リスニングをマスターする

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モントレマリーナ・藤井正

聞き取り力を劇的に高める理論篇

ATTENTION ! まず読んでください!

必ず(1)から順を追って勉強してください。順番に英語の構造を理解し、最終に達したとき、「英語の全体像」が見えてきて、英語を本当に自分の道具とすることができるようになります。リスニングを軽視してはいけません。言語はまず「音声」なのです。音声に基づかない単語の記憶など、無意味です。


聞き取れない理由はただひとつ→音のおぼえ違い!!

目次

第1章 なぜ聞き取れないのか

第2章 何が聞こえないのか

第3章 英語の音はどう変化したか

第4章 理論的に音声を覚え込む

第5章 何を教材とするか

第6章 シャドウイング

第7章 聞いて下さい!この音声を!


コミュニケーションの最後のトリデ
ある人が、脳の重い病気にかかりました。医者はいろいろ治療を重ねましたが、少しも効果がありません。ある日、医者はその人を呼んで宣言しました。「あなたはこのままだと、文字を書く、文字を読む、話を聞く、ことばを話すの4つのうち3つまで失われる可能性があります。わたしも一生懸命尽力しますが、どうしても一つの機能しか残すことができないようです。残酷なようですが、一つしか残らないとすれば何を残しますか?」

第1章 なぜ聞き取れないのか  

音声とのバランス すべての言語は音声によって成り立っているという単純な事実が、教養主義や受験戦争によってゆがめられ、書かれた文章の理解一本槍になってしまったのはいつ頃からでしょうか。一刻も早く、読解力と聴解力のバランスを回復しなければなりません。私たちにラテン語や古代ギリシャ語、サンスクリット語のような「死んだ言語」は必要ないのです。古文書研究家ならいざしらず、音のない言語なんて考えられません。「源氏物語」を当時の方式で発音する研究を進めているグループもあります。「最初に音声ありき」それは猿の時代から変わりません。

メリケンに聞こえるか?  「カメヤ」「ワリワン」「ミシン」「メリケン粉」を聞き取った明治時代の人は音を素直に、先入観なしに受け入れていました。その耳の良さに驚嘆します。間に文字が介入していなかったからです。現在の我々なら、先にCOME HERE, WHAT DO YOU WANT? MACHINE, AMERICANをまず文字で見てしまい、それをローマ字に近く読もうとするでしょう。それでは、外国人には理解できない音に変形されてしまい、もちろん聞いても違った音なので、コミュニケーション不能になってしまうのです。耳で直接聞くのがいかに大事か。カタカナ表記はいけない、発音記号で覚えなさいと語学の教科書に書いてあります。たしかに「カム・ヒャ」「アメリカン」なら英語の音が死んでいます。

オネとは何だ! 今まで受けた学校や塾での英語教育を振り返ってみましょう。そこには極端な言い方をすれば、 one を「オネ」と読んでも平気な風潮が依然としてはびこっています。中学校の生徒の大部分は英語の教科書の音読をしません。たとえ音読をする子がいても、それはモデルのない間違った、たいていはローマ字読みを行っています。また読み方を知らない「まじめな」生徒は中間試験や期末試験が近づくと単語帳を作ってその語を発音はせず、「綴り」を書いて覚えるという方法で準備をしています。

入学試験の現状 新学期に英語の教科書を渡されるとき、別売りでカセットテープが備わっていることがありますが、それを実際に聞いて自分の発音の矯正に使う人は砂の中の砂金を拾うよりも難しいことです。ある予備校では教科書に、ネイティブが録音したCDを付録に付けていますが、その利用率は驚くほど低いのです。東大がリスニングのテストを課すことを決めてから何年かたちましたが、その他の大学でリスニングを課しているのは外国語系統などの特殊な分野か、あとは選択させている程度のものです。

先生不足 このように一般の英語教育の方面では聞き取り力を高めようとする熱意が驚くほど低い。というよりはむしろ、聞き取り力のある先生がそもそもいない、ということなのでしょうか。普通の中学校や高等学校の教師より、海外駐在経験の長い、商社マンのほうがはるかに聞き取り能力は大きいはずです。今のところその人たちを引っぱり出して学校の教壇に立たせるという話は聞きませんから、本格的にリスニングに対する態勢が作られるのはいつになるのか見当もつきません。当面は教室でテープに録音された音を「聞け」という状態が続くのでしょうか。

あふれる語学教材 さて、町に出て大きな本屋さんの前を通ります、テープに入った録音教材を売っています。学校教育で得られなかったものを「優れた」語学教材で補おうという、まじめな日本人が大勢いるということでしょう。このいわゆるテープ付き録音教材は、業者が巷にあふれ、驚くほどの種類が出回っています。ただし、少し英語教育に関心のある人でも思い浮かぶのは2,3種類ぐらいの大手のもので、あとは主に訪問販売や通信販売によって活路を見いだしている、数え切れないほどの中小の出版社が中心になっています。

継続の難しさ その価格は残念ながら、とても安いものとはいえません。かなり幅がありますが、4万円ぐらいから始まって、全セットと称して20数万円するものもあります。そしてそれを最後まで辛抱強く聞き通したなら、それだけのお金を投下した価値があるわけですが、残念ながら、ある語学教材のキャッチフレーズにあるとおり、「息もつかせず、絶対あきない」と強調しなければならないのが現状なのです。 また、リスニング専門の教材の場合は3千円ぐらいからありますが、そもそも量が少なく、さまざまな状況(ニュース、スピーチ、朗読など)の見本集のようなものがほとんどです。

