文明時評

きつね

ポルトガル訪問記

2015年9月

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ポルトガル3都市

2月の29日から3月の10日まで、ポルトガルを訪れた。首都のリスボン、第2の都市ポルト、第3の都市で古い大学のあるコインブラを回った。スペインのすぐ隣で、小さな国であるから、鉄道でもバスでも数時間で目的地に着いてしまう。それでもスペインとは文化的に違っていることが、次第にわかってきた。たとえば音楽に関していえば、情熱的なフラメンコに対して、憂愁に満ちたファドの存在である。

南欧の国々は、北欧諸国と違って、慢性的な経済停滞に悩んでいるようだ。しかし、坂の多いリスボンの街には、有名な市電に乗ろうと、北方から来た観光客があふれていた。開発途上国のような熱気はないものの、落ち着いた住環境が出来上がっているようだった。かつての植民地大国の記念碑が至る所にある。それらを手放した今、EUという新しい環境の中で、新たな進路を模索しているようだ。

カトリック教会が非常に多い。パリのように壮大なものはないが、あちこちの街角にあって住民の生活の中に溶け込んでいたことを示している。ドイツ、フランス、イギリスなど、世俗主義がすっかり定着し、カテドラルが礼拝の場ではなく、観光名所になってしまったのに対し、こちらはまだまだ信仰が生活の中に根付いているようだ。礼拝堂に入ると、祈りをささげている信者を数多くみかけた。

3都市どこにもまだコンビニはほとんどない。小さなパパママショップが大部分だ。また、狭いカフェには近所の人たちが入ってエスプレッソを飲みながら延々と話に花を咲かせている。北のロンドンやパリと比べると、こちらは確かに”いなか”なのかもしれない。しかしまだ効率主義や不眠症や拒食症に侵されていない素朴な部分がまだまだ残っているような気がした。

コインブラは小さい町で、ちょっと郊外に出るとオリーブ林が一面に広がる丘が続くが、そこを通り抜けるローカル・バスには、大勢の子供たちが乗っている。ちょうど下校時だったのだろう。ポルトガルは確かに人口が少ないし、高齢化社会への変化も深刻さを増しているはずなのだが、この子供の多さはどうだ。

もちろん、アフリカの開発途上国とは比べるべくもないが、町や村に高齢者のみならず若者が結構多いのは新鮮な驚きだった。ちょっと気になったので、ポルトガルにおける、都市に届かない

小さな村やコミュニティーの最近の人口推移を調べてみると、変化なしまたは微増が大部分だったのだ。過疎化があちこちで深刻化しているわけではない。また、人々は主要3都市に集中していない。国中にまんべんなく広がっている感じだ。日本の田舎で無人の校舎の前に”閉校記念碑”がたっている光景をふと思い出してしまった。

経済成長、物質繁栄だけが人間の追い求めるすべてではない。そんなものはとっくに卒業して、あるいはモザンビークやブラジルなどの後輩にお任せして、”マイペース”でポルトガルは未来に向かって進んでいくのだろうか。それまた北欧などとは違う、新しい形の成熟した西欧文明の一つになろうとしているのかもしれない。

おわり

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