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第10章 名詞・代名詞のはなし

  1. 名詞とは
  2. <コラム>目的語とは
  3. 代名詞
  4. 形式名詞
  5. <コラム>・・・ノハ強調構文
  6. 長い主語と短い述語・・・ it の構文(英)

名詞は言語の進化の歴史からすると最初に現れたのかもしれません。ですが「者の名前」という単純な働きを脱して、動詞と、そして形容詞と複雑な共同作業を行うようになりました。特に重要なのは<代名詞>です。ある外国語を学ぶつもりなら、その代名詞はすべてマスターしている必要があるほどです。

名詞とは

英文法での名詞は、単独なものとしてみると、「ものの名前」というように素朴ににとらえられていますが、言語の中では動詞を中心とする構造の中で<主語><目的語><補語(主語を説明するための語で、属詞ともいう)>の3つに大きくわけて使われています。日本語文法ではこの3つのほかに<主題>をあらわすための働きが加わります。

英語の場合、名詞の2大区分法は数えられる名詞(可算名詞)と数えられない名詞(不可算名詞)にわけることです。一般的に西欧・中近東の言語は名詞については数えることにかなり執着するようです。アラビア語のように単数、複数のほかに、二つであることを示す双数(そうすう)を備えているものさえあります。

ところが日本語はどうでしょうか?名詞においてその単語そのものが単数か複数であるかを示す印は特にありません。西欧語の観点からすると日本語の名詞はすべて”不可算”だということになります。「人→人々」「若者→若者たち」というように語尾を変えることは一部行われていますがだからといって「人」や「若者」そのものが単数だと決まっているわけではありません。

ですから、単数を表す英語の冠詞 a のようなものも発達しませんでした。しかしそれでは不便だということで、数えるための名詞、つまり中国語で言う<量詞(りょうし)>ができあがりました。「一頭の馬」「二羽のカラス」「三丁の豆腐」など、それぞれの名詞の高位範疇(こういはんちゅう)、たとえば馬に対する四足の獣全般、カラスに対する鳥全般など、を示すのでなかなか便利です。こうやって不可算名詞も数を意識することができるのです。

この知恵は英語においても不可算名詞や対(つい)のものにも使われています。「一杯のコーヒー a cup of coffee 」「一個の家具 an article of furniture 」「ひとそろいの靴 a pair of shoes.」などです。しかし英語の世界では文法的に数に対してもっと敏感です。そのあらわれは be動詞による am/is/are の区別であり、一般動詞の<三人称・単数・現在>における s の追加です。

例文1;「私の家族はみな背が高い My family are all tall. 」

例文2;「私の家族は大阪へ引っ越すことになっています My family is to move to Osaka. 」

例文3;「数家族がこの谷に住んでいます Several families live in this valley. 」

確かに family は可算名詞ですが、例1のように一人一人について述べているときは family は they のことであって are によって複数扱いになっており、例2のように家族がひとまとまりとして扱われるときは it のことであって is として単数扱いになっています。しかし例3のようにそのグループがいくつか集まるとき再び複数扱いになり、今度は families として語尾に複数マーク -s がつくことになるのです。日本語ではそもそも動詞が主語の変化に対応した印をつける習慣、つまり<一致>がありませんから、こんなことは何も考えなくてもいいわけです。

名詞を語るときに大部分の西欧語で忘れてはならないのが<冠詞>です。さらにこのためには<不定><特定>について知っておかなければなりません。

例文1; 公園で会った少女 a girl whom I met in the park

例文2; 公園で会った少女 the girl whom I met in the park.

英語では関係詞によって始まる形容詞節によって修飾されている「少女」は先行詞といい、日本語では連体修飾節によって修飾されており「少女」は底(てい)といいます。いずれの例文でも日本語では同じなので区別がつきません。不自然であることを我慢して訳し方を工夫しますと、例1では「・・・した少女のうちのひとり」<不定>となり、例2では「・・・したその少女」<特定>となります。

<不定>とは、乱暴な言い方をすれば「複数現れた選択肢のうちどれでもよい」という意味であり、特定とは「それ以外にない、それしか示さない」という意味です。英語の a は「どれでもいいから任意に取った一つ・ひとり」ということになります。これに対して the は「はじめからわかって指定しているモノか人で、単数・複数どちらもあり」ということになります。

スペイン語やフランス語では a, the にあたるものはちゃんとそれぞれ単数と複数のかたちにわけられていますから、英語の場合はその点は簡素化してしまったのです(その代わり、複数語尾である s は大部分の可算名詞ではっきりと発音しなければなりません)。

冠詞にはほかにも便利な機能があります。英語では冠詞と名詞の間に単語がはさまっている場合は、それが形容詞ではないかと推測できるのです。というのは英語ではほとんどの場合、形容詞は修飾するときは名詞の左側につき、冠詞はそのさらに左にかぶさる原則ができあがっているからです。

冠詞という、これほど文脈に大きな影響を与える文法用語が日本語にないということは驚きです。冠詞がなくても言語生活はスムーズにいくのでしょうか?冠詞は必要不可欠のものではないのでしょうか?

