各国語比較

NO.16 英語・フランス語比較

アメリカインディアンの印章

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疑問その1 英語には<過去形>と<現在完了形>が存在するのに、フランス語では<単純過去>はもはや現代フランス語では使われなくなり、<複合過去>が幅を利かせている。これは英語における二つの働きをフランス人はごちゃ混ぜにしてもいいということなのか?

疑問その2 英語には<現在形>と<現在進行形>あり、それぞれ使い分けているが、フランス語では<現在形>でその二つの働きを兼ねているようだ。それでいいのか?

日本ではほとんどの人が第2外国語を習う前に英語をひと通りやっているので、英語との比較は学習上においても大変プラスになると思います。フランスは、イギリスとは海峡一つ隔てた至近距離ですから、語彙の点で大いに助かるという人は多いでしょう。

ですが、文法の面に注目するとなかなかおもしろい違いが目に付きます。代名詞、関係代名詞、疑問詞に、特に目立つ点があるようです。これらのうちいくつか具体的な例を挙げてみましょう。

まず代名詞ですが、英語における it や they, them がフランス語では男性名詞、女性名詞によって使い分けられていることは、どんな利点があるでしょうか?しばしば二つのうちどの名詞を指していることがわからないときに、一方が男性でもう一方が女性の場合には容易にも見分けがつくということがあります。もっとも二つとも男性、または女性であればこれは役に立ちませんが。

フランス語には en という便利な代名詞があります。これは「 de + 名詞」のものを受けるために使われます。de のついた名詞はそうたくさん同時には出てきませんから、これも何を指しているかを知るのに便利です。 y も同様に「 á + 名詞」として使えます。英語の場合には at it とか of it のような形で前述の名詞を受けることはありません。

en には他にもいろいろな代名詞的用法がありますがいずれも使う状況が明確に決まっています。従って大学入試問題で、「この it は何を指すか」というような問題をフランス語では作りにくいと言えます。

場所を表す y についても、これは単に there で置き換えていいものでしょうか?たとえば、「あなたは映画へ行きますか?」の場合 Tu vas au cinéma ? と尋ね、その答えは Oui, j'y vais. となりますが、これを英語で言った場合、Do you go to a movie ? と聞かれて、Yes, I do. とは言っても Yes, I go there. とはしないでしょう。

there は漠然とした場所を表す(副詞)であるのに対し、y の場合には、それを使う以前に、前文で<前置詞+場所の名詞>という組み合わせが現れていなければなりません。英語の場合ですと場所については相手がそのことをわかっている場合には省かれる場合も少なくありません。

もう一つフランス語には不思議な(中性)代名詞 le があります。単なる名詞を受けるのではなく、形容詞、動詞の原形、節を受けるという特殊な働きです。英語ですとこれらはみんな it ( または何も書かない ) になってしまいます。

次に関係代名詞ですが、英語では物事は which 人の場合は who(m) を、またどちらにでも使えるのが that という設定です。ここでわかるように、いわゆる主格と目的格の区別は who と whom の間にだけしかなく、それも口語では who のみで使う傾向が強い。

これに対しフランス語では、 que と qui の違いは物事や人ではなく、前者が目的格、後者が主格と定まっています。仏英では重点の置き方が違うようです。que には他の使い方もありますが、この語はどちらかというと英語の which よりも what に近いような感じです。

関係代名詞は、que 他に dont があります。これは先行詞になる予定の名詞に前置詞 de をつけた場合のためです。つまり de que とする代わりに dont 一言で済ませるわけです。en と発想は同じですね。

これを英語の場合で見てみると、of which の他に、in which, on which, about which など、また人の場合には with whom, to whom などが用いられており、いずれも人か物事かの区別以外には関係代名詞の形そのものが変化することはありません。

さて英語では疑問詞の「何?」と「何の本?」では、what, what book のように同じ what を用います。本来代名詞である what にbook のような名詞をうしろにつけることは「形容詞用法」といいますが、英語では語形の変化がないわけです。

ところがフランス語では形容詞用法として、quel があります。Quel âge avez-vous ? 「何歳ですか」のようになります。一方では Que desirez-vous ? 「何をお望みですか}のように、what の働きをするものとして que があるわけです。

同様に英語では about what 「何についてか」というように、前に前置詞がついても依然として what なのに対し、フランス語では de quoi というように新たな前置詞をつけるための疑問詞 quoi が登場します。

このようにしてみるとフランス語では文法的位置(主格、目的格、前置詞の目的格、属詞/補語)によって違った語を使い分けることを重視しているようです。

このことは初心者にとって覚えるべき単語が多いとか煩雑だという印象を受けることも多いようですが、実際に使ってみるとかえって便利だということに気づきます。

さて、動詞の人称変化に注目してみますと、英語ではなんといっても三人称・単数・現在における、動詞語尾に s をつけるという規則が思い出されるでしょう。これが発明されたのには何らかの理由があるとは思いますが、残りの人称ではみな同じ形なので、この3単現だけが特別な形を持つということは徹底的に究明する価値がありそうです。

