた。 Taro kept me waiting. →私は太郎に待たせられた。 I was kept waiting by Taro.

例文4;私は書いた。 I wrote →彼は私に書かせた。 He made me write. →私は書かせられた。 I was made to write.

例文5;彼は横になっていた。 He was lying. →彼らは彼が横になっているのを発見した。 They found him lying. →彼は横になっているのを発見された。 He was found lying.

例3での「待った」のは、何かがまたは誰かが”原因”で待つ羽目になったと考えられます。このような場合、英語のkeep は他動詞で主語は原因となる語、そのうしろは Ving / Ved /形容詞のいずれかを含む形で文を取り込むことができます(第5文型)。「太郎」が私を待たせ続けたのならこれを主語にして keep を始め、その後に I was waiting を入れてみます。これで受動態を作る準備が整いました。したがって「私は待たされた」ができあがります。英語でなんとしても受け身を作りたければ、例4,5のように第5文型の他動詞 keep, find, make などの”入れ物”を引っぱり出してくる方法があります。

例文6;その男は私の鞄を盗んだ。The man stole my bag. →私のかばんが盗まれた。 My bag was stolen. →私はかばんを盗まれた。 I had my bag stolen.

例文7;その男は私から鞄を奪った The man robbed me of my bag. →私は鞄を奪われた。 I was robbed of my bag. X My bag was robbed.

「盗む steal 」と「奪う rob 」による受動態を比較してみましょう。これによって日本語と英語がまったく違った考え方に立って受動態を作り上げていることがわかります。

例6によると、動詞 steal は能動態では主語に”犯人”、目的語に”金品”が入ることがわかります。これを受動態にすると、鞄が主語になりますが、持ち主である”私”は所有格の形で鞄につくだけになります。

ところで日本語にはさらに「私の」を「私は」として独立させる言い方があります。つまり”被害者”と実際に盗まれた”品物”とを分離するのです。しかし「私は鞄を盗まれた」から「鞄を」の部分を除くと、「私は盗まれた」となり、文が成り立ちません。この場合、主語ではなく”目的語”に対して受動態が生じているという変則的な形が生じているのです。

これに該当するのが英語での< have構文>です。これも<第5文型>ですので have のうしろに”ミニ文”を取り込む方法です。つまり have そのものではなく、あくまでミニ文の部分が受動態を維持しているのです。

一方、rob は steal とは微妙な違いがあるものの、一応 rob = steal something from とみなすことができます。動詞 rob の目的語は例7にあるように、”被害者”であって”金品”ではありません。したがってこの文を受動態にすると主語は”私”になってしまいます。”鞄”を主語にすることができないわけです。したがって rob では先の have構文を使うこともありません。

ここでわかることは、英語では受動態において単純に目的語を主語にするためにそれぞれの動詞の特性に基づいた変形がおこなわれるわけですが、日本語の場合は<助詞>をつけることによって、自在に新しいタイプの受動態を作ることができることがわかります。これは一見便利なシステムですが、厳密に考えると、しばしば論理的に問題が生じることがあるのです。

例文8;京都は訪れる価値がある。Kyoto is worth visiting. ←( Kyoto is visited. ← We visit Kyoto.)

例文9;この車は修理する必要がある。This car needs repairing / to be repaired. ←( The car is repaired. ← They repair the car.)

英語では be+p.p. の代わりに、Ving形(動名詞)を使っても受動態を表すことがあります。例8では最初に「私たちは京都を訪れる」をいったん受動態にしました。「・・・する価値がある be worth Ving 」は必ず受動態を材料にすることになっています。したがってできあがった文章はおなじみの< be動詞+過去分詞>の形はしていませんが、直訳としては「京都は訪れられる価値がある」ということになります。

同様に例9でも、「・・・する必要がある need Ving 」も受動態を材料とするので(ただし to be 過去分詞も可)「その車は修理される必要がある」という文ができあがります。worth や need を使った場合、本来目的語であった Kyoto や car を主語に持ってくるためには、このような手続きを踏まなければならないのです。

例文10;この川は泳ぐのが危険だ。This river is dangerous to swim in. (← It is dangerous to swim in this river.)