叶わぬ夢? 日本人が置かれているこの現状から出発して、英語を「楽しく」聞き取れるレベルに達するにはどのようにすればいいのでしょうか。ちょっとラジオのスイッチをひねって聞こえてくる英語の放送の内容に思わずニヤリとできるようにするにはどうすればよいのでしょうか。OLたちがトイレで交わす(英語での)噂話が全部わかったらいいと思いませんか?日本語で「漫才」を聞いて大笑いするように、英語の早口のジョークを理解できないものでしょうか。まさかそれは叶わぬ夢というわけではないでしょう。


第2章 何が聞こえないのか  


どの程度まで? 聞き取り能力の大きさはいくつかのレベルに分けることができます。しかし、聞き取りは勉強でも、学問でもなく日常生活の実用的な「道具」にすぎませんから、ごく専門的な話を除いては、また特殊な方言によるものを除いてはすべて聞き取れるレベルに達していなければなりません。これはスピーキングの能力以上に厳しい基準だといえます。なぜなら、全くの無口でも、人の言っていることさえわかれば、日常生活は最低限何とか営むことができるからです。 また、訓練によってリスニングの力が伸びると信じている方、聞き取れる単語は、あなたの持っている語彙の限界は決して超えられないことを忘れないで下さい。必ず「あなたの読みとれる語彙」「あなたの聞き取れる語彙」に決まっているのですから。

第1段階 最初のレベルは先に述べたように、中学生が全く発音できず、綴りだけでその単語を認識しているレベル。残念ながらこれは決して少数派ではありません。そしてこの状況を放置している文部省の態度にはただただ驚くだけです。このようなことでは英語を学ぶ価値は全くないと思うのですが。定期試験の問題の空欄に正しい数字や記号が入っていればそれでいいのでしょうか。これは下手でも先生が大体の発音をいつも提示させ、生徒にもしつこく復唱させることによって克服できるはずですし、どの生徒も自分用のカセットコーダーかCDプレーヤーを持っている時代に、以前と何の変わりもないことは信じがたいことです。

第2段階 次のレベルではテープ教材、発音の上手な教師やネイティブのおかげで、すべて単語について正確な音を知っており、多くの場合、発音記号をものにしています。きちんとした英語教育を売り物にする、私立の中高一貫教育の生徒にはこういうレベルが大勢います。英語検定試験の聞き取りテストではこのレベルに達して、自分の知っている単語すべてについてその音を正しく記憶している限り、たいてい合格点を取ることができます。新しく出現した単語について、本人がその発音やアクセントの位置についての関心があれば、このレベルはいつまでも維持することができましょう。もちろんその場合、正しい読解力も平行して伴っていなければなりませんが。

第3段階 最後のレベルですが、これはすべての英語学習者に求められているレベルです。このレベルで除外するのは高度に専門的分野にわたる話、インド、南アフリカ、オーストラリア、アメリカ南部などにおける、方言的な癖の強い発音の飛び交う会話です。これらを除くすべてのラジオ・テレビ放送、映画、そして個人間の会話における聞き取りがほぼ100パーセントできることが求められます。ただ、ここにはイディオムの使用という問題があります。というのはどの言語でもそうですが、必ず仲間同士でしかわからない、固有名詞、隠語、合い言葉などが存在して、それはそのグループの外にいる人間にとってはよほどそのグループの中に入り込まなければ、分からないものが数多くあります。それらの語についてはあきらめるしかありません。あるいはあとでその言葉を調べるほかはありません。何しろ書物と違い、口から出たことばは、音楽と同じく、一瞬に空中に散ってしまうものですから。

立ちはだかる壁 さて日本人の99.9パーセントまでは第2レベルにとどまっているものと思われます。第3レベルに達している人は現地の生活の長い人など、ごく少数でしょう。第2レベルと第3レベルとを隔てているものは何でしょうか?早口で話された言葉に対する本人の慣れでしょうか?日本と外国の空気の組成の違いによる音の伝達の違いに起因するものでしょうか?第3レベルの人のほうが圧倒的に聞く量が多いということでしょうか?第3レベルの人の持つ語彙やイディオムの数が多いということでしょうか?いずれも正しい。しかし最も本質的なことが見逃されているのです。実は「何が聞こえないか」ではなくて、「その音を知らない」ということなのです。

ふぁみれすってなあに? 何も知らない人が初めて「ふぁみれす」と言われて、とまどうのは当然です。特に農村地帯に住んでいて外食も滅多にしないようであればなおさらです。しかしそれは「ファミリー・レストラン」を短縮したものだと説明されれば、その人は一回で納得し、次にその同じ言葉を言われたら、即座にその意味を理解するでしょう。「ファミリー・レストラン」と「ふぁみれす」は音声的には全く違っていますが、元の音が崩れて別の音に変化したことは誰でもすぐに察しがつきます。「意味は全く変わらなくても、音がすっかり変わった」、これが聞き取りの極意です。

