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第11章 接続のことば:その1

  1. 接続のことばとは
  2. 形容詞句・副詞句と助詞
  3. 接続助詞と接続詞

骨格となる名詞、動詞、修飾をする形容詞と副詞、そして最後にどうしても必要なのが結合のための道具です。これがあれば次々と文や語をつないで長く、複雑にすることができます。言語の進化の途上で最初に接続のことばを思いついた人は誰でしょうか?

接続のことばとは

言語の学習においては、母語であっても外国語であっても、多角的に使いこなすうえで最も重要なのは接続のことばといえます。動詞や名詞が実生活に基づいた現象から生まれてきたものとすれば、接続のことばは純粋に文法的な道具、つまり人間の言語をつかさどる抽象的な発明だといえます。それだけに各国語の比較をおこなうとき、その相違だけでなく類似点に着目することは学習への興味を格段に引き上げることができるはずです。

日本語では「私ハ」「山二」「彼ト」のように、名詞のあとに<後置詞(助詞)>をつけることによって、動詞中心の文に必要な情報を補う、つまり<補足語>の役割を果たしています。英語では前置詞があり、これは他の西欧語と同様、うしろに主として名詞(相当語句)をつけることにより、名詞を修飾する<形容詞句>、または名詞以外を修飾する<副詞句>として働くことができます。

だれでも<前置詞+名詞>と<名詞+後置詞>を見れば、その名前のとおり位置関係がまるで逆だということに気づきますが、さらに大きな違いは日本語の助詞が受け持つのは形容詞句や副詞句だけではなく、主語、目的語まで作ってしまうということでしょう。

前置詞より助詞のほうが広い守備範囲をもつのです。格助詞は主語になることばにつくことによって主語に使われている単語の情報の新旧、繰り返しの有無などまで示してくれます。目的語につけば、「ヲ」「ヘ」「ニ」などによってそれにつく動詞の性質の違いを表すこともできます。そしてこれから話す<主題>を提示することもできます。

一方、英語の前置詞はすでに述べた形容詞句や副詞句だけでなく、動詞との結びつきが親密なのです。「見る look 」が「・・・をさがす look for 」になるということは自動詞が、前置詞を獲得して新たな意味を持つ他動詞<動詞句>に生まれ変わったことをあらわします。「・・・をおそれる be afraid of 」のように形容詞との結びつきも少ないながら存在します。

このようなことから、助詞と前置詞はお互いに鏡のこちら側と向こう側のようにぴったりとすりあわせることができる間柄ではなく、大きく重複する部分はあるものの、それに加えてそれぞれ異なった機能も併せ持っているということを知っておくべきです。

<わかりますか?>次の(1)(2)文の違いをうまく説明して下さい。

(1)彼女は電話をくれるのを待っていた。(2)彼女が電話をくれるのを待っていた。

説明例;ハとガの違いは、主語のない文の不便さを補ってくれます。「・・・ハ」は、文末の動詞まで”効力”が及ぶということで、「待っていた」の主語を表していることがわかります。これに対し、「・・・ガ」は近いほうの動詞までしか効力が及ばないということで、「待っていた」の主語は省略されているはずの「話者(わたし)」であることがわかります。これらを英文にすると、(1)She was waiting for him/her/someone to call her. (2) I was waiting for her to call me. などが考えられます。

<ウォーミング・アップその1>次の会話の中で、質問の返事にふさわしくなるように、{ }内にある適当な助詞を選んでください。またそのようになる理由を考えてみましょう。

(1)みんなおなかがすいていたと思うけど、午後3時の休憩に何を食べしたか?私{ガ・ハ・モ}アイスクリームを食べました。

(2)どうして冷蔵庫のアイスクリームがないのでしょう?私{ガ・ハ・モ}アイスクリームを食べました。

(3)ほかにアイスクリームを食べた人がいますか?私{ガ・ハ・モ}アイスクリームを食べました。

解答と説明例;

(1)ハ・・・質問の返事は目的語である「アイスクリーム」が求められているが、ほかの人は別のものを食べただろうから、「私」に関しての情報を提示しようとしている。

(2)ガ・・・アイスクリームを食べてしまった真犯人はA君でもなく、Bさんでもなく、「私」ひとりであることを強調する必要がある。

(3)モ・・・すでに真犯人はわかっていて、さらに”追加”されるのがこの「私」である。

このように助詞の働きを知るには、それに対する適当な質問を考えることが、その場面をもっともうまく想像するのに必要です。助詞の使い分けは単に主語や目的語、場所や時間を示すのみならず、繰り返しや強調を示す手段にもなっているのです。このように多彩な働きを兼ね備えているのが日本語の助詞(後置詞)なのです。

<ウォーミング・アップその2>次の3つの文に使われている助詞からみて、それぞれの「いい」の意味について説明をしてください。

(1)お茶{ハ}いいです。

(2)お茶{デ}いいです。

(3)お茶{ガ}いいです。

説明例;

(1)ハ・・・これはお茶を飲みすぎて、もう満腹か飽きてしまったことを示す。主語を強調している。”遠慮”の「いい」。

(2)デ・・・これはお茶をほかの飲み物と比べて、一段低いレベルにおいていることを示す。コーヒーや紅茶はコストがかかるとか手間がかかるのに対して、お茶は急須に入れてお湯を注げばすぐできてしまうということから、相手に面倒をかけたくないことのあらわれである。”希望”の「いい」。

(3)ガ・・・さまざまな飲み物の選択肢を示されて、自分の好む種類を”自主的に”発言するときに使う。”主張”の「いい」。 

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形容詞句・副詞句と助詞

日本語での動詞とイ形容詞における<連体形>は<終止形>と同じなので、名詞にかかるかどうかはうしろに名詞があるかを確認しなければわかりません。ですから普段の言葉の運用の中では、英文法でいわれているような<形容詞句(名詞修飾)>という意識が普段あまり感じられないのです。これは名詞にかかっている!、とはっきりわかる語尾、助詞、後置詞はないのでしょうか?