例文11;彼は話しかけやすい。He is easy to talk to. (← It is easy to talk to him.)

<あるタイプの形容詞+to不定詞>も受動態の形式を用いずに目的語を主語に移動させることができます。もっとも、ここまでくれば普通の意味での受動態とはいえませんが。例10、例11とも、それぞれ this river と him が目的語の位置から主語の位置へ移動したことを観察してください。

このタイプの形容詞は、 difficult, easy, hard, tough, interesting, dangerous などがあげられますが、いずれも上のように it を主語にして書いた場合のあとにくる不定詞の部分の目的語を主語に持ってくることが可能です。

例文12;彼は部屋の外に出るようにいわれた。He was told to go out of the room.

例文13;彼は金持ちだといわれている。He is said to be rich. = It is said that he is rich.

例12にある動詞 tell の受け身は「(人から)(・・・であると、・・・しろと)言われる」という意味で主語は「ひと」ですが、 say の受け身は「・・・が世間で言われている、噂になっている」という意味で、主語は「ものごと」です。根本的に性質が異なっています。

例13「言う say 」の受け身は二通りの方法が可能です。一つは that節を主語にして、先頭には仮の主語 it をおく方法。もう一つは he と be動詞 の間に say の受動態をはさむ方法。この場合には動詞がふたつ続いてしまうので、あいだに to を入れます。「報告する report 」「信じる believe 」の場合も同様です。

このように英語の場合の受動態ははじめに能動態があって、そこから導き出した正しい変形によって得られるものです。それ以外の方法で勝手に作ることはできないのです。ところが日本語ではたまたま英語とその構造が一致する場合も多いが、まったく英語からは転換不能なものも少なくないわけです。

例文14;「彼は教室を出された He had to go out of the classroom. 」

例14は「彼は教室を出た He went out of the classroom.」の文を「先生が追い出した」という意味を付け加えるために、例4の方式にならって He was made by the teacher to go out of the classroom としてもいいのですが、”否応ない状況に陥る”という意味だけであれば受動態にしないで単なる have to を加えるという考え方もできます。

例文15;「妻が夫に死なれた。 She lost her husband. 」

これは日本語では”悲惨な運命”を示すために使われている受け身です。例15のもとになるのは「彼女の夫が死んだ Her husband died. 」でありそこから受動態を作ることはできません。英語ではむしろ lose のように使用する動詞を工夫したほうが、よりよい表現を目指すことができます。

例文16;「昼寝の最中に友だちに来られた When I was taking a nap, a friend called on me. 」

例文16は「友だちが来た」を素材にしながら、自分の迷惑な気持ちを表す表現です。。英語では come の受動態は不可能だから能動態で書いてしまえばよい。迷惑だとか不便だという文脈をいれたければ、それに適した副詞(句)を追加することが考えられます(もしいいのがあれば)。

<わかりますか?>

次の文で指定された動詞を使って英語の受動態に直接転換可能な受け身の文はどれでしょう?

(1)係員が客に荷物を預けられる<check>

(2)荷物が客によって係員に預けられる<check>

(3)太郎が花子に足を踏まれる<step on>

(4)太郎が花子に泣かれる<cry>

(5)太郎が自宅の南側にマンションを建てられた<build>

(6)彼は知らぬうちに写真を撮られていた。<take>

解答例

(1)不可(2)可→ The baggage is checked for a tourist by a clerk.(3)可→ Taro has his foot stepped on by Hanako.(4)不可(5)不可(6)可→He had his photo taken without knowing it.

