文明時評

きつね

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投資信託、株に手を出す時

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資本主義社会では、株や投資による経済活動がなくてはならない要素だ。かつては株の売買はごく限られた投資家と呼ばれる人々や、機関投資家の領分だった。

彼らは投資についての深い知識を持ち、自らの責任において取引を行う、ということになっている。たとえそれが名目上のことであろうとなかろうと、長い経験と失敗や成功のさまざまな事例を持っていることは確かなわけで、そこが一般の素人投資家と異なる。

問題なのはバブルの時代、つまり1990年代初頭あたりから、株式や投資信託が主婦や、小金を持つ人々の間に広まってきたことである。わずかな資金で株が楽しめるようになった制度上の規制撤廃もさることながら、やはり株でもうけるということに心理的な抵抗感がなくなったのが大きい。

いわゆる博打と大差ないわけだが、たとえばオリンピックでのプロ解禁、のような世の中の風潮がここにも及んできて、金をもうけることと、手段が完全に切り離された社会になったのである。

ここで株の失敗による財産の喪失などを論ずるつもりはない。それは各人の責任において行うのであって、それは警告を無視して登山で遭難した場合と同じく、各自の自由にまかされればいいのである。

問題なのは、株や信託を巡る社会的影響である。かつてはまったく目を向けられていなかった問題で、とにかく資金集めの正当な手段としての見方が中心であった。人々はすぐに株で失敗したか儲けたかだけを問題にする。

かなり前に証券会社が、個人の失敗には知らない振りをしながら、大手の取引先には「損失補填」を行うという明らかな不正と不公正が行われていた。だがこれは法的な問題であって、不法行為を行った者に対しては処罰を与えれば済むことである。

ところが、投資にはただの金儲けをたくらむ人間にはまったく見えてこない側面があるのだ。それは投資する会社の実際の社会的行為のことである。日本ではそれに対する関心がまったく抜け落ちているといっていい。

そもそもすばらしいアイディアを持っていて、金がないために実現や企業化ができない人々にとって、投資は成長の基盤である。中小の企業にとっては、暴利をむさぼられる銀行から借金をするよりははるかにありがたい存在だ。

投資家はその企業の将来性を買って、中には自ら参加してその会社を育てるという人もいる。ところが今の投資家の大部分は、それがない。一つは一部上場されたような安定企業の株を買う人が大部分であり、ベンチャーへ投資するほどの勉強やリスクを負う覚悟の人は、ごくわずかである。

しかも大衆投資家というかたちで細分化されたために、企業の収益性については血眼になっても、企業行動についてまで詳細に調べ上げる投資家は少ない。株の醍醐味は、本来会社そのものの独創性や成長性を見つけることにあるはずなのだが。素人は、自主的な判断ができないから投資会社の口先に乗っているのが現状である。

ここに、現代株式における陥穽があり、特に経理以外の点が「企業秘密」ということで明らかにされていない場合には、投資家は何も内容を知ることもできないし、株主総会で発言して会社の方向を変えるなど到底できるはずはない。

ある有名な運動靴の会社は、その優れたデザイン、耐久性で有名で、スポーツ愛好家の絶大な支持を得ていた。ところが、その生産場所を探ってみたところ、実はアジアのある貧しい国の児童労働に頼っていることが明らかになった。

問題はこのような行動を企業が取っているとき、投資家はその行為に「加担」していることになる。配当金だけいただいて、あとは知らないと言うのであれば、それはいずれ投資家精神の腐敗を招くことになろう。

実は現代社会において、大企業への投資が増えるにつれ、このような問題がますます増えてゆくことになる。複雑に絡み合った社会では、個人の無邪気な行動も、恐るべき犯罪行為の一端を担っているかもしれない不気味さがあるのだ。

たとえば、原子力発電に反対の人は、電力会社の株はもちろん、電力会社からみの企業のいずれにも自分の投資した金が利用されるということを常に考えておかなければならないのだ。

遺伝子組み替え食品を好まない人は、その研究を推進している企業の儲けの恩恵を拒絶しなければならない。熱帯雨林の大規模伐採によって作ったプランテーションや牧場から食糧を供給してくる会社に資本金を寄付することは当然止めるべきだろう。

こうやって考えてみると、株の売買はもちろん、その企業の製品を買うことすら、すべてまわり回ってつながっており、その企業の利益に結びついてしまうところに現代の経済構造のジレンマがある。

誰でも株を買うときは収益性しか考えない。ましてや投資信託は信託会社に「お任せ」だからまったくどこに投資しているものやら最後までわからない。完全な「マネーゲーム」である限りは、社会的責任が一切問われないのが今のシステムである。