音は変化する 世界の言語ではどれでも、長年の間に発音が変化し、元とは似ても似つかなくなってしまうのはごく普通の現象です。早口、発音のしやすさ、人々の間の流行、などさまざまな要素がそれらの言葉をどんどん変えてゆくのです。ましてや激しい変化のまっただ中にある現代世界の言語は今まで以上にすさまじいスピードで話され、発音が変わっていきます。この点、英語は保守的な言語ではないし、日々いままでにない語彙が増加していますからなおさらです。

新しい音 英語の聞き取り力を増そうと思ったら、先の例でいえば、「ファミリー・レストラン」と「ふぁみれす」の両方を覚える必要があるということです。つまり辞書に載っている模範的な「ゆっくり発音」と実際の世界で使われている「変化した発音」の両方をものにしなければなりません。その意味で第2レベルにいる人が第3レベルに達するには「新しい外国語」をもう一つ覚えるつもりで取り組んだ方がよいのです。


第3章 英語の音はどう変化したか  

語学教材のスピード 大きな本屋さんに行って、さまざまな英語のための語学教材を見てみましょう。NHKラジオ講座のテキストの広告にいつも常連で載っている大手の教材会社からのテープが書店の入り口で通り過ぎる客の耳に入ってきます。しかし、どの声を聞いても、ゆっくりはっきりした発音ばかりです。初心者はそれでいいのかもしれません。先に述べた第1段階から第2段階へ進む人にとっては実によい訓練になっているに違いありません。次にTOEICやTOEFLの試験準備のための教材を聞いてみます。これは確かに入門者用と比較すればかなり早いですが、ただ早口になっただけで、音そのものには変化が見られません。テープをゆっくり回せば、やはりもとのはっきり、ゆっくりした発音です。

映画のセリフ それではひとつ映画でも見ましょう。それも「タイタニック」や「風と共に去りぬ」のような大時代なものでなく、もっと軽いもの、たとえばエディーマフィーが主演しているようなものや、最近では「メリーに首ったけ」などはどうでしょう?どうです、字幕なしで聞き取れますか?昔のデビッド・リーン監督の「哀愁」やメリル・ストリープの「恋に落ちて」ならばかなりよくセリフが聞き取れると思いますが、現代社会のそれもコメディタッチのものはほとんどが「機関銃の連射」だといえます。そこに聞こえてくるのはテキストブックの英語ではなく、第2の英語とでも言えるものです。

ラジオ放送 うちに帰って日本全国、アメリカ駐留軍の放送が聞ける地域に住んでいる人は、そこから流れる音声を聞いてみましょう。ニュースならかなりわかる人も多い。特にすでにそのニュースを新聞などですでに知っていたり、予備知識があるときはかなり理解できる部分が多い。ところが、ひとたびディスクジョッキーの軽妙な語り口や、まして、固有名詞の飛び交う、掛け合い漫才のようなトークショーは字幕がないだけに全くお手上げ、フットボールの中継はこのスポーツにかなり入れ込んでいる人ならかなり理解できるところはありますが、アナウンサーが興奮してきて、その速いスピードがさらにもっと速くなって、彼の唇が切れてしまうのでないかと心配になることもあります。

フランス語はなぜ明瞭か 不思議なことにフランス語はこのような早口による音の変化が余り生じません。知らない単語であっても、音素としてとらえることが、さほど困難ではないのです。おそらくその理由として、フランス語では母音と子音のバランスが程良くとれていること(語尾にある子音字が発音されなくなったものが多いが、そのことから生じた結果か?)。また、アクセントの位置が例外なく定まっていて(最後の母音、最後の音節)、単語によってリズムが乱れることが少ないからだと思われます。

英語はどうか ところが英語の単語はご存じの通り、単語一つ一つが違ったアクセント位置を持っています。そのため、せっかくのセンテンスのリズムがとんでもないアクセント位置によって乱れてしまうことがあるのです。また母音に対して子音の比率が高すぎる。日本語で「ミルク」と言うとき、MIL(or R)UKUというようにそれぞれの子音に母音が一つづつ、つきそっているが(こんどは逆に母音が耳障りになるかも)、英語の場合、MILKでは子音が3個もあるのに対し、母音はたった1個しかない。だからこのままゆっくり発音するなら気にならないとしても、早口で言うときは子音を一つぐらいとばしてしまいたくなりませんか?そのかわりに適当な母音を加えるというのはどうでしょう。(注;実際のところmilkは早口で言うとき、「メウク」のような感じで発音されている)

子音が多すぎる? ドイツ語もそうですが、英語のやや子音が多すぎることが早口で話すことにブレーキをかけているのです。歌の場合もそうです。イタリア語では母音が日本語と同じく「アエイオウ」で発声の中に重要な位置を占めています。だからオベラを歌うならヨーロッパ言語では、なんといってもイタリア語が向いているのでしょう。シューベルトの「冬の旅」をけなす気は毛頭ありませんが、美しいメロディにあの歌詞をのせるのは大変苦労したことと思います。

音は変化する さて英語の話に戻すと、この忙しい現代社会、そしてテレビという一大メディアの支配する世界においては、早口を止めることはできません。当然人々の口から出る音はリズミカルで、しゃべりやすい形で変化せざるを得ないのです。先に述べたように母音と子音の適正な比率、という要素が中心になって音の変化を呼び起こしましたが、ほかに注意しておかなければならない点として、アクセントと母音のことがあります。