例文3; レストランは公園内にある。The restaurant is in the park.

例文4; 公園内にレストランがある。 There is a restaurant in the park.

この質問の答えの試みが例5と例6です。そのときの状況によって異なりますが「レストランは・・・」というのは<主題>として取り上げるのであり、聞き手にとってはすでにわかっているものである可能性が高い。これに対し「レストランが・・・」というのは「公園内に」のあとでそれまでに聞いたことのない話をはじめるのであって聞き手には新しい情報であろうと思われます。

こうやって考えると、日本語に冠詞がなくともその役割は(この場合では)格助詞である「・・・ハ」「・・・ガ」の使いわけによってある程度果たされていると考えられます。少なくともきちんと考えて書いた文であるならば。世界の人々の生活は基本的な点ではみな同じで、それを伝えるための言語も生活に即しているところから、構造が違ってもどこかに同じ機能を発見できるはずなのです。

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<コラム>目的語とは

名詞の働きのうち、目的語は最も多彩です。英語などの西欧語においては、他動詞のあとに来て、その動詞の意味を完璧にするための名詞として働きます。ある意味では主語よりも重要です。He has では何のことかわかりませんが、 have a book なら have の意味がすぐに明らかになります。

主語がしばしば省略されるのは、場面によって容易に推定することができるからです。これに対して目的語の省略は「(酒を)飲む drink 」とか「(車を)運転する drive 」のようにある状況では当然視されているものに限られます。

気をつけてほしいのは、英語など前置詞の発達した言語では、前置詞のあとに必ずくる<名詞(相当語句)>も同じく目的語とよばれることです。前置詞も他動詞と同じく相手になる名詞がそろわないと意味をなしません。 in the room は the room の存在があってはじめて in の意味が確定するからです。

例文1;重要な of importance (形容詞句)、急激に in a drastic way (副詞句)

例文2;彼女は星を見た。She looked at the star. ( look at の目的語)、花瓶は花でいっぱいだ。The pot is full of flowers. ( full of の目的語)

ただし、英語での前置詞は単独では文全体から見た主語や目的語を構成することはなく、<形容詞句><副詞句>という形で名詞を修飾したり、動詞その他を修飾したりするのが任務です(例1)。前置詞は動詞や形容詞と組になってはじめて、文全体の目的語として機能します(例2)。

一方、日本語では主語であれ、目的語であれ、名詞は通常<助詞(後置詞)>と結びついた形で存在します。つまり、助詞は英語の前置詞と違い、主語、目的語、形容詞句、副詞句のすべてを作るのに役立っているわけです。ですから日本語での目的語とは<他動詞の目的語>の場合だけになります。この点を注意して下さい。

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代名詞

西欧語の主語における<人称代名詞>は文の構造を維持する上で非常に重要であり、きちんと体系づけられています。1人称、2人称、3人称、性別、それらの単数、複数形などで区分され、ふつうは基本6~10個に整理されています。そして多くの場合、それらと対応する動詞の形が決まっており、<一致>させることは主語動詞関係の根幹です。

さらに代名詞は主語を示す主格、目的語を示す目的格、その他の<格>によって形が変わります。I-me-my-mine のように英語では一つの代名詞につき4種類の変形があります。これは他の西欧語に比べれば断然少ないほうです。ロシア語などでは、名詞でも格を変化させることが行われていますが、英語の場合はすっかり撤廃してしまい、代名詞の格変化だけが残りました。その代名詞でさえ、she-her-her-hers とあんまり変わらないものがあります。それでも人称代名詞は合計24個になります。

日本語はそうはいきません。「あなた」にしても「おまえ」「あんた」「てめえ」などときりがありません。しかし、ていねい度の違い、年齢、立場の制約によって多くを使い分けているだけで、文法的にはあまり区別している意味はありません。そしてそれぞれにつく<格助詞>は原則として共通ですから、容易に主語や目的語であるかの判定はできます。

