文明時評(2)

きつね

ライフスタイルに関わる、独断と偏見に満ちた考察

百円魚缶詰を見直そう

付記:魚肉ソーセージ

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日本に売られているあらゆる食品が何らかの汚染、たとえばダイオキシン、農薬、防カビ剤、防腐剤、保存料、pH調整剤にまみれているとき、少しでも安心できるものはないかと探してしまうだろう。だが、製造元へ行って直接監視するわけにもいかず、まさか輸出国まで出かけることもできず、われわれには食品化学の知識が乏しいこともあって、なかなか正しい食品選択ができないでいる。

いっそのことすべてを自給自足できればいいのだろうが、そうもゆかぬ都市生活者にとって、一つの安心できそうな製品が見つかった。それは缶詰である。なぜ今缶詰なのか。冷凍食品全盛の時代にあって、缶詰はナポレオンの時代に発明された時代遅れの保存食品に思える。また、ヨットで太平洋横断などというと、この缶詰を山のように積み込んで出航したものだ。缶詰には水平線の向こうにある、船乗りの夢も入っているのだ。

だが、ブリキを原料に使い、真空という単純な雑菌防止に基づく保存方法は、冷凍のような膨大なエネルギーを必要とせず(あなたはスーパーの自由に手に取れる冷凍食品ケースの電力消費量を見たことがあるか?おどろくぞ!)常温で、戸棚の中に放り込んでおけるので実に気楽だ。さすがに缶詰製造の場合は、いくら保存料や添加剤のお好きな食品業界も、わざわざ入れる御仁はないようだ。

缶詰はいろいろな食品が入れられているが、特にスーパーの目玉にされるのは鯖、鰯、秋刀魚、ニシンのような大衆魚(不思議に鰺が見あたらないが、加工しにくいのか?)なのである。これらは、何年かに一回、大漁の時があり、そのときに余った魚を、それも新鮮なやつを早速缶詰にして閉じこめてしまう。だから安くてうまいのだ。

だが、輸入牛肉やら、無菌豚やらが豊富に出回る今日、滅多に目を付ける人はいない。買ってゆくのはアジアから出稼ぎに来ている人や、魚好きの老人たちが主だ。しかしゆっくり考えてみると、安くて、しかもコレステロールの心配もなく、なおかつタンパク質の供給源としての優等生なのだ!

メーカーによって違うが、味付けがやや甘口なのが気になる。味噌煮、蒲焼き、醤油漬けなどいろいろあるが、かなり濃いめに調理されている。しかも増結剤(キサンタン)、着色剤(カラメル)、糊剤(グアー)などと性懲りもなく添加したがる。なるべくなら「水煮」を選びたい。これなら水と食塩だけ。特に鯖は水煮を買えば、さまざまな料理に応用ができる。しかも飽きにくい。

ところで、残った汁はどうするか?捨てるなんてとんでもない。下水に捨てれば処理場に負担をかけるし、燃えるゴミとして出せば、そこに含まれる塩分のため、ダイオキシンの発生源となる。自分のところで使ってしまえばいいのだ。ご飯にかけて「ねこま飯」にするのもよし、もっとおもしろいアイディアは、ゼラチンを溶かして固めてしまう方法である。つまり昔の「煮こごり」にしてしまえばよい。冷蔵庫でも相当持つし、スプーンですくってちょっとしたおかずになる。しかもタンパク質がさらにいろいろなアミノ酸に分解し、カロリーがないので、ダイエットには最適だ。

残った空き缶は貴重なスチール資源だ。ちょっと水洗いをしておけば、溶鉱炉に放り込んで、何回でも新しい鉄製品ができあがる。この鉄という奴はアルミと違い、低い技術でも再生可能だから、消費エネルギーもはるかに少なくて済む。そういえば、コーラやビールはみな、アルミだが、なぜ、魚の缶詰はみなスチールなのだろう?こんな素晴らしい魚の缶詰にばんざい。そして、缶詰の発明のために懸賞金を出した、ナポレオンにもばんざい!もっとも、これでこの愛好者が増えれば、百円から値上がりするかもしれない。痛し痒しだ。

1999年11月作成

魚肉ソーセージのすばらしさ

魚肉缶詰もすばらしいが、かつての魚肉ソーセージといえば添加物の固まりの代名詞とも言われた。しかも高度成長の波に乗って、牛肉や豚肉のすばらしさが喧伝され、魚肉ソーセージはペットフードにするのだといわれたこともある。貧乏人の食い物だとさげすまれたこともあるのである。

これが一転して健康食品の一つになったとは何という歴史の皮肉であろうか。今では狂牛病の原因物質が入った牛肉は愛犬にすら食べさせることができない。人々は過食に悩み、悪玉コレステロールをこれ以上取り入れないように肉の量を制限する羽目に追い込まれた。

魚肉ソーセージが添加物や保存料から解放されたのは、あの内装フィルム(PVDC)のおかげである。丈夫で空気も菌も一切通さないこのプラスチックの実用化のおかげで腐りやすいはずの魚肉の常温保存が可能になった。「歯を痛めるので噛み切らないでください」との注意書きがあるほど丈夫なのだ。

世界中の漁獲高は、漁船の設備が近代化するのとは裏腹にどんどん減りつつある。捕獲量が自然増を上回っているからだ。特にマグロやニシンのように多くの人々に好まれる魚種では集中して捕獲され、国際条約の整備もなかなか進まないために一層減少に拍車がかかっている。

いっぽう、いわゆる雑魚(ざこ)と呼ばれる種類は多くが魚市場に到達する前に捨てられたりする。人々が気取っているのか生まれたときから食べさせてもらえないのか知らないが、タンパク質やカルシュウムにかけては決してほかの種類にひけをとらない魚がたくさんあるのだ。

これらは安くしかも一時的に大量に獲れたりするから始末に困る。サンマや鰯、鯖などであればすぐさま船に付属した缶詰工場で加工することもできるが、そうもいかずへたすると海中投棄されることもある。それらの魚は、ほっけ、えそ、サケなどの類だ。

ソーセージはこれらの魚の身をすりつぶし、結着材料としてでんぷん、植物性たんぱく、つまり小麦や大豆、そして豚ゼラチンを使って身を固め、若干の調味料を加えて薄味に練り合わせてその後内装フィルムに入れたまま120度で4分間ほど加熱殺菌するのである。黒い斑点は魚の皮だし、赤い斑点がある場合はこれはカルシュウム成分が色素と反応しただけだから全然心配ない。

これほど資源的にも略奪的でなく健康的な食品があろうか。もちろんそのまま食べても美味しいし、焼いてもよい。それでも物足りなければ何かタレでも作ってかけて食べるのもよい。特に向いているのはおにぎりの友である。一本食べれば95グラム、その中でカルシュウムの含有量は380mgほどあり、これは一日の必要量の54%にあたる。

2004年11月初稿

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