これに対してフランス語の動詞ではどうでしょう。いわゆるもっとも第1群規則動詞 aimer (愛する)、第2群規則動詞 finir (終える)を取りあげてみると、初心者が最初に苦労して覚えたとおり、1,2,3人称、その単数、複数と綴りが実に面倒です。ですが、これを発音してみると・・・

1,2,3人称の単数動詞は綴りこそ違え、みな「同じ発音」です。3人称複数も同じ場合が少なくない。1,2人称複数はそれぞれ違った音になっていますが、規則的で覚えやすい形だし、命令法に兼用できるので、さほど苦労することはありません。他の時制でも1人称単純未来 -rai を除いて1,2,3人称単数では発音がみな同じです。

ということは、1,2,3人称単数というのは、少なくとは話し言葉においてはまったく音が同じになってしまっているということは、実際のコミュニケーションに支障をきたさないということではないでしょうか。こうやって考えてみると英語の三人称単数に限って s をつけることは奇異な習慣に見えてきます。

綴りはどの言語でも、かなり非合理的であるが伝統的に決まっていてあまり変更もなく、生徒たちもあきらめておぼえさせられているようですが、こと話し言葉となると、まずは利便性が先に立ちます。いわゆる不規則動詞は日常では極端に多く使うのでこれは除外しても、普通の動詞に関してはフランス語の場合、かなり簡便化されていると言えます。

時制といえば、なぜフランス語には英語の「現在進行形」にあたるものがないのでしょうか?しかし英語の「過去進行形」に近いものとして「半過去形」があります。フランス語の直説法現在に、適当な副詞(たとえば maintenant 「今」など)を補えば進行中の事柄は表せないことはないでしょう。

フランス語の「複合過去」は avoir +過去分詞ですから、英語の「現在完了」 have +過去分詞と基本的に同じ形をしています。ですが、英語の現在完了のように、「(現在にいたって)・・・をした」という意味に加えて、普通の過去形の役割もかねています。

一方、英語の現在完了には、<継続>という用法があり、「現在に至るまで・・・している」という状況を表すことができますが、これはどうも本来の”完了”の範疇を超えてしまっているようです。とくに、現在完了進行形には”完了”の気持ちが微塵も感じられません。

これに対してフランス語の複合過去は、現在にかかわっているかいないかよりむしろ”完了”したかどうかにこだわる傾向にあり、”非完了”については「半過去形」にゆだねているようです。英語の過去進行形もこの半過去に含めることができるのではないでしょうか。

これはかつて使われ今では書き言葉でしか用いられない単純過去が話し言葉の中から消えたからでしょうか。複合過去であっても過去に特有な副詞をつければ本当の過去のことを表せるとも言えます。単純過去の面倒な語尾変化を覚えるよりも、全部複合過去に任せてしまう方が忙しい日常生活には便利だと感じたのかもしれません。

たとえばフランス語での se lever (自分自身を上げる→起きあがる)のような代名動詞とは何でしょう。se +原形の形で表される動詞群は、英語にはないのでしょうか。数は少ないですがあることはあります。 enjoy oneself (楽しむ), hide oneself (隠れる)、seat oneself (座る), kill oneself (自殺する)などです。

しかし hide のようにうしろにつけてもあまり意味のない語は oneself をつけないことが多くなりました。また、 seat の場合は be seated と受動態にしても似たように意味です。

しかし次のような例があります。This apple sells well. (このリンゴはよく売れる)、They sell apples. (彼らはリンゴを売っている)。前者の sell は自動詞であり、主語は「商品」で、「勝手に売れてゆく」という特殊な意味です。これに対し後者では sell は他動詞であり、主語は「販売者」、目的語は必ず「商品」になっています。読む人はこれらのことを主語や目的語をじっと見つめて判定しなければなりません。(慣れていればどうということはないのだけれど・・・)

これに対して、前者の sell に当たるのが代名動詞の se vendre であり、後者にあたるのが普通の vendre であろうと考えられます。ここでは se が遺憾なくその役割を発揮して、明確にその意味が伝わるのではないでしょうか。

疑問文の作り方にも違いがあります。いわゆる be動詞の場合はいいとしても一般動詞の疑問文では英語に置いては必ず doが登場します。かつてのイギリス英語では、Have you....? という具合に have動詞に関してはそのまま主語と倒置しましたが、それも今では廃れ、do 一辺倒になっています。

ここでの do はいわゆる助動詞ですから、英語の疑問文は他の can, must, may などと同じ扱いをするようになったのだといえます。ところがフランス語では動詞と助動詞との区別は今ひとつ明確ではありません。なぜなら動詞のうしろに不定形(原形)をつける語が山ほどあるからです。

