政治時評

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テロへの報復

ブッシュ大統領が、マンハッタンやペンタゴン破壊の犯人を一刻も早く見つけだし、報復すると公表したという。これは「戦争だ」と息巻いている。世界最大の強国の元首だから、そのようなことを発言するのは当然かもしれないが、あまりにも短絡的で、何か相容れないものがある。そもそもこのテロ事件はアメリカのやってきた何かに対する「報復」ではなかったのか?

彼らによれば、テロリストを排除すれば、自由な国が守れるのだという。テロリストが生まれた原因を考えずして、民主主義と自由が続行すると信じているらしい。大国らしい傲慢さである。父親が湾岸戦争に表向き「勝利」したことが大きく影響しているのだろう。

テロは、卑劣であるという。卑怯な臆病者がやることだという。だが、これは、戦争における「奇襲」とどこが違うのか?ただ一つの違いは、政府による正式なお墨付きをもらっていないだけのことである。

すでにアラブ原理主義者によるらしいという、情報局の見解が漏れているが、さっそく、アラブ人に対する迫害が始まった。多民族国家のアメリカ人といえども、民族間のいがみ合いにかけては、北アイルランドや、ユーゴスラビアと何ら変わりないことがわかる。それどころか誰かスケープゴートを見つけて、政府の「報復」発言通り、忠実に実行している。

もし、あるアラブ国に攻撃をすれば、きっと遠くない将来にアメリカは再び「報復」を受けることになろう。そうなると、全アラブ諸国を敵に回すことになり、ひいては世界のすべて貧しい国々を相手にすることになり、これは昔から言われてきた「南北戦争」の本格的始まりという、恐るべきシナリオになるかもしれないのだ。そしてその時は、細菌をばらまくとか、原子炉をまっぷたつに破壊するというような、人類の幕引きになるかもしれない。

ところで、なぜアメリカは、このようなすさまじいテロを受けなければならなかったのか?何もないところから、このような攻撃が生じるだろうか?火のないところに煙は立たない。アメリカの過去が、これまでの行動が、それこそ「報復」の形で戻ってきたと言うほかないだろう。今までになく、アメリカ政府には Soul Searching が求められているのである。

原爆投下、ベトナム戦争、湾岸戦争、CIAによる政府転覆、グローバリズムによる貧富の拡大、世界のエネルギー資源の独り占め、地球温暖化をはじめとする環境破壊、遺伝子操作などによる製品の押しつけ、現地文化や宗教の破壊、少数民族の圧迫、地場産業の破壊、などと枚挙にいとまがない。これで、アメリカに恨みを持つ人がいないと考える方がおかしい。

だから、日本も、テロの標的にされる可能性は非常に大きい。たとえば日本の製紙会社が、大量の森林を伐採し、先祖伝来の居住地を追われて現地の人が、日本に対して深い恨みを持っている場合があるだろう。

ベトナムで、ナパーム弾に焼かれ、枯葉剤を浴びせられた人々は、やはり「報復」したいだろう。世界中で、アメリカの軍事・経済活動によって傷つき、殺された人々は、一つの国に固まっているのではなく、多くの開発途上国に「点在」している。だが組織化されたり、互いに連絡を取りあっていないだけだ。

だが、ひどい目にあって、本格的に報復をしたいと願っている人が多く存在することは事実だ。結局その中で最も憎しみに燃え、しかも技術と行動力を持った人々が、今回の事件を引き起こしたのだといえる。

たしかに、世界貿易センターの崩壊によって生じた何千人、もしかしたら1万人を越える死者の発生は国際世論の大きな同情を引き起こした。だが、この事件を引き起こした人々は、それと同じだけの、いやもっと多くの同胞を殺されてきたという背景がある。

ニューヨークへの攻撃を知ったとき、お祝いの声を上げる人々が、世界中至る所で見られたという。それは、「世界の警察官」に対する、世界の人々の考え方の一面が現れていることを、アメリカは謙虚に反省すべきだ。

もし、この事件を起こした、個人、団体、政府が特定できれば、アメリカの大統領は誰であっても直ちに報復のための軍事行動に出るだろう。これは、今まで歴史上すべての強国がとってきた行動だ。しかし、その方針は人の道とは違っている。報復はただ新たな報復を産むだけなのだから。

報復は、どこか開発途上国の貧しい人々を殺傷することになる。しかも、テロに対する報復は、アリを潰すのに似て、決して途絶えることはない。むしろ、知恵比べがエスカレートするだけなのだ。ついには、致死的な細菌が、マンハッタンの大通りに撒かれたり、サリン事件のような場合になることも考えられる。

どんなに防衛戦を張っても、警戒を強めてもテロを防止できない。解決策はただ一つ、人々の怒りをなだめることしかない。テロを誘発するような、行動を控えることしかない。民主主義や自由を守るためというような、空疎なスローガンを掲げるのでなく、アメリカによって現実にひどい目に合っている人々をなくすことが先決なのである。

中東の人々がなぜ反米的なのか。イスラエルに肩入れし続けると、どういう結果になるのか。石油の利権だけに必死になり、地元の人々の福祉を無視するとどうなるのか。アメリカの食品会社の経営するプランテーションの従業員は、人間的な生活を送っているのか、米軍基地の周辺で人々は苦しんでいないか、等々。

これらの問題を解決することからテロを撲滅できる。どんなに狂信的であろうと、原理主義的であろうと、人々の広範な無言の支持なしには、テロ活動といえども行えないからだ。

まず、武力で踏みつぶすことは永遠の闘争を引き起こすからまずこれは除けるとして、アメリカはその文明を、グローバリズムと称して他国に押しつけないこと。これがまず第一だ。

世界の多様な文化は、それぞれにおいて共存されるべきものである。アメリカの持っている価値が世界最高のものだという考えを完全に捨て去ることがまず第一である。

宗教思想や民主主義や自由主義は、理想主義の一つであって、これらは文化ではない。どの国もこれらを実現したところは一つもないわけだから、相手国に対して自分たちがこれらを持っていると主張すること自体が間違っている。

理想主義は、文化の違いを認めつつも草の根のレベルから少しずつ受け入れられてゆく性質のものである。決して上から説教して根付くものではない。

残念ながら、これまで人類は、この知恵を実際に得て報復を控えた試しはない。誰ひとり歴史から学ばなかった。人の命はアリより軽い。ビルの倒壊によって、肉親を失い悲しみにくれるアメリカ人は、ナパーム弾によって肉親を失い悲しみにくれるベトナム人とまったく同じ顔をしているのであるが。

2001年9月初稿

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