アクセント アクセント位置はそれに変化が生じると、単語全体が曖昧な音ですと、判別に支障をきたしますから、さすがにそれが変わることは滅多にありません。たとえば、economic という単語を発音するとき、econOmic と強調されていれば、それ以外の音がはっきり聞こえなくても、何とか相手に意味が伝達されるはずです。それどころか、極端な話、強調されたO以外の全部の母音に関して言えば、いわゆる「曖昧母音」(eの逆さまの形をした発音記号で「アエイオウ」のどれにも聞こえる)であってもかまわないわけです。ですから、英語の単語の場合、アクセントの位置がそれぞれ決まっているという「不便な特性」をいわば逆手にとって単語の判別の手がかりに使ってしまおうという訳なのです。

母音 さて、英語の母音は何種類ありますか?これが日本語やイタリア語の5種類と比べて、なんと26種類もあるのです(Longman Contemporary Englishによる)。もちろんこれには長母音や二重母音が含まれているためですが、学者が分類するかしないかに関わらず、やはり種類が多すぎて、一般庶民もいやになったのでしょうか、これらを辞書どおりに厳密に守る人は日常生活の中では存在しません。守っているのは語学教材の吹き込み担当者ぐらいでしょうか。そしてこの多くの発音を簡単にするのに活躍しているのが今述べた「曖昧母音」をはじめとするいくつかの母音群なのです。または単にアクセントがないために、母音は「消滅」させられてしまうのです。

まるでわからないわけ どうですか?このような数多くの変化の要素が存在すれば、結果として生まれる発音が教科書のものとは似てもにつかないものになるのは容易に想像できます。映画やラジオ、テレビで流れる音がまるでわからないのも当然のことです。別の外国語なのですから。「私には語彙力がないから聞き取れない」という人がいました。でもそうではないようです。語彙力があっても聞き取れません!あとでスクリプトを見て、何だ、あの単語か!と多くの人は当たり前の基礎単語が聞こえていないのに絶望しています。

第2第3の発音がある ではこれは全く日本人には全く手のつけられない事態なのでしょうか?もしそうならこの文章を書くことは全く無駄だということになります。この発声の変化は全くでたらめなのでしょうか?人によって違い、時と場合によって違うのでしょうか?そんなことはありません。世界のどんな言語を研究しても必ずそこには「法則性」はあります。発音の規則にしても然り。早口英語を話す、ほとんどすべての人がその「規則」に従い、それによってコミュニケーションが成立しているのですから当然のことです。大切なことは今までの発音とは違った「第2の(または第3,4の)発音」が存在することをまず認識することです。そして次のステップへ進むことをお奨めします。

第4章 理論的に音声を覚え込む  

機械的訓練には「数字」を聞き取るのが一番

リスニングには鋭い耳が必要です。実際の言語環境ではイントネーション、ジェスチャー、文脈などが渾然一体となって、リスニングの補助をしてくれますので、ネィティブが回りにたくさんいる場合には急速に上達することができるでしょう。

しかし、その基本となる音声の機械的訓練となると話は別です。その言語特有の音声に慣れるためには、純粋の音だけに浸ることも必要なのです。この場合に役に立つのが「数字の聞き取り」です。

というのは数字(価格、統計的数字、計器の読み取りなど、何でもいい)というのは文脈がありません。聞こえたそのままを理解しなければならないので、脈絡のない音だけを覚えるには最適なのです。しかも高度の集中力も必要です。

海外旅行でお買い物をして、店の人から「ありがとうございます。合計157.459(+その国の貨幣単位)でございます。」といわれて、悠々と財布から所定の金額が出せたらなんとすばらしいことでしょう。

新しい発音 覚え込む基本は中学校の時に単語の発音の仕方を覚えたのと同じです。残念ながら「万国音標文字」は通用しませんが。少なくとも自分にとって知識となっている単語については従来の発音以外に「新しい発音」をレパートリーに付け加えることが先決です。今まで聞いてもわからなかったのは耳が悪かったのではなく、そういう音を知らなかったという単純な理由しかないことを認識すべきです。

BGMは禁物 だとすれば、早口英語を片っ端から聞きまくればよいのでしょうか。駐留軍放送を一日中つけっぱなしにしておくとか、映画を一日中見ておくとか?残念ながらそれでリスニングの力がついた、何となくわかるようになった、というような例はきわめてまれです。ある人は車の運転中に、そのような英語漬けにして一日を過ごしていましたが、効果はありませんでした。なぜかというと、その英語は真剣に聞くものではなく、BGMとしての役割しか果たさなくなっていたからです。快いBGMでは残念ながら、「従来の音」と「新しい音」との比較検討は無理です。このような時間の無駄を省くために何らかの新しい方法を考え出さなければなりません。

集中せよ まず「何となく聞く」というのはやめましょう。英文を「何となく読む」人はいないと思います。写真や絵ならばそれでも構いませんが、英文を集中しないで内容を理解できるはずがありません。それと同じことが聞き取りにはなおさらいえるのであって、集中のない状態からは何も生み出されません。母国語ならば、寝転がって耳に何の苦もなく入ってくるラジオ放送のディスクジョッキー番組を理解できますが、外国語の場合は少なくとも第2レベルまでの人には、全くそれが当てはまらないことをはっきりさせておくべきです。

