政治時評

法制度や行政によって社会に実現するべきだと思われる具体的方法

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杭州・西湖

国家の細分化

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国家の細分化は時代の流れだ。強大国は、その地方の一部が自治的な形態を離れて、少しでも独立しようとする動きを見せると、冷酷に押さえつけにかかる。

アメリカの南北戦争がよい例だ。表向きは奴隷の解放のためという説明がなされたが、南北の分断による、国力の損失は想像を絶する物であることは、北部におけるどの政治家においても当然の常識であった。北部は南部の綿花をはじめとする豊かな資源があったからこそ鉱工業の繁栄を謳歌することができたのである。

このため、これほどの多数の将兵や民間人の犠牲を払ってまで、国の分裂を防いだ。今になって考えれば、南部はメキシコ並の経済のままで、北部は世界一の大国にならずに、これに伴う対外戦争などさまざまな問題も引き起こさずに済んだという見方もある。

インドネシアからの東チモール独立、パキスタンからのバングラデッシュ独立も多大な犠牲を払って実現したが、中国西部のシンチャン・ウイグル地区やチベット地区での独立運動、ロシアでのチェチェン紛争などは未だに解決の見通しが立っていない。

さらに北アイルランドの分離、インドとパキスタンの国境地帯でのカシミールなどは、明確な住民の意思さえ問われていない。その他世界中には、植民地から無理矢理独立させられたために、そこに住む民族が、まだら模様になって分布し、国家統一の大きな妨げになっているところが多数あるのだ。国境と住民分布が一致しない場合は、最終的に線引きをやり直さなければならなくなる。

このように各地域では、言語、文化、宗教的にまとまった住民たちの意志を無視して統治が強行されているところが少なくない。このような状態を放置しておくと、わずかなきっかけで対立が流血へのつながってしまうのだ。

このような事態の背景には、国連が是認している国家主権主義への信仰が根強く支配していることがある。国連に加盟した国々には、加盟国である以上、独立した主権が認められている。ところが実際のところ日本の小さな県にも達しない規模でありながら国としての存在が認められ、他国と対等な外交関係が結べるものとされている。このような理念と現状との食い違いが、独立する側もされる側にも大きな問題を引き起こしているのだ。

これを解決するには、国家と地方自治体との間に準国家的な形態を設定して、それを国際法上も通用するようにしておくのが一番だろう。この形態に現在もっとも近いのは、ヨーロッパ共同体の目指す形式である。関税もなく通貨も共通、だが、アメリカの州以上にそれぞれの土地に根付いた、民族特有の社会習慣や慣習法はそのままにしておく形式である。もちろん脱退に関しては相当の自由が認められる。

世界の民族の多様性を考えれば、現在の国家の数は少なすぎる。現在の約180カ国から、その3倍の540ぐらいの数に増えてもよい。ただその場合は、今述べた準国家的形態を許すべきである。さらに大都市の場合はかつてのような都市国家の形態もあってよい。

もちろんその前に、アメリカ合衆国、ブラジル、ロシア、中国、インドのような広大な領土を持つ国々は、大国家主義による統制をゆるめる方向に持っていかなければならない。そして独立を望む各地域にはできるだけ自治を許して一人立ちさせるような方向に持ってゆくべきである。

いったん世界の国々が細分化されれば、小さな独立経済維持の困難さから、今度は逆に相互連携の必要性が痛感され、ヨーロッパ共同体の前進であった、隣国同士が自由貿易協定を中心にした結びつきをはじめることが可能になるかもしれないのだ。

さらにこれまでの米・中・ソの超大国支配や、アメリカによる一国支配のもたらす画一化の弊害を最小限にとどめることができる。グローバリズムは、貧富の差を増す一方で文化や生活様式の画一化を各国に強いてきた。無数の弱小国の存在により、グローバリズムの野蛮な活動にブレーキがかかり、地方や地域文化の再生が可能になる道も開ける。

2002年1月初稿

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