「きれいナ花」「うれしそうナ顔」「疲れたようナ顔」「旅行中ノできごと」にあるように、「ナ」「ノ」はうしろにある名詞にかかっています。そのうち「ナ」は「きれいだ→きれいな」のようにナ形容詞の語尾のひとつとして定着しています。また「そうだ→そうナ」、「ようだ→ようナ」のように変化したものもあります。しかし「ノ」に関しては、「旅行中でノできごと」「あなたノ本」「母からノ手紙」というように「ノ」をつけたために本来名詞にかからなかった表現が名詞と連結するようになっています。

では、英文法でいう<副詞句(名詞以外への修飾)>の場合はどうでしょうか?これはまず動詞においては<テ形・マス形>が、形容詞においては<連用形>がその役割を果たしています。また、「東京カラ」「大阪ヘ」「名古屋デ」「三時ニ」「歩き・・・ナガラ」というように場所、時、様態、条件、譲歩などの表現のときにつける助詞はたいてい副詞句の働きをすることになります。さらに、「学ぶためニ」(目的)とか、「言われているようニ」(様態)「悲しそうニ」(様態)に見られるように、使用範囲の広い「ニ」をつけることが行われています。

このようにして日本語でも形容詞句、副詞句に分けて判別していけば、これを英文と照らし合わせると、たいていの場合に対応関係が見出せます。日本語を母語として使い慣れている人々はそのような意識が非常に欠けている場合が多いので、いざこれを正しく分析するとなると、そしてこれを英語その他の外国語へ翻訳するとなると、たちまち行き詰ってしまうのです。

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接続助詞と接続詞

日本語の助詞の中に<接続助詞>とよばれる一群があります。これらは「雨が降っているノデ」「遅刻したのダガ」「散歩し・・・ナガラ」などで理由、譲歩、時間などを表しています。しかし「私ハ」や「自動車ヲ」に出てくるいわゆる<格助詞>とは異なり、述語部分と結びついています。

しかしなんといってもその大きな特徴は、格助詞が名詞のあとにくるのと同様に、接続助詞も述語の”あと”にくるということです。基本的には語と語同士ではなく、節と節同士を結んでいます。「雨が降っているノデ+大会は中止だ」では左側が接続助詞によって支配される<従属節>で、右側にある<主節>を修飾していると考えられます。

これに一部該当するのが英語の<副詞節を作る(従属)接続詞>です。時間を表す when, while, before, after, until 、条件を表す if , unless 、理由を表す because, since 、譲歩を表す though など、約60にのぼる単語群です。これらは英語の鉄則の例にもれず、必ず主語+動詞の部分の”前”につきます。そしてそれによって修飾される<主節>がその前後どちらかに存在していなければなりません。

例文1;明日しなければならないことがあったので早く寝た。Because I had something to do tomorrow I went to bed early. → Having something to do tomorrow, I went to bed early.

英語の副詞節は主語を必ず含んではいますが、これが結合している主節の主語と必ずしも同じである必要はないわけです。たまたま主節と接続詞のあとの節の主語が同じ場合には、例1にみられるように<副詞句を作る準動詞>で接続詞の働きを一部代用することができます。準動詞は toV, Ving, Ved の3つをいいますが、これらの中には接続詞では表しきれないような特別の意味を持っていたり、逆に節の内容を略式で表現したりすることも可能です。

日本語の接続助詞で終わる文は、英語の接続詞による節か、準動詞による句のいずれかにだいたい該当します。したがって、「・・(する)とき」は「 when... 」とする、というようにある程度の対応関係を覚えておけば、それほど違和感をもたないで使うことができます。

気をつけなければいけないのは日本語における<接続詞>と<並列助詞>です。これらは接続助詞や英語の副詞節を作る接続詞とは違って、単に結びつけるだけの働きをさします。日本語の接続詞とは文の他の部分と結びつきを作らない<独立語>のことなのです。英語の接続詞とは少しも似ていなくて、むしろ however, therefore, otherwise などのような文と文の流れを調整する副詞に近いのです。文の先頭に置かれて、その文と前の文とのさまざまな関係を示しています。「そして・しかし・あるいは・また・あわせて・ただし・さて・すなわち」などです。そこには接続助詞のような主従関係もありません。

一方、<並列助詞>は語と語、文と文とをつなぎます。「・・・とか・・・とか」「・・・と・・・」「・・・や・・・」などがありますが、これらでは結合されたもの同士は対等な関係にあります。日本語におけるこれらの<並列助詞>は、英語では<等位接続詞>、たとえば and, or, but, for などと大部分が重なり合います。

総合的に見ますと、日本語でも英語でも二つの文が結びついている場合は、まず<主従関係>か<対等な関係>のどちらかに着目しましょう。前者は修飾・被修飾の関係なのでお互いに切り離すことができません。これに対して後者は修飾・非修飾の関係がなく、終止符を打って別の文にしたり、前後の文を結びつけてしまったりすることもあります。

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

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