日本語の場合、代名詞を聞いてもそこから性別、単数複数などの情報を正確に引き出すことはあまり期待できないのです。しかも主語は頻繁に省略されます。したがって代名詞からの情報が不足する場合は敬語などの<待遇表現>や、<やりもらい>、文末表現、たとえば女言葉「・・・だわ」などから推定することになります。

ただし、<指示代名詞>(注;形容詞タイプや副詞タイプも含めては<指示語>)の方は、英語でも日本語でも似通っています。「コソアド」といわれるように、<近称、中称、遠称、疑問>の形式はきちんと整理されています。たとえば、コで始まるものを集めてみると、「これ・こいつ・このひと・こちら・こっち・ここ・こんな・この」のように外国人学習者にとっても比較的記憶しやすい体系です。

ただし、「コソアド」が正確に英語の「コレ this, ソレ it, アレ that, ドレ which 」に一致するという保証はありません。というのも日本語を母語とする人々の会話では話し手と聞き手が近距離にいる場合は遠近の原則が通用するけれども、両人の間の距離が離れているときは話し手に近いか聞き手に近いかによって「ソ」系統の使い方に微妙なズレが生じることが知られています。

特に、英語では「ココ here 、アソコ there 」はありますが「ソコ」はどう言ったらいいのでしょう?たとえばキャッチボールをしていてボールを取り損ねてあたりを探しているときに「ボールはソッチへ行ったよ」というような場合です。この場合の「ソッチ」は漠然とした”方向”を示しているのだと思いませんか?英語にはそのような使い分けがありません。

また、「ちょっとソコまで行ってきます」と何気なく発した表現で「そこ」を there と安易に決定することができません。というのも、この場合の日本語での「ソコ」というのは、はっきりした目的地を指しているのではなく、単に漠然としているか相手にあかしたくない内容を示しているからです。このような場合には、そのような文脈を考慮に入れて「どこか somewhere 」とか「あるところ some place 」というような表現を考える必要があります。

例文1;彼は(たとえば;ひげを剃っていて自分の顔を)切ってしまった。He cut himself.

例文2;彼女はパーティで楽しい思いをした。She enjoyed herself at the party.

もし、たまたま主語と目的語が同じになってしまったらどうしたらいいでしょうか?日本語では「自分」という単語がありますが、英語の場合は注意が必要です。同性では he と him では別人をさしている危険性があります。こういう場合、英語では「再帰代名詞」があります。これがあれば、 he と himself の組み合わせで誤解の心配なしで伝えることができます。

例文3;何か冷たいものが飲みたい。I want to drink something cold.

例文4;何も飲みたくない。 I don't want to drink anything.

例文5;部屋には誰もいない。Nobody is in the room.

実質的に何も示さない代名詞も必要です。<不定代名詞>は「人」「モノ」に分けて、漠然とその存在を示すのに用いられます。英語では基本的なタイプとしては例3,4,5に見られるように<肯定的、否定的、疑問>の文脈を示すのには some / any / no のいずれかを選び、人、モノを示すには thing / body / one を使い分けます。

日本語では疑問代名詞「何、どれ、誰」が基本になって不定代名詞が作られています。まず「何も、どれも、誰も」のように「・・・モ」をつけて、そのあとに否定語と結びつくと<完全な否定>を作り、「何でも、どれでも、だれでも」のように「・・・デモ」をつけると<譲歩的な表現(注;どの選択肢でも結果は同じということ)>となります。また、「何か、どれか、誰か」のように「・・・カ」をつけると<肯定>となります。

これらは代名詞だけではなく、疑問副詞「どこ、いつ」から作られる「どこか、どこも、どこでも、いつか、いつも、いつでも」の場合にもあてはまります。これらをみるとなかなか規則的です。日本語でも代名詞に関しては無用の混乱を避けるために、肝心なところは長い年月の間にきちんと整備されてきたようです。

例文6;ペンをなくしてしまった。見つからなければ新しいのを買わなければならない。I have lost my pen. If I can't find it, I must buy a new one.

英語では他の西欧語もそうですが、文の明確さを保つために、このほかにも実にさまざまな代名詞を用意しています。特定のものを示す it の代わりに one を用いて可算で不定の(注;言いかえると”任意”の)ものを示すこともできます。

例文7;私の兄の一人は名古屋に住んでいるが、あとの二人は福岡にいる。One of my brothers lives in Nagoya and the others are in Fukuoka.

