わたしの本箱

川島四郎・著作

食べ物さんありがとう

西丸震哉氏と同じく、食物に関する本来の考え方を教えてくれる。肉食中心、西洋式中心に陥った日本人の食生活ではなく、野菜中心、年齢に沿った食べ物は何かを教えてくれる。マラリアで亡くなったが、最後まで万年青年であった。弟子たちがアフリカの食生活を改善すべく活躍している。戦前にもいろいろとおもしろい本を出していたらしいが今は手に入れることが困難だろう。軍隊で貴重な実験や調査を行うことができたのだ。

  1. 食べ物さん、ありがとう
  2. もっとカルシウムもっと青野菜
  3. まちがい栄養学
  4. 続・まちがい栄養学
  5. たべもの心得帖
  6. くだもの栄養学
  7. 日本食長寿健康法

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食べ物さん、ありがとう:続編:続々編 * 川島四郎・サトウサンペイ * 朝日文庫

食べ物さんありがとう栄養学者の川島先生と、漫画家のサトウサンペイの対談形式で語られる、現代人の食事のための講座。最近、子供たちの食生活が乱れているということで”食育”が盛んに叫ばれるようになったが、肝心の大人、親たちの食生活がまったくなってない場合が多い。「忙しい」や「儲かる」が食事というものを片隅に追いやっている。

川島先生の最大のポイントはカルシュウムと青野菜である。火山国に住み、肉食にとりつかれてしまった日本人にとってカルシュウムの不足は重大であるが、その不足の実態が明らかにならないまま、ますます悪化の一途をたどっている。

青野菜については、どんぶり飯屋で出される、ほんの小皿に入ったレタスの端切れで、”野菜をとった”と安心している人々が多いという現状に目を向けよう。ほんとうに必要な野菜の量はどんなものなのかをしっかり認識している人は少ないし、それこそどんぶりいっぱいの野菜を出されたらきっとびっくり仰天するだろう。

医者は、病気を治すと一般に信じられているが、この”病気”の内訳を見ると、飢餓による栄養不足、伝染病や遺伝病などのように自己責任がない病気はほんの一握りで、ほとんどが”生活習慣病”が言われているように、”自業自得””無知”が原因なのである。だから大部分の医者は”修理屋”なのであって、ぶつけて壊してしまった車をなおす自動車修理工と大差ない。

昔から栄養学という学問がある。料理学の一部とみなす人さえいる。これは女子短期大学の花嫁修業の一部に過ぎないと思われていた。だから、その分野につく人々の収入は非常に冷遇されている。”修理屋”のほうが見事に直すほうが桁違いの収入が得られるのだ。

「何を食べれば健康になれるか?」というのは非常に素朴で単純な問いかけだが、これほど答えに窮するものはない。毎日食べている食物そのものが一体どんな組成で、そのうちのどれだけが吸収され、体のどこへ行くのかほとんど誰も自信を持って応えることができないからだ。

また、栄養学は予防医学の一部ともいえる。つまり人は何を食べていれば病気にならずに済むか、という問題を扱うわけだ。これも一見簡単に見えて、きわめて結論を出すことが困難な問題なのだ。しかも”予防”が進みすぎると、修理屋が儲からなくなる???第一、贅沢な食事に慣れた人はそんな話に見向きもしない。

男と女、子供と老人、人種、住んでいる土地の気候、その他無数の要素が健康な生命体を支えるのに必要だ。アメリカ人にとって体にいいものが日本人にとって体にいいものであるとは限らない。このように複雑に絡み合った、いわゆる複合的な問題を扱う点では気象学に似ている。

さらには人々の無知。江戸末期の有名な人々のほとんどが短命であったことは誰でも知っているところ。特に支配階級では白い米を尊重する気風から脚気(カッケ)が蔓延した。当時は伝染病みたいなものと見られていたらしい。現代でも無知は続く。、疲れたりすると、「肉を食って力をつけようぜ」というような肉への信仰が熱烈だ。学校でもきちんと教えないし、社会に出てから、何を食べるのがよいか真剣に勉強しようとする人はまずいない。

この本は、そのような状況で、少しでも人々の目に自分たちの食べるものの重要性に気づいてもらおうと書かれたものだ。栄養学の分野は、すでに述べたように予算不足で十分な研究が行われていない。だからその知識もきちんと体系化されているとは言いがたい。癌の進行を食い止める技術は発達しても、癌が起こるような食生活の問題に、誰もまじめに取り組んでいないかのような、非常にゆがんだ状況なのだ。この本によって少しでも食生活(食文化も大切だが)への視野を広げてもらいたい。

本編では青野菜と、カルシュウムが第1に取り上げられる。続編では、ミソ、豆腐など、野菜の強調によって陰にかくれいる分野を取り上げる。続々編は、これらの復習編である。91歳で、アフリカでかかったマラリアのために死去された先生の食生活を実践して、自ら実験台になり、同じくらい元気に過ごすことをめざす人を募集します。