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可能というのは4種類も表現方法があるのです。人々はあまり意識しないまま日常生活でかわるがわる使っているのでしょうか。英語の can を訳すとなるとどれを選んだらよいのか特に決まっているわけではありません。「書く」の場合ですと(1)書ける(2)書くことができる(3)書かれる(4)書きうる」ですが、最初と2番目がよく用いられているようです。3番と4番目は使われる機会が減っています。この中で最初の「書ける kak-eru 」が一般に<可能形>とよばれています。

この可能形は形の上では動詞に助動詞をつける必要がありますが、動詞によっては子音字がついたりつかなかったりするので、ローマ字で表記しますと、eru / rareru となります。このうち rareru は一段活用、たとえば「見られる mirareru 」は受身と同音異義語ですから、誤解を避けるためにますます多くの人々が、一部の人々の間で評判の悪い<ラ抜き>表現で「見れる mireru 」というのは、一見合理的な流れなのです。なお不規則動詞である「スル」の可能形は「デキル」です。

例文1;あなたは英語が話せますか? Can you speak English?

例文2;あなたは英語を話しますか? Do you speak English?

例1と例2は英語会話の中ではおなじみの違いです。わざわざCan you...? で聞くことはもしその能力の有無が問われているととられるおそれがあります。これに対し Do you... ? で聞くと単に英語を使っているかどうかの質問になるというものです。もちろんこれはさまざまな場面によって大いに左右されるのですが。

例文3;飲もうとするといつも気持ち悪くなるので、私は酒が飲めません。I cannot drink., because I always feel like throwing up whenever I try to.

例文4;今夜は車の運転があるので酒が飲めない I must not drink because I have to drive a car tonight.

例文5;肝臓を痛めたので酒が飲めない I can't drink because my liver is not in a good condition.

日本語の可能表現もさまざまな場面によって意味が異なります。例3は能力の有無です<能力可能>。しかしいつもそうだとは限りません。例4のように誰でもその立場にあれば、できない状況にある場合も考えられます<客観的な状況可能>。こういうとき英語では can を使ってもいいのですが、ほかにたくさんの可能表現があるので( be able to, be capable of, it is possible to など)誤解を生じないように使い分けをするほうが賢明です。また例5のように<状況>がもとになっているが、”自己の判断”によってできるかできないかを決める場合もあります(主観的な状況可能)。

例6;学生時代に1万メートルは泳げた。I could swim 10.000 meters when I was a student.

例7;昨日競技会で1万メートル泳げた。I was able to swim 10.000 meters at the contest.

「過去」における可能は日本語においてはさほど気にとめることはありませんが、英語の場合、例6のように「そのような能力があった」に could を使い、例7のように「実際にやることができた」には was/were able to を使うという区別をすることがあります。

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<コラム>自発

この概念はまだはっきりと定義されていませんが、日本語では物事が勝手に起こってしまったり、話者の気持ちが自然にわいてきたりする状況を示すのに使われます。多くが可能表現を利用しています。可能との決定的なちがいは「主語」です。

例文1;この本はよく売れる This book sells well.

例文2;このボタンはよく取れる This button easily comes off.

例文3;このナイフはよく切れる This knife cuts well.

例1,2,3はいずれも主語であるモノが人による努力や工夫無しに動いていくさまを表しています。英語でもそれに似たものは存在するのです。たとえば sell や cut は本来”人”を主語とする他動詞(例;I sell the book. )なのに、このような場合には”モノ”が主語になっている自動詞という特殊な用法です。ただし can のような助動詞は普通、同時に使いません。

例文4;毎年夏になると亡き友がしのばれる Every summer reminds me of my late friend.

例文5;この映画を見ているうちに泣けてきた The movie made me feel like crying while seeing it.

例文6;あまりの滑稽さに笑わずにはいられない It is so funny that I can't help laughing.

