政治時評

杭州・西湖

今までが安すぎた!

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世界的な原油価格高騰は、一息ついたものの、今後高値を維持していき、下がっていくことは考えにくい。ひとつには投機によることが原因と考えられているが、これはその弊害の大きさに気づいた各国が規制に乗り出せば、ある程度に抑えることは可能である。しかし70億人近い人類全体のエネルギー需要を満たすには原油生産量が足りないのだ。

これまで先進諸国が独占してきた、エネルギー消費を開発途上国が同じ程度の使おうとする傾向が衰えるはずはないので、世界のすべての人間が平等なエネルギー消費の機会を与えられることを前提にすれば、今までの値段で済まされるわけはないだろう。

となると、これまでの安値は先進国の間だけで原油が使われていたという特殊な状況において通用したので、実は”異常”な値段だったといわねばなるまい。1リットル90円などという値段は、世界の人々が使うということを考えれば、とても実現できるはずがないのである。

先進国の人々はそのような安い価格が当たり前だと思う込むようになっていた。経済の歯車もそれを基本にして組み立てられてきた。たとえば夏にも食べられるということが売り物の「ハウスみかん」というものがある。農作物のうち、旬(しゅん)を無視して季節はずれに売り、高い利益を得ようという発想はエネルギー大量浪費が可能な時代の典型的な産物だ。温室を暖めるため、場合によっては冷房するために多量の重油を消費するということが、少しも反省を伴うこともなく強行されてきたわけで、生産者の頭には利潤しか思い浮かばない。

もうそういう発想はついに時代遅れになったのだ。原油高騰は、冬季におけるセントラルヒーティング、24時間営業の店舗、夏期における強力冷房、運転者一人しか乗らない乗用車、大型船を使った底引き漁業、ほとんどが残飯として処理されるコンビニ弁当、すさまじい維持費のかかる高速道路、など、社会の多岐にわたる分野での浪費を不可能にするのだ。

浪費をとめるために「ゼイタクは敵だ!」という精神論を振り回すより、今回のように社会全体に重圧としてのしかかる高値のほうがよっぽど効果的だろう。人々はこれまでの経済システムになれきって、容易に思考を転換することができないでいるから、おおさわぎをしている。

行政の側もやはり旧来の思考から逃れることができないでいる。貧しい人々に「福祉灯油」を供給するのは結構だが、これをこれから何年も、何十年も未来永劫にわたって続けることは可能なわけがない。漁業者は、燃費高騰の補填をよこせと主張しているが、それでなくとも毎年深刻化する自治体の借金財政のことをどう考えているのだろうか。

当然のことながら、経済は停滞する。もはや成長は見込めない。ゼロ成長でさえない。これからはどんどんマイナス成長が続く。旧来の立場からすれば、マイナス成長が止まる地点は見えてこない。だが、成長によって、あるいは際限のない消費によって成長を維持するなどという考えはもはや神話でしかないのだ。それなのに”経済を刺激する”などという表現は再び経済が成長することを夢見ていることを表し、まったく旧態依然のままとしか言いようがない。

地球上の70億人が平穏無事に暮らすためには、生活レベルの平準化と一人当たりのエネルギーや資源の消費量がきちんと計算され、ある一定の枠を過大に超えないようにする工夫が不可欠である。20世紀からの新自由主義とグローバリズムに基づく経済発展は、所得格差を拡大し、富裕層の浪費を促す流れになってきた。彼らは金の使い道を知らない。より大きな邸宅、より巨大な車、よりエネルギーを食いつぶす消費財を所有することしか頭にない。

アメリカでは貧困層が増大しているにもかかわらず、社会の構造が”消費”ではなく、”浪費”によって動いているので、今回の原油高騰には最も対応が遅い。そしてそのために近い未来に大きな惨禍を引き起こす恐れがある。もっとも現在は、例のいい加減な融資、つまりサブプライムローンによる被害が表面化して真の問題が見えてきていないが。

人々の目を覚まさせるためには、まずあらゆる商品に変動する石油価格に基づくサーチャージを設定するとよい。人々は資源の有限を思い知り、無駄を防ごうと思うだろう。食べ残しも減るかもしれない。ハウスみかんのような愚かな産物は次第に姿を消していくだろうか。特に日本は食糧自給率が低いくせに、非常に食べ物を粗末に扱ってきた。昔懐かしいエンゲル係数を大幅に引き上げるべきなのだ。

今後はかつてのように、なんらかのイディオロギーに基づく所得の平等化ではなく、資源の減少による効率的な分配の方法と、消費の方法が模索されている。環境問題も加え、単なる省エネでは追いつかない、根本的な施策がないと、人類は21世紀を乗り切ることができないのだ。

2008年9月初稿

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