文明時評

きつね

人間家畜化のゆくえ

愚劣さの行き先は?

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牛や豚や鶏が野生状態から切り離され、人間の利用に供されるようになってからもう数千年がたつのだろう。彼らはもはや野生で自活する能力を失ってしまった。おかげで人間はそれらを好きなように作り替えてきた。

「家畜化」とは、自然状態で生き延びることができないほどの特殊性を身につけることだ。彼らの最大の任務はできるだけ多くの肉、卵、乳などを産出することだからそれ以外の点での発達は極力抑えられる。

自然界では、ある大変住み心地の良い「ニッチ」にすっかり適応してしまった動物がいる。コアラがいい例だ。彼らはユーカリの葉なしには生きていけないし、ほかの環境では容易にストレスからショック死を起こしてしまう。

しかし人間自身もこの流れに沿った変化を遂げてきた。自然界で戦うことは本質的に辛いことであり、そこから逃れるために人間は知恵を使ってきたのだ。おかげである時点を過ぎたところから急速に自らを家畜化してきた。ある時点とは「農業の開始」や「都市生活の開始」である。

農業によってそれまではかみ砕いていた自然界の食物から別れを告げてもっと食べやすい食料だけをもっぱら生産することになった。煮たり焼いたりすることによって歯の機能は大きく後退した。そしてなんといっても都市とは自然界とはまったく違った人工環境である。そこには自然界にふれたこともないような人々が新しく誕生した。

だがそのあとのいわゆる進歩は、残念ながら人間の持つ能力を高めるはずのものだったのに、必ずそこには「省力化」というせっかくの能力を失う方向にも働いていた。結局のところ人間が怠け者であるということになろうが、それは生来持っていた鋭い感知能力や抵抗力を次々と奪っていったのだ。

一体人間はどこまで「便利さ」を追求したら気が済むのだろうか。昔から「面倒くさい」と言い始めたら老人ボケの症状の現れだといわれている。現代人はもう子供のころから面倒なことはせずに済むようになっている。

木を削ったり切ったり貼ったりはがしたり塗ったりねじったりという動詞が死語になるほど手の動きが要求されることが少なくなってしまった。この50年間の驚くべき変化は500年の間に起こった変化より激しいのだ。今の子供たちはどういうことになるのか格好のモルモットになっている。

それにしても大人たちはなんと余計なものを考えつくのだろう。たとえば「抗菌グッズ」。人間の持つ免疫力、抵抗力の存在を無視した究極の愚劣な発明。一体何を目標としているのか。世界中を無菌室にするつもりか?

人々の抵抗力の衰えは、組織な調査が行われていないだけになおさら不気味だ。O157 や院内感染でわかるように、高齢者だけでなく若者や壮年層でも自分で自分の体を守ることができなくなっているようだ。

少しでも病気やけがをすれば安易に抗生物質を飲み、普段の食生活では民族の伝統的な食生活の習慣を無視して肉食に走り飽食を繰り返しているのであるから体がおかしくなるのは当たり前なのである。

最近増え始めた、自転車についているスプリングコイル。路面の凹凸による振動を吸収するのだという。老人用ならともかく体の柔らかく運動神経の発達した子供が何で衝撃吸収をする必要があるのか?体を柔らかく保っていればひとりでに自転車だけが跳ねるというのに。

日本の歴史をひもといてみると、実に飢饉が多かった。われわれはその飢饉を生き延びた人々の子孫だ。ということは少ないカロリーで生き延びる能力が優れているということだ。そういう体質の人が現代のカロリーが有り余る食事を毎日とったらどうなるか?またたくまに糖尿病である。

快楽原則によって、人間の肉体は衰弱の道をまっさかさま。今ほど人間の英知が必要とされているときはない。つまり人間の体を良く知り、その歴史的特性を振り返ってこれ以上肉体的能力が退化しないようにライフスタイルを設定することだ。

車が出現したために、歩くのが減り、生活習慣病臥増えたなどというのは、自らの愚劣さの現れである。貧しい国には肥満者が少ない。だがアメリカ合衆国に行って街を歩いて見よ。200キロを超したデブの方がやせた人間より数が多いのではないかと思ってしまうだろう。

人間の欲望をこれほどまでに肥大させたのは、言うまでもなく企業の金儲け論理と巧みな宣伝戦略である。これを止める方法がない限り、人々は「自由意思」で食べ続け、肉体的な衰退を自ら押し進めてゆく。

自由な企業活動を制限することもできず、かといって野放しではこの先の人間の生物的可能性はますます狭まるとあれば、一体どういう手段をとればよいのだろうか?

2005年9月初稿

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