聞き取れなかったら? 耳をすませて早口の英語を聞いていると、当然わからないところができてきますが、そのときあなたはどうしますか?あきらめてそのまま行きすぎますか?英語の本であるなら、しおりを挟むなり、赤鉛筆で印を付けるなりして、あとで確かめることもできるでしょうが、音声はそれが発した瞬間から虚空に消えて行きます。そのうかうかしている間にも、話はどんどん前進し・・・これではいくら辛抱強い人でも聞き取り練習がいやになるのは無理もありません。

SCRIPT! 確かめる方法はただ一つ、SCRIPT(原稿)だけです。リスニングの力のない人はSCRIPTなしでは聞くな、と言いたい。まず最初はSCRIPTに書いてあることを「なぞる」ことから始まります。もし「なぞって」いる間に、どこをしゃべっているか分からなくなったら、その分野や、その文を読み上げるスピードはあなたにとってレベルが高すぎます。もっと内容を、スピードを落としてください。「なぞって」そのスピードについていけるようなら、早速その文の中で、聞き取れる部分と聞き取れない部分とに区別して、「新しい音」の学習を始めてゆくのです。

新しい音を記憶する 目を閉じて聞き、聞き取れなかった単語も、SCRIPTを見て、ああ、この単語だったんだ、と気がつくはずです。それで済ませてしまわないで、その新しい音を記憶に焼き付けるわけです。MILKは従来の音のほかに、「メウク」とも言うんだな、という具合に。このようにして「第2の音」を次々にものにしていってほしいわけです。特に、重要単語に関しては、理屈抜きで、体で覚えてゆくようにするとよい。1ヶ月もすれば、あなたの頭の中には「2通り」の発音を備えた単語帳ができあがっているはずです。

ここで一番危険なことは、「ローマ字式発音」による思いこみです。もし milk を「ミルク miruku 」と発音するんだとかたく信じていたら、何回聞いたって絶対にわかりっこありません。まずは自分で思いこんだ発音を捨て去ることなのです。ネイティブはだれもそんな発音をしている人はいない。まったく別な発音をしています。それを素直に受け入れることが必要なのです。

よく、知っている単語を聴かされても「何言っているかわからない」という人がいますが、そういう人は自分の頭に入っている音声のイメージが、実際の音声とまったく異なっているのですから当然です。中学、高校時代に自己流で音を覚えてしまっている人は、自分の頭にある間違った発音イメージを全部「クリア」にして、新しく入れ直しましょう。


わかった! 新しい音が頭の中に定着していれば、新たにその音を聞かされたときに、即座に反応して、どの単語のことを言っているかわかるはずです。この「聞いたときにわかる」という快感は何とも言えないものです。何かもう、何でも聞いてわかるような気がして、ハイな気分になるはずです(少し大げさか?)。でもこのような気分はこれからの勉強には大いに力強い推進力になるはずです。

ヒアリング変化音24 理論的に整理する しかしそのような発音を100ぐらい覚えてくると、元の発音から変化するときの「パターン」に気が付き始めるでしょう。つまりでたらめに音が単に短くなったり、母音が変わってしまうのではなく、きちんとした法則性に基づいて発音されていることに気づくはずです。このころから音の変化について理論的に整理をしていくべきなのです。人間の頭は「理解しつつ」覚えることで、最も効率的に学習を進めることができるようになっています。数が少ないうちは「丸暗記」で事足りますが、何百、何千と増えてくると、頭の中での整理がされていないと、たとえ覚えていても、即座に取り出すことができなくなります。

頭に整理しよう 理論的裏付けとは音声学的に整理されたものをいい、短母音、長母音、有声音、無声音、といった区別により、数多くの単語の音の変化を統計的に整理し、一種の法則にまとめることを言います。これには優れた著書がありますから、ぜひ参考にしてください。



参考
(変化音の手引き)

リスニング変化音24自由自在」(英検1級・準1級レベル) 生幡泰(いけばたやすし)・著 明日香出版社  ¥1500
リスニング変化音24の法則」(英検2級レベル) 生幡泰(いけばたやすし)・著 明日香出版社  ¥1300(別売りカセット¥2800、現在品切れ中)


第5章 何を教材とするか  

実践的な練習にむけて 大学受験というと、それだけでリスニングに縁はない、としり込みしてしまう人がいるようですが、ところがどっこい、近年センター試験ではすっかりリスニングの問題が定着してしまいました。では、それがために受験生はどの程度準備しているかというと、それがほとんどゼロに近い。いくつかの高校ではリスニングの時間を設けているところもあるものの、わずかな練習でお茶を濁しているのが現状です。というよりも受験生はリスニングの科目を”捨てて”いる。どうせ練習しても無駄だし、ほかの連中も同じくできないのだからこれで大きく差がつくことはあるまい・・・などと。

このような悲しい現状にもかかわらず、リスニング練習のための力作がちゃんと発行されています。駿台予備学校でつくられた「パーフェクトリスニング Volume 1/2 外部リンク」です。「数字、音素、弱音の発音」から始まって、なぞなぞ、会話体のゆっくりしたもの、早いものと非常にバラエティに富んでおり、その後小話が次々と出てくるのですが、これが実にユーモアにあふれていて聞いているだけで楽しい。付属している問題を解いてみるだけでなく、シャドウィング(後述)をしながら音に慣れていけば非常に効果的です。分量がすさまじく多いので、これがたった2100円などとはとても信じられないほどです。

