文明時評

きつね

ライフスタイルに関わる、偏見と独断に満ちた考察

免疫力を増強しよう

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人類がこの世界に出現してから、長い間自然の猛威にさらされながらも、何とか滅びることもなく今日まで生き延びてきた。但し人口はほとんど増えなかった。これは長年の自然淘汰の結果であり、この間に病気やケガでいかに多くの人間が死んだことだろう。

これが、紀元前4000年ぐらいになって各地に都市ができるようになると、今までとは全く違った状態が生じてきた。それは人間生活の快適化である。

これは、雨風をしのぎ、野天で寝ずに済むとか、毎日狩りに出て食糧を探す必要がないといったことに始まり、おかげで体力的に弱いものも保護されて生き延びるようになった。

だが、20世紀になってからの生活条件はそれまでの数千年とは一変し、極端な保護状態に特に「文明国」の住民は暮らすようになっている。これを「自己家畜化」という。

これは交通機関や冷暖房器具、薬剤が発達したことによって、ますます多くの人々が自らの抵抗力を必要としないで生活ができるようになったことを意味する。

たとえば運動量の極端な減少。かつて東京から大阪まで大部分の人々が歩いていたことを考えれば一目瞭然である。またかつての人力による作業が機械に置き換えられたことが実に大きな変化をもたらしている。

しかしもっと大きな変化は、薬による治療の行き過ぎだろう。現在「風邪を引いた」「頭が痛い」「だるい」というような体の不調を訴える人で、薬を飲むことを考えない人はほとんど皆無だろう。

そのため、病気は薬によって治すものという驚くべき習慣が無意識のうちに人々の考えの中に根付いてしまっている。これは実に重大な変化である。それは人間に本来備わっている治癒力を無視しているからだ。

たいていの動物は、寄生虫や細菌やビールス、暑さ寒さに対する防御反応はある程度できるように作られている。そしてそれほど重大なものでない場合は、たいていそれらを撃退する力が備わっているものなのだ。いや我々が先史時代の人類の子孫であること自体、ついこのあいだまで強力な防御力を持っていたことの証なのだ。

それなのに、現代の医学や薬の与え方は、まったく防御力のない人に対する扱いを、すべての人々に対して行っている。風邪気味ならすぐ風邪薬を飲ませる。だるいならドリンク剤を飲む。その他正常な防御力を持っているはずの人までが大量の薬を飲み、治療を受けている。

これがどんな結果を生むか想像に難くない。まず免疫力と呼ばれる先祖伝来の防御力が弱体化し始めた。または花粉症に見られるように暴走し始めたのである。

せっかく丈夫な体質を持っていながら、このように無差別な薬や治療を与えるために、むざむざ体を弱められてしまっている人が何と多くいることか。しかも恐ろしいのは、そのような変化にはほとんど自覚症状が伴わず、人々は長期的な弱体化を見過ごしているか、全く無関心なのである。

製薬会社や病院は、免疫力の強化の面倒を見てくれるほど、気がいいはずはない。なるべく多くの人々が治療を受けて薬を「消費」し収入が増えることが先決だからだ。

そのためますますこのような状態が野放しになっている。これを何とか自覚して押しとどめないと、人間の体質は年毎に弱まり、ちょうど無菌室で育った豚のようになってしまう。

実際に、アメリカで3日間シャワーを浴びさせない実験をしたところ、皮膚病が続出したと聞く。抵抗力の驚くべき低下である。電車の吊革さえも細菌感染がこわくて、きちんと握れない人も多いのだ。

もちろん体質の弱い人については従来通りの治療や薬剤投与が必要だろう。だが、体質的に頑健かどうかを調べるのは簡単なことなのだから、丈夫な人々に対しては弱い人と同じ治療を控えるべきなのだ。

現在の病院や保険制度では、そのようなことは全く考慮されていない。だから短期的には、国民の健康が向上したように一見思えるが、実は長期的には、人類全体の体質低下の坂道をまっすぐ転がり落ちているのだ。

個人的には、まず自分の持つ免疫力の強さをはかること。熱を出すような風邪を1年に何回引くか。ある一定の運動を行ったあと、回復にどれだけかかるか。だるさや肩こりがどの程度の頻度で起こるか。

このような指標をもとに自分の免疫力がある程度は分かるはずである。極端に弱い人は病院の世話になるしかないが、そうでない人は、未来の23,4世紀に暮らす我々の子孫たちのことを考えて、体質強化に取り組むべきである。

極端な清潔志向はいい加減にしよう。「抗菌」などというものは元気な者にはまったく不必要だ。野宿をしたり、腐りかけたバナナを食べたりできるようでないと、生物としての人間とは言えない。文房具に抗菌処理がほどこされているなどと聞くと、もうこれでは終末だ。

実行するのはかんたんだ。毎日の乾布摩擦や薄着の励行だけでも大きな効果がある。冷房に頼らないとか、飽食を避けるというような単純なことを実行するだけでも、大きな変化が望める。

人々はジムに通ったりして、体力や筋肉の強化には熱心だが、「病気に対するかかりにくさ」という点でもう一回自分の生活を見直すべきだ。では実際にどういうことを心がければよいか。

寒波がやってくるから風邪を引かないように体を暖かくしておく、というやり方はまったく誤り。正しい対処法は、寒くもなく暖かくもなく、しかしどちらかというと少し薄ら寒い状態に自分の体をおくこと。これで体が目覚め震え上がり防衛体制が整う。

しかし本当はもっと積極的な健康増進策が欲しい。南極探検で有名になったアムンゼンは小さい頃から探検家志望で、寝るときは窓を開けてベッドに横になったという。これも突然やったら誰でも風邪を引いてしまうが、少しずつやれば体が順応して平気になる。免疫性は訓練によって相当高めることが可能なのである。

もう一つの例として南アメリカの最南端フェゴ諸島に住むインディアンの話も聞いてほしい。コロンブスの発見以後白人が初めてやってきたとき彼らは気温が10度以下なのに裸で暮らしていた。これは彼らが丈夫だったのだと言うよりは、フェゴ諸島に風邪のウィルスがなかったのだというのが正しい。白人によってウィルスをうつされた原住民たちはばたばたと風邪で死んだ。免疫性は環境によって左右されるのである。

要するに自分の体に過激でない程度の「負荷」を常にかけておくことなのだ。体をある程度「いじめる」ことによって最適状態を保てるのである。

2000年4月作成2004年11月追加

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