例文8;乗客のだれもケガをしなかった。None of the passengers were injured.

例文9;どちらの親も生きていません。Neither of my parents is alive.

例7,8、9にあるように別のものを示すのに other を使い、数量を示すのには many, few, much, little, none などを使っています。 実はこれらは本来、形容詞として使われるのが主であったのが、そのあとの名詞を省略するか of the...の形で全体を示す部分を分離したために、<代名詞用法>が一人歩きしたようです。

ですから「多くの人々 many people (形容詞の many )」と、「人々の多く many of the people (代名詞の many )」ではその示すものが違ってしまっています。前者は漠然とした多くの人々の集まりであり、後者は the が含まれているところから、ある特定の人々のグループの中の多くの人々のことです。

また英語では「2者間」と「3者以上」と区別する習慣があり、前者は both, either, neither, 後者は all, any, none という別の単語の系列を持っています。例9では両親とは二人いることになっていることから、所定の代名詞を使うことになります。

このように代名詞は英語の運用にとってなくてはならないものであり、その使い方は完全にマスターしておかなければなりません。一方、日本語では「彼・彼女」など、外国語の翻訳から生まれたものは別にしても、そのほとんどが代名詞というよりは”名詞”として扱っても一向にかまわないものばかりです。

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形式名詞

代名詞が事実上存在しないといってもよい日本語ですが、文章全体を<名詞化>するのに欠かせない道具がこの形式名詞です。英語では<名詞節>を作るには that / wh- / how を先頭にしますが、その働きの一部と重複するところがあります。

例文1;彼女が電話をくれるのを待っていた。I was waiting for her to call me.

例文2;彼が生きているということは確認されていない。That he is alive hasn't been confirmed yet.

例文の中に含まれている「ノ」「コト」や、「ホウ」「トコロ」「ハズ」「ワケ」などは形式名詞と呼ばれ、文章で書いてあったところを”名詞化”するのに役立っています。名詞化することによって得られるメリットは主語や述語として、あるいは格助詞をつけてつなぎやすいこと。いずれも大きな文の中に”ミニ文”がはめこまれています。しかし単独で使うことはできません。下にある例4を「私はホウです」とやっても何のことだかわかりません。

例1では「(私は)待っていた」が本動詞ですが、文の中に「彼女が私に電話をくれる She calls me 」という文が<・・・ガ・・・ノヲ・・・形式>に入っているのが見えてきます。英語ではその内容が<意味上の主語>をあらわす for とto不定詞に書かれている部分がこれに相当します。

例2では文字通り、「彼が生きている」という文が入っています。「確認する」「認識する」「想定する」など、一つの客観的な事実であれば、「コト」を使うほうが「ノ」よりも適しているようですが、どちらを使ってもかまわない文もたくさん存在します。

英語での文のまとめ役はなんといっても接続詞 that です。これは「・・・(という)コト」に該当しますが、いくつかの動詞のあとですと、「・・・だト考えている」のように<引用節>としての扱いを受けることがあります(後述)。

中学校の英語の授業では「・・・するコト」と訳すようにと”強制”されるものが3つありました。それは that節(名詞節)、Ving (動名詞)、toV (不定詞の名詞的用法)です。いずれも形式名詞「コト」が含まれているのは<名詞節・名詞句>としての文法的な固まりだからです。大部分の中学生にとっては「・・・するコト」と名詞的性質の関連をまったく意識することなく、機械的に訳を作る習慣ができていきますが・・・

例文3;自分が正しいと信じることをやりなさい。 Do what you believe is right.

例3でも「コト」がつかわれていますが例2と違う点は、「(ある)コトは正しい→正しいコト」という並べ替えが見えてくることです。これは「花は赤い→赤い花」と同じ変化ですね。ここでのコトは文のまとめ役であると同時に、もとは「正しい」の主語であったことを示しています。これを英語で書き記してみると「 (Some)thing is right → a thing which is right → what is right 」となり同じ構造で書けます。(注; a thing which = what )

さらに、「(あなたが)信じる」を what is right につけ加えてみると、「(ある)コトが正しい、と信じる You believe that something is right. →正しいと信じるコト what you believe is right 」となります。なお、「正しい、と信じる」のトの前にある文は上で述べた<引用節>にあたります。

こうやってみると日本語では例2も例3も「コト」で同じままですが、英語ではそれぞれ that (接続詞)と what (関係代名詞)というように区別しています。英語では文の構造が変わるたびにそれに応じた違った単語を使っています。つまり文の構造を示す”記号”が幅を利かせているのです。これは重要なポイントですので、あとでぜひ問題をやってください。

例文4;私は風邪をひきやすいほうです。I easily catch a cold./ I have a tendency to catch a cold.