早口教材は? さて、すでに述べましたように、ゆっくり、はっきり発音の教材があふれる中で、早口英語に触れるにはどうすればよいのでしょうか?ここにいくつかの教材となりそうなものを挙げてみます。 数え切れないほどの英会話教材の中にも、たまに早口英語で貫いているものもあります。始めて聞く人は、その早さにびっくりするかもしれませんが、これがナチュラル・スピードというもの。もちろん SCRIPT も日本語訳もそろっているので、初級レベルの人には向いています。

参考(早口の英語教材) 「アメリカ口語英語」 英友社 (1)<発音リスニングの演習> (2)<動詞編> (3)<アメリカ生活編> テキストとカセット(2巻)で¥4800 カセットのみで¥4000

ラジオを聴く アメリカ駐留軍放送が聞ける地域にいる人はそれをおおいに利用すればよいと思いますが、これも、時間的な制約があり、またその放送の一部をSCRIPTに収めたり、要約を示した雑誌も出ていますが、大部分はただ聞き流すしかないのが現状です。でもその番組表をよく検討して、自分の好みにあった分野のトーク番組を毎週聞くのは大いにプラスにはなるでしょう。

参考(英語放送のための雑誌) 「 A F N ガイド」 アルク 毎月出ている雑誌。

インターネットラジオ すでに主要な放送局は従来の放送の一部または前部をインターネットで流しています。これなら電波状態に左右されることなく、英米その他の放送を聞きまくることができます。(詳しくは本ホームページ→総合目次→英語→インターネットラジオを聴こう!にて)また、テレビもラジオも受信したい人は、特に報道関係の番組がたくさん含まれている Livestation外部リンク がお勧めです。

Working Girl変化した音の実地訓練 先に述べた変化した音の定着と実際のリスニングの実戦には優れた入門書があります。"WORKING GIRL(ワーキング・ガール)"という、1988年のアメリカ映画があります。(本ホームページに解説あり→総合目次→映画コメント集22)秘書として働いている女性が、上司の陰謀にもめげず自分のアイディアを武器に昇進してゆく物語。全体としてはニューヨークのビジネス社会の話し言葉が中心となり、彼女が秘書の時と昇進したあとでは発音の仕方も違うという、リスニングにはうってつけの映画です。普通のシナリオ(左側)と音声についての詳細な解説(右側)の2種類があります。

参考(映画による変化音の実戦トレーニング) 「映画で学ぶリスニング変化音」 生幡泰(いけばたやすし)著 スクリーンプレイ出版 ¥1300

映画こそすべて! 普通に話される早口英語を身につける最もよい方法はやはり映画を見ることでしょう。まず自分の学びたいレベルやタイプの英語を選ぶことが自由にできること。オーストラリア英語、インド英語、正統なイギリス英語等々何でもどうぞ。経済界を描いたものもあれば、法廷での争い、政治家の一生、アメリカ南部の黒人達の生活、など、あらゆるタイプがそろっています。

映画で学ぶヒアリング変化音英語字幕 私たちは外国の映画はたいてい日本語の字幕を通してみていますが、「英語字幕」を見たことがありますか?これはアメリカの聴覚障害者のために作られたシステムで、市販されているビデオではその裏側に「テレビのスクリーン」マークか、「CC」マークが付いているのがそれに該当します。DVDの種類が増えるにつれ、これからは字幕を供えた映画が多くなるものと思われます。

シナリオ また日本には有名な映画のシナリオを出版しているところが3つほどあります。まずは自分にあった適当な映画のシナリオを書店で買ってきます。ビデオについては自分で買ってもいいし、レンタルで借りても構いません。

ここで学習を効率的にするためにはその映画の「音声」だけを録音することです。というのも、いったん場面のイメージを覚えてしまったら、あとは録音された資料を持ち歩いて、いつでもどこでも聞くことができるからです。しかも、ビデオテープと違い、聞き取れないところを気軽に繰り返し聞くことができます。ハイライトだけを集めて自分専用のテープを編集してしまうのもひとつの方法です。MDに録音して、適当な長さで区切りを入れれば、毎日少しずつ勉強を続けることができます。

参考(シナリオを出している主な出版社) スクリーンプレイ出版  南雲堂  角川書店  アルク  白水社(フランス語のみ)

参考までに、すでに述べた、WORKING GIRL以外で実際に試聴したいくつかの映画の特徴を挙げてみます。(いずれもスクリーンプレイ出版のもの)(本ホームページに解説あり→総合目次→映画リスト集)

The Firm (1)The Firm ザ・ファーム (法律事務所)

1993年の作品。有能な青年が素晴らしく給料のいい法律事務所に新卒で入社するが、そこは実は抜けると消してしまう、マフィアの組織の一端だったという話。ビジネスと法律の用語が飛び交うが、語彙的なものを抜きにすれば、早口すぎて聞き取れないというほどではない。登場人物のほとんどが、みなあるレベル以上の教育を受けた人間だという設定のためだろう。

