政治時評

杭州・西湖

法制度や行政によって社会に実現するべきだと思われる具体的方法

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プライバシーか言論の自由か

プライバシーが優先すべきか、それとも言論の自由が優先すべきか、これはその社会がいかに隠れた犯罪を内包するかによって決まってくるだろう。週間文春が田中前外相の長女に関する記事を裁判所がプライバシーを侵すという理由で発行を差し止めた事件は、日本における2者のバランスがどうあるべきかを考えさせる機会ともなり、将来の出版活動についても大きな影響を与えることになろう。

なるほど、プライバシーは普通の生活を営む人々にとっては決して侵してもらいたくない領域である。いくら親密な近所関係であっても自分が着替えをする姿から始まって、結婚や離婚、失恋のことまで他人に知られたらたまったものではない。

だが一方でスポーツ選手、俳優、歌手、政治家に関しては「公人」であり、彼らはプライバシーの領域が狭くなっていることを覚悟しなければならない存在である。なぜなら彼らの一挙一動を人々はマスコミを通じて見ており、関心を持っている。彼らは人々の期待に応えるということでそれぞれの職業を選んだはずである。また彼らの行動が人々に知らず知らずのうちに多大な影響を及ぼしていることをも意識していなければならない。

公人の子供や親についても同様である。なぜなら大政治家の馬鹿息子が親の選挙地盤を受け継いだとか、およそ政治経験のない俳優の妻が知名度だけで選挙に打って出たとかはよく聞く話だからである。ここには親族がその「公人」の名声を利用する余地がふんだんに用意されているのだ。

いくら自分は公人になるつもりはないと言い張ってもそれは現在における話であって、将来的にはどうしても公人でない人とは別の生き方をせざるを得ないのだ。従って公人の親族もまた特に息子や娘は明らかに公人、さもなければ準公人である。

たぶん今後日本の「公人」たちは、裁判所の差し止め命令に力を得て、自分のした本物の悪事から、ちょっとした私生活の秘密まで、差し止め要求を乱発することになるだろう。そういうものだ。前例を作るとマスコミはますます行動範囲が狭くなり、世間は息苦しくなるだろう。憂慮すべき事態だ。

日本社会はこれまでも「ひた隠し」にすることがどんな分野でも普通のことだった。先生は自分の学校の悲惨な実態を決して外に知らせなかったし、家庭では児童虐待をしていても素知らぬ顔をしていた。クラブではしごきが当たり前だったが、明らかになるのは死人が出たときだけだった。。

これらも今後は簡単に「プライバシー」の領域にはいることになる。児童相談所の人がいくら調査を進めても、ベテラン記者がいくら徹夜でねばっても、「差し止め命令」が今回のように安易に発動されたおかげで、ますます真相が明らかになることが困難になると思われる。

ところでプライバシーよりも言論や報道の自由が重視されるべきなのは、世界的な透明性への流れのためである。どんな悪人も自分のしたことは隠しておきたい。そして隠し通せることを知ればますます悪事を働く。これが人間性の根本である。

犯罪の最大の防止策は、その行いを白日の下に曝すことである。役所の人間や巨大な企業の人間がそれぞれの「秘密」を楯に情報を外部に漏らしたがらないのはいうまでもなくそれまでの悪事がばれるのを望まないからだ。

従って、情報公開の制度の実現には、途方もない抵抗を受ける。そして彼らは「プライバシー」という言葉を楯にとってなんとしてでも外部に漏れることを防ごうとするのだ。もし世間がこのような「プライバシー」を尊重しすぎるとするならば、悪人たちはますますぬくぬくとその殻の中で悪事を続けることになろう。

従って、多少の犠牲は覚悟しても、プライバシーよりも報道の自由を優先させなければならないのだ。確かにダイアナ妃につきまとったカメラマンたちはひどかったらしい。また、彼女が朝におしっこをしたのかウンコをしたのかまで知りたがる人々が存在するために、それを報道するための機関が発達したことも否定できない。

だが、どんな低次元に堕ちても、どこかで「公人」が悪事をした証拠が発覚するかもしれないのだ。そのためにはいわゆる大衆受けを狙ったマスコミにも目をつぶらなければならないのだ。しかもマスコミの中にははっきりした政治目的を持って大衆操作を狙うものもあれば、そのオーナーが自分の考え通りに会社を牛耳ろうとする場合もある。

プライバシーを尊重するあまり、ある一本化された情報管理社会にされるよりは、さまざまな情報が入り乱れ、互いに競合しあう社会の方がましである。きわめて俗悪なネタが舞い散る社会の方がまだましである。混乱の中である程度のバランスが見えてくるものだからだ。

2004年3月初稿

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