文明時評

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きつね

アメリカを滅ぼす二つの方法

原爆もテロも炭疸菌もいらない

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石油

アメリカを壊滅させるには、石油の不足と水の不足があればよい。そしてそれは遠からずやってくる。ローマ帝国が他国の攻撃によってではなくさまざまな内部の要因によって滅んだように、アメリカも一国主義を唱え世界中の富を独占しようとしたときからその運命は定まった。

現在のアメリカは石油の自給ができていない。国内の消費量が国内生産量を大きく上回るからである。発見当時は国富を増大させ経済発展のもとになったテキサス州周辺の油井の中にはすでに枯渇しているところも出ている。

だがいったんエネルギーを膨大に消費するようになるとこれを減らすことはまず不可能である。そもそも自由主義経済とはつねに回転させていなければ倒れる。つまり自転車と同じだ。これまできわめて旺盛な内需によってアメリカ経済は支えられてきた。おかげで日本も含め多くの国々がアメリカに輸出することによって潤ってきた。これらの国は輸出依存の体質に変化し、自給自足の体制が大きく崩れている。

だが消費を続けなければ経済が立ち行かない構造だから、いったんその動きを止めるものが現れればたちどころにそれは崩壊へと向かう。たとえばかつてのような大不況である。だが最近では巧みな金融政策により経済全体の大きな落ち込みをくい止めることができるようになった。

崩壊へのもう一つの原因は、原料供給である。何をさておきアメリカでは石油の燃焼によるエネルギーが第一に国を支えている。ハイウェイにあふれる車、林立する高層建築、ファストフードの店から吐き出される途方もない量のゴミ、かつては無人の荒野だったところにオセロゲームのコマのように埋まって行く住宅地・・・

これがつねに動き続け想像を絶する消費と浪費が行われているからこそ、アメリカは「好況」であり「強大」なのだ。我々は新聞の経済欄で「消費拡大」という言葉を頻繁に目にする。だが多くの読者はその実態をわかっていないようだ。これは地球温暖化の警告をよそに大量の石油資源、酸素の食いつくしと、自然破壊を行っていることの単なる言い換えなのである。

よくたとえられるように食料、エネルギーをインド人6人分(今では5人分になったようだが)を一人のアメリカ人が消費する。そしてその大本は石油である。経済が調子よく回転し続ける限り、世界中の油田から石油を買い取ることができるから、ほかのエネルギー源、たとえばドイツなどと違って風力や太陽光発電の開発にはきわめて冷淡だ。

その実態を知りたければ、ホームステイなどしてアメリカ人の浪費生活の実態を生活の中に見てみるとよい。大量に買い込む加工食品、冷凍し、冷房し、暖房し、移動するために要するすさまじい量のエネルギーを。そしてその肥満体の多さ。土葬ならともかく火葬なら、遺体を焼くのに平均的日本人の何倍もの重油が必要になる。

化学肥料は主に石油から作られる。これをやせた、またはすでに生産力のなくなった土地に投入して無理矢理牧草を生やす。これを刈り取って袋に詰めて日本の牧場では買って牛や馬に食わせている。彼らにあるのは広い土地だから、ここから徹底的に農産物を収奪してゆく。

ニューヨークのような大都市をのぞいて、店舗が分散して立地しているため収入の少ない人々も車なしには生活できない。安い中古車はみなガソリンをがぶがぶ食う。電車やバスの路線網もないし、自動車産業を保護するためガソリンの値段は意図的に低く抑えてあるから、これがガソリンの消費をいっそう加速する。個人が車に依存した生活から抜け出そうとしてもできないようにシステム化されているのだ。

また、彼らはアメリカ国内にだけ目を向け、世界の他の国々でもガソリンを必要とする事実を認めるだけの視野の広さがないから、「カネさえあれば」その消費にはいっこうに歯止めがかからない。カネさえあれば何をどのくらい使おうと自由なのだ。これが「自由経済」の真の意味である。