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これらの本は出版以来、みなもう20年以上たち、絶版になってしまい、中古品しか手に入らない。ただ、この内容の一部は朝日出版「栄養学のABC外部リンク」の中に収められている(2010年現在)。

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もっとカルシウムもっと青野菜 * 川島四郎 * 新潮文庫

もっとカルシウムもっと青野菜日本は火山国だ。そのため土壌中にカルシウムが少ない。おまけに現代人はコーラやらジュースやら、リンを多く含む成分を体内に取り入れてただでさえ少ないカルシウムを外に排出している。さらに肉食がはやり小魚や昆布の消費量は減っている。

日本人にとってカルシウム聞きを引き起こす要因がそろいすぎている。だから年をとれば、いや小学生でも骨折が頻繁に起こり、骨粗相症も老人病ではなくなりつつある。人々はいつもイライラしている。ヨーロッパ特にイギリスのようにカルシウムが豊富な国土ではないのだ。

世の中はサラダブームだ。若い女の子はサラダを食べていれば体重も増えないし、体にいいと信じている。だが、レタスやキャベツのような青白い野菜では葉緑素が足りない。水分とわずかなビタミンCが含まれているだけだ。

かくして貧血が大流行。献血をしようとしても断られる。血は薄いし、体力や耐久力が著しく下がっている。そのかわり肉がエネルギーのもとだと信じ込んで、体は酸性に傾き血はドロドロで、肌の色は汚くなる。

西洋風の食事に流されず、日本人にあった日本食を、好き嫌いなく食べる必要があるのだ。カルシウムと青野菜こそ川島栄養学の神髄である。

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まちがい栄養学 * 川島四郎 * 新潮文庫

まちがい栄養学著者の川島氏の戦前の経歴がおもしろい。ひたすら兵隊の体力強化を願って、栄養学からのさまざまな可能性を探った。おかげで日本兵の携帯食料は世界でも誇るべき高品質のものとなった。

当時と今とでは、たとえば卵や豚肉のコレステロールについての考え方は変わっているが、栄養全体に対する見方はまったく今でも通用するものばかりである。たとえば、「売薬的栄養学」と「処方箋的栄養学」。

現代ではサプリメントが大流行だが、30キロのトリガラ女性からお相撲さんにまで効果のある薬などというのはあり得ない。つまりなんにも効かないと思っていい。これが売薬だ。

これに対し、医者がそれぞれの患者の体重、体質、病歴、その他多くの要素を考えて決めたのが処方箋。これなら手間はかかってもそれぞれ違う個人に効く量や配合が違っても効果が期待できる。

栄養学を考える場合にはその点に注意しなければならない。相手は一人一人の人間というだけでなく、食べる人々全体でもあるのだ。これをはき違えると、特定の食べ物が特効薬のようにもてはやされるというようなゆがんだ現象が生じる。

砂糖をたくさんとって健康の害に苦しむよりむしろチクロを勧める。純粋な物質は体に悪いだけでなく複雑な味わいを奪うとして、精製食塩や白砂糖を非難する。今ではどうしようもないほど深刻になっている欧米の肥満にはやくから警鐘を鳴らしていた。

栄養学は確かに科学に基づきながらも、すぐれた栄養学者の「哲学」も必要なようだ。川島氏が、戦前「天皇の赤子たち」のために選りすぐれた食料を開発したのは、まさにその哲学から生まれたものだ。

栄養の点から、蠅でも何でも試食してしまい、兵隊は実験に使い、今でいう総合ビタミン剤を考案し、健康食を求めて遠くマラリアの危険を冒しても90歳近い身でケニアまで出かけていった。そこには「知の冒険」を探求する姿がある。これには「続・まちがい栄養学」が続く。

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続・まちがい栄養学 * 川島四郎 * 新潮社

続・まちがい栄養学昭和47年という大昔に初版が出ているのに、その予告した国民の食生活は、川島先生の言ったとおりの憂慮すべきものとなった。つまり、食生活が豊かになったということは、洋風化への道をたどり、日本人の体質に合わない肉食、脂肪食、へと向かったのだ。

しかも、予想に反し、肉や酪農品が安くなってしまったために(川島先生は経済学者ではないから、これははずれた)ますます日本人は、米を食べなくなり、それと同時に和食志向から離れていった。

全部で44編の食物エッセイになっているが、「生のキュウリに田舎みそ」のように、思いもかけぬ野性的な、しかも飾らない料理を見直す機会にもなる。

中に「人肉」の話もあれば、テレビでの「料理番組」を批判したものもある。「蛋」の漢字が普段使わないものだけに、蛋白質の名称をを「卵白質」に変えるように提唱してもいる。果物を食後ではなく食前に食べてその効果を100%発揮させようという提案もある。

日本の風土が畜産にあわないから、日本での肉の生産はごく限られたものになるが、今のように無批判に肉を輸入できる時代が去ったら、日本でできる産物だけで生きていけるような態勢を今から準備しておくべきだろう。