例4での「・・・ホウ」というのは「傾向・体質・性質・性分」をあらわすと考えられます。これもやはり文を内包する働きがあるようです。英語では tendency を使えば日本語の原文の持つ意味に近いかもしれません。しかし(厄介なことに)、この tendency には語法上うしろに that をつけることができず、その代わり to不定詞ということになります。ですが、実際のところ名詞のtendency を使わずに副詞の「すぐに easily 」を使ったほうがはるかに軽快で自然ですから、考え得るいろいろな選択肢を吟味する必要があります。

例文5;出席できない場合、電話してください。In case you cannot come, call us.

例5では「場合」という形式名詞は「出席できない」という文と「電話してください」という二つの文をつないでおり、まるで接続詞のようです<接続助詞的用法>。「・・・場合」の文はうしろの主節にかかっており、これは英文法式に<副詞節>といったほうがよいでしょう。英語では、 when や if などと同じように in case という接続詞があり、これを用いれば同様な文を作ることができます。しかしここまでくると、もはや「形式名詞」の名はふさわしくなく、むしろ変な誤解を招くことがありますから<文+場合>というように表現方法の点で「コト」「ノ」などとは一線を画すべきでしょう。

<わかりますか?>

その1(基本);次の二つのコトは英語でそれぞれ what でしょうか、それとも that でしょうか?またその根拠も示してください。

彼が知っているコト→ He knows something. (この文の目的語として thing を含む)→ a thing which he knows → what he knows

彼が生きているコト→ He is alive. (この文のどこにも thing は含まれていない)→ that he is alive

その2(応用);つぎの「コト」を含む日本文と英文とを比較してください。

(1)困ったことに、まだ彼から手紙が来ない To my dismay, he hasn't written to me.

(2)できることはできるが・・・ I may be able to do it, but...

(3)なんて残酷なことだ! How cruel!

(4)そんなにあわてることはない You don't have to be in such a hurry

(5)勝ちたいなら練習することだ If you want to win, you should practice.

(6)毎日30分は散歩することにしました I make it a rule to walk at least thirty minutes every day.

(7)来月中国に行くことにしました I am to go to China next month.

(8)彼は自分の名前を書くことさえできません He cannot even write his own name.

(9)わたしは朝に頭痛がすることがあります I sometimes have a headache in the morning.

(10)私は3年前エジプトに行ったことがあります I went to Egypt three years ago.

解答例と考察

(1)困ったことに、まだ彼から手紙が来ない To my dismay, he hasn't written to me. ;手紙が来ないからそれで困っている・・・「困った」はある原因から生まれた<結果>である。英語でも to one's dismay の前置詞 to はこの結果を表す。

(2)できることはできるが I may be able to do it, but... ;譲歩的表現。いったん事実を認めておいてそのあとでそれをひるがえす表現を付け足す。may は<推量>をあらわし、接続詞 but との組合せを作る。

(3)なんて残酷なことだ! How cruel ! ;感嘆文には違いないが、あるストーリーを聞いてその全体をまとめて「(起こった)コト」として表現している。英語であとに続けて書くとすれば< How cruel it is to不定詞・・・>のような形式をよく見かける。

(4)そんなにあわてることはない You don't have to be in such a hurry ;「あわてるコトはない→あわてる必要はない」と考えていいだろう。

(5)勝ちたいなら練習することだ If you want to win, you should practice. ;「練習するコトだ→練習するべきだろう」というように強制ではなく、つきはなしているか相手の自主性に期待するような言い方である。英語では、直接的な命令形や must を使わないで、「・・・するべきだ should 」「・・・したほうがよい had better 」などのほうがソフトな表現になるかもしれない。

(6)毎日30分は散歩することにしました I make it a rule to walk at least thirty minutes every day. ;「するコトにしました→するコトに決めました」というように自分の行動を"習慣化"する決意を表す。

(7)来月中国に行くことにしました I am to go to China next month. ;自分の意志よりもスケジュールを表に出したいならば、英語では単なる未来形よりももっと”確定”した未来を表す方法、たとえば be to不定詞などを使う。現在完了形にして、「私は・・・するコトを決心した I've decided to不定詞」なども考えられる。