このように徹底的に石油依存に落ち込んだ人々はそれ以外のエネルギー確保に目を向けることはない。もちろん景気がいい間は「省エネ」などということは死語になっている。実は彼らの生活基盤は実に危ういところに立っているのだ。薄氷の繁栄である。

一方世界各地で代替エネルギーの研究が進んで、燃料電池などがかなり有望になってきた。だが、これらを実用化するためには既存の機械や設備などシステム全体を入れ替えなければならない。車もトラクターも船舶もみな別の動力機関に置き換えなければならない。石油の枯渇を予測してこれらの置き換え作業をゆっくり確実に進めれば問題はさほど深刻にはならないだろうが、実際にはそうなっていない。

石油が断たれるにはいくつかのシナリオがあろう。まず考えられるのが資源としての枯渇。だがこの時期を正確に予測できた人は世界中に一人もいない。もしかしたら知っているのかもしれないが、大恐慌をおそれて秘密にしているのかもしれない。

あとは産油国のストライキ。かつての「石油危機」の再来である。中東での戦争が激化して石油施設の大量破壊が起こることも考えられる。実は現在世界の産油国の生産体制はほとんどフル操業をしているのである。どんな事件があってもこの体制の崩れは石油の不足を招く。その場合の深刻さは少しぐらい備蓄していて間に合うものではない。

最後に控えるのが、石油の奪い合いである。これまでは欧米と日本が主に石油を消費していた。しかしロシア、中国、インドがこれに加わろうとしている。すでにこの2.3年の急激な経済成長は、中国の石油輸入を一気に引き上げた。アメリカが産油国イラクを占領したのはヨーロッパ勢を退けるだけでなく、中国がやってくる前に手を打つためだ。

これまで国民の大部分が貧困層にあったインドと中国の人々が、ある程度の生活水準を達成することを妨害する権利はどこの国にもない。だが、かつての共産主義と資本主義のようなイデオロギー紛争と違い、こと「生活の糧」に関わるだけに、将来的に大国間の石油争奪は再び戦争への道を歩むだろう。

すでに中国は南シナ海や東シナ海の石油掘削を試みているが、領海侵入など日本などともめても気にする風はない。自国内に石油資源がなく、それでいて人口の多いことが、インドと中国にとって新たな油井を求め、それがこれまでのアメリカの権益と衝突するのは決して遠い将来ではないだろう。

今のところは石油の大部分が強大な国際資本に牛耳られている。そしてこれらの会社の背後には欧米の政府が後押しをしている。これらの資本が危機にさらされるようなことがあれば、自由主義とか放任主義といったきれい事はまったく通用しなくなるだろう。

アメリカ政府はそのようなとき突然マキアベリズムの神髄を披露してくれるだろう。これまでの民主主義を広めることをうたった看板を下ろし、イラクのように石油資源の豊かな国に露骨な侵略を始めることになる。それはブッシュからほかの大統領に代わっても同じことだ。背後にある「国益」が最優先するのだから。

彼らにとって、ぶよぶよに太った体重150キロのアメリカ人が500メートル離れたコンビニにビールを買いに行くために乗っていく車を動かすガソリンを手に入れるためならば、イラク人が1万人死のうと100万人死のうとどうでもいいことなのだ。

だが、力をつけた中国やインドがそのような行動をただ放置するはずがない。少ない石油の奪い合いは原油の販売価格を途方もなくつり上げ、アメリカ人の石油漬けの生活は一夜のうちに崩壊するであろう。もちろん日本も同列だ。何しろ同盟国なのだから。

一方北欧諸国やドイツのように、地味ながら少しずつ代替エネルギーの開発に精を出してきた国はそれほどのインパクトを受けないだろう。彼らはたとえば風力発電の割合を次第に増やしている。リサイクルのシステムをしっかりとうち立て、無駄のでない社会づくりを実験している。彼らの体制がきたる石油がなくなる時代に間に合うかどうかは定かではないが、壊滅的な打撃は避けることができることだろう。