川島先生は明治生まれであり、その気骨が栄養学者としての隅々にまで出ているようだ。なおこの本は、本編、続編共に、後に出た「食べ物さんありがとう」の底本となった。

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たべもの心得帖 * 川島四郎 * 新潮文庫

たべもの心得帖本書では、主な食品についての解説が詳しく載っている。特に、川島料理哲学の見地から優秀だと思われる食品といえば、凍豆腐、麦飯、カボチャ、漬け物などがあげられる。いずれも日本人の知恵が加わったもので、西洋料理に特徴的なギトギトのものがない。

大豆を柔らかく煮るコツは昔からいろいろ言われてきた。その中の主なものをまとめてある。また、来るべき飢饉に備えて、いざとなったら野山の草を食べることになるが、その際まごつかないように、食用になる種類を紹介している。

主食といえばどうしても米が思い浮かぶが、米に変わる食物といえばなんだろう。トウモロコシにサツマイモ、そしてジャガイモだろう。それぞれの長所、短所をあげて説明している。

雑誌の連載をまとめただけに、話題はあちこち飛ぶが、日本の基本的な食材についての知識を広めるには絶好の書。

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くだもの栄養学 * 川島四郎 * 新潮文庫

くだもの栄養学果物は、菓子と並んで、人々の食事に彩りを添えてきたが、これを本格的に取り上げたのは本書が初めてだろう。太古の昔から、王侯貴族は珍しい果物を所望し、その望みが叶えられることが権力の象徴とされてきた。楊貴妃が、レイシをほしがったのがそのいい例だ。

果物が菓子に勝る点と言えば、そのミネラル、ビタミンの豊富さと、酸っぱさであろう。極限まで甘さを追求した菓子と異なり、カロリー面では、一歩譲るものの、果物では、果糖、蔗糖、ブドウ糖など、砂糖の種類まで実にいろいろ取りそろえてある。自然の多様性がここにも現れているのだ。

肉や魚を中心にした食生活を送っている場合、どうしてもビタミンCをはじめとする微量だが体を快調に保つためには欠かすことのできない物質があるが、これを補うのが果物なのだ。野菜は、料理法が難しいために誰でもが気軽に食べられるわけではない。これに対し果物はたいてい生で食べられる。

幸い日本は南北に長いので、量は少ないものの、その種類の多さは世界の中では実に恵まれている。ミカン(柑橘類)とリンゴが同時に食べることのできる国はそう多くはない。

しかも、梅の特性を最高に生かした梅干しがある。中国が原産だが、これをシソの葉とともに漬け、魔法の携帯食料を思いついたのはいったい誰なのだろう。

そもそも果物は、自分では動き回れない植物が、動物たちに種を運んでもらうために、鮮やかな色とおいしい味を用意してできあがった、自然界の贈り物だ。動物たちを引きつけるくらいだから欲張りな人間たちがほしがるのは当然だ。

著者の川島先生は、91歳でマラリアで亡くなられたが、このあとに出した「食べ物さんありがとう」(上・中・下)には、自然に逆らわない食生活が、サトウ・サンペイの漫画とともに実にわかりやすく紹介されている。

日本食長寿健康法 * 川島四郎 * 新潮文庫

日本食が世界的に注目されるようになってからだいぶたつが、この本は平成3年に出版され、その魁(さきがけ)ともなるような本だ。米、野菜、海藻、お袋の味として親しまれてきた家庭料理、大豆、魚、漬物、旬のもの、そしてそば、すし、うなぎ、てんぷら、こんにゃくに見られる日本人の知恵を拝見する。

ここでの日本食の紹介は、ますます食事の肉食化、西欧化が進み、不健康になってゆく日本人の体を心配してのことである。これまでの伝統的な食事のよさは日本の風土に根ざしているものであること、日本人の体質にもっとも合っていることを強調している。カルシュームのすくない火山国日本でどうやってカルシューム不足を補うべきかも考えておくべき問題である。

また、昨今のサラダブームで野菜を生で食べさえすればそれでいいという”迷信”のせいで顔色の悪い人が増えたが、実は葉緑素に富む「青野菜」の摂取が決定的に欠けていることを強調している。著者は大量の青野菜は、煮たりゆでたりすることによって体積を大幅に減らせば誰でも必要な量(1回400グラム)をとることができるといっている。

それにしても日本人というのは、西欧の文物をありがたがるのは昔からの癖だが、食生活まで無批判に西欧風を取り入れてしまったために次々と悪い結果を生んでしまう、相当なおっちょこちょいなのだろうか。幸いこれまでは国の医療制度のおかげで多くの人が事前に異常を発見され、治療しているおかげで世界一の長寿を保っているが、ほとんどの人々はいつも薬を服用しているのである。人々は適切な運動と食生活を続けることが最大の健康法だということを忘れ、病院と薬によってかろうじて生きているのである。

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アルカリ食健康法(新潮文庫)

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