そして何よりもフランス語では「人称代名詞」のみが倒置されることが最大の特徴でしょう。単に語尾のイントネーションを上げるとか、文頭に Est-ce que を置くという方法もありますが、主に書き言葉で用いられる倒置は英語には見られないものです。

たとえば、Quand les fêtes se tiennent-elles ? (その祭りはいつ行われますか)のような場合、まずは主語である es fêtes を先に出し、その代名詞である elles を倒置させて動詞の後に置いています。

英語の場合には When do the people suffering from the disease move to the hospital? (その病気で苦しむ人々はいつその病院へ移動するのか)のように、助動詞が do であれ、can や must であれ、どんなに主語が長かろうと、それらと動詞原形の間に挟まなければなりません。

さて、英語では疑問詞は必ず文頭と習いました。そのために本来の語順をひっくり返して何とか疑問詞が前に出るように工夫する必要があります。たとえば、The rain prevented the doctor's daughter from going to school. (雨のため医者の娘は学校に行けなかった)という文から、the doctor を尋ねる内容の疑問文を作ってみますと、Whose daughter did the rain prevent from going to school ? (誰の娘が雨のため学校に行けなかったのか?)となります。

ところがフランス語では Les vacances, c'est l'occasion d'aller à la plage. (バカンスは海岸へ出かけるためのチャンスである)の文で aller 以下を尋ねる内容の文を作るとすると、Les vacances, c'est l'occasion de quoi faire ? (バカンスは何をするためのチャンスですか)となります。つまり疑問詞 quoi の位置がそのままです。これなら疑問文を作るのも楽ですね。

形容詞といえば、フランス語ではあまりに有名な「後置」があります。petit や bon などの短くてありふれた形容詞を除き、そのほとんどが後置されるのは「存在は属性に先行する」という哲学的命題によるのだという説を聞いたことがあります。

他のヨーロッパ言語でも後置する場合は多く、同じ形容詞の働きをする関係詞節が先行詞よりも後置されるのだから、すべて統一した方が、副詞の働きをする語句と区別する上でも便利ではないかと思われます。

冠詞もまた気になるところです。というのはフランス語には du という部分冠詞があるからです。英語における冠詞は、a と the のに見限られており、前者が不定、後者が特定という区別のみで、さまざまな状況に適応できます。

ところがフランス語の場合、数えられない名詞、抽象名詞に対して使う冠詞がさらに付け加わっています。普通の冠詞、le, la, les, や un, une, des に加えて使われ、煩雑に見えますが、数えられないといえども何らかの分量があるわけで、その漠然としたイメージを表すのに適していると言えます。これが英語ですと、some milk, any milk のような使い方になるでしょうか。

における最大の違いは、分詞構文とジェロンディフでしょうか。両者は共に「主語が共通」という点で似ています。ところが英語の場合その同じ分詞が「形容詞修飾」にも用いられ、初学者にはこれがしばしば判別困難な例として映ります。これに対し、フランス語ではジェロンディフの場合肉の頭に en という一目瞭然の印がつき、一方形容詞修飾の場合にはその en がついていないということで誰でも楽に判別ができます。

英語、フランス語の一方をある程度知っていて、もう一方を学ぼうとしている人にとって恐ろしいのは「 faux ami (ニセの友だち)」の存在でしょう。

誰でも語源的に同じ語を見れば、同じ意味だと思ってしまうのが人情です。だが勉強すればするほど、微妙な差が目につき、きちんと知っておかないと、とんでもない誤解が生ずる例は無数に増えていきます。

辞書にのっている有名な例は、英語の actually (実際に)とフランス語の actuellement (現在・目下)です。”知っているつもり”がこわい。絶えず辞書で確かめるしかありません。

連結動詞 人間を主語にして、英語のbe 動詞の場合、単一の職業名を表す名詞をつなぐときは、不定冠詞をつける( He is a doctor. )が、フランス語では être の後につく職業名詞は冠詞がつかない。( Il est médecin. )これはフランス語では職業名や国籍を形容詞扱いしているためだと思われる。英語でも前置詞 as の後に来る”公職”が無冠詞であったり、「女ではあるが Woman as she is 」の場合にもむ冠詞であるのと同じなのかもしれない。

フランス語(左)と英語(右)の日本語におけるカタカナ表記の違い

symphony サンフォニー・シンフォニー

saint サン・セントまたはセイント

Olympia オランピア・オリンピア

de luxe デュルクス・デラックス

style スティル・スタイル

independant アンデパンダン・インディペンデント

palace パレ・パレス

almonde アマンド almond アーモンド

語法比較

英語における第5文型の make はフランス語では rendre (・・・を・・・にする)と faire (・・・に・・・させる)のふたつの動詞に分かれて担当されている。

文型その1 : make O + adj /n ⇒ rendre O + adj / n

文型その2 : make O + v ⇒ faire O + v

英語で受動態で表されるもののうち、受動態の多くがフランス語では代名動詞( se + V )で表されている。

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

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