だが、大規模な環境汚染を行っている会社とか、違法ではなくとも明らかに反社会的行為を行っている会社は、それが大規模である場合、それが許されることではない。企業の自由を制限しそのような行為を常に監視する機構がなければ、マネーゲームの暴走を許すことになる。

特に多国籍企業の場合は、一国で規制を強化してもグローバリズムという隠れ蓑を利用して、規制の緩い国へ逃れるだけである。アメリカ合衆国で厳しくとも、インドで垂れ流しをしてもよい、というのが彼らの基本的姿勢なのだから。

先の運動靴の例では、アメリカに端を発した国際的な不買運動でこの行為を改めさせた。最終的には企業イメージが傷つくことをこの企業は恐れたのである。これは規制の数少ない成功例である。

運動靴のように小売店で売られる具体的な商品では、このような運動を進めやすいが、これがこと原材料部門や、食糧でいうと加工以前の段階などでは、消費者への働きかけが難しい。

このときこそ、株主の出番なのである。不買運動ならぬ売却運動を行う、などということを考えても、会社側の人間に株を抑えられるだけだから、何かもっと別の戦略を考える。株主が数でまとまれば、労働組合の場合と同じように大きな影響力をもたらすことができるかもしれない。

単なる配当額に一喜一憂するだけでなく、株主の社会的自覚がこれからはますます求められるのである。自由競争に勝ち、利益を上げるだけが唯一目標である会社はろくなことをしないし、そんな会社は存在してもらいたくない。

もう私企業の自由だけを振り回すことは許されない。グローバリズムの時代には最大の自由を行使できるのだと勘違いをしている連中も多いが、これからは国際的な法制化だけでなく、私企業の内部からも、良識ある株主が舵取りをしてゆく時代にならなければならないのだ。

これからの投資家は新しい社会的責任を自覚し、「儲かる会社」だけではなく、「よい会社」「社会に貢献する会社」を選ぶべきだし、大企業ではなく、「独創的な会社」を選ぶようでなければならない。そして逆に「悪い会社」には自分の資金力(たくさんあればの話だが、ないときには志を同じくする者と団結して・・・)で処罰する態度を常に持ち続ける必要がある。

残念ながら、現代のグローバリズムの時代には、巨額の金を動かす機関投資家たちが幅を利かせ、少額の投資者たちは、その発言が抑えられている。アメリカのように成熟した経済体制ならまだしも、日本やアジアの抽象気行のように、家族経営を中心としているところでは、その体質を大企業までが持ってしまって、総会屋の横行を招き、経営陣が勝手し放題のところが実に多い。

健全な経済発展を目指すなら、小規模投資家がしっかりと団結し、巨大資本と互角で戦えるくらいの勢力になる必要があるが、その道のりは遠い。だが、最近こういう問題に関心を持つひとが増え、新しい概念が生まれつつある。

それは「社会的責任投資」といって、環境や開発途上国の住民のことをきちんと考えているか、製品にまやかしはないかといったことを厳重に審査し、ランク別にリストアップして、投資家に提示するシステムである。

まだこの動きは始まったばかりだが、データが整備されるにつれて、投資家の大きな指針となるだろう。そして何よりも企業の襟を正させるのに大いに役立つことになる。

悪徳企業も、このランク付けで低い方に格付けされて、投資が減ったのではたまるまい。選挙の候補者の場合と同じように、不正防止には、透明化が一番なのだ。

規制緩和によって自由競争の弾みから企業の暴走が増えている。これを止めるには、従来のような法律による規制では昔のやり方に戻ってしまう。一歩進んだ人類の英知が求められているのだ。

株主の権利が優先される今の会社

かつての日本の会社は株主の利益よりも会社自体の利益の方に目がいっていた。ストライキによって労働者の権利が強くなれば彼らの収入は上昇する見込みがあった。

ところが最近の株式会社ではまず株主が自分が投資した分以上の配当を要求する。その要求額はますます高額になってゆきついには短期的な業績さえ良ければ会社の内容などどうでもいいという連中が出現するようになった。

彼らにしてみれば配当利益さえよければ労働者の収入など低ければ低いほどいいし、「効率化」と称して「雑巾は絞れば絞るほど水は出る」と思いこんでいる。

これでは労働者は救われない。しかも英仏独などと比べると日本の労働者の団結が弱いから、経営陣のなすがままである。リストラにも弱く、会社にとって本当に利益になる人間以外は正社員にしようとはしない。地獄の時代がやってきた。

2000年7月初稿~2007年8月

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