もう一つのアメリカの滅亡原因は水である。といっても飲料水だけではない。危機に瀕しているのは農業用水である。合衆国全体を見渡すと、南東部は雨が多く森林が続いている。だが、西部はカナダ国境近くをのぞき、乾燥した地域が大部分を占める。そして中部は、今つねに干ばつの危機にさらされている。

ではどうして実際に干ばつが起きないのか。降水量は年々減少傾向にあり、砂漠化が進んでいる地域も多い。ロッキー山脈から流れ出す川は多数あるが、小麦とトウモロコシの大量生産にはとても足りない。大量に水を消費する植物をどうやって支えているのか。

それは地下水の汲み上げである。アメリカ大陸が太古の昔から降って地中にしみこんだ水は地下の巨大な貯水層にたまり、これがアメリカの植生の豊かさを支えてきた。中央部はコロンブスらがやってくる前は果てしなく続く大草原であり、一年草の植物は毎年枯れて土に埋まりどんどん土壌を有機質で豊かにしてきた。いわゆる「黒土」層が形成されてきたのである。これを上回るのはロシアのウクライナ地方ぐらいなものだ。

今それを徹底的に収奪している。何千万年に及ぶ蓄積が今急速に浪費されている。農業商社が農民たちに大量生産を強いて、肥料を与えることなく穀物が大量にとれることに目をつけて、アメリカ国民が消費できるよりも何倍も多くの作物を作らせた。つまり国外に輸出して大儲けをするためだ。

日本でも終戦後、「米を食べるとバカになる。パンを食べよう」などといわれ、それを愚かにも信じたために国内での小麦の生産をやめ今日に至るまで大量の小麦を輸入「させられている」経緯がある。牛肉の場合の狂牛病が輸入を完全にストップさせたように、何か病気が小麦にも現れるといいのだが。そうでもなければ日本の農林水産省は自給の重要性に気づくことができないのだ。

中学校の社会科の教科書に載っているように、アメリカでは小麦やトウモロコシは一面の単一栽培である。これは農業とは言わない。完璧な食料生産工場である。単一栽培であるから、当然害虫がはびこるはずであるが、もちろんお得意の農薬技術によって徹底的に抑圧している。

それにしてもその水の供給源はどこかといえば、至る所に掘った井戸である。乾燥化地域が広がるにつれ、これまで水のことは放っておいてよい地域まで、スプリンクラーを使い始めた(最近ではまき散らすのではなく蒸発の恐れがない地中にしみこます方法が主流であるが)。とにかく穀物はどん欲に水を要求する。

水を汲み上げるにはポンプがいる。ポンプを動かすには電力またはガソリンがいる。インドの農民のようにまさか井戸から手仕事で汲み上げたりすることをアメリカ人がするわけがない。かくして悠久の時間に蓄積された肥沃な大地は今急速に金儲けという自由主義経済の卑近な目的のために消費されているが、もっと深刻なのは水である。

黒土なら工夫次第では取り戻すことができるが、地下にあった膨大な量の地下水はいったん汲み上げれば、もう再びたまることはない。数億年ほど待たなければ・・・かくしてアメリカの農業は終末に近づいている。愚かな人間の営みが悲劇の原因になるこれほど巨大な規模での例も珍しい。今地下水は枯渇に向かってまっしぐらである。

かつてリョコウバトが舞い(今は絶滅)、バッファローが地平線に続く大群を作って移動していた平原は、小麦やトウモロコシ工場となった。そして今貴重な水が浪費されている。南極の氷をタグボートで引っ張ってきて淡水を得る方法が真剣に検討されているという。人間とはなんと近視眼であることか。

白人がアメリカ大陸にやってきたのが、特に今の合衆国の地域にやってきたのが間違いだったとつくづく思う。インディアンがまばらに住むかつての大陸であったなら、人類はこんなに早く滅ぶことはなかったろうに、と思うことになろう。

2004年8月初稿

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