(8)彼は自分の名前さえ書くことができません He cannot even write his own name. 「書けない→書くことができない」であり、特に違いはない。ともに<可能表現>。

(9)わたしは朝に頭痛がすることがあります I sometimes have a headache in the morning. ;この場合の「するコトがある」は、「時々 sometimes 」か「しばしば often 」か又はその中間であろう。

(10)私は3年前エジプトに行ったことがあります I went to Egypt three years ago. ;「・・・したコトがある」は、いったいどんな時制が使われているのか?中学生が<現在完了形の経験>で学ぶとおりだ、と盲信してはいけない。ここでは過去を明確に示す three years ago が入っているのである。この文は過去形にしなければならない。I have been to Egypt before. のように、漠然とした「以前 before 」が入っているような場合は現在との関連を重視して現在完了形を使う。

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<コラム>ノハ強調構文

例文1;彼はフランスに行った He went to France.

例文2;彼が行ったのはフランスだ。It was to France that he went.

文の中のある要素(主語、目的語、副詞相当語句)を<強調>するためにはそれを前に持ってくるべきかそれとも最後に持ってくるべきでしょうか?単純に考えれば目立つということで最初に持ってきて示してしまえばよいのでしょうが、なかなか種明かしをせず聞き手をじらしておいて、最後にやっと示すのも一つのやり方です。

日本語では例2のように最後に示しています。「・・・ノハ・・・ダ/デス」の書き方は形式名詞「ノ」を含んで、さらに「ハ」を使って内容を<主題化>しています。「ハ」のあとにくる内容が新情報として強調され、不足している情報をうしろで補うことになります。

英語でのいわゆる< it...that... 強調構文>と比較すると、文を”分裂”させるという点では似通っています。英語でのやりかたでは it is (was)... that という入れものを使って強調したいものを前に持ってきます。これも一種の主題化といえるかもしれません。(注;ハについては「接続のことば」のところで詳述します)

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長い主語と短い述語・・・ it の構文(英)

例文1;早急にこの道路を補修することが必要である→必要とされているのは、早急にこの道路を補修することだ。It is necessary to repair the street as soon as possible.

例文2;ひとりの母親から一度に3人以上の子供が出産されることがまれにある。→まれなことだが、ひとりの母親から一度に3人以上の子供が出産されることがある。It is rare that a mother gives birth to more than two babies.

例文3;1日に3つもおけいこに行くなんて彼はかわいそうだ。→かわいそうに、彼は1日に3つもおけいこに行く。 It's a pity that he should go to three private lessons a day.

例1,2とも「コト」という形式主語が先頭に立ち、これに対応する述語はそれぞれ形容詞の「必要である」「まれである」となっています。このように二つの部分に離れてしまったのは主語の「・・・コト」に含まれる文が長くて読みにくいからだけではありません。これは読み手や聞き手に、主語の部分は長くても重要な情報だということを効果的に知らせるためのものなのです。

これを実行に移すには、先に述語を前述の「・・・ノハ強調構文」や「・・・(ダ)ガ」を使って先頭に引き出す方法があります。これは主題が先にわかって、あとで新情報が提供されるために、聞く方にとってはありがたいが、あまりきれいな日本語だとは評価されていないようです。特に中学校の英文和訳では。しかし英語の流れと似ているので、耳で聞いてすぐに英訳を引き出すには便利な方法です。

英語ではニセモノの主語、つまり<仮主語 it >という使い慣された道具がありますから、長い主語を簡単に後回しにすることができます。that で始まるか to不定詞で始まるかはそれぞれの形容詞によって決まっていますが、まとまった事実なら that節、主語を必要とせず動詞だけで表現できる単純な内容なら to不定詞になる場合が多いようです。このタイプを英文法上、強調構文とはよびませんが、実質的には it is のあとにくる単語が<主題>の役割を果たし、長い主語は新情報を提供する部分となります。こういう点でも日本語の「ノハ強調構文」に似ています。

なお、「必要だ」も「まれだ」も共に<ナ形容詞>です。名詞ではありません。これに相当する英語の場合、 necessary, rare も形容詞となっています。しかし例3の a pity は冠詞がついていることからもわかるとおり、名詞なのです。「おどろき wonder 、あたりまえ no wonder 」「なぞ mystery 」「楽しさ fun 」など、たまたま主語の内容としっくりいく場合は、数は少ないけれども名詞が用いられます。

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

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