Mississippi Burning (2)Mississippi Burning ミシシッピー・バーニング

1988年の作品。二人のFBIの捜査官が行方不明の黒人運動家を捜しにミシシッピー州の片田舎に乗り込み、地元のお偉方の恐るべき犯罪を明らかにする。黒人と白人とでは違う、アメリカ南部の英語の癖がわかるし、二人の捜査官同士のやりとりも大変勉強になる。

Thelma & Louise (3)Thelma & Louise テルマ&ルイーズ

1991年の作品。二人の女が休暇旅行に出たのはいいが、強姦されそうになって人を射殺してしまい、警察に追われる身となりアメリカを縦断する。女性版「俺達に明日はない」だ。二人の会話が中心だが、特にテルマの機関銃のようなしゃべり方は大いに参考になる。「ザ・ファーム」と違い、街道の一般庶民の話し方の勉強にもなる。

Die Hard (4)Die Hard ダイ・ハード

1988年の作品。クリスマスイブに、ある会社のパーティーにテロリストが乗り込み、人質をタテに金を要求する。たまたま気まずい仲の女房に会いにやってきた主人公はその事件に巻き込まれてしまう。叫び声や、撃ち合いが多く、余りリスニング向きではないが、初心者には気分転換になってむしろ歓迎されるかもしれない。会社員や警官の話し方、ドイツ語訛り、などの勉強になる。特に主人公と市民バンドの無線機によって友情で結ばれた、黒人警官とのさまざまな分野にわたる会話は、将来きっと役に立つ。

Steel Magnolias (5)Steel Magnolias マグノリアの花たち

1989年の作品。直訳すれば「鋼鉄のマグのリアたち」。不幸な運命にもめげず生きる強い女たちを描く。糖尿病の娘を持つ母親を中心に6人のアメリカ南部の女たちの力強い生き方を描く。女のおしゃべりだと馬鹿にしてはいけない。陰口をたたいたり、噂話をするのが中心ではない。南部の人々の生活に密着した会話であり、その掛け合いの巧みさは天下一品である。なるほど、この6人の女優たちはどれも超ベテランばかりだから、聞き取りそのものにはそれほど苦労しないかもしれない。だが、話題のもっていき方についてゆけるようであれば大したものだ。特に美容室で娘が糖尿病の発作で倒れる場面あたりが逸品である。英語そのものは「ミシシッピー・バーニング」と比べて、特に南部訛りが強いというわけではない。というより黒人がほとんど登場しないためだろう。

Driving Miss Daisy (6)Driving Miss Daisy ドライビングMissデイジー

1989年の作品。アメリカ南部に住む、未亡人のデイジーは一人暮らしをしているが、自分の運転する車をぶつけてしまう。思いあまった一人息子は母親のために黒人運転手を雇う。はじめはうち解けなかった二人も、いろいろな経験をするうち、心を開き合って、親密な友だちになる。ユダヤ人と黒人というアメリカでは奇妙な取り合わせながら、何気ない日常の人々の結びつきを描く、人生派の映画。黒人の話す南部訛りは、きれいな英語に慣れた人にはとても聞き取りにくいだろうが、いったんその癖を飲み込んでしまえばさほどではない。またこの映画のセリフは決して複雑な内容はしゃべらないから、何回か聞き込めばわかるようになるだろう。

Midnight Run (7)Midnight Run ミッドナイト・ラン

1988年の作品。主人公のデ・ニーロ演ずるウオルシュは、元シカゴの警察官だが、麻薬王の買収を拒んだために、腐敗した警察から追われ、ロサンゼルスで賞金稼ぎの探偵まがいのことをしている。今度保釈屋に頼まれたのが、10万ドルの報酬と引き替えに、ニューヨークの会計士マーデュカスを証人としてさらってロスまで護送することだった。ところがマーデュカスは扱いにくい男で、飛行機に乗れず、列車、バス、オンボロトラックと乗り継ぎながら大陸を横断してゆく。二人は喧嘩をしながらも、不思議な友情が生まれ始める。ほかの賞金稼ぎや FBIの追跡、マーデュカスを狙う麻薬王など、さまざまな人物を巻き込みながら、やっとロスに到着する。大陸横断のロードムービーだから、さまざまなしゃべり方が出てくるが、どれも早口で発音の切れ目が明確でない。かなり上級でないと聞き取れない。またウオルシュとマーデュカスの間の果てしない議論が聞きもの

自分にあった映画を ここに7つの映画を紹介しましたが、このほかにお奨めしたい映画が山のようにあります。また別の機会にお知らせしましょう。リスニングの教材として優れているためには、やはり内容的に「人生」を伝えるものでないといけないようです。そうでないと会話も空疎になってしまいます。また、やたらにイディオム的な表現が次々に飛び出すようなセリフはいちいち確認するのに苦労しますから、もっと慣れてからにした方がよいようです。みなさんも自分にあった映画を見つけて、一刻も早くリスニング力の鍛錬に励んでください。

第6章 シャドウィングshadowing  

”すぐれた”語学教材を再生機にかけて、朝から晩まで大音量で流しておき、その中で暮らしていたら、リスニングの力は伸びるでしょうか?「音漬け」にしておけば効果があると昔から信じられてきました。これはほんとうでしょうか?