例文4,5,6は精神作用が何かが原因で起こってくる状態を示しています。つまり自分の意思ではなく、何か外科医のある力が自分の精神を変えてゆく状況です。英語でも例4,5では主語がその後の気持を決める原因になっていますが、これは主語がやはり”ひと”ではなく”原因・理由”で構成されている、いわゆる<無生物主語構文>を用いているためです。例6では成句である「・・・するのを避けられない=・・・せずにはいられない cannot help Ving 」を利用して話者の気持ちを表しています。

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派生動詞2(使役)

日本語での使役は<ナイ形>に aseru / saseru という助動詞を動詞の後につけたものをさします。「書く kak-u →書かせる kak-aseru →書かす kak-asu (書かせるの簡略形)」というように、作る方法がわかれば他動詞でも自動詞でも使役にすることができます。

また、<指示者>が主語に入り、さらにその後に<動作者>を「ヲ格」または「ニ格」で表すことになります。ヲ格の場合ですと「走る→(生徒ヲ)走らせる」「泣く→(少女ヲ)泣かせる」のように、本来は自動詞で使っている動詞を一見、”他動詞化”するために使役表現を利用しているところがあります。

例文1;先生は学生たちに作文を何度も書かせた。The teacher made the students write compositions over and over again.(←学生たちは作文を何度も書いた。The students wrote compositions over and over again.)

例文2;息子に私の車を修理してもらおう。I will have my son repair my car.(←息子は私の車を修理する。My son will repair my car.)

例文3;彼らは子供たちを公園で遊ばせた。They let their children play in the park.(←子供たちは公園で遊んだ。Their children play in the park.)

例文4;社長は客を10分間待たせた。The boss kept his visitor waiting for 10 minutes.(←客は十分間待った。 The visitor waited for 10 minutes. )

<使役動詞>といえば、英語では< make, have, let +動作者+動詞原形>からなる構文ができあがります。それぞれの使役動詞はmake(強制的)、have (依頼)、let (放任・許可)というような<強制度>の違いがそれぞれの文脈からわかるでしょう。そしてそれぞれの使役文には←で示してある文が実は組み込まれています。ここでの使役はミニ文の主語を目的語にしている構造です。英語では<第5文型>と呼ばれる形式です。

日本語では<指示者+ハ・ガ格+動作者+ヲ・ニ格+動詞+使役助動詞>の形をとることになります。日本語の使役文がこの構造に一致する限り、たいていの英文を作り出すことが可能です。ただしこれらの使役動詞ではニュアンスがちょっと違うようなときは、例4のように同じ構造をとる動詞 allow, keep, leave, set, render, cause などが登場することもあります。これらは動作者のあとの動詞原形の部分が現在分詞だったりto不定詞だったりします。

また、場面がわからなければ迷ってしまう場合がいくつかあります。

例文5;彼はその重い家具を動かせた。He could move the heavy furniture./ He had the heavy furniture move.

例5での「動く→動かせた」というのは文脈抜きでは<可能(能力があった)>ともとれるし<使役(動かすための工夫をした)>ともとれます。

例文6;母親は赤ちゃんにバナナを食べさせた。The mother gave her baby a banana to eat. / The mother let her baby eat a banana.

例6では「食べる→食べさせる」というのは同じく文脈抜きでは<介護(健康を考えてあてがう)>のか<許可(赤ちゃんは食べたがっている)>か迷うところでしょう。

例文7;息子の受験の失敗は父親をがっかりさせた。His son's failure in passing the examination disappointed the father.(=父親は息子の受験の失敗にがっかりした)

例7は動作が動作者の意志によらない感情の<結果表現>であり、一見使役表現になっていますが、実は名目上の動作者は「失敗」であり、指示者が見あたりません。助動詞はちゃんとついていても本物の使役ではないのです。

英語では 「がっかりさせる disappoint 」という(感情の)他動詞があり、「原因」を表す主語と「人」を表す目的語を補うだけで済んでしまうのです。「驚かせる surprise 」「興味を抱かせる interest 」「興奮させる excite 」「喜ばせる please 」「怪我させる injure 」など、使役表現を含んでいるのはみなこのタイプです。このような場合がありますから英語ではいわゆる使役動詞を使う前にそのまま使える他動詞がないかあらかじめ調べておく必要があります。

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

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