いま、NHK の語学講座では、英語であれ、ロシア語であれ、どれを聞いてもシャドウイング練習が行われています。これはそんなに効果があるものなのでしょうか?学習者の方は今までこんな体験をされてきたはずです。一生懸命聴こうとしているが、どうもわからない。わからないところが立て続けに出てきて疲れてきた。そのうちウトウトしてきて眠ってしまった・・・

そうなのです。リスニングには多大な努力が必要なのですが、集中を常に続けることは至難の技です。夜中に深夜のラジオ放送をつけたらいつの間にか、その快い音楽やアナウンサーのやさしい声で寝入ってしまった・・・という経験は誰でもしていることです。理解できる母語の場合でもそうなのですから、外国語では少しでもわからないところがあれば、すぐに集中度が落ちてしまうことは避けられません。

「聴く」というのは受身的な行為ですから、大変興味深いとか、必要に迫られている場合を除き、どうしても眠くなってしまうのです。一方、「話す・しゃべる」というのはたいへん能動的な行為で、話しているうちに眠くなった人のはなしは聞いたことがありません。それどころか、冬山で遭難して凍死してしまうのを避けるためにテントの中で一晩中話し続けたなどということがあります。

発声することはエネルギーを必要とするだけでなく、脳みそをフル稼働させなければならないのです。これは「読む」と「書く」との間にもいえることです。したがって、リスニングをするときに集中度を保つ方法は、聴きながら、同時に発声することだという、ごく”常識的”な結論に、語学教育界はたどり着いたのです。

ではどのようなリズムで発声するのがよいでしょうか?もし聴くことになっている文が、自分にとって完全に暗記されているものであれば、歌におけるデュエットのごとく、模範朗読をしてくれる人と、完全に声をそろえればいいわけですが、これではリスニングの効果は期待できません。

かつて、語学講座では講師が「あとにつけて言ってください Repeat after me 」と指示して、ゲストのネイティヴが適当な間隔をあけてくれました。その間に学習者は次の文が始まらないうちに大急ぎでオウム返しをしたわけです。これは悪くはありませんが、ただでさえ短い放送時間で、このような間隔をもうけることは無駄であります。それに学習者のほうとしては、オタオタしているうちに次の文が始まってしまったときのアセリがたまりません。

そこで、次に考え出されたのが、聴こえる片端から、それを声に出していってみるという方法です。しかしもとより知らない言語ですから、長い文を溜め込んで暗誦し、それを吐き出すわけにはいきませんので、1秒前に聴こえたものをすばやく脳内で処理して、1秒でそれを声に出していってみるという方法しかありません。

つまり、相手の発声の後に、「影 shadow のように付きまとう」という方法がベストだとされるようになったのです。こういう方法をとると、学習者は非常に忙しい。しっかり聴き取らなければならないし、それをまた忠実に自分の口で再生しなければならない、そしてその再生しているのと同時に、次の模範文を正しく聴いていなければならない・・・とても眠くなる暇はないのです。

これが脳にとっていかに大変な作業かは、過労時や、二日酔いのときにこのシャドウイングをやってみるとよくわかります。脳の調子が悪いときはてきめんに作業能率が落ちるのです。シャドウイングの利点はほかにもあります。間に長い間隔をおかなくてすみますから、録音されたどんなものでも使えます。別に語学教材でなくとも、外国語のニュースとかレポートを使ってもできるので、初級者から上級者まで幅広く利用できるのです。

やってみるとわかりますが、これには「正確さ」が徹底的に要求されます。「大体わかればよい」という段階で妥協しているといつまでもきちんと聞くことができないものです。シャドウイングは冠詞の a や複数語尾の s も短くて聞こえにくい前置詞もおろそかにできません。しかしおかげでシャドウイングをはずし、ひたすら聞くときは正確に一つ一つ聴こえてくるのがはっきりわかるのでうれしくなってしまいますよ。

まずは自国語で試してみましょう。ラジオかテレビをつけて、アナウンサーのあとを忠実にたどってください。あなたが日本語のネィティブならもちろん楽々とできるはずです。そのときに音声に集中している自分に気づくでしょう。これで要領がわかったら、さっそく自分の勉強する外国語にも適用開始です。インターネットラジオで、 BBC や VOICE of AMERICA を聴いて、それをそのまま podcast して mp3 として録音しておけば、直ちに利用できます。スピーカーで聞くよりも、イヤホンやヘッドホンで聴いたほうがよく集中できるようです。

ところがその後・・・ ところが、シャドゥイングを続けていくうち、耳が大変よくなったが、実は内容を聞き取っていない、ということに気づきます。そうなのです、人間の頭は実に怠け者で、いったんそのこつを覚えると、無意識運転に入り、どんどん”省エネ”を実行するようです。

こうしていくうちに、音声だけは忠実に拾い上げているが、それが何を意味しているかを考えないで、機械的に繰り返している自分に気づく場合があります。こうなったらさあ大変、今までのやり方を変えなければなりません。今までのように流れるように音声を流していたのをやめて、無理のない長さの区切りが来るたびに、”ポーズ”をおき、意味を考える。それが難しいときは、一口日本語でかいつまんで内容を説明する。

この作業をすると、”脳”はたいへんいやがります。とても疲れを覚え、続けていく気力が萎えてきます。でもこれを乗り越えなければなりません。音声、その正確な聞き取り、そして、次の段階としての理解、この3段のステップを踏まないことには、いつまでも聞き取りは上達しないのです。

1999年2月初稿~2010